本部

そうなんです、遭難しました。

真名木風由

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2016/03/14 16:03

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-

掲示板

オープニング

「寒いですね」
 剣崎高音(az0014)がぽつりと呟き、隣の夜神十架(az0014hero001)が申し訳なさそうに頷いた。
 『あなた』達もこくりと頷く。
 高音はこの場合、戦力にカウントしてはいけない。
 全員の心が一致した瞬間だった。

 『あなた』達は、現在中国の内陸部にいる。
 ロシアとの国境も近い地域で、今きな臭い香港は遙か彼方だが、香港がきな臭いから他は安全になりましたなどということもなく、愚神が現れた訳だ。
 最終的に山間に追い詰め、討伐したはいいが、吹雪いてきてしまった。
 とても寒い地域であると知っていたので準備は滞りなかったが、吹雪で下山は叶わない。
 何とか見つけた洞窟に全員避難し、支部へ連絡を取ろうとしたが、悪天候である上に山間である為か通信圏外でした(白目)
 ……ぶっちゃけ、遭難だよね。
 自力で下山するにしても吹雪が止まないことには無謀だろう。何か勢い凄いし。
 違う愚神が嫌がらせでもしてるんじゃなかろうか疑惑もあるが、人里離れてる為愚神がここで活動頑張るメリットもないので、ただの自然だろう。……自然に文句言っても仕方ないから、愚神の所為にしてもいいけど。
 一晩全員で過ごす食料や暖は一応あるけど、だからって一晩過ごしたい環境でもない。
 そこで、『あなた』達は何か娯楽になる話をしようと思った訳だ。
 ……で、高音の話が寒かった訳だ。真面目っこの高音、意識してのコメディは難しかったらしい。
 『あなた』達は体感温度を低くしてしまい、ぶるりと身体を震わせた。

「面白い話題って具体的にどういうものなのでしょう?」
 高音、難しい顔でエネルギーバーぼりぼり。
「……どっち、とかの……お話……は、盛り上がる、の」
 十架がぽつぽつ話し始める。
 犬が好きか猫が好きか。
 粒餡か漉し餡か。
 胸か脚か。
 大きい方がいいか小さい方がいいか(何がとは言わない)
 どちらを好む者にもその理由があるだろう。長所(メリット)があるだろう。
 選ばない者には短所(デメリット)が見えるのだろう。
 なるほど、熱くなれる上に長い時間を費やせそうだ。

 遭難ライフ(?)、暗くなっても仕方ないからせめて楽しく過ごそう。

解説

●状況
・愚神討伐任務後、討伐場所の関係で遭難。吹雪止むまで洞窟で過ごすことに。
・一晩過ごせる食料はあり(H.O.P.E.より念の為の非常食として配布されてました)、暖(火)は確保されている(ただし防寒着・寝袋等携帯していないと悲劇)

●出来ること(出来れば1つだけにしてください)
・論争(濃厚さ出す為議題ひとつまで。能力者と英雄別支持OK)
例:粒餡派VS漉し餡派
例:猫派VS犬派VS第三勢力(兎でも蛇でも)
例:胸派VS脚派VS筋肉派VS骨格派
※胸は更にマシュマロのような柔らかくて大きい胸と慎ましい(穏和な表現)胸、雄っぱいな胸で分岐していいです。
要するに自分の萌えとか嗜好とか好みを熱く論じ合ってください。
あくまで例なので、ここにないものでも問題ないです。

・吹雪を見つつ賢者の時間
ただし疲れの余り精神状態ぶっ飛んでます。
帰ったらやりたいこととかをブツブツ呟いたり、仮想愚神にしたいことをもうs……考えてみたり。
自分の色々な望みが溢れ出たり。
いつも以上に素直過ぎる言葉が出ても仕方ないね。

●NPC情報
剣崎高音、夜神十架
プレイングで触れられていなければ賢者の時間してます。最低限描写になります。

●注意・補足事項
・報酬は愚神討伐任務のものです。
・絡み描写は問答無用で発生します。
・皆疲れてるので素直な言葉になっても喧嘩しちゃダメです。
・お互いの萌えは否定せず、論争しましょう。夢を膨らませてるか配ってるかの違いと思えばいいんです。
・ここでシリアスになるより、頭悪くぶっ飛んだ方が楽しい遭難ライフが過ごせます。でも、あはんうふんは直接的な言葉で描写されません。
・吹雪は朝まで続きます。程よい時間で寝ましょう。尚、愚神は全く関与してない吹雪ですが、仮想愚神に恨み言並べても無問題。

リプレイ

●吹雪を見つめて
「久しぶりに任務に参加したら遭難かよぉ……」
 はぁ、と深い溜息を吐いたのは柏崎 灰司(aa0255)だ。
「人が偶にやる気を出したらこれだよ! もう誰か養ってよ!」
「……いつか、すると、思ってた」
 クズのベテラン鵜鬱鷹 武之(aa3506)が嘆く中、不知火 轍(aa1641)が岩に腰掛け、どこぞの司令官のように手を組み、真剣な面持ちでこう言った。
「……皆平等に、眠くなるのって、素晴らしい、よね」
 そこじゃないだろう。
 そんなツッコミは轍の前では無意味だ。
 仕事は真面目だがプライベートでは睡眠欲最優先の彼、寝る場所などささやかな問題だ。理想は湯たんぽセッティングの布団との融合であるが、どこであろうとこの睡眠欲、止められはしない。
「轍?! 寝ないでください轍!!? せめて暖の近くで寝てください轍?!!」
 雪道 イザード(aa1641hero001)が慌てて火の前に移動させた時には武之は移動完了済みだ。
「洒落にならないよね。っていうか、見てるだけで寒い……」
 シエロ レミプリク(aa0575)は、ナト アマタ(aa0575hero001)と一緒に防寒対策ガッツリで頭だけ出しているような状態。
 対する轍は剣崎高音(az0014)より手渡された毛布だけだ。
 寒さに強く、気温にして-10℃程度なら長袖だけでも動けるのだが、ロシアとの国境も近いこの地域、真冬だと-30℃到達もありうる素敵地域であり、この季節でも寒い時はそれを下回る。現在の気温は不明だが、周囲をより寒くさせてもということで装着らしい。それでも足りないが。
「困ったものですね。場所が場所だけにと思って準備をしておいて良かったです。なかったら、怖かったですよ」
「吹雪いてるからかなぁ、日中より寒いよー」
「さむ」
 楠元 千里(aa1042)の苦笑にシエロとナトがこくこく頷く。
 が、まだ良い方なのだ。
 五行 環(aa2420)と鬼丸(aa2420hero001)が女子供は優先的に奥へと配慮し、自分達は手前へと腰を下ろしてくれたので、風が少し凌げている。女性陣の声を聞いてマルコ・マカーリオ(aa0121hero001)も加わってくれたから、効果は上がった。
「やっぱ座禅って効果あったりすんの? お前一応坊主だもんな」
 鬼丸が環へ話題を振ると、座禅を組んでいた環は片目だけ開けた。
「僧なんです」
 ……。
 …………。
「てめぇ! 一気に体温下がったじゃねぇかよっ!」
「うるせえ! さみぃよ! 無駄な体力使うんじゃねぇよ!」
「雪と言えば、日本には雪女というのがいるそうだな」
 言い争いを仲裁するかのようにマルコが会話に加わった。
「長い黒髪の美女だという。元は月世界の姫ならば語り合」
 したり顔の語りは途中で強制終了。
 アンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)がマルコの頭に向かって岩の破片ぶん投げたからだ。
 ご本人防寒の一環で色々包まってるので身動き取れない為の処置らしい。
「お前危ないだろう」
「英雄だからダメージないでしょ。何もっともらしいこと言ってんのこの性職者。環さんも鬼丸さんも困ってるじゃない」
「バカ言え。大事な語らいだろう」
 マルコ、クソ真面目に言い出した。
「和服美女、実にいい。乱れた和服の合わせから覗く胸元の良さを知らん男がいるものか。胸は巨乳だろうな。白雪のような肌であるだろうから」
「中国じゃん」
 アンジェリカがツッコミを入れる。
 すると、マルコは顎に手を添えた。
「なら、チャイナドレスか。スリットから覗く太腿が堪らん。生脚もいいが黒タイツもいい。中途半端に破けるとそそる。そういえば、雪女と最後まで出来るのか?」
 最後は環と鬼丸に話を振った。
「無理矢理お風呂に入れたら消えたって話あったような。氷柱の欠片だけ残ってたとか」
「じゃ溶けるんだろうな」
 環が昔聞いたような聞かなかったようなと口にすると、鬼丸が体温が上がると拙いのかと口にする。
「最初で最後。浪漫あるな。まぁ、溶ける彼女と違いこっちは硬」
 一時的に包み解除のアンジェリカによる教育的指導(物理)が後頭部に何度も振り下ろされた為、話はここで終わった。
「俺が英雄でなければ死んで」
 もう1回岩石の破片が振り下ろされた。
 尚、一部箇所より耳を塞いであげる等の対応でピュア陣が聞くことはなかったので安心して欲しい。

「あれ何だ……物量作戦かよ……」
「見て! 武之! お外、雪が一杯だよ!! 雪だるま作れちゃうね!!」
「雪が食べられるんだったら、ティアが食べ尽くして帰ることが出来たのだよー……」
 吹雪に驚愕するマティアス(aa1042hero001)と大量の雪に喜ぶザフル・アル・ルゥルゥ(aa3506hero001)の温度差半端ない。
 高音に続き、環の温度下方修正(優しい言い回し)あって尚、ルゥルゥはテンション高い模様。
 そんな2人へ自身の非常食(駄菓子)を配るティア・ドロップ(aa0255hero001)は妙な方向での悔いを見せ、灰司に「そこへ直結させる子だって知ってた」と小声で言われていた。
「けど、吹雪の勢いからして、暫くはこのままでしょうし、時間的にもここで一晩過ごした方が安全ですよね」
「何を言い出す、マリ」
 御童 紗希(aa0339)が遠い目をすると、カイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)が顔を引き攣らせた。
「真夜中2時とかに吹雪止んだからって移動とかしたくない」
 実にご尤もな意見である。
 だが、カイの目から見る間に光が失われ、その大柄な体躯を小さく折り畳み、ブツブツと何か言い出した。
「どーにかなるさ、止まない吹雪は、ないよ」
 轍がふわっと切り出す。
「だから、寝よう。寝るしかない。寝る所がある。寝るしかない」
 寝てたいから、全員(イザード含)寝れば、問題なく眠れる。
 轍、睡眠欲に素直な男である。
「単にあなたが寝たいだけでは」
 イザードがぼそりとツッコミしつつ、意識を引き上げた。
 轍の露骨な舌打ちが洞窟に響き渡る。

●気を紛らわそう
「みんなでここでお泊りするの? 遠足みたいで楽しい!」
「とは言え、ただじっとしてるのも何だし、話でもすっか」
「パジャマパーティーみたい!」
 ルゥルゥへ灰司が提案すると、ルゥルゥは大はしゃぎ。
 その分、テンション低い面々は低いのでバランスは取れてるだろう(?)
「やっぱりやる気は持ってはいけない、これはそういう意味だな。俺なんかが外に出るなという意味だ」
 代表格、武之は自分の狸の尻尾をもっふぅとしてブツブツ言ってる。
 その瞳に光はないが、通常営業の安心設計だ。
 盛り上がってる面々を見。轍は寝る隙を窺っている。
「……昔、思い出す……」
「そうなんですか」
 自己申告遭難歴3回目の轍は、センス壊滅的なイザードが天然で体感温度下げる一言言い放ったので、やっぱり寝たくなった。いや、そんなこと言わなくても寝たいけど。
「……元々、北の国からの、出身だから、寒さも含めて……な」
「そうなんです? その割にあまり訛ってませんよね?」
「寒さに強いつもりだけど、今、ちょっと、寒い」
 イザードは「自分も寒いです。毛布だけでよくいられますよね」と見当違いの言葉をぶっぱしたので、轍は話題変更を決めた。
「……アイツのことを、言ってるのだろうけど、アイツが訛り過ぎ、なんだ……あそこまで、訛ってるのも、天然記念物級、だ」
 轍はイザードが基準としている人物について言及。
 悪友で親友の現役農家で猟師である某氏の訛りは、轍から見ても凄いものらしい。
 イザードへ普通基準を改めるように言い含めた轍はお国言葉についてこう漏らした。
「結構、出るもんさ……」
 意図して出してなくとも、認識の違いでぽろっと出てしまうこともある。
「自分、『あます』や『したっけ』が判りません」
「それは……」
 轍が口を開こうとしたその時だ。

「マヨネーズぅ!?」

 素っ頓狂な声が洞窟内に響き渡った。
 イザードがそちらへ顔を向けると、話題の発展として、目玉焼きに何をかけるか論争をしていたエージェントが目に映る。
「何だよ。マヨネーズがそんなに変なのか。変なのか。マヨネーズは万能だ。何にでも合うじゃないか」
 目の輝きが全くないカイが膝を抱えて何か言ってる。
「私はどうかなと思ってます……」
「僕はそう思いません!」
 紗希の苦笑に、マティアスが立ち上がった。
「僕も断然マヨネーズです!」
「マティアス! 話が分かるな!」
 マティアスとカイが目玉焼きを通じた謎テンションで盛り上がり、紗希が少し目を泳がせる。
 寝たい気分だけど、今ここで寝るとカイが変な方向で暴走しそうな気がする。
「ティアも今度試してみるのだよー」
「いつも、何を……かける、の?」
 ティアが興味を示してそう笑うと、夜神十架(az0014hero001)が首を傾げた。
「塩、コショウ、醤油、粉チーズ、ケチャップ、お好み焼きソース、ふりかけ……決められないのさ。でも、マヨネーズは試してなかったから盲点だったのだよ」
「ドロップさん、ポン酢試したことあります? あっさりしてお勧めですよ」
 ここで千里が目玉焼きにはポン酢派で参戦した。
「そこも盲点なのだよ。帰ったら目玉焼きパーティーしないと追いつかないのさー」
「それなら味噌も!」
 鬼丸が新たな勢力として名乗りを上げた。
「初耳なのだよ!」
「男は黙って味噌ッスよ!意外性がミソなんッスよ~!」
 ……。
 …………。
「目玉焼きは醤油だよな」
 灰司がスルーしてうんうん頷いた。
「先程カイさんも言っていたじゃないですか。マヨネーズは何にでも合います。万能なんです。千里は多くを使わせてくれないのですが、マヨネーズこそ嗜好です」
「あまり味が濃いのばかり食べさせても心配なんですけれどね」
(お前がじじむさ過ぎるんだ)
 熱弁を振るうマティアスの隣で苦笑する千里へそう言いたげな目線を送るマティアス。
 彼の外面という名の擬態は完璧である。
「高音ちゃんと十架ちゃんはどう?」
「私はお醤油でしょうか」
「私、も。あ、でも、高音の、お父さんみたいに……お塩だけ、のも、好き……」
 灰司に話振られた高音と十架がそう答え、話がまた盛り上がる。

「自分も醤油派ですが、色々な嗜好があるものですね」
 イザードはやり取りを興味深く聞いてはいても、轍に隙を見せない。
 ちなみに轍は料理には何も掛けない為、目玉焼きもそのまま派である。

「興味あるのはボクも試してみたいなー。複合でも面白そう。マヨネーズと醤油は合うし。ケチャップと粉チーズとかも良さそう。お味噌も色々あるしね」
「バリエーション増加?」
 シエロの言葉にナトが頷いている。
「それだけで食べる訳じゃないから、目玉焼きに何を掛けるかで朝食決めると楽しそうだよねー」
「ルゥ、美味しいのが1番だと思うの! 組み合わせでより美味しくなったら楽しい!」
 アンジェリカがそう言うと、ルゥルゥが楽しげに笑って続き、今度はそれで盛り上がる。

 さて、会話に加わっていない環はというと──
「俺ここで死ぬのか……?やり残したこと沢山あるってのによ……。こういう時人肌で温まるといいって聞くよな……。人肌かぁ……。人肌……」
 環に過ぎるのは、ある単語である。
 直後、クワッと目が見開かれた。
 凄まじく必死の形相の環が拳を握り締め、片足を立てる。
「俺は……このままじゃ死ねない! 人肌を知らずに死ねねぇ! 童貞なんて嫌だぁっ!!!」
 どうやらサクランボさんだったようです。
 論争で盛り上がってた面々が思わず環を見る。
 そこへ、やはり沈黙していたマルコが歩み寄った。
 アンジェリカ、嫌な予感ならぬ嫌な確信を抱く。
「女を知らなかったのか。人生をまだ知らないな……」
「そんなに!? 人生の8割損してるとかマジです!?」
「8割じゃない。全部だ」
 性職者、流石にブレない。
「そんなに!? そんなに良いなら、このまま死んでも成仏する気がしねぇ!! ……嫌だ! それは駄目だ!! 童貞のまま死ねないっ!!!」
「よし、俺がその時の為にひとつへぶぅっ」
 アンジェリカ、マルコの口に彼のネクタイ突っ込んで強制的に黙らせた。
 それでどうにかなるようなマルコでもないので、アンジェリカが立ち去った後、すぐにネクタイ外して、環にぼそぼそ話し出す。
 簡易式坊主、性職者から教え(意味深)を受けるの巻。

 それを見ていたが寝たいから口出ししない轍、イザードの意識がこちらへ向けられたので舌打ち。
 40秒で仕度しな、ならぬ、40秒で睡眠しな、なら、楽勝の自信があったのに、読まれている。
「で、『あます』と『したっけ』の意味は」
 忘れてなかったらしい。
 轍は、携帯用酒甕に残っていた竜兵酒を口に含んだ。
「『あます』は残す。『したっけ』はまたね、とか、そんな感じ」
「喉にあった小骨が取れた気分です」
 清々しい笑顔のイザード。
 また別の話題が始まったのを見、イザードが顔を向ける。
 チャンス、ここで光の速さで寝る……!
 轍、ひっそりだが、40秒ではなく、0.4秒以下で寝た。
 仕事も終わった今、寝て何が悪い。
 イザードが気づいた時には轍、夢の中。
「腕を上げましたね……」
 初遭難のイザード、轍が心配で不安覚えてる場合じゃなかったのだが、轍の睡眠欲の高さを改めて知った。

●論争激しく
「ルゥ美味しいなら漉し餡でも粒餡でもいいよ!」
「私は粒餡でしょうか。十架ちゃんは漉し餡なんですよ」
「なめらか、なの……」
 ルゥルゥが高音と十架と粒餡漉し餡論争なんかしちゃってる。
 と、十架が動いた拍子に髪飾りがずれたのに気づいたシエロが直してあげた。
「ありがとう……」
「可愛い装いはちゃんとしてないと! どんな時も!」
 シエロが強く主張。
「可愛いっていいことなの?」
「可愛いは正義!」
 ルゥルゥにシエロは拳を突き上げ、ナトから「わー」と拍手を貰う。
「正義とまでは行かないけど、お洒落はしたいですね」
「マリ、お前まさか好きな奴が」
「日本は春が近いですし、春物も欲しいと思っているんですよね」
 カイの目に光が灯るも紗希はスルーし、お洒落について語る。
 ハーフである為に差別を受け、容姿のコンプレックスがある分それを意識したお洒落ではあるだろうが、無関心という訳でもないのだろう。
「ティアはあんまり気にしたことがないのさー」
 カイが紗希へ問い詰める前にティアが首を傾げる。
「何を言ってるの! 可愛い子は自分の為にも周りの為にも、もっとお洒落するべきだよ!」
「さむー」
 ミノムシ状態でティアに迫ったが、ナトのミノムシにも影響、抗議を受けて、シエロは謝罪しながら定位置へ。
「吹雪止まないから退屈だよね。こういう時、家なら犬とか猫とかと一緒にいたらとか思えるんだけど」
「猫は、ふわふわしてる、わ……。犬も、ふさふさしてる、わ……」
「我が家両方飼ってるので」
 シエロの話題に十架が反応し、高音が補足した。
「猫……」
 カイがその言葉に反応した。
「俺、すげー猫アレルギーなんだけど、ホントはすげー猫大好きなの……」
 膝を抱える大男(推定アラフォー)は、スマートフォンアプリで猫を愛でてるらしいが、充電切れてるし、圏外で意味ないし。
 猫が愛でられない彼の楽しみ果たされず、大変悲痛な面持ちだ。
「俺は猫アレルギー故に猫に近づくことが出来ない……」
「もふもふ、出来ない……の?」
「したら、俺の鼻はダムが決壊した如き有様」
 心を痛めてるっぽい十架へ子猫の胸に顔を埋めたいという儚い夢を語りつつ、彼は思いの丈を語る。
 ちなみに、今眠気が来ている紗希、ちょっと聞き流し気味だ。
「くしゃみ30連発事件あった……ね。猫が隠れてるって知らないで入った部屋でくしゃみして、言い当てて。あの時は敵に潜入がバレて作戦失敗しそうになって焦った……」
 紗希がうつらうつらと解説。
 どうやら、猫の前におけるカイの涙は鼻から流れ出るらしい。
「なあ、マリ、もし俺が明日死ぬってなったら、猫の島に連れてってくんない? そんで俺は猫に囲まれながら息を引き取るの。そんときマリは俺の為に泣いてくれる?」
「え、僕……ちゃんと帰れないの?」
 カイの話を黙って聞いていたマティアスに飛び火した。
 ここで指す明日は例え話だったのだが、遭難未経験でいっぱいいっぱいだったマティアスがそれに気づく余裕なんかない。
「物騒な事言わないの。大丈夫だよ、きっと」
「そうだよ、今皆と一緒だから楽しいよ? これ、キャンプファイアーって言うんでしょ? ルゥ知ってるよ!」
 千里の宥めに続くようにルゥルゥが笑う。
 この時ばかりは頭が残念(失礼)のルゥルゥの楽観思考がマティアスの気を楽にさせた。
「じゃあ、犬とかはどう?」
「忠実さがたまらなく愛しくね!? ずっと待っててくれるんだぜ!? オレだけを見ててくれるんだぜ!? 付き合うならオレは断然犬系女子だなっ!」
 シエロに反応したのは鬼丸だ。
 環が教え(意味深)を受けているので、彼は何となくこっちにいたのだ(教え(意味深)は後で伝え聞くつもりである)
 それ犬そのものじゃないじゃん。
 とりあえず千里が持ってきた板チョコをマティアスに食べさせて落ち着かせている間、犬系女子からなんか違う方向へ話が発展していた。
「ボクはてっきり違う方向だと思ってた」
 シエロが首を傾げる。
 胸とか脚とか。大きいとか小さいとか。
「オレは胸…………女子も男子も大きい(意味深)方がいいです!」
「それには同意だ」
 マルコ、聞いてはいたらしく会話に参入。
 アンジェリカがここで教え(意味深)に気づき、マルコを押し潰そうと背中へ全体重ずっしり。
「自分がぺたん娘だからといって怒るな。お前はまだ子供なんだからこれから幾らでも大きくなるさ」
 アンジェリカはマルコの頭から寝袋を被せ、強制的に黙らせた。
 と、背後からルゥルゥの声。
「胸とか脚とかルゥよくわかんない……その人の全部好きになるんじゃないの?」
 ピュアな後光すら射している発言に、教え(意味深)を受けた環と発言者鬼丸が眩しいっとなっていた。
 2人へ首を傾げつつも、ルゥルゥは青い顔をして目を閉じている武之を揺さぶる。
「ねー武之お話ししようよ!」
 轍であったら血の雨降りそうな勢いで武之ゆっさゆっさ。
 イザードが自分と轍の出会いを思い出して、ハラハラしたが、武之は壮絶にやる気がない男であった。
「胸とか脚とか別に何でもいいよ。養ってくれるなら部位なんて些細な問題だ」
 犬とか猫とか。
 漉し餡とか粒餡とか。
 養ってくれるなら大した問題じゃない。
 流石クズのベテラン、クズレベルが違った。何というかコクのあるクズ。
「20年ぶりにやる気出してこうなるなら、誰か養ってくれていいんだよ! マジで働きたくないよ! 本当に誰か養ってよ!! 働きたくないよ!!」
 被扶養? 知らない国の言葉ですね。
 家でゴロゴロ何もしたくない男はそこで熱く語る。
 が、イザードはツッコミせずに入られなかった。
「自分、それには賛成しかねます。働くのは大事です」
「嫌だ!!」
「そんなこと言ったら、轍が真似してしまうでしょう!?」
 オカンレベルハイスコアの男も反応の方向が違った。
 尚、轍は寝てるが、忍らしく身体の一部は起きており、会話は聞いている。
 働きたくないには大いに賛成だが、口を挟むと安眠が保たれないことも知っているので、スルー。
 彼はこの眠りの尊い犠牲になったのだ……。
「お腹がすいてるからいけないのね。ルゥね! お菓子持ってきたの! 皆食べよ!」
 ルゥルゥが板チョコと生チョコをずらっと出す。
 話をするのも聞くのも大好きといったルゥルゥ、洞窟においてとても輝いている。
 皆がチョコを食べているのをいいことに尻尾で暖を取りつつ、武之は寝に入る。
(夢……綺麗な花畑が見え……あれ、おばあちゃんが手招きしてる?)
 キラキラした花畑で手を振るおばあちゃんの元へ走る感覚、嫌いじゃない、寧ろ好k
 ぼぐあっ。
「寝るな、死ぬぞぉ!!!」
「あ、バカ!」
 ティアに殴られた。グーパンで殴られた。
 尚、灰司も転がってるので、彼も殴られたクチだろう。
「遭難して寝ようとする人がいたら叩かないといけないんだよねぇ」
「そういう時は殴ったね、親父にもって続くんですよね」
「何でその年齢で知ってるの」
「ルゥ知ってるよ、ぼうやだからさって続くんだよね!」
 ティアの主張にマティアスを寝かしつけた千里がのほほんと言ったので、武之がツッコミするも、ルゥルゥがぶちかました。
「それより吹雪止まないですし、明日の移動を考えて寝た方がいいですよ」
「自分もそれには賛成です。この時間になったら逆に移動しない方がいいでしょうし」
 紗希がいつの間にか寝たアンジェリカを指し示すと、ワーカーホリッカーである為に睡眠を取るようにするイザードが賛成を示す。
 轍もこれで睡眠妨害はなくなったと思う中、一部を除いて眠りに落ちていく。

●時は過ぎていく
 皆が眠りに就く中、シエロは震えていた。
 ナトは途中から寄りかかって寝てしまったけど、シエロは寝てない。
「大丈夫か、顔色が悪いぞ」
 起きていた環が気づいてシエロに声を掛けてくる。
 そう、シエロは今真っ青だ。そして、脂汗も出ている。
 毛布の下で動いているのだが、毛布の下が災いして気づかれない。
 結論から言うなら、シエロはお花畑に行きたいのである。
 あぁ、けれど……どうしよう。
「ね、ねぇ……天使の寝顔と社会的地位、2人ならどっち取る?」
 様子がおかしいと鬼丸も来たので、シエロが震える声で問う。
 あっ。
「無理しない方が」
「それにそれで目が覚めるかも」
 環&鬼丸、穏便な方向で社会的地位選択を説得。
 ここで思わぬ助けが。
「吹雪、止んだみたい! ルゥ雪だるま作りたい! 武之作ろう?」
 ルゥルゥが洞窟の外を見て武之をゆすってる。
 そ れ だ。
 環と鬼丸、ぐわんっと顔を向け、ルゥルゥへ駆けた。
「ナトと一緒にどうだ!」
「シエロさんも起きてるし!」
 鬼丸、環、そうすればシエロ花畑行けるという社会的立場を守る仁義!
 ということで、シエロ、お陰様でお花畑に間に合ったそうです。

 雪だるま作成、お花畑と終わり、彼女らも就寝。
 環と鬼丸以外皆寝てしまった。
「このまま朝、誰も起きなかったらどうしような」
「止めろ。不吉だろうが」
「それで俺達も……。まだ童貞だぞ!?」
 マルコから聞いた話はとても甘美で、そのような教え(意味深)を聞けた私はきっと特別な存在だと感じました。
 今では私も──ってならないじゃないか!!
「童貞のまま、童貞のまま死ねない!!」
「オレもだ! オレも童貞のまま死ねないっ!!!」
 環と鬼丸、ヒートアップして上着脱いだ。
 その直後──
「寝られないなら、永遠に寝る手伝いしてやろうか……」
 苦無持った轍が半裸の2人にガチ接近してたので、謝罪して沈黙。

 という訳で、服も着、毛布を持って、少し離れた場所へ移動。

「やっぱ誰でもいいって訳じゃねぇんだよな!」
「何とも思ってない相手だと反応(意味深)しねぇし!」
 鬼丸と環はああでもないこうでもないと語り始める。

 そして、夜が明けた──

 エージェント達は不慮の事故がないよう注意しつつ下山した。
 支部では帰りを待っていた職員達がエージェント達を出迎える。
「ルゥね、たっくさん雪だるま作ったのよ! 写真も撮ったの!」
「もう暫くやる気出さないから。養われたい……」
 ルゥルゥの傍らでは武之が死んだ魚の目で呟いてる。
「ほら、もう大丈夫」
「怖くなんかなかった」
 千里とマティアスの会話も、
「お腹空いたのだよー」
「あ、食料しまってください」
 ティアの空腹に危機感覚えた灰司の依頼も無事だからこそ。
「マリ、俺が殺さなければならない男は」
「疲れた……。先に座りたい」
「それならこちらぐあ」
 カイをスルーした紗希へエスコートしようとしたマルコの足を「余計なことしなくていいから」とアンジェリカが足を踏む。
「これでお風呂……」
「……モコモコの方が好き」
 シエロの呟きにナトが否定を出し、温まる論争。
「お風呂って芯まで温まるって感じするし、髪とか手入れしてるとつい長風呂しちゃう! 昨日入れなかったし」
「モコモコ」
「寝る場所がある……素晴らしいことだよね……」
 シエロとナトの論争に答えてるか答えてないか分からない口調で轍が呟く。
「ここで寝ないでください! すみません、布団敷いて貰っていいですか」
 イザードが轍を引き摺って奥へ消えていく。
「皆さん、昨日はどこへ?」
「洞窟です」
 職員の言葉に十架を労う高音が答える。
 そして、環と鬼丸が声を揃えた。
「そうなんです、遭難しました」
 直後、支部は外であるかのような寒さに包まれたという。

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結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • その血は酒で出来ている
    不知火 轍aa1641
  • エージェント
    五行 環aa2420
  • 駄菓子
    鵜鬱鷹 武之aa3506

重体一覧

参加者

  • 希望を胸に
    アンジェリカ・カノーヴァaa0121
    人間|11才|女性|命中
  • コンメディア・デラルテ
    マルコ・マカーリオaa0121hero001
    英雄|38才|男性|ドレ
  • 薔薇崩し
    柏崎 灰司aa0255
    人間|25才|男性|攻撃
  • うーまーいーぞー!!
    ティア・ドロップaa0255hero001
    英雄|17才|女性|バト
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • LinkBrave
    シエロ レミプリクaa0575
    機械|17才|女性|生命
  • きみをえらぶ
    ナト アマタaa0575hero001
    英雄|8才|?|ジャ
  • エージェント
    楠元 千里aa1042
    人間|18才|男性|防御
  • うーまーいーぞー!!
    マティアスaa1042hero001
    英雄|10才|男性|バト
  • その血は酒で出来ている
    不知火 轍aa1641
    人間|21才|男性|生命
  • Survivor
    雪道 イザードaa1641hero001
    英雄|26才|男性|シャド
  • エージェント
    五行 環aa2420
    機械|17才|男性|攻撃
  • エージェント
    鬼丸aa2420hero001
    英雄|17才|男性|ドレ
  • 駄菓子
    鵜鬱鷹 武之aa3506
    獣人|36才|男性|回避
  • 名を持つ者
    ザフル・アル・ルゥルゥaa3506hero001
    英雄|12才|女性|シャド
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