本部

グッドモーニング、マッスル

星くもゆき

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/05/09 19:11

掲示板

オープニング

 気候が暖かくなると変な奴が出てくる。理由はわからないがそういうものだ。
 恐らく寒さで縮こまっていた色々なものが解放されるということなのだろう。
 そしてそれは人間だけではなく、愚神にも当てはまるもののようです。

●おはよう筋肉

「暖かくなって心置きなく見せられるようになりました……このPERFECT BODYを!」
 人がひしめく繁華街。様々な方向から人も車も流れてくるスクランブル交差点の中央で、1人の愚神が自らのPERFECT BODYを皆に、世界に見せつけていた。英語だけめっちゃ流暢。ボクサーブリーフしか穿いておらず、まぁ変態。春だし。
 その愚神の肉体はまさに鋼のような筋肉で彩られ、春の日差しが体表に陰影を生み出しちゃっている。ムッキムキのボディを物凄く強調。道行く人も思わずチラ見してしまうほどだ。あくまでチラ見。
 しかし道行く一般人たちの肉体は、当然ながら愚神の肉体に比すれば薄紙のような貧弱さ。愚神は悲しい。理由は今から言う。

「筋肉の嘆きが聞こえる……未だ表に出てこれない筋肉たちよ、目覚めよ! GOOD MORNING!」

 どばーん。愚神が何らかの力を行使し、周囲一帯に謎のフィールド的なものがドーム状に拡がっていく。
 するとフィールド内の通行人たちの様子がおかしくなる。

「何なんだよ……俺のこの貧弱な体はよぉぉーーーーーーーーーーー!!!」
「すまない……僕の筋肉! 今まで君たちに構ってあげられなくて……!!」」
「フゥーー! 腕立てするだけでみるみる上腕が育っていくZEeeeeeーーーーーーー!!」
「ヒャッハーーーーーー! 俺と闘いたい奴はどいつだーーーーー!!?」

 ひどかった。愚神から放たれる何か謎のオーラ的なものに当てられて全員が筋トレし始めている。
 しかも筋トレしたそばから筋肉が成長していき、皆どんどんムッキムキになってる。ムッキムキになって肉体を誇示すべく何か乱闘までしてる。すごい世紀末。

「やはりこうでなくては……。筋肉こそ世界の中心! 力こそパワー! パワーこそジャスティス! WoooooFooooooooooooooo!!!」

 ヤバい奴キタコレ。

●出動だー。

 要約しよう。
 筋肉ムッキムキの愚神が出た。パンツしか穿いてない。パーフェクトボディと呼称することにした。
 その愚神が変なスキルを使ったせいで周囲の一般人が筋肉至上主義になった。めっちゃ筋トレした。
 結果、ムッキムキになった一般人たちが街中で乱闘してる。どっかからH.O.P.E.に情報が来た。
 悪いけど行ってきて。多分パーフェクトボディを倒せば大丈夫だから。

 そんなことを聞かされたエージェントたち。何だよどういう状況だよ怖いよ。どこに行かされるの。
 だが文句言ってもしょうがないのはいつものことなので、全てを受け入れる覚悟で一行は輸送機に乗り込んだ。

 現場で自分たちがムッキムキになり、ハイパー脳筋バトルを繰り広げる羽目になるとは知らなかったからね!

解説

■目標
愚神『パーフェクトボディ』の撃破

■敵
愚神『パーフェクトボディ』 等級不明

ムッキムキのPERFECT BODYを持つ人型の愚神(男)。つよい。
小手先の技術など不要と考える純正パワーファイター。武器は己の肉体。
ちなみに下記スキルのせいでPCも真正面からのぶつかり合いを強いられる。

・『筋肉の目覚め』(グッドモーニング、マッスル):パッシブ
自らの周囲に広範な特殊フィールドを展開し、内部にいる者を筋肉至上主義にしてしまう。
簡単に言えば脳筋化する。ビショップだろうがルーカーだろうが「力こそパワー」とか言い始める。
戦闘においても「パワーこそジャスティス」という思考になる。
人によってはとんでもないキャラ崩壊になるので注意しよう。
脳筋化は愚神を撃破ないし撃退した時点で元に戻る。

更にフィールド内では筋トレするほど筋肉が育つ。貧相な体でもすぐにムッキムキになれるのだ。
ちなみにみーんな筋肉至上主義になっているのでPCは筋トレ不可避。
つまりPCはもれなく全員ムッキムキになる。
愚神を撃破ないし撃退すれば元に戻るが、1日ぐらいはそのまま。ムッキムキ。

■場所
スクランブル交差点。めっちゃ繁華街。
人も車も流れは止まっており、戦闘において交通面に関する配慮は不要。

■状況
・ムッキムキの一般人が多数現場にいる。
己の肉体を育てるために健全な大乱闘を展開中。コメディだから巻き添えとか心配しなくてよし。

・フィールドに突入した状態からスタート。つまりもう最初から思考は脳筋化。

・『筋肉の目覚め』により、PCは戦闘前に筋トレしてムッキムキにならざるをえない。
パーフェクトボディはみんながムッキムキになるまで待ってくれます。漢だから。

リプレイ

●覚醒の時!

 右を見ても左を見ても筋肉。
 そんな筋肉祭り状態になっている現場に皆でぶっこんだ。フィールド内に侵入すれば、後はもう筋肉になるだけだ。
 正気を保っている間に、本来の彼らを見てみましょう。
「マッスルって? 筋肉が増えるの?」
「よく分からないけれど強くなるみたいね」
「え! そんないい愚神がいるの?」
 真白・クルール(aa3601)とシャルボヌー・クルール(aa3601hero001)の母娘は、自分たちが割とえげつない仕事を引き受けたことにまったく気づいていない。
「まってぐ報告書読んでねがったッスよ……」
「ここ最近働き詰め? だったしな~、良いんじゃねぇか? どうせオレ等脳筋だし」
「んだな! 行くしかねぇべな!」
「これ以上脳筋にならねぇもんな~……多分?」
 受ける依頼を間違った。痛恨のミス。齶田 米衛門(aa1482)はそんな気分だったが、スノー ヴェイツ(aa1482hero001)の言うとおり、元々が脳筋のようなものだし問題ないはずだと開き直る。
「なんじゃ? この地獄絵図は……」
「……」
「見苦しいとしか言い様も無いのう。ああ、あれを見よ! 嬉々として打ち合っておる者どもも浅まし過ぎよう。早く何とかせねばな」
「……」
 目の前のマッスルカーニバルのひどさに、頭に手を当ててタイタニア(aa1364hero001)はあきれ返っているが、隣に立つ都呂々 俊介(aa1364)の返事は一向に無い。
「……如何したのじゃ? 俊介」
「……神様が与えてくれたチャンスなのでは? 貧弱な僕でもワンチャンあり? あるぜよ此処に! @愚神様……ああ、イケない信仰に目覚めてしまいそうです。馳せ参じますのでお待ち下さい、筋肉神よ!」
 貧弱バディとはおさらばぜよ、と燃え立っていた。愚神討伐ではなく明らかに筋肉目当て。
「これは……何を言っておるのかまるで分からぬ。だから一体如何したのじゃ?」
「……は! 危うく人類を裏切って仕舞うところでした。はい、話せば長い事ながら、学校で体育の……」
「長いなら良いわ。どうせ何時ものいじられネタであろう」
「ひどいよタイタニア! よし……こうなったら無謀にも突撃して若い命を散らしてやる! ついでにパーフェクトボディげとだー!」
 相方のすげないあしらいに奮起して、俊介は筋肉育成を決意。
「でも、筋肉モリモリのマッチョマンって男らしいよね……。ちょっと憧れちゃうかも」
「ええ? やめておけ、似合わないぞ、多分……」
 女子と見紛う儚い系男子のティオ・ウェンライト(aa0083)も筋肉に心惹かれている。常日頃から男らしくありたい彼には魅力的なのだろう。シャーロット ソールズベリー(aa0083hero001)はこの時点ではまだ判断力を保っているが、すぐに失うので大丈夫だ。
「さぁて、解りやすい脳筋相手だ。精々派手に……あん? 何途方に暮れてんだ」
 腕が鳴るとでも言うように体をほぐしていた“皮肉屋” マーシィ(aa4049)が、どこか浮かない様子でいる“不可思議な放浪者”(aa4049hero001)に気づき、問う。仮面のおかげで表情など読めないのだが、マーシィには何となくわかるのだろう。
「何故に初仕事でこんな色物選ぶかねぇお前は……」
「払いが良くて解りやすかったからに決まってんだろ」
「おぅ……嫌な予感するんだよなぁ、戦闘と違う所で」
 ハイテンションバトルを繰り広げる一般人の姿を見れば、そう思うしか無かった。
 皆と少し離れた位置では、シウ ベルアート(aa0722hero001)が静かなる闘志を燃やす。
「漢には引けない戦いがある……。黒絵がいないけど僕だけの力で解決してやるさ!」
 パートナーの桜木 黒絵(aa0722)は別件重傷入院中で、現場に不在。しかし順調に回復してその日の午後には退院する予定で、シウは迎えに行くと約束していた。遅刻ダメ絶対。

●超ぱんぷあっぷ

 一行はスクランブル交差点に到達する。そして目撃。
「さぁ、君たちもエクササイズしなさい。そんな体で私とヤり合おうと言うのかね?」
 ぱんいちのまっする。きんにくすげえ。
 しかし一行は愚神のスキルにより脳筋化を果たし、それが異様だとか思わなくなっていた。
「守る為に足りなかった物……それは筋肉だったのか」
「鍛えよう……筋肉があるというのが、いつか大きな財産になる」
 いの一番に正気を失っているのが秋津 隼人(aa0034)と椋(aa0034hero001)であった。隼人は備えもつ『守る』という意志に『筋肉』が乗っかってヤバい方向に傾き、椋に至ってはもう口調が変わってる。
「成程……そういう事か……なら全力で楽しむとしよう!」
 マーシィ、吠える。その表情は愉悦。そういう事ってどういう事なんだ。
 パーフェクトボディとの邂逅を果たし、その筋肉に魅せられた彼らは――。

 筋トレを開始した。

「あああ! 貧弱だった昨日までのボクとさようならだ!」
「そうだ! 筋肉だ! 頭のてっぺんから爪先まで万遍なく鍛え上げろ!」
 ティオはウッキウキで筋トレに励んでいる。シャーロットもティオを激励してやりながら、己の肉体をいじめ抜く。筋肉躍動、健全な汗が飛ぶ。
「フハハハハッ! 見ろ! 腿が丸太のようだッ!」
 あ、これ隼人です。
「ふふふ、わしもこのくらい力があればもっと隼人の助けになれるじゃろ」
 椋も超頑張る。目指すはバッキバキの腹筋。
「ほお? 俊介が真面目に筋トレに励んでおる。これはこれで良いかも知れぬ」
「うおおおおお! これで札束の海で両手に女の子抱いてワルそうにニヤついてる記念写真撮れるゼイ! ……所で雑誌のあのお札は本物なのでしょうか? ……うう、頭がイタイなり」
 タイタニアはマシーンの如くに筋トレを行う俊介を見てどことなく満足げ。
「筋肉とは……ひとつではない!」
 格好良く言い放って、エクササイズしているのはマーシィ。彼が目指すのはいわゆる細マッチョ。量ではない、密度だ。その思考の下、実に楽しそうにトレーニング。
「圧倒的な力! マッスル! 私達こそマッスル!」
「そう! 私達は母娘マッスル!」
 真白とシャルボヌーは変わりっぷりがだいぶヤバい。女子だけどボディビルダーの如くポージングして主張している。自分たちの筋肉を見ろ、と。山育ちなだけあって2人ともそれなりの筋肉を持っている。
「でも……」
「そうね、これでは……足りない」
 物足りないのだ。この程度の筋肉量では。2人が目指すのはパーフェクトボディの打倒。ならば自分たちもパーフェクトボディにならなくては。
「ジャンピングスクワット……瞬発力強化に良いのよ!」
「バックエクステンション……立派な背筋をゲット!」
「サイド……プランク! 強い体幹を手に入れられるわ!」
「リバース……プッシュ……アップーーーッ! 熊だろうとイチコロの腕力を!」
「負荷が足りない場合は、お互いの体を重しに使うのも良いのよ!」
 なにこれエクササイズDVD? 真白とシャルボヌー、2人して声を出しながら筋トレ。直後にはしっかりプロテイン摂取し、筋肉の回復促進のために有酸素運動も欠かさない。
「春は目覚めの季節……ですねぇ」
 皆が筋肉育成に励む様子を、パーフェクトボディは腕組みしながら微笑んでウンウンと頷き、見守っていた。
「僕たちが育つまで待ってくれるとは漢だね……。彼を、僕だけの力で倒すことができたなら!」
 秘める覚悟を活力に変え、シウも鍛錬に精を出す。彼のスリム体型が見るも無惨なものに変わっていった。
「頑張ってるナトくんも可愛い……。ムキムキになれそー?」
「……!」
 せっせか体を動かすナト アマタ(aa0575hero001)の姿を眺めて悶絶しかかってるシエロ レミプリク(aa0575)。数秒ぼーっとニヨニヨした後に、我に返る。
「……ハッ! いけない! ナトくん! 共鳴!」
「……?」
 ナトの腕を掴み、共鳴するシエロ。脳筋化していようとも、ナトは彼女にとっての『マイラヴリーエンジェル』。そんなマジ天使なナトがごっつい筋肉天使にクラスチェンジしようものなら、シエロは生きていられないだろう。
 すでにナトにそこそこ筋肉がついてしまっていたが、それを共鳴することで自分に移し変える。そんな無茶苦茶を愛と気合だけで何とかしようとした。
 で、結果。

「……ヴォオオオオオオオオオオ!!」

 悲しき咆哮が一帯に響き渡る。そこに現れたのは四足歩行の獣、背部や脚部の筋肉が異常発達した猛獣だった。機械脚も肥大化し、四肢に竜爪とヴァルカン・ナックル、口内には牡丹灯篭が仕込まれて……機械と筋肉とAGWが渾然一体となった何かです。
 理性すらも失った機械生命体、アグレッシヴビーストシエロちゃんの誕生である。どうしてこうなった。

 シエロが人間を卒業した頃、他の面々も新しく生まれ変わったような気分になっていた。そう、筋トレ完了だ。
「FOOO……生まれ変わった気分だよ……これこそ、真の男らしさだ……」
「Oh……マッチョ。昔から憧れてました……」
 自分の筋肉に酔ってポージングをするティオ。中性的な顔の下には、取り替えて引っ付けたかのような巨大な肉体。シャーロットも彼の素晴らしき肉体に感嘆。
「最高に男らしくなったボクのパワー、試させてもらうよ」
「うむ、皆、よく育ったようだ。私と戦うにふさわしい肉体にね!」
 互いに力の限りにポージングする、ティオとパーフェクトボディ。両者の胸筋がびくんびくんと跳ねている。

 総員、体は筋肉でできている。
 何かもう全員小顔。頭以外が肥大化して小顔に見える。遠近感がおかしくなりそうな肉体です。

●筋肉VS筋肉

「どうも齶田さん、ヴェイツさん、お世話になっております。いやぁ……流石の筋肉ですね」
 筋トレ完了後、隼人は米衛門に挨拶しに行った。香港では同じ小隊で戦った中、戦闘以外でも何か交流できないかと思っていたのだ。
「どもッスよ! こっだら所で会うとは奇遇ッスな!!」
「奇遇も何もねぇ気がすっけどなー」
 隼人の声に振り返った米衛門の体格は、普段の十割増ぐらいでかく見えた。思わず隼人は彼のたくましい上腕をさすってしまう。爽やかスマイルを浮かべているのが逆にアヤしい。
「あ、提案なんスけど《金秋》コンビって合ってる気がしねぇッスか? コンビ名」
「最近あちこちで付けてんもんな……隼人は良いか? 良けりゃま、今後ともヨロシクな」
 唐突にコンビ名を付けたがった米衛門に呆れつつも、スノーは隼人に笑いかけて是非をうかがう。
「もちろんですよ。こちらこそよろしくお願いします」
 笑顔で応じ、米衛門と固い握手を交わす隼人。ここに金秋コンビが結成された。
 だが。
「さすがですね齶田さん、想像以上の握力だ……」
「そッスかね? 秋津さんも相当強ぇと思うッスけど」
 いやそっちこそ、いやそっちこそ。
「ならば拳で!」
「決めるしかねえッスなぁ!」
 脳筋化の影響で拳で語り合う漢たち。互いの腕が交差し、顔を打つ。物理的御挨拶タイム。
 ちなみにスノーと椋は少し離れて見物。
「飴食うか?」
「うむ!」
 漢くさい空気とは一転、ほのぼのしていた。
 死闘はそこそこ続いていたが、そのうちに決着。
 ひときわ大きな打撃音が響き、片方が崩れ落ちた。
「ク、クロスカウンター……!?」
「秋津さん!」
 隼人が倒れたようです。その場に倒れた隼人の上体を米衛門が抱き起こす。
「ふふ、ほら……齶田さん達の筋肉の方が、素晴らしいでしょう?」
 それが、隼人の最期の言葉だった。

 秋津 隼人――闘死。

「秋津さぁぁぁぁぁん!! くっ! パーフェクトボディ、オイと勝負せじゃ!!」
 激情。駆られるままに走り、愚神に殴りかかる米衛門。しかし直情的な攻撃は手数は多いものの、敵にかすりもしていない。
「カンケェねぇがっちめがす!」
 当たるも外れるも関係ない。米衛門はただ仇を討つために、力の限りに攻撃する。隼人が逝ったのは完全に米衛門のせいだけどな!
「はーっはっはっ! 効かん!」
 愚神はノーダメージ。だって米衛門、共鳴してないから。生身ですから。
「むふぅん!」
「うっ……ぐっ……!」
 パーフェクトボディの豪快なチョップが米衛門の胸部を捉え、重い衝撃が心臓を貫く。やはり共鳴していないのは厳しく、米衛門は膝をついた。このままでは、やられる。
「マッチョラリアット、いくよー!」
 仲間の窮地にティオは共鳴し、愚神めがけて猛ダッシュ。1歩踏みこむごとに、軽くズンッとか聞こえる。超重量級。
 鍛え上げた腕を水平に上げ、首を刈り取るようにぶちこむ。愚神の体はのけぞり、逆くの字型に曲がっていく。
「良いラリアットだ……だが!」
「な、何ぃーー!?」
 愚神は持ち前の完璧な腹筋で体勢を戻すと、強烈なラリアットをお返しする。圧をその首に受け、ティオは高速でふっ飛んでいき、ビルの壁面に激突した。鈍い痛みが背中に走るが、鍛えた背筋でショックは軽減されている。
「鍛えておいて助かったが……もっとだ、もっと筋肉だ……!」
 足りなかった。奴を倒すべきパワーが。トリアイナ持ってるけどそれを使おうという意思は生じなかった。すべては筋肉によって決さなければならないのだ。ティオは更なる筋トレをその場で行い始めた。
 ティオが敗れたのを見て、今度は俊介がマッスルボディを引っさげて堂々登場。
 彼はフォルムのおかしくなった左腕を振り上げ、手中のあるクルミを愚神に見せる。
「それは……」
「俺の左手を見な! む……ん!」
 乾いた音。硬いクルミの殻をいとも容易く砕いてみせた。圧倒的握力。気持ちE。
「この硬いクルミが瞬殺だぜ。やれる奴だけ掛かって来な! クルミのストックはもう無いがな! ふへへへ!」
(「妙にチキンな挑発なのは性格かの?」)
「はう……頭が割れる様に……」
 ぶんぶんと頭を振り、気を取り直して愚神に向かう。
「萌え上がる闘争本能! ……最早我慢出来ん! 愚神様に挑戦です!! いざ!!」
 低く構え、タックルのように愚神様に突進。
 しようとしたけど、ピタッと止まる。
「……しかし、まあ真打が最初に出るという訳には行かぬなあ……この震えが来る程の激情……何処まで抑えられるか分からぬが、先ずは前座の戦いを見守るとしよう! ……ぬぬ、また頭が……おおおお?!」
(「何ということじゃ、愚神の謎オーラに当てられてなお滲み出る小心さ! しかしこれが奴のパワーを打ち破る切っ掛けになるやも知れん! 俊介頑張るのじゃ!」
 チキンをもって脳筋を制す。すげえ、逆に。でも頭痛に苛まれて戦える状態じゃない。
「私とヤり合える者はいないのかッ!?」
 ふがいない戦いぶりに激おこっぽいパーフェクトボディ。
「それなら、僕が相手になろう」
 愚神の呼びかけに応じ、戦場に躍り出たのはシウだ。
「共鳴せずに私とヤり合えると?」
「筋肉対決なら共鳴無しでやろう!」
 漢には引けない戦いがある。そしてシウにとっては今がその時。
「……よかろう! 来るがいい!」
 両足に力を溜め、飛び出す。筋肉エネルギーが衝突し、爆発。
 だが勝敗は語るべくも無い。共鳴しないシウでは、勝てない。
「ぐうっ……!」
「軽い、軽いぞ!」
「くそ! 黒絵無しでは僕は奴に勝てないのか……!」
 一撃を喰らっただけで体は言うことを聞かない。そんな中、シウの脳裏に浮かぶのは黒絵の顔。
 そうだ。負けるわけには。
「同じ筋肉量同士が対決したら最後はどちらが勝つか分かるかい?」
「何を言って――」
「熱いハートを持ってる方が勝つんだよ!」
 フラフラになりながらも立ち上がるシウ。何が彼をそこまで突き動かすのか。

「僕だけの力で君に勝たないと……黒絵が安心して僕にボケさせてくれないんだ!」
 くわっ。マジ顔で言ってのける。

「日本語で頼む」
「いや日本語だよ」
 思わず愚神様もツッコんでしまう命懸けのボケをぶっこんだシウ。
「シ、シウお兄さん……」
「!」
 背後からの声にシウが振り返ると、黒絵の姿があった。迎えが来ないので1人で退院してきたのだ。説教コース不可避。
「そんなに……ボケたかったんだね」
「黒絵……」
 言葉もなく、お互い歩み寄る。感動のシーン。
 という空気には愚神様がさせはしない。
「終ーー了ーー!」
 そういうのはよそでやれと言わんばかりに必殺のジャイアントスイング。足を取られたシウは傍目に面白いほどに回される。
「く、黒絵ーー!!」
 その日、シウはお空の彼方まで飛んでいき、皆を見守るお星様になった。

 シウが昇天するのを静かに見届けてから、1匹の獣が駆ける。体長2メートルにも及ぶ機械生命体シエロが牙をむき出しにして愚神に喰いかかった。
「むぅっ!?」
 四足歩行で体当たりしてきたシエロの勢いに押され、追突された愚神が大きく後ずさる。シエロは間髪入れず、四肢に力をこめ跳躍。ヴァルカン・ナックルの連打を繰り出す。
「ギギギ……ギルルアア!!」
「何だこれは……H.O.P.E.はこんな物を作り出していたのか!」
 眼前の異物に目を丸くする愚神。ごめん、それ人です。
「ガッギッ……ガアアア!!」
 シエロはウイーンと変形、二足で立ち、前足を突く。突いて突いて突きまくる。愚神も応戦し、クロスレンジの応酬。互いの頭が打たれるたび、血飛沫が中空に舞う。
「あの犬、やりやがるな。連携して攻めたいとこだが、人語を解する理性もねえのはキツいな……」
 スリムマッチョな軽量レスラー体型になったマーシィは、追撃の機会をうかがっていた。仮面つけてるし完全に空中殺法とかできそう。ツープラトンなりスタンプなりとぶっこむ準備は万端なのだが、生憎リング上(?)で敵と殴り合っているのはアグレッシヴビースト。下手に突っこめば逆に何かぶちこまれるかもしれないと思うと迂闊に動けない。
「なんだその細身の筋肉はーーッ!!」
 別方向から、健全な乱闘をしていたはずの一般マッスルが因縁をつけてきた。細マッチョとかが気に入らない系のマッスルなのだろう。
「お前らの出る幕じゃねえ!」
 体を回転させ、必殺ダブルラリアットで彼方まで弾き飛ばすマーシィ。楽しそう。脳筋だから。
 しかし一般人をいくら吹き飛ばそうと意味が無い。本丸を落とさなければ。ビーストと何とか呼吸を合わせて追撃を仕掛けようかと思案していたところで、別のマッスルが愚神に武器を振るった。
「力が正義ならば! 勝った方こそ正義!」
 現れたのはマッスル母娘が共鳴した、マッチョカンガルーだった。
 じゃなくて真白だった。でも見た目は胸筋なんかがバッキバッキになってるカンガルーです。可憐な真白もこんなに大きくなりました。
 アステリオスを構えた突進はシエロと組み合っていた愚神の脇を突き、大きなダメージを与える。
「なん……だと……!」
 AGWがクリーンヒットしてようやく傷らしい傷が出来る愚神。この日初めての普通の攻撃が膠着した戦況を切り開く。
 愚神が怯んだ隙を突き、組み合っていたシエロが口を開けた。
「!?」
 シエロの口内には牡丹灯篭が貼りついている。口からの至近距離攻撃。
「ハァァ……カァッ!」
 さながらブレス攻撃のように、放出。モロに浴びた愚神はその場に転げ回り、苦悶している。
「さぁて、派手にいくぜ」
 知らぬ間に道の街灯に登り、コーナーポストに上がったレスラーのようにマーシィが客を煽る仕草をしている。客はいないけど。
「この筋肉ならできるぜ……何回転でもな!!」
 華麗にコーナーから跳躍、覆面レスラーは空中で幾度も体を回し、捻る。超ド派手な空中技を魅せつけ、倒れていた愚神に体ごとダイブする。
 膝を立てることもできなかったパーフェクトボディ。マーシィの全力を喰らった彼はグロッキー状態、後はもうフィニッシュホールドをかますだけだ!
「金秋コンビのデビュー戦……飾れんかったッスなぁ」
 仲間たちの戦いを見守っていた米衛門は、どこか寂しそうな表情。
「……あ、齶田さん……まだ諦めるには早いですよ……」
「! 秋津さん!」
 隼人、復活。どうやら瀕死で済んでいたようだ。
「最後にやりましょう……俺達の必殺技を!」
「あぁ、そッスな!」
 火事場のクソ力を発揮し、倒れていた愚神に猛然と組み付く隼人、米衛門。
 彼らが繰り出す技は。
「「マッスルドッ○ング!!」」
 それ禁断の技やで。
 だが2人は迷うことはない。愚神を空中に放り投げ、自分たちも飛び上がる。
 その瞬簡に気づいた。この技、相手が1人じゃかけられなくね? もう1人必要じゃね?
「だ、誰か……」
 飛び上がっていた隼人は地を見下ろし、協力してくれそうな人を捜す。協力って言っても、この場合は技をかけられる人だから要するに生贄です。
「なら、私が!」
 困った様子を見て、真白が快く応じた。ムキムキのおみ足で超ジャンプ。あっという間に3人と同じ高さまで来る。
「なら、行ぐッスよ!」
「引き受けた!」
「えっ!?」
 あれよあれよと組みあがる、マッスルドッ○ング。米衛門がバスター的な奴を、真白がドライバー的な奴を仕掛ける側。
 そして隼人は、バスター的なのをかけられる側。いつの間にかこうなっていた。不幸な事故。
 地面が、近づく。迫る死を悟りながら、隼人はふっと笑っていた。
「敵を倒せるなら……その為に、この命と筋肉を使えるのなら……それは本望と言うほか、ありません」
 安らかな顔だった。すべてを受け入れる、爽やかな漢の顔だ。
「隼人……それがおぬしの選択なのじゃな」
 一塊となって落ちていくマッスルドッ○ングを見上げながら、椋は大きく敬礼をした。そして椋の後ろからはスノーも落下する米衛門の姿を見ていた。
 ……共鳴してないでバスターってやばくね?
「あの、秋津さん?」
「あ、どうしました齶田さん?」
「いや思ったんッスけど、これかける方も危なぐねぇッスかね? 尻とかやっちまいそうなんッスけど……」
「大丈夫ですよ、きっと労災下ります」

 遠くに、轟音が響いた。
 少ししてから、ライヴスの残り火のような光。愚神消滅が、告げられていた。


 パーフェクトボディ――闘死。
 秋津 隼人――闘死。
 齶田 米衛門――闘死。


●虚脱

 すべてが終わった時、正気に戻ったムッキムキピーポーはほとんど放心状態になっていた。
「……。うん、これは何か違うかな。ボクの求めてる男らしさじゃないかなっ……って」
「ああ……。これはない。頼むから早く元に戻って……」
 ティオは生気を失った暗い目で虚空を見つめ、シャーロットは自分のあられもない筋肉を嘆いてすすり泣いていた。知り合いに見られたら終わる。
「何だか……おかしな夢を見ていた気分ですね」
「じゃの。だが……この肉体がそれを現実だったと物語っとるが」
 仰向けに倒れたまま空を見上げる隼人。生きてた。
「まあもう少し力が欲しいというのは事実だけど……お前は小さい方がいいと思うよ、椋」
 隼人は椋の頭をわしゃわしゃと撫でる。
「いー汗っこかいだなぁ……秋津さん、風呂さ行がねッスか?」
「ま、こんな奴だけどよ、ヨロシクしてやってくれな」
 隣にはいつの間にか米衛門がいて、屈託ない笑顔を向けており、米衛門を看てやっていたスノーも言葉を挟む。
 2人とも今、救急車待ちです。
「やはり僕が相手をするまでもなかったようだね……」
「よく言えるものじゃのう」
 頭痛で戦線離脱していた俊介、終わってみればこのドヤ顔である。
「たまには馬鹿を相手に馬鹿をやるのも悪くねぇ」
「……どんな愚神だよアレ……」
 マーシィは満足気にタバコを吹かし、放浪者は仮面を手で押さえてボヤいている。
「ギニャー! なにこれ! 重い! 体が重いのー!」
「……」
 マッスル化した自分の体に驚嘆したシエロだったが、ナトは割とキラキラした目で彼女のことを見ている。悪くないって感じらしい。
「……ナトくんが気に入ったならいっかあ! ってナトくん! 太いね!?」
 共鳴しても筋肉を貰い受けるとかできなかったようです。あわれ筋肉天使となったナトをどうにかすべく、シエロはその後1日奔走したそうだ。
 現場のざわめきを遠く聞きながら、傷だらけのシウは黒絵の膝に頭を乗せて休んでいた。こっちも生きてた。
「黒絵……。僕、やれたよ。見たろ? 僕、共鳴無しで戦えたんだよ」
「うん、見たよ」
「これで安心して、ボケさせてくれるだろ?」
「シウお兄さん」
 号泣、抱き合う。命懸けのボケ、ここに完遂。


 余談。

「ま、まままママ!! すっごい体……! 狩りしにくそう……」
「ま、ままま真白こそ……! 無駄な筋肉が可愛い体に……ああ……」
「ま、ママッッ?!」
 愛する娘がめっちゃ筋肉に満ちてる。それがあまりに衝撃的すぎて、シャルボヌーは1日中、意識を取り戻しては真白を見て気絶するのを繰り返したそうです。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

  • 挑む者・
    秋津 隼人aa0034
  • 我が身仲間の為に『有る』・
    齶田 米衛門aa1482

参加者

  • 挑む者
    秋津 隼人aa0034
    人間|20才|男性|防御
  • ブラッドアルティメイタム
    aa0034hero001
    英雄|11才|男性|バト
  • ひとひらの想い
    ティオ・ウェンライトaa0083
    人間|14才|?|攻撃
  • エージェント
    シャーロット ソールズベリーaa0083hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • LinkBrave
    シエロ レミプリクaa0575
    機械|17才|女性|生命
  • きみをえらぶ
    ナト アマタaa0575hero001
    英雄|8才|?|ジャ
  • 病院送りにしてやるぜ
    桜木 黒絵aa0722
    人間|18才|女性|攻撃
  • 魂のボケ
    シウ ベルアートaa0722hero001
    英雄|28才|男性|ソフィ
  • 真仮のリンカー
    都呂々 俊介aa1364
    人間|16才|男性|攻撃
  • 蜘蛛ハンター
    タイタニアaa1364hero001
    英雄|25才|女性|バト
  • 我が身仲間の為に『有る』
    齶田 米衛門aa1482
    機械|21才|男性|防御
  • 飴のお姉さん
    スノー ヴェイツaa1482hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • お母さんと一緒
    真白・クルールaa3601
    獣人|17才|女性|防御
  • 娘と一緒
    シャルボヌー・クルールaa3601hero001
    英雄|28才|女性|ドレ
  • エージェント
    “皮肉屋” マーシィaa4049
    人間|22才|男性|回避
  • エージェント
    “不可思議な放浪者”aa4049hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
前に戻る
ページトップへ戻る