本部

HOPEのさくらんぼ狩り

霜村 雪菜

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/06/02 21:25

掲示板

オープニング

●行楽シーズン到来
 五月の連休だけが休みではない。初夏から秋にかけては、たいていの場所が行楽と観光に力を入れる時期である。学校や企業などで行う、団体規模のイベントや旅行も多い。それは、HOPE支部とて例外ではなかった。
「というわけで、今年は日帰り入浴と昼食付きのさくらんぼ狩りに行くことになりました」
 担当の女性スタッフは、白黒二色刷の案内パンフレットを笑顔で差し出した。
「自由参加ですので、参加義務や欠席時のペナルティなどはありません。ある程度人数が集まらないと中止になるので、それはちょっと残念ですけどね」
 しかし、英雄や年若いエージェント達には人気で、毎年欠かさず参加する者もいるのだという。日帰りなので、気軽に参加しやすいという事情もあるのだろう。他に仕事を持つ社会人エージェントなら、やはり泊まりはきつい。
「それで、これは皆さんにお願いしているんですが、もし日帰りツアーに参加されるのであれば、当日の写真を撮って、何枚かご提供いただきたいんですよ。データでも紙焼きでもOKです。実は、部内広報や公式ホームページ、ブログなどで掲載したくて」
 こういうイベントは、関係者だけでなく地域住民の皆さんやこれからHOPEに入りたいと思う人々へのPRも兼ねているものだ。支部で配る機関誌はスタッフやエージェントが見るものだが、それを読むことで来年の参加希望者が増えるかもしれないし、参加した者達にとっても興味深い記事となるので購読に繋がる。
 そして外部に対しては、HOPE支部の和やかな雰囲気を伝えることで潤滑な関係を築くきっかけともなるし、活動への関心と理解を促すこともできる。なるほどそのためには参加者達の生き生きと楽しむ姿を捕らえた写真は必要だろう。
「もちろん、全部を載せることはできないので、何枚かに絞らせていただきますけど。個人単位、グループ単位は問いませんし、皆さんの思い出を少し分けていただくという感じで考えていただければと思います。あ、義務ではないのでご安心くださいね。その写真を個人でSNSなどで発信していただくのも構いませんし……」
 あくまでもお願いなので、と女性スタッフは繰り返す。
「大事なのは、楽しんで参加していただくことですから。同行するスタッフも、広報用に写真は撮ります。でも写真メインの仕事じゃないので、参加者の方からご協力いただけると嬉しいんですよね」
 そういう事情だったのか。昨今いろいろ写真に関しては世間がうるさいが、やはりイベントの写真というのはぜんぜん知らないものでも楽しくなる魅力があると思う。それを見て、誰かが楽しんでくれるのならいいことではないだろうか。
「まああまり堅く考えず、もしご参加の際はぜひとも楽しんでください。いつもがんばっていただいているのですから、行楽の機会をご提供するのも私達スタッフの役目です」

解説

●目的
 HOPE支部主催の日帰り入浴と昼食付きさくらんぼ狩りを楽しみます。もし可能なら、その時の写真を広報誌や公式サイトなどへの掲載のために提供します。

●日帰り入浴と昼食付きさくらんぼ狩りツアー
 行き先は、支部のある街から車で二時間ほどのさくらんぼ農園、温泉施設。昼食は海沿いの街にあるホテルでのバイキングです。
旅程
1.さくらんぼ狩り
 朝八時半出発。バスでさくらんぼ農園に行きます。子供がお風呂で遊ぶようなサイズの小さいバケツいっぱいにさくらんぼ詰め放題です。滞在時間は二時間。
2.ホテルレストラン
 さくらんぼ農園から三十分。新鮮な魚介類を使った勝手丼が人気です。他にもステーキの実演、種類豊富なデザートなどがあります。滞在時間は二時間。
3.展望台
 ホテルから二十分。写真撮影スポットとしても有名な海の見える展望台でトイレ休憩。お土産やさん、飲み物や軽食を扱う売店もあります。滞在時間三十分。
4.温泉施設
 展望台から十分。当日はツアーで利用する時間帯だけ貸し切りにしていますが、道路状況や他の条件によっては到着時間が前後することも考えられるので、その場合は一般利用者への配慮が大切になってきます。大人数ですので、お互いの譲り合いとマナーに気をつけましょう。滞在時間は二時間。

持ち物
 温泉施設にはシャンプー・リンス・ボディーソープは備え付けてありますが、タオルは各自ご持参ください。

リプレイ

●バスの中
 HOPE主催さくらんぼ狩り日帰りバスツアーは、参加者が定刻通り集合したおかげで予定通りに出発した。バスの中で、今回の添乗員役のスタッフが改めて挨拶と旅程の説明をする。
 しっかりそれを聞こうとする多々良 灯(aa0054)だったが、ついバスの揺れが心地よくて瞼が閉じそうになる。楽しみすぎて、昨日眠れなかったのだ。
「大丈夫?」
 隣の座席のリーフ・モールド(aa0054hero001)が、灯の顔を覗き込む。
「うん……。俺が小さい頃母方の祖父母が果物狩りに憧れる俺を見て、畑で野菜狩りをさせてくれたの思い出すなあ」
 灯の祖父母は、農家なのである。
「あれはあれで楽しかった」
 うつらうつらしそうになるのを避けるためか、灯はよくしゃべる。
「さくらんぼは普段なかなか食べられないから、バケツいっぱいにつめ放題は嬉しいな」
「俺さくらんぼ大好物なんだ!!」
 元気よく、水澤 渚(aa0288)が会話に加わる。
「いっぱい採っていっぱい食うぞー!!! あ、でも食える分だけな?」
つめ放題と言っても、食べきれずに悪くしてしまえばせっかくの食べ物が生ゴミになってしまう。それは、食物に対する冒涜である。もったいない。
「マナーはしっかり守ろう」
「そうだな」
 何より、さくらんぼ農家の人に対しても失礼になる。農作物を収穫するまでには、大変な努力と労力が費やされているのだから。
「さくらんぼって何だろう……???」
 ティア(aa0288hero001)は、今までさくらんぼを食べたことも見たこともないので、渚達とは違う意味でも楽しみにしている。
「……あやかさん、ズボン持ってましたっけ? 靴はエージェントとして活動するように動き易いの持ってたと思うんですけど」
 離戸 薫(aa0416)が、網棚に上げた自分達の荷物に視線をやりながら美森 あやか(aa0416hero001)に尋ねた。
「……ないんです。ワンピースの中であんまり動き阻害しないので参加する事にします」
 さくらんぼは木になっているのを直接獲ることになっているので、ワンピースのあやかが少し心配な薫である。
 中城 凱(aa0406)は、そんな二人を通路越しに眺めていた。
「二人だけより四人の方が楽しいしな」
 さくらんぼ狩りのツアーを知って、凱から薫とあやかを誘ったのだ。凱の英雄の礼野 智美(aa0406hero001)が親友同士のため、こういうイベントではたいてい四人一緒になる。ちなみに、凱と薫も仲のいい友人だ。
「俺もあやかと一緒の方が楽しいが。よかったな、薫と一緒に温泉で」
 智美が、隣の座席から生温かい目で凱を見ていた。
「……智美、旅行中に行ったら殴るからな」
「大丈夫大丈夫、薫は健全なお子様だから絶対未だ気付いてないって」
 意味深な謎会話は、ロードノイズに紛れて薫達には届かない。
「……狩り? ……狩るのか? 動くのか?」
 賢木 守凪(aa2548)は、そもそもさくらんぼ狩りの何たるかをよくわかっていなかった。
「さぁてねぇ。まぁ、笹山さん達もいるしぃ、楽しめそうだよねぇ」
 カミユ(aa2548hero001)はのらりくらりと言う。守凪が、前日から楽しみにしていた様を思い出し、くふふと笑った。
「そうですね♪ 今日はいっぱい楽しみましょう♪」
 笹山平介(aa0342)が、守凪ににっこりと笑みを向けた。カミユの視線を気にしてやや緊張気味であることは、果たして隠し通せていただろうか。常ににこやかな平介だが、今はいつにも増して笑顔を振りまいている。柳京香(aa0342hero001)もカミユのことは気づいていたが、指摘はせず黙って見守ることに徹していた。いちいちあげつらうことでもないのだし。
 ただ、朝から平介の機嫌がよかった理由がわかって、納得したのみだ。
「狩りというからには張り切って行なわねばな!」
 京香の視線の先で、守凪は明らかにそわそわしていた。眉を顰め不機嫌そうな顔がデフォの彼だが、それでもわかるくらいとても楽しそうだ。その横ではカミユも、一応楽しそうにはしている。
 京香は窓の外を見た。
 快晴。この分だと、今日は暑くなりそうだ。絶好の行楽日和である。

●ここが楽園か
「丸くて赤くて……おいしい!」
 ティアは、手近な枝からさくらんぼをとっては食べとっては食べしている。すっかり好物になったようだ。
「あんまり食べたら昼が食べられないぞ」
 脚立で高い枝からさくらんぼをたくさんとってきた渚が、ティアに注意する。その中のよさそうな様子を、灯のカメラがしっかり捕らえた。
「渚が張り切って下調べしてきたから、写真のアングル決めやすいな」
 潰れないよう気をつけてバケツに詰めた、縁までいっぱいのさくらんぼの写真も撮影する。
「私の収穫分はお菓子に加工予定、っと」
 リーフも、おいしそうなさくらんぼを見極めてバケツに詰めている。
「灯、ティア、リーフ、さくらんぼとり競争だ!」
 渚は元気よく提案する。
「ちょっと実が割れてるのが完熟の印らしいぞ」
「そうなのか」
「あと、高いところにあるのは陽の光を浴びて甘いらしい」
「脚立もう一つ借りてこないとな」
 わいわい楽しむ四人の近くでは、凱と智美、薫とあやかのグループももちろんさくらんぼ狩りに夢中だった。
 薫とあやかは小柄な方なので、手が届かないところもそれなりにあるのだが、凱と智美が割と長身なので頑張って収穫してくれている。おかげで、薫達は自然に写真撮影が多くなった。
 四人のバケツはやがておいしそうなさくらんぼでいっぱいになる。妹達が騒ぐのを「お土産にさくらんぼ持って帰るから」と約束してなだめて出発してきた薫にとってはありがたいことだ。
「この後の日程や移動で潰さないようにしないとね」
「……幻想蝶に入らないかしら?」
「無理ならずっとバスの中に置いておくとか?」
 さくらんぼが悪くならないよう、冷蔵設備もきちんとしてくれているらしいので、その方がいいかもしれない。
「どれか取りましょうか?」
 平介が通りすがり、にこにこと薫達に話しかける。
「ありがとうございます。えっと……」
「これがおいしそう」
 智美が見つけた実を、平介は気前よくとって手渡した。
「ありがとうございます」
「いえいえ」
「たくさんとれたわね」
 京香もにこやかに彼らに話しかける。
「お土産もあるので……妹達に」
「そう」
 微笑む京香のバケツも、それなりにさくらんぼが詰まっている。
「狩りか! ……勿論知っていたぞ! さぁどれから取ればいい?」
「んん……それかなぁ?」
「よし! 仕方ないな!」
 守凪は、張り切って脚立に登り、カミユの指さしたさくらんぼをとって降りてきた。
「んん……甘い、かなぁ? 食べてみるぅ?」
「うむ!」
 守凪はカミユから寄越されたさくらんぼをもぐもぐ頬張った。もぎたてのさくらんぼはおいしい。むしろおいしくないわけがあろうか、いや、ない。
「そうですね……あ、見てください守凪さん……あのさくらんぼ、すごい赤くないですか?」
 いつの間にかそばへやってきた平介が、やや高いところになっている実を指さした。
「そうか、仕方ないな! とってくる!」
 再び脚立の上の人となる守凪。今度はバケツにたくさん入れて降りてきた。
「ありがとうございます♪」
渡されたさくらんぼを手に、平介はにっこり笑う。
「せっかくですし半分こにしましょうか?」
「う、うむ」
 仲良く二つ繋がったへたを千切り、一つを守凪に渡す平介。京香は、赤くておいしそうな実をバケツの中から探してカミユに見せる。
「カミユ……これなんか甘そうじゃない?」
「んん……そうだねぇ」
 カミユはさくらんぼをつまみ上げ、口に入れる。
「どう? 甘い?」
「甘い、かなぁ?」
 味覚のない彼は雰囲気でおいしさを伝え、半分を京香に渡した。京香は実を受け取って、躊躇いなく頬張る。
「ん、おいしいわ」
 そろそろ気温も上がり、立っているだけでじんわりと汗ばむほどになってきた。ほどよく運動した身体に、さくらんぼのが甘くておいしい。
「あ、灯の方が量が多い……! くそーっ負けた!!」
 渚の悔しそうな声が、蒼穹に突き抜けた。

●勝手にどんぶり
 さくらんぼ狩りのあと、一行は次の目的地へ移動した。昼食である。場所は、さくらんぼ農園から三十分ほどのところにあるホテルレストラン。新鮮な魚介類を使った勝手丼が人気で、他にもステーキの実演、種類豊富なデザートなどがある。滞在時間は二時間で、結構ゆったりだ。
 マグロの刺身が大好きな平介は、マグロの料理を取ってきた。席は団体用に用意された長テーブルで、参加者全員同じ場所だ。
「皆良い笑顔で食べてますね♪」
 空腹に好物食べ放題は、実に幸福である。ちょこちょこと料理のコーナーとテーブルを入ったり来たりする皆を見ながら、平介は楽しそうに食べている。
「カミユさんマグロいかがですか?」
「さっき食べ過ぎたからねぇ、あんまりいらないかなぁ?」
 カミユは箸の進みが遅いが、それでも少しずつは口に入れていた。若干眠いが、さっき京香が勧めてくれた水を飲んでまったりしている。外で長時間過ごしたので、水分補給は大切だ。
「流石シェフ……キレイね……あんたのオススメはどれ?」
「そうだな……」
 京香のほうは、守凪ととともにデザートコーナーに釘付けだった。
「綺麗だな……好きな物を取っていいのか?」
 農園に引き続き、守凪はわくわくそわそわしている。舌が肥えている守凪だが、好き嫌いはあまりないし、このレストランの料理はどれも絶品だ。
「よし、目指すは全メニュー制覇だ。燃えてきたぜ!」
 灯は、勝手丼の具を少しずつ全種盛りにするという贅沢な一品を持ってテーブルへ帰ってくる。好物のマグロは若干多めだが、写真を撮ることを意識して綺麗でおいしそうな盛りつけを意識してみた。
「新鮮な魚介類ってつやが違うよなー甘みや舌触りが格別だよなー。あ、ステーキはレアでお願いできるだろうか」
 実演のステーキも、もちろん外さない。
 一方渚の方は、「勝手丼…ってなんだろう? ふむ、好きな魚介を……なる程」という勝手丼初心者(?)だったのだが、盛りつけは豪快だった。
「じゃあ、海老と帆立とイカてんこ盛りで! 大好きなものばっか食えるのって最高だよなっ」
 灯と同じく料理の全種制覇を目指している彼は、海老と帆立、イカでご飯が見えないほどの勝手丼と一緒に、いろいろな料理を少しずつ持ち帰っている。ティアはイクラに夢中で、酢飯が海のルビーでぎっしり埋め尽くされている。
「丸い物っておいしいなあ!」
「ステーキもおいしいわ」
 リーフも、いろいろな料理を少しずつたくさん堪能できてご満悦だ。
「この酸味の利いたソースがすごく合ってるな」
「本当ね」
 灯は食べながらもしっかりカメラを構えて、肉の断面が写る角度で美味しそうに撮影した。勝手丼も他の料理もばっちり撮って、デジカメのデータもスマホのカメラロールもとても華やかだ。半分に分けられそうなものは渚達とシェアしているので、ほどよく腹八分目でいけそうだった。
「飯詰め込みすぎてリスみてえだぞ?」
 渚は、ティアの写真を撮ってからかう。完全に変顔写真になっている。
「あ、飯粒ついてやんの」
「もーっ!」
 当然ティアは怒るが、口がいっぱいなので文句も言えない。
「〆はデザートだな」
 食休みも少し挟みつつ、灯はデザートと飲み物を取りに行く。
「チェリーパイがおすすめよ」
「本当ですか? めずらしいデザートですね」
 すれ違った京香が教えてくれるが、そんな彼女の手にした大皿にはそのパイを始めデザートがてんこ盛りだった。
 なかなかチェリーパイなど作ってくれるところはない。さっきの農園のものを使っているのかもしれない。いずれにせよ、是非食べなければ。
「……少食でお願いしたあやかさんの分が見てわかるなぁ」
 こちらも少し食休み中の薫は、撮った写真をチェックしていた。
 勝手丼は、四人がそれぞれ盛りつけてきたのを並べて撮影したのだが、あやかの分はとても控えめだ。こういうところでも、それぞれ個性が出るのが面白い。
「デザートもとってきたぞ」
 凱が、お盆に載せた皿にデザートをどっさり盛りつけて戻ってきた。
「すごい! じゃあ写真撮るね」
「あ、待って、あたしのも」
「俺のもあるぞ」
 あやかと智美も、デザートの皿をテーブルに置く。カラフルで綺麗なケーキやフルーツなどがいっぱいで、一気に華やかな雰囲気になった。しかし多すぎてカメラフレームに全部収めるのはかなり大変だった。
「ふぅ、何とか撮れた」
「いいんじゃないか?」
「おいしそうだし、綺麗」
「薫、カメラうまいな」
 写真を見て、他の三人は口々に言った。褒められて薫も嬉しい。
「でも、流石に料理をとってる最中の写真はホテルではちょっとね……」
 本当はそういう場面もあった方が雰囲気がよく伝わるのかもしれないが、どうしても他のお客さんも入ってしまうし、何よりそれどころではないので難しかった。
 同行しているHOPEスタッフが、もしかしたら広報用で撮っているかもしれない。
 和やかな雰囲気で食事も終了し、一行は次の目的地である展望台へと出発した。

●海が聞こえるかもしれない。
「まだ星は見えないか……」
 平介は呟き、空を見上げた。まだまだ日は高い。そして雲一つない。
 写真スポットとしても有名な展望台なので、他の観光客もたくさんいる。海を背景に撮影している人達が目立った。平介達も、全員で並んだ集合写真を撮ったばかりだ。
 トイレ休憩も兼ねた立ち寄り場所なので、滞在時間は三十分。お土産屋さんでの買い物も慌ただしい。
「皆にお土産でも買ってく? 納豆があるけど……」
 京香が指さしたところに、本当に納豆があった。特産品らしい。しかし持って帰るには大変そうだ。いろいろと。
「流石にアレだから普通のを選ぶよ♪」
 他のコーナーも見て回ったあと、選んだものの精算を済ませた平介は守凪達と行き会う。
「守凪さんは何を買ったんですか?」
「まだ決めていない」
 まだまだ守凪はそわそわして楽しそうだ。カミユはうとうとし始めている。
「海……か。……そうだ、写真でも撮らないか?」
「ええ、いいですよ♪」
 そういうわけで再び外に出て、いい撮影スポットを探す。海をこんな形で見たことがない守凪は、目を輝かせて魅入っていた。
「んん……海より眠気かなぁ……」
「しっかりして」
 うつらうつらしているカミユは、京香がさりげなく支えている。
「あ、撮りましょうか?」
 薫達と四人で散策していた凱が気づいて、声をかける。
「お願いします♪」
 平介がカメラを渡し、凱は同じアングルで数枚撮影した。
「すみません、僕達もお願いできますか?」
 薫がカメラを差し出して、場所を交替して同じように写真を撮る。各々いい記念になって自然に笑顔になっていた。
「さ、お土産見てきましょう」
 あやかが言うのを合図に、四人は平介達に挨拶してお土産屋さんへ入っていった。
 一方、灯達は……。
「綺麗な景色だな」
 海を眺めて、灯はほっと息をついていた。
「この間の海上戦じゃこんな風に海を眺めてるどころではなかったからな。今日は天気も良いし海が綺麗な青だ」
「わー! 絶景だな!! 写メ撮りまくろう」
 隣の渚は、海でテンションが上がってはしゃいでいる。遠出しないとなかなか展望台から海を眺める機会がないから、嬉しかったのだろう。
 太陽の光を照り返し、 きらきら輝く海面は、確かに美しい。
「渚の瞳みたいだな」
「ん? 何が?」
 そんなやりとりをする幼馴染み二人を、リーフがすごい勢いで撮影していた。
 ティアも入れて四人の写真を撮ったあとは、お土産を買いに行く。今回参加できなかったもう一人の幼馴染みへのプレゼントだ。
「お、この白い犬がさくらんぼを抱っこしてるデザインのぬいぐるみ……」
 棚からぬいぐるみを下ろした灯の目つきが、一瞬で変わった。
「か、かわっ……すみませんこれ三つください」
 自分用と渚用もしっかり手に入れた灯であった。犬愛の面目躍如である。
 渚の方は、さくらんぼ型のキーホルダーを幼馴染み用に購入した。もう一つ同じものを買ったのは、ティアにあげるためである。
「あ、いたいた。おーい、ティアー」
 リーフとなにやら話していたティアを見つけ、駆け寄る渚。
「どうしたの?」
「ほら、これやるよ」
 小さな袋に入ったままのキーホルダーを渡すと、ティアはしばらく目をぱちくりとさせていたが、突然その赤い瞳が涙ぐんだので渚は驚いた。
「ど、どうした!?」
「……渚が、渚がボクに? ……これを??」
「お、おう……」
 ティアは、しっかりとキーホルダーを胸に抱きしめた。普段素っ気ない渚だけに、不意打ち過ぎて嬉しかったのだ。渚の方は、あまりのティアの喜びように嬉しいやら恥ずかしいやら。
 そうこうしているうちに、出発時間が迫る。
「三十分は厳しいよー」
 大急ぎで買い物を済ませた薫達が急いでバスに乗り込む。人数確認のあと、バスは最後の目的地温泉へ向けて出発した。

●銭湯配置につけ
「さて、背中の流し合いでもしましょうか♪」
「流し合い? なんだそれは。入る前の儀式か何かか?」
 男湯の脱衣所で緑の宝石がついたカフと赤い宝石がついたカフを耳から外しながら、守凪が平介に訊いた。
「こういう公衆浴場では、湯船に入る前に身体を流すんですよ」
「やりたいなら仕方ないな!」
 やはりものすごくわくわくしている守凪であった。
「折角だしねぇ、ボクもやろぉかなぁ♪」
 カミユも服を脱いで、入浴準備完了だ。白い肌が傷だらけだが、本人は気にしていないようだ。
 この時間はHOPEご一行様の貸しきりになっているので、大浴場はがらんとしている。贅沢な時間と空間だ。
 平介は守凪とカミユの背中を先に流してやり、義足の守凪が無事湯船に入るのを確かめてからカミユに流してもらった。なかなかこんなことはないので、楽しい。
「よし、終わった。シャワーかけるぞ」
「うん。ありがとう」
 少し離れた洗い場で、薫も凱と流しっこしていた。平介はその様を微笑ましく見守る。
「灯と一緒に風呂入るの久し振りだな。背中の洗いっことか懐かしいな!」
 幼馴染みコンビも、わいわい盛り上がっている。渚は元気よく灯の背中を洗っていたが、勢いがよすぎて時折灯が「いてて」とか言っていた。
「渚の背中も流そうか」
「おっ、頼む」
 スポンジやタオルは各自持参だが、シャンプー・リンス・ボディーソープは備え付けとなっていた。親切ないい施設である。洗い場もたくさんあってゆったりだし、湯船も広い。露天風呂もあるらしい。
「温泉は癒されるな……プライベートでもまた来たいな」
 日頃HOPEエージェントとして大変な任務もあるが、たまにこうして羽を伸ばすのは悪くない。
「眠くなってきた……」
 思わずうとうとしてしまった灯はあやうく湯船に沈みかけ、渚に助けられたのだった。
「おい、薫も危ないぞ」
「う~ん……?」
 さっきのお土産屋さんでの疲れもあって、薫もつい眠りそうになって凱に揺り起こされていた。
 一方、女湯でも女性陣が優雅なバスタイムを堪能している。
「今日はいっぱい楽しめた?」
 湯船に浸かって足を伸ばした京香が、あやかと智美に微笑みかける。
「はい、すごく」
「ご飯もおいしかったし、さくらんぼもたくさんお土産にできそうです」
 智美とあやかもにこにこしている。ずっと天候にも恵まれて、たくさん動いたあとにおいしいご飯と気持ちのいい温泉なんて夢のような一日だ。
「むむ……っ、リーフめ。胸が結構あるじゃないか……!! でもボクも負けないもんねー!」
 ティアは、なぜか胸の大きさでリーフに張り合っている。フンッと胸を張るのを、リーフが温かい目で見守っていた。
 ほんのり湯気で曇ってはいるが浴場には大きな硝子窓があり、外が見える。今日一日皆を楽しませてくれた青い空は、そろそろ黄昏に染まりつつあった。
 今日が終わる。楽しい小旅行が。
 でも、思い出はきっとしばらく鮮やかな色合いで心を楽しませてくれるだろう。

●家路へ
 一足先に湯から出た平介は、一人脱衣所で着替えていた。
 その時、隣の棚の脱衣籠から何かが落ちたのに気がついた。
 拾い上げる。緑の宝石ついたイヤーカフだ。考えるまでもなく、守凪のものとわかる。
 何かに気がついた平介は、誰か来る前に守凪の服の上にそれを戻す。
「……」
 何を言うこともない。できない。
 着替えを終えた平介は、荷物を持って施設内の休憩ロビーへ出た。
「平介」
「あ、守凪さん」
 守凪がやってきたので、平介は片手を上げた。
「何か飲みますか?」
「うん……いや、それより」
 守凪は握った拳を平介の前に差し出した。
「? どうしました?」
「その……これ、なんだが……指輪が好きだと言っていただろう?」
 平介の掌にぽとりと落とされたのは、ラピスラズリの嵌まった指輪。
「あ……ありがとうございます……」
 誰かにものをあげることは慣れているが、もらうことには慣れていない。驚いている平介の掌の上で、濃い藍色の天然石が美しく存在を主張していた。
「ありがとうございます」
 もう一度、今度はゆっくりとその言葉を紡ぐ。大切に、手の中に包み込む。
 守凪は怒ったような顔でまったく違う方を向いていたが、それが常の彼なのだと平介は知っている。
 だから、ごく自然に話題を変えることにした。
「これ、どうぞ」
「? 何だ?」
 手渡したのは、先ほどのお土産屋さんで買ったシルクのネクタイだ。守凪の表情はやはり変わらなかったが、もちろん平介も気に留めない。
「『また』今度いっぱい楽しみましょう♪」
 その時、どやどやと人がやってきた。
「ひゃー、いろいろ楽しすぎた! また行きたいなー!!!」
 渚を先頭に、他のメンバーが出てきたのだ。女湯の方からも、女性陣がやってくるのが見える。
「またねぇ。ふわぁ……おやすみぃ……」
 カミユは、眠そうな挨拶を残し幻想蝶の中へ入っていった。
 バスに乗り込み、帰路を辿る。しばらくは賑やかだったが、やがて穏やかな微睡みが優しい静けさで彼らを包み込んだ。

 ――後日発行されたHOPE広報誌は、好評だった。写真つきの楽しい小旅行記事は、読んだ者の心を温めたという。

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

  • コードブレイカー
    賢木 守凪aa2548

重体一覧

参加者

  • もふもふには抗えない
    多々良 灯aa0054
    人間|18才|男性|攻撃
  • 腐り神
    リーフ・モールドaa0054hero001
    英雄|23才|女性|ブレ
  • 荒ぶるもふもふ
    水澤 渚aa0288
    人間|17才|男性|生命
  • 恋する無敵乙女
    ティアaa0288hero001
    英雄|16才|女性|ソフィ
  • 分かち合う幸せ
    笹山平介aa0342
    人間|25才|男性|命中
  • 薫風ゆらめく花の色
    柳京香aa0342hero001
    英雄|24才|女性|ドレ
  • エージェント
    中城 凱aa0406
    人間|14才|男性|命中
  • エージェント
    礼野 智美aa0406hero001
    英雄|14才|男性|ドレ
  • 癒やし系男子
    離戸 薫aa0416
    人間|13才|男性|防御
  • 保母さん
    美森 あやかaa0416hero001
    英雄|13才|女性|バト
  • コードブレイカー
    賢木 守凪aa2548
    機械|19才|男性|生命
  • 真心の味わい
    カミユaa2548hero001
    英雄|17才|男性|ドレ
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