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花嫁花婿募集中!
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依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/06/11 23:24:31
オープニング
●人が足りない
「あぁ、困った困った……」
彼女は困っていた。
誰に言うでもなく困っていた。
彼女の職業はカメラマンである。
いや正確に言えば兼カメラマンである。
より正確に言うならばなんでもやると(自称)評判のリンカーである。
「どうしよう、期限はもう無いし……」
ちらりとカレンダーを見れば、数日後にでかでかと赤丸がついている。
何を隠そう、彼女はこの赤丸日までにとある記事を仕上げなければならないのだ。
そのタイトルは、『六月の花嫁花婿大特集!!』。
シンプルイズベストとは本人の談だが、シンプル過ぎてメンバーが集まらない。
着用してもらう服はある。それはもう大量にある。これまでに積み上げてきたコネやらツテやらを総動員してドレスもタキシードも様々な種類を用意したのだ。
したのだが、現在着ているのは悲しいかなマネキンばかり。
「あーもう! こうなったら私が着るしか……」
最後の手段とばかりに服を脱ぎかけたが、いや待てよ。
私はなんだ? カメラマンか? それとも雑誌の編集者か?
いや違う。
私はリンカーじゃないか!!
「そうか、これを依頼として出せばいいんだ!」
●急募!
大急ぎで用意した依頼書が無事に受理されたのを確認し、彼女は胸を撫で下ろす。
「よし、これで後は待つばかり!」
●【急募】花嫁花婿募集中!●
ジューンブライドのこの時期に、花嫁体験・花婿体験をしてみませんか?
貴方の写真が雑誌のトップを飾っちゃうかも!?
・年齢:不問
・性別:不問
・適性:不問
種類豊富なドレスやタキシードを大量にご用意してお待ちしております!
解説
●目的
様々なウエディングドレス、タキシードを着ての撮影会。
希望すれば女性でもタキシードを、男性でもウエディングドレスを着ることが出来ます。
写真も持ち帰り可能(希望制)。
●場所
都内から少し離れた場所にあるスタジオ。
付近に教会もあるので、そちらで撮影会を行なう場合もあります。
送迎無料。
●補足
一人で撮影も良し、二人で撮影も良し。
希望すればそのように撮って雑誌に掲載となります。
他にもこのようなドレスを着たい、このように掲載してほしいなどありましたら、プレイングに書いていただければと思います。
リプレイ
●
空は晴天、絶好の撮影日和である!
会場へ仲良さげに歩いてくるのは今宮 真琴(aa0573)と奈良 ハル(aa0573hero001)。今宮から少し遅れて、鹿島 和馬(aa3414)と俺氏(aa3414hero001)、天都 娑己(aa2459)と龍ノ紫刀(aa2459hero001)の姿。能力者に隠れ、俺氏と紫刀が何やら目配せをしている。加賀美 春花(aa1449)とエレオノワール アイスモア(aa1449hero001)も到着し、真白・クルール(aa3601)とシャルボヌー・クルール(aa3601hero001)の親子は既にはしゃぎながらドレスを眺めている。一方、シエロ レミプリク(aa0575)は女子率の高さに震え、ナト アマタ(aa0575hero001)はいつもと変わらずシエロの頭部にしがみつく。通常運転だ。英雄のルナ(aa2142hero001)に引きずられるように来たのは野々兎 天(aa2142)。最後に、何やら言い争いをしつつ到着した夢洲 蜜柑(aa0921)とヴァレンティナ・パリーゼ(aa0921hero001)。
参加者が全員揃ったのを確認し、賑やかな撮影会が始まった。
●
それぞれがホールで衣装を選ぶ中、シエロは一人恍惚に浸っていた。どこを見てもドレスを選ぶ少女がいる。勿論ナトのタキシード姿も楽しみにしているが、少女達の様子を見ているだけで幸せだ。それに。
「やーんもう! 真琴ちゃんも娑己ちゃんもかわいいのー!」
依頼人に勧められ、着せ替え人形にされている今宮と天都の可愛さと来たら。
二人が着ているのはAラインの桜色のドレスで、依頼人の趣味だそうだ。雑誌には載せないけど写真は残したい!とカメラを構えながら言われては、優しい二人も断れなかったのだろう。
そんなほのぼのとした撮影会を眺めていたシエロだが、ふと我に返る。
そういえばそろそろナトが着替える時間ではないか。……おや?
『……』
どことなく様子のおかしいナトに声を掛けようとした、その時!
「……え?」
リンカースタッフにより、シエロの両腕ががっしり捕まれる。シエロが抗議の声を上げるも成す術なくずるずると引きずられ、運ばれていく先は奥の試着室。
手を伸ばしてナトを見るが、慌てるシエロにナトが返したのは素敵な笑顔。シエロ、察した。
「あれ、もしかして最初から計画されてた!?」
抵抗、時既に遅し。絶叫と共に試着室のドアがぱたりと閉まり、ご満悦のナトと依頼人がサムズアップを交わす。実はシエロのドレス姿がどうしても見たかったナト、依頼人と共謀したのである。今宮と天都のドレス姿に夢中だったシエロは、ナトがこっそりドレスの打ち合わせをしていたと気付けなかったのだろう。
こうしてシエロ レミプリクは強制ウェディング参加となったのだった。
●
ナトの策は無事成功、気づかぬ内に協力していた今宮・天都も自らの選んだドレスへと着替え始める、はずだったのだが。
「は、恥ずかしいんでハルちゃん共鳴姿……でいい?」
いざ雑誌に載る写真をとなると、やはり少し恥ずかしい。ならば受けなければよかったのにと言う奈良に、着てみたかったと年相応の声で呟く今宮。
購入するとなるとどうしても財布が気になってしまう。けれど、この依頼では高価なそれを無料で着ることが出来る。しかも写真も貰えるのだ。
『やれやれ……仕方がないのう』
渋々頷く奈良に今宮が目を輝かせ、用意しておいたドレスに着替えた……までは普通の写真撮影だった。
共鳴した今宮が足を掛けているのは教会の屋根、体を包むプリンセスラインのピュアホワイトドレス。そっと乗せられたベールは獣耳の形に整えられ、窮屈では無いよう工夫されており。そして。
『なんでライフル持っとるん?』
「趣味!!」
言い切る今宮は彼女愛用のライフルを右手に、指先まで気を配ったばっちり決めポーズ。
さすがリンカー、さすがエージェント。
教会の屋根から軽やかに降りて共鳴を解いた今宮に一礼し、次はと奈良を見つめる依頼人に。
『なんでワタシも……?』
首を傾げる奈良だが依頼人も今宮も聞こえない振り。着替えに時間がかかる為二人を試着室へ案内し、依頼人は次のターゲ……被写体の元へ向かう。
●
「『よろしくお願いします!』」
教会から戻ってきた依頼人に改めて元気よく挨拶をするクルール親子だったが、撮影となると緊張は凄まじいものだった。右手と共に出る右足、ぺたんと垂れた耳。震える尻尾。怖くないですよーと微笑む依頼人と、撮影を終えたエージェントもいることでどうにか安心したのか親子の緊張は僅かに和らぎ。
そんなわけで。
「ママ、ママ! これがカメラ?」
『だ、ダメよ触っちゃ! 吸い込まれちゃうわよ!』
少しずれている二人の撮影会開始である。
まず試着室から出てきたのはシャルボヌーだ。
試着したマーメイドラインのドレスは光沢があって影の色合いが銀にも見え、首元は肩紐の無いビスチェタイプ。胸元には体型をあえて強調するビーズ刺繍が施されており、淡い銀色のオーガンジーを重ねて付けることで、シックかつエレガントでゴージャスなスタイルになっている。
「やっぱりママ、すっごく綺麗……!」
綺麗、綺麗とはしゃぐ真白がコードに足を引っ掛け、あわや大惨事……になりかけた場面もあったが、撮影は順調に進んで行く。
『もう! あんまり心配させないで!』
「……はい、ゴメンなさい」
まだまだ目が離せない娘をさすがの親ばかっぷりで叱りつつ。
シャルボヌーの服はそのままで、次は真白のお着替えである。
『ま、真白……すっかり綺麗になって……』
シャルボヌーが涙を浮かべる視線の先には、フリルがふんだんに使われた裾レースのミニ丈ドレスを纏った真白の姿があった。膝を少し出すことによって活発さを、肩先のパフスリーブが少女らしさを演出するドレスだ。後ろを見ると、ロングのトレーンには淡く桃色がかったオーガンジーが花やリボンの形であしらわれており、胸元には大きなリボンで足元は揃いのリボンがついたパンプス。レースが光で透けることで妖精のようなシルエットに仕上げられ、よく見ればドレスにはシャルボヌーと揃いの模様も縫い込まれている。
『ママの自慢の娘……』
「ま、ママ?」
どうしたの、と近付いてくる真白に、シャルボヌーは涙を拭う。
『お嫁に行くのね…?』
今この場で結婚式を挙げるわけではなく、あくまで雑誌に掲載する写真撮影である。だが年齢だけで考えるなら真白も17歳だ。いい相手がいれば結婚だってするだろう。そして、それはシャルボヌーにとって遠い話ではない。
寂しくなっちゃう、と顔を覆う母の不安を吹き飛ばすように真白はぎゅっとシャルボヌーを抱きしめた。
「行かないよ! ずっとママの傍にいるんだから!」
『真白……!』
ひしっと抱擁する二人の笑顔と共に、子バカ親バカの感動の場面を、ぱしゃり。
●
次の被写体は、どやっとした顔でポーズを決めているエレオノワールと加賀美の所だ。
「エルちゃん、とってもかわいいよ~」
持参したスケッチブックを広げる加賀美の言葉に、性別不詳の英雄はお姫様のように可愛いだろう?と微笑む。手馴れた様子でスケッチブックに描かれていくのはエレオノワールのドレス姿だ。真っ白なプリンセスラインのドレスに、ベールの代わりに乗るのはティアラ。教会の花壇を背景にすれば、可愛らしいお姫様の出来上がりだ。褒められるたび得意げにポーズを決め、ふわふわとしたプラチナブロンドが揺れるのがなんとも愛らしい。
可愛いお姫様姿を思う存分堪能もとい撮影した依頼人は、それじゃあと加賀美とエレオノワールを衣装のあるホールへ促す。花嫁と花嫁のツーショットも捨てがたいが、次は花嫁と花婿のツーショットだ。
『むむむ……どれもかわいいのである……かっこいいのである……どれも着たいが……』
衣装を悩むエレオノワールの前には大人びたタキシードがある。これを着て加賀美を迎えに行けばさぞ見栄えのする王子様になれるだろう。しかし、それにはどうしても彼の身長が足りない。
『もう少しエルが大きければもっといろいろな服を着れたのだが仕方ないの……』
かっこいい物も可愛い物も着こなせる英雄にもどうにもならない悩みはあるようだ。
一方加賀美も、白のウェディングドレスを前に立ち止まっていた。
純白の、花嫁だけに許されたドレス。依頼人にも進められたし、憧れる気持ちもある。けれど。
白いウェディングドレスは、本当に結婚する晴れの日に。一生で一度の花嫁になる日の為に取っておこう。
そう思い、違うドレスをと加賀美が手に取ったのはイエローグリーンのカラードレス。シンプルだが爽やかで、胸元にはフリルがふんだんに使われている。ウェディングベールの色は少し黄色がかったアイボリー。ブーケには黄色やオレンジ、白のガーベラのものを。生花ではなくプリザーブドフラワーだが、色鮮やかで見劣りすることは無い。試着室でドレスに袖を通し、髪は纏めて……と準備が整った所で、こんこんとノックの音。
スタッフに手を引かれて向かう先には、白いタキシードを来たエレオノワールの姿があった。ネクタイの色はパステルグリーンで、胸元にはアップルグリーンのチーフをチョイス。加賀美と並べば若々しいカップルの出来上がりだ。
『春花よ。我は春花よりも体は小さい。しかし見事にエスコートしてみせようぞっ』
「ふふっ、ありがとう、エルちゃん。では、エスコートをお願いします、かっこいいプリンスさま♪」
手を差し出すエレオノワールに加賀美が応えるように手を乗せて、二人揃った姿を、ぱしゃり。
●
『ウェディングドレスって一度着てみたかったのよね』
楽しそうなルナとは裏腹に、天はうつらうつらと今にも眠りそうである。具合が悪いのではと心配する依頼人にルナが教えてくれたのだが、どうやら彼は月を見るのが好きでついつい夜更かししてしまうのだとか。それならば眠くなるのも無理はない。
『ねぇテン、どれがいいかしら?』
「……どれって……俺は服とかよくわかんないけど、ルナは美人だし、何でも似合うんじゃない?」
自分に向けられた声で目を覚まし、瞼を擦りつつも答える天。全部着るといいよ、と促すのも忘れない。
『んー、それもそうね。じゃあ気になったのは片端からぜーんぶ着ましょ!』
瞳の中の星がきらりと輝き、再び眠そうな天と依頼人もといカメラマン、それから撮影を終えた加賀美やエレオノワールを観客にしたルナのファッションショーが始まった!
まずは王道、純白のプリンセスライン。中のパニエがスカート部分が大きく広げ、見た目も華やかだ。どちらかというと可愛らしい印象に収まりがちなウェディングドレスも、ルナが着ることで豪奢に映る。次はミニの赤いドレスだ。至る所に花のコサージュが散りばめられているが、腰に大きく結ばれたリボンによって大人っぽい印象から一転可愛らしい印象へと変化している。それから、青く透き通った色のマーメイドドレス、更にビーズやスパンコールが胸元を彩るドレスと宣言通り気になったものを着ては脱ぎ着ては脱ぎ。気づけば写真の枚数は五十を超え、加賀美のスケッチブックにも相当な下書きが溜まっていた。
『モデルさんって楽しいわね!』
引きずらないようドレスの端を持ち、踊るようにくるりと回るルナ。一緒に写真を撮ろうと天の手を取るが、いいよ眠いしとつれない態度の少年である。
「それよりほら、この黒っぽいのとかどう? きらきらしてて夜空っぽいし、ルナの綺麗な金髪に合いそうだよ」
天が指す先には、Aラインのシックなドレスがあった。黒よりは青に近い濃紺、背中には大きなリボンがついてとても愛らしい。何より他ならぬ天が選んでくれたドレスだ。ルナにとってこれ以上のドレスは無い。
『じゃあワタシもテンのタキシード選んであげるわね』
お揃いのようなデザインがいいかしら、それとも別の物がと微笑みながらルナが選んだのは、彼女のドレスと同じ色のネイビーのタキシードだ。白のシャツとジャケット、ネクタイにチーフとルナは次々選んでいくが、天はされるがままである。さぁそれでは撮影だという場面になってもぼんやり立ったままの能力者を、英雄は嬉しそうに誘導する。
『ああ、撮影が夜じゃなくて残念だわ』
昼の明るさもいいけれど、月明かりの差す夜ならばそれはとてもロマンチックな結婚式になるだろう。
『テンがいつか可愛いお嫁さんを貰う時は是非夜にして頂戴ね』
ふふ、と笑んで囁くルナに、天は首を傾げる。
「お嫁さんとか、んー……まだいいよ。ルナがいるし」
のんびりとした天にルナは嬉しそうに抱き付いた。
いつかはいつか。今は今。ならば思うまま、この時を楽しまなければ。
『もう、テンはワタシを喜ばせるのが好きね』
そう言って抱き付く幸せそうな女神と夜色の少年を邪魔しないよう、ぱしゃり。
●
依頼人がホールへ到着した頃、夢洲・ヴァレンティナペアのドレス選びは混迷を極めていた。
夢洲がこれがいいと言うと、即座にヴァレンティナから制止がかかる。逆もまたしかりで、仲の良い口論が続いているのだ。
『こーいうのはオトナ可愛いヴァレンティナちゃんのほうが似合う。間違いない』
「はぁ!? 若作りのBBAみたいなこと言ってんじゃないわよ!!」
あぁ言えばこう言う。なんだかんだ呼吸が合っていて、当初は止めようとした依頼人も今ではカメラマンに徹している。
しかしいつまでも言い合っているわけにはいかず、さてどれを着ようか。
「むー、ウェディングドレスって言ってもいっぱいあるのね」
ここ数日パソコンや雑誌で情報を仕入れていた夢洲だったが、何しろ種類が多い。しかも依頼人が大量に用意したものだから、余計に迷うことになっている。
『知らなかったんでしょ?』
「……し、知ってたわよ!!」
からかいながら言うヴァレンティナだが、夢洲が検索していたことなどお見通しで。だからこそ、少し口籠りながらも思った通りの反応をしてくれる夢洲に、にやにやと楽し気な笑みを返す。
「これが可愛い!!」
口喧嘩もそこそこに夢洲が見つけたのは、プリンセスラインのウェディングドレス。色は誰もが憧れる純白で、それじゃあ早速とスタッフに試着室へ誘導される。
その間にヴァレンティナも選び終え、同じくスタッフに誘導されて別の試着室へ。
お互いに何を選んだのか分からないまま、いざご対面。
『まー、コテコテなきゃわいい系選んだわね』
可愛いと思いつつ素直に言えないヴァレンティナはマーメイドラインのウェディングドレスだ。夢洲と違って純白ではなくオフホワイト。コルセットによって締め付けられ、窮屈そうではあるが女性らしい体のラインが際立っている。普段流している金色の髪も一つに纏めて結い上げられて、ベールから透けて見えるのが美しい。
一方夢洲は、手首まで覆う手袋にはアクセントとしてピンクのリボン。胸に抱く桃と白色のブーケ。編みこまれた髪に掛けられた薄いベールや細い体躯も相まって、王道の可愛らしい……ヴァレンティナ風に言えばきゃわいい系花嫁の出来上がりだ。
どことなくやり遂げた感の漂う依頼人の提案で、二人は教会へと移動する。そんな僅かな間でも、ポーズは上手く取れるのかとか、邪魔するんじゃないわよとか、彼女らにとっては大真面目なコミュニケーションが続く。
そしていざ撮影となると。
「ちょっとヴァレンティナ、前出すぎよ!!」
『ちびっこがちびっこなのがいけないんでしょ』
身長を生かしたポーズを決めるヴァレンティナの後ろから、隠れてしまうとブーイング。夢洲が前に出ようとすればヴァレンティナが押し留め、じゃれ合いながらの仲良し加減を、ぱしゃり。
その後二人仲良く並ぶ姿を撮った一枚と合わせ、どちらを雑誌に掲載するか依頼人は悩むことになりそうだ。
●
「ハルちゃん綺麗ー!!」
感動する今宮の視線の先には、鮮やかな和装のドレスで豪華に着飾った奈良の姿があった。背中が大きく開いたドレスに、これでもかと肩を出しての見返り美人風ショット。今宮の口の端からじゅるりと涎らしきものが垂れかけるが、それはどうにか奈良が防いで今度こそ写真撮影は終了……しなかった。
満面の笑顔で、こっちも着てみてと今宮が差し出したのは黒の燕尾服だ。いつの間にか見つけたのだろう。
『おい、これ男物……』
奈良が言うものの今宮は、絶対似合うから!と譲る気配がない。そして、こうなった彼女が己を曲げないのを奈良は良く知っている。
『胸潰すと苦しいんじゃがなぁ』
ぼやきつつも着替え始めて数十分。
長い赤髪は一つに纏められてポニーテールに。胸はしっかりぺったんこで、とどめとばかりに靴は厚底身長アップ。ポーズを決めれば、先程までの妖艶な美狐はどこへやら。
そこにいるのは、とても素敵な王子様。
「ハルちゃん格好いい……すてき……」
『二度目じゃが慣れんよな』
「そうだ写真! 写真とんなきゃ!」
はっと鞄の中を漁る今宮の脳天に、やめんか、と奈良のチョップが決まる。そんな瞬間も依頼人は見逃さずカメラに収めるが……今宮の様子がおかしい。奈良を正面から見ようとしないのだ。具合が悪いのかと心配する依頼人にしぃっと人差し指を立て、それは楽しそうに今宮へと手を差し出す奈良。
『お嬢様? お手を』
「え、えぇ!?」
顔を真っ赤にして慌てる今宮だが、奈良は完全に弄るモードだ。手を握って抱きしめてみたり、顎を掴んで顔を近付けてみたり。そんな様子を、ぱしゃり。
●
鹿島が参加したきっかけは、天都と出かけた時に見たウェディングドレスだった。いつか着てみたいですと天都は言った。それに応えて……。
『それで二人を誘ったんだね。撮影も一緒に?』
「そこは仕事だしな、俺は俺で適当に済ますわ」
『……和馬氏はダメな子、はっきりわかんだね』
だから仕方ないね。
ここぞという時にへたれる能力者の背中は、俺氏が押してあげないと。
天都は、鹿島が誘ってくれた優しさが嬉しかった。
他愛の無い言葉を覚えていてくれていた。今回は仕事だけれど、いつか……。
『娑己様』
ぼんやり未来の想像をしていた天都に、着替え終えた紫刀が声を掛ける。
彼女が選んだ色は漆黒。すらりとした足がショート丈のドレスから伸び、大人の女性らしさを演出する。
一方の天都は、たくさんのフリルがあしらわれた純白のウェディングドレスだ。腰から裾へふわりと広がり、柔らかく穏やかな雰囲気を醸し出している。あとはベールとブーケを渡せば立派な花嫁の完成だ。
そんな天都を心の底から綺麗だと思いながら、紫刀は優しく手を引いて歩く。
目指す先は……。
『撮影場所は教会だよ』
依頼人と何やら言葉を交わした俺氏が言うものだから、鹿島は疑うことなく教会で待っていた。しかし俺氏はいつの間にかどこかに行ってしまっていたし、依頼人はまだ来ない。
だから教会の扉が開いた時、やってきたのは俺氏か依頼人だと思ってしまうのは仕方ないことで。
まさかそこに、ドレス姿の天都がいるなんて。タキシード姿の鹿島がいるなんて、お互い思いもしなかった。
「……っ」
「――綺麗だ」
何の衒いもなく心の声を口に出したのは鹿島。しかしすぐに何故ここに天都がいるのかと混乱する。それは天都も同じことで、顔を見合わせる二人の後ろから仕掛け人である英雄がそれぞれひょっこりと顔を出した。
それは、あと一歩の能力者達を見かねた英雄二人の優しさだった。
鹿島と天都を新郎新婦に仕立て、結婚式をなぞる形で撮影をしてしまおうという案だった。
当然依頼人には話を通してあるし、むしろ大歓迎と許可も貰っている。というか先程からこっそり撮影中だ。
それでは結婚式を始めよう。
『さぁ和馬氏、健やかなる時も~略~真心を尽くす事を誓う?』
「ちょ、おま、これガチの奴じゃ……」
牧師と額に書かれた白装束を纏った俺氏を前に、困惑の声を上げる鹿島だったが。
『和馬氏、誓わないの?』
「……ち、誓います」
真っ赤になりながらも真剣に頷く鹿島を、俺氏は恐らく満足そうに見てから天都の方へ顔を向ける。
『それじゃ、娑己氏も誓う?』
鹿島と同じくらい顔を赤くしながら、天都の瞳には迷いが無い。
「ち、ちちち、誓いまっす!」
動転しているせいでちょっと舌っ足らずになってしまったけれど、式は滞りなく進み。
『さ、この指輪を……サイズは紫氏に確認済みだよ』
「用意周到過ぎやしませんかねぇ!?」
鹿島のツッコミも気にせず、指輪が受け取られるのをただじっと待つ牧師。パシャパシャと鳴るシャッターの音。それらに急かされながら鹿島は指輪を掴み――壊れ物に触れるかのように天都の手を取った。
「――綺麗な手だな」
手に触れるのは、触れられるのは初めてかもしれない。細く柔らかな手を鹿島の手が支え、指輪が嵌まるのは左手の薬指。俺氏の言った通り、サイズはばっちりだ。
「……」
「……」
照れてお互いの顔が見れない二人に、しかし仕掛け人は容赦しない。
『最後は誓いのキスね』
演技指導という名の進行管理を行なう紫刀の言葉に頷き、牧師もとい俺氏は粛々と式を進行させようとするが、さすがにそれは拙いと鹿島が言うが。
『あぁ、寸止めだから大丈夫だって』
『うん。紫氏も言うように、寸止めだから大丈夫だよ』
寸止めだから。あくまで寸止めだから。それに。
『ここで腹を括らなかったら男じゃないよ』
そうまで言われたら、鹿島ももうやるしかなかった。あぁそうだ俺だって男だ。やる時はやる男だ。
少しだけ呼吸を落ち着かせて、そっとベールに手を掛ける。天都の顔が近い。天都にとっても、鹿島の顔が近い。これまでに無い程に。
「……」
少しずつ近付いて行く距離。互いの息さえ感じ取れるのではないか。寸止めってどこまでだろう。どこまでするのだろう。このままでは。
『カットーー!!』
あと一秒遅ければ触れていたかもしれない、そのぎりぎりで紫刀の声が掛かる。
「ひゃっ……!」
声に驚いた天都は、ぷしゅうと湯気を出しつつ気を失う。
鹿島の方も、倒れそうな天都をしっかりと抱き止めてから紫刀に預け……ダウンした。
『頑張ったね、和馬氏』
優しい牧師の声に、後で説教だと思いながら。
●
依頼人がほくほく顔でいるとスタッフから着替えが終わったと声を掛けられ、向かったのは絶叫で閉まった試着室。
「い、いやー…まさかこんなことになろうとは」
機械化された逆関節の足はプリンセスラインのドレスで隠され、身に着けていた真っ赤なリボンは白い花の形で、ヴェール代わりの物へ変えられている。左の眼帯は白地の物に。無骨な鉄仮面は外されてシルクのマスクが首から口元までを覆う。
そこには、美しく儚げな花嫁となったシエロが佇んでいた。
「……」
依頼人、無言で写真を撮りまくる。
と、そこへタキシード姿に着替えた仕掛け役の花婿、ナトがやってきた。
「あ、あはは! どう、かな?」
マスクから覗く頬が僅かに赤いシエロに、ナトは嬉しそうな笑顔だ。
「なら頑張ってよかったかな!」
ナトが喜んでくれたのなら、と微笑むシエロに。
『シエロ』
そっと名前を呼んで、ナトは天使の笑顔で。
『結婚しよ?』
ぶわぁっと耳まで真っ赤になる花嫁と首を傾げる花婿。答えなんて一目瞭然である。
「ち、誓いまぁぁぁーす!!!」
あまりの嬉しさにナトを抱き上げ、そのままぐるぐると回転するシエロ。ドレスの裾がふわりと舞って、まるでダンスをしているような一場面を、ぱしゃり。
●
倒れて運ばれた鹿島と天都が目を覚ましてすぐに行ったのは、英雄二人への説教だった。が。
寸止めまで許すなんてなかなかないよ?とか、ああでもしないと踏ん切りがつかなそうだったとか、英雄達まったく反省していない。それどころか。進行は完璧だったとか予行練習になったよねとか、自分達の正当性を真っ向から押し出してくる。
そんな二人に、先に吹き出したのはどちらだったか。
「ほんと俺氏さんと紫らしいよねー!」
「らしいっちゃらしいけどな……これに今後も付き合って行くんだぜ?」
顔を見合わせて笑い合う鹿島と天都。
今までで一番の表情を邪魔しないように、ぱしゃり。
幸せな笑顔をカメラに収め、撮影会は終了となった。
●
渡された写真を見ながらそれぞれの家へと帰っていく参加者達を見送り、依頼人はさてと気合を入れ直す。ここから先は自分の仕事だ。素敵な写真をたくさん撮らせて貰ったのだから、それに見合った物を作らねば。
ご参加有難うございました!の一言が添えられた記事の効果か、結婚式を挙げるリンカーが増えるのはもう少し先の話である。
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結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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