本部

もうだめぽ

アトリエL

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~10人
英雄
8人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/06/24 19:49

掲示板

オープニング

『オぉマー……おツゥー……モウダメィポぉぉー!』
 奇怪な声が響き渡る。
「ああ、もう駄目だ……結婚して、幸せな家庭で、出世もしたばかりだけどもうダメだあ……」
 落ち込む男が一人、項垂れ、その表情に絶望のみを色濃く映して絶望していた。
『オぉマー……おツゥー……モウダメィポぉぉー!』
 奇怪な声が響き渡る。
「ああ、もうダメだわ……社長は奥さんと別れてくれないし、課長も私以外の人と再婚しちゃってるし、この前の新人は使えないし……」
 落ち込むお局様が一人。不倫相手は無駄に多く信心いびりが趣味の彼女も絶望していた。
『オぉマー……おツゥー……モウダメィポぉぉー!』
 奇怪な声が響き渡る。
「くぅ~~ん……」
 わんこも落ち込んでいた。明るく元気に毎日近くの会社員達に吠え掛かるのが日課のはずなのに今日は項垂れご飯だけが喉を通る状態だ。
『オぉマー……おツゥー……モウダメィポぉぉー!』
 とあるオフィス街に響く謎の声。その声を聞いた者達は無意味に絶望し続けていた。

「先ほど妙な通報がありました。その内容は……」
 オペレーターが何やら操作する音が聞こえると別人の声がスピーカー越しに聞こえてくる。
『助けてくれ! ……オぉマー……おツゥー……モウダメィポぉぉー! ……助けられても俺なんかもうダメなんだ……けど助けてくれ……』
 合間に聞こえた声は明らかに助けを求めた男の声とは違ったが、最後の声は声のトーンこそ落ちていたが最初の声と同じだろう。
「とまあ、こんな感じです。状況はよくわかりませんが何やら悲観的に聞こえる感じの救助要請です」
 救助要請であるのはわかるが状況が全く分からない。
「まあ、こちらとしてもよくわからないまま皆さんを送り出すのは忍びないので監視カメラのデータをちょちょっと用意しました」
 どうやって用意したのかわからないが、送られていた監視カメラの映像を見ると黒いコートを被った怪しい人物がオフィス街をうろついていた。その顔がカメラの方を向けばそこに映っているのは歪な笑みを浮かべた巨大な口だけが顔の部分に張り付いていた。
「おそらくは音で絶望を振りまく従魔でしょう。特に決まったルートを通っている様子はなく、その姿はあちこちの監視カメラに写っていますが、常に先ほどの通信で聞こえた声を発しながら移動しているため、居場所を特定するのはそれほど難しくはないはずです。まあ、声を聞いたら絶望するようですが……」
 機械を通した音であれば効果が薄いようだが、何度も聞いているとその影響を受ける可能性は否定できない。
「……多分こんな情報も意味ないですよね……どうせ私なんか通信しかできないし、誰かの役に立ったりもしてないんだ……」
 というか、明らかにオペレーターが落ち込んでるので影響があるのは間違いないようだ。

解説

 従魔もうだめぽ(仮称)はその声を聞いた存在を絶望させる能力を持っています。
 他の能力は不明です。もうダメだそれ以外わからねえ……。

リプレイ

●ネットとリアル
「どうも従魔にはふざけた者が多いが、連中がこの世界のライブズの有様に影響を受ける事を考えると……」
「……俺たちがふざけ切ってるって事になるな。それにゃあ、その通り、と答えるしかねえが」
 思案顔のマリオン(aa1168hero001)の思い付きを雁間 恭一(aa1168)ははっきりと肯定した。そもそも今回の従魔の発言をふざけていないと考えるのであれば元となったネット上の話もふざけていないと認めることになる。
「……もう、ダメぽ?」
「ネット界隈でよく使われるスラングね。発祥は違法アップロードしていた人が逮捕される寸前に掲示板に残した最期の言葉らしいけど」
 そのふざけた発言に佐藤 咲雪(aa0040)は小首を傾げ、アリス(aa0040hero001)は元ネタとされる話を説明する。
「『……もうだめぽ……』って単語を聞くと某電子掲示板のせいでどうしても『ジュース飲んでんじゃねぇよハゲ!』って返しを思い出して笑いそうになっちゃうのよね……」
「……お前さん……いつもあの四角い千両箱みたいなやつ眺めてゲラゲラ笑っておるもんな……」
 そう言いながら笑みをこらえる御門 鈴音(aa0175)に輝夜(aa0175hero001)は何が面白いのか全く分からないといった様子で溜息一つ。
「こ、今回の従魔……発言が俗過ぎるのでは?」
「……今気にするべきなのは、そこではない。急がないと被害がどんどん広がるぞ」
 頭を抱える月鏡 由利菜(aa0873)にリーヴスラシル(aa0873hero001)は事態の緊急性を語る。ふざけた相手でも従魔は従魔。一般人には対抗する手段はない。
「聞いただけで鬱になる声かよ」
「影響の仕方が半端ではありませんわね」
「とりあえず速攻黙らせないといけなさそうだな」
「音を聞いただけでダメというのが……通信用のヘッドフォンでなんとかなりますかね?」
「何もしないよりはましだろう」
 そう言いながら対策を急ぐ赤城 龍哉(aa0090)だが、ヴァルトラウテ(aa0090hero001)は不安そうな顔だ。
「音はプレイヤーで遮断すればいいけど……ん……めんどくさい……」
「……しかたないわね、私が選んであげるわ」
「……何これ? すごく……やかましい。でも悪くない……かも」
 咲雪にアリスがチョイスしたのは所謂燃える系アニソンだった。特にお勧めな楽曲を吟味し、フルメドレーに改良したものである。断じてFULIではない。
「とりあえず音の対策は耳栓で……連絡はスマホでいいかな?」
「うーむ。その『すまほ』というのはどうも慣れんのじゃ。触っただけでしゃべりだしたり光を発したりしおる」
「これを機にもっと文明機器に触れておいたほうがいいんじゃないの? ほらほら、ここをこーしてさぁ」
「えぇい!! めんどくさいわ!! 難しいことはおぬしに任せる!! その妙な板を近づけるでない!!」
「とにかく音さえ聞かなければなんとでもなるのよね。大きい音でかき消しちゃえば……」
 文明の利器を推奨する鈴音に対し、輝夜はあくまでも理解の及ばないものを拒絶する姿勢を見せていた。
「……そうか、音楽流しとけばいいんだな。まぁ目立つ格好してるんだ。見つけたら先手必勝だな」
「了解ですわ。しかし黒いコートとはあからさまな……」
 適当な曲を選んでヘッドフォンから流れることを確認する龍哉にヴァルトラウテも習い、標的の確認作業に移る。もうすぐ春も終わり夏が来るこの時期に黒いコートを着ている存在などそうそういない。標的を見つけ出し、始末することなど簡単に思えた。
「……恭也の事だから、般若心経を流すのかと思ってた」
「気分を高める為にワルキューレの騎行を流してるんだが……なぜ、敵の術中に陥ってなお俺に悪態を付くんだ?」
「悪態じゃないよ~。どんなに言ったって恭也の年寄り思考は治らないんだから、そんな無駄な事はしないよ~」
「絶望と言うより不貞腐れているだけの様な気がするな。連絡はメールで取り合うようにしてくれ。一般人の会話は俺の読唇術でだな……」
「え? そんなことできるの初耳なんだけど? なんかどんどん謎設定増えていってない?」
「気にするな。こういうこともあろうと学んでおいたのだ。役に立つときがきたと嬉しく思うぞ」
 そんな伊邪那美(aa0127hero001)と御神 恭也(aa0127)の夫婦漫才ができるのも作戦開始前の今だけである。状況が動き出せば音楽を流し外部の音を遮断する状況でまともに会話などできるはずはないのだから。
「デスマーチで悶死寸前のSEの様な従魔ですが……一体何が目的なのでしょうか?」
「我に分かるか? 早く消し炭に変えてしまえ! 胸糞悪い!」
「そうは言いますが。やはりこの従魔の目的は気になるところです。なんとか接触を試みましょう」
「こんな奴の気持ちなぞわかりたくもないぞ…… 相変わらず酔狂な主だ」
「集音マイクにスピーカー……おっと。ヘッドホンを忘れてはいけませんね。自分が術にはまっては元も子もない」
「ううむ……さすがにやられた時のことは想像したくもないのぅ……おっと、いかんいかん!! 敵より先に主の術にはまってしまう」
 平常運転の石井 菊次郎(aa0866)にテミス(aa0866hero001)もいつも通り振り回されつつ、準備は着々と進んでいた。
 最低限音を遮断するための道具は全員が所持し、標的の外見も確認済み。
「後は皆さんと連携できるように連絡を……あれ? 音が聞こえないのにどうやって……???」
「音を聞かないようにするために連絡はメールで、ですね。出発前に、皆さんのメールアドレスを確認させて下さい」
「ではテスト送信してみることにしようか……あ、音は聞こえないからマナーモードにしておくようにな」
「なるほど。メールで連絡をとりあえばよかったわけですね。これで安心です」
「でもめんどくさい……連絡は任せるね。さっさとやっつけて帰りたい……」
「あ、心配しないでくださいね。攻撃にやられたわけじゃなくて元からこういう子で……」
「こちらは被害にあった人たちを避難させることを優先しますね。従魔が人を狙う可能性は十分ありますからね……」
「……声の有効範囲が広いとは言え、被害に遭った者を放置するわけにはいかないだろう」
 アリスの疑問に由利菜はそう答え、全員とメルアドを交換し、リーヴスラシルがメールを送信するとあちこちで振動音が響く。感心する咲雪の隣で攻撃を受ける前からうつ状態のアリスを見て、二人は被害者の避難誘導を宣言した。
「酷く気分が悪いです。どうも皆さんの言っている事が癇に障って……私にそんな資格無いの分かって居るのに」
「エステル? 考え過ぎては駄目よ?」
「……やっぱり無意識の傲慢さが私には有るんだと思います。下らない選民意識……リンカーとして半分この世の存在で無くなったと絶望する振りをして置きながら、本当は超越者として一般の方を見下して居るんです……嫌らしい感情の動きが気持ち悪い……ディタ? 私機械に成りたいよ。……は、また馬鹿な事言いだしてる。私がこんななのはちゃんと弁えてますよアピールですね。また出ちゃった……ダメ、汚物のような自我が見苦しくて耐えられない! 最低だ……」
「あ、アンプルはどこかしら?」
「はぁ、はぁ……あ、ありがとうございます。少し落ち着きました。こんな調子でみんなの役に立てるでしょうか? あぁ……心配になってきた……」
「……今回の依頼、他の方に任せたほうがいいんじゃないかしら?」
 情緒不安定なエステル バルヴィノヴァ(aa1165)に泥眼(aa1165hero001)はアンプルを打ち込み、落ち着いたところで周囲を見回す。
「街の人間どもも一緒に撫で斬りにしても良いか? 道化狩りは故郷では人気の遊びであったぞ?」
「……駄目だな。大体何が面白いんだ?」
「覚悟の決まった道化は死に際も笑えるものだ……その覚悟を愛でるのが通の嗜みだな」
「……俺は何も聞かなかったことにするぞ。まずは奴のルートを探ることにするか」
「……アンプル足りるかしら……」
 その目に映ったマリオンと恭一の会話を聞いて、泥眼は手持ちの在庫を確認するのだった。

●遭遇と壊滅
「地下鉄、および交通機関の一時閉鎖は完了したみたいよ。さすがにこんな状況で平常運転はできないからね」
「社畜として働き続けていいのかですか? あの、そう言った反省はご自宅でお願いします。マイナスの観念を社会にまき散らすのはお控えください……よく言いますね、私」
「暴れる人がいた時のための準備はしてきましたけど、必要なさそうですね。肩を貸しますので避難してください」
 泥眼とエステルは従魔の被害にあってなお会社に向かおうとする社畜の鏡を避難誘導させつつ、状況を確認する。
 効果範囲は声の届く範囲全て。効果は鬱状態にさせるだけでその行動を阻害する類のものではない。どうすれば回復するかは不明だが、避難させるだけであればそれほど労力は必要なさそうだ。
「敵の能力は防げるかもしれんが、音量のせいでいまいち集中が出来んな」
「一応確認したいんだけど。ほんとに言ってる事わかってるの? ためしにあそこにいる人がなんて言ってるかわかる?」
「……『オぉマー……おツゥー……コーヒーに砂糖と間違って塩を入れちまったぁぁぁ……モウダメィポぉぉー!』……と言っているな」
「すごい……言葉はともかく何故か言い方までばっちり……あれ? それでよかったんだっけ? なんだか自身なくなってきた……」
 恭也の読唇術を確認するため、伊邪那美が術中に嵌っていた。
「……ん。ひょっとしてあいつじゃないかな? でも連絡するのめんどくさい……帰る……」
「そうね……なんだか面倒になってきた……はっ!! ダメよ!! せめて連絡だけでも……」
 咲雪のアリス化を見て、状況を理解し、我に返るとアリスはメールで連絡を取る。人の振り見て我が振り直せとはよく言ったものだ。
「これほどまでにわかりやすい従魔がかつていたでしょうかね」
「奴はただ周りの人間を鬱にして回っているだけだというのか? はた迷惑な奴だな……」
 連絡を受け、菊次郎とテミスは現場へ急行する。音の効果範囲は広く、指定座標周辺では鬱状態の人が下を向いて歩いていた。
「音は聞こえなくともそこらじゅう落ち込んでいる人だらけだな……早く何とかしないと……」
「あぁ……わんちゃんまで。そんなに落ち込まないで。ごはん、あげますよ」
 混沌とした状況下で早急な解決を心掛けるリーヴスラシルの隣では由利菜が犬に餌を与えている。食欲なさそうに見えるのに見る見る餌が消えていくのは身体の方は問題ない証明だ。
「とりあえず落ち込んでる人をたどっていけば簡単に会えそうな気はするんだが……」
「……えぇ、いましたね。あからさまに怪しい人物が」
 それを辿る龍哉とヴァルトラウテの目の前には黒いコート。探すこと自体はほとんど苦労する必要はない。
「念のためオペレーターに確認を……え? 私のことなんかほおっておいてくれ? いやいや、ターゲットの確認のだな!!」
 龍哉が確認のためにつないだ回線の向こうでは未だに無気力状態のオペレーターがいた。まだ立ち直っていないらしい。
「そんな大声出すと……こっちに気が付いたみたいですよ!!」
「くそっ!! こうなったら先手必勝だ!! 奴が音を出す前にでかい音でかき消してやる!! 俺は手前の勝手なノリを押し付けられるのが嫌いでな!」
「こんな大勢人がいるところでそんな……ああっ!! 他の方々にまで巻き添えが!!」
 ヴァルトラウテの警告も聞かずエクスプロージョンを放った龍哉の近くにいたリンカー達(鬱)が巻き込まれる。
「す、すまん!! 加減はしたんだが大丈夫か!? いやいや、かすり傷だろ!! どうしてそこで諦めるんだよ!!」
「さ、さすがにこの人たちのことはほおっておけません!! 奴の追跡はお任せします!!」
 平時であれば巻き込まれた内にも入らないであろう状況だが、龍哉も全く動こうとしなければ流石に放置もできなかった。ヴァルトラウテは爆発を目の当たりにして逃げ出した従魔の逃亡方向を連絡する。
「しかしあのオペレーターの死んだような目も笑えたな。引導を渡してやるべきだったろうか?」
「だからやめとけっつってんだろ。どっちが従魔かわかりゃしねぇよ。……この先にいるはずだ。耳栓、忘れんなよ」
「見つけたぞ!! くくく……ほら、踊るが良い……踊って余を楽しませるのだぞ?」
「他の人間巻き込むんじゃねぇよ!! 一般人は立ち入り禁止だ! それ以上近付くとケツに一発食らわせるぞ? トイレで本物の絶望を味わってみやがれ!」
「……ん? 今何か言ったか? この耳栓、音の遮断が良すぎてな……」
「ってバカ野郎!! 自分で耳栓はずしてんじゃねぇよ!! 従魔にやられちまうだろうが!!」
「……どうせ余なぞ、見目麗しく剣の腕も立ち、頭脳も切れるだけだ……何の価値もない……」
「……よく聞こえないが腹の立つことだけ言ってるのはだいたいわかるぞ。面倒だからそのままおとなしくしてろ」
 メールを受け、従魔を発見したマリオンが従魔の能力の前にあっさりと鬱に見えない鬱状態に陥ったのを恭一は冷たい目で睨み付けた。

●カオスな戦場
「なんだか様子がおかしいな……しまった。もしやすでに奴が近くに……」
「恭也がまたおじいちゃんみたいな柄のお洋服買ってる……うわぁぁ……ボクにもおばあちゃんみたいなお洋服勧めてこないでぇぇぇ……」
「何か失礼なことを言われている気もするが……これ以上音は出させんぞ!! 奴を追う!!」
 恭也が伊邪那美を置いて駆け出す。
「ど、どうしたのだ!? もう敵を見つけたというのか……って!? 何を急に泣き出している!?」
「え、ええっと!? どうしたんですか!? 声が聞こえないけどそんなに泣かれても……あ、でもなんとなく聞こえるかも……服……?」
「待って……おいてかないでぇ……ボクを一人にしないでぇぇぇ……」
 リーヴスラシルと由利菜が伊邪那美に捕まる。
「やっと追いついたぜ……言えよ。此処まで散々喚き散らして来たんだろ」
「いえいえ、この状況を見る限り言わずもがなですが……その負け犬根性を矯正してさしあげますわ!」
 それを華麗にスルーして、龍哉とヴァルトラウテは従魔に追いついた。
 身動き取れない由利菜は逃げられないようにこの場にいないリンカー達に連絡を取って包囲網を組み上げる。
「連絡? ……近場で交戦してるみたいです!! すぐに向かわないと……あぁ、でも役に立てるんだろうか? 不安になってきた……」
「まだ対峙すらしてないのにこの調子で大丈夫なのかしら……私まで不安になってきたわ……」
 離れた場所で従魔の能力とは無関係に落ち込むエステルに泥眼も不安の色を隠せない。
「む? 何やら板が光っておるぞ? 連絡ではないのか?」
「月鏡さんからだ。……え? もう敵と交戦中だって!! と、とにかく臨戦態勢……!!」
「きおったぞ!! すでに何人かとやりあっているようじゃが…… 今のうちに攻めるが好機か?」
「よし!! みんなで一気に攻め込んじゃえば……ぬわぁぁぁぁ!! ぐおぉぉぉぉ!! きえぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「こ、これ!! 闇雲に攻撃すると周りにまで被害が……あ、耳栓が取れた」
 合流した鈴音と輝夜の攻撃の余波が周囲に被害をまき散らす。
「ではこれより先は直接戦闘で確かめることにしましょう。まずは一般人を避難させ……どわぁぁぁぁぁぁ!!」
「な、なんじゃ今の爆発は!? ……はっ!! しまった!! ヘッドフォンが!?」
「……はああ、これだけ探し回っても彼女の仇が何処に居るのかも分からない……異界のスパイスを集めたからって何になるんだろう……空しい。そうだ……北の街で愚神でも狩りながら彼女の好きだった愚神ベーコンでも作って暮らそう……ん? くじらベーコンだったか? ……思い出すのも疲れる」
「……まったくこの様な出来の悪い主を持って我はどうすれば良いのだ? 東に飛び出しては暴走し、西に出掛けては妄想を撒き散らし……そろそろ潮時なのであろうか?」
 それに菊次郎とテミスが巻き込まれ、黄昏た。
「……うぅ……モウダメィポぉぉー!! ……私なんて根暗ネットゲーマーでどうせ一生モテなくて30後半になってやっと焦りだして気づいたら行き遅れBBAなんだわ~!!!」
 説明しようッ! 鈴音はメンタルが撃たれ弱い上に抱えてるぼっちの闇が深いのだッ!!
「お……落ち着け鈴音!! わらわなぞ最早これ以上成長のしようもない!! ぺったんこのままだぞ!! う……何やらわらわまで鬱に……」
 輝夜ももはや鬱状態から抜け出せそうにない。
「完全に音が遮断できていなかったようだな……しかし、あのふざけた声を聞いているとやる気が失せるな……」
「え、ええ……私も気が滅入りそうです……えっと、みなさんに連絡はしましたので、急いで退治を……はぁ……」
「そうしている間にまた一人被害者が出ているな……いかん。早くなんとかしないと鬱が加速する……」
 その影響は離れているリーヴスラシルや由利菜にも飛び火していた。或いは周辺の鬱状態の被害者のライヴスを吸収し成長しているのかもしれない。
「めんどくさい……帰るのもめんどくさくなってきた……もうあいつ倒してから帰る……」
「あ、結局やるのね? めんどくさいけど……やっちゃいましょうか?」
「……ネガティブなことしか言えないあなたが一番ダメダメです!! ……あれ? もしかして私のこと……あれ? えぇい!! とにかく退治します!!」
 咲雪はアリスとリンクし、由利菜も鬱状態のまま獲物を手にゆらりと従魔へと向かっていく。その姿はさながら幽鬼の如く。
『……モウダメィポぉぉー!』
 そして、従魔は最後までそれしか言わなかった。

●アフターケア
「……だめぽですって……? 笑わせないで……! 高校になるまで友達0。恋人いない歴=実年齢の私なんて青春オワタ\(^o^)/状態なんだから……!」
(……戦いに勝利したが……人として負けとる……)
 そんな悲しい勝利宣言をする鈴音の隣で輝夜は静かに涙を流していた。ちなみに現在進行形で\(^o^)/状態である。
「……これでみんなも元に戻るだろ。いやぁ。今回はさすがの俺もダメかと思っちまったぜ」
「何事も諦めないでがんばるというのは重要なことですね。改めて思いましたよ」
「そう!! 俺の言葉でみんなを元気づけることに成功したんだ!! 黙って俺についてこい!! ネバーギブアップ!!」
「……あの、何かキャラかわってませんか? えーと、どこに向かって走ってるんですか? おーい?」
 そう叫びながら駆け出す龍哉にヴァルトラウテは呼びかけるが見えざる夕日は決して彼の前から消えはしない。
「成る程、結婚して幸せなのに絶望したと……逆にこう考えてはどうですか? 結婚は人生の墓場と言いますし、不幸の始まりと思っては?」
「追い打ちをかけてどうするのだ? 不幸になるか幸福になるか、先のことなぞわからないのだぞ?」
「いえいえ。明るい未来には期待しておくべきではないのですよ。毎日不幸だと少しの幸福も何百倍にも感じられます。つまり普段はマイナス思考で。ビバマイナス」
「主よ。従魔にやられた後遺症が残っておるのかと思ったが、確かおぬしは普段からそんな感じだった気がするの」
「よーくわかっているじゃないですか。さすがテミスさんですね。付き合いが長いだけのことはあります」
「うむ。認めたくはないがそれでこそ我が主だ。腐っても主」
 平常運転で意味不明なカウンセリングをする菊次郎にテミスは腐っても主だと痛感していた。
「今回はどっと疲れちゃいましたね……でもこれでみんなも元通りですよね?」
「そうなのか? やたらネガティブ発言を繰り返しているものもいるようだが?」
 いつも通りと言い切る由利菜にリーヴスラシルは首を傾げながら周囲を見わたす。
「そうよ!! オタクだからって何にもできないわけじゃないわ!! 持ち前の自虐ネタがあればみんなを盛り上げることもできる!!」
「……それって自らを地獄のふちに追い込んでるだけの気がするんじゃが? 大丈夫なんじゃろか?」
「そう!!一日中引きこもってネトゲしてたおかげで最強のタイピング速度を身に着けたわ!! 一流企業が私のことをほおっておくはずがないわ!!」
「うむ。まずは外に出ることから始めるべきじゃの。日の光を浴びれば何かかわるであろう」
「うう……ずっと暗い気持にさせられてたせいか、終わっても気分が晴れないよ」
「そうだな、何時もより静かで少々気味が悪かった」
「ふ~んだ、恭也は何時もと変わり無かったみたいだけど?」
「そうでも無い。悲壮感があったせいか何時もより護りに重きを置いていて、攻め手が緩かったな……少しは気が晴れた様だな。今日の夕食は伊邪那美が好きな物にするか」
「もしかして、気を使ってくれたのかな?」
御神 恭也「さて、どうだろうな。ついでに今度服でも買いにいくか。……何故また暗い顔をする?」
 熱弁を奮う鈴音に輝夜が冷静な突っ込みを入れ、伊邪那美が暗い顔のままで恭也をじと目で睨み付ける。
「あ、御門ちゃんは元々あんな感じの子だから気にしなくていいと思うよ。伊邪ちゃんも元気になったみたいでよかったね」
 由利菜の目にはそれでも先ほどまでと比べて元気に見えているらしい。それは内面的な心の動きを見てのことなのだろう。
「後夕日をバックに走り出しているものもいるが。もしかしてあれも従魔の影響だったりするのだろうか?」
「赤城さんは時々妙に暑くなるからあれが普段通りだと思うよ。よかったら一緒に走ろっか?元気でるかもだよ?」
「元気がありすぎるのも問題かもしれない、というのがわかっただけよしとしよう」
 リーヴスラシルはそう言って由利菜の申し出を丁重に断った。
「めんどくさいも一周するとやる気になるのですね……新しい発見です」
「……ん。でももう歩くのもめんどくさい。連れて帰ってくれないかな?」
「さすがにそういうわけにもいかないわよ。ほらたって、自分でちゃんと歩くのよ」
「めんどくさい……でもやる気ださないと……はぁ」
「……もしかして。この子にだけはあの従魔がいてくれたほうがよかったのかしら?」
「……ん。わかんないけど、悪口言われた気がした」
 そんなアリスのほっぺたを咲雪はみょ~んと伸ばした。
「今日は大変だったわね」
「……どうして私ってこんなに皆さんにご迷惑を掛けて平然としていられるのかな? やっぱり生れ付き感性が歪んで……」
「あぁもう!! いつまでもそううじうじしてないの!!」
「そうですね。ディタがいなければ今頃どうなってたか……ひぃぃ……」
「どうしてそこまで自分を悲観できますかね…… とにかく。私は急にいなくなったりしないわ。安心して」
「あ、ありがとうございます。あ、後、もう少し薬を……」
『……モウダメィポぉぉー!』
 泥眼はそんなエステルにアンプルを提供しようとして、エステルの後ろにずっと見えていた影に気付いた。どうも範囲が広すぎると思ったら一匹だけではなかったらしい。
「片付いたみたいだな。他の連中も活気を取り戻してやがる」
「……はっ!? もしや余はとんでもないことを口走っていたのでは!? 忘れろ!! さっきまでのことは忘れろ!!」
「いてぇ!! いやいや、全く聞こえてなかったっての!! マジで記憶飛ぶからやめろ!!」
「お前の記憶なぞ飛んでしまったも差支えないから問題ないわ!! ジャングルでも生活できるだろうが、お前は!!」
「てめぇマジでけんか売ってんのか、こら!! おとなしくしてりゃあ少しはかわいげあると思ったんだけどよ!!」
「……な、なんだそれは? 余に対する告白か? ……おい、どこに行く? 余をおいていくでない!! まてこら!!」
 全てが終わって恭一とマリオンの元気すぎる声が街中に響き渡った。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
  • 悠久を探究する会相談役
    エステル バルヴィノヴァaa1165

重体一覧

参加者

  • 魅惑のパイスラ
    佐藤 咲雪aa0040
    機械|15才|女性|回避
  • 貴腐人
    アリスaa0040hero001
    英雄|18才|女性|シャド
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 遊興の一時
    御門 鈴音aa0175
    人間|15才|女性|生命
  • 守護の決意
    輝夜aa0175hero001
    英雄|9才|女性|ドレ
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
    人間|25才|男性|命中
  • パスファインダー
    テミスaa0866hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • 悠久を探究する会相談役
    エステル バルヴィノヴァaa1165
    機械|17才|女性|防御
  • 鉄壁のブロッカー
    泥眼aa1165hero001
    英雄|20才|女性|バト
  • ヴィランズ・チェイサー
    雁間 恭一aa1168
    機械|32才|男性|生命
  • 桜の花弁に触れし者
    マリオンaa1168hero001
    英雄|12才|男性|ブレ
前に戻る
ページトップへ戻る