本部
初夏だ! 田植えだ! バトロワだ!!
掲示板
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田んぼバトルの控室
最終発言2016/05/26 14:08:51 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/05/23 02:46:22
オープニング
●精神年齢≠実年齢
「い、今、何て……?」
和やかな雰囲気漂う談話室にて、今し方依頼を終えて一息ついていた森田ととの(az0040)は、緊張感漂う表情で相棒の緋色(az0040hero001)の顔を見つめていた。
周囲の人々も、ただならぬ様子に手を止めて異様な様子の二人に注目している。
「バトルロワイアルをしよう、と言った」
対する緋色は大真面目な表情で先程の言葉を繰り返す。真剣そのものの顔はしかし、よくよく観察すれば微妙に目の端辺りがひくついており、鉄面皮な彼にしては珍しく表情を取り繕っている様子。
とどのつまり、茶番である。
「素手による仁義なき戦い……信じられるものは己の肉体のみ……勝つか負けるか、生きるか死ぬかの大勝負……」
この御仁、強面に似合わずノリノリである。
「あ、そういうのいいんで」
が、残念ながら彼の相棒は既にこの茶番に飽きつつあるらしく、オレンジジュース片手につれない態度だ。カラン、と涼しげな音を立てるグラスの氷。温度差で風邪を引きそうだと緋色は思う。
「まぁつまりだな、知り合いの農家さんが田植え前の田んぼを貸してくれるらしいから、全力で遊ばないかと、そういうことだ」
相棒から発せられる「さっさと話せ」という無言の圧力に屈した緋色は、ほかほかと湯気のたつ、見るからに甘そうなカフェオレを手にして茶番を終了する。何が始まるのかと見守っていた周囲の人々も、一瞬で終わった茶番劇が再開される気配がないことを察すると二人から視線を外した。幾人かは耳をそばだてたままのようだが。
「へぇ、楽しそうっすね」
「……他人事なところ悪いが、当然お前も参加するんだぞ?」
「へぁ?」
ぽかん、とした表情を晒す森田と、ドヤ顔を晒す緋色の対比は見物であった、とだけ言っておく。
●泥沼(物理)のバトルロワイアル
燦々と降り注ぐ初夏の日差し。そよそよと流れる心地よい風。まだ手を入れていない、野原と化している田畑には、シロツメクサやナズナ、ヨモギやスズメノテッポウなどの草花が揺れている。
そんな長閑な風景に、似つかわしくない一団がいた。
「それではルールを発表する!」
ジーパンに白いポロシャツ、麦わら帽子を身につけ首から白いタオル(端の方に青文字で何処かの商店の名前が入れられている)を下げたパーフェクトファッション(笑)姿の緋色が、嬉々とした表情で拡声器を握っている。
相対するのは、話を聞きつけて集まったエージェント達。先日の談話室にいた者もいれば、人伝に聞いてやってきた者、相方に引きずられて強制参加させられている者等様々だ。ちなみに、緋色の隣でぶすくれている森田は強制参加組である。
「ひとつ、武器及び防具の使用禁止! ただし防具は普段着であれば可とする! 言っておくが汚れても知らんぞ! 泥汚れはちょっとやそっとじゃ落ちんぞ!! あと靴は脱いでおくのが得策だとだけ言っておく!
ふたつ、共鳴して参加する者はスキルの使用禁止!
みっつ、首から上、特に目に対する攻撃は禁止! 故意にやった場合は即刻退場処分だ!
よっつ、行動範囲は水を張っている田んぼ1枚分のみ! 田んぼの外に出たものは失格とする! あぜは範囲に含まないから注意してくれ!
いつつ、腹、背中、尻、肩、頭のいずれかが地面についた者は失格とする!
ルールは以上だ! 最後まで勝ち残った者には賞品を進呈しよう!」
緋色からもたらされた賞品、の一言に、場が一瞬ざわめく。とことん疲れ果てた呆れ顔を晒していた森田は、ついに額を抑えてため息を吐き出した。
「なお監督はこの田んぼの持ち主である辰巳さんと、俺の知り合いの笹原さんに頼んだ」
テンションの高い緋色が紹介したのは、パーフェクト農家スタイルの70代男性、辰巳と、ラフな格好に白衣を羽織った30代中頃に見える女性、笹原。二人とも、深緑色のタープの下でアウトドアチェアに腰掛けている。監督というより観戦の構えだ。
「笹原さんは医師免許を持っているから、何かあったら頼ってくれ」
万全の態勢である。ただの遊びに対する緋色の本気加減が留まるところを知らない。
「ご紹介に預かった笹原さぁ! 気軽にさーちゃん先生と呼んでくれていいのさ!」
「なんでいるんすかさーちゃん先生?!」
森田が叫んだ。知り合いらしい。だが当然の如く二人ともガン無視だった。森田は泣いた。
「俺からは以上だ! 当然俺とととのも参加するぞ! 開始の合図は辰巳さんにお願いする!」
緋色の声に、片手をあげて応える農家のおじいちゃん、もとい辰巳氏。寡黙なタイプらしい。
「よし、では5分後に開始とする! 解散!!」
そう言って、緋色はチベットスナギツネを髣髴とさせる表情をした森田を引きずって、嬉々としながら踵を返す。
「ああそうだ。ちなみに、失格したかといって、田んぼから出る必要はないぞ」
途中、振り返った緋色が浮かべた笑みは、それはそれは楽しそうなものであった。
解説
●目的
泥沼バトルロワイアルに勝ち残る
●フィールド
水の張られた泥田
40m×100mほどの広さ(1000スクエア程度)
●基本ルール
1.武器及び防具の使用禁止(普段身に着けているものは除く)
2.スキルの使用禁止
3.首から上に対する攻撃禁止
4.行動範囲は畝で仕切られた田んぼの中のみ(注意:あぜは行動範囲外)
5.腹、背中、尻、肩、頭のいずれかが地面につくか、行動範囲外に出たものは失格とする
●特殊ルール
・足場が悪いため、移動力と回避率が半減
・移動時、5スクエア(10m)ごとに1d6の転倒判定
出目が1:完全成功
出目が2:片膝をつくが成功
出目が3:手をつくが成功
出目が4:靴が脱げて豪快に転倒(靴なしの場合、よろけるのみ)
出目が5:泥に足を取られ尻餅をつく
出目が6:アクシデント発生(1d100の対抗判定、失敗すると転倒)
・全力移動中は転倒確率が上昇する(3スクエアごとに1回の判定)
・その他、判定が必要になった場合は1d100で判定を行う
●その他
・非共鳴状態の各ステータスはマイページの「装備」ページを参照する
・能力者単体での参加はプレイングに記載がない限り「英雄不在」として扱う
※ネタバレ:開始直後に森田ととのが最初の失格者になり、以降妨害に回る
リプレイ
●晴れ時々怒声
気温の割には日差しがきつい初夏の候。どこからともなく野鳥の声が聞こえて来るのどかな田園地帯で、森田ととのはぽかんとした間抜けヅラを晒していた。
「ふっ、どうしたその程度か? 油断するなよ、バトルはもう……始まっている!」
相対するのはこれでもかというほどのドヤ顔を晒した緋色。そして二人の周囲で突然の事態についていけないバトロワ(笑)参加者たち。監督席(と言う名の観客席)にいるスノー ヴェイツ(aa1482hero001)に至っては、隣に座る笹原女史と共に爆笑している。なお粃 リウ(aa3943)はにっこにっこしながらインスタントカメラのファインダーを覗いていた。シャッターチャンスは逃さない心意気、流石である。
森田ととのは呆然としていた。尻餅をついた、とかいうレベルを超越して、むしろ泥の上に大の字で寝転んでいると言った方が正しい様相で、あーこれ髪の毛洗うの面倒だななどと現実逃避も交えつつ、呆然としていた。
そうしてしばらく小鳥の囀りを聞いていて、ようやっと、自分の身に起こった事態を把握して。
「……っざけんなよクソが!! 上等っすよ、そっちがその気なら覚悟しやがれ!!」
盛大にキレた。
ここに、この上なく大人気ない泥沼(物理)のバトルロワイアルが開始される!!
●泥沼と泥田は全くの別物
さて、ことは数分前に遡る。
「……いい土ッスな。いい米が育ついい土ッス」
「そうだな。これなら多少裸足で走り回っても怪我はせんだろう」
「そうッスね。よく根を張れると思うッスよ」
プロ農家の顔をして田んぼの泥をいじるパーフェクト農家スタイル(ツナギ+首タオル+麦わら帽子+その辺で安売りしてたサンダル)な齶田 米衛門(aa1482)と、緋色は、どこか噛み合わない会話を繰り広げていた。
「緋色さんて、黙ってればそれなりにカッコイイのになんで喋ると残念感が凄まじいんすかね」
「そうかぁ? オレは別になんとも思わねーぞ。あ、飴いるか?」
「……いただくっす」
それを眺める森田とスノー。すでに森田とは何度か顔を合わせているため、やりとりも気安い。スノーは田んぼに入らないようで、普段着のまま大きめのトートバックを持ってあぜに腰掛けている。森田はあぜに腰を下ろしたまま両足を田んぼに突っ込んで、ゆっくりと泥をかき混ぜていた。
「あ、おいしい。……そういやスノーさんっていっつも飴ちゃん持ってるっすよね。飴のお姉さんて呼ばせていただいていいっすか」
「ん? いいぞ!」
「冗談っすよ……」
カラコロと蜂蜜林檎飴を転がす森田の表情は若干どころではなく死んでいる。
緋色お手製のプリントTシャツに印字された「ばとろわ(笑)」の文字がなんとも物悲しい。奴は一体何がしたいのだろうか。
ああツッコミが足りない。望んでいない状況に立たされた森田の表情筋はひきつりっぱなしだ。
「そろそろいいか。ではこれより勝ち残りバトルロワイアルを開始する! 辰巳さん、よろしくお願いします」
そうして、森田の心情を置き去りにしたままバトロワ(笑)の開始が告げられる。
緋色の宣言を受け、各々がきゃっきゃと楽しそうにはしゃぎながら、思い思いの場所へと散っていった。観戦組の秕とスノーも、タープの方へと移動していく。
「がんばってきてねー」
「おっけー! がんばる!」
微笑みながら手を振る秕に、天青鉱(aa3943hero001)は満面の笑みを投げ返していた。
げふん、と空咳がひとつ。
「バトルロワイアル、はじめぇい!!」
辰巳氏の声は、寡黙そうな外見に似合わずとても力強かった。
と。
辰巳氏の開始宣言の余韻が消えぬ内に、盛大な泥飛沫が立ち上る。
「……えっ」
何事かと発生元に集まる視線。
その場にいたのは、ぽかんとした表情で相棒の顔を見上げる森田と、泥の飛沫を浴びながらドヤ顔で相棒を引き倒している緋色。
「………………えっ」
そして場面は冒頭へと繋がるのである。
●イイ歳の大人に『大人気ない』は禁句である
秕リウは微笑んでいた。
なぜなら天青鉱がとてもとても楽しそうだからである。
「失格になったからって退場しなきゃいけないなんてルール、なかったっすよね!!」
「そーだそーだー! よぅし、あーそーぶーぞー!!」
ブチ切れている割には楽しそうな顔の森田と一瞬のアイコンタクトをとった天青鉱。その一瞬で緋色に狙いを定めたらしい二人は、それぞれ違う角度からターゲットへと走り寄って……。
「へあっ?!」
行こうとしたところで森田が盛大にすっ転んだ。
すかさず、観客席から笹原とスノーの笑い声が飛んでくる。実況をするだなんだという話をしていたはずなのだが、どうやらそれどころではないらしい。
「きみの尊い犠牲は忘れないよ……!!」
満面の笑みで言われても説得力は皆無である。
すっ転んだ森田には目もくれず、パーフェクトジャージスタイルの天青鉱は緋色へと走り寄っていく。泥に慣れているのかその動きに無駄はない。
「とりゃ!」
「甘い!!」
だが相手は大人気ない大人代表格の緋色である。確実に素人ではない身のこなしで、体当たりする勢いでぶつかってきた天青鉱の体を受け流す。
「くーぅ、ざんねーん!!」
だが天青鉱も身体能力の高い英雄である。勢い余って泥に突っ込むかと思われたが、軽い身のこなしで見事に体勢を立て直した。
「スキアリっす!!」
と、ここで森田が緋色に体当たりをしかける。どうやら今の間に追いついたらしい。
が。
「ほぁっ?!」
「はっはっは! その程度かととのよ!!」
体格差も手伝ってか、組みつかれてもものともしない緋色に投げ飛ばされて再び泥に沈んだ。南無。
「おお、思ったより本格的ですねぇ」
そんな3人の様子を眺めていた秋津 隼人(aa0034)。田んぼ初体験の彼は、いつバトロワに混ざろうかとそわそわしている。が、天青鉱がいるため尻込みしているらしい。生粋のフェミニストは女性には手を出せないのだ。
と。
「スキアリにゃー!!」
「うわっ?!」
秋津の背後からイケメンハンターの金華(aa3184hero001)が現れた!
臆面なく異性の背中に飛び付けるその心意気、積極的に見習いたくはないが度胸は評価したい。
「おほっ近くで見るとなおイケメンにゃ!! しかもちょっとイイ香りもするにゃ……!!」
「えっあっちょっ」
なんとか身をよじって金華の飛びつき攻撃を躱す秋津。ゆーらゆーらと尻尾を揺らす金華は捕食者の目をしている。モテたいならもう少し本能を抑えるべきだと思う。
「オニーサン、よかったらこの後あちしとお茶しにゃい?」
「この状況で言われても……」
Tシャツに麦わら帽子を装備したパーフェクト夏休みスタイルでじりじりと迫り来る金華に、若干引き気味の秋津。純朴さで勝負するなどと言っていた気がしたが、きっと気のせいだったのだろう。
「どーん、なんだよー!」
「ぎにゃっ?!」
そこに現れた救世主、もとい金華の相方、八咫(aa3184)。パーフェクト夏の少女スタイルの八咫は、大人数で思いっきり遊べるのが嬉しいらしく、ぴっかぴかの笑顔だ。
きゃらきゃらと楽しげに笑いながら金華の腰元に突進して、つぶらな瞳で相方の顔を見上げている。
「キンカ、つかまえたんだよ!」
「ちょっ、まっ」
自分より数段体格の劣る八咫だが、腰元に組みつかれてはバランスが取りづらい。かといってこんなに嬉しそうな八咫を無下にもできない。でもあわよくばイケメンには抱きつきたい。
金華はできる限りそっと八咫の手を振り払った。
「ヤタ!! あちしじゃなくてあっちのメガネの人をねらぎにゃああああああ!?」
「あはは! たのしいねキンカ!!」
猪突猛進少女の勢いは金華の想定を超えていた。
逃げようと踵を返した金華の足をうまいこと捉えた八咫は、そのまま金華と縺れ込むようにして田んぼに突っ込んだのだ。
「お腹は無事なのでセーフなのさぁ!」
観客席から笹原の声が飛ぶ。一応、監督をする気はあったらしい。
うんしょ、と立ち上がった八咫の腹部は、金華の体がうまいこと盾になったらしく、多少の泥跳ねはあるものの綺麗なまま。
にぱっと笑う八咫。
「……あちしのことはいいから次に行くにゃ」
「うん!」
泥だらけになった金華は、諦め混じりのため息と共に八咫を送り出す。
なんだかいろいろと冷静になってしまった。
「だ、大丈夫ですか……?」
「にゃっ!!」
次の瞬間に差し伸べられた秋津の手を見て「役得かもしれない」と思い始めるあたり、考えを変える気は毛頭ないようだが。
「バトルロイヤルな以上、みんな敵同士! 手加減なしの全力勝負だからね!」
「おう、当たり前だ! 行くぞ翼ァァ!!」
その頃、鳥居 翼(aa0186)とコウ(aa0186hero001)の両名は仁義なきバトルを繰り広げていた。
「とぉ!!」
「あたるかぁ!! やーいノーコン!!」
「むぅ!!」
じゃれ合う猫のようにきゃっきゃうふふと楽しそうだ。
なお開始前にコウがゴムボードを使用しようとしたのだが、笹原女史に最寄りのホームセンターまで車で30分近くかかると聞いてすっぱりと諦めていたりする。
「ふははは! 次はこっちからだ!! 元路地裏生活勢のすばしっこさ! 見せてやるぜ!!」
鳥居の足元を狙って繰り出された蹴りは、しかし見事に避けられる。
「そっちこそノーコン!」
「くそー!!」
ばっちゃばっちゃと泥を踏みつけ、泥だらけになりながら楽しげに笑う二人。
青春一直線な光景だ。
「ならこれはどう!?」
徐に、鳥居が足元の泥をすくいとる。比較的水分の少ない、深い場所にある泥をぐねぐねと丸め込み。
「翼選手! 振りかぶって!! 投げましたー!!」
泥を撒き散らしながら、泥玉を投げる!!
「やーいノーコン! どこ狙ってんだよ!」
が、鳥居の放った泥ボールは、コウの1メートルほど横を通り抜けていき。
「ぬぉっ?!」
べっちゃりと音を立てて緋色の背中にクリティカルヒットした。
「いまだ!!」
想定外の方向から飛んできた攻撃に、緋色の体勢が崩れる。
すかさず森田と天青鉱が追撃を繰り出せば。
「ひゃっはぁやったぜ!! 鳥居さんないっしゅー!!!!」
「ナイス!!」
「ぐ、不覚……!」
緋色の巨体は呆気なく泥田に沈んだ。
「え、えへへー!! どんなもんだーい!」
鳥居はとりあえずにぱっと笑ってVサインを繰り出した。
背後からコウのじっとりとした視線を感じる。努めてそれを無視する鳥居。
「くっ、やったな!」
「わわ!! こっちこないでぇ!!」
まぁ狙えば狙われるのが世の常というもの。
泥だらけになった緋色が楽しそうな顔をして鳥居の方へと走ってきている。
狙われた鳥居はたまったものではない。悲鳴をあげて逃げ出した。
なおコウはその様子を大爆笑しながら眺めている。
「うわーん!! ドロ動きにく……あっ」
「あ」
盛大な泥飛沫。そして訪れる一瞬の静寂。
「……ドンマイ!」
天青鉱は足を縺れさせて顔面から泥につっこんだ鳥居にサムズアップを贈った。
「……ふふふ、私だけリタイアなんて許さないんだからね!!」
しかし鳥居、転んでもタダで起きる気はない。
むっくりと起き上がって顔についた泥を拭い、不敵な笑みを浮かべて……コウを見やる。
「げっ! こっちくんな翼ぁ!!」
「やなこった!! コウも道連れにしてやるぅ!!」
「私も私も!!」
ばっちゃばっちゃと泥飛沫をあげながら、コウの背中へ迫る鳥居と天青鉱。
天青鉱が逃げ道を塞ぎ、もう失うものなど何もない鳥居がコウの背中へ勢い良くタックルをかませば、バランスを崩したコウが半身を捻るようにして肩から田んぼに突っ込んだ。
「二人がかりはずるいって!!」
「ルールに共闘不可なんてなかったもーん!」
「ねー!」
仲良くハイタッチを交わす鳥居と天青鉱。泥の中に座り込んだコウは不満げに唇を尖らせた。
「……ん? ちょっと待って、天青鉱さんってまだアウトになってなくない?」
ここでコウ、はたと気づく。
4対の瞳が一斉に天青鉱へと向かった。
「……えへっ」
可愛らしく小首を傾げて、じり、と後退る天青鉱。彼女のジャージには、まだほとんど泥が付着していなかった。
「逃すな!!」
「おう!!」
4対1は分が悪すぎた、と、バトロワ終了後に天青鉱は語った。
●優勝は誰の手に
「ぬぅ、足がヌルヌルして気持ち悪いのぉ……」
ぺたぺたと足踏みしながら、音無 桜狐(aa3177)はむっつりと眉根を寄せる。
「こういうのも面白いと思うにゃ♪ 皆でわいわい楽しむんだにゃ♪」
音無を守るようにふんすと拳を握るのは猫柳 千佳(aa3177hero001)。
「ふっふっふ、もうさっきみたいにはいかないんだからね……!」
「ね、ねえ翼、俺あっちいっていい?」
相対するのは、先ほど盛大にずっこけた鳥居と、心なし顔の赤いコウ。
コウに至っては両手で顔を覆っており、指の隙間から音無と猫柳を盗み見ている。
「やだぁ、コウってばスケベぇ」
「いやこれは俺悪くないだろ!!」
コウだって幼気な青少年。倒錯的な格好は気になるオトシゴロなのだ。
「だってあんな、あんな……!! あんな格好ずるい!!」
コウが叫んで音無と猫柳を指差す。ひとを指差しちゃいけません、とは誰も言わない。言えるわけがない。
「動きやすそうな服、これしかなかったのじゃ……」
「んと、着物でも裾を捲ればなんとか動けるにゃ」
なぜなら、微妙に恥じらいを隠せない音無はパーフェクトスク水スタイル、ぽえぽえと笑っている猫柳はパーフェクトハイミニ着物スタイルでこのバトロワ(笑)に参加しているのだ!
二人とも、滑らかな御御足を惜しげもなく晒していくスタイル。とても破廉恥である。いいぞもっとやれ。
「意識してるコウが悪い」
「俺は悪くねえ!!」
ここに緋色がいれば全力同意したであろう魂の叫びに、なぜか監督席の笹原女史が「そうだそうだー」と声を上げていた。ちなみに辰巳氏は深く頷いていた。おいエロジジイ。
「私が泥ボールで援護するからコウ、前衛お願い!」
「ムリ!! 絶対ムリ!!!!」
「にゃ? こないんならこっちから行くにゃ!」
鳥居とコウがわーきゃーやっている間に、猫柳が臨戦態勢に入った。
ちょっと前屈みになった猫柳。着物の裾が、とても、際どい。
「いやあああああ!! 俺パス!!!!」
「あっちょっと!!」
そして、コウは逃げ出した。
逃げ出した先で緋色の背中に飛び付いた。緋色はまるで父親のような眼差しでコウを迎え入れていた。コウは泣いた。
さもありなん。
「くっ、どうやら私一人で立ち向かうしかないみたいだね!!」
「にゃにゃっ、桜狐の方には行かせないのにゃ!!」
そして今、壮絶なキャットファイトが始まる……!!
「おー、がんばるのじゃー、そしてわしを楽して勝たせるのじゃー」
スク水狐はなんとも気の抜ける声援を送っていた。自分から動く気は一切ないらしい。
さて、鳥居と猫柳がキャットファイト(語弊)を繰り広げていた頃。
プロ農家の青年は、田んぼのど真ん中に仁王立ちして、挑戦者と対峙していた。
「ふふふ、ドンとくるッスよ! いつでも受けて立つッス!」
「くっ、どうするっすかテン=サン、野郎はプロっすよ、安定感が別次元っす……!」
「そうだねモリ=サン、できれば彼とは戦いたくなかったよ……!」
なにやら妙な呼称でお互いを呼び合っているのは、どろっどろになった森田と、まだ比較的綺麗なままの天青鉱。二人とも泥にまみれてテンションが振り切れたらしく、森田に至っては己が何を口走っているのか3割も理解していない。
ジリジリと齶田との距離を詰めながら、天青鉱は相棒の秕をちらりと見やる。
秕はインスタントカメラを片手に持ったまま、こてりと小首を傾げて見せて。
『ヤったれ』
ビッ、と己の首元で親指を立てた。
「ガッテン承知のすけ!!」
相棒に「手加減無用、手段は問わない好きにヤれ」との許可をもらった(※そんな事実はない)天青鉱に怖いものなど何もない。
だがしかし、相手は常日頃から田畑と戯れるプロ農家。
顔面泥ダイブをキメさせてやろうにも、そうは問屋が卸さない。
「おっと」
「ほわっ?!」
「わわっ!!」
必要最低限の動作で、森田と天青鉱の攻撃は無効化されてしまった。
ぐぬぬ、と歯噛みする二人に、齶田はどこか余裕の表情だ。
と。
「どーん! なんだよー!!」
黒い弾丸、もとい八咫が、背後から無遠慮に齶田の背中に飛び付いた。
しかしそこはプロ農家。驚いたような表情はしながらも、体幹はブレることなく八咫の体を受け止める。
「おっ、やったッスね? お返しッスよ!」
「きゃーあ!」
そしてそのまま、八咫の体をキャッチ&リリース。
ぽーんと、まるでボールでも投げるように八咫を放り投げてしまった。
八咫、満面の笑みである。
投げられた八咫は、器用にも空中で態勢を立て直し、危なげなく水田に着地。これには観客席からも感嘆の声が上がる。
「むぅ、残念だったんだよ」
「なかなかいいタックルだったッスよ!」
「ほんと!? やったぁ! ヤタ、負けないんだよ!」
きゃっきゃと嬉しそうな八咫は、そのまま別のターゲットを定めたらしく、齶田に背を向けた。
見守る齶田の視線は、暖かい。
なおこの後、復活したコウと緋色もVSプロ農家討伐戦に参戦することに。
数の暴力とは恐ろしいものである。
さて、ここまでほとんど描写されていない秋津と金華両名であるが。
「むふふ、イケメンを堪能できるチャンスにゃ……!」
「えっと……」
ずっとじりじりと攻防を続けていた。
といっても、金華が秋津に抱きつく隙を探っているだけなのだが。
秋津が金華を攻撃できないため、いつまでたっても勝敗がつかないのである。
「リア充爆発しろ」
「ちょっと違う気がする」
そこに乱入してきたのが、ご存知森田と天青鉱。その後ろには半身を泥まみれにした齶田の姿もある。やはり4対1は分が悪かったらしい。
「ふふふ、真剣勝負なんで、悪く思わないでほしいっすよ……!!」
「それは私怨では……?」
「緋色さんシャラップ」
あらかた満足したらしい緋色はいつの間にか観客席にいた。どこまでも自由な男である。
「ちょ、ちょっと!! さすがにこの人数差はズルくないですか!?」
「バトロワに仁義はないんすよ!!」
結果的に4対1な状況に追い込まれた秋津は、慌てて距離を取るために数歩後退る。
が、それが許されるはずもなく。
「これで仕舞ぇッス!」
「うわっ?!」
反撃虚しく、最終的に齶田の手によって泥に押し倒される形となった。
プロ農家の胆力にはかなわなかったよ……。
そうこうしている間に、猫柳とのキャットファイト(語弊)に鳥居が勝利し、残るは八咫と音無2名のみとなる。
「んふふぅ、まっけないんだよー!!」
「むぅ、わしは楽して勝ちたいのじゃがの……」
ここまでくると、邪魔立てするような無粋をするものは誰もいない。
エージェントたちは八咫と音無から少し離れた場所に固まって、最終決戦を見守っていた。
はじめに動いたのは、八咫だ。
持ち前の身軽さで音無へと体当たり!
が、そこは音無も大人しくはやられない。
ほとんど動かずひらりと半身で八咫の攻撃を躱した!
そのまま、八咫の足を引っ掛ける!!
つんのめった八咫に、金華が「あっ」と声を上げた。なんだかんだで相棒には勝ってほしいのだ。
「まだ、まだなんだよ!!」
八咫、耐えた! 両手と片膝を泥につけたが、審判からアウト判定は出ていない。
そうしてまた、踊るような軽やかさで音無へと飛び掛る!!
ひらり、ひらりと少女が舞う。
永遠に続くかと思われたひとときだが、何事にも終わりはつきもので。
「とぁ!!」
「あっ」
ついに、八咫の全力タックルが音無を捉えた!
ぱしゃん、と可愛らしい音を立てて、八咫に抱きつかれた音無が、田んぼに尻餅をつく。
「そこまでぇい!」
辰巳氏の声が響き渡る。
泥沼のバトルロワイアルの勝者は、未だ音無に抱きついたまま嬉しそうに笑う八咫に決定した。
●戦いの後に
決着がついた後もしばらく田んぼで遊んでから、湧き出す地下水で体を清めた一行。
さっぱりした後は、各々が持ち寄った飲み物や食べ物を並べて、皆で食事の時間だ。
秕が持ち寄った高級弁当を取り分けてもらいながら、八咫は手に持ったソレを眺めてくふふと笑う。
ぴかぴかと輝くメダルは、手作りとは思えないクオリティーで。眼鏡をかけたまんじゅうのような衣装の施されたそれに、緋色の本気加減と、喜んでもらいたいという真心を感じ取る。
「八咫さん、こっち向いて?」
かしゃり、と軽い音を立ててインスタントカメラのシャターが降りる。
秕が覗いたファインダーの向こうには、誇らしげにVサインとピカピカのメダルを掲げる八咫がいるのであった。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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