本部

デッドフィストの湯煙温泉紀行

十睡みちたか

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2016/03/04 21:12

掲示板

オープニング

●おっさんからのメッセージ
 おう、俺様だ。デッドフィスト(az0021)だ。
 この前は、闇プロレスの壊滅に力を貸してくれてありがとよ。
 それで……今回なんだが……えーと、そのう……

「早く言え」

 ぬおっ、マスク・ド・デスイーグル(az0021hero001)!
 いきなり出てくるんじゃねえ。
 そもそも今回は、お前のせいで……

「早く言え」

 ああ、分かったよ。言えばいいんだろうが、言えば。
 ……えーと、コホン。
 実はこの度、旅行会社の企画で『能力者と行く温泉旅行』というものが立ち上がった。そこで、ホスト役の能力者に俺様が割り当てられた……うぅ……話していてだんだん情けなくなってきた。何でヒール(悪役)レスラーの俺様が、こんなことをしなくちゃいけねえんだ? 同じレスラーなら、こういうのはベビーフェイス(善玉)の役だろう。
 何とか言え、デスイーグル! 元はと言えば、お前が温泉に行きたいからって、勝手に契約書にサインしたのが原因だろうが!

「経緯はこういうことになる」

 ……って、解説パネルまで作ってきてやがる!?

「では、こちらをご覧頂きたい」

・とある地方旅行会社が『能力者と行く温泉旅行』を企画した
・しかし、有名人の能力者は、忙しくギャラも高い
・そこで、ギャラが安いデッドフィストに白羽の矢が立った(「ギャラが安いは余計だッ」byデッドフィスト)
・旅行する場所は、山口県の某所温泉旅館
・貸し切りであるため温泉は混浴(ただし、水着着用必須)
・なお、今回はあくまで企画のテスト段階であるため、モニターとしての参加者を募集する
・また、万が一を考慮して参加メンバーは能力者(とその英雄)に限るものとする
・そのため、少しではあるが報酬もでる

「山口県……外郎(ういろう)食べたい……」

 今のデスイーグルの発言をちょっと補足しておくとな、外郎ってのは特に名古屋が有名だが、山口や小田原、宮崎とかにも銘菓として存在し、それぞれで形が違うんだ。
 ……とまあそんなわけで、俺様と行く1泊2日温泉ツアーの参加者を募集するぜ。
 言っとくけどな、風呂場では暴れるなよ、走るなよ! こけたら危ないからな!
 それから浴衣プロレスも、設備を壊さない限り、需要があれば付き合う! そのくらいのサービスはする!
 以上!

 ……って、ホントにこんなんで客が来るのかよ。

解説

●シナリオの目的:
 デッドフィスト&マスク・ド・デスイーグルと共に1泊2日の温泉旅行に行き、楽しんでください。
 やりたいことをプレイングに書いてください。
 あと、夕食は肉料理がいいか魚料理がいいかも書いて頂けるとうれしいです。
 ちなみに、温泉は天然温泉掛け流しです。

●NPC
『デッドフィスト』&『マスク・ド・デスイーグル』:
 アイアンパンクの悪役プロレスラーと、覆面レスラーの英雄コンビ。
 豪快な打撃技や、強力な関節技、華麗なる空中殺法の遣い手。ちなみに、デスイーグルはバトルメディックです。
 今回の旅行では、プライベートな質問も(程度によりますが)OKです。謎に満ちた、デスイーグルの生態をかいま見ることも出来るかもしれません。

●プレイング作成へのワンポイント
・やりたいことは絞った方がひとつひとつの描写は濃くなります。全部書こうとするより、「本当にやってみたいこと」に絞ってみましょう。
・旅館に迷惑がかかるようなことはNGです。何が「迷惑」かは、現実世界での感覚と同じです。今回の地方旅行会社は、とても小さな会社です。けっこうこの企画に賭けています。旅館に迷惑をかけるなどして、立ち入り禁止などにされると、本気で経営が傾きますので注意しましょう。
・大人な行為は採用しません。全年齢対象です。
・外見年齢20歳未満の人は飲酒できません。基礎設定で成人確認されている場合はOKです。

リプレイ

●それぞれの出発前
「あー……こういうのだよ、こういう依頼なら何時でも受けるぜ」
 温泉旅行の企画書を見ながら、鵜鬱鷹 武之(aa3506)はうなずいた。
「武之! 温泉だって! 楽しみだよ! あとおっきい人もいるみたいだよ」
 ザフル・アル・ルゥルゥ(aa3506hero001)は大興奮だ。
「プロレスラーか……しかもヒール役か……ルゥルゥ、悪さばっかしてると食われるぞ」
「そんなに怖い人たちなの?」
「ああ、悪の権化だ」
「楽しそう! ね、ね、この依頼、受けよう!」
「もちろんだ。早速申し込もう」

「なに勝手に申し込みしてんだよう」
 雨堤 悠(aa3239)は、自分の知らないところで旅行の計画を立てたラドヴァン・ルェヴィト(aa3239hero001)に文句を言った。
「なにって、楽しそうじゃないか!」
「楽しそうって……」
「ほら、悠。そんな不機嫌そうな顔をするな。夕食は肉と魚、どっちがいいんだ?」
「……どっちでもいいよ……」
 もはやあきらめたように、悠はつぶやいた。

「温泉……素敵ですよね……」
 企画の案内が表示されたディスプレイを見つめながら、秋姫・フローズン(aa0501)がうっとりとつぶやく。
「行きたいのか……? 秋姫……」
 横からひょこっとディスプレイをのぞき込み、修羅姫(aa0501hero001)が言う。
「……え? ええ……行きたいです……」
「じゃあ……行こう」
「え……?」
「たまには……のんびり……しようじゃないか」
 秋姫以外には見せることのない温かな笑顔で、修羅姫は言った。
「そうですね……それがいいかもしれません……」

「てっさ! てっさを、お箸でぶわってするのですよ!?」
 企画案内を見た途端、紫ノ宮莉音(aa0764)は叫んでいた。
 一方で、企画案内に書かれているデッドフィスト(az0021)からのメッセージを見ながら、レオンハルト(aa0764hero001)は大きくうなずく。
「わかるぜ、デッドフィスト……俺様はヒールだっつーのに、今日だって親御さんに莉音ちゃんをよろしくねって頼まれて、保護者扱いだ……」
「企画のモニター? 何だかよくわからないけど、いっぱい食べるのです!」
 既にテンションは、クライマックスまで高まっている莉音であった。

「湯煙温泉! 行きたい!」
 この企画の情報を聞いた途端、大宮 朝霞(aa0476)は相棒の英雄であるニクノイーサ(aa0476hero001)にそう叫んでいた。
「ニック、行こう!」
「まぁ、たまにはのんびりできる依頼もいいか」
 ニックもうなずく。
「それにしても、『能力者と行く温泉旅行』なんて企画、世間はやっぱり有名な能力者さんと行きたいのかなぁ?」
「さあなあ。ただ、能力者と言えば、愚神や従魔の脅威から人々を守る者だ。興味はあるんじゃないか」
「なるほど……有名な能力者が同伴するコースは、きっと料金も高額になるだろうけど、とりあえずHOPE所属って能力者となら、手頃なお値段で一緒に温泉旅行を楽しめるって感じかなぁ」
「このデッドフィストってプロレスラーが、そこまで有名かどうか分からないがな」
 朝霞もニックも、プロレスにはそれほど興味がない。だから、デッドフィストがどれだけ有名なレスラーなのかは分からなかった。
 しかし、
「プロレスラーに会うってだけでもすごいよ! 楽しみだな!」
 そう言って、本当に楽しそうに微笑む朝霞だった。

「いや~、デッドフィストのおっさんに会うのも久しぶりだなあ」
 旅行用カバンに荷物を詰めながら、虎噛 千颯(aa0123)はつぶやいた。
「あのおっさんが旅行のホスト役とはねえ……」
 面白いが本人にとっては不本意極まりないだろうな、と思いながら千颯の頬はゆるんでいく。
「千颯、本人を前にしてからかってはいけないでござるよ」
 こちらも、旅行の準備をいている白虎丸(aa0123hero001)が言った。
「まあまあ、そう固く捉えずに。それより、白虎ちゃんの方が緊張してるんじゃね?」
「なななにを……!」
「なんせ、憧れのマスク・ド・デスイーグル(az0021hero001)さんと温泉だもんなあ」
「うぬぬ……」
 うなっていた白虎丸だったが、
「いやしかし、本当にデスイーグル殿と一緒に温泉に入れるとは……これは何という幸運でござろうか……」

「温泉に一泊二日で、戦わなくても報酬が出る、いい仕事よ?」
 自らの英雄、アリス(aa0040hero001)の言葉に佐藤 咲雪(aa0040)は頷く。
 プロレスのヒールがホストという事だが、普通の中学生女子である咲雪はプロレスには興味がない。咲雪の知識ではせいぜい、ヒールが悪役を意味しているという事くらいだ。有名も無名も無い。
「……ん、でもプロレスに、付き合うのはやめとく」
 咲雪もデッドフィスト同様のアイアンパンクではあるが、機械強化されている部位は脊髄と神経系。機械じみた精密な動作は可能だが、純粋な筋力量等は同年代の女子と大差ない。それに、中学生女子と関節技を極めるような嬉し恥ずかしの展開は必要ないだろう。
「私は美少年との絡み合いなら興味あるわ」
「……」
 あっという間に腐女子への道を突っ走って、最近では執筆環境まで整えているアリスの言葉に咲雪はちょっと引いた。
 しかし、旅行に行くこと自体に異存はない。
 早速準備を始めた咲雪だったが、
「……温泉に水着……邪道」
 学校指定の水着を荷物から取り出しながら彼女は呟いた。
 羞恥心が無い訳ではないが、別に見られて減るもんじゃないしという考えがある。
 とはいえ、一応指定があるなら従う程度の分別は備えている。
「……また、胸が……きつくなった」
 久しぶりに着用した水着に、一部の女性を敵に回すような感想を抱く。
 同年代女子と比較しても充分に立派なモノを持つ咲雪だが、未だに成長を続けている。
「……ん、これ以上は、困る」
 かくして、咲雪とアリスの出発前夜は更けていく。

「温泉かあ…久し振りだな」
 既に申し込みを行ってきた骸 麟(aa1166)は、宍影(aa1166hero001)に言った。
「どうやら食事も期待出来そうですな」
 宍影もにこやかにうなずく。
「いやあ、フィストのおっちゃんもいい仕事持って来てくれるなあ」
「何よりこれで報酬も出ると言うのが……」
「…………」
「…………」
 その時である。一瞬、二人の間に妙な『緊張』が走ったのは。
「……ちょっと待て、話がうますぎるぞ……まさか宿屋は実際はヴィランのアジトで、知らない間に潜入捜査をさせられるとかじゃないよな?」
「……確かに。いや、デッドフィスト殿の意図はともかく、何やら事件が発生して巻き込まれると言うのはよくあるパターンでござる。ましてや薄幸な麟殿のこと……」
「! 俺って薄幸だったのか?」
「……ダーウィンアワードノミネーターと言うか、雉も啼かねば撃たれまいにと言うか」
 痛々しげに、宍影はうなずいた。


●旅館到着~卓球勝負!
「……とりあえず、バスは問題なかったな」
 旅館に到着し、あてがわれた部屋に入るなり扉をぴったり締めて鍵をかけると、麟は言った。
「この部屋もさしあたって異常はないようでござる」
 何かを探し回るように部屋のあちこちをうろついていた宍影もうなずく。
「それにしても、フィストのおっちゃん、なんだって共鳴状態でバスの中にいたんだ?」
「レスラー二人が乗ると、マイクロバスが手狭になるからだ、とのことでござったが……」
「……とにかく、他に誰も気付いていないなら、オレがこの旅行を守る!」
 拳をぐっと握って宣言する麟であった。

「お茶が入りましたよ……何を……見ているのですか……?」
 部屋に着いて荷物を置いて、ほっと一息置いてからお茶を淹れてきた秋姫は、旅館の見取り図を見ている修羅姫に気がついた。
「卓球場が……あるみたいだな……テレビで試合は見た事はあるが……」
「では……後で……行ってみますか……?」
「うむ……」
 うなずく修羅姫。その彼女に、秋姫は押し入れから取りだしたものを見せる。
「それに……折角ですし……浴衣も……着ましょうか……」
「着方が……良くわからん……」
「ふふ……お手伝い……しますよ……」
 じゃれつくように、秋姫が修羅姫の服を脱がしはじめた。

 さて、卓球場に赴いた秋姫と修羅姫だが、無言のまま、修羅姫が反対側に移動した。
「11点……3セット勝ち……です」
「……いいだろう……」

「はぁ……はぁ……やりますね……」
「秋姫も……な……はぁ……はぁ……」
 実力は全くの互角。一度サーブが放たれると、延々とラリーが続く。
「ですが……」
「だが……」
 いつの間にか、二人の浴衣ははだけ、玉のような汗が肌を流れていた。
『絶対に……負けません……!(負けん……!)』


●うれし恥ずかし混浴温泉
「こここ……混浴!?」
「事前にそう説明があっただろう」
 顔を真っ赤にしてうろたえる朝霞に、ニックはしれっとそう言った。
「う~……そう言えばそんな気もしたけど……そうよね。そのための水着よね」
 覚悟を決めて、温泉へと続く扉を開ける。
 湯気とともに硫黄の優しい臭いがふわっと漂ってきて、ここが温泉だと言うことを知らせてくれた。
「ん~……気持ちいい。もう温泉もだいぶ混み合ってるみたいね……そういえば、白虎丸さんってば温泉にもあのホワイトタイガーの被り物をしていくのかな?」
 きょろきょろ辺りを見回すと、知った顔に出会った。
「あっ、虎噛さん! ゆるキャラ街道ばく進中の白虎丸さんは一緒じゃないんですか?」
「おう、朝霞ちゃん。白虎ちゃんならその辺にいると思うけどな。湯気がすごいから、なかなか見えな……いた! おーい、白虎ちゃーん!」
「なんでござるか? 千颯」
 ザブザブとお湯をかけながら、特徴的な姿が浮かび上がる。
「白虎さん!」
「おお、朝霞殿にニック殿!」
「白虎さん、温泉なのにその被り物取らないんですか? 暑くないですか?」
「これは防水処理してあるから大丈夫でござるよ。ささ、こちらへどうぞ。千颯もおりますれば」
「ありがとうございます……あ、レオンハルトさんだ。すみません。私たち、向こうにも挨拶してきます」
「承知でござる。あ、この温泉はなかなかでござるよ」
「はい! たっぷり堪能します。ニック、行くよ」

 そのレオンハルトは一足先に温泉に浸かっていた。相棒の莉音はと言えば、身体を洗っている。
「混浴つってもガキばっかりだから安心して入れるな……」
 ガキってのは失礼だが、十代の嬢ちゃんにどうって気は起きねえからな。さすがに口に出すのははばかられるので、心の中でレオンハルトはうなずいておく。
「レオンハルトさんっ♪」
「おお、朝霞にニックじゃねえか」
「ここの温泉、広いし気持ちいいですね」
「ああ。普段の疲れを癒すには、もってこいだ」
「それにしても、デッドフィストさんも大きかったですけど、レオンハルトさんも、凄いガタイしてますね。ウチのニックがもやしにみえますよ」
「おい、朝霞、もやしはないだろう」
「へへっ、まあな」
 口を尖らせるニックと、ちょっとだけ照れているレオンハルト。
「あ、朝霞さんですぅ!」
「こら莉音! 走るんじゃねー!」
「はいですー」
「紫ノ宮君、お互いヒーローがんばろうね。自分の心に嘘をつかない! それこそが私の正義よ!」
「はいです! 莉音もがんばるです!」

 一方、盛り上がっている朝霞達とは別に、今ひとつ盛り上がっていないグループがあった。
「ふー」
 皆と離れた温泉の片隅。そこで悠は、一息ついていた。
 体格のいい男性が多いため、自分の貧相さが際立っている気がしているのだ。
「あ、悠ちゃんだ!」
 その時である。自分を呼ぶ声に、悠は振り向いた。
「ザフルさんに、鵜鬱鷹さん……」
「温泉、楽しいよね!」
「う……」
 可愛らしいピンクの水着で迫ってきたルゥルゥから、思わず目を逸らす悠。
「悠くん~背中流してあげようか~? 後でビール買って~」
 そんな悠の心の動きに気付いているのかいないのか、武之がマイペースな声で言った。
 その声が、悠を落ち着かせてくれる。
「背中を流すとかはいいですよ。別にそのくらい、奢りますけど」
 苦笑する悠。
「悠ちゃん悠ちゃん、ルゥの水着どうかな? 今日のために、買ってきたんだよ!」
「に、似合ってるんと思うけど、どうだろ」
 ちょっと、目を逸らしたり。
「おう、タケユキにザフルだな」
 お湯をかきわけ、ラドヴァンがやって来た。
「ラドさん」
「ラド~ラド!」
「なかなかいい風呂だよな。俺様は気に入ったぞ。……そうだ、悠。俺様の背中を流すことを許してやろう」
「許さなくてもいいよ。そんなの」
「ラドさん、風呂上がりに一杯にどうです? 俺の金じゃないですけど~」
「ああ、金なら悠が持ってるだろう」
「いきなり財布を当てにすんなよ……まあ、それくらいやるけどさ」
「ラド~ラドはプロレスやるの?」
「俺様、プロレスというものを知らんのだ。確かにあのデッドフィストという男は巨体だったが、あれがどうするんだ?」
「ああいう男達が二人とか四人とか集まって、取っ組み合いをやるんですよ」
 ラドヴァンの問いに、武之が答える。
「ほう。それはさぞかし見物だろうな」

 その時だった。
「イエーーーッ! 待たせたな!」
「……参上……」
 ガラガラガラッと音を立てて温泉の扉が開き、デッドフィストとマスク・ド・デスイーグルが現れたのは。
『……ッ!!』
 浴場内の会話が、一瞬、凍りつく。
 それもそうだろう。2メートルを超す筋骨隆々の大男が、半裸で並んで立っているのである。湯気越しにも分かるその威圧感に、参加者一同、毒気を抜かれてしまったのである。
「ハハハッ、本日は大サービスだ。俺様とデスイーグルが背中を流させてもらうぜ! もちろん嫌なら来なくてもいいが、このサービスのため、温泉の時間を決めさせてもらったんでな。まあ、来てくれよ」
 かけ湯をしながらそう言うデッドフィストの横で、マスクをつけたままのデスイーグルもうなずいていた。
「す、すごーい!」
 真っ先に声を発したのはルゥルゥだ。
「おっきーい! かっこいい! ルゥ、鳥さんに背中流してもらう!」
「あ、そ、それでしたら拙者も、デスイーグル殿に……!」
 別の場所で、白虎丸も立ち上がる。
「へへっ、デッドフィストさんとマスク・ド・デスイーグルさんとお話してこよー。プロレスラーの肉体を拝んでくるわね!」
 そう言って、朝霞も立ち上がった。

 そして始まる背中流しのサービス。
「あら、何か始まっていますね」
 丁度その頃、卓球勝負を終えた秋姫と修羅姫も水着に着替えて温泉にやって来ていた。
「すごい光景……」
 ほぼ同時にやって来た咲雪がつぶやく。
「本当にガチムチね」
 横で呆れたように言うアリス。
「さすがに、あれには興味はないわ」
「アリスは、洗ってもらう必要ない……?」
「だって見てよ。まるで、大人が赤ん坊を洗ってるようなものじゃない」
「確かに。サービスとは言え、あれはちょっときついかも」

 ところが、そういう一部の声とは裏腹に、このサービスは好評であった。
「ん~、気持ちいい。ねえねえ、鳥さん鳥さん。何でマスクを被ってるの? 素顔は見せないの?」
 デスイーグルに興味津々のルゥルゥ。
「……マスクマンというのは、これが素顔なんだ」
 その問いかけに、驚くほど優しい声で答えるデスイーグル。
「さ」
 ザバーッと、頭の上からお湯をかけてルゥルゥの身体を洗う。
「ねえ鳥さん。お願いしてもいい?」
「……何かな?」
「肩車して~! ルゥ、鳥さんが見てる世界見てみたいんだよ!」
「……」
 デスイーグルはほんのちょっとだけ小首をかしげたが、
「……分かった」
 そう言うと、ルゥルゥを肩車して立ち上がった。
「うわ~、すごい! ものすごく高い! 皆が、あんなにちっちゃく見える!」
「……あっち、盛り上がってるねえ」
 デッドフィストに背中を任せた千颯が言う。
「普段は隠してるが、デスイーグルのヤツはあれでけっこうな子供好きだからなあ」
「なんで隠してるの? オープンにした方が、人気、出ねえ?」
「チー、俺様たちはこれでもヒールだぜ」
「ああ、そっか。何かおっさんといると、そういうの忘れちまうんだよな」
「そいつはヒールとしては、うれしくない感想だなあ……と、それ」
 お湯をかけて、石鹸を洗い流す。
「おー、サンキュー、おっさん。ところで、風呂上がりのビールは、おっさんのポケットマネーかな?」
「残念。旅行会社の奢りだよ」
「そっか。せっかくおっさんにたかれると思ったのにな。……んじゃ、後ろも並んでるみたいだし、オレはもう行くぜ」
「おう、……と、次はお嬢ちゃんか?」
「今回はどうもよろしくお願いします!」
 やや緊張気味に、朝霞は頭を下げた。
「おいおい、そんなに緊張しねえでくれ。こっちもただでさえ、緊張してくたくたなんだ」
「そうなんですか?」
「ヒールレスラーのイメージってものを崩さずに、旅行のホスト役をやる。こんなに緊張することはねえよ」
「はー。大変なんですねえ」
「まあ、これも仕事だ。んじゃ、背中を流すから、後ろを向いてくれ」
「は、はい。よろしくです……あ」
「おっと、強すぎたか?」
「いえ、全然そんなんじゃなくて……思ってたより、優しい手つきだなって」
「そりゃあ、レディーの背中を流すんだ。細心の注意をするぜ」
「ふふっ」
「なんだい?」
「優しいんですね。悪役レスラーなのに」
「この旅行中だけ……特別にな」
「……質問しても、いいですか?」
「ああ、答えられることならな」
「デスイーグルさんって、アレですか? ルチャ・リブレなスタイルなんですか?」
「基本は、そうだな」
「あ、でも、異世界ではルチャ・リブレとは言わないか」
「まあ、ルチャで通せばいいさ」
「あとひとつ……デッドフィストさんの義手って、ゴツイですよね。メンテとか大変じゃないですか?」
「防水、防塵だ。少々の事じゃ、ガタは来ねえよ」
「そうなんだ。すごい」
「おお~……デッドフィスト殿に背中を流してもらえるとは、感激でござるよ~!」
 隣では、白虎丸が感激の声を上げていた。

「風呂場で警戒心を解いたところを一網打尽にされたらおしまいだぜ!」
「気取られてはなりませんぞ。罠を変えられるでござる」
 湯船の中に肩まで浸かり、麟と宍影は話をしていた。
 声が響く風呂場の中なのに、二人の声は周囲に一切響かず、まるで電話でもしているように互いの耳にしか届かない。
「さっきの仲居どもも動きが妙でござったしな」
「悟られないように、監視する必要があるな」

「秋姫は……デッドフィストのところに……行かないのか……?」
「私は……少し……湯船に浸かりたいのです……」
 そんな話をしている秋姫と修羅姫。と、いきなり修羅姫が、
「ふむ……少し……大きくなったか……?」
「ひゃ! ……ど……何処を触っているのですか……!」
「ふふん……にゃ!」
「お返し……です……!」
 楽しそうにじゃれ合う二人だった。

「お前さん……俺様達の同類だな」
 レオンハルトの背中を洗いながら、デッドフィストが断言する。
「やっぱり分かっちまうもんだな」
「……デスイーグルさんは、マスクなのかお顔なのか気になるのですよ?」
 ようやく自分の順番が回ってきた莉音は、ぴょこんとデスイーグルの前に立った。
「お湯をかけてみるのです! アヒルさんはお水を弾くのですよ!」
「おいこら莉音! 何してやがる、やめろ!」
 レオンハルトの抗議に、
「大丈夫……防水だから」
 優しいデスイーグルの声。
「子供は皆、マスクに興味津々……マスクマン冥利だ」
「次は俺様の番か! ワクワクするな!」
 浴槽内で呆れかえっている悠を尻目に、ラドヴァンは上機嫌で並んでいた。


●食事! 浴衣プロレス!
「デスイーグルさんの言ってた外郎食べたいのですよ?」
「まずは飯だ! 菓子ばっか食ってたら、帰ってからお母さんに言いつけるからな!」
「キャー! イヤー! ……莉音のママ、怒ると怖いのです」
「で、酒は何があるんだ?」
「レオンちゃんも、ちゃんとごはん食べないとママに言いつけるですよ!」
 風呂上がり、レオンハルトと莉音のそんな微笑ましいやりとりもあったあと……待望の食事となった!

「魚料理はフグ三昧……肉料理はすき焼き鍋か……豪勢だな」
 ぽつりと漏らす武之に、
「この旅館の、新メニューらしいぜ」
「おわッ!? ……デッドフィストさん」
「よお。何でも、俺様達は新メニューのモニターも兼ねてるらしいからな。最後のアンケートには、忌憚ない意見を書いてくれよな」
「わ、わかりました」
 うなずく武之から離れるデッドフィスト。
「あー、びっくりした。いきなり出てくるんだもんな……ルゥルゥはどこだ……って、あれ!?」
「わーい、鳥さーん」
 ちゃっかり、デスイーグルの隣に座っているルゥルゥであった。

 一方、麟と宍影は緊張の極地にあった。
「フグなんて、毒殺にはもってこいじゃないか。いざという時のために、用意しておいてよかったぜ」
 実はあらかじめ、小さな齧歯類を筒に入れて持ってきていたのだ。
「毒味しろ……見つからない様に……ほら……ああ、美味そうに食うなあ」
「も、もう宜しいか? これだけのフグ料理を前に、それがしの腹の虫も限界でござる」

 賑やかで、楽しい食事風景だった。
 しかし時間と共に料理はなくなり、酒と歓談がその場を占めていく。
 そんな中、
「鳥さん、あのね!武之にすくりゅーぱいるどらいばー? っていうのして!」
「待て! ルゥルゥ! それはゲームの世界の話だ! 実際にやったら死ぬし、旅館に迷惑が掛かるだろ!」
「そうなの…? じゃあ思いっきりビンタでいいんだよ!」
「え? 闘魂注入はやる流れなの? 俺嫌だよ? ちょっと…デスイーグルさん? 何で寄ってきてるの?」
「子供の頼みは……断れない」
 デスイーグルが、右手を構えた。
「歯を、食いしばれ……!」
「むぐっ!?」
「……ッ」
 ばちーん! と。
 武之の頬に、デスイーグルの平手が炸裂した。

「さてさてみんな、これから俺様達がちょっとした余興をやろうと思う」
 頃合いを見計らったのか、立ち上がるデッドフィストとデスイーグル。
 二人が、いきなり浴衣の上半身をはだけた。
「よく見てろよ。これがプロレスラーの力だ」
 そう言うと大きく腕をしならせるデッドフィスト。
「応ッ!」
 バチーーーン!
 逆水平チョップが、デスイーグルの胸に炸裂した!
「むんッ!」
 負けじとデスイーグルもチョップを返す。
 またしても、強烈な音が響き渡った。
「すごい……花火みたいに、空気が震えてる」
 プロレスになど、まるで興味のなかった咲雪が目を奪われた。
「これが……プロレスラー」
「……さっきの闘魂注入、全然本気じゃなかったのか」
 こちらは、頬をさすりながら武之。
「あんなのやられてたら、頭が飛んでたぞ」
 チョップの応酬を繰り返すこと五度、デッドフィストの胸板も、デスイーグルの胸板も真っ赤になっていた。
「これがプロレスラーの応酬だ! さあ、今から浴衣プロレスの時間だぜ! 今のを見てもビビってない怖いもの知らずはかかってきな!」
「わー、鳥さんー!」
「鳥さんと戦うですー!」
 その声を待っていたように、飛び出すルゥルゥと莉音。
 二人同時のタックルを、デスイーグルは優しく受け止めた。
「……完全にチビッコの人気者になっちまったな。で、俺様の相手はいねえのか?」
「ここにいるぞ、おっちゃん!」
 飛び出したのは、麟である。
「喰らえ! ローリングソバット!」
「おおう!」
 胸板に蹴りを喰らったデッドフィストは、大きく倒れ……ない。膝を45度に曲げた状態で停止し、それからゆっくりと起き上がる。
「相変わらずいい動きしてんな、SHINOBI」
「おっちゃんこそ、さすがだぜ!」
「……白虎ちゃん、行かなくていいの?」
「や、俺は観てるだけで十分でござる。皆で楽しまれると良いでござるよ」
 口ではそういうものの、内心そわそわしている白虎丸であった。


●そして……
「あの崖の上、あそこからなら庭が一望出来ますな」
「……一応チェックだな」
 『旅館の弱点』を確認しながら、ひとつひとつ見て回っている麟と宍影。誰にも知られることなく、闇の中を進む彼女たちは、まさに現代の忍者であった。

 ……そして夜が明けた。まったく、何事もなく。
「……結局何も無かったでござるな」
「何やってたんだ? オレ達」
「折角でござるから、最後に皆で記念写真を撮ると良いと思うでござるよ。千颯、すまーとふぉんを貸して欲しいでござる」
「はいよ。白虎ちゃん」
「それでは皆々様、今回の旅行の成功を祝して、はい、ちーず……でござる!」

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 魅惑のパイスラ
    佐藤 咲雪aa0040
    機械|15才|女性|回避
  • 貴腐人
    アリスaa0040hero001
    英雄|18才|女性|シャド
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 聖霊紫帝闘士
    ニクノイーサaa0476hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • 誇り高きメイド
    秋姫・フローズンaa0501
    人間|17才|女性|命中
  • 触らぬ姫にたたりなし
    修羅姫aa0501hero001
    英雄|17才|女性|ジャ
  • ダークヒーロー
    紫ノ宮莉音aa0764
    人間|12才|?|生命
  • Gate Keeper
    レオンハルトaa0764hero001
    英雄|32才|男性|ドレ
  • 捕獲せし者
    骸 麟aa1166
    人間|19才|女性|回避
  • 迷名マスター
    宍影aa1166hero001
    英雄|40才|男性|シャド
  • エージェント
    雨堤 悠aa3239
    獣人|18才|男性|防御
  • エージェント
    ラドヴァン・ルェヴィトaa3239hero001
    英雄|46才|男性|バト
  • 駄菓子
    鵜鬱鷹 武之aa3506
    獣人|36才|男性|回避
  • 名を持つ者
    ザフル・アル・ルゥルゥaa3506hero001
    英雄|12才|女性|シャド
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