本部

純白青ストガーターベルト

雪虫

形態
ショートEX
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 5~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2016/07/09 15:23

掲示板

オープニング

●超異変
 李永平(az0057)は指先一つ動かす事が出来なかった。別に従魔にとりもち弾的な何かを発射されたという訳ではないが、動けなかった。精神的に。というよりほぼ呆然自失の体だった。
 胸元にはフリルがあしらわれ、膝上15cm以上は絶対ありそうな裾はふんわりと広がっている。膝上15cm以上、そう、ドレスだ。しかもミニスカだ。しかも純白だ。なんでこんな事になっているのか全くもって分からない。しかもその下に見える青いものは……そこで永平の意識は途切れた。目は開いてるが、虚ろだ。いわゆるレのつくあれ目である。一体何故永平が……いや、この場にいるエージェント全員がミニスカウエディングドレス~青ストッキングガーターベルト付き~を着用しているのかについては少々話を遡らなければならない。

●きっかけ
「白い変な箱みたいな従魔が現れた、らしい。大きさはピンポン玉ぐらいの」
 オペレーターからの情報に永平は目の色を変えた。箱、と聞いてある愚神の姿が頭を過ぎる。
「それは、パンドラの従魔か」
「いや、分からん。というのも依頼は『白い変な箱みたいなものが現れた。従魔かもしれないから調べてくれ』というものだからだ。話を聞くに恐らくイマーゴ級、強くてもミーレス級程度の従魔だと思われるが、どうも結構素早いらしくてな……それと、出現した場所がえらく広い。それで人数を要請されたんだ。まあ、だからと言って気を抜いて当たれと言う訳ではないのだが……」
 そう言ってオペレーターは一枚の紙を差し出した。地図のようだが宴会場、更衣室、チャペル……チャペル?
「場所は結婚式場。今はジューンブライドだからな……何かあったら困るしな。まあとりあえずよろしく頼む。そんな変な事は起こらないと思うが……結婚式場だからってウエディングドレスで戦う事になった、なんて事は起こらないと思うが、多分」

●結婚式場地図
A:エントランス 
B:チャペル
C:宴会場(テーブルや椅子がたくさん並んでいる)
D:キッチン(宴会場に隣接している)
E:待合室(ソファーが壁沿いに並んでいる)
F:植物庭園(壁・天井ガラス張り)
G:更衣室(ドレスがたくさん掛かっている)
H:トイレ(女)
I:トイレ(男) 
空白:何もない

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  ■EE  A  BBB■
  ■■■■■■■■■■■■

解説

●目標
 従魔討伐

●結婚式場
 最大70人収容可能。現在一般人・式場職員立ち入り禁止。放送器具は何故か使えなくなっている。トイレ以外の出入り口には扉がある。鏡がいたる所にある。日中。晴天

●NPC情報
 李永平
 現在謎のウエディングドレス姿に魂が抜けかけエントランスで固まっている。話し掛ける・写真を撮られた程度では気付かない

 花陣
 永平の英雄。笑い転げ過ぎて幻想蝶から出てこれない

 劉士文
 「HOPEのFAXで」「永平に関する事限定で」写真を送る事が可能(今回は通話は不可)
 
●敵(PL情報)
 白い箱
 見た目的には宙に浮くピンポン玉大の白い箱。何故か結婚式場にいる人間をミニスカウエディングドレス姿(青いレースストッキングガーターベルト付き・ブーケ装備)にしてしまう能力を持つ。服装変化は従魔を倒すと解除される
 非共鳴状態でも一発殴れば消滅する程に弱いが、回避と移動がズバ抜けている。また視覚と聴覚に優れており、「動くもの」を感知しあっという間に逃げてしまう。嗅覚はない。結婚式場から外に出てしまう事はない

●使用可能物品
 各自装備品、携行品、虫取り網×5

●その他
・能力者、英雄共に服装が変化しています(強制)。共鳴しても変化します。アレンジは可能ですが「ウエディングドレス」は絶対です
・変わるのは服装だけで能力値に変化はありません
・結婚式場への被害は最小限にお願いします
・PCの参加人数・ステータスによって白い箱のステータスを調整させて頂きます
・ウエディングドレスは映像として残せます

リプレイ

●みんな、綺麗だよ
 椋実(aa3877)は自分の姿を見降ろし「おおー」と感嘆の声を上げた。普段のだぼっとした黒系統の服ではなく、爽やかな水色をした肌触りのいいプリンセスラインのミニドレスをまとっている。「こんな綺麗なドレスが着れるなんて!」ではなく単純に服装が変わった所に驚いている辺りが椋実だが、とりあえず裾をぴらっとつまみ再び「おおー」と声を上げる。
「おおーどれすだ、ちっちゃいどれす」
「なんつーか、ウェディングってよりも発表会とかみたいだな!」
 朱殷(aa3877hero001)の述べた感想に椋実は巨大な鳥姿の相棒へと視線を向けた。その姿を上から下まで一通り眺め回した後、相棒の背後にいる面々へも黒い瞳を向ける。
「まだわたしはマシなほう……あっちはもっとひどい」
「……なんつーか、地獄絵図みたいなもんだな……」
 結婚式会場エントランスは悲喜こもごもに満ちていた。鈴音 桜花(aa1122)のようにウエディングドレスもストッキングもガーターベルトも可憐に着こなし、相棒のAlice(aa1122hero001)との記念撮影を仲間に頼んでいる者もいれば、蛇塚 連理(aa1708hero001)のように愛らしいドレス姿で撃沈している者もいる。ちなみに連理は蛇塚 悠理(aa1708)に
「……いやぁ、永平さんすごい光景だね」
「いやのんきに言ってる場合か!? オレ達もこうなるんじゃねえのか!?」
「そうだね……あぁ、なら最初から着てれば恥ずかしさも薄れるかな?」
というやり取りの末実際にウエディングドレス(ミニ)(自前)を着せられているため様相が少々違っている。具体的には丈は膝上、ストッキングは白、フリルましまし、エロスよりも若々しい乙女のような清廉さを重んじたデザインだ。そして悠理(男)は連理(男)のドレス姿を満足そうに眺めている。さすが黙っていればイケメン(変態)、歪みない。
「可愛いよ、連理」
「羞恥心増し増しだな!! 後で覚えてろよ!?」
「あらあらぁ、うふふぅ、皆様、とぉーってもよくお似合いですわぁ♪ それにしてもぉ、この格好をするのも久しぶりですわねぇ♪」
 吠える連理とは対称的に、マリアンヌ・マリエール(aa3895)は貴婦人のごとくころころと優雅に笑みを零した。見た目は12歳の少女だが白とピンクを主体にした、色々と豪奢だが尚且つ気品を感じさせるドレス姿と相まってか、何処となく未亡人の匂いがする。あと胸が立派だ。ヒップも立派だ。合法だ。
「ウエディングドレスなんて二十年以上振り……と、これは内緒ですわねぇ。ふふふっ。皆様も本当にぃ、とぉーってもよくお似合いですわよぉ。うふふふふっ」
「……ん……何か、すーすーする……」
 『全員』に向かって心からの、一切の悪気なく感想を述べるマリアンヌのその横で、ルフェ・ロジェレフ(aa3895hero001)は自分の格好を宇宙空間のように底深い漆黒の瞳で眺めまわした。ルフェのドレスは余計な装飾を一切廃した、かなりシンプルなデザインのドレスとなっている。あとやっぱり胸が立派だ。全体的にむっちむちだ。外見年齢は10歳だ。
 椋実と朱殷はマリアンヌの悪気はない、しかし大半の男性陣にとっては強烈な一撃となりかねない一言に主にそちらへ視線を移した。そう、ドレス姿になっているのは何もドレスの似合う可憐な人種だけではない。連理にウエディングドレスを着せてご満悦している悠理もドレス姿になっているし、レティシア ブランシェ(aa0626hero001)は何故かすでにゼノビア オルコット(aa0626)と共鳴し仁王立ちでライフルを肩に担いでいる。なお今回はレティシア主体のため共鳴後の外見はレティシアである。レティシアの外見でミニスカウエディングドレスガーターベルト付きである。
「とっととぶっ飛ばして帰るぞ、こんな仕事!」
「きれいな人もいるのに、インパクトありすぎて残念」
「俺のはもうドレスとかっていうレベルじゃねーしな!」
 椋実は吠えるレティシアから半目の視線を朱殷に移した。もちろん例外なく朱殷も白のマーメードラインをその身にまとっているのだが、181cm77kgの巨体のせいか、全身を覆う羽毛のせいか、筋肉のせいか、そもそもドレスが短過ぎるのか、とにかく色々相まってドレスを着ているようには見えない。
「鳥は何着ても似合わないからねー。なんか特に面白味もない」
 無慈悲過ぎる感想を無表情に言い放ち、そして椋実はこの空間で恐らくもっともダメージを受けていると思しき人物へ目線を向けた。つい先程まで猛獣のような雰囲気をまとっていたはずの男のあまりに変わり果てた姿に、色々な意味で二人はひそひそと声を絞る。
「あれ、永平か……」
「よんぴょー固まってるね?」
「……目が死んでるな……」
 朱殷は言いながら「よんぴょー」と呼ばれた青年……李永平へと視線を向けた。朱殷の言う通り完全に目が死んでいる。レのつくアレ目になっている。そして永平から少し離れた所では、それなりにダメージを受けている麻生 遊夜(aa0452)(黒が基調のオフショルダータイプドレス装備)が肩を露出させながら達観気味に呟いた。
「……ああ、うん……まぁ、こんな日もあるさ」
「……ん、ユーヤも、可愛いねぇ」
「……おぅ、リーヤは可愛いなぁ」
「……ん!」
 32歳の哀愁に儚さを織り交ぜた笑顔で頭を撫でてきた遊夜に、ユフォアリーヤ(aa0452hero001)は黒々とした狼尾を嬉しそうにブンブン振った。自分とお揃いのユフォアリーヤのドレス姿をきちんと視界に収めた後、出来るだけ自分の姿を意識しないよう気を付けながら他の面々にも視線を向ける。
「女性陣は華やかだな……うむ、良いもんだ。男性陣は……いや、もはや何も言うまい(自分も含めて)。似合ってそうな人もいるから特にな」
「……あ、よんぴょー、いた。……ん、よんぴょー?」
 ようやく変わり果てた永平に気付いたユフォアリーヤは尻尾をふりふり永平に近付き、何の反応も示さない永平の前でぱたぱたと右手を振った。しかし何の反応もない。完全にハイライトの消え失せている永平の瞳をジッと見、ジッと見、ユフォアリーヤの頭の上に電球がぴかりと明るく灯る。
「……ん、結論、何かやるなら今の内!」
 ユフォアリーヤはさっそく手を伸ばし永平の髪を引っ張った。頬っぺたをツンツンした。思う存分頭を撫でまわし、背中にしがみ付いてよじ登って頭を抱き抱えてみたりした。しかし何の反応もない。
「……ん、せっかくだから、綺麗にしよう?」
 そしてユフォアリーヤはメイクセットを取り出すと、まずは永平の顔に化粧水を塗り始めた。次いで乳液、ファンデーションとせっせとデコられていく永平に、ついに遊夜が眼鏡を押さえつつ手元にスマホを用意する。
「これも通過儀礼か……永平さん、強く生きてくれ(ほろり)」

「永平ちゃんチョーウケるー!!」
「お前も大概の姿だぞ! ……でござるぞ!」
 虎噛 千颯(aa0123)はレースだけの超絶薄生地ウェディングドレス姿で涙を迸らせつつ笑っていた。全体的に肌色多め、脇周りはレースの刺繍過多で脇チラ防止、大事な所もレース刺繍でカバー、リボンをあしらったベール有、15cmの純白のハイヒールに屈むと色々こんにちわしかねないギリギリ見えるか見えないかの瀬戸際を攻めまくる超ミニスカ仕様ノースリーブタイプドレスである。なお白虎丸(aa0123hero001)は光の速さで幻想蝶へ姿を消した。
 そして稍乃 チカ(aa0046hero001)も純白のドレス姿で腹を抱えて爆笑していた。傍らには葬式中かと見紛う程に無表情の邦衛 八宏(aa0046)が、やはりミニスカウエディングドレスガーターベルトで宙を仰ぎながら立っている。
「…………何事も経験、とは言いますが…………」
「いやー、まさかお前がこんなに女装耐性付くとはな! やれば出来る子ってか? ぐふぉっ」
 自身もミニスカドレス姿で散々転げ回った後、ようやくチカは床の上から帰還した。そしてユフォアリーヤの手によってラメ入りチークを唇に塗られ、あらゆる角度から遊夜に画像を取られ中の永平へと視線を向ける。
「とりあえず、永平の目を覚まさせてやんねーとな……つーワケで、ちょいと失礼!」
 言うやチカは顔面のデコが完了した永平の近くへ滑り込み、永平の腰回りのヒラヒラを思いっ切り捲り上げた。その下にあるものがチカの緑の瞳に映り、チカは再び床の上の住人へと舞い戻る。
「ふぁっっぶほっっwwなんっ、なにこれ、真っ白wwww純白の花園っ、ごふっwwwwちょっ、花陣も直に出て来て見てみ。これ逃したら見れねーぞっ、はwwらwwいwwたwwいww」
「え? マジ? マジで下まで変わってんの? 確かこいつ青か紫だったと思うんだけど……分かったちょいと確認させて」
 チカの呼び掛けに花陣が車椅子に乗った状態で幻想蝶から出現し、二人は永平の前にスタンバイして再びヒラヒラを上に捲った。そして同じタイミングで腹を押さえて撃沈する。
「白だww本当に白だったww」
「しっかり夜を盛り上げるタイプww本当従魔さん何やってんのwwwwぶふぁっ」
 むごい。だが、ここまでされても永平はぴくりとも動かなかった。そこに満を持した千颯が、超絶薄生地ウェディングドレスでスタイリッシュにポーズを決める。
「永平ちゃん、いくらショックだったからって、敵がいる中で呆然としてるなんて自殺行為なんだぜ! スカート捲りでも意識が戻らないんだから仕方ない……永平ちゃんを正気に戻すためだぜ!」
 そして千颯は己の両手を永平の胸に押し当てた。

●共同作業だよ
「どうせ着るなら裾を引き摺るようなヤツが良かったな……」
 仲間達がそれぞれ思い思いの時間を全力で満喫していた頃、水落 葵(aa1538)はウェルラス(aa1538hero001)を伴いミニスカウエディングドレスガーターベルトで式場内を探索していた。葵の発言にウェルラスがすかさずお揃いドレスでツッコミを入れる。
「ねぇ? そこ? 気にするとこそこ?」
「いやーでもよ、あの裾がぶわーってしたヤツどうなってるか気にならねぇ?」
「ならないし! それを言うならオレだってミニじゃなくて動きやすい膝丈が良かったよ!」
 ウェルラスは自分と葵の姿に盛大にため息を吐いた。そして二人から少し離れた所では、レティシアがライフルを肩に担いだまま金色の眼球を光らせていた。ウエディングドレスを着た眼帯なまはげと化しているレティシアに、ゼノビアが内から不満気な声を響かせる。
『ドレス、可愛い、です。着てみたかった、です』
「お前が外出たらヒールでずっこける可能性が高いからな。俺もこんな格好してられねえし、とっとと終わらせて帰るぞ、チビ」
 レティシアの言葉にゼノビアはむうと膨れつつ、しかしレティシアの視界を通して入ってきた光景には爆笑せずにはいられなかった。正直レティシア含めた男性陣のドレス姿は腹筋崩壊ものなのだが、レティシアにバレると確実に大噴火されるので声もなくひっそり肩を震わす。もっとも、ゼノビアは過去の事件が原因で掠れた声しか出ないので、声を立てずに笑う事自体は別に苦でもないのだが。
「あ、あったあった放送機器。見た感じ別に壊れたりはしてねえみてえだけど、スイッチがまるで入らない。これも従魔の影響かな」
 葵は放送機器を発見し、色々と点検して直せない事を確認すると、今度はライヴス通信機とスマートフォンの動作を確認するため悠理達へと連絡を入れた。葵の持つスマートフォンから悠理の声が、ウェルラスの持つライヴス通信機から連理の声が聞こえてくる。
「あ、悠理サン? ちょっと通信動作の確認。えーとドレスの調子どう? あとは次、どこ飲み行く? 良かったらこの後でも……うん、会話正常。雑音なし、と。
 一応白い箱とやらを探してみたけど、それらしいのは見当たらないな。とりあえず一回皆の所に戻るとするか」
 適度に迷子の子猫を探すような感じで5分程度の捜索を終えた葵達は、引き続き足音を立てないよう気を付けつつ一先ず皆の元へと戻った。そして真っ先に今しがた話したばかりの悠理達の元へと向かう。
「ウェールーラースー」
「や、連理さん、今回もすごく可愛らしいですね」
「葵くんのドレス姿もしっかりカメラに収めておくよ」
「葵くんもって?」
 手のひらをひらひらさせるウェルラスと半泣きする連理をよそに、葵はサムズアップした悠理の指の先へと視線を向けた。そこではレのつくアレ目から白目へと進化した永平が、現在進行形で千颯に胸を触られている。触られるどころか既に揉まれているの領域である。
「俺ちゃんだって……好きで永平ちゃんの雄っぱいを揉んでる訳じゃないんだぜ! これも永平ちゃんの為なんだぜ! こんな戦場で呆然とするなんてあまりに危険すぎるんだぜ!! あ、やわらかーい! 永平ちゃんの雄っぱい意外とやわらかーい! それでいてみっしり揉みごたえもある! ちょっとお得感あるなーたのしー!!」
 むごすぎる。だが特に止めようとする者も誰もおらず、葵はスマホを取り出しその様子をパシャリと写メに収めた。報告書作成のためにも資料を残すのは大事だし、永平の気付けが必要なのも確かである。なお、チカがドレスをめくった瞬間もばっちり写メに保存してある。
「最初は優しく。徐々に激しく。揉みしごき過ぎてうっかり直に触っちゃうのはご愛嬌だよね! え? 撮影してる? オレちゃんと永平ちゃんとの初めての共同作業が永久保存されちゃうね。きゃーオレちゃん恥ずかしい~!」
「そう言えばこれが従魔の仕業だと仮定すると、『どこまで』衣装を形成する能力があるのか確認しないといけないな」
 段々すごい事になっている千颯から一瞬目を逸らし、葵は自分の着ているドレスの端を切り取った。だがドレスは確かに切り取ったにも関わらず、切り取った端の方も残さずにあっという間に元に戻った。
「切り取っても影響なし……か。後で元の服装に変化があるか確認しないといけないな」
「……まえ、一体何やってんだ……?」
 地を這うようなドス声に葵がドレスから顔を上げると、永平が目を怒りに染めながら千颯の手首を掴んでいた。完全にキレ気味の永平の様子に対し、千颯は両手を掴まれながら飄々と首を傾げてみせる。
「あっれー、永平ちゃんやっと起きたー?」
「ちょっと……記憶ねえんだけど……お前一体何処に触ってんだ? ああ?」
「やー永平ちゃんを気付かせようと思って、永平ちゃんの雄っぱいをちょっと」
「お……」
「李様」
 その時、八宏が永平の前にズイッとスマホを差し出した。永平は画面を見てその場にビシリと凍り付いた。再び硬直した永平に、八宏が既に作成しておいた説得文をすらすらと暗唱する。
「李様、申し訳ありません。チカ君が言っても聞かなかったもので。写真は知人からの依頼がありまして、仕方なく。それ以外に公開することはしないとお約束致します。
 ですが、これも良い機会だと思います。リンカーとして活動する以上、様々な難題が降りかかります。結論から言いますが、開き直れば全てどうとでもなりますから。異性装、醜態を知られる、それぐらいで人が亡くなる事はありません、断言致します」
 八宏は今迄の自分の経験を走馬灯のように頭の中に駆け回らせつつ永平にスマホを見せ続けた。沈黙が降りた。長い長い沈黙が降りた。
「……李様?」
 訝しんだ八宏は永平の顔を覗き込んだ。永平は立ったまま完全に意識を失っていた。

●ちらりもあるよ
 クュルプ=メァ=ナルファ(aa3896hero001)はマリアンヌと共に動画撮影に勤しんでいた。静止画ではない。動画である。ダークブルーのストッキングに装飾の少ない落ち着いた雰囲気の漆黒のウエディングドレスを身にまとい、豊満な胸で腕を支えながら満足げにビデオを回す。
「ビデオカメラを持参しておいて良かったですわ。先ずはウェディングドレス姿の皆様をしっかり撮影。然る後従魔の退治、ですわね。他の参加者の皆さんのお姿も撮りますけれど、メインはやはり幻様とルフェ様、そしてマリアンヌ様。幻様とルフェ様が戯れる姿、マリアンヌ様がお二人を愛でる姿をしっかり記録させて頂きますわ♪ あ、私も折角ですしお二人を愛でる処を撮って頂きましょう。うふふ」
「あ、クュルプママもマリィママもカメラ回してるー。えへへ、可愛く撮ってねっ♪」
 幻・A・ファビアン(aa3896)はフリルましましでより華やか、且つ可愛らしいデザインとなったドレス姿でくるくると回ってみせた。尚スカートの中には幾層ものパニエが詰まっているので中は見えない仕様になっている。鉄壁である。
「うふふふ、マホちゃん達。本当によく似合っていますわ♪」
「……面倒臭い……共鳴しても、良い?」
「ほら、ルフェちゃんも一緒にっ♪ 折角可愛いカッコしてるんだしー♪」
 幻は眠たげな様子のルフェにぎゅっと抱き付くと、そのまま頬ずりしたり、ビデオに可愛くポーズを決めたり、軽い悪戯を仕掛けたりした。ルフェは眠そうな顔は変わらずとも、満更でもなさそうな様子でもだもだと身をよじってみせる。
「……ぅぅ……眠たいのにぃ……ぁん……♪」
「あぁ、本当。今日は参加して正解でしたわ、とっても素敵ですものぉ♪」
「ほら、ルフェちゃんもぎゅっとしてー。折角ウェディングドレスが着れるんだし、お嫁さん気分も楽しもうー♪
 クュルプママとマリィママも、一緒に撮ろう♪ 二人ともすっごい綺麗なのー♪ ね、抱っこして、抱っこ」
 幻のお願いにマリアンヌがまずは幻をぎゅっと抱き締め頬ずりし、次にクュルプが幻の桃色の髪を微笑みを浮かべなでなでした。その光景はさながら仲の良い母子二組がウエディングドレス姿にはしゃいで楽しんでいるような、実に微笑ましく朗らかな光景であった。外見年齢の事は一先ず脇に置いておく。
 そんな微笑ましい光景とは裏腹に、永平はミニスカウエディングドレス姿で暗雲を背負っていた。一応歩いているのでどうやら意識はあるようだが、目が虚ろである。レのつくアレ目逆戻りである。なお花陣は「おもしろそうだから」という理由で永平とは共鳴せず車椅子待機を希望した。
「まぁ、諦めも肝心かな……」
 葵がさすがに同情気味に呟きつつ永平の肩をぽんぽん叩いた。あの後なんやかんやあって永平は一応意識を取り戻し、葵は
「へいへい、これやっから暴れなさんな」
とあくまでも軽い調子で声を掛け、特攻服を永平の肩からそっと掛けてやったのだが、何故か特攻服は瞬時に消え去り永平の頭の上に白いベールが出現した。その後暴れそうになった永平と再びなんやかんやあり、そして今に至る。
「とりあえず背中は見られないよう守ってやるから。顔見知りに厳命されてるからさ。曰く、俺で例えるなら桜の下を暴かれるようなものだって」
「あー……」
「よんぴょー、写真、とってあげようかー」
 椋実は目が死んでいる永平に声を掛けた後、返事を待たずに記念写真をパシャリと撮った。朱殷が魂の抜けている永平の代わりに取られた写真を確認する。
「脅迫に使えそうだな……」
「おねがいするときに使うー」
「ひでぇ……」
「とりあえず従魔を探そうか。洩らしがないように一列に並んで、従魔を追い詰めるようにして人海戦術で捜していけば見つかるだろう」
「ふむ……追い込むならここが良さそう、かな? 待合室。少し物を片付けて追い込みやすくしてみようか」
「見た感じ全部外に運び出せそうだな……見つけたらここ以外の場所の扉は全部閉めて皆で連携して追い込もう」
 葵の策に悠理と遊夜が案を重ね、一同はまず待合室の片付け作業に取り掛かった。その後椋実が鷹の目を使うために共鳴し、服装が水色の発表会ドレスから、スレンダーな20歳の体型にマッチした赤のプリンセスラインのウエディングドレスに変化する。背中まで大きく開いたカットが実にセクシーだ。
「変わった? んー、まぁいいや」
『ムク、お前も自撮りしとけ!』
「なんで、めんどい」
『今の恰好なら交渉に使える!』
「なにすんのさ?」
『まーいろいろな!!』
 椋実は少々面倒そうに口を尖らせつつ、朱殷の要望に従い自撮り写メを一枚撮った。一方、片付けを終えた遊夜もこの地獄から逃れるべく速攻でユフォアリーヤと共鳴した。二人の共鳴時の姿は一つには決まっておらず、その時主導を握った方が主体となった姿となる。今回はユフォアリーヤが主体となったためユフォアリーヤの、20代前半まで成長した姿に変化した。遊夜につり合う年齢と、より扇情的な見た目をという願望を表した姿となったユフォアリーヤは、近くにあった鏡の前で御淑やかに装ってみたり、色っぽい前傾姿勢のポーズを決めてみせたりと、シンプルな黒のウエディングドレスをこれでもかと楽しんでみる。
「……ん、ユーヤ、似合う?」
『うむ、似合ってるぞ! さぁ、従魔退治だ!』
「……ん!」
 共鳴しているためこのまま抱き付く事が叶わないのは心の底から残念だが、「似合っている」と褒めてもらえた事にユフォアリーヤは尻尾を揺らした。椋実や八宏等シャドウルーカ―組が鷹の目で作り出したライヴスの鷹を羽ばたかせ、共鳴して虎耳とホワイトタイガーの尻尾装備となった千颯がおなじみ超絶薄生地ドレスでふふんと顎に指を当てる。
「永平ちゃんの気付けに成功した事だし~、オレちゃん敵を倒す方も頑張っちゃうぜ! 真ん中らへんにライヴスフィールド張るから、上手く活用してちょー」
 一行はまずは障害物が何もないホールを横並びに探索し、その後それぞれに別れて各部屋の調査を行った。Aliceと共鳴した桜花は虫取り網を保持しながら潜伏、を使う前に共鳴姿も頼んで撮影してもらい、Aliceの外見的特徴を主としつつ成長した姿に愛おし気に目を細める。
「ふふ、奇麗で可愛いわね」
『この姿、いつか本当の意味で着れたら良いなぁ……』
 嬉しさを惜しげもなく露わにする桜花とは対照的に、Aliceは嬉しさの中に少々寂しさを滲ませた。素敵なウエディングドレスを着れた事は嬉しいが、恋してる異性がいない中で着ているというのもちょっと寂しい乙女心がそこにはあった。
 と、Aliceが密かに切なさを抱くその一方、ノリノリでチャペルを探索している者もいた。マリアンヌはさっさと共鳴したがるルフェを「可愛いから」という理由で問答無用で連行しつつ、これ幸いとばかりにクュルプと一緒になって動画撮影に精を出し、悠理はイケメンスマイルで連理に持参したウエディングナイフをぽんと手渡す。
「連理、せっかくだから」
「?」
「ケーキ入刀、みたいな?」
「一人でやってろ!!!」
「うーん、ここにはいないみたいかな。折角のウェディングドレスだし、お嫁さん気分もいっぱい楽しみたい所だけど、お仕事もちゃんとしないとね♪ とりあえずチャペルには従魔さんはいなかったよってみんなに教えなきゃだよね」
「そうですわね。皆様に連絡を入れますわ」
 幻の言葉を受けマリアンヌは通信機を取り出し別室の仲間に情報を伝えた。仕事は真面目にこなすという前提はきちんと守りつつ、その間もルフェや幻を撮ったり愛でたりする事だけは忘れない。
 レティシアは桜花が放った鷹の目と共に植物庭園を捜索していた。もちろんミニスカ純白ウエディングドレスにスナイパーライフル装備である。ガラス戸からさんさんと日光降り注ぐ爽やかな植物庭園を殺気100%で歩きつつ、ふと眼帯のない左眼を茂みの一つへと向ける。
「ピンポン玉ぐらいって聞いたし、案外こういう所にいるかもな」
 レティシアは100面ダイスを取り出すと、滞空距離が伸びるような力加減でダイスを茂みへ放り投げた。ダイスが宙を舞い、地面に落ちる、その直前に、茂みから白いピンポン玉が勢いよく弾け飛んだ。
「いたぞ! 植物庭園だ!」
 レティシアの声を聞いた桜花はすぐさま上空を旋回させていた鷹を従魔へと差し向けた。鷹に追い立てられ白い箱は庭園を飛び出し、そこに聞き付けたエージェント達が扉を閉めつつ集まってくる。
「落下音が発生する前に飛び出してきた。もしかしたら目がいいかもしれん」
「とりあえず、追い込もうか」
 椋実は桜花と八宏と共に鷹を操り、同時に余っていたため預かった網を箱目掛けて振りかぶった。しかし箱は網を躱し、次いでユフォアリーヤが放ったネビロスの操糸をも避ける。
『ッチ、すばしっこいな』
「……ん、一人じゃ無理?」」
「やっぱ待合室に追い込むっきゃなさそうだな」
 レティシアはスナイパーライフルを構えると、従魔の退路を塞ぐべく威嚇射撃を撃ち放った。白い箱がガクンと曲がり、エージェント達が唯一いない待合室の扉に逃げ込む。
「よっしゃ! 入った入った! みんなも中に入って入って、オレちゃん扉閉めるから」
 千颯は率先して扉に飛びつき、皆が中に入った事を確認した後扉を閉めた。そして武器を……取り出さず、スマホを部屋の角の方にきっちりとスタんばる。
「これでよし、と」
「永平、網。使え」
「あ、ああ、サンキュー」
 永平は葵から手渡された虫取り網を受け取った。と、自分の姿を見下ろし今一度青い顔をする永平に、千颯がいい笑顔で永平の剥き出しの肩を叩く。
「永平ちゃん、姿なんかよりもまずは敵を倒すことが重要なんだぜ! オレちゃんも見えそうで見えないけどうっかりすると見えてしまう天下の宝刀に関しても一切気にしないんだぜ! あとみんな、撮影に関してはじゃんじゃん撮ってOKだぜ! 俺ちゃんもスマホでみんなの勇姿を永久保存んだぜ!」
「スマホ!?」
「楽しい時間も終わりが来るもの。さぁ、お覚悟なさいなぁっ♪」
 永平のツッコミを華麗に遮り、ルフェと共鳴したマリアンヌが白い箱に飛び掛かった。次いでクュルプと共鳴した幻が狙いを定めてクレイモアを振り下ろす。捲れ上がったミニスカートから見えた色々と過激なものに永平が慌てて目を逸らす。
「あらまあ、ご愛嬌ということで御免あそばせ?」
「お、俺は何も見てないぞ!」
「ふむ、箱の動きは大体把握出来たかな。確かに目がいいようだ。引き寄せられるか試してみるよ」
「フラッシュバン行くぜ。目眩ませてトチるんじゃねぇぞ!」
 悠理とレティシアが通信機を使い仲間に小声で合図を送り、悠理は守るべき誓いを、レティシアはフラッシュバンをそれぞれ同時に展開した。フラッシュバン対策にと固く閉じた目を開けると、白い箱がふらふらと悠理の方へと近寄っていく。
「よし、一気に捕まえる」
 椋実は赤い瞳を光らせると赤黒い鱗をまとう腕から縫止の針を差し向けた。従魔はこれを辛うじて躱したがユフォアリーヤが幇装手槍から放ったテレポートショットがわずかに掠り、そこに桜花が猫騙を使用して怯ませる。最後に潜伏しての待ち伏せ戦法を取った八宏が全力で従魔に詰め寄り、斧を叩きつけるがごとき勢いで虫取り網を振りかぶった。なお純白青ストガーターベルトに猫耳しっぽのオプション付きである事をここに改めて明記する。
「ふう、なんとか捕まえましたね」
「なんだか虫みてぇだな……」
「……これあればいつでもお願いできるんじゃ……?」
『やめてあげて!?』
 葵が普通に感想を述べ、椋実の呟きに朱殷が素早くツッコミを入れたその横で、絶対零度の瞳をした永平が八宏へと足を踏み出した。そして箱の従魔に手を伸ばそうとした……所で悠理がその行く手を爽やかイケメン面で遮る。
「永平さん、ちょっと。壊す前にこの箱俺に貸してくれないかな?」
「……は?」
「実は、連理の可愛いウエディング姿をどうしても写真に収めたい。超撮りたい。そのためにこの一体はどうしても確保したかったんだ。一体だけでもいいから執念で確保したかったんだ。
 だから頼むよ。この通り。壊す前に俺に貸してくれ」
『お前何バカな事言ってんの!?』
「おいふざけるな。俺は一刻も早くこのフザけた恰好を……」
 その時、千颯が永平の後ろに回り込み背後から羽交い絞めた。12cmの身長差に負け足をバタつかせる永平を押さえつつ千颯がいい笑顔を浮かべる。
「悠理ちゃん、ここはオレちゃんが押さえるから、行きな」
「ありがとう……千颯さん!」
「おいお前フザけんな……何処触ってんだコラァァアッ!!!」
「そういう事でしたら私も今の内に皆さんのドレス姿を撮らせて頂きたいですわ。特に女性の方はもしよろしければ抱き締めさせて頂けるとなお嬉しいのですが……きゃっ」
「よし、行くよ連理」
『どいつもこいつも欲望に忠実なのな!』
 連理のツッコミを爽やかなイケメンスマイルで流しつつ、悠理は白い箱入り網を大事に抱えチャペルと植物庭園へ急行した。桜花は嬉しそうな顔で女性陣のドレス姿をこれでもかと撮りまくった。なお女性のドレス姿は心底可愛いと思ってるが、男性陣は終始温かい目で見守っている。そしてゼノビアとレティシアは、他メンバーが永平をおもちゃ……もとい再起させようと奮闘しているのを遠巻きに眺めていた。

●終わりだよ
「あ、ウェディングドレス終わっちゃったね」
 幻はクュルプの姿に残念そうに眉根を下げた。普段のシスターのような服装ももちろん魅力的ではあるのだが、漆黒のウェディングドレス姿もやはり名残り惜しいものがある。幻は水色のパーカー姿でクュルプにぎゅっとしがみつく。
「今度また、ああいう恰好してね、クュルプママ」
「ええ、分かりましたわ幻様」
「その時はもちろんマホちゃんも一緒に。わたくしに可愛い姿を見せてくれると嬉しいですわぁ」
「うん、マリィママとルフェちゃんもね♪」
 幻は動画を鑑賞するマリアンヌに抱き締められ、良いこ良いこされながらにこりと愛らしい笑みで返した。桜花もまた抜群のスタイルで愛用のメイド服を着こなしながら数々の戦利品を満足そうに眺めていた。自分のウェディングドレスはもちろんの事、可愛いらしい女性陣のドレス姿で思い出とフォルダはいっぱいである。
「やっぱり、ケモミミでドレスは可愛いわね」
「もしかして私も含まれてる?」
 画面に動物的特徴のある女性(能力者、英雄問わず)のドレス姿を発見しAliceは思わず問い掛けた。恋している異性がいない事も含めて色々と複雑な心境を覚えるAliceであったが、桜花があまりにも幸せそうな顔で画像を見、女性陣に話し掛けに行っているのを見て「まあ、いいか」と肩を下ろした。

「……無事、終わったな。後は綺麗に片付けて帰ろうか」
 遊夜は色々含みを込めつつ眼鏡を上げながら呟いた。先程幻がクュルプに述べたようにウエディングドレスは終わっている。恐らく目的を達成した悠理が箱型従魔を壊したのだろう。元の服装に戻った事にしょんぼりしているユフォアリーヤの頭を撫でて慰めつつ、遊夜は車椅子で待機していた花陣をこっそり招き寄せた。そしてニヤリと悪い顔で笑いながら保存した画像を見せる。
「よぅ嬢ちゃん、ご機嫌だな。ところで、こんなのがあるんだが……いるかい?」
「ぶはっwwベストショットwwこりゃあ笑えるいいネタだけどよお、おうち帰るまではきちんと隠しておいた方がいいぜ?」
「?」
「よんぴょーきれいだったよー」
 一方、椋実は再び魂の抜けている永平にサムズアップした。一体何があったのか再びレのつくアレ目になっている。やはり姿の戻っている朱殷が、紫紺の翼で口元を隠して筋肉質の肩を震わせる。
「まあ割かし似合ってたぜ! 笑えるけどな!! くくっ」
「しゃしんも綺麗にとれたから、出来上がったらおくってあげるねー。あ、でもどこに送ればいいのかな?? HOPE、でいいの?」
「……訳するとHOPEに送るのとお前んとこ送るのどっちがいいか? って事なんだが」
「くーろんぱんでもいいの?」
「それはマジでやめてあげような!?」
 にっこりと笑みを見せる椋実に流石に朱殷が突っ込んだ。だが永平の方は聞こえているのかいないのか、未だに赤い瞳からハイライトが消え失せている。そこにようやく普段の伊達男に戻ったレティシアがスタスタ近付き、永平の肩をぽむと叩く。
「お前も大変だな……とっとと帰って、写真だとかデータだとか、ちゃんとぶっ壊してこいよ」
「……だな」
「?」
「そう……だな……写真とかデータとか、全部クラッシュすりゃあいいんだよな……」
 永平はそう呟くと釘バット「我道」を出現させその場にドンと突き立てた。物音に視線を寄越したエージェント達に永平はギラつく瞳を向ける。
「出せ」
「「「……え?」」」
「スマホだのカメラだの持っている奴、全部出せ。もしくは俺のデータを消去しろ、今すぐに。おとなしく指示に従ったら折るのはカメラだけで勘弁してやる」
 従わなかったら一体何を折るんですか、ほぼ全員の頭を一瞬にしてツッコミが過ぎった。エージェント達の画像と思い出と身の安全が大ピンチに陥った、その時、満を持して救世主は穢れし大地に降臨した。
「千颯! この馬鹿者が!」
「白虎ちゃん!? なんでこのタイミングでオレちゃんを羽交い絞めにするの!?」
「今回の事は嫁殿に報告するでござる! 李殿も遠慮なさらずにさぁ! こいつをしばくでござる!」
 救世主、もとい白虎丸の言葉に永平はにやりと笑みを浮かべた。釘バット「我道」を引きずってくる永平の姿に千颯が引き攣った笑みを浮かべる。
「永平ちゃん? その長くて太いものは一体」
「正直……あんまし記憶ねえんだが……楽しいとか言ってたよなあ、千颯。今度は俺も楽しませてくれよ」
「あ゛ーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
 一同は千颯の勇姿に深い敬意を表しつつ、速攻でデータとスマホとカメラの保護作業を開始した。こうして千颯の尊い犠牲と引き換えに皆の思い出は守られた。
「おっそろしい従魔だったな……」
「これ式場けんがくとかでつかえそうだよねー」
「なんであいつら普通に平気だったんだろな? 永平の反応が正解だよな?」
「それは、ほら、HOPEだから。みんな慣れてる」
 椋実の一言に朱殷は色々押し黙った。つい先程までの光景が走馬灯のごとく頭を巡り、朱殷はやれやれと首を振る。
「なんつーか……ご愁傷さまとしか言えんな」
「いつか慣れる」
「慣れたくないけどな!」

 永平の宣言に速攻で共鳴し速攻で避難を図った八宏は、物陰に隠れながら永平の様子を伺った。一応注意は千颯に向いてくれたらしいがスマホを折られるのは困る。未だにパートナーのチカ以外とはまともに会話出来ずやり取りはSNS頼りという理由もあるし、ヘビーゲーマーというのもあるし、データを守りたいのもあるし、そしてもう一つ。
 八宏は引き続き永平の動向に警戒しつつ愛用のスマホを取り出し、こっそり撮影していた皆の華やかな姿を確認した。画像に心和ませつつも、あの愚神の仕業なのだろうか、と密かに思考を巡らせる。
『連絡が来たら確認してみっか? あいつの仕業だとしたらほんと、なに考えてんのかさっぱりわからねぇけど』
 内から響くチカの声に八宏はしばし沈黙した。スマホの画面に視線を落とし、唇の前に指を添える。
「……李様や皆様には、内密に……」

「服は完全に戻っているな。特に変に切れてるって感じもないし……」
 葵は自分の服を点検し顎に指を添え考え込んだ。先程ウエディングドレスを切った影響があったか否かを確認したが、とりあえず今の所影響はなかったようである。
「とりあえず参考資料として写真添付で、全詳細まとめてHOPEの方に報告だな。その前に放送機器の再確認と……故障なし。やっぱり従魔の影響だったのかな。ライヴス通信機とスマートフォンの動作確認もと……もしもし、こちら葵……」
『お前本当に覚えておけよ!』
 連理の声が通信機から聞こえ葵は思わず耳を離した。悠理の声が聞こえてきたので再び耳を通信機に当てると、すっかり聞き覚えの出来たイケメンボイスが鼓膜に響く。
『やあ、ごめんごめん。連理がすっかり拗ねちゃって』
「雑音なし。会話正常。問題なさそうだな」
『今そっちに戻るよ。おかげで連理の写真もいっぱい撮れたし……帰ったらもう一仕事しないとね』
「そうだな、今回起こった事全て報告しないといけないしな……『全て』」

●おまけだよ
 劉士文は大量に送られてきたFAXを前に固まっていた。40代という若さで古龍幇を取り仕切る冷静沈着な長老格が、今ばかりは完全に紙の束に固まっていた。その一番上の紙にはこんな文章が刻まれていた。
『永平さんの近況です。従魔にこんな姿にされながらも一生懸命励んでいます。同じ釜の飯を……ではありませんが、様々な体験をしながら段々エージェントと打ち解けてきているようですのでご安心下さい。
 追伸:劉大人が写真を拝見された時の感想を知ると彼は喜ぶと思います』
 この文面を書いた人間(悠理)がどういう思いで士文にFAXを送ったのか詳しい事は分からない。だが、とりあえずどんなFAXが送られたのかの仔細を述べる事にしよう。率直に言えば「全て」である。ミニスカウエディングドレス青ストッキングガーターベルト姿の永平、女子によじ登られている永平、化粧を施されている永平、ひらひらを捲られている、胸をわし掴みにされている、ベールをかぶっている、目が死んでいる、そして釘バットを持って誰かを追い掛け回している……士文は真剣に考え込んだ。感想……感想……感想ってなんだ。未だかつてない難問に士文は秘書に問い掛ける。
「こういう時、どういう反応をすればいいのだ……」
 秘書はしばし沈黙した後、こう答えた。
「見なかったことにしてあげましょう」

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 常夜より徒人を希う
    邦衛 八宏aa0046
    人間|28才|男性|命中
  • 不夜の旅路の同伴者
    稍乃 チカaa0046hero001
    英雄|17才|男性|シャド
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • シャーウッドのスナイパー
    ゼノビア オルコットaa0626
    人間|19才|女性|命中
  • 妙策の兵
    レティシア ブランシェaa0626hero001
    英雄|27才|男性|ジャ
  • 百合姫
    鈴音 桜花aa1122
    人間|18才|女性|回避
  • great size
    Aliceaa1122hero001
    英雄|15才|女性|シャド
  • 実験と禁忌と 
    水落 葵aa1538
    人間|27才|男性|命中
  • シャドウラン
    ウェルラスaa1538hero001
    英雄|12才|男性|ブレ
  • 聖夜の女装男子
    蛇塚 悠理aa1708
    人間|26才|男性|攻撃
  • 聖夜の女装男子
    蛇塚 連理aa1708hero001
    英雄|18才|男性|ブレ
  • 巡り合う者
    椋実aa3877
    獣人|11才|女性|命中
  • 巡り合う者
    朱殷aa3877hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • 奇跡のロリ未亡人
    マリアンヌ・マリエールaa3895
    獣人|12才|女性|命中
  • エージェント
    ルフェ・ロジェレフaa3895hero001
    英雄|10才|女性|ジャ
  • エージェント
    幻・A・ファビアンaa3896
    獣人|10才|?|命中
  • エージェント
    クュルプ=メァ=ナルファaa3896hero001
    英雄|22才|女性|ドレ
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