本部

黒猫の怨念、逆さ猫祭り

時鳥

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/05/14 20:20

掲示板

オープニング

●猫祭りとは
 フランスとの国境付近にあるベルギーのとある町。そこでは3年に一度、5月に猫祭りと称される催しが行われる。
 その町へ、タオ・レーレ (az0020)とその英雄ゼファー・ローデン(az0020hero001)はやってきていた。と、言うのもH.O.P.E.にこの町近辺に怪しげな黒い大きな影を見かけるという噂が舞い込み、近くを通った者に状況確認のお願いがなされていたからだ。
 もしかしたら何か強い愚神や従魔が潜伏している可能性もある。より強さを求めるのであれば実践に身を投じて行くのが一番。少しでも動きがある場所に足を向けるべきだ、とタオは考えていた。
 時刻は夕方、これから徐々に赤い空を闇が侵食していく時間。二人は並んで町の中に怪しい影がないか、と見回っていた。
「なんか祭があるって聞いたけど、全然そんな雰囲気ないね」
「猫祭りのことか? それなら今年は開催されないぞ」
「えっ!」
 ぽつり、と呟いたタオの言葉にベルギーで有名なポテトを口に運びながらゼファーがさらっと答える。予想していなかった言葉に驚きの顔で振り返るタオ。
「猫祭りは3年に一度しか開催されない。そしてそれは昨年開催された、つまり……」
「そっかぁ……あ、で、でも遊びに来たわけじゃないから! 修行しにきたんだし!」
 意味ありげに額に手を当てて言葉を途中で切るゼファー。その様子に慣れているタオは残念そうな表情を浮かべた後すぐ首を横に揺らして本来の目的を自分に言い聞かせる。
「そもそもタオが想像している猫祭りとここの猫祭りは違うものだぞ。ここの猫祭りの発祥は魔女裁判があった時代まで遡る。その時に魔女の象徴の黒猫を飼って可愛がっていた人たちが魔女裁判を受けないために高いところから猫を落として殺した。それを弔うための祭りを毎回開催しているわけだ。猫の仮装やその由来の話をモチーフにしたパレード、最後には猫のぬいぐるみを高いところから落とす、という一連の流れがある」
「ゼファー君、なんでそんなこと分かるの? っていうか、随分詳しいね」
「フッ、この俺にかかればタオの考えていることも、祭のことも分からないことなど――俺のポテト!」
 得意げに長々と話し続けるゼファーの持っているポテトに手を伸ばし勝手に食べるタオ。そういう話は聞く気がない。いつものことだ。そしてゼファーの後ろポケットにはこの町のパンフレットがはみ出ていることにタオは気が付いていた。二人は今のところ不穏な空気など何一つ感じていない。そう、今、は。

●黒き怨念
「なに? 赤ん坊?」
 ゼファーのポテトを食べ終わった頃、そろそろ宿にでも戻ろうとしていたタオの耳が甲高い泣き声を捉える。それは赤ん坊が癇癪を起して泣いているような、けれど、複数の猫の鳴き声のような。
 それは徐々に二人に近づいてきていた。声が大きくなるに従って、それが泣き声と鳴き声が混じっているものであるとタオは理解する。その声が唐突に止まった。音がする方へ目を凝らすと殆ど日が落ちた暗闇の中、金色の小さな双眼が6つもタオ達に向けられる。
「――っ! なんだ、猫か。このくらいで驚く俺ではない。だが、タオを驚かせた罪、俺が償わせてやろう」
「あ、待って、ゼファー君!」
 一瞬息を飲むがすぐにそれが猫であると判断したゼファーは安易に猫へと突撃していく。猫なら勝てる、そう判断したのだが――タオは赤ん坊の声がしていたこと、そして言い知れぬ不安を覚えてゼファーを止めようとした。
 けれど、それは遅かった。目の前の闇が濃くなりゼファーの姿が掻き消える。いや、違う。暗闇と見えたのは漆黒の艶やかな獣毛。そして大きな金色の瞳が二つ、タオの眼前に現れた。ほんの少し隙間から白く鋭い犬歯も覗く。つまりゼファーは呑み込まれたのだ。この大きな黒い獣に。
「ゼファー君を返して!」
 タオの声に大きい獣は身を起こしその全容を星の出始めた夜空の元に晒す。二本の尾、三角のピンと尖った獣耳、金色の双眼、丸く大きな腹。月の光を反射する黒く艶やかな毛を纏った巨大な猫。
 その姿に町のあちこちから悲鳴が聞こえる。その混乱を見下ろして黒猫は喉を鳴らした。
「怯え叫ぶがいい、人間どもよ。今宵蘇りしは遠い昔の恨み。塔の上から落とされた何匹もの怨念。その恐怖を存分に味わうがいい」
 地に響くような楽し気な声。悲鳴が上がる度に心地よさそうに耳を揺らす。その足元には赤ん坊を咥えた3匹の黒猫。普通の猫より二回りは大きい。
「まずは弱き幼子を同じ目に合わせ、最後には全て食らい尽くしてやろう」
 その巨体な黒猫の一言に三匹の黒猫は四散した。
 タオはその様子に歯を食いしばる。ゼファーが居なければ共鳴することもできない。他のエージェントが居れば……。しかし、目の前の敵から逃げることなどタオは出来ないのだ。彼女は金色の瞳で大きな獣を見据え、たとえ敵わないと分かっていても拳を構えた。

解説

●目的
巨大な黒猫のデクリオ級愚神1体の討伐、もしくは撃退。ゼファーの救出。
黒猫のミーレス級従魔3体の討伐、赤ん坊の救出。

●黒猫愚神について
巨大な黒猫。大きさは6メートル前後。大きい膨らんだ腹をしている為移動はしません。
攻撃を仕掛けるまでは愚神から攻撃を仕掛けてくることはありません。が従魔が目的を達成すると近くの人間を呑み込もうとします。

ある程度ダメージを受けると巨大な体を維持できず呑み込んでいたすべてのものを吐き出して普通のサイズの猫になります。
普通のサイズになってしまうと戦闘能力がガタ落ちするので撤退を図ります。
・攻撃方法は牙、爪、二つの尻尾。
・呪いの鳴き声:魔力を込めた呪いの鳴き声。耳にすると脳内に直接響きダメージを食らう。

●従魔について
怨念から生まれし三体の従魔。咥えている赤ん坊をより高い建物の上から落とすことに専念しています。反撃はしてきませんが、素早い動きで逃げ回ります。
従魔が目指す場所は愚神から10メートル離れた鐘楼です。三匹とも同じ場所を目指していますが、ルートがバラバラとなりヨーロッパの街並み特有の狭い路地を駆け回っていきます。
また赤ん坊を奪還すると攻撃を仕掛けてきます。
・攻撃方法は牙、爪。攻撃力は低く単調な攻撃をしてきますが、素早さは高いです。

リプレイ


 巨大な影が町を覆う以前、まだ平和な時間帯。カグヤ・アトラクア(aa0535)とクー・ナンナ(aa0535hero001)は町の入り口に立っていた。
「魔女狩りの町の謎の黒い影。魔女が悪魔召喚してたりしたら面白いのぅ。見つけて飼うのじゃ」
「ベルギーだから、巨大チョコワッフル従魔とか、そんなオチでしょ」
「ふむ、ではどちらが当たるか夜の町を散策じゃ」
 楽しそうに足を踏み出すカグヤの背を見ながらため息をつくクー。
「帰って寝たい……」
 切実に呟いたその言葉に耳を貸すものは誰もいなかった。
 もちろん、町を散策しているのは彼女達だけではない。唐沢 九繰(aa1379)とエミナ・トライアルフォー(aa1379hero001)は大規模作戦がひと段落事後の手伝いなどの合間に息抜きにきていた。日が沈みかけ赤い色が消えていき星が顔を出し始めた町並みは童話にでも出てきそうな雰囲気がある。
「綺麗な街並みですね!」
「歴史的な出来事もあった街のようですね」
 辺りを見回しながらはしゃぐ九繰の横でエミナは観光ガイドを眺めながら呟く。表情の変化もなく声も単調だが、彼女の右手の小窓には興味深そうな頷いているような顔文字が表示されていた。
 一方、二人が通り過ぎた一軒のレストラン。鬼灯 佐千子(aa2526)とリタ(aa2526hero001)が夕食を取ろうと来店したところだった。彼女たちは噂を聞き調査の為この町へと足を運び宿屋に何泊かしている。宿泊費節約のため、リタは幻想蝶の中でここ数日を過ごしていた。そして今日もまた一日まったく進展がない。
 席に座り本日のジビエ料理なるメニューを注文。今日はどんなものか楽しみ、と考えている最中、唐突に外で悲鳴が上がる。すぐに立ち上がるリタ。外の騒ぎは大きくなっていく一方だ。
「ああもう! 先に払っておくけど、ちゃんと後で食べに来るから……! 取っておいて……!!」
 佐千代は店員に叫ぶように声を掛け、テーブルに代金を置いてから急いで店を飛び出した。
「何があったの……!」
 そして佐千代達の目に飛び込んでくるのは黒い大きな影。そう巨大な黒猫。
「――む、愚神か。こいつが影の正体のようだな」
 町中に現れた巨大な黒猫は色々な場所からよく見える。
「ね、猫祭ってそういう……? 可哀想だけど、倒さなきゃだよね」
「ん……尻尾が二つの猫も、いるんだね」
 懐中電灯を手にした浅水 優乃(aa3983)とベルリオーズ・V・R(aa3983hero001)は顔を見合わせた。
「あ、それは日本では猫又っていう妖怪で」
「妖怪?」
「うん……ってそ、その話は後でっ」
 二つの尾を持つ猫に心当たりがあった優乃の呟きにベルリオーズが反応するも今はそれを説明している場合ではないことに気が付き、優乃は慌ててベルリオーズの手を引き走り出した。なんにせよ、緊急事態である。
 そして、噂を聞いて懐中電灯を片手に巡回をしていた麻生 遊夜(aa0452)とユフォアリーヤ(aa0452hero001)もまた、屋根を超える大きな影を捉えた。悲鳴がそこかしこで上がり逃げ惑う人々の間を抜け、二人はその影の元へと走り出す。
 そんな風に町にいた殆どのエージェントが早々に事態を把握し騒ぎの中心部へと足を向けた。


「ゼファー君を返して!」
 黒い巨大猫に向かい叫ぶタオ・レーレ (az0020)。そこへ最初にたどり着いたのは共鳴したカグヤだ。すぐさま愚神とタオの間にずさーっと滑り込む。
「む、巨大猫。魔女の使い魔かの?」
(ケットシーかもね)
「そこな女子。わらわはエージェントのカグヤじゃ。コレ、退治するが構わんのじゃろ?」
 突然の乱入に驚いた表情のまま身動きを止めているタオに振り返りカグヤは口端を吊り上げる。
「え、まって! あの猫のお腹の中にはゼファー君がっ」
「大丈夫ですか?!」
 カグヤの服を慌てて掴みタオが止めようとしているところへ九繰とエミナがたどり着き二人に声をかけた。タオとカグヤの視線が二人に向かう。そして、未だに特に攻撃をしてくる様子のない愚神にカグヤは戦闘態勢を緩めた。
 その後、タオが三人に状況を説明し始めたところ間を置かず殆んどのエージェントがたどり着き総勢、14人が巨大黒猫の足元に集まった。愚神は大きすぎるのか従魔の様子を伺っているのか遠くを見たままエージェント達に視線も寄越さない。それでも念の為、九字原 昂(aa0919)とカグヤが愚神を警戒し、一般人が近づかないように見張っていた。
「俺の前でガキ共に手ぇ出そうなんざ、良い度胸じゃねぇか」
「……ん、オシオキ、だね」
 赤子を連れて町の中へと駆けだした従魔の話に一番反応を示したのが遊夜とユフォアリーヤだった。遊夜は額に青筋をビキビキと立て、逆にユフォアリーヤは楽しそうにくすくすと笑っている。
「まったく、あのデブネコはなんてことしようとしてるのか……」
「愚神の考えを理解しようとするのは難しいだろうから諦めろ」
「猫の姿のものによる被害なんて出たせいで、どっかのバカが猫に対する規制を作ったらどうするつもりなの!」
「あぁ、そうだな……」
 愚神事態に怒り心頭なのは來燈澄 真赭(aa0646)。緋褪(aa0646hero001)は怒りを鎮めようと言葉を選んでみるがなしのつぶて、諦めの境地に達した。
「猫……又? こいつにレーレさんの英雄さん、呑み込まれちゃった、んですね? ……困ったわね、下手に攻撃できないじゃない」
「ぜ、ゼファーさん食べられちゃったんだ…! 怖いけど心配だし…早く助けてあげないと」
 と、食べられてしまったゼファー・ローデン(az0020hero001)を気にかけてくれているのは佐千子と優乃。
「祟るにしても、今さらな感じがするなぁ」
「恨み言なんてのはそういうものだ」
 昂とベルフ(aa0919hero001)は話を聞いた感想を零していた。
「とにかく、基本方針として、黒猫対応と従魔対応とに分かれて行動をしよう」
 そう昴が全員の顔を見て提案する。既に従魔が此処から駆け出してどのくらい経ったか、ことは急かなければならない。
 昴へ視線が集まる。全員が一度こくり、と頷いた。


 北条 ゆら(aa0651)とシド (aa0651hero001)は偶然、愚神が見えない位置にいた。悲鳴は聞こえたもののその原因が判然としない。そこへ赤ん坊を咥えた普通の猫よりは大きい黒猫が目の前を通り過ぎていく。驚く二人。
「今のは……」
 呟くゆらのスマフォが鳴る。相手は真赭。出てみると二人が来ていることを知っていた真赭がどうしているか、と電話してきたのだ。人数は少しでも多い方が被害も少ない。適度に端追って説明する真赭。彼女が言うにはこれから鷹の目を使い従魔の位置を特定し、追跡するところだ、という。ゆらは先程見た赤子を咥えた猫を話しを伝えた。

 愚神の足元にいるエージェントはまず従魔の対応をする為に、昂が連絡手段の統一を、エミナが観光ガイドを眺め周辺の地図を記憶し、ざっと辺りを見回して地図と建物の高さを紐付けしていた。従魔討伐、赤子救出に向かうのは遊夜、九繰、昂、真赭の4人。九繰以外の全員が共鳴を終えている。
 まず真赭と昴の二人で鷹の目を発動。二匹の鷹が雄大に翼を広げ彼らの前に姿を現した。昴は片目を瞑り、リンクさせた鷹の視界をチェックする。
「鳥目だけど、何とかなるかな?」
(そればかりはやってみなけりゃわからんな)
 昴の呟きにベルフが心の中で答える。鷹の視界はとても悪く使えるかどうかも危うい。ライトアイを試してもらうしかない。その昴の横で真赭は地図を見ているエミナにゆらから得た情報を伝える。これで一匹の従魔は向かった方向が割り出せそうだ。地図を記憶し終わり情報もしっかりと覚え準備が完了したエミナは九繰と共鳴をする。そしてすぐさまライトアイの発動。全員の視界が夜の闇から抜け出しくっきりとしたものになる。真赭と昴の二人と連動している鷹達もライトアイの効果を得、鳥目というハンデを克服した。
「うちはこの鷹で従魔の場所を皆に連絡するね」
「あぁ、分かった。追いかけんのは唐沢さんに任せる。九字原さんとなんとか先回りしてみよう」
「解りました、絶対助けます!」
 真赭が鷹の視界を確認しながら三人の顔を見る。一つ頷いて見せる遊夜。そんな遊夜の頼む旨の言葉に九繰は元気に答えた。すぐに遊夜と昂が闇夜へと足早に消える。真赭は出来るだけ全員の中心辺りに居られるよう鷹の目で見つけた従魔三匹の中心点を目指し移動を始めた。
 そして九繰は持ち前の機動力を生かして従魔を追う。
「むむむ―。絶対赤ちゃんは無傷で取り戻すぞー。いくらもふもふの怨みだからって、赤ちゃんを犠牲にするのは許せないのです!」
(ともかく先回りして従魔を捕らえる。やみくもに追うのも策がないからな)
 一方、共鳴を終え先程見た従魔を追っているゆらだったが相手の速さ故が姿を見失っていた。シドがそんなゆらにアドバイスをする。一人頷きを見せてゆらは真赭に連絡を入れる。
「確かに一番近いよ。指示する通りに移動して」
「分かりました。ありがとうございます」
 真赭がゆらを誘導する。その間も従魔はそれぞれかなりのスピードで狭い路地裏を駆け回っている。そして、誘導の末、ゆらは遠くに従魔の姿を見つける。赤ん坊はまだ猫の口にぶら下がり悲痛な泣き声をあげている。そんな赤ん坊に攻撃が当たらないよう配慮しながら呪いを込めた魔力の闇を従魔に向かい放つ。しかし従魔の動きが早すぎたのか足を僅かに掠めるにとどまった。従魔は全力でゆらから距離を開ける。急いで再度追いかけるゆら。
 ゆらが追いかけている従魔の横から淡い光が闇夜を照らす。全長85cm程の太刀、孤月だ。昴が振るった切っ先は猫の首を捉え綺麗に切断した。すると従魔が断末魔の鋭い悲鳴を上げ、闇に溶けるように消えた。と、同時に赤ん坊が空中に投げ出される。ゆらが滑り込むようにして赤子を受け止めた。
 ここは町にある唯一の鐘楼前。実は昴の鷹の目で見ていた従魔三匹の軌道から三匹ともこの地点へ向かっているのではないか、という予測を打ち立てたのだ。そして最短距離で昴と遊夜は鐘楼へとたどり着いていた。予想通り最初の一匹が現れた瞬間、弧月を振り下ろしたのだ。素早い、と言っても待ち伏せしタイミングを計れば攻撃は比較的当てやすい。
 そこへ真赭から連絡が入った。彼女は従魔の正確な位置を把握し一番遠い距離にいた一匹に追いつきかけていた。先回りを試みてみては背後から首元を狙うもののすぐさま角を曲がったり横に跳ねたりする猫にうまく狙いが定まらない。そして今自分が追いかけている先に遊夜達がいることに気が付いた彼女は遊夜に連絡を入れたのだった。
「そっちに一匹向かってるの。挟み撃ちを、できる?」
「あぁ、任せとけ」
 真赭の言葉にハウンドドッグを構えてにやり、と口端を吊り上げる遊夜。路地の出口、そこは鐘楼前。そして素早く飛び出してきた体が射程内に収まると遊夜はテレポートショットを発動。打ち出した弾は空間を転移し猫の脚に風穴を開ける。
「残念、ここから先は通行止めだぜ!」
(……ん、勝手に先に行っちゃ、ヤだよ?)
 遊夜の声とユフォアリーヤの心の声が重なる。脚を引きずり唸り声を上げる従魔。そこへ後方から真赭のハウンドドッグが放たれ首へと弾がめり込んだ。たまらず大きな口を開け悲鳴をあげる従魔。赤ん坊が地面へと落下する。その隙を逃さず遊夜が止めに眉間へとテレポートショットをぶち込んだ。従魔の姿が解けるように消えていく。
「……おやすみなさい、良い旅を」
 遊夜の声とユフォアリーヤの声が言葉の全てが重なる。すぐさま、真赭が赤ん坊へと駆け寄り抱きかかえながら泣き止ますように優しく揺すった。赤子に怪我はないようだ。
「よしよし、もう大丈夫だ、すぐお母さんとこに連れてってやるからなー」
 遊夜も寄ってきて赤ん坊の頭をあやすように撫でる。これで二匹だ。
 さて、残る一匹の従魔はというと、九繰がすごいスピードで追っていた。
「ここをまっすぐ突き抜けた先で猫と合流できます」
「見つけた!」
 頭の中でエミナがナビゲートをしてくれた為、そこまで時間はかからず九繰は目的の従魔を見つけることができた。全力で追いかけ追い抜きざまに従魔の首根っこに左手を伸ばす。驚いた従魔が横に避けようとしたが九繰の方が早かった。猫を捉えると機械アームでギリギリ強く締め上げる。その力に我慢できず黒猫は口を開いた。支えなく重力に従って落ちそうになる赤ん坊。九繰は右手でさっと赤ん坊を捉えると胸元に固定するように支え、従魔を地面に思いっきり叩きつけた。ドンッという鈍い音がするがすぐさま追い打ちを掛けるように機械脚で踏みつける。
「可愛い猫の姿でちょっと気が引けますけど…従魔は成敗、です!」
 流れるような動作でトドメとばかりに幻想蝶から大斧を取りだし、先端の刺突部で従魔を一突きにした。黒い影は四散して闇夜に消える。
 まだ泣き続ける赤ん坊をあやしながら、九繰は他メンバーへと連絡を入れた。向こうでは丁度2匹目を倒した直後だったようだ。


 少し時間は遡る。従魔対応斑が話し合いをしている最中、ゼファーが呑み込まれ迂闊に攻撃ができない状況で、愚神対応班として残る三人は大きな巨体を見上げていた。
「怖いけど心配だし……早く助けてあげないと。あ、足引っ張らない様に頑張らないと……っ」
「相手は猫、だよ。太ってるし……大丈夫」
 少し気弱になりながらも自分に活を入れる優乃をベルリオーズが励ます。二人は視線を合わせ頷き合うと共鳴した。
「もーふらーせよー。おおぅ、素晴らしい毛並みじゃな」
 その横で大きな腹に抱き付いてもふもふを堪能するカグヤ。二本の尻尾の付け根を撫でてみると流石に鬱陶しいのか振り払うように尾がカグヤに向かう。しかし禁軍装甲を構え弾き飛ばす。いい加減に愚神が足元の彼女たちに視線を落とした。その時、佐千子が共鳴をせずに愚神の真正面へと立った。
「それにしても、アレね? デブ猫ってぶさ可愛いものだけど……こうも大きいとただのデブね」
「サチコ、迂闊に近寄るな」
 リタが佐千子の腕を掴み、その行動を止めようとする。しかし佐千子は肩を竦めて見せ。
「大丈夫でしょ。私一人ならともかく、皆が居るもの。何も恐くないわよ。で、そこのアンタ。話は通じる?」
 巨大な黒猫に向かい叫ぶように声を掛ける。鬱陶しさを感じていた巨大猫は低く唸りを零し佐千子を睨みつけた。
「面倒だから、さっさと食べたモノ、全部出しちゃいなさ――」
 パクリ。大きな口が一瞬で佐千子を呑み込む。一瞬の出来事だったが、リタの姿もその場から消えていた。食べられる直前、二人は共鳴を終えていたのだ。
 佐千子は胃袋の中に何とか着地を成功させる。だが、すでに唾液で体はべとべとになっていた。
「うわ、生暖かい……。気持ち悪ッ」
(――言わんこっちゃない。どうするつもりだ)
 ぐちぐち零しながら持ちこんだ懐中電灯で辺りを見回すと赤黒く、広い空間であることが分かる。壁は生命を感じさせるようにどくんどくんと波打っていて、胃の粘膜か胃液だろうか、粘液が身体へと付着してくる。カグヤにかけてもらっていたリジェネーションのおかげか、粘液によるピリッとした痛みもすぐに治まる。
「どうって……あ、先客発見。大丈夫? 意識はあります?」
 もう少し見回してみると粘液が纏わりついたゼファーを発見した。意識は、ない。ので、返事も、ない。腕や足の服が溶け肌が赤く焼けただれている。
 この粘液では何なのか判然とはしないが、なるべく振り払ってからゼファーを担ぎあげると自身の武器を再構成を始めた。肩、腰、背中へ取り付け正に全武装な状態へ。
「……さあ、根比べと行こうじゃない」
 そして壁へガンセイバーを突き付け体重を乗せて突き破るつもりで押し込む。
 外ではカグヤが未だにもふもふと堪能、いや愚神の注意を引きつつ、その援護で優乃が威嚇射撃を放つものの、完全に舐めている愚神は尾で二人を払うような仕草をするのみだ。しかしその黒猫の余裕も突如失われることになる。急に動きを止め大きな体を震わせたかと思うと苦しそうに何かを吐き出そうと唸り声を上げた。尻尾がピンと伸び毛は逆立ち今にも転がり暴れだしそうな雰囲気だ。
 そしてその口から二つの影が吐き出される。
「でてきた――っ!」
「うむ、成功じゃな」
 地面に綺麗に着地する佐千子。担がれたゼファー。そんな二人にカグヤはすぐに駆け寄り焼け焦げた肌を見るとすぐさまケアレインをかける。二人の肌の焼けあとが見る見るうちに消えていく。
 だが、愚神は腹の内部での暴動に怒り心頭で血走った眼を彼女たちに向けた。そして振り上げられる鋭い爪を有した右前脚。隙の出来ているカグヤ達を守るため優乃が構える。
(優乃なら出来るよ)
 そんなベルリオーズ・V・Rの声に勇気を貰い、優乃は大きく息を吸い。
(頑張って。いち、にー……)
「ぴ、ぴかっといきます!」
 大きな掛け声と共に、放たれた激しい閃光が辺りを包む。優乃のスレスレを風の切る音が通ったが愚神の爪は地面だけを抉った。黒猫は大きな目をぎゅっと瞑り何かを取り去ろうとするかのように前足で己の顔を擦っている。その姿からフラッシュバンがうまくいったことがよく分かるだろう。
 そこへ従魔の討伐を終えすぐにこちらへ向かってきていた昴が投擲短剣ハングドマンを投げる。愚神の左前脚に絡まり僅かに動きが鈍くなった。
「そっちは終わったの?」
「あぁ、赤ん坊は唐沢さんと北条さんに任せてきた」
 優乃が現れた昴に問いかける。すると頷き一つ答える昴。鐘楼前で従魔対応斑で集まっていた時の事。
「それなら、私が赤ちゃんの面倒みましょうか? 戦闘に連れて行くのは危ないですし」
「私も心配ですし、一緒に親御さんを探します。一人で三人は大変ですからねえ?」
 九繰とゆらが赤ん坊を抱えながらそう申し出た。確かに三人の赤ん坊なら二人の方がいいだろう。共鳴を解けば4人になれる。その提案に他の三人は頷いた。そして何故か尾を逆立てている愚神の様子に危機感を覚えた遊夜、昴、真赭の三人は足早にその場を去った。
 それを見送ってから九繰もゆらも共鳴を解き、エミナが一人の赤ん坊を抱える。よしよしとあやすと自身の危機が去ったのを分かっているのか無邪気な笑みを浮かべる赤ん坊。
「で、親元に返すと言ってもどうするんだ?」
 シドがゆらの腕の中で寝入っている子どもの顔を覗きこみながら問いかける。
「街の託児所や、警察に行くのはどうですか?」
「そうですね、この子達のお母さんも心配していますから、そういったところに行くかもしれないですねえ」
 九繰とゆらが会話をしながら目的地を決める。警察署は愚神とは反対の方角だ。より安全である、と判断し、4人は赤ん坊を起こさないようにゆっくりと歩きながらその方向へと歩いていった。
 そんなことがあったわけだが、それを悠長に伝えている時間はない。
 左前脚に絡まる銅線に右前脚の爪を立てながら愚神は大きく呪い声を吐き出そうとした。しかし、ひゅっと微かな風の音が鳴り上手く声が出せない。先ほど腹から出てくる時に佐千子のガンセイバーが喉を切り裂いていたのだ。呪いの声の発動ができずいらつく愚神は目を吊り上げてエージェントを睨み付ける。緊張が走った。
 しかし、ゼファーは一向に目を覚ます気配がない。このままではゼファーを抱えている佐千子が狙われれば避けることはできないだろう。じりじりと巻き込まれないように後退していく。ゼファーの相方、タオは共鳴できなくても誘導くらいなら、と自ら買って出て町の人たちの避難誘導を行っている。そこまで彼を連れて行くことが出来れば……。
「さあて、わらわも行くかのう」
 そこへカグヤが割って入りクロスパイルバンカーをきらめかせ、目の前の大きな腹を殴りつける。血しぶきと共に爪が奥へと食い込み、引き抜けばさらなる血が滴り出る。続いて優乃がストライクで慎重に喉元を狙う。銃弾は見事に猫の首元に食い込んだ。
 そこへ昴に遅れて遊夜と真赭が到着する。腹から滴り落ちる血と喉に空いた風穴、それでも愚神は鋼線を無理やり引きちぎり、血走った眼で最後の一撃とばかりに今来たばかりで状況のつかめていない真赭へと鋭い爪の一撃を放った。状況判断が追いついていなかった真赭は避けることができずに咄嗟に腕でガードするも、その腕に爪の後がくっきり出来上がり血が滲む。
「いい加減にするんじゃな」
 しかしすぐにカグヤが体を下げた愚神の頭へとクロスパイルバンカーを振り下ろす。深く刺さった。かと思えば黒猫はどんどん縮み、普通の猫と同じ大きさになってその場に倒れた。自らの作った血だまりの中に横たわるそれはもうぴくりともしない。
「すまんが、お前さんに喰らわせるもんなんざもうねぇんだわ」
(……ん、大人しく、成仏してね?)
 その様子をみて遊夜が肩を竦めて笑いを零す。くすくすとした笑いも聞こえてくるような気がする。
「祟るにしても、もう7代は過ぎちゃてたね」
「いわゆる、時効ってやつだな」
 一方、昴が共鳴を解いて自身の英雄ベルフと他愛のない会話を始めた。真赭はここにいないエージェント達に終わりを告げる通信を入れる。
「やったんですね、ありがとうございます!」
 通信機からタオの元気なとても嬉しそうな声が聞こえてくる。今からこちらに向かって来る旨を伝えるとタオはすぐに通信を切った。と、丁度その時、ゼファーが小さく唸ってはっ、と意識を取り戻す。
「わっわっ! ごめんなさいごめんなさい! ここから出して!!」
 そう叫ぶと佐千子から慌てて離れて地面にしゃがみこむ。どうやらまだ胃袋の中にいると思って混乱しているようだ。
「もう出してもらってるよ」
 遊夜がその様子におかしそうに笑いを堪えながら声を掛ける。するとゼファーは辺りを見回してきょとん、とした後、慌てて立ち上がり。
「ま、まぁ、あんな猫大したことなかったな。俺が出るまでもなかった――」
「ゼファーくーーーーんっ」
 顎に手を当て今更格好をつけなにやら言い始めるゼファーの後ろから戻ってきたタオが彼の首根っこを掴む。肩を竦めるゼファー。
「ちゃんと皆さんに謝ってお礼言わないと駄目でしょ?!」
「わぁ、無事だったんですね!」
 ゼファーを怒るタオだったが、そこに丁度ゆらとシド、九繰とエミナが警察から戻ってきたところだった。ゆらは元気なゼファーの姿を見てとても喜んでいる。
「そうだ! 皆集まったことですし、なんでもジビエ料理を売りにしているお店があるんです」
 わいわいと共鳴を解き賑やかになるなか佐千子が思い出した、という顔でその場の全員を誘うように声をかけた。行きませんか? というと
「ジビエと聞いては黙ってはおれんな」
「……ん、お肉!」
 遊夜は賛成だ、とばかりにすぐに切り返し、ユーフォリアに至っては尻尾ブンブン振って反応を示している。
「行きます」
 そしてエミナも顔にも声音にも出ないが超乗り気。その証に小窓には顔文字が乱舞している。
「あ……えっと、ご飯、私達もいいんでしょうか……?」
「誘ってくれてるんだから、大丈夫だよ。優乃、行こう」
「ベル、結構食い意地張ってるよね……」
「いらないなら、食べるよ?」
「い、いらなくないよ! ビジエって、何?」
 そんなやり取りをこそこそする優乃とベルリオーズ。しかしその時、優乃は気がついた。小さくなった愚神が血の水溜りを残してその場から消えているのを。動かなくなっていたのは気絶していただけだったのか。すぐさまおいかけようと闇の中を見回したが、金色の光る目が一瞬光ったかと思えばそれっきり静まり返った闇が辺りを支配していた。
「猫さんが犠牲になった歴史は悲しいものだけれど、小さな子が怖い目に合わない世界に早くなるといいのに……。あー、なんだかやり切れない気持ち。帰って鈴たん(飼い猫)、もふもふするー!」
「でも、折角ご飯に誘ってくれたのだから、行った方がいいんじゃないか?」
 優乃の後にそのことに気が付いたゆらは少し気落ちした様子で呟いた後、飼い猫のことを思い出しもふもふする仕草をしながら叫んだ。が、相方のシドに言われ彼女も皆と共にジビエ料理を堪能しに行くことにする。後日、町を去る時に彼女は魔女狩りで犠牲になった数多の猫に花と煮干しを手向けた。
 こうして黒い怨念から解き放たれた町で、タオとゼファーを含めエージェント達はゆっくりと食事をし交流を深めながら楽しいひと時を過ごしたのだった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • おうちかえる
    クー・ナンナaa0535hero001
    英雄|12才|男性|バト
  • もふもふの求道者
    來燈澄 真赭aa0646
    人間|16才|女性|攻撃
  • 罪深きモフモフ
    緋褪aa0646hero001
    英雄|24才|男性|シャド
  • 乱狼
    加賀谷 ゆらaa0651
    人間|24才|女性|命中
  • 切れ者
    シド aa0651hero001
    英雄|25才|男性|ソフィ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • Twinkle-twinkle-littlegear
    唐沢 九繰aa1379
    機械|18才|女性|生命
  • かにコレクター
    エミナ・トライアルフォーaa1379hero001
    英雄|14才|女性|バト
  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526
    機械|21才|女性|防御
  • 危険物取扱責任者
    リタaa2526hero001
    英雄|22才|女性|ジャ
  • ひとひらの想い
    浅水 優乃aa3983
    人間|20才|女性|防御
  • つまみ食いツインズ
    ベルリオーズ・V・Raa3983hero001
    英雄|16才|女性|ジャ
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