本部

桜華

紅玉

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/06/13 20:17

掲示板

オープニング

●片割れ
 遅咲き桜の枝から新芽が出てくる時期。
「うーちゃん……どこ?」
 桃色の着物を着た少女は、白い忍び装束に身を纏った男の肩に乗っていた。
「うーちゃん……あの時から、様子が変……」
 少女は桃色の瞳を青空に向けた。
「桜華様、梅姫様はエージェントに……」
「それは無いです」
 白忍の言葉に桜華は直ぐに否定した。
「感じるの……うーちゃんの気配が」
 桜華は小さな手でぎゅっと胸元を握り締めた。
「女王様が動けない今、うーちゃんを私が止めるしかないのです……『Clematis』に奪われる前にっ!」
 新緑の葉が風に揺れたその時、紅梅色の花弁が桜華の頬を掠めた。
「桜華様、囲まれました」
 白忍は桜華の元へ素早く駆け寄る。
「向こうから手を出さない限り……今はうーちゃんを探しましょう」
 桜華の桜色の瞳から光が消える。
「し、しかし」
「もちろん、向こうは私かうーちゃん目的でしょう。女王様は月下美人姉様が話していた事が本当であれば、この場から逃げる方法は1つです」
 桜華は掌から桜の花弁を出し、甘い匂いを風に乗せる。
「エージェント達を誘きだし逃げる。安全な方法です」
 桜華が口元を吊り上げて微笑む。
 その表情は屈託のない少女の愛らしい笑みだ。

「桜のはなびら……? あ、れ……瞼が……おも……」
 公園の近くを通った人々は桜の花弁に驚き、そして膝を折り地面に倒れた。
「公園から離れて潜め、桜華が罠を張った」
 『Clematis』のリーダーである雪は小さく舌を打ちし、部下たちに指示を出す。
『いざとなったら、逃げてください』
「そのつもりだ」
 通信機から聞こえる部下の言葉に、雪は少々苛立った様子で返答した。

●1つの決断
 香港の大きな戦いも終わり、落ち着く暇もなく依頼は入ってくる。
 その中に『緊急、ヴィランと愚神の抗争を止めよ!』の文字が視界に入る。

「皆さん、集まってくださりありがとうございます」
 会議室に集まったアナタ達にティリア・マーティス(az0053)は会釈した。
「イギリスのとある公園にて、ヴィラン組織『Clematis』が愚神と睨み合っている状態です。しかも、公園の周辺には桜の花弁が舞っており、その場に居た一般人は倒れているようです」
 ティリアはアナタ達の端末に情報を送る。
「公園に居る愚神は以前戦った『梅姫』に似ています。……ヴィランと『梅姫』に似た愚神に関しては、私よりも冥人様が一番詳しいかと思いますが、話してくれるかは皆さん次第です」
 と、話すティリアは表情を曇らせた。

解説

●人物
ティリア・マーティス(30)
今回は普通にオペレーターしています。

圓 冥人
何かを知っているが、簡単には話しません。

●目標
・抗争の阻止、一般人の救出

●敵
・愚神
『梅姫』に似た少女と、白い忍び装束を着た従魔が複数

・ヴィラン
『Clematis』のリーダー『真田 雪』と部下が複数

●場所
昼間の広い公園(人は居ません)


●PL情報(PCは知らない情報です)
・敵
愚神 桜華(おうか)
ケントゥリオ級。
黒髪、桜色の目の桜色の着物を着た少女。
優しい感じの少女、頭脳派。
命中、回避が高い、大太刀を持っている。
『梅姫』の情報さえ与えれば逃走します。
姉妹の中では弱いので、倒すことは可能です。

従魔 白忍(はくにん) 10体
ミーレス級、知性は獣並。
白い忍び装束を着ている。


愚神 梅姫(うめひめ)
ケントゥリオ級。
黒髪、紅い目の紅色の着物を着た少女。
高圧的な子なので話は一切聞かない。
魔法、物理の攻撃力が高い、薙刀を持っている。
『桜華』を瀕死に追い込んだら、現れて『桜華』を抱えて逃げます。

従魔 黒忍(くろにん)
ミーレス級、知性は獣並。
黒い忍び装束を着ている。
数は不明。梅姫を攻撃しなければ来ない。

・『Clematis』
リーダー 真田 雪
部下 6人(攻撃2、命中1、回避1、回復2)
手を出さなければ何もしないが、戦力を消耗させないと『桜華』は捕獲されてしまいます。

リプレイ

●問い
 エージェント達から離れた位置に居る圓 冥人(az0039)の隣にシウ ベルアート(aa0722hero001)は移動した。
「僕は個人的にヴィランと愚神はH.O.P.Eにとっても敵であり、互い潰し合って貰った方がH.O.P.Eにとってメリットが大きいと考えているよ。……これは選ぶことが出来ない選択肢だけどね。そして、今回黒絵は沙耶ちゃんの案に乗り、一般人救出後はヴィランを相手にするそうだ。僕も黒絵に従おうと思う。君の考えと同じなら僕に情報を与えてくれないかな? ……まぁ何も語りたくないならそれでもいいさ。でも情報不足が故に前回みたいに敵に不意を突かれて全滅の危機に陥るのはこちらもごめんだよ」
 と、シウは疑問を冥人に投げる。
「はー……あのねぇ。必ずしも潰しあったらメリットが発生するワケじゃないんだよ?」
 冥人は大きく息を吐き、シウに視線を向けた。
「それを話さないから……皆、君を疑っているんだよ」
 シウは仲間を見据える。
「そんなの、皆の顔を見れば分かるよ。俺は、花の名を冠する愚神を全て倒したいだけだね。ヴィランに関しては興味ない」
 と、冥人は静かに言う。
「分かったよ……」
「で? また無駄な干渉で被害を増やしにかかるつもりか? 先の東海林君が大怪我した一件のように」
 冥人とシウは声がした方向に視線を向けるとArcard Flawless(aa1024)とIria Hunter(aa1024hero001)の2人が居た。
「静華は警告はしたよ。それでも、彼は己の心が動かされるがままに戦った。」
「ただ行動を口先で抑圧したぐらいで、愚神の存在を看過できる『阿呆』はいまい」
「トドメを刺される前には助けたよ」
「君の言い分など聞いていない。重要なのはこの状況で、更に君の裏切りのリスクに付き合わなければならないという事実だ」
 Arcardの言葉に冥人は眉をひそめる。
「二択だ。この場で必要な全てを差し出すか、我々(HOPE)の存在意義を破壊するか」
 冥人は、Arcardの緋色の瞳の奥から出てくる殺気を感じ取る。
「その言葉で、普通は「はい、情報出します」て言うヤツはいないよ。それに……いや、これは今日の仕事が終わったら言うよ」
 と、冥人はそのばから離れようとするが、Arcardは肩を掴み静止させようとするが。
「それまでよ」
 榊原・沙耶(aa1188)はライヴスで形成したメスをArcardの首に当てる。
 その隣で小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)は顔をしかめながら2人を見つめる。
「あと、これだけは言っておくよ。最悪、俺が死ぬかもしれない」
 冥人はその場に居る3人を見た。
(死ぬ……? どちらかを庇って? 分からない……)
 シウはその場を去る冥人の背中を見つめた。

「……梅姫と、この愚神、それと圓はんの関係が気になりますな……」
 会話をしている様子を見ながら弥刀 一二三(aa1048)は呟く。
「言っても仕方ない、他の者に任せよう」
 キリル ブラックモア(aa1048hero001)は銀の髪を靡かせながら踵を返す。

「まったく、嫌な予感しかしねえ……何だって愚神とヴィランどもの抗争にHOPEが口を突っ込むんだ?」
 と、雁間 恭一(aa1168)吐き捨てる様に言う。
「余の知った事か? 下らぬ」
 マリオン(aa1168hero001)は櫨色の髪を揺らす。

●救出
「季節はずれの梅の次は桜ねぇ……、願いを叶えてくれる枯れない桜なら騒ぎを起こさないで、安眠の邪魔をしないでくれないものかな」
 と、大きな欠伸をしながら來燈澄 真赭(aa0646)は桜吹雪の壁を見上げた。
「終わった後なら好きなだけ寝ても構わんから、仕事中は我慢しろ」
 緋褪(aa0646hero001)は真赭の首根っこを掴んでだ。
「わぁ、凄い……こういうのを本当の花吹雪って言うのね」
 桜木 黒絵(aa0722)が黒耀の様な瞳を見開き、桜の花びらが舞う道を見上げる。
「黒絵ちゃん、まずは一般人の救助や」
「あ、はい!」
 一二三を先頭にし黒絵、沙耶の3人は桜が比較的に少ない場所へと向かった。

(話が続かない……)
 恭一は梅姫について話を冥人に振るが、その時の苦労話などで詳しい情報を聞き出せないでいた。
「お前に妹か姉は居るのか?」
「ティリア姐は姉みたいな感じ、妹は愚神に殺されたよ」
 恭一の問いに冥人は答えた。
 しかし、帰ってきた答えと反応は普通だった。
 彼の口から情報は聞き出せないと感じた恭一は、愚神がいるであろう公園に視線を向けた。

「俺は自身の欲望に忠実でな、獲物を眼前に置いて指を咥えて傍観など無理な話だ」
 ダグラス=R=ハワード(aa0757)は獲物を見つけた黒豹の様な瞳で、英雄の紅焔寺 静希(aa0757hero001)と周囲を見回す。
「邪魔」
 抑揚のない声色がダグラスの背後から響いた。
「誰だ」
 予期してたかの様にダグラスの手には大鎌が握られていた。
「ただ、女王を守り敵を殺るだけの無名」
「場所を、吐いてもらおうか」
 刃と刃が交じり、金属の擦る音と火花が散った。

 救急車の到着、周辺地域の封鎖が着々と進んでいる中。
(やっと来てくれましたか)
 白い忍の肩に乗った少女はため息を吐いた。
「一般人の周りだけ桜が少ないおすね」
 一二三は周囲を警戒しながら一般人を肩に乗せる。
「愚神がこっちを見ていたぞ」
 キリルは愚神に視線を向けた。
「罠、の可能性を考慮して立ち回ろうね」
「そうね」
 黒絵の言葉に沙耶は頷いた。
(罠なんて、もし張っているならもっと効率の良いのをしています)
 桜華は横目でヴィラン組織『Clematis』の動きを見る。
(どうしますか? 桜華様)
(公園内に罠を、殺気がここまで込んでくる程の人物用に……ね)
 と、言って桜華は無邪気な笑みを白忍に向けた。
「何か、こう、救出がうまくいっているのが腑に落ちんね」
 一二三達が通る場所だけ、モーセが海を割ったかの様に道が出来たからだ。
「それに関しては圓ちゃんに聞くしかないわ。話してくれるかは分からないけどぉ」
 沙耶は倒れている一般人の様子をシウと見ながら運ぶ。
 外傷は無い、呼吸と心音の乱れもなく本当に寝ている様子で胸を撫で下ろす。
「でも、一般人を全員助けれた事に関しては嬉しいよ」
 最後の一人が担架で救急車に乗せられるのを見て、黒絵は微笑んだ。
「問題は、これからだね」
 シウは公園を緋色の瞳で見つめた。

●因果
「あぁ、会いに来てくれたのか?」
 冥人の前に真田 雪が建物の蔭から出てきた。
「いや……」
「お久しぶりですね。従魔の購入元を教えてくれる気になっていただけましたか?」
 冥人が返答しようとした瞬間、真赭が2人の間に入る。
「あら、既にルートが判明していると思っていたのだが?」
 白衣を翻し雪は真赭に言った。
「……捕縛」
「大当たり、だ」
 真赭が呟いた言葉に雪は微笑む。
「では、従魔の狼が指示を聞くと断言したあなたは何者なのかな?」
「ふふふ、っはははははは! もちろん、英雄と契約したただの能力者だ」
 鴉の様な黒い髪を風に靡かせ、真赭の方へ振り向いた雪の瞳は獰猛な獣の様な光を宿していた。
「梅……程じゃないにしてもある程度の力を持つ愚神にちょっかい出すくらいの組織力はあるわけか」
「悪いけど、静かにしてくれないか?」
 雪は真赭を睨む。
「イヤ、よ。今度は答えられないからと急に体調崩して逃げ帰ることの無い様にお願いしますね」
 真赭は共鳴すると双剣を手にし睨みかえす。
「なら、実力執行だな」
 雪は共鳴をした。その姿は髪は上から黒から赤へと変わるグラデーションで、肌は浅黒く幼い少女の顔立ちは弩 静華(az0039hero001)に似ていた。
「もちろん、情報を全て吐いてもらってからね!」
 真赭は雪にライヴスの針を放つ。
「動きが丸見えだな」
 と、呟くと雪は槍を出しくるっとバトンの様に回す。
 キンッと軽い音と共に針は槍で弾かれた。
「うぐっ!?」
 背中に何か重量感を感じ真赭が気付いた時には、鼻先が地面にぶつかる寸前だった。
「緊張感ない」
「そんな、ことは……ないよっ!」
 振りおろそうとじたばたする真赭。
 そのやりとりを尻目に雪は冥人の太ももを槍で貫くと、力も無く地面に膝を折り地面に尻をついた。
「!?」
 その光景を見た真赭は目を見開く。
 親しそうに雪が話していたので、冥人は『Clematis』側だと疑った。いや、もしかすると”そう思われない”様にしたのかもしれない。
 様々な考えが頭の中をぐるぐると回る。
「葬式、いらいだったな。あぁ、冥人の為にこうやって研究して共鳴姿を好みにあわせた」
 ずっ、と槍を腕から引き抜き雪は恍惚の瞳で冥人を見つめる。
「……私達を……裏切ってたのですね!?」
 真赭が声を上げる。
「違う……ごめん……動けな、い」
「え?」
 冥人の言葉に真赭は紅玉の様な瞳を丸くする。

「あの、愚神……! いや、今はヴィランだ! 気持ちは逸るが成すべき事は成し遂げる! それが「あの頃の自分」への決別とケジメだ!」
 東海林聖(aa0203)は一瞬、公園に視線を向け叫びながら雪と冥人の間に入る。
「……行くぜ、ルゥ! 力、借りるぜ!!」
「……うん……最初から飛ばして後からバテないでね、ヒジリー……」
 と、Le..(aa0203hero001)が呟くと共鳴し、聖はデュランダルを軽々と振るう。
「荒々しいのは嫌いじゃないが……武器が可哀相だ」
 聖の攻撃をすべて槍で受け流す雪はため息を吐いた。
「テメェ等の目的が何かは捕まえた後に聞く……!」
「捕まえれたらな」
 雪は聖の重たい一撃を槍で受け止め、その衝撃をうまく逃がしている。
 普通ならば、衝撃で武器を落としたり手首を痛めたりするものだがそんな様子は見られない。
「大丈夫ですか? 圓はん」
 腕から血を流している冥人の傍に一二三は駆け寄った。
「大丈夫……仕方がない。一二三、雪を撃て」
「今、そんな事したら聖んに当たんます」
 冥人の言葉に一二三は首を横に振る。
「大丈夫、君なら出来るよ。静華は怯えて出れない状態なんだよ」
 どこか悲しげな表情で冥人は一二三を見上げた。
「分かりました」
 一二三はスナイパーライフルを構えた。

 キンッと音を立て槍は地面に落ちる。
「……っ!」
「はっ!」
 槍を落として怯んだ雪に向かって聖はデュランダルを振り下ろした。
 が、大剣の刀身に蹴りが入る。
「なっ!?」
 聖の衝撃が手に走り、力が抜けデュランダルはガコンと鈍い音を立てながら地面に落ちた。
「荒削りの技だからこちらも無事、ではないな……」
 と、苦虫を噛んだような表情を浮かべながら雪は呟いた。
「雪、手負い仲間が出た。鍵は諦めて撤退を」
 真赭を抑えつけていた部下が雪に駆け寄る。
「良い、愛しい人に会えただけでも収穫だ。殺せなかったのが心残りだが……」
「逃がさないわよぉ?」
 グリムリーパーを握り沙耶は雪へ向かって駆ける。
「さようなら」
 部下は掌から閃光を放つ。
「……っ!」
 咄嗟に目を閉じるも間に合わず、エージェント達の視界は白一色に染まった。

●桜華
「あれが愚神の方の女か……」
 恭一は、幼さが残る顔立ちの愚神を見据えた。
「! ……何と美しい……雁間! 余に策が有る。変われ!」
 突如、マリオンが声を上げた。
「おい! 今何つった? 策?」
 英雄の言葉に疑問を投げつつも恭一は交代する。

「おお、なんと美しい髪なのだ……余の名はマリオン、流謫の戦士だ。乙女よ、そなたの名を聞かせてはもらえぬか?」
 と、西洋の騎士を思わせる姿のマリオンと名乗った青年が桜華の前に現れ片ひざを地面に着く。
 陽光に当たれば鴉羽色、風に靡かせれば空へ飛んで行きそうな程の黒髪。白い肌には桜色の着物で覆っているその姿は、マリオンが甘い言葉を口にするのも頷ける。
「”桜”に”華”と書いて桜華です。珍しい能力者もいらっしゃるのですね」
 桜華は小さく首を傾げ微笑む。
「その髪も淡き花の色の瞳も何もかも好ましい……異界の姫よ、余を此処での仮の剣とせぬか?」
「ふふ、変な殿方。私は既に主がいますゆえ、自由の身で英雄とやらであれば……」
 マリオンの言葉に桜華は今にも泣きそうな表情で言う。
「……ば、馬鹿! 何が策だ、マリオン!」
 恭一は怒鳴り声を上げる。
「人間の最大の敵は何時でも同じ世界の住人、人間だ! 愚神を取り込んだマガツヒがどれ程の被害を我々に与えた? そ奴らは愚神、従魔を拐かして何を企んで居るのか? この場ではこの剣先の向きが正しいのだ、下郎ども」
 と、マリオンは両刃の剣を掲げ熱弁する。
「その様な方々も以前、女王を狙っていた事もありましたが……今は、うーちゃんを壊した組織が憎いです」
 桜華の一粒の涙が頬を伝い地面へ落ちる。
「それは、誰か?」
「私の大切な双子の姉です」
 マリオンの問いに桜華は答える。
「きっと、他の方は私を殺しに来るでしょう」
「そうは余がさせぬよ」
 と、言ってマリオンは真っ直ぐな瞳で桜華を見つめる。
「さぁ、はないちもんめをしましょう」
 桜華が視線を向けた先には、黒いスーツを着た人物が2人立っていた。
 しかし、マリオンは桜華が歩もうとするよりも先に駈け出していた。
 守るように前に出て、手にしているのは「愚か者」の名を冠した二丁拳銃。
「こっちは、二人だ。いける!」
「女王様の為に!」
 声からして2人は男、マリオンは銃のトリガーに指を掛け銃口を向けた。
「近付けさせない!」
 銃口から弾が回転しながら放たれると、反動で銃は少し上に移動するがマリオンは直ぐに向け直す。
「鍵を……渡してもらう!」
 ヴィランは回し蹴りを繰り出すが、マリオンはゴールドシールドで受け押し返す。
「今のうちに!」
 と、もう一人がマリオンの横をすり抜けようとするが、「狂気」の名を冠した大剣の横一閃で阻止する。
「貴様はヴィランを始末した後だ」
 マリオンの横に現るは、白いスーツを身に纏っているダグラス。手には大鎌、殺気を帯びたその姿はヴィランの2人にとっては”白い死神”にしか見えない。
「先ほどのヴィランよりは手応えが無さそうだが、まぁ平らげるとするか」
「その姿、この場では目立つぜ」
「どうだろうな」
 ヴィランの言葉にダグラスは抑揚のない声色で答える。
「何!?」
 ヴィランは少し後退し、ダグラスの懐目掛けて跳躍する。
「己が何処にいるか忘れたクズが」
 ダグラスは腕から刃を出し、ヴィランの背中に刃を滑らせる。
「ぐっ!」
 地面に倒れるヴィラン、白い死神は朱に染まり赤い死神となる。
「っち! 撤退命令だ」
 倒れた仲間を抱えヴィランは素早く公園から出て行った。

 オモチャに興味を無くした子供の様なダグラスは、逃げるヴィランから視線を反らし桜華へと向ける。
「愉しい宴の始まりだ、貴様はどんな歌(苦痛や悲鳴)を奏でるか、聴かせてくれ」
 口元を吊り上げ、両手を広げ、狂った紳士ダグラスは言う。
「さて姫よ、余の剣の価値は分かりましたか?」
 だが、ダグラスと桜華の間にマリオンが入り微笑む。
「大丈夫です。私には、そこの男は人の皮を被った飢えた猛獣にしか見えないですから」
「……このカンジ……似てるだけで別人……か……」
 と、聖は肩を落とす。
 梅姫には似ているが、以前剣を交えた時に感じたモノは少女から感じなかった。
「梅姫は3月に出会った時は健在だったわ」
 沙耶は桜華にそう言う。
「ええ、それは感じます。ただ、気配は感じても現れないのが気になるのです」
 情報は与えたが、桜華は眉をひそめるだけだった。
「丁度いいわ、聞きたい事があるのよ。梅姫が激昂する何かがあった事。Clematisの、つるの女王の事」
「うーちゃんは壊れています。原因は真田 雪が行おうとしている愚行に……そして、女王になろうとしている事です」
 桜華は沙耶の問いに答えるが、少し歯切れの悪い様子で言う。
「理由は知っているの?」
「知らないです。もし、知っているとしたら一番新しい姉妹としか……」
 小さく首を振り桜華は唇を閉ざす。
「その、一番新しい姉妹は誰か分かるの?」
「女王と守護者しか知り得ません」
 と、桜華が答えた瞬間、彼女の胸から刀の刃が生える。
「ごめん。でも、これが俺のなす事だから、ね」
「いいえ、貴方は人として正しい……のです」
 冥人の言葉に桜華はマリオンの頬に手を添える。
「ありがとう……でも、彼を恨まないで私が……だ事、……に会ったら……してあげて……マリオン」
 愚神とは思えない優しい笑みを浮かべするり、と桜華の手は力無くマリオンの頬から離れた。
 その瞬間を見計らってたのか、紅梅色の花弁が舞い梅姫が現れた。
 エージェント達は各々の武器に手を掛けるが、聖が一歩前に出た。
「……梅姫! ……一つ頼みがある」
 名を呼ばれた梅姫は聖を見上げた。
「オレの一撃を、受けて見てくんねェか……」
 と、言うと聖はデュランダルの剣先を梅姫に向けた。
 だが、彼女の瞳は桜華の死体しか映して無かった。
「妾は……女王になるのじゃ」
 と、小さく呟き桜華の死体を抱える。
「待て!」
 聖が声を上げる。
「逃がさないよ」
 ArcardがLpC PSRM-01を構えトリガーに指を掛けるが、指が動かない。
「忘れてたっ!」
 真赭は桜に気を取られて忘れていた事。それは、梅の甘い香りは危険だという事を……。
「梅姫……テメーは何時かオレが倒してやる……!」
 桜と梅の花弁が色鮮やかに渦を作り、新芽で青くなりつつある公園は二色の花弁で鮮やかに染まる中で聖は力強く叫んだ。

●青葉
 梅の香りから解放されたエージェント達。
「予想外だったわ」
 沙耶は低く唸る。
 当初、桜華の死体はヴィラン組織『Clematis』が回収すると予想していたからだ。
 しかし、実際は違った。双子の梅姫が桜華の死と同時に現れ死体を奪って行った。
「あと、ヴィランの戦力も予想外でしたね。うちは地面に叩きつけられて、そのまま地面に縛られたよ……」
「何も出来なくてごめん」
 真赭の言葉を聞いて緋褪は狐耳をへにゃと力無く垂れる。

 ロンドン支部へ報告に向かうエージェント達。
「……で、聖ん、何か分かったんか?」
 一二三は隣に居る聖に耳打ちをした。
「真田 雪が槍の達人位だぜ。ただ、真赭の方が詳しいと思うぜ」
「そうか、後で話を聞いてみるしかあらへんね」
 と、話している間に支部へ到着した。

 他のエージェント達がティリアに報告しに向かう中、一二三は冥人の肩に手を置き静止させる。
「守秘義務は仕事柄了解しとりますけど……うちら、同僚ちゃいますのん? それともうちらは只の駒どすやろか?」
「……そんな事は思ってないよ」
 と、冥人は首を振る。
「一人でどうにか出来る事ではなさそうに思われるが……我々だけにでも言ってもらえれば協力したのだがな……」
 と、キリルはため息を吐く。
「何か力になれる事があるやもしれん……出来れば話してもらえんか? 他言無用であれば、上司にも話さずにおこう」
 と、黙りこむ冥人にリキルは真剣な眼差しで見つめる。
「分かったよ。少し話は長くなるけど良いかな?」
「そんなん承知の上や」
 冥人の問いに一二三は笑顔で答えた。

 報告しに帰ってきたエージェント達をティリアは優しい笑みを浮かべ迎えた。
「……惜しい乙女を無くしたな……」
 マリオンの脳裏に桜華の優しい笑みが浮かぶ。
「はー、マリオンの策のお陰だな」
 恭一は椅子に座りため息を吐く。
「あら? 3人ほど足りませんわね」
 エージェント達を見回しながらティリアは首を傾げた。
「興味無いんじゃないかしらね。でも、あの真田 雪というヴィラン……聖の攻撃を全て受け流していたね」
「私が知っている範囲をお話しますわ。真田 雪様に関してですが、彼女は槍を扱う流派ではかなり高名な家で、秘伝まで継承したと程の実力者位の情報は調査で分かりましたわ」
 真赭の疑問にティリアは今まで集めた情報を話す。
「そんなに高名な家なら居場所は特定しやすそうね」
「それが……過去のデータであり、最近の情報に関してはH.O.P,Eの情報網でさえ得る事が難しいですわ」
 ティリアの話を聞いてエージェント達はただ、苦虫を噛んだような表情でティリアを見つめた。

「よし、此処なら誰も来ないと思うけど……静華、見張りをしててね」
「うん」
 一二三はあまり使われてない部屋に案内された。
「はー……さて、何処から話そうか?」
「時系列で、話難い部分は省いても大丈夫や」
 日が西に傾き、地平線へと沈もうとしているのを眺めながら冥人は語りだす。
「最初の犠牲者は、俺の妹『静音』だった。アルビノの少女で周囲の人々は気味悪がって迫害を受けていたよ……ある日、庭で妹は遊んでいた。1人にした俺が悪かった、敷地内に近所の男集が侵入し……静音を殺した」
「なんや、その……何も言えへんわ……」
 冥人の話を聞いて一二三は唇を噛む。
「その場には、無残な静音の死体と……誕生日に俺がプレゼントしたこの鈴が遺品となったよ」
 手首に着用しているブレスレットは、冥人が軽く手を振っても音は鳴らない。
「花の名を冠した愚神が一般人を操って殺したそうだよ。雪がH.O.P.Eに所属していた時に調べてくれた」
「あのー、その真田 雪とはどういう関係なんや?」
 真赭が見た話を聞いた一二三は問う。
「元婚約者だよ。静音が死んでから、彼女は行方不明になり人が分かってしまった。執着に俺を追いかけ、狂ったように愛を囁き殺そうとする」
「愛しているのに、殺すのか?」
 と、言ってキリルは首を傾げた。
「そして、俺は記憶に薄っすらと覚えている『花の名を冠した愚神』を追いかけているんだよ」
「その愚神の見た目とか、名前やら覚えておらへんですの?」
 一二三の問いに冥人は首を振った。
「他に情報はないのか?」
「そうだね、雪と花達の弱点は知っているよ。……もしかすると雪が花の名を冠する愚神を狙っている理由の推測程度なら分かるよ――……」
 と、冥人は途中で言葉を切った。
「それは……」
「確証が得られるまでは……話せないよ。それに、そろそろ報告が終わっている頃だから俺らも行こうか」
 冥人は一二三に手を差し出す。
 取っても良いのか? と彼は一瞬躊躇ったが、キリルが『信頼を築いておいても損はしないぞ』と言うと躊躇いは消え、一二三はガシッと冥人の手を握った。
 1つ、心の壁が崩れた。
 疑うのも必要、信じる者必要。
 だが、力にモノを言わせて吐かせるのは逆に心の扉が頑丈になるだけだ。
 そろそろ梅雨に入りそうだ、と思いながらキリルは水気を含んだ風に髪を靡かせた。

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

  • 病院送りにしてやるぜ
    桜木 黒絵aa0722
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188

重体一覧

参加者

  • Run&斬
    東海林聖aa0203
    人間|19才|男性|攻撃
  • The Hunger
    Le..aa0203hero001
    英雄|23才|女性|ドレ
  • もふもふの求道者
    來燈澄 真赭aa0646
    人間|16才|女性|攻撃
  • 罪深きモフモフ
    緋褪aa0646hero001
    英雄|24才|男性|シャド
  • 病院送りにしてやるぜ
    桜木 黒絵aa0722
    人間|18才|女性|攻撃
  • 魂のボケ
    シウ ベルアートaa0722hero001
    英雄|28才|男性|ソフィ
  • 我王
    ダグラス=R=ハワードaa0757
    人間|28才|男性|攻撃
  • 雪の闇と戦った者
    紅焔寺 静希aa0757hero001
    英雄|19才|女性|バト
  • 神鳥射落す《狂気》
    Arcard Flawlessaa1024
    機械|22才|女性|防御
  • 赤い瞳のハンター
    Iria Hunteraa1024hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃
  • この称号は旅に出ました
    キリル ブラックモアaa1048hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • ヴィランズ・チェイサー
    雁間 恭一aa1168
    機械|32才|男性|生命
  • 桜の花弁に触れし者
    マリオンaa1168hero001
    英雄|12才|男性|ブレ
  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188
    機械|27才|?|生命
  • 今、流行のアイドル
    小鳥遊・沙羅aa1188hero001
    英雄|15才|女性|バト
前に戻る
ページトップへ戻る