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【東嵐】連動シナリオ

【東嵐】従魔お持ちの方無料です

落合 陽子

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/04/10 19:16

掲示板

オープニング

●香港の日常
香港九龍支部で開催されるHOPE国際会議。その開催予定日は刻一刻と近づきつつあった。
道行く人たちはどこかせわしなく落ち着かない様子で、誰もが忙しそうに感じられた。
 商店や飲食店、宿泊施設などは会議中のかきいれを当て込んで準備に余念がなく、メディア関係者は早々に現地入りして取材の下準備に大忙しで、現地の住人らも開催期間中の喧騒を予想してどこか落ち着きが無いようだった。
 そんな非日常の気配迫る中でも、変わらないものがある。
「ああっ、ご覧下さい! 大きな従魔に今武器が振り下ろされました!」
 リポーターがひっくり返った車の裏でまくし立て、カメラマンは腹ばいになりながらカメラを向けている。画面の中では、エージェントが大剣を振り回し、白黒模様の熊のような従魔と戦っている。
「街のど真ん中で……暴れないの!」
エージェントが振り回した大剣が従魔をなぎ払い、塵に還す。
そう、彼らエージェントにとっては、そんな非日常こそが日常なのである。

●災厄
 香港の中心からやや外れた飲食街。突如、人々の悲鳴が上がった。悲鳴の原因は1つ。
「従魔だ!」
「リンカーはいないのか!!」
「助けて!」
「とにかく逃げろ!!」

 町に突如出現した従魔。

 深紅の体。大振りな1対のハサミ。表情の全くわからない黒い目。そして全てが規格外に大きい。振り回すハサミはその軌道にある全てを薙ぎ散らかし、深紅の体は通常の攻撃は全て跳ね返す。黒々とした目は何も語らず、ただ黙々と破壊活動にいそしんでいる姿はさながら。

 カニである。巨大なカニである。

「なんでこうなるの」
 休暇中のロンドン警視庁の刑事2名は肩を落とした。せっかく、美味しいマンゴープリン食べてたのに。

●君じいさんの叫び
「HOPEと警察には連絡してある! 落ち着いて行動を。最低限の荷物持って大通りに!」
 皆が逃げ惑う中、2人の刑事は手分けして避難誘導と逃げ遅れそうな人々のサポートを行う。
「リンクした方がいいんじゃないの」
「こんな大勢いる中で、上司の許可なくリンクできるわけないでしょ。遠距離攻撃はできそうもないし、避難さえ終われば後は」
 老人が包丁を片手に店から飛び出した。その体は瘧にかかったように震えている。
「君じいさん!? まだ逃げてなかったの?」
 先ほどまで2人に絶品のマンゴープリンを提供していた君じいさんは包丁を振り上げて叫んだ。

「だれかあのカニを捕まえてくれ!」
「あれを持ってうちに来たら料理は半額にするぞ!!」
「従魔料理のパイオニアになるのはワシじゃあ!!!」
 
 何かを感じ取ったらしく巨大カニ型従魔はちょっぴり後ずさりする。

「あのじいちゃん、助ける必要なくない?」
 刑事は真顔で言った。

解説

●目的
 従魔退治・提供(後述の老人へ)

●敵情報
 従魔ハーハーイ デクリオ級
 巨大なカニの姿をしている。武器は巨大な1対のハサミ。ひと薙ぎでビルが崩れるほどの威力を持つ。はさまれれば通常の人間は真っ二つ。動きは鈍いが、防御力は高い。前後左右に動ける。

●その他情報
 君長雲(君じいさん)
・広東料理店「海娘娘」の主人。料理に対する探究心が強すぎて従魔料理を極めようとしている。材料が手に入らなくてやきもきする毎日。従魔を持って来たら料理を無料にすると謳っているのだが、そんな人物は滅多に来ない。現在暴れている従魔、ニーニーハイを狙っている。
 料理の腕は確かでこっそり著名人が来たりするほど(本人は著名人が来てるのには気づいていない)
 従業は家族だが、本人を除いて美男美女。

●注意点
・避難誘導などは既に対応しているので従魔討伐に専念して欲しい。
・従魔は普通に倒していいが、木っ端微塵にするとじいさんががっかりする。
・だからと言って丸のままでは店に入らないので、持ち込む際はある程度解体すること。

●その他
 強制ではありませんが、戦いのあと従魔持参で君じいさんの店に行くと広東料理(もしくはその他中華料理)をご馳走してくれます。ぜひどうぞ。街のみんなも来てどんちゃん騒ぎになるかと。どちらかといえばこちらがメイン。OPに出て来た刑事たちも参加します。

リプレイ

●まずは観察
(通報者は休暇中のロンドン警視庁の刑事か)
 現場に着くなり霧島 侠(aa0782)は通報者を探そうとしたが、すぐに見つけた。視線の先には冷静に従魔を見つめている2人の女性。通報は冷静かつ適切だったと言う。彼女たちに違いない。
「通報者か?」
 侠は2人に声をかけた。
「はい。ジェンナ・ユキ・タカネ (az0051)です。彼女は「躾の行き届い」レター・インレット(az0051hero001)」
「リンカーの霧島侠だ。状況確認したい」
 不満げなレターには目もくれず侠が言う。他のリンカーも集まり出す。
「うっはー。まんま怪獣映画だねえこれ」
「おっきい」
「わかりました。では」
 侠の言葉にユキが頷く。
「追加報情報なし。警察未到着」
「蟹か。蟹だと鍋もいいが中華もいいな」
「でっかい蟹さーん」
「ん、チョッキンチョッキン。これは、確“カニ”大きいね。食べ応え、ありそう……じゅるり」
「主よ。普通の人間は、従魔なんぞは食わぬと思うのだが」
「ん、だいじょうぶ、だいじょうぶ。エージェント、だから、ね」
「近隣住民全員避難確認」
「あ、エミルくん、晴明さん、また一緒の依頼だね! また美味しいもの食べるために一緒にガンバロー、おー!」
「おー」
「従魔の新能力未確認」
「蟹料理を馳走してもらうのじゃ」
「素材は見た目が蟹なだけで、実際は従魔料理だけどな」
「問題の料理屋の店長も無事避難」
「蒸して炒めて煮込む! 誰かあいつを捕まえてくれ!」
「以上。現状、従魔が多少暴れたところで、道路にヒビが入る程度です。今の内に討伐するのが得策かと」
「うわ~ホント大きい蟹だね」
「キヒヒ、色んな意味で食いでのありそうな獲物じゃねぇか♪」
 従魔を尻目にリンカーたちの若干能天気な会話と君じいさんの若干狂気が入った台詞の中、淡々と報告するユキ。なかなかシュールな光景である。
「了解」
(明らかに堅い上、急所を衝きにくい。脊椎動物よりは、な。面倒なことだ。が、周辺の被害も考慮し速やかに倒したい)
 当面の危険はないと言ったが、それは従魔が移動しないことが前提だ。
「取り囲んで、まずは消耗させる、か」
 幻想蝶を弾く。
「いくぞ、飛影(aa0782hero001)」
 共鳴すると地を蹴った。他のリンカーたちも次々に従魔を食べる。もとい、倒すべくそれぞれの位置についた。

●次に仕留めに行き
 真っ先に従魔へと接近したのはエミル・ハイドレンジア(aa0425)とギール・ガングリフ(aa0425hero001)。2人とも従魔への恐怖はない。エミルに至ってはよだれを垂らさんばかりである。脳内は蟹パーティ開催中だ。
 従魔は咆哮を上げると2人へ一気にハサミを振り下ろす。あと少しで当たるところで素早くリンク。紙一重で避けた。従魔はそれが気に入らないのかエミルを潰そうとハサミを振り回す。スタコラサッサと音でもしそうな動きでエミルが退く。従魔は追いかけようとした。
「縫止」
 リンクした桃井 咲良(aa3355)とジャック・ブギーマン(aa3355hero001)によって従魔が止まる。その機を逃さず従魔の脚の付け根にある関節部分に後ろから刃が差し込まれた。カトレヤ シェーン(aa0218)と王 紅花(aa0218hero001)の冷気をまとう武器、冷艶鋸だ。身を傷めず解体できるすぐれものである(無論、本来の用途は断じて従魔料理用包丁ではない)それとほぼ同時に土御門 晴明(aa3499)と天狼(aa3499hero001)のハウンドドッグ が関節へ攻撃を加えた。従魔の絶叫が辺りに響く。身をよじり、ハサミを激しく振り回した。ものすごい力である。これ以上その場に留まるのは危険と判断し、カトレヤは、刃を抜いて甲羅へと登る。
「ここなら、ハサミも脚も届かねぇだろ」
(痛覚ありか。それなら)
 侠は踏み込んだ。従魔が痛みの元凶を探している間に、ハサミの攻撃を紙一重で避けつつ、脚の下側に剣を入れた。脚に沿わせてひとつ外の関節まで剣を滑らせる。あまりの摩擦にいやな音を立てて火花が散った。ちょうど死角の場所だ。理解不能の痛みに従魔が大暴れするが、侠は慌てず、間合いを取る。その間に咲良は潜伏で死角に回り込み、ジェミニストライクを使用し脚の関節部分を狙う。まるで2人に攻撃されているような感覚に従魔が恐怖を覚えたのか大きく後ろにジャンプした。同時にカトレヤはそれとは逆方向へ飛び降りた。
 従魔は一連の痛みはカトレヤに原因があると見たらしい。怒りの声をあげカトレヤへハサミを振り回した。カトレヤは無理に攻撃しようとせず後ろへ下がる。そこへカサカサうろちょろとエミルが動き回る。そのすぐ脇をすり抜けるように清明の攻撃が関節を攻撃。その攻撃を従魔はエミルのものだと思ったらしい。彼女に標的を変えハサミを振り回す。エミルはひょいと従魔の背に乗り何故かVサイン。今度は咲良がまるでおちょくるようにヒット&アウェイの要領で攻撃しては引き、攻撃しては引きを繰り返す。
「痛いときにあれやられたら腹立つわねー」
 レターが感心した声を上げつつエミルにVサインを返す。その隣でユキも真顔でVサインをしている。痛みと怒りで混乱が最高潮に達したのか再び咆哮を上げ従魔は更にハサミを振り回している。リンカーたちはそれに怯むことなく次々と関節に攻撃を加えていく。ハサミは相当なスピードだが、当たることはない。それはリンカーたちが素早いからというだけではない。
「シエロ、あそこ」
「あいよぉ!」
 リンクしたシエロ レミプリク(aa0575)とナト アマタ(aa0575hero001)の銃撃がハサミの軌道をずらしているからだ。 
「いい腕ね。射撃はかくあるべし、だわ」
 ユキが目を鋭く光らせた。
「狐のひともいいわね。ハウンドドッグ 使ってる彼」
「射撃で手合わせしてみたい」
「敵に回したくはないわね」
(あの刑事はリンカーと英雄か。射撃とか言っていたからそういうジョブか) 
 戦いつつ地獄耳を地獄耳を発揮する侠。
「あんまり暴れるなよ」
 カトレヤの刃が先ほど自らが攻撃したのと同じ場所へ突き立てられる。続いて晴明の刃が同じく関節に突き刺さった。さらに侠の刃も関節に潜り込んだ。従魔はますます激しく暴れる。3人は無理して踏ん張らず三方に散った。従魔はなぜか、咲良が原因と思ったらしい。咲良の方へ一歩踏み込んだ。途端に大きくバランスを崩した。蓄積されたダメージが今頃になって従魔に牙をむいたのだ。それでも咲良へとハサミを振う。
「にゃーっはっはっは! その攻撃は通せないなあ」
 シエロの一撃がハサミの軌道を変える。カトレヤ、侠、清明によって脚が次々斬り飛ばされ、地響きを立てて脚が地面に落ちた。だが、従魔は倒れない。それどころか淡く光り出した。
「フラッシュバン」
 閃光がほとばしった。従魔の動きが止まる。最高のタイミングで放ったシエロのフラッシュバンにリンカーたちは一斉に動いた。何をしようとしたかは知らないがやらせるわけがない。光が消えた時、既にカトレヤは右ハサミの内側へ、清明は左ハサミの内側へ入り込んでいる。2人はほぼ同時に渾身の力で刃を下段から上段へと振り上げた。両バサミが斬り飛ばされる。その衝撃に従魔の体が後ろに揺れた。倒れないように残った脚に力を入れる。
 ぎいぃ!
 耳障りな音と共に従魔の絶叫が上がった。侠の刃が従魔が1番力を入れた脚を切り裂く。さらに咲良の攻撃でバランスを崩す。
 後ひと押し。
「あらよっと、後は頑張ってー♪」
ひと押しは思わぬところから来た。シエロのファストショットが甲羅の端に当たる。地響きを立てて従魔が横転した。
「援護のつもりだったんだけど」
 まあ、結果オーライである。

「従魔討伐終了。避難解除の呼びかけをお願いします」
 ユキがようやく到着した警察に言った。

●捕獲して捌き
 両方のハサミを斬り飛ばされ、脚のほとんどを失っても従魔はまだ生きていた。エミルが従魔のそばにしゃがむ。
「ん、だいじょうぶ。だいじょうぶ。きっと、綺麗に、食べてくれる、よ」
 なんか怖い光景である。
「成仏するが良い。悔やみきれんだろうがな」
 ギールの言葉も結構ひどい。
「胴、脚に分けて運ぶのがいい。残った脚を斬り取って……胴も巨大だから、店の中には運び込めぬか? 店の前まで運んだら、腹を剥がして腑分けか」
 侠の言葉にジャックが口角を上げる。
「キヒヒヒ♪ 大人しく食われるために食らっとけよ!」
 武器を構える。
「殺して解して並べて揃えて晒してやんよ、食卓にだけどな、キヒヒヒヒ!」
「蟹料理! 蟹料理」
 各々の武器が太陽にきらめく。

 しばらくお待ちください。

「ふー、終わった」
 解体が終わると同時に共鳴解除する侠と飛影(全裸)
「やっと食べたらもぎゅ」
 飛影(全裸)を踵落としで踏みつぶして幻想蝶に戻す。
「何も見なかったな?」
 侠の迫力ある一言に一同無言でうなずいた。
 
●料理人に渡して
 エミルは解体が終わるやいなや、マッハで海娘娘へ行き、従魔の一部を絶対勝つからとユキによって早めに店に帰された君じいさんへ差し出す。
「これ、従魔の、肉。美味しいご飯が、食べられると、聞いて」
「俺たちも持ってきたぜ」
 他のリンカーたちも手に溢れんばかりの従魔の肉を持ってずらり並んでいる。君じいさんは顔が輝かせて従魔を受け取った。
「これだ! 客人方よ。わしはどうお礼を言って良いのか。そもそも」
「リンカーさんたち! 席に着いて下さいな。順番も礼儀も関係なし! どんどん料理持ってくるからね」
 店員が上手にその場を収めてリンカーたちを店内に押し出す。もちろん誰も文句を言う者はない。静かに料理を待つ……わけはなかった。
「ハラヘリ、ハラヘリ、ハラ、ヘリへリ。早く料理を持ってくるのじゃ!」
 どこから出したのかフォークとナイフを持ってチャッチャと合わせながら紅花が浮き浮きと催促する。
「紹興酒と茅台酒、持ってこい! 中華料理には中国酒だぜ」
 カトレヤの言葉にレターがきらっと目を光らせる。いつの間に来ていたのかは謎である。
「ここの紹興酒絶品よ。あちこちで食べたけどここの紹興酒はレベル高い」
「ほう、それは楽しみだ」
 カトレヤは驚きもせず答える。
「飲めるひとがいると嬉しいな。ユキはお茶ばっかりであんまり飲まないし」
「確かにお酒は美味しいけど、お茶の方が料理が食べられるわ」
 こちらもいつの間に来たのかユキが答える。酒を飲まない動機が意地汚い。
「服、ぜんぶ着たか。ぜんぶだ。着ぬなら食わさん。上から下までぜんぶ着ろ大馬鹿者」
 侠は幻想蝶にむかって蟹の念仏。
「飯屋に裸で入らせるわけにはいかん。制服一式、着ろ」
 服を着る着ないで英雄ともめているらしい。
「裸でもいもぎゅ」
 レターの口にどこからともなく取り出した肉まんを突っ込んで黙らせるユキ。
「中華料理って辛いんだよね」
 中華料理初の天狼が晴明に尋ねる。
「それは主に四川料理だな」
「む、違うの?」
「中国は大きく四つの地域に分かれるんだ。北京に四川、上海に広東ってな感じでな。で、そこの料理もやはり中華と言えど、それぞれの特色を持ってるんだ」
「じゃあ、今日のはどこの??」
「広東料理だな。まぁ、機会があれば、四大地方料理巡りしてもいいかもな」
「ホント!!」
「皆さん、お待たせ。今、従魔料理作ってるからね。待ってて」
 おかみさんが大皿を持ってやって来る。皿の中には塩で炒めた芝海老がぎっしり。エビのいい香りが店全体に広がる。
「あのひと、君じいさんの奥さんで御年70歳」
 レターが隣のギールに耳打ちする。
「何!?」
 どう見ても50代後半である。しかも若い頃はどれほどの美人だったのか想像もつかない程の容貌だ。おかみさんだけではない。出てくる従業員は皆、美男美女である。
「この人たちは君じいさんの子供ね。びっくりでしょ」
 失礼なことを言うレター。
「メニューに、うどん、ない」
 その隣で呆然とした声を上げるエミル。豚肉のカシューナッツ炒め、鳥の唐揚げレモンソースがけ、酢豚、貝柱とブロッコリーの炒め物等々。次々出てくる料理にもうどんはない。
「うどんはないだろうか」
 ギールの言葉に店員が「うどんない」と困り顔をする。
「う、どん。ない……」
「いいや。ある!」
 いつの間に出て来たのか君じいさんはお玉片手に高らかに言う。
「古今東西あらゆる料理に精通してこそ真の料理人! わしの料理に死角なし! 人間に作れるものならばわしに作れぬことがどうしてあろうか!!」
 振り回されるお玉を巧みに避けながらそーだそーだと合いの手を入れるレター。
「客人。うどんは必ず持ってくる。それまで絶品広東料理を堪能してくれ」
 自分で絶品というのが君じいさんらしい。
「取り敢えず料理と飲み物は揃ったな」
 カトレヤの言葉に一同が頷く。
「『それでは皆さん、カーンパーイ!』」
 
●食べるだけ
「美味なのじゃ!」
 紅花が幸せそうに宣言する。
「わぁー! すっごい美味しそう! いっただっきまーす! ん~♪ 美味しー!」
 咲良も目を輝かせて美味しそうに食べ始める。
「ん、うまうま。うまし、うまし」 
 エミルも食べる。食べる食べる。小柄の身体のどこに入るのかという程度にはもしゃる。
「今からそのペースで食べて大丈夫か。従魔料理もうどんも食べるのだろう?」
「うどんは、別腹。古事記にも、そう書いてある」
『古事記?』
 天狼とレターが同時に首を傾げる。
『日本最古の歴史書』
 清明とユキも同時に答える。
『歴史書にそんなこと書いてあるの?』
 これも同時である。
「そんなわけないでしょ」
「流石にそれはない」
 今度はばらばらに答える2人。
「あー、いたいた」
 突如、店に手土産を持った老若男女が押し寄せた。避難していた地元の人々である。
「戦い見たぜ。格好良かったなあ」
「あの蟹が倒れたときはすごかったぜ。地面が揺れたもんな」
「避難誘導してたねえちゃんたちも格好良かったぜ」
「私達は何も。それより見ました? 射撃。関節への正確なショット。ハサミの軌道を逸らす機転」
 珍しく饒舌にしゃべるユキ。
「どうだ。ここの酒は」
 徳利を持ったおやじがカトレヤに話しかける。
「ああ、絶品と言っていい味だ。おやじも飲むか?」
 カトレヤが徳利を持ち上げる。
「んじゃ、まあ、遠慮なく。代わりに俺の家の酒飲んでくれよ。今日の礼だ。そこの兄ちゃんも」
「遠慮なくもらうぜ」
 清明は素早く杯を干すと徳利を持ってきたおやじに差し出した。カトレヤも同じように差し出す。
「兄ちゃんも飲みな。ねえちゃんたちも」
 ギール、ユキ、レターにも徳利を振って見せる。
「やったー!」
 真っ先に杯を差し出すレター。少し遅れてギールとユキも杯を差し出す。それぞれの杯に酒を溢れんばかりに注ぐ。一気に飲む一同。
『美味い!』
「おやじも飲め」
 カトレヤは使っていない茶碗へと酒を注ぐ。おやじはきれいに飲み干した。
「点心食べなよ。うちの店の名物だよ。今日のお礼」
 恰幅のいい初老の女性が籠をあける。ふくふくの角煮饅が湯気を立てている。リンカーたちが集まる。
「美味しそうなのじゃ!」
「ナトくん食べよー。絶対美味しい」
「私も!」

「ついにできたぞ!」
 好き勝手にあれこれ食べていると君じいさんが出てきた。その後ろには大鍋を持った店員。
「客人方! お待ちかね従魔料理じゃ!」
 君じいさん高らかに言う。 
「まずは従魔の蟹卵入りフカヒレスープ!」
 その迫力と食欲をかきたてる香りに拍手が沸き起こる。店員がそれぞれのお椀にスープをついでまわった。
「お嬢さんにはうどん入りだよ」
 別の店員がエミルの前にどんぶりを置く。
「うどん」
 ぱあと音でもしそうな顔でどんぶりに視線を落す。
「蟹玉!」
 別の従業員が大皿を持って現れた。各テーブルのど真ん中に置かれる。その後も出るわ出るわ。蟹肉とコーンのスープ、蟹肉あんかけ麺(エミルのだけは別でうどん入り)蒸し蟹の冷製、ねぎ生姜炒めにカレー炒め等々。
「さあ!」
 君じいさんは両手を挙げた。
「召し上がれ!!」
 店内からから歓声が上がった。

 レターは若干ビビりつつ「従魔の蟹卵入りフカヒレスープ」を一口。
「美味しい! 苦味がしつこさ消してる」
「美味なのじゃ!」
 紅花が同意する。
「おおー、美味しそう! ガッツリイートですよー。でもナトくんにやばいの食べさせるのは絶対やだからまずウチが味見を……」
 配られたスープを一口。一通りの従魔料理を一口ずつ。
「にょほー! おいしいー!」
 シエロの反応にナトが「ナトモ、ナトモ」とシエロの服を引っ張る。
「はいはい! ナトくん何食べる?」
「……蟹玉」
「OKOK♪ じゃあとってきてあげるね!」
 蟹玉中心にいろんな料理を小皿で持ってくる。
「ちょっとずつならいろんな食べられるもんね!」
「……♪」
 幸せそうに頬張るナトを見てレターがユキの服を引っ張る。
「レタもレタも」
「可愛くないし、取らないわよ」
「可愛い! ねえ、蟹玉、蒸し蟹、カレー炒め!」
 みっともなくダダをこねる23歳。
「蟹と蒸し蟹と、カレー炒めか? ボクが取ってやる」
 天狼が取り皿に料理を取って差し出す。料理の載せすぎで今にもこぼれそうだ。
「気をつけろよ」
 清明がさりげなく支える。
「ありがと坊ちゃん。誰かとは大違い」
 料理を受け取るとユキに舌を出す。
「動くの億劫がってると太るわよ」
「ジャックちゃんそれ僕のー!」
 咲良の悲鳴が上がる。
「って言うか、他にもあるのに何で僕の取るの!?」
「人の食ってるもんってやたら美味そうなんだよなー。お、あっちも美味そうだな]
「ジャックちゃんフリーダム過ぎるよー!?」
 咲良からのつまみ食いに飽きたのか清明へ飛び掛る。
「キヒヒ、それ美味そうだな、くれよ、あーん♪」
 くれよと言いながら既に箸を伸ばしている。その箸をレンゲで弾く清明。
「んじゃあ、こっち」
 始めから清明への攻撃(?)はフェイントだったらしい、本命はレターの蟹玉。
「あー!」
「お前の物はオレのもの、オレの物もオレのものってなぁ? キヒヒヒヒ♪」
 だが、レターは箸で奪われたかに玉を自分の箸でつかみ、もう片方の手に握った(紅花から勝手に拝借した)ナイフを逆袈裟斬りにして、さらわれた蟹玉の大部分を切り取ると口に突っ込む。ジャックはもう片方の手にある箸でレターの蒸し蟹を掻っ攫い、口に放り込んだ。
「しまった!」
「おー。二刀流」
 飛影が拍手する。
「この料理美味しいなー。あ、エミルくんは何食べてるの?」
 咲良がエミルに話しかける。
「あんかけ麺。うまうま。うまし、うまし」
「主の胃袋はどうなっている」
 あまり美味しそうに食べるのを見たせいか咲良のお腹が鳴る。
「すいませーん! 同じやつ1つ」
「汝も食べすぎだ」
「大丈夫だよー、僕体質なのか太った事ないもん」
「主も汝も、どんな胃袋になっているのだ」
 ギールが呆然とつぶやく。
「蟹玉追加ー!」
「酒追加!」
「蟹チャーハン!」
「コレだけ大規模な宴会だと出す側の人手脚りなそうだねえ。たぶんウチが一番消耗してないだろうしウェイターぐらいやろっかな?……ねえ、料理運ぶの手伝うよ」
 シエロが店員に声をかけると店員は顔を明るくした。
「じゃあ、早速いい? これ5番テーブルお願い」
「らんらら~ん♪ ほい、お料理の追加だよー」
「悪い。こっちも。3番テーブルの蟹チャーハン」
「はーい! 3番テーブルの蟹チャーハンでーす!」
「さんきゅー。あ」
 料理を受け取ったレターがシエロの頭に乗っているナトを見る。
「坊ちゃんもありがと。これお礼」
 蓮の実のあんまんを渡す。
「美味しいわよ。あ、こら!」
「キヒヒ!」
 再び争うジャックとレター。
「ここ、よろしいですか」
 ジャックとユキから逃れてユキが侠の隣へ引っ越す。
「ああ」
「ありがとうございます」
「今日は災難だったな」
「なかなかスリリングなひと時でした」
「休暇でこの時期に香港に来るのが失敗だが。休暇の予定が先か?」
「そんなところです。まさか、ダウンタウンで全く別関連の事件に遭遇するとは思わなくて」
「服ぐらいいいじゃねえか。めんどくさいよな、うちの姐御」
 飛影は裸を咎められたのを納得していないのかぶつぶつ言いつつ新たに出された従魔料理をむしゃむしゃもぐもぐ。
「おじさんこれちょっとかたい」
「そのくらい噛み切れ」
 シエロに料理を渡しながら君じいさんが言う。
「どれどれー」
 ジャックと攻防戦を続けつつ、つまみ食いするレター。これではジャックと変わらない。
「ディープキスの練習になりもが」
 レターの口に揚げゴマ団子を突っ込むユキ。向こうでは近所の兄ちゃんが管子を吹いている。それに合わせて紅花が踊る。カトレヤは近所のじいちゃんと飲み比べ。咲良とエミルは舌鼓を打ちながら次々と皿を空にしている。その間で給仕しつつ、積み上げられた皿の量に愕然とするギール。
「まさかこの本を読んでいる若者がいようとは」
「あれは良書だ」
 その横では清明は老人相手に読書談義に花を咲かせている。天狼は料理に夢中だ。シエロとナトがどんどん料理を運ぶ。宴はまだ終わらない。

●ご馳走様
 料理もあらかた食べ終わり、リンカーたちも帰り支度を始める。
「従魔も意外に美味いのう。これからは、見る目が変わるのじゃ。他の従魔も試したいのう」
 お腹をさすって紅花が言う。
「でも、人型とか見たこともないような姿の奴や、不衛生なのはイヤだぜ!」
 カトレヤはが言う。
「たべた、たべた。おうどん、探しの旅に、出る。お代」
「まだ食べるのか……主」
「そういえば結局、これって半額なの? 無料なの?」
「知らねぇよ」
「あら、半額って言ってた? ごめんね。以前は半額だったんだけど、従魔なんて誰も持ってこなくてタダにしたの。あのひと、興奮で混乱したのかしら。……あのひと本当に楽しそうだった。ありがとね」
 おかみさんがにっこり笑う。
「礼を言うのはこちらだ。美味い料理だった」
 清明が言う。
「そうそう」
「最高に美味しかった!」
 他のリンカーたちも口々に言う。
「じゃあ、俺達はこれで」
「また来るねー」
「ご馳走様!」
 店を出ると店員どころか地元の人々も見送りに出る。
「また来いよー」
「歓迎するぞ!」

 彼らはいつまでも手を振っていた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • エンプレス・ルージュ
    カトレヤ シェーンaa0218
  • エージェント
    霧島 侠aa0782

重体一覧

参加者

  • エンプレス・ルージュ
    カトレヤ シェーンaa0218
    機械|27才|女性|生命
  • 暁光の鷹
    王 紅花aa0218hero001
    英雄|27才|女性|バト
  • 死を否定する者
    エミル・ハイドレンジアaa0425
    人間|10才|女性|攻撃
  • 殿軍の雄
    ギール・ガングリフaa0425hero001
    英雄|48才|男性|ドレ
  • LinkBrave
    シエロ レミプリクaa0575
    機械|17才|女性|生命
  • きみをえらぶ
    ナト アマタaa0575hero001
    英雄|8才|?|ジャ
  • エージェント
    霧島 侠aa0782
    機械|18才|女性|防御
  • エージェント
    飛影aa0782hero001
    英雄|16才|男性|バト
  • Allayer
    桃井 咲良aa3355
    獣人|16才|?|回避
  • TRICKorTRICK
    ジャック・ブギーマンaa3355hero001
    英雄|15才|?|シャド
  • エージェント
    土御門 晴明aa3499
    獣人|27才|男性|攻撃
  • エージェント
    天狼aa3499hero001
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