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酔っ払いのためのRPG~燻製編~
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最終発言2016/06/11 08:10:22 -
【相談卓】BBQ日和の河原
最終発言2016/06/14 22:18:26
オープニング
●さぁ、燻せ!
休日の河原には、リンカーたちが集まっていた。普通だったらバーベキューなどで親交を計るところだが、今日の集まりは一味違う。
クーラーボックスには、各自が持ち寄った冷えた飲み物。簡単なおつまみにおやつ。そして、今回のメイン――燻製キット。
香りを付けるための肝心かなめのチップは、サクラ。
用意した具材は、チーズにベーコンに茹で卵そのほか各自が持ってきた『燻製にしたら美味しそうな具材たち』。
「おーい、誰か火をおこせ」
「チップってこんなもの?」
「具材なにもってきた?」
わいわいと準備し、燻される時間を待つ、至福の時間。
持ち寄った酒やジュースのプルタブを勢いよく開いたら、もう屋外の宴会の時間だ。
●ボッチとはひがむもの
「わいわいと煩いんだよ!」
橋の下で、愚神が静かに缶ビールを飲んでいた。ピクニック気分で外で酒を飲んでいたというのにやってきたリンカーががやがやと騒がしい。――けして、ボッチであることをひがんでいるのではない。
「そんなに燻製が楽しみならば……燻製に喰われてしまえばいいのだ!!」
漫画のようなポーズを決める愚神は、自覚はないが酔っていた。
解説
・燻製を食べながら、愚神および従魔(燻製)を退治してください。
※リンカーは飲酒では酔っぱらいませんが、このシナリオでは場の楽しい雰囲気に酔ってしまいます。なお、ブレイングに持ち込みたい飲み物等が書かれていない場合は、大人はビール。未成年は、オレンジジュースをお出しします。
(PL情報……燻製を作るための燻製キットを開けると、従魔がついた燻製が飛び出してくる)
河原……天気が良い昼下がり。近くでは大学生や親子ずれたちがバーベキューを楽しんでいる。見晴らしがよく、隠れる場所などはあまりない。なお、川については基本的に浅い。
燻製キット……イット缶を改造して作られた燻製をつくる機械。小さな材料ならいっぱい入る。
・チーズ……五体出現。伸びて絡まり、相手の動きを拘束する。うねうねと蛇のようにゆっくりと動く。
・茹で卵……機械から飛び出ると巨大化し、ごろごろとリンカーをめがけて河原を転がる。一般人の悲鳴を聞くとそちらに向かう。三体出現。
・ベーコン……びったん、びったんと飛び跳ねてリンカーたちにのしかかる。チーズに拘束される相手を優先して攻撃してくる。なお、燻されて食欲をそそられる香りがしている。二体出現。
・愚神……くだをまく中年男性の愚神。従魔をすべて退治すると、ビールを握りつぶしながら「河原で騒ぐんじゃねぇ!」と酔っぱらいのふりして殴りかかってくる。腕力は強いものの、酔っぱらいっているために精度はいまいち。
リプレイ
天候に恵まれた河原では、様々な人間達が思い思いの野外パーティーを楽しんでいた。焼きそばを作るグループあり、バーベキューをするグループあり。そんな人々に混ざり、リンカーたちもパーティーの準備を始める。
――持ちより、燻製パーティーの準備を。
「持ってきたビールや飲み物はこっちに持ってきてくれ。これだけ保冷材や氷を入れたら、キンキンに冷えるぞ」
鶏冠井 玉子(aa0798)は大きなクーラーボックスの蓋を開けて、それぞれ持ち寄った飲み物たちを放り込んでいく。家を出るときに詰め込んだ保冷材たちは、燻製が出来る頃にはきっとビールをキンキンに冷やしてくれているであろう。ちょっと季節は早いかもしれないが、屋外の冷えたビールほどに美味い物はない。昼酒ならば、なおの事である。
「日本酒とかウィスキーも入れていいんだな?」
ガラナ=スネイク(aa3292)は、いそいそと持ちこんだ酒をクーラーボックスに入れていく。この天気で飲む冷えた酒はさぞかし美味いだろうと今からご機嫌であった。
『燻製の定番と言えば、ベーコンや卵と言ったところだな』
オーロックス(aa0798hero001)は、手際よく燻製キットに設置されていく食材たちに自分がとってきたタコを追加した。すでに下ごしらえはされており、もう燻すだけで完成である。きっと噛みごたえのあるつまみになることであろう。
「ふふふ。このまま食べても良いが、燻製醤油もついでに作ってしまおう。市販の醤油をチップで燻すだけだが、これをかけるとまた一味変わる」
調理師である玉子の料理に対するこだわりは、とどまるところをしらない。
「ん、燻製パーティー。おうどんの、燻製は、初めてだね……」
こちらにも、玉子とは別の意味合いでこだわりを発揮する少女がいた。エミル・ハイドレンジア(aa0425)である。行きつけのうどん屋より仕入れたコシの強いうどんを、燻製キットに入れていく。
『常識的に考えれば、そんなものを燻製にするのは初めてだろうな……』
それをそのまま食べてはいけないのだろうか、というツッコミは意味をなさないことをギール・ガングリフ(aa0425hero001)は知っている。エミルの脳内は、もうすでにうどんを燻したらどうなるかということでいっぱいであった。
「ん、スモークおうどん」
『…………』
うどんの事となると幸せそうな顔になるエミルに、ギールはもうなにも言わなかった。どうせ言ったところで、エミルのうどん暴走は止まらないのである。人類初のこの実験が成功――とまではいえないが人に迷惑かけない範囲の被害でおさまることをギールは願うだけである。
「燻製なんてやるの初めてだけど、難しくないのか?」
一斗缶で作られた燻製キットをおっかなびっくり見ていた中城 凱(aa0406)に、自分たちで持ってきたソーセージやホタテ、烏賊に鳥といった具材を燻す準備をしていた礼野 智美(aa0406hero001)が説明を始める。
『ん? 家でも簡単に出来るぞ。フライパンに土鍋に中華鍋。洗うのが大変だから駄目にしても良いようなの使う方が良いけどな。サクラチップは大きめのホームセンターなんかで販売してるし。見つからなかったらちょっと高いが、お茶や紅茶の葉でも代用出来るし。特に紅茶は市販してる燻製見かけないしなぁ、市販品に香りつけるだけでも旨味違うぞ?』
「……だから智美、何でお前英雄の癖にそんな現代日本に応対しているんだ」
智美の説明を聞いていた美森 あやか(aa0416hero001)は『ほら、やっぱり室内でもできるみたい』と喜んでいた。どうやら離戸 薫(aa0416)は妹たちのために、家でも燻製を再現できないかと考えていたらしい。
「カマンベールチーズは上の妹が好きだけど、あれ燻製にしたらどうなるんだろう?」
とろけて無くなってしまうのか、それともきちんと形が残るのか。
非常に気になるところであった。
『燻製だけでも舌がおかしくなりそうだから、小さなおにぎりや胡瓜の浅漬け、グレープフルーツも剥いて一緒に持って行きましたよ』
普段から妹たちの面倒を見ている薫やあやかは、細かいところまでよく気が効いた。調理道具にタッパーまで持ちこんでいる。
一方で、非常にマイペースな人間たちもいた。
カイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)である。拾った大きめの流木の上に座って、七輪でイカの一夜干しを焙りながらビールをごくごくやっている。本当ならマヨネーズと七味も欲しいところだが、屋外の野趣あふれる趣はマヨネーズと七味にも勝るつまみであった。つまり、カイの酒は進んだ。進みすぎて、すでに一ケース開けていた。
「それ燻製にする為に持ってきたんじゃないの?」
御童 紗希(aa0339)は、すでに酔っぱらっているカイに冷たい視線を投げかける。
『こっちも美味いんだもん』
「もん」ではないだろう。
「もん」では。
「ほら、残りは燻製器に入れて! もう!」
このままでは全部焙られかねないイカたちを救出し、燻製キットのなかに入れてしまう。流石にこのなかに入れたら、カイだって完成までは手を出せないであろう。
『……HOPEまん燻製したらどうなんだろ? ちょいれてみよ』
「やめてよ! 高いのに!」
カイの手のなかにあったHOPEまんを、紗希は目の色を変えて没収した。この酔っぱらいはなにをやるか分からない、と警戒しながら。
だが、よっぱらいとはそういうものである。
「マナちゃん、遊んでるのはいいけど、ボクの目の届くところにいるんだよ。燻せたら呼ぶからね」
九重 詩乃(aa3372)もビール片手に、材料の準備をしていた。カイと大きく違うのは、ビール片手でも手際よくホタテの下ごしらえを出来ている点であろう。
「なんでも殻だけ欲しかったらしくてねー、身はくれたんだよ。養殖ものだけど、鮮度は折り紙付きだよ。さーあ、じゃんじゃん燻してくよー」
「あっ、あたしもホタテを持って来たよ」
他にも鮭やマグロ、シシャモなどを持ってきたリヴァイアサン(aa3292hero001)は詩乃と共に調理に取りかかる。
天気は良いし、風もない。
絶好のアウトドア日よりに、詩乃の頬は知らず知らずのうちに緩んでいく。今度は旦那や息子たちも誘って、家族の思い出になるようなアウトドアを絶対やろうと拳を握りしめていたのだ。
「はいなのです、先生! あ、蝶々さん、まってー」
火を使う調理だからという理由で、さりげなく調理場から離されたココペルマナ(aa3372hero001)は綺麗な蝶を見つけて駆けだして行く。その光景に、ついつい頬が緩む大人たち。屋外で元気な子供を見るほど癒されることはない。そんな光景の端っこで、体育座りになってつまみやおやつを食べている少年がいた。夜代 明(aa4108)である。
「つまみだけでも中々イケるもんだな」
『ねぇ、ハル。そうするくらいなら皆と混ざったらどうだよぉ。お出かけだよぉ?』
アジ(aa4108hero001)は、明を皆の和にいれようと一生懸命である。だが、明は一人でおやつをもぐもぐ、オレンジジュースをごくごく飲んでいる。
「他の奴等の料理をタダで食えるいい機会だろ」
自分はサラダを持ってきたし、と明は言う。
さっきからやたらと一人でビールを飲んでいる親父と目が合うような気がするが、明は一生懸命にかぶりを振った。自分はボッチではないし、あの親父が自分の未来の姿というわけでもない。
「ハルなんかもう知らないよぅ! アジくん一人で皆とワイワイするよぉ」
明から視線をそらすと、そこにはココペルマナがいた。年齢の近い子と一緒に遊びたかった彼女は、小さな手をアジに差し出す。
「あの……アジくん、良かったら……一緒に遊びましょ、なのです」
その申し出に、アジはにやりと笑った。
「ほら、アジくんは友達ができたからあっちに行っちゃうよー」
「さっさと、行っちまえっ!」
再び、明と酒を持った中年男の視線がかちあう。
違う!
だから、俺はボッチじゃない!!
「飲み会とか何時ぶりかな?」
紅茶やクッキーなどといった未成年向けのお菓子を用意しながら、桜小路 國光(aa4046)とメテオバイザー(aa4046hero001)は燻製の完成を待っていた。
『みんなと外でごはんです~』
うきうきと待つ時間を楽しむ國光であったが、彼はまだ知らない。
彼の最大の敵は、身近に迫っていたことを。
石井 菊次郎(aa0866)は、居心地が良さそうな場所をさがしてうろうろしていた。準備は一通り手伝ったが、集団には美味く馴染めないので木陰の気持ち良い場所でくつろいでいたかったのである。ちなみに、英雄のテミス(aa0866hero001)も本日は休日モードである。
『……全く退屈な日だな。我は幻想蝶で寝ておる……起こすな』
そこまで言われると起こすわけにもいかないし、昼寝がしたいという彼女の気持ちもわかるものがある。残念ながら読書に最適な木陰は見つからなかったが、ちょうどよく日の光を遮ってくれている橋を見つけた。雨が降らない限りは、この日の当たらない場所が人気のスポットになることはないであろう。
「失礼、先客がおいででしたか……これでも如何ですか?」
橋の下にいた中年男に、菊次郎はビールを一缶渡す。
「麗らかな陽に照らされた川辺を見ながら日陰で静かに酒を飲む。このコントラストの良さに気付ける方はあまり居ません」
胡乱な目で男は、菊次郎を見た。
菊次郎に悪気はないのだが、ボッチをこじらせた人間には嫌味にしか聞こえなかったようである。
「まあ、そうですね……しかし、ああやって騒いでは酒の楽しみの半分も味わえないでしょう? 気の毒なものです」
おまえは明らかにあっち(リア充)側の人間だろうが、と愚神の男はぷるぷると震える。完全なる逆恨みであるが、不思議に思ってはいけない。
ボッチというのは、そういうものである。
「……そろそろお腹も空いてきました。どうです? 後の半分も楽しみに行きますか?」
「いいえ、私は結構です」
大人の言葉で対応はしたが、愚神の男の心には嵐が吹き荒れていた。
「そろそろ、ビールも冷えた頃だな。おーい、皆こっちにこい」
玉子が全員を呼びよせて、それぞれに飲み物を配り始めた。キンキンに冷えたビールは、なぜか持っているだけで少し楽しくなる。グラスに注がれて、金と白のコントラストが綺麗に決まればなおのことだ。
「ふふ、夏のビールを楽しむためには手間は惜しまないのが鶏冠井流だ」
ぷしゅっとプルタブが開けられる。
『蜂蜜レモンの冷水割りはいかがでしょうか?』
飲めない未成年メンバーに、あやかが自家製の蜂蜜レモンで作ったジュースを配り歩いた。冷えたオリジナルジュースは大人たちの目から見ても、十分に美味しそうであった。
――かんぱーい!
彼らは声をそろえて飲み物を頭上に掲げ、そこから一気に喉に流しこむ。
乾き始めた喉に弾ける炭酸が流れ込んでくる、感覚。
キンキンに冷やしたが故に、一歩遅れてやってくるホップの苦み。
「くー、最高だな!」
まさしく、極上の一口目。
行儀が悪いと思いつつも拳でついつい口元を拭ってしまう、玉子であった。
『もう、開けてもいいころよね』
周囲が頷くのを確認してから、リヴァイアサンは燻製キットを開ける。そこにはたちこめる煙と共に持ち寄った食材が現れるはずだった。
『きゃー! 食材がっ!!』
リヴァイアサンの悲鳴を聞いたリンカーたちは、振りかえり唖然とした。そこには今の今まで燻されていたはずの食材――チーズ、茹で卵、ベーコンが何故だか巨大化し動きだしたからである。
「て、なんで具材が従魔化してるんだおいっ!」
ウーロン茶で乾杯していた凱は、思わずその光景にツッコンだ。食材が従魔になって暴れまわっているなど、すごく美味しそう……ではなくて信じられない光景であった。
『一般人もいるんだ、とっとと追いかけるぞ!』
ごろごろ転がる茹で卵の後を追って、凱と智美は共鳴する。ごろごろと転がる卵から立ち上るのは、香ばしくも上品な燻製の香り。最近では手軽にスーパーなどでスモークチーズやスモーク卵が購入できるようになったが、できたての香りはやはり格が違う。凱の腹が「グー」となった。
「……他の具材持って来ていて、本当に良かったよな」
全部の具材が従魔になっていたら、泣くに泣けない結果になっていただろう。たぶん、後悔のあまりに夢に見る。燻製された食品を思う存分に食べまくる夢を見てしまう。
『ナッツは持って帰ろうか。お前の両親どっちも酒飲めるだろ、その時のつまみに良いだろう』
喜ばれるぞ、と智美は言った。
「あっははは、新鮮だねー暴れてるよー。大丈夫大丈夫、ボクの生まれ育った愛知県じゃーよくある事さ」
上機嫌だったのは詩乃である。
彼女は自分に絡みついてくるチーズに逆にかぶりつき「ほーらマナちゃん、燻製の踊り食いだよー」とココペルマナにも進めてくる。うにょうにょしているチーズに、ココペルマナは「ひー!!」と悲鳴をあげた。
『絶対愛知県は、そんな魔窟ではないのですー!!』
「あっははは!」と豪外に笑う詩乃は、そんなツッコミに気がついていない。さすがに食べられるのが嫌なチーズがびったんびたんと跳ねて小石が飛ぶ。その小石は河原の近くに止めてあった、家族連れのワンボックスカーのフロントガラスに命中した。おそらく、フロントガラスごとの交換になるだろうという損傷であった。
――さようなら、お父さんの夏のボーナス。
「ん……うどんは……香川県です」
従魔を食べ始めた詩乃に可笑しな対抗心を燃やす少女がいた。エミルである。彼女のほほもうっすらと赤く、いつも以上に鼻息荒くうどんへの愛を語る。
「ん……うどんには……無限の……可能性。秋田の……稲庭うどんも……美味しいの」
ギールは「なに言っているんだろう、この子」とちょっと心配になってきた。エミルが少しばかりふらつきながらも、キラーンと目を輝かせる。
「ん、大丈夫、味見……味見……。三秒ルール……」
その言葉にギールは少し安心してしまった。
よかった、いつものエミルであると。
「……いただきます」
ギールと共鳴したエミルは、自分の食欲を存分に茹で卵に叩きつける。
かぷっ。
もぐもぐ……。
「……ちょっと固い。でも……面白みもない味。想像通り」
エミルの何気ない感想に、近くにいた一般人の男が胸を押さえる。彼はつい先日メールで恋人に振られたばかりであった。最後に届いたメールには『あなたって、面白みのない男だったわ』だった。
――こんにちは、心の傷。
従魔を食べようとするリンカーが出てくるなかで、従魔に翻弄される英雄もいた。アジである。
『いっやぁぁあああ!! なんか知らないけど、でっかい! クンセイが、お料理が、べちゃって……お料理にじゃりがぁぁぁ! クンセェェェェ!! ぎゃあぁぁぁぁああああ!! 共鳴、出来ないよぅ、捕まっちゃう……ハルー! 助けて!』
チーズの翻弄されるアジを見つけた明は、思わず彼に一言かける。
「アジ、そのチーズを食べきったら一時休戦だ」
『えぇぇぇ! これを食べるのぉぉぉ!!』
真顔で頷く明に、アジは悲鳴を上げる。
「俺は、無駄な事と愚神とボッチが大嫌いなんだよ……! 食材を無駄にしないためにも、食べるぞ!!」
『たしかに……食べ物の元は命だけど……』
アジは知らなかった。
従魔が暴れて、近くの学生たちのバーベキュー用具を壊していたことを。その機材の上に乗っている肉は――来月海外に旅立つ仲間への選別変わりの特別な肉であった。
――さようなら、従魔の攻撃でふっとんだ国産牛の串焼き。
「テメェ等全員ブッ潰す!」
狼狽していたアジとは反対に、現状に怒りを覚える者もいた。ガラナとリヴァイアサンであった。彼らは非常に燻製を楽しみにしており、それを邪魔した従魔に尋常ならざる怒りを覚えていた。
「食われるだけの分際で盾突いてんじゃねぇ!」
酒乱。
誰かの脳裏に、そんな言葉が浮かぶほどの暴れっぷりだった。
一般人に被害が出る前にヘビィアタックを使用し、迅速に茹で卵を退治するあたりはさすがであったが。だが、その様子はチンピラが従魔に喧嘩を撃っているようにも見える。一般人の女性が、携帯を手に取った。警察に連絡をするつもりだったのである。一体何をどういうふうに通報するつもりだったのかは、彼女にしか分からない。
――さようなら、ガナラ……となるまえに一般人の女性を止めた人物がいた。
「安心してください、我々は食べ物を粗末に扱う輩に正義の鉄槌を振るうべく活動しているフード過激派組織、HOPEです!」
紗希である。
携帯を握っていた一般人に、紗希が真面目な顔をして説明する。一般人の頭に疑問符が浮かぶ。HOPEってそんな組織だっけ、と思われたのである。
「地産地消、自国による農産物生産向上を願って今日も戦っています、宜しくお願いします」
明らかに別の組織の別の活動内容を説明した紗希は、一般人の彼女にモヒカンのカツラをかぶせて頬にステッカーまで貼って戦場へと戻っていく。
――さようなら、HOPEの信用度。
「……どうする?」
『……ドレットノート多いですし……とりあえず倒れている一斗缶立て直してからにしませんか?』
「だね。火が燃え広がっても困るし」
よっこいしょ、と薫とあやかは二人で一斗缶を元通りにする。
「従魔になった分は仕方ないけど破棄だな。生ゴミだし持って帰ったら家の家庭菜園にでも埋めるか」
『他にも食べれる物ありますし。智ちゃん達にはこっちの少し融通しませんか?』
それは良い考えだ、と頷き合う二人。
『智美さんが家庭で出来る燻製方法知ってるみたいだし、今度はそっちに挑戦してみようか?』
「その場合家だな。薫の家妹達の前で火使う訳に行かないだろ?」
凱の家で、燻製をやってみるのも楽しそうである。
二人でそんなことを話しあっていると、どこからか雄たけびが聞こえてきた。
「お前ら! 逃げろーっ!」
『サクラコ、待ってなのです~!』
國光が、メテオバイザーをおいていって駆けだした。彼が目指したのは、未だ避難していない一般の学生グループの元である。実はこのグループ、國光の後輩たちであった。バーベーキューパーティーをやるとは聞いていたが、まさか会場で会うとは思わなかった。そして、従魔が出ているのに避難していないとは思わなかった。
「お前ら……危ないから逃げろって言ってるんだから素直に下がれぇぇ!」
そう言っても飲んでいる学生は、言う事を聞いてくれない。というか、今目の前にいるのが自分だと認識しているのかどうかすら怪しい。
「あー、サクラコ先輩の声するっすね」
「ばか、おまえ。飲み過ぎだろ、鳥の声だって」
「鳥が喋るかぁぁぁ!!」
後輩を叱りながら、國光はびったんびったんと跳ねてくるベーコンに立ち向かう。チーズは他のメンバーの食欲により消え去ったので、動けない國光の後輩たちに狙いを変えたようである。
そして、國光は気がついた。
自分が持っている武器の存在を。
「……火箸と紙皿」
何でこんなものを持ってきちゃったんだろう、というチョイスだ。しかも、自分の背後ではぱしゃぱしゃと音が鳴っている。後輩たちが、國光の勇姿を写真に収める音だった。ヤバイ、このままでは今年のゼミの会報誌かなにかに自分の写真が乗ってしまう。
「無断で写メを撮るな!」
メテオバイザーは、自分を追ってきているがベーコンの方が早い。國光は、ベーコンの下敷きになった。
「くっ……櫻チップの匂いが肉の脂の匂いがっ!!」
すごく美味しそうだった。
『サクラコが食べられてます!』
メテオバイザーは慌てるが、内心國光は首を振る。
「違う。オレの方が食べたいんだよ」と。
メテオバイザーと共鳴した國光はベーコンの香りを噛みしめながらも、敵を討った。
「お前ら……オレが逃げろって言ってるのにどうして逃げないの? ねぇ? いきなり一気をはじめるな! 死ぬぞ、おまえら!!」
酔いすぎててフリーダムな後輩にストレスを感じ、思わず國光は持っていた火箸を握り潰してしまった。
――さようなら、アウトドアショップで買った火箸。
「おまえら、河原でさわぐんじゃねぇ!!」
怒鳴り声が響いた。
怒鳴ったのは、ビールを握りつぶした中年男である。
「ああ、先ほどの」
菊次郎は、ビール仲間としてひらひらと手を振る。誰も気がついていないが、彼はほろ酔いであった。
「まだ無事な燻製があるので、よかったらご一緒にいかがですか?」
「うるせぇ。オレは愚神だ!! そんなオレが、お前らと一緒に飯を食うと思うかっ!!」
笑いだす愚神を見て、菊次郎は目を細める。
そして、いつもかけているサングラスを外した。
「……失礼しますが、この目に見覚えはありませんか?」
「知らん!!」
愚神は即答であった。
「そうですか……。実は御身にお話しないとならない件が有りまして……実は俺たちはHOPEのエージェントなのです」
菊次郎の言葉に続くかのように、ガラナが飛びだした。
「死ねオラ! 死ねボケ! 死んで詫びろゴラァ!」
愚神もう応戦しようと構えるが、よっぱらった愚神はふらふらだった。
『……完全にチンピラと化してるんだけど、どんだけ苛ついてたのよ』
一方的に殴るガラナに、リヴァイアサンはため息をつく。
カイが武器を抱えて、ふらりと愚神とナガラの前に現れた。
『てめぇこそたかが酒ごときに酔って人様にメーワクかけてんじゃねー! 酒は飲んでも飲まれるな! 飲酒は皆で楽しくワイワイやるべし! 多少の下トークはケースバイケース! ガチで飲めない奴に無理やり飲ませる行為などゲスの極み! リーマン巻きなど今更感満載故、絶対外ではしないように! ホームで盛大にゲロってる奴に酒を飲む資格なし! 駅員さんの事も考えろ! 終電間際の泥酔した女もみっともないから止めるべし! 地ビールや馬刺しを食べて地域活性! 以上これが俺の飲酒に対するポリシーだ』
まるで見てきたような怒涛の『本当にあった他人の嫌な酒癖』トークに、ガラナもリヴァイアサンも圧倒されていた。後ろで玉子が「地ビールは美味い」と頷いている。
『故に、成敗!!』
カイの『嫌な酔っぱらいよ水を飲め攻撃』――別名剣による攻撃を受けた愚神と男が離れた。愚神が離れた男ははっとして、周囲を見渡す。
「わっわたしは、どうしてこんなところに。私は若い部下に三回連続で飲み会を断られて、行きつけの飲み屋でやけ酒していたのに……」
さびしい中年男性の独白を聞いたアジは、思わずぽんと明の肩を叩く。
『ハルに謝るよぅ』
「……アジ」
殊勝な態度のアジに、明は瞬きを繰り返す。
『愚神さんとオジさんはボッチだから、寂しいからこんなことをした」
「あぁ……あ?」
『でもハルはそれをずっと耐えて……』
「いや、待てどういうことだコラ」
こめかみに血管を浮き上がらせた明は、アジの胸倉を掴もうとする。悪いが自分は、あそこまで孤独ではない。断じて、将来は世代の違う若者に飲み会を断られるような親父にはならない。
「まぁ、解決した事だし。皆で、呑みなおそう。運動したら、すっかり酔いもさめてしまったしな。ふふ、夏のビールを楽しむためには手間は惜しまないのが鶏冠井流だ。大事な事だから、二回言ったぞ」
玉子が豪快に笑うさなか、エミルは一人でそっと燻製キットに手を伸ばしていた。このなかには彼女が夢にまで見た、燻製ウドンが入っている。
「茶色……」
しっかり燻されているウドンを最初に何もつけずに、一口。
「燻製の味……」
今度は汁に浸して食べてみるものの燻製の味がうどんの良い部分を全て消してしまっている。不味くはないが、うどんでやる必要はないと言う感じの味である。残念に思いながらもエミルは、ずずっとうどんの付け汁をすすった。
「燻製の香りがついて……すごく美味しい」
本日一番のエミルの笑顔だったという。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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