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よしさんのプーホー業界マルハダカ第一回

昇竜

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/10/14 16:26

掲示板

オープニング

「さあやって参りました、よしさんのプーホー業界マルハダカのお時間でございます!」

 土曜夜のとあるチャンネルでは、この秋ゴールデンへ進出したライヴスリンカー番組が放送されていた。
 黒髪の少年のようなMCが一人きり、スタジオの真ん中で堂々と声を張り観客に手を振って挨拶をする。

「来たぜ俺の時代、MCはワタクシ天宮すみよしが勤めさせて頂きます!」

 シャキーンというSEと共に、天宮すみよし、初の冠ゴールデンというテロップが出る。観覧のお客さんも天宮のファンが多く、ヒュ~という歓声と祝福の拍手が鳴りやまない。
 天宮すみよしはシャイニーズ事務所所属のライヴスリンカーアイドルである。芸人のような雑食精神の持ち主で、アイドルという枠にとらわれずバラエティやドラマなどに引っ張りだこ、常に注目を集めている。
 しかしこの男、三度の飯より収録を巻くことが好きなのである。歓声に被せて、構わずカンペを読み続ける。

「え~この番組はですね、様々なライヴスリンカーたちをゲストにお迎えし、3つの企画を通して、視聴者の皆さんにリンカーを身近に感じて頂くと共にその凄さを知ってもらおうという趣旨になっております!」

 早口言葉のように喋る天宮の背後に、番組スタッフが用意したボードが運び出されてきた。天宮はボードを軽く読み上げつつ、所々に張られたシールを剥がしていく。

「ハイ企画第一弾、じゃじゃん! リンクブレイバー! これはね、まあ自己紹介コーナーですね。一番勇気あるカミングアウトをした人が勝ちと。お名前とね、主な職業、その他英雄の紹介などがあれば聞いて参りたいと思います、が……」

 と、天宮がサンダーランスの如き鋭さでボードの『主な職業』部分を指さす。

「おい主な職業ってなんだよ! なんかフリーターみたいになってるじゃん!」

 早速、観覧席から笑い声が上がる。幸先よし、と天宮はほくそ笑む。

「まあ何で飯を食ってるかってことね、主にね。俺みたいにHOPEからの給料だけじゃ食ってけない奴もいるから! はい次、」

 ひとしきり盛り上がると、天宮はこの下りオッケーと言わんばかりに速やかに次の項へ移った。

「第二弾、じゃじゃん! 壁ドンットノート! ネーミングセンスないなー。この企画はね、俺が女の子役をやるので……」
『キャ~!』
「いやキャ~が早い! 俺まだ説明してるから!」

 盛り上がる観覧を押さえつけ、天宮が続ける。

「リンカーさんには俺に、流行りの壁ドンをやってもらいます。2、3人にやってもらおうかな。で、俺を一番照れさせた人が勝ち! まあ本当は俺はねえ……やる方が、得意なんだけどね」

 声色を作った天宮が1カメに向かってキラーンというSEと共に決めポーズをとると、観覧から示し合わせたようにフゥ~と歓声が上がるが、天宮は相変わらずスルーして次のシールをぺらりとめくる。

「はい第三弾、じゃじゃん! ハデハデストロイ! これも2、3人にやってもらおうかな。この企画ではね、リンカーさんに自分の持っているスキルの中で一番美しい、カッコいいと思う技を披露して頂きます。これはねえ、みんなが一番盛り上がった人が勝ちかなあ」

 シールがめくり尽くされたボードをスタッフが速やかに運び去る間も、天宮は喋り続ける。タレントたる者、黙ってはいけないのである。

「これからゲストの皆さんと、これらの企画をやっていこうと思います。それぞれ勝ち負けもありますんで、最後まで楽しみに見ていてください。もちろん勝者には豪華賞品も用意して……」

 ADとアイコンタクトを取っていた天宮だが、カメラはそこでADが両手で大きなバツ印を作る姿に切り替わり、続いて天宮が驚く表情が映し出される。

「え……ないの?賞品、ないの?はーショボいなーこれゴールデンよ?もう深夜卒業したのよ?収録中に何でもいいから用意しとけよ!」

 おどけた仕草でスタッフにドスを利かせる天宮がスタジオから笑いをとったところで、番組は本編へ移行していく。

「それでは本日のゲストこちらの方々ですどうぞ!」

解説

概要
TV番組『よしさんのプーホー業界マルハダカ』に出演し、番組を盛り上げてください。

番組内容
①リンクブレイバー
名前、主な職業、コメントをお聞かせください。最も勇気ある自己紹介を披露した方が勝ちです。
コメントは視聴者に一言でも、掘り下げたい話題や英雄との掛け合い何でも結構です。
②壁ドンットノート
壁際に立った天宮に対し、その身体を壁に押し付け、怒涛の攻め台詞を言い、より照れさせた方が勝ちです。
もちろん英雄が壁ドンしても構いません。
③ハデハデストロイ
スタジオ中央に立ち、リンクドライブからスキル発動までの流れを披露して観覧席を沸かせた方が勝ちです。
敵の用意や照明操作など必要があればできる限りお手伝いします。
④その他
ワイプで抜かれた際の反応やCM振りなどがあればお願いします。メイン企画が優先描写となります。

天宮すみよし
大手アイドル事務所所属のトップリンカーです。
攻撃適性を持ち、トークも辛口です。英雄クラスはソフィスビショップに該当し、バラエティでも打たれ弱い側面を持ちます。
彼の英雄は今回ギャラが出ておらず出演しません。

リプレイ

●「早速ですが自己紹介の方お願いしまーす」

 最初に指名されたのは浦見 真葛(aa0854)とシュノギ(aa0854hero001)である。

「浦見真葛です。一般企業に勤めてます。いちおーリンカー枠みたいなものなのかなー?」

 一見至って平凡な青年。しかしこの男、世渡りのためには手段を選ばないのである。浦見はシュノギに無言で目配せすると突然、英雄を抱きしめた。

「んでこっちが、僕の家族みたいな存在、シュノギ♪」
「……我はシュノギと申す。急にこの世界に放り出されて寒さと寂しさに震えていた我に、真葛が差し伸べてくれた手の優しさあたたかさは忘れられぬ」
「ばーか、今言う事じゃないでしょー? まーそんな訳でー、こーゆー普通っぽいリンカーもいるから怖くないよーって伝えられたらいいなって思って参加しました♪」

 名残惜しげに抱擁を解く浦見の顔には『嘘は言ってないかなー♪ 美談ってこんなもんでしょ』と書いてあるし、潤んだ瞳で浦見を見るシュノギの顔には『馬鹿と言いおったな後で覚えておれ』と書いてあるが、これが迫真の演技だと気付く者は少ない。
 美しいパートナーシップに涙ぐむ者すらおり、カメラは二人に殺到。ノーマークの天宮はとんでもない逸材を掘り当ててきた番組スタッフの手腕を憎んだ。
 そんな二人を見て、笑いをこらえていたのは英雄白虎丸(aa0123hero001)の召喚者虎噛 千颯(aa0123)である。これ幸いとばかりに天宮は虎噛に話題を振った。そこへADがカンペを出し、天宮はこの陽気な兄ちゃんと逸材が親しい間柄であることを知る。

「友達同士なんだ、二人は?」
「そーなんです、ちーちゃんに誘われてー♪」
「あ、ごめんなさい今虎噛サンに聞いてるから」

 ちゃちゃを入れた浦見はヒドイ……と項垂れ、それをシュノギが慰める。その茶番をいつまで続けるつもりなのか。天宮は浦見たちを無視して虎噛に先を促す。

「うぇーい! 俺ちゃんの名前は虎噛千颯ってんだー、気軽にチーちゃんって呼んでなー! 駄菓子屋やってんぜー、良かったら来てなー! 俺ちゃんやさしーから奢っちゃうぜー!」
「あなたね、こちとら職業ライヴスリンカーってことでオファーしてるんですよ。英雄のクラスくらい紹介しなさいよ」
「あ、それならバトルメディクだぜー! 俺ちゃんこう見えて癒し系だからな!」
「安心してください、今の所どう見ても癒し系です」
 一方、虎噛の隣で居心地悪そうにしていた英雄白虎丸は、笑ってばかりの召喚者に苦言を呈した。
「千颯……前振りが長い……」
「やだ、白虎ちゃん何時の間にそんな業界用語を……? あ、こっちが俺ちゃんの相棒の白虎ちゃんな! 武士なんだぜー、たぶん!」

 多分と言っているが、長身に纏う静かな威圧感、前振りの時間配分まで考えてくる真面目な性格、基本に忠実な武士像である。なぜかホワイトタイガーの顔と尻尾が付いてる以外は。

「白虎丸でござる……こういう場には慣れて無いので些か緊張して……千颯! 被ってる!」
「あ! テレビ見てるー? 父ちゃん出てるよー!」

 笑いと拍手が絶えない、そんな中周囲を見てからおざなりな拍手を始めたツラナミ(aa1426)と38(aa1426hero001)は天宮に目を付けられた。

「そこの二人、ちゃんと聞いてるの?」

 ツラナミはスクエア・フレームの伊達メガネとよれよれの黒い長袖シャツにGパン姿でダルそうにしていたが、ついに指名されて死ぬほどゲンナリした表情で額を押えた。英雄にかねてからの疑問を問う。

「なあ、何で俺はここにいるんだ……?」
「依頼関係の封筒に入ってた。入れた人、間違えたのかもしれない」
「そいつ死ねばいいのに……あー、どうも。ツラナミです。以上」

 ……2秒後、天宮はズコーッとスタジオの床に転がった。スタジオ爆笑。

「終わり! 他には?!」
「あ? 別にねぇy」「ツラナミ。職業等自分語りしろって、あそこに書いてあるよ」

 38がカンペを示すと、それをあえて無視していたツラナミは『余計なことを……』と英雄を見る。

「ハァ。職業? 職業ねぇ……自由業みたいな感じか。個人経営なもんで、好きにやってる。最近は忙しいな」

 ……危ない匂いのキツすぎる話である。現場が静まり返ったので、天宮は慌てて切り上げに入った。

「じゃサヤちゃん、最後に一言!」
「私は……サヤ。英雄をやってる。外見は変わらないタイプ。此処に来たのは今から約20年ほど前の」
「いや、一言ってのは別にお前の自己紹介しろってことじゃないからな?」
「そう……テレビってよく分からない」
「同感だ。今のやつ、一言にしといてくれ」
「おいふざけんなよ……協調性ってもんをどこに投げ捨ててきたのこいつら」

 ホープを身近に感じてもらうはずが、これは逆効果だ。天宮は反省し、次は普通の人にしようとスーツ姿でサラリーマン風の天野 雅洋(aa1519)を指名した。

「天野雅洋です。XX工業のホープ担当をしております」
「あーXX工業ね。おたく業績いいから、ホープの仕事とかしょっぱくてやってらんないでしょ?」
「いえ、皆さんのお手伝いができて本当嬉しいっす! 先輩も優しいしやりがいあります!」
「あっそう、よく訓練されてんね。お隣は?」
「こちらは私の英雄リュドミラ ロレンツィーニです」

 リュドミラ ロレンツィーニ(aa1519hero001)は豊かなバイオレット・ブロンドを揺らしてぺこりとお辞儀した。

「はい、リュドミラはアマノの用心棒です。だからいつもアマノの側に居なきゃならないんです」
「え、何その飛躍した自己紹介。どゆこと?」
「アマノ何時もリュドミラの事見てくれるの……リュドミラ、アマノに優しくして貰って毎日とっても幸せです!」
「あー天野サン、これは責任取る必要があるよね。まずは罪状を聞こうか、馴れ初めは?」
「いや、ちょ、彼女は技術……あ、ダメかこれ? ええとドロップポイントに巻き込まれた時に出会った異世界の英雄で…」
「いやいや本当のこと言っちゃった方がいいんじゃないの?」
「リュドミラは多分そこで産まれたんです。アマノと出会うためにリュドミラ産まれてきたと思う。だから……」
「ちがいます! 彼女はどこでない場所、何時でもない時から来たと言いました。誰か知っ! ……え?」

 突如スタジオは悲鳴に包まれた。何故かリュドミラが天野に抱き付いたのだ。天野は慌てたが、出演者たちは呆れ顔だ。

「ダメだこりゃ。次行こっか。えーそちらの……」

 天宮は枦川 七生(aa0994)と目が合った。じーっと観察され、天宮は自分の顔に何か付いてるのかと頬をぺたぺた触った。その心中を察して、枦川の英雄キリエ(aa0994hero001)は使い古された謝罪の言葉を今日も言う羽目になる。

「すみません、この人見ての通り社会不適合者なもので、お気を悪くなさらないでください」
「あ、ウン……あなた大変だね。お名前は?」
「僕はキリエといいます。先生、自己紹介を……」
「自己紹介……? さて、何から説明したものか……ふむ、ここは先ず名前からいくべきだな。枦川という。ごく一般的に職業というような職にはついていないと言えるだろう。頭脳労働を主に行ってはいるがそれを職に当てはめるとなるとこれと定めるのは中々難しい」
「えー要約すると、無職ってこと?」
「普遍的な概念に則るならばそういう解釈もできるな。肉体労働ならば私の英雄の、キリエがしているよ。職業、という事ならば彼に聞く方が良い」
「キリエさん、失礼ですがお勤めは?」
「スーパーのレジ打ちですけど」
「はい、いま全スタジオが泣いたと思います。枦川サン、他に何か?」
「そうだな、ならばこれを見ている観客……視聴者になるのかね、この場合は。彼らに質問を幾つか……」
「スイマセン手短に」
「ん? そうか、それなら一つだけにしておこう。君達はこの番組の何に対して面白さを感じ、これを視聴或いは見学をしに来ているのかね? それが分かればこの番組も……キリエ、なんだその顔は」
「もう何も話さなくて良いですから。黙って大人しくしててください先生」
「ハイ、ありがとうございました。今夜は以上の皆さんと一緒にお送りしたいと……」

 天宮が次のコーナーに進もうとすると、存在を無視された鵠沼 龍之介(aa1522)の英雄三鷹 オサム(aa1522hero001)が椅子からずり落ちた。

「もーテンちゃんってば! こんなイカしたメンズを忘れるなんてさー」
「ヤダよ聞きたくない、嫌な予感するもん!」
「まあまあ聞いたげてよ、ホラ龍ちゃん」
「あ、ああ……鵠沼龍之介、27歳だ。元自衛隊員で今はホープ所属のエージェント「兼オジさんの恋人♪」をしている」

 瞬間、鵠沼が勢いよく立ち上がりガターンと椅子が倒れた。三鷹が爆弾を放り込んだせいで現場は一時騒然となる。鵠沼は三鷹に殴りかかり、近くに座っていたキリエと天野が二人を止めに入った。天野はリュミドラにしがみ付かれたままだし、枦川はそのカオスを興味深そうにマジマジと見ている。

「おいヤメろ! カット! カットをお願いします!!」
「フフッりゅ~ちゃんってば、照れちゃってかーわいー♪」
「だからヤダって……おいスタッフ笑ってんじゃねえよ!」

 頭を抱える天宮をよそに浦見と虎噛は涙を浮かべて大爆笑、白虎丸とシュノギは何が何やら……といった顔(片方は演技)で、ゲッソリしているツラナミを38がぼんやり見ている。天宮はこのひどい絵面を立て直すべく、三鷹に掴み掛っている鵠沼をなんとか宥めて椅子に座らせた。

「鵠沼サン大丈夫です、ちゃんと(ピーッ)て入れときます」
「それは何か……別な誤解を生みかねん気がするんだが」
「ハァ出ちゃったなー、第一回にして規制音入っちゃった……三鷹サン、自己紹介どーぞ」
「あ、オジさんはね、三鷹オサム。年はひ・み・つ♪ 名前も忘れちゃってて、りゅ~ちゃんが名付けてくれたんだ。でもせっかくならオジさんも鵠沼姓にしてさ」
「黙れ。必要な事以外喋るな。口と目と耳と鼻を閉ざして速やかに窒息しろ」
「んもー。まぁこういうテレ屋なりゅ~ちゃんも大・大・大好きな英雄さんです♪ 職業は……愛の、狩人……かな?」
「お前が射られろ」

 愛の、の後にンフと吐息を挟んだ三鷹に、すかさず鵠沼の鉄拳が炸裂するのだった。
 『怪我の功名』との天宮の判断で、最も勇気ある自己紹介を披露した出演者は鵠沼龍之介に決定した。

●「続いてのコーナーは壁ドンットノートー!」

セットは転換し、壁の生えたステージが運ばれてきている。3人のリンカーがここで壁ドンを披露するのだ。さて誰にしようかと考える天宮の足元で、人気アイドルなのにこんな企画かわいそう(笑)という話をしている二人に、天宮はカチンときた。

「浦見サーン、チーちゃん、こちらへどうぞー」
「あちゃー天宮ちゃん怒っちゃったじゃん、真葛ちゃん先やってよー!」
「え~。んーまーいーかー。女の子にするみたいにすればいーんでしょー?」

 どこからでも来い! と壁前に仁王立ちする天宮に対し、ステージへ上がった浦見は落ち着いている。
 ADのキューと同時に、浦見は天宮の肩を押して壁に押し付けた。しかし強引さはなく、背中が壁に触れた程度だ。二人の距離が縮まると観覧席の歓声が聞こえた。

「……思ってたより優しいんだね」
「え? だって照れさせるって言ってもねー、男相手じゃキモいよね。ごめんねえ?」
「別に? そうゆう企画だし」
「はー……天宮ちゃん。僕すごい緊張してるんだから、リードしてよ」
「嘘つけ! ……うわ」
「ホントだってほらー、掌とか超熱くない? ……わあ、天宮ちゃん指も長いねー触っていー?」
 握られた手の形を確かめるように指でなぞられ、天宮は浦見を睨み付けた。が、浦見は笑うばかりだ。
「僕だけ役得だとファンの子に申し訳ないから解説するとねー? 指はすべすべでー、爪もつやつやでー……香水かな? いー香り」
「も、もう十分でしょ。離れてよ、っ!」
「っと、ちょっとごめん髪触るね? 前髪乱れてたから」

 ベタ褒めあたりから顔が赤くなった天宮は、前髪を耳にかけてもらって、浦見の瞳が美しいパープルだと知った瞬間腰が抜けた。

「ねーこれどこまで続けていーの?」
「もういい……」
「女の子にするとこまでしていーの?」
「もういいっつってんだろ!」

 そこでようやくADがカットをかける。遅すぎだ! と天宮がスタッフに凄んだが、観覧席のご婦人方には概ね好評だったようだ。

「ウケんだけど、真葛ちゃんめっちゃ様になってたし! なにーいつも誰かにやってる系~?」
「んーてゆーか、相手がチョロすぎ?」
「うるさいよ! ホラ、次はチーちゃんの番!」
「ねー天宮ちゃん、これって別に英雄がやってもいいんだよね?」

 天宮は別にいいけど……と言いつつまさか、と虎噛を見た。そのまさかである。

「壁ドンを……白虎ちゃんがやります!」
「……は? すまん千颯、意味がわからないのだが……」

 ドヤ顔の虎噛、これには観覧席もびっくりだ。白虎丸は明らかに壁ドンが分かっていない。

「相手を壁際に追い込んで止めの一言を耳元で囁けばいいんだよ! 白虎ちゃんの~カッコいいとこ見てみたい~ハイハイハイ」

 虎噛に悪ノリした観覧席も手拍子を始め、スタジオは謎の一体感に包まれる。もはや後には退けない。天宮はこりゃ楽勝だなと鼻で笑った。しかし彼は知らなかった……白虎丸が『止め』を違う意味に捉えていることを。
 ADのキューと同時に、白虎丸は天宮の予想を遥かに上回るスピードとパワーでその身体を壁に押し付けた。一瞬息ができなくなって唖然とする天宮に、白虎丸の顔が近づき金色の瞳が射貫くように見つめた。

「う……っ」
「……こうしなければ、逃げられてしまうからな。なに、怖いのは最初だけですぐに何も感じなくなるさ……」

 イイ声だった。カット! というADの声で白虎丸はすぐに相手を解放したが、天宮は心臓のドクドクが止まらない。白虎丸の中で壁ドンとは、敵を壁に追い詰め息の根を止める、という解釈がなされていたようだ。想像以上の面白さに虎噛と浦見は声をあげて笑い、シュノギは戻ってきた白虎丸を褒めてその頭をモフモフと撫でた。

「白虎丸、見事じゃな。そなたまこと勇ましき虎じゃ!」
「シュノギ殿……それなら良かったでござる。シュノギ殿は優しいでござるな」

 シュノギはカメラに向かって『ほれ幼子が虎にモフモフする愛らしき姿じゃぞ、撮れ高を稼ぐが良い』という視線を送った。彼の前ではテープがいくらあっても足りない。虎噛があざと過ぎるシュノギに抱腹絶倒した頃、天宮はやっと立ち直った。

「くっ、次で挽回してみせるぜ……最後の壁ドンは誰だ?!」
「はーい♪」
「あっごめんなさい今本番中なんで」
「テンちゃん、僕も出・演・者!」
「マジかよ!」

 最後の刺客、それは三鷹であった。天宮は既に怯えていて泣きそうだ。良識的な召喚者が『アイツは下手な愚神よりも愚かですよ?!』と周囲に食い下がるも、残念ながらテレビ番組は数字を取ることだけが大事なので天宮の精神衛生など知ったことではない。間もなくADによってキューが切られた。
 三鷹はノリノリで天宮に近付くと、左手でその腰を抱き、しなだれかかるように壁に押し付ける。右肘が壁に付くほどに覆いかぶさる体勢で天宮の髪に触れ、仰々しくメガネを外し、鼻と鼻が触れるぐらいの近さで天宮を見つめ……天宮はもう照れるというよりひたすら恥ずかしくて床を見ていた。そんな天宮に怪しく微笑むと、三鷹がその耳元で囁く。

「女の子役じゃなくてさ……男の子として口説いてもいいのかな、これ? テンちゃん、綺麗なお顔だよねぇ。ボクの下で歪んだ所も……みて、みたいな?」

 天宮はもうコイツ殴り飛ばしたれと思って顔を上げた。が、罵声を絞り出そうとした唇に人差し指があてがわれ、思わず動きが止まる。そのまま顎を掴まれて上を向かされ、そして……

「いい加減に……ッしろぉ!」

 ゴシャアァ……

「りゅーちゃん……嫉妬……?」

 鵠沼のジャーマンスープレックスを食らって轟音と共にぶっ飛んだ三鷹は、うわ言をほざいたのちガクッと気絶した。天宮はアイドル生命を救われたのだ。そんな中、観覧席からは舌打ちがたくさん聞こえたという。
 その後『母親に見せたくない方』という天宮の意見で、壁ドン王は三鷹に決定した。

●「最終対決はハデハデストロイ~!」

 壁ステージが取り除かれクロスが掛けられた謎の装置が設置されたスタジオ。中央にはツラナミと38が立っている。美しいスキルを披露する3人のエージェントの一人にツラナミが選ばれたのだ。

「派手さなら他の連中のが向いてるじゃねえか」
「まあとりあえずやってみてよ」

 天宮に急かされ、ツラナミは渋い顔で38と共鳴を開始する。38が光の塊になってツラナミを覆い、その髪が浮き上がった。幻想蝶の輝きは具現化し曲刀になる。初めて超能力を目の当たりにする一般人たちはその光景に息を呑んだ。
 観客が瞬きをする間に、ツラナミは用意された敵……かかしに迫り、その首を切り落とした。しかし驚くのはまだ早い。ツラナミはかかしの背後にもいたのだ。ツラナミの分身はかかしの首が地面に落ちる前にその胴体を真っ二つに切り裂くと、溶けるように消えた。

「……元々派手さを抑えた作りなんだよ。期待するな」

 リンクを解いたツラナミが静まり返るスタジオに言わんこっちゃない、という感じで言うと、直後拍手喝采が起こった。予想外の出来事にゲェ……と漏らすツラナミ。

「カッコいい! カッコいいよ、地味だけど!」

 観覧も口々に同意を示す。必要なもの以外を削ぎ落したような、洗練された美しさであった。しかし華やかさに欠ける点は否めず、放送に耐えるかどうかは編集次第である。

「まあバッサリ切られるだろうけど、一応使えるようにしとこっか! ツラナミさんに今一度大きな拍手!」

 居心地悪そうに下がるツラナミに代わり、やってきたのはリュドミラを侍らせた天野だ。天野が設置された謎の装置のクロスを取り去ると、現れたのはどこかで見たことがある縦長のディスプレイである。

「こちらは効果数値を段階評価する測定器です。これから二本のスタッフを媒介に、銀の魔弾と呼ばれる基礎的な魔法を使って効果量の違いをお見せしたいと思います。赤いキャップのスタッフが当社の新開発デヴァイス有りになります。まず増幅器無しから……リュドミラ、リンクだ」

 観覧席は色めきたち興味津々だが、出演者はここまでやるか……と呆れ顔だ。実はこの装置、天野の持ち込みである。さらに的として愚神っぽいゆるキャラの縫いぐるみも用意しており、測定器を挟んで天野の向こう側にディスプレイされている。
 リンクドライブが始まると、二人はプリズムのように交錯する光に包まれ、その中からガラス細工のような姿となったリュドミラが現れた。その反射光は様々な色に輝き、これだけでかなり綺麗だ。リュドミラの姿をとった天野は何かと説明を挟みながら実験を進めるのだが、その美しい姿に見とれて誰もまともに聞いていなかった。

「このように増幅器付きスタッフを媒介すると反応数値が大幅に上昇します。この製品は従来品に比べ……」
「ハイ時間切れ~」

 天宮に押しやられ、天野は止む無く引き下がった。本当は仕掛けをして増幅器を使ったらディスプレイが火を噴く様にしようとしたが、直前で本社の物言いが付いて断念したことは天野しか知らない。
 次に進み出たのは枦川とキリエである。この二人が果たしてどんな変身を遂げるのかと期待を膨らませる観覧席には目もくれず、二人はアイコンタクトのみで速やかに共鳴状態に入った。木の葉を揺らす程度の風がスタジオを吹き抜けたが、そこに立つ枦川の姿はどんなに目を凝らしても共鳴前と変わった所はない。諦めきれない様子の一般人たちに、枦川は事も無げに言い放つ。

「派手なものだと、言った覚えはないが」

 実際には身体操作権の共有という特筆すべき変化を遂げているのだが、アピールの仕様がなかった。しかしスタッフが気を利かせてスタジオの照明が暗くなると、新雪のような白く細かい光が体の周りを降るように漂うのが見られる。その儚げな美しさに観覧席はほぅ……と息を漏らした。

「私も銀の魔弾を披露したいのだが。この手のパフォーマンスの場合、リンゴを打ち抜くのが定石か?」
『先生、それは弓です』
「飛び道具としては同じだと思うが、ダメか。ならば……鶏卵程度の大きさならばどうかね」
「ん~卵を打ち抜けたらすごいよねえ! さすが準備がいいよウチのスタッフは、ホラこんなところに卵が」
「それではツラナミ君、私の的の土台になってくれ」
「は?!」

 突然指名されたツラナミは愕然としたが、天宮にむりやり前へ引きずり出された。枦川は人目を避けたがるツラナミに観察対象として並々ならぬ興味を抱いていたのだ。ツラナミは親指と人差し指で鶏卵を支えさせられ、枦川の前に立った。

「間違っても指を吹き飛ばしてくれるなよ」
「なに、大丈夫だ、悪いようにはしない」

 直後、行くよの合図も無しに放たれた銀の魔弾で突然鶏卵が破裂し、ほとんどの人がその瞬間を見逃した。ツラナミは卵の中身を浴びて黒いヘアスプレーが一部剥がれ、地毛が紫なのがバレた。
 最終対決の勝者は、歓声のひときわ大きかった天野に決定した。

●「それでは企画勝者の皆さんには、賞金が進呈されます!」

「ではプーホー業界マルハダカ、次週もお楽しみに~」
「はー面白かったー、最前列の右から二番目かわいくない? この後合コンできないかなー♪」
「真葛ちゃんガッツリ系! マジウケる!」
「あなたたちホント最後まで掻き乱してくれたね」

 こうしてプーホー業界マルハダカの記念すべき第一回収録は有事終了した。
 その後編集班の血を吐くような大手術の結果、世間的に当たり障りのない内容になって放送された当番組は17パーセントという高視聴率のもとに成功を収めたのである。瞬間最高視聴率はシュノギが白虎丸をモフモフした瞬間19パーセントで、最も多くの視聴者がチャンネルを変えたのは鵠沼のぶっこ抜きジャーマンで三鷹が昇天した瞬間-3パーセントであった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • モブ顔の王者
    浦見 真葛aa0854
    人間|23才|男性|攻撃
  • エージェント
    シュノギaa0854hero001
    英雄|11才|?|ソフィ
  • 学ぶべきことは必ずある
    枦川 七生aa0994
    人間|46才|男性|生命
  • 堕落せし者
    キリエaa0994hero001
    英雄|26才|男性|ソフィ
  • エージェント
    ツラナミaa1426
    機械|47才|男性|攻撃
  • そこに在るのは当たり前
    38aa1426hero001
    英雄|19才|女性|シャド
  • エージェント
    天野 雅洋aa1519
    機械|29才|男性|攻撃
  • エージェント
    リュドミラ ロレンツィーニaa1519hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 家庭派エージェント
    鵠沼 龍之介aa1522
    人間|27才|男性|攻撃
  • カレーな防衛アルコール系
    三鷹 オサムaa1522hero001
    英雄|35才|男性|ジャ
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