本部

くまさん出没注意

霜村 雪菜

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
4人 / 4~10人
英雄
4人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/04/12 19:41

掲示板

オープニング

「私の英雄って、くまのぬいぐるみなんですよ……」
 と、HOPEエージェントである女子高生は切り出した。
「厳密にはぬいぐるみじゃなくて着ぐるみを着てるんですけど、見た目は完全にぬいぐるみで。何か一族の決まりで、人前で着ぐるみを脱ぐのは失礼に当たるんだそうです。触ってももっふもふで、動くとたふたふして、寝てたらちょふちょふしてるんですよ」
 擬態語がいちいちかわいい。
「で、その子がどうも、私の誕生日のサプライズパーティーをしようとしてくれているらしいんですね。ちょこちょこ出かけるので心配で跡をつけたら、商店街で買い物をしていて」
 彼女は、ふうと溜息をついた。
「実は去年も同じ事をしようとして、見事失敗しちゃったんですよ。原因はいろいろあるんですけど。それであの子、だいぶ落ち込んでたんですよね。だから今年は成功させてあげたいんだけど、私がフォローするわけにはいかないし、でも心配で……」
 だから、と彼女は続けた。
「こんなことお願いするの、迷惑かもしれないんですけど、あの子が落ち込むの見たくないんです。今年は一人でやり遂げたって、達成感を味わわせてあげたいんです。お願いします。あの子をさりげなく助けてあげてくれないでしょうか?」

解説

●目的
くま(の着ぐるみを着用した英雄)をさりげなーくサポートします。パートナーのために、サプライズパーティーの準備に奔走しているくまです。人間の言葉もしゃべれますが、なぜか時代がかっています。去年のショックを乗り越えさせるためにも「一人でやり遂げた!」という自信を付けさせてあげるよう、目立たないサポートが望ましいです。
●くま
 着ぐるみを着ている英雄。名前はアルフレッド・J・ウォルター。異世界では一族の王様だったと言っています。そのためか、口調がやや大仰です。しかし傍目にはもふもふしたかわいいこぐまです。体長は90センチ、体重は米の袋よりちょっと重いくらい。人間の二歳児くらいの身長体重です。
●去年失敗した原因
1.家から商店街までの道にいる犬
 家から商店街に行く途中にある家の飼い犬です。アルフレッドを見て吠えます。雑種の中型犬ですが、アルフレッドより大きいので怖いようです。ちなみに他にも商店街へのルートはありますが、多少遠回りになります。大人の足で十分程度かかるので、荷物が増えるアルフレッドの帰り道には大変かもしれない距離です。
2.お花屋さん
 去年アルフレッドを見て「ぬいぐるみが動いた!」とおばあさんが腰を抜かしました。今年は果たして免疫ができているかどうかは不明です。誕生日なので、アルフレッドはお花をどうしても買いたいようです。
3.スーパー
 人がたくさんいるので、小さなアルフレッドにとって買い物するのが大変です。人混みに揉まれて、去年は買い物ができませんでした。これがもっとも大きな打撃だったようです。ちなみに去年のリベンジで今年のケーキも手作りの予定なので、ここで材料が揃わないのは致命的です。

リプレイ

●作戦会議?
「サプライズパーティーねぇ……、同居してるとなかなか難しいんだよなぁ」
 來燈澄 真赭(aa0646)は、依頼者からもらった資料を読みながらうーんと唸った。
「驚かす予定の相手に気づかれていたと知ったら、羞恥極まるだろうがとりあえず準備を成功させた後は当人たちの問題か……」
 緋褪(aa0646hero001)も腕組みをして考え込んでいる。今回は依頼の特性から表立った行動が制限されるため、どんな方法を使って成功に導くかというアイディアが難しい。
「うーん、しかしどうみてもくまさんのはじめてのおつk」
「色々とまずいからそれ以上言うんじゃない」
「くまさん王の願い、叶えてあげたいね」
 真白・クルール(aa3601)が、シャルボヌー・クルール(aa3601hero001)を見上げて言う。
「真白は優しいのね、とても素敵な事だと思うわ。ママも精一杯、協力するわ」
「有難う、ママ!」
 にっこり笑う真白。
「かわいい! うちも変なおじさんじゃ無くてこう言う感じが良いな……う、元のままだ。ううう」
 依頼主から借りてきたアルフレッド(くま)の写真を見て、須河 真里亞(aa3167)が悶絶している。そして、傍らの英雄愛宕 敏成(aa3167hero001)を見てなんだか落ち込んでいる。
「本気で落ち込むなよ! 傷付くだろ! ……いや、しかし本人? に気付かれずって結構ハードル高いな」
「先回りして考えなきゃなんないもんね……そこらへんはトシナリに任せた!」
「やっぱり丸投げか? うーん、どうしよう」
 何だかんだで仲はいい。
「あれ、どうしたの? 骸さん」
 さっきから黙ったままの骸 麟(aa1166)と宍影(aa1166hero001)に気づいて、真赭が声をかける。
「なるほど、達成感を味あわせたいと言う主人の想い、よく分かりますな。しかし、買い物如きでその様な達成感を味わえるものでござるかの?」
「は?」
「……敵だな。人が達成感を味わえるのは強敵をやっつけた時って決まってるぜ!」
 がばっと立ち上がる麟。
「確かに英雄に単なる買い物など役不足……それでは迫り来る暗殺者となってアルフレッド殿に骸忍術の恐怖をとくと味わって頂きましょうぞ! くくくく」
「ふふふふ」
 そしてノリノリのマッチョな男。真赭がなにやらやばいと感じた時には、時すでに遅し。
「行くぜ!」
「合点でござる!」
 麟と穴影は、あっという間に走り去ってしまった。
「えっと……」
「とりあえず、行くか」
 緋褪が仕切り直し、六人は商店街方面へ場所を変えた。

●犬
「先ずは依頼人の話を元にどう言う所が有るか見てみるか」
 敏成の発案で、一同はくま王アルフレッドが通ると思われるルートを改めて見て回っていた。
「天気良いね? ……なんか眠くなって来た……幻想蝶に入るか……って、あたし無理だし! ……トシナリ何で無視?」
「え? ボケだったの?」
 敏成と真里亞の、微笑ましいやりとりである。
「飼い主さんに相談して、お散歩の時間をくまさんの買い物に合わせられないか訊いてみようか?」
「あ、いいかもね」
 というわけで、問題の家を訪れる。玄関には、大きな犬小屋。犬は、雑種で中型サイズと言うことだったが、潜んでいる影は妙にでかい。
「骸暗函潜……ここは待ち伏せにはちょうど良い場所だな……!」
「なにをしているのです? 骸さん」
 あきれ顔のシャルボヌー。
 犬小屋に潜んでいたのは、どや顔の麟だった。小屋の横で、本来の住人……もとい住犬が困惑したようにくんくん鳴いていた。
「わんこさん困ってますから、出てあげてください」
「……ちっ」
 真里亞に引きずり出され、舌打ちしてさっていく麟。いったい何がしたいのか、一同の疑問は、しかしすぐに目の前の現実に取って代わられる。
「あ、あれは!」
 真白が気づいて、目を輝かせている。
 人間の二歳児くらいの大きさのこぐまが、たふたふと歩いてきていた。背中にはリュック、毛並みは茶色、つぶらな瞳。まるまっこい腕が、もふもふの額をちょふっと拭う。
「ふう、あとすこしなのじゃ」
 かわいい。
 そんなまるまるしてふくふくしたくまの背後に、何かが忍び寄っていた。
「ふふ、今宵は死兆星が輝くに違い無いぜ!」
 またしても麟だった。なぜか今さっきとは服装が違う。変装はくノ一の得意技ということなのだろうか。
「何をやっているんだ……」
 やれやれと首を振った緋褪が出て行って、くまに襲いかかろうとしていた麟をアッパーで阻止した。一瞬のことだったので、くま王アルフレッドは何も気づかなかったようにたふたふ歩き続けている。
 その間に、真里亞が飼い主との相談を始めていた。
「済みません、HOPEの者ですが、いつもお散歩って何時頃ですか?」
「散歩? うーん、いつもは夕方くらいなんだけど」
 まだまだ日は高い。そして、アルフレッドはどんどん近づいてくる。このままでは、去年の悪夢――犬に吠えられて怖い事件が再発するかもしれない。
 今のところ、シャルボヌーが人狼だった過去の経験を活かし犬を威嚇し黙らせ服従させ影から吠えないよう睨みを利かせている。しかしこれでは、犬も怖いだろう。
「実はこういう事情で……」
 敏成が、手短に事情を説明する。すると飼い主は、うんうんと頷いた。
「わかりました。じゃあ、今から散歩に行きますよ。ちょうど買い物もしなきゃならなかったので」
「ありがとうございます!」
「ありがとう!」
 真里亞と真白が、手を打って喜んだ。
 そして……。
「むむ?」
 アルフレッドは、もふっと立ち止まった。去年は、この家の前を通ろうとした時に犬に吠えられたのだ。今日は大丈夫か……。
「さー、シロ。散歩に行くよ」
 飼い主らしい人が、犬を繋いだリードを持って出てくる。そのまま商店街方面へと去って行った。
 アルフレッドは、ほっとして頷いた。
「よかったのじゃ。てんてきはいなくなったのじゃ」
 そして再び、とことこと歩き出す。
「かわいいねぇ」
 その様子を、真赭はビデオで撮影していた。
「では、俺は花屋へ回ってくる」
「うん、よろしくー」
 緋褪を見送った彼女だが、しばらくしてから首をかしげた。
「何か、大事なことを忘れているような……?」
 何だろう。気になる。
 けれど結局、思い出せなかった。
 一方、緋褪は問題の花屋へ到着していた。真里亞と敏成、真白とシャルボヌーもすぐ合流すると連絡してきていた。彼の役目は、花屋の主であるおばあさんに事情を説明することである。
「我々英雄は年恰好と精神年齢が必ずしも一致するというわけでもないのでな。少々変わった格好をしているが、害はないので普通に対応してもらいたい」
「うーん……そうかい」
 疑わしそうな顔つきのおばあさんは、じろじろと彼を無遠慮に眺めた。不躾な視線にもめげず、彼はさらに大事なことを念押しする。
「それから、事情があるので今お願いしたことも含めて、内緒にしておいてもらいたい。いつものように、求められた花を売る。それだけで充分なのでな」
「……ふん」
 くれぐれもお願いする、と言い置いて一旦その場から引き上げた緋褪と入れ違いに、怪しい人影が花屋の前に現れる。
「ゲリラ戦の恐ろしさはただの一般市民が突然武器を持って襲い掛かって来ることにあるでござる。アルフレッド殿にはその恐怖を味わって貰うでござる」

●花屋
 真里亞と敏成が花屋に到着したのは、それから三十分後のことだった。その後の打ち合わせなどをしていたのと、アルフレッドが道中無事であるようにあとからついて進んでいたからだ。緋褪は先に商店街とスーパーの様子を見に行き、真赭はアルフレッドのビデオ撮影を継続中、真白とシャルボヌーは、何やらまだ相談中だ。
 花屋の店先には、色とりどりの花が咲き誇っている。真里亞は駆け寄って、一輪に顔を寄せた。打ち合わせでは買い物をしつつくまの来訪をおばあさんに頼むことになっているため、敏成が「どれを選んでもいいぞ」と言う。
「えー、どれでも良いの? ……この薔薇きれいだよね?」
「ん? 高いな。コレなんかどう?」
「……どれでも良いって言ったのに! 絶対コレ!」
 ごねる真里亞をスルーして、敏成はおばあさんに話しかける。
「すみません、もう少ししたらここにくまがやってくると連絡があったと思うのですが……」
「またその話かね。わかってるよ」
 気むずかしそうなおばあさんは、ふんと鼻を鳴らした。どうもブーケを作る作業中で、集中を妨げられたので不機嫌になったせいもあるようだ。敏成は今は静観することにした。
 とりあえず真里亞が花を買って、会計を済ませる。一同が物陰に潜んだすぐあとで、アルフレッドがやってきた。
「おたんじょうびの、おはなをちょうだいしたいのじゃ」
 丸い手で、お札を差し出す。おばあさんに届きやすいように背伸びしているのだが、丸いつま先がふるふるしている。
「かわいい」
「かわいいわねぇ」
 思わず心和んでしまう光景だったはずなのだが。
「お前にやるのはこれだよ!」
 何と、おばあさんが突然作っていた花束をくま目がけて投げつけたのだ。
「きゃー!」
 悲鳴を上げるアルフレッド。わーんと泣きながらとてててと駆け去って行く。
「な、何事!? 真里亞さん、敏成さん、くまさんをお願い」
「わかった!」
 真里亞と敏成がアルフレッドを追いかけ、真赭と真白、シャルボヌーは事情を聞くため花屋に入る。
「すみません、今見ていたのですけれど、くまさんがどうかいたしまして?」
「あん? あんたらHOPEの人なんじゃろ?」
「ええ……」
「さっきあんたらのお仲間が来て、『ここにくまのぬいぐるみに化けた悪いやつが来るから、これでやっつけてくれ』ってこれを置いていったんじゃないか」
 と、おばあさんが見せてくれたものに、三人は驚きの声を上げた。
「爆竹!」
 なんと、爆竹を花束に仕込むようにも指示されたという。実際は火はついていなかったようだが、それはおばあさんの優しさだろうか。
「おばあさん、そのHOPEの人ってどんな人だったんですか?」
「そうだねぇ……がっちりしてて髭があって、スーツを着てたねぇ。あ、あと、語尾に『ござる』とか付けてて、変わってるなぁと思ったけど」
 ものすごく誰だかわかりやすい説明だった。
「もー! 骸さんだけじゃなく穴影さんまで!」
 真赭は店を飛び出して、穴影を探しに行った。残った真白とシャルボヌーは顔を見合わせて、うんと頷き合う。
「すみません、ご協力には感謝いたしますが、もう一つお願いが。もちろんお礼はお支払いいたします」
 一方、真赭は以外に近くに潜んでいた穴影を発見することに成功していた。そして。
「おまわりさん、この人です!」
 大声で、そう叫んだ。
 人通りがそれなりにある辺りだったからたまらない。集まってきた野次馬の中で善意の人達が、素早く携帯などを取りだして然るべきところへ通報する動きを見せる。
「いや、オレは決して怪しい……違う! 待て! 通報はやめて!」
 あわてた穴影が、素早く逃げていった。
 さて、アルフレッドに追いついて何とか慰めることに成功した真里亞と敏成は、彼を励ましつつ花屋の方へ戻っていた。
 お花はプレゼントだから、どうしても必要だ。もしまた買えないなんてことになったら、さっき敏成に買ってもらったブーケを上げてもいいなと真里亞は思っていたのだが、それは最後の手段だ。あくまでも今回の任務は、『アルフレッドがパーティーの準備を成功させるのを手伝う』ことなのだから。
 が、そんな心配は、嬉しいことに杞憂に終わった。
「いらっしゃいませー!」
 もとの花屋はなぜか閉まっていたが、かわりにいっぱい花を摘んだワゴンが彼らを迎えたのだ。にこやかな店員は、何とイメージプロジェクターで売り子の格好をした真白だ。
 アルフレッドがおばあさんのお店でもう一度買い物をするには勇気がいるだろうと考えた真白とシャルボヌーは、こういうときのためにと用意しておいた軍資金で、店の花を買い占めたのだ。不測の事態にも備えを怠らない母娘であった。
 さすがに全部は無理だったが、思わぬ収入に喜んだおばあさんは快く応じてくれた。車は、HOPEに頼んで大急ぎで持ってきてもらった一台である。
 アルフレッドは嬉しそうに万歳をして、てふてふとワゴンに駆け寄った。
「おたんじょうびように、おはなをください」
「はい、かしこまりました!」
 元気に返事をして、真白がブーケを作っていく。あとで聞いたところによると、やはり万一に備え練習していたらしい。抜かりのない娘である。
「できました! どうぞ!」
「ありがとうなのじゃー!」
 花束を受け取って、大喜びのアルフレッド。もふもふと喜ぶまるっこい姿に、どうなることかと見守っていた一同は心の底から和んだ。
 しかし、またしても彼らは忘れていたのだ。危機が完全に去ったわけではないことを……。
 最後の関門スーパーでは、緋褪が先回りし買い物客の混雑する時間帯などを店に尋ねている。そんな彼を見守る黒い影が二つ。
「斯くなる上は変装しての奇襲で一気に決めるでござる」
「ふふふ……」

●スーパー
 HOPEに根回しをしてもらい、アルフレッドがいる間他の買い物客が入れないようにできないかという真白とシャルボヌーの提案は、残念ながら店から断られてしまった。一日の内でもお客が増える時間帯であり、そこで休業状態にされてしまっては確かに大損害だろう。
「ダメ元で交渉して見るか? 無理なら買い物客に扮して護衛か」
 敏成も交渉に加わりいろいろ話し合った結果、アルフレッドをそれとなくガードすることは認められた。他のお客の安全を守り円滑に買い物してもらうためにも、店側も協力してくれるという。
 アルフレッドがやってきた時、まず行動を開始したのはシャルボヌーだった。
「あら、こんなところにカートが不法投棄されているわ。困ったわねぇ」
 聞こえよがしな独り言を、アルフレッドは確かに聞いたようだ。とことことカートのところへやってきて、うんうんいいながら押していく。ちなみに大人用では手が届かないので、ちびっ子お手伝い用のカートだ。
 小さなくまがお子様カートを押している光景は、通りすがりの買い物客を和ませている。そして和んだ人々が彼が買い物をするそぶりを見せるとそれとなく気を遣ってどけてくれたり、高いところの物を取ってくれたりという心温まる光景を生み出していった。
 シャルボヌーはアルフレッドがカートを押していくのを見届けたあと、先回りして真白と合流した。
 アルフレッドの目当ては、主にケーキの材料。それがわかれば、どこのコーナーに立ち寄るかも自ずと予想できる。
 それらコーナーへの順路に、エージェント達は散らばって待機している。真里亞と敏成は買い物客の振りを装いつつ、目立たないようにそれとなくアルフレッドの潤滑な移動をサポートしていた。
「ついでに夕ご飯の材料買ってこ? ……そこのチラシ見た? ブリ特売だって」
「……緊張感無いなあ」
 そして何だかんだで自分達の用事も済ませていた。
「うーん……なやむのじゃ」
 しばらくして小麦粉を探しに来たアルフレッドは、立ち止まって悩んでいた。二種類の小麦粉、お値段がちょっぴり違うのだ。奮発して高い方がいいのか、それともいつもの安い方を買うべきか。それが問題だ。
「ねえ、ママ! これ美味しそう!買って!」
「もういっぱい買ったでしょう? 駄目よ」
「え~! ヤダヤダ! これが欲しいの!」
 という微笑ましいやりとりで買い物客がアルフレッドを押し退けないようガードしているのは、真白とシャルボヌー。一度顔を見られてしまっているので、ここでも念のためイメージプロジェクターを使っている。時折「通せ!」という抗議が起きたが、二人はアルフレッドが立ち去るまで動くことはなかった。
 さて真赭と緋褪は、カメラを持ってアルフレッドを撮影追跡している。これが撮影であると言うことを周囲に見せることで、何となくくま周辺に近寄りがたい雰囲気を造り出すためだ。忙しくても聡い人の何人かは察してくれて、よほどひどい混雑エリアではない限りはアルフレッドの周りには気持ちのいい間合いが保たれている。
 天井からその様子を見守っていた穴影は、ううむと唸った。
「斯くなる上は変装しての奇襲で一気に決めるでござる」
 根が真面目なので言いつかった仕事は先ず果たそうとする穴影だった。
 麟も一緒に、スーパーの店員の服装で売り場に潜り込む。小麦粉も卵も砂糖も買ったし、生クリームもイチゴもカートの中に入っている。あとは恐らく、製菓材料売り場に向かうはずだ。
 品出しのふりをしつつ、待ち構える麟と穴影。くまが近づいてくる。あと三メートル。二メートル。
 だが、その時だった。
「ちょっとお姉ちゃんは今仕事……製菓材料の品出しが……ケリはダメだよ! 怪我するよ! ててて」
 麟は子供達に異様に絡まれる性格なのであった。通りすがりの子供達に取り囲まれて悲鳴を上げ、何とか彼女を助けようとした穴影の後ろを何事もなくアルフレッドが通過し、さらに彼を追跡していた真赭達が、二人に気づき……。
「ちょっと! またなの!」
「て、撤退でござる!」
「わあ~待って!」
 這々の体で二人は退散し、安全圏まで辿り着いた時力なくがっくりと項垂れた。
「弘法も筆の誤り……どうも今日は滑ってばかりだな」
「その諺は得意な事を失敗した時に使うのでござるが……ちょっとネットの占いサイトを覗くでござる」
 どうも今日は、二人にとって厄日だったようだ。

●任務完了
 無事にスーパーでの買い物を終え、アルフレッドはスキップでもしそうな軽い足取りで家路を急いでいる。ちょっと心配だったのは、例の犬だったが。
「あなた毛並みもきれいだし、お利口ねぇ。うん、いいこいいこ」
 犬は、女の子に遊んでもらってアルフレッドにはまったく意識を向けなかった。その隙に、アルフレッドはとてててと家の前を通過する。
「きょうはおかいものがうまくできてよかったのじゃ。おはなもきれいだし、うれしいのじゃ」
 ふふふ、と独り言を言う。あとはケーキを作って、プレゼントを大好きなあの子にあげるだけだ。
 スキップするくまの後ろ姿を門の中から見送り、真赭は出てきた飼い主にぺこりと頭を下げる。
「突然お邪魔してすいませんでした。ご協力ありがとうございました」
「いやいや。なんだかうまく行ったみたいでよかったね」
 人のいい飼い主にもう一度会釈し、往来へ出る。撮影を変わってくれていた真里亞に礼を言って、カメラを受け取った。もう撮影は充分だろうか。
「ところでこのビデオ、どうするの?」
「編集して、依頼主さんにあげようと思って」
 ケーキやプレゼントも嬉しいに違いないが、そのために仲良しのくまが頑張っている姿を見るのはもっと嬉しいのではないだろうか。そう思ったのだ。
「いいアイディア!」
「熊の縫いぐるみってやっぱキャッチーだな。これが猛禽類とか馬とかだとデフォルメしてもなんか違うんだよな」
「元が良く無いとキグルミってもダメか……残念」
「……知らぬ間に危機が去った??」
 謎の危険に晒されていたらしいことを知って、敏成は微妙な顔をした。
 真白とシャルボヌーも笑顔だったが、ぐったりと倒れ込んでいる。
「……思ったより大変だったね……」
「お手伝いって難しいのね……」
 人里に降りてきての生活は、まだまだ二人にとって驚くことの方が多い。それでも、大事な娘が積極的に誰かを助けたいと思って行動したことを、シャルボヌーは嬉しく思う。
「楽しいパーティーになるといいがな」
 緋褪の呟きに、真赭だけでなく他のみんなも大きく頷く。
 明るい笑顔で。
 家に向かうくま王の小さな影を、沈みゆく夕日が温かく包み迎えていた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • もふもふの求道者
    來燈澄 真赭aa0646
  • 捕獲せし者
    骸 麟aa1166

重体一覧

参加者

  • もふもふの求道者
    來燈澄 真赭aa0646
    人間|16才|女性|攻撃
  • 罪深きモフモフ
    緋褪aa0646hero001
    英雄|24才|男性|シャド
  • 捕獲せし者
    骸 麟aa1166
    人間|19才|女性|回避
  • 迷名マスター
    宍影aa1166hero001
    英雄|40才|男性|シャド
  • 憧れの先輩
    須河 真里亞aa3167
    獣人|16才|女性|攻撃
  • 月の軌跡を探求せし者
    愛宕 敏成aa3167hero001
    英雄|47才|男性|ブレ
  • お母さんと一緒
    真白・クルールaa3601
    獣人|17才|女性|防御
  • 娘と一緒
    シャルボヌー・クルールaa3601hero001
    英雄|28才|女性|ドレ
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