本部

ラスベガスより、カジノへの招待状

布川

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/07/17 23:09

掲示板

オープニング

●ゲームへの招待状
「カジノ、ですかあ?」
 H.O.P.E.職員の相馬は、困った顔で目の前の女性に応対した。
 彼女は、全米でも屈指の大カジノ、『カジノ・ヴァンパイア』の支配人である。

「ええ、エージェントのみなさまは、一般の方とは違う能力をお持ちです。我々カジノにおいても、なにかしらエージェントの皆様に特化したカジノをやってみたい、そう思いまして……」
 支配人はタキシードにシルクハットといういでたちをしている女性である。くるりと手に持ったシルクハットを回す。
「私どものカジノは、その特質上、ヴィランが出入りすることも多く、我々もその対応には苦慮しています。そこで、エージェントの皆様の観点から、カジノにコメントがほしいのです」
 支配人は言う。
「遊ぶ依頼ですか……いいなあ」
 そんなことを漏らす相馬に、上司の激が飛ぶ。
「馬鹿、依頼に貴賤はない」

●カジノ・ヴァンパイア
「というわけなので、カジノ、ヴァンパイアで試遊するという依頼が来ています」
 集められたエージェントたちの前に、ナラッサが立っている。
「私どものカジノは、高級カジノですわ。ドレスコードというものが存在しますので、できる限り正装をお願いします」
(って割にはなあ……)
 普通のスーツ、ドレスのほかに、バニーガールの衣装などがあるようだ。なかなかに幅広い正装である。
「共鳴した場合の報告でも、そうでない報告でも、どちらでも構いませんわ。ただ、ひょっとすると共鳴状態の『スキル』には、カジノでも使えるものがあるかもしれません。ぜひとも、創意工夫をもって、カジノで遊んで行って下さいませ」
 ナラッサは言う。
 お遊びムードになりそうなところで、慌てて相馬が付け加える。
「えーっと……。ですね。カジノで、ちょっとした指名手配犯も複数目撃されているようで、いるとも限りませんが、見かけたら対処してください、ってことでいいんですよね?」
「はい。一般のお客様もいらっしゃいますので、その場合はスタッフルームや、なんといいますか、人の目につきにくいところで、よろしくお願いしますわ」
「はあ……」

解説

●目標
能力者として、カジノを試遊する。
また、能力者の立場から、カジノの攻略法を考えて指摘する。
ヴィランがいれば対処する。

●登場
支配人、ナラッサ
『カジノ・ヴァンパイア』の支配人。好んで男装しているようだ。
警察官アーヴィン(az0034)
 NY市警から出張中。指名手配のヴィランを追っているらしい。
 絡まないと空気。

●場所
アメリカ某所、『カジノ・ヴァンパイア』
 全米でも屈指のカジノ。正装(?)でどうぞ。

<カジノの設備>
・スロットマシーン、ポーカー、ブラックジャック、その他のカジノにありそうなゲーム。
・レストラン、バー
 食事や酒。未成年者はジュース。
・ホテル
 各々に部屋が用意されている(基本的に能力者と英雄。プレイングで別室、他の人と同室可)。

●指名手配のヴィラン
指名手配犯の似顔絵と一致する人物が、数名、カジノをうろついているかもしれないとのこと。
公の場では穏便に済ませて、スタッフルームなどで対処してほしい。
いずれも凶悪犯ではない。

タラスク
 ・バーで飲んでいる。軽い性格。AGW密売容疑。
ジャンコ
 ・スロットマシーンで大勝ちしてご機嫌。カッとなるタイプ。一般人への暴力沙汰3件。
ドミニカ
 ・資金が尽きたらしく、ホテルのロビーにいる。麻薬売買の嫌疑で手配中。

●資金について
今回は試遊なので、大勝ちしても大負けしても、資金の増減は軽いフレーバーです。

●カジノの攻略
台パンチなど、物理的に機材を破壊する行為は厳禁です。
勝負勘を頼るもよし、スキルを使用してみるもよし、頭を使い、工夫をしてイカサマしてみるもよし。
一般人でもやれそうな反則行為は、わりと対策されております。
プレイングにより、かなりの修正値を認めます。
(※今回はそういう抜け道を見つけるのが仕事なのでイカサマも罪には問われませんが、お客様が見ているので、バレると黒服に一旦つまみだされます。後はレストランやホテルやバーです。再入場は可能)

リプレイ

●ラスベガス『カジノ・ヴァンパイア』
 ラスベガスでも有数の高級カジノ、『カジノ・ヴァンパイア』。ヴァンパイア城とでも呼べそうな建物の前に、黒い高級車が列をなして停まった。
 ラスベガスの人々、特にこの場所に慣れていない観光客は、彼らがどういう人物なのか、心の中で当て推量をする。
 とはいえ、正確に彼らの素性を当てたものは少なかったことだろう。
 AGW兵器を持っているエージェントを見て、なんとなく素性を思い浮かべる者もいたが、彼らは、依頼を受けたH.O.P.E.のエージェントたちだ。

「……テメェが正義のヒーローごっこたァな」
『はは、冗談はやめてくれよ。……お遊びさ』
 贔屓(aa0179hero001)は、始麻(aa0179)にそう言って肩をすくめる。能力者以外への物腰は柔らかであるが、彼もまた、独特の価値観を持っている。
「正装ってなァあんまり好きじゃねェんだがな……」
 始麻は、珍しくかっちりとしたスーツを着ている。

 同じように、着慣れぬスーツを着る椒圖(aa0446hero001)。
「馬子にも衣裳だな、似合ってるぞ。七五三みたいで」
『てめぇ、ぶっ殺すぞ』
 古海 志生(aa0446)は、そう言って能力者をからかう。
 古海の方は、いつも通りのスーツといったところだろう。古海には、どことなく只者らしからぬ雰囲気がある。彼らを見ていると、どういう人物なのかと考えずにはいられない。

 また、別の場所では、マリオン(aa1168hero001)が衆目を集めていた。マリオンの姿を見た通行人は、いったいどこの王族なのかと息をのむ。
 彼の容姿から、注目されるのは――よくあることだ。
 話しかけようと思っても、彼が持つ高貴な雰囲気と同行する雁間 恭一(aa1168)に、なんとなくそれもはばかられる。女性の視線を受けながら、マリオンは胸を張って、威風堂々とカジノの戸をくぐる。

 黒いナポレオンコートにフォーマルスーツの格好をした二人が、会場へと通されていく。サイサール(aa2162hero001)と繰耶 一(aa2162)だ。
「クラスに違わない大勝ちをしたいところだよね」
『とはいえ、今回は試遊するのみですからハメを外し過ぎぬよう。NY市警からの依頼がある事をお忘れなく』
「へーへー」
 サイサールの忠告をあしらいつつ、繰耶は煙草を取り出し、サングラスをかちゃかちゃといじりながら、ゆっくりと煙を吐くのだった。

 一方で、まだ少女たちと呼べるようなエージェントも、続々と到着しつつあった。

「久々の賭け事だねAlice」
『愉しみだねアリス』
 まるで合わせ鏡のような少女たちが、手をつないで車を降りてくる。片方は、黒基調に赤の差し色の入ったドレス。もう片方は、赤基調に黒の差し色の入ったドレス。
 まるで幻覚でも見ているかのように、そっくりな二人の少女たち。黒いドレスを纏った少女はアリス(aa1651)。赤いドレスを纏った少女もまたAlice(aa1651hero001)。
 足取りも軽く、カジノへと入っていく。サイサールとすれ違った。――サイサールのゴールドミラーのサングラスの下には、繰耶とうり二つの顔がある。
 万華鏡のように、2つ対の影が窓ガラスに映ってすぐに離れていった。

 続いて、黒のイブニングドレスを纏った獅子ヶ谷 七海(aa1568)が車を降りる。カジノにはふさわしくないような雰囲気――そういった姿をしているはずなのに、自然に見えるようにも思える。それは、彼女が能力者たる五々六(aa1568hero001)と共鳴しているせいなのかもしれない。
 彼女たちはそれがごく自然なことであるように、カジノの扉をくぐっていく。
 名家のご令嬢か、はたまたどこかのお嬢様か。あっさりとチェックをパスして通っていく少女たちの姿を、通行人はただただ見送るばかりだ。

「さて……これ私未成年なんでやがりますが大丈夫なんでやがりましょーかね?」
『サアナ? マア依頼ッテ事ダシ大丈夫ダロ』
 続いてやってきたのは、フィー(aa4205)とヒルフェ(aa4205hero001)。
「そうでやがりますねえ、あ、あんたは明らかに不審者なんで引っ込んでてくだせーな」
『アイヨ』
 ヒルフェは、黒い霧のような人型の使い魔である。
 ヒルフェとの共鳴を果たすと、フィーの目は燃えるように赤く染まった。服装はスーツ。結いあげた黒い髪が、どことなく男装の麗人を思わせる。
「お待ちしておりました」
 エージェントたちをゆっくりと迎え入れる。

「足元を見るって言葉もあるし、靴には気を遣わないとな。……なんせ、今から中国系マフィアごっこと洒落込む訳だしな」
 一行からやや遅れて、佐藤 鷹輔(aa4173)と語り屋(aa4173hero001)が車から降りた。恰好はジェントルマンと高級革靴。黒色のレイヴンベレー。
 見た目からしても、カジノに違和感のない服装ではあるが、どれもれっきとしたH.O.P.E.の装備品である。そしてなにより、魔導銃50AEが、彼こそがリンカーであると声高に主張している。
 佐藤の傍らには、派手な女性が二人。
 設定は、香港協定で古龍幇の後ろ盾を無くし、ちょいと落ち目な中国資本の反社会組織の幹部。佐藤が考えていた通り、まさにそう言った人物像に見えるだろう。
 語り屋は、イメージプロジェクターを使用してスーツを纏っている。普段は顔を隠している彼が、ラバースーツなしに行動するのは非常に珍しいことだ。とはいえ、仮面を装着しているため、その表情をうかがい知ることはできない。護衛の構成員役、といったところだろうか。
 ざっくらばんな長い黒髪に、痩せぎすの身体。猫背が、本来よりも身長をいっそう低く見せている。

 こうして、エージェントたちはそれぞれ任務に取り掛かるのだった。

●カジノチップは降り積もる
「ここのポーカーってテキサスホールデムでやがりますよねえ」
 ヒルフェと共鳴を果たしているフィーは、颯爽とポーカーのテーブルに着く。相手は、フィーが年若く見えることに油断したのか、少しだけほっとしたような顔をしていた。
 まずは一戦。
(あんまり良い手札がきやがりませんね)
 手札はワンペア。交換して、いいところツーペアかスリーカードか。とはいえ、最初から勝ちに行くわけでもない。
 フィーは、見極めの眼を利用して、相手の表情を観察する。
 喜び、悲しみ、焦り。一般人であれば気が付かないであろうわずかな変化。相手が、カードを握る手にわずかに力を込めた。
 おそらく、あれが良い手なのだろう。
「つっても私に出来ることはそう多くはねえんじゃねえんでやがりますかねえ……」
『マァ俺タチニコンナ駆ケ引キナンテ向イテナイダロウシナ』
 イカサマではない以上、手札は運に任せるしかない。
「負けていい気分はしやがりませんね」
 じわじわとチップを減らしながら、勝負時を見極める。
 小さな負けが3戦、4戦と続き、相手がまたカードを握る手に力を込めた。
――今だ。
 ヒルフェが言う。
 フィーは、おもむろにチップを大量にテーブルに押しやる。相手の男は、少しだけ引きつった顔をした。相手ははったりだと思ったのか、掛け金を乗せる。

「まだまだ張り合いやがりましょーか、レイズでやがりますね」
 チップの山はどんどんと高くなっていき――そして。
「フルハウスでやがります」
 相手のカードは、ストレート。

 フィーは颯爽と机上に並べられた大量のチップをものにする。場が一斉に湧き、見物人が喜びの声を上げた。

 一方で、バカラのテーブルの前では、佐藤が声を荒げていた。
「お客様、すみませんが……」
「ああ、どういうことだ!?」
 香港訛りの英語が、口を突いて出る。どうやら、佐藤は幻想蝶へのアイテムの出し入れを見とがめられたようである。
「禁止してるとは言ってないよな!」
「それは……申し訳ありません、少々こちらへ……」
 声を荒げるが、これも作戦の内だ。台に乗っていたカジノチップをひっくり返して、カジノルームを出る。
 ちらりとこちらをうかがうような視線を感じる。――計画通りだ。そのままスマートフォンを取り出し、電話をかける。今度は、中国語。
 上手くいかなくてイラつきつつも、女を前に余裕ぶって金をばら撒いている。そういった印象でもあれば、ヴィランも寄ってくることだろう。

「あっちも、盛り上がってるみたいだね」
 アリスとAliceは揃って別のテーブルに着く。
「Alice、イカサマはどうする?」
『どうしようかな……気分次第』
 二人はまずは”普通”に遊んで、どこまでやれるか試してみることにした。
 二人は手札をそろえながら、手堅くチップを賭けていく。まさにポーカーフェイスといった二人の人形のような無表情は、相手に判断の材料を与えない。――ギャンブルにはうってつけというわけだ。
 チップの山はじわじわと数を増やしていき、そこそこの勝利を収める。
 こんなものか、と、アリスたちは顔を見合わせる。それならば、ここからは、――赤のアリス。

 手のひらを合わせると、互いが触れ合ったところから、陽炎の様に、二つの姿が歪み始める。二つの席、一つの人影。対のドレスは互いの黒を埋め合わせるようにして真っ赤に染まり、いつの間にかそこに立っているのは髪も瞳も炎の様に、血の様に紅い色をした少女ただ1人だった。
「ここからが本番、だね」
 アリスは再びテーブルに着くと、本格的な『賭け事』を始める。鋭さを増した勝負勘の強さに、歓声が沸き起こった。

 一方、ブラックジャックのテーブルでは、五々六の共鳴の助けを借りて、獅子ヶ谷が勝負に出ようとしていた。
(目当ては最もハウスエッジが低い、ブラックジャック。基本戦略に従うだけでも控除率を1%まで落とせる、一般人でも狙って勝てるゲーム……)
 獅子ヶ谷は、デッキに最も近い位置に陣取る。彼の目は的確にディーラーの配るカードを捕らえていた。――トゥルーカウントでのバンク管理。
 目の前の掛け金とともに、リンクレートも好調。少しずつ、少しずつ、レートを上げていく。
(……五々六って、頭いいの?)
(オツムの弱い悪党なんざ、早死にするだけだ。共鳴すりゃ脳の処理速度も上がるしな)
 獅子ヶ谷は、安易にイカサマに頼ることはしない。――それは、今ではない。
 ディーラーがちらりと獅子ヶ谷の方を見た。マークされているのだろうか。
 ちょうど、獅子ヶ谷が敗北し、掛け金が波のように攫われていくところだった。負け惜しみのようにベットを増やす。徐々に、徐々に、まるでゲームに白熱しているように。
 この負けで、ディーラーの注意が逸れる。
(一流カジノなら、馬鹿正直にカウンティングに従うプレイは見抜かれるはず)
 獅子ヶ谷には、それが分かっていた。

 人は、息を吸い始める瞬間には無防備になる。――彼の持論だ。
 獅子ヶ谷は、ディーラーの呼吸を読み、カードが回収される瞬間に、電光石火で一枚のカードを抜き取った。狙いは、エース。見事、読み通りのAが手に入った。
 それから、もう一回。何食わぬ顔で、カードが配られる直前に山札の上に乗せる。
 掛け金は最高額。手札には、エースと――スペードの10。

 ブラックジャック。

 辺りは、一瞬だけ静まり返っていた。それから、遅れて歓声が響き渡る。ディーラーは、青ざめた顔で獅子ヶ谷を見た。ディーラーにだけは、何かされたのかもしれないことは分かった。――かもしれない。あくまで可能性の話である。証拠は、どこにも残ってはいない。

 ――カジノの中には、不正を監視する役割を持った者たちもいた。そのすべての視線を堂々とかいくぐって、獅子ヶ谷はやりおおせてみせたのだ。

●ヴィラン・ドミニカ
 カジノを試遊する任務を請け負う一方で、エージェントたちは別の任務を負ってもいた。
 指名手配犯の逮捕である。

「アーヴィンさんにこの部屋にいて貰えると、僕や始まりの君が動きやすいんだけれど」
「ふむう、なるほど……」
 スタッフルームの看板を『VIP ROOM』に変更して、そこで取り押さえる。贔屓の提案に、カジノ側は全面的に協力することとなった。
「今日は三人ほど”VIP”がお見えになるんでしょう? 案内しやすいじゃないですか」
 始麻の視線に、贔屓が答える。
「始まりの君が上手くいけば後は強めのオハナシをするだけ。野蛮な事はしませんよ。此処で”商売”のオハナシをしてくれればいいだけです。簡単でしょう?」
 簡単に言ってくれる。そう思いながらも、始麻はアーヴィンから指名手配犯の手配書を受け取る。

 古海は、カジノのホールをぐるりと一周してきたところだった。スタッフルームを改めた『VIP-ROOM』の看板に目をやり、ロビーでゆっくりと一服をする。
『何しに来たんだよ、お前……』
「遊びに、だろ。心配せずとも楽しむさ」
 ホテルのロビーには、指名手配犯、ドミニカの姿。そして、それを追う始麻と贔屓の姿があった。椒圖は贔屓の弟分である。彼からは、九番目の君と呼ばれている。
 声をかけることはせずに、ただ、視線をやるばかりである。

「あの端に座ってんのがドミニカ……か」
 ドミニカは資金が尽きたのか、イライラしたように葉巻を吸っている。始麻はドミニカにさりげなく近寄り、話しかける。
「さァて、今日は何から遊ぶかねェ……どうだいアンタは、今日は出てるか?」
「景気がよさそうだな、アンタ」
 ドミニカは顔をしかめたが、追い払うそぶりはない。
「大負けしちまってな。このとおりすっからかんだ」
「そいつは気の毒だ。……俺ァ今金がある。……アンタがそれに対する対価を出せるってなら考えなくもない」
「対価か? 対価、対価、ねえ……」
 ドミニカは少しだけ考え込む様子を見せたが、表情を元に戻す。
「俺はすっからかんだ、何も持っちゃいないよ」

「……お金がないの?」
 そこへやってきたのは、ポーカー帰りのアリスだった。重くなった財布を懐に隠して、赤のアリスは笑う。
「お嬢ちゃん、お前みたいなガキが来る場所じゃ……」
 アリスは人差し指を唇に当てる。妙な迫力があったような気がした。背筋をぞくりと何かが突き刺すような、そんな感覚だ。
 しかし、それは一瞬のことだった。目の前の少女は、ただの少女。それ以上でもそれ以下でもないのだ
「お小遣い、なくなっちゃった。でも、もう少し遊びたいの。せっかくだから、付き合ってくれない?」
 アリスは首を傾げ、トランプを振って見せた。古海は、去っていく少女の姿を覚えておく。

 アリスとドミニカ――二人がやってきたのは、ロビーから少し離れた休憩所だ。ちらほらと一目はあるが、二人を気にする様子はない。
「また俺の負けか。お嬢ちゃん、トランプはきちっと混じってるんだろうな」
「まぐれだよ」
 アリスはトランプを引き寄せると、華麗な手つきで混ぜていく。
「ほら、次はあなたの勝ち」
「ハ。儲けになればもっといいな」
 ドミニカは肩をすくめて、焦点の定まらない目でぼんやりしている。頃合いだろう。アリスは、言葉にそっと支配者の言葉を忍ばせる。
「ねえ、ゲームが終わったらついてきて」
「うん……? うん。ああ。なんだって?」
「なんでもないわ」

 暗転。

 ぱたん、と、扉が閉まる。
「カジノも楽しいよねAlice」
『一対一でカモった方が好きだけどねアリス』
 共鳴を解いたアリスたちは、再び一対のアリスに戻っていた。

●ヴィラン・タラスク
「……ん? たしかアレはターゲットの1つでやがりましたっけか」
 ドリンクを片手に、フィーはタラスクに近寄る。
「どーも、隣いいでやがりましょーかね?」
「お、どうぞどうぞ。男がおごられるなんて、みっともないですね。そちらは?」
「残念な事に私は酒は苦手でやがりましてねえ」
 フィーはそう言って、ソフトドリンクをあおる。
 タラスクは、適当に話をしながらも、バーで誰かを探しているようだった。その視線の先に、フィーは気が付く。派手な女性を伴って飲んでいる、同じ任務にあたるエージェントの、佐藤だ。
(ふむ)
 何か行動を起こすようであれば、援護しようと決めて席に着く。

「すみません」
「なんだよ?」
 佐藤の前で、タラスクは声を潜める。――かかった。佐藤はそう思いながらも、気取られぬように演技を続ける。
「先ほど、AGWがどうとかで、騒ぎを起こされていたと思うのですが。いろいろとご入用では?」
「ああ、取引か? いいね。こっちもブツはあればあるほどいい」
 佐藤はにやりと笑うと、女性にホテルの鍵を渡す。
「こっちにこい、そういう取引のための場所がある」

「とりゃっ!」
 VIPROOMの扉をくぐったろうとしたタラスクは、フィーの四神「玄武の籠手」で殴られ、思いっきり昏倒した。倒れ込んできたタラスクをすかさず受け止めた佐藤は、部屋の中にタラスクを引き倒し、押さえつける。
「余計でしたでしょーかね?」
「いや、助かった」

●ヴィラン・ジャンコ
「この辺で、こんな顔の人見てないかな?」
 繰耶は似顔絵を掲げながら、聞き込みを進めていた。
『もし見かけたら教えてください、私たちの友人なのです』
 何人かに聞きこむうちに、一人のウエイトレスがふと心当たりを漏らす。その表情はとても暗かった。
「ああ、この方でしたら……」

 ジャンコは、スロットマシーンの前でにやにやと笑みを浮かべていた。酒が入っているのか、気が大きくなっているようだ。
「やるねぇアンタ! 何かコツとかあるのかい?」
「あぁん?」
「どんなイカサマやったかしらないけど……その儲けで酒を1杯奢ってくれよ」
「タカリかぁ? 良い度胸だな!」
 ジャンコは、丸太のような腕を振りあげようとする。しかし、繰耶はその腕を強く掴み、軽く一捻りにしていた。
「いててててて!」
「気を悪くしたなら申し訳ないよ。……ココは暑いね、話もあるしちょいと面貸せ」
 表情は微笑んだまま、ウエイターに大丈夫だと示し、ジャンコを外へと誘い出す。表へ出たところで、スカーレットレインを取り出す。すっかり酔いがさめたのか、ジャンコは青ざめる。
「リンカーか!?」
「お前、感情に流されやすいってプライマリーの先生に言われなかったか?」
「くそったれ、こんなところで捕まってたまるか!」
 スカーレットレインが、ジャンコの前で花開く。
 パアン。
 高らかな銃声。――当ててはいない。わざとだ。
「ラスベガスに通り雨を降らしたくはないだろう?」
「あ、あああ……」
 本気だと分かったのか、ジャンコはへたり込む。
「私も暴力は好きじゃない。穏便に事をすませようじゃないか、ホールドアップしろ」
 ジャンコは両手を上げて、おとなしくお縄についた。
「あ、そういえばスロットで大勝ちしたトリック教えてくれない?」
「は?」

●夜は終わらない
「なるほどね……」
 ジャンコ曰く、スロットのコツは台を見極めることだという。なんとも頼りないアドバイスだったが、たしかに、ジャンコのプレイしていたスロットはあたりが出やすい……ような気がする。
 射手の矜持を使用して、集中力を練り上げる。
 機械の音、振動。レバーを引くタイミングからスロットが止まるまでの動きを観察する。リールが回る。試行錯誤の末、――手ごたえを感じた。7、7、そして――。
『「大穴(ジャックポット)は頂いていく」』
 当たった。と思った。
 レバーを倒した時、その感触が手にあったのだ。まるでこれから的に当たる一射が、当たる前からそうだと分かっているように。
「フッ……心地の良い音が鳴ったな」
 辺り一帯に派手な音が鳴り響き、大当たりを示していた。

(さて……)
 捕縛されたヴィランたちはVIP-ROOMに集められていた。その様子をただ、古海は見に来ただけだ。
 見えない片目が、冷たくヴィランを見下ろす。ふと、古海はドミニカの前に足を止めた。
 ドミニカに近寄り、誰にも聞こえないように耳打ちをする。
「仲間を売るのは怖いでしょう。連絡先は、ちゃんと消しましたか?」
 古海は、ドミニカの携帯電話を机の上に放る。ドミニカは青ざめ、震えあがった。

「ってわけだ……。どうだ?」
 目の前で実践された獅子ヶ谷。どちらかといえば――英雄である五々六の動きに、支配人ナラッサは唸る。注意してみていて、それでようやく気付けるかどうかといったところだ。
「皆様のお手並みは分かりましたわ。やっぱり、カジノへのリンカーの方はお断りにするべきでしょうか」
「いや、違うな」
「?」
「不正はこれほど簡単に行えるし、例え意図的な不正がなくとも、共鳴したリンカーには人並み以上の「幸運」が降り注ぐ。禁止するより、専用の場を設けてしまうほうが現実的だろう」
 五々六は滔々と語る。
「ディーラー側にも能力者を雇えば、それ自体が一つのショウになるし、ヴィランへの抑止力にもなる」
「しかし、リンカーが持つスキルというのは……」
「ライヴスゴーグルでも配備すれば、詳細は分からずとも「なんらかのスキルが使用された」ことも判別できる」
「リンカー向けのカジノ、ですか……」
 ナラッサは唸る。たしかに、提案としては面白そうだ。
「どうだ。俺を非常勤アドバイザーに雇わないか」
 小遣い稼ぎには丁度いい。そう言ってにやりと笑う五々六に、ナラッサは目を丸くする。しかしながら、驚いておきながら、全くそれを悩んでいない自分にも気が付いていた。
「腕前もそうですが、新しいカジノの経営なんて思ってもいませんでしたわ。新たなショウ、能力者ディーラー。なんてすばらしい発想なのかしら。ぜひとも、お引き受けいただきたいですわ。……よろしくお願いいたします」

 ほんのわずかにルーレットを回し、古海は戻ってきていた。勝ちもせず、負けもしなかった。
『で、お前結局何したかったんだよ』
「さぁ? なんだろうな、暇つぶしだ」
 椒圖の言葉に、古海は肩をすくめる。
「折角だ、一緒にどうだい。どうせ、お前のところのがうちのを誘ってるんだろう」
「ちょうど、誘おうと思ってたんだ」
 贔屓は、最後に食事をとらないかと椒圖を誘う。
「おいで。偶には兄弟二人で、ね?」
 椒圖にとって、贔屓は大切な兄だ。椒圖は嬉しそうにうなずいた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • エージェント
    獅子ヶ谷 七海aa1568
  • 葛藤をほぐし欠落を埋めて
    佐藤 鷹輔aa4173

重体一覧

参加者

  • 二律背反の龍
    始麻aa0179
    人間|24才|男性|攻撃
  • 二律背反の龍
    贔屓aa0179hero001
    英雄|28才|男性|ドレ
  • エージェント
    古海 志生aa0446
    人間|27才|男性|生命
  • エージェント
    椒圖aa0446hero001
    英雄|16才|男性|バト
  • ヴィランズ・チェイサー
    雁間 恭一aa1168
    機械|32才|男性|生命
  • 桜の花弁に触れし者
    マリオンaa1168hero001
    英雄|12才|男性|ブレ
  • エージェント
    獅子ヶ谷 七海aa1568
    人間|9才|女性|防御
  • エージェント
    五々六aa1568hero001
    英雄|42才|男性|ドレ
  • 紅の炎
    アリスaa1651
    人間|14才|女性|攻撃
  • 双極『黒紅』
    Aliceaa1651hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • 魔の単眼を穿つ者
    繰耶 一aa2162
    人間|24才|女性|回避
  • 御旗の戦士
    サイサールaa2162hero001
    英雄|24才|?|ジャ
  • 葛藤をほぐし欠落を埋めて
    佐藤 鷹輔aa4173
    人間|20才|男性|防御
  • 秘めたる思いを映す影
    語り屋aa4173hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • Dirty
    フィーaa4205
    人間|20才|女性|攻撃
  • ボランティア亡霊
    ヒルフェaa4205hero001
    英雄|14才|?|ドレ
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