本部

エルスウェア連動

四つ角の英雄3

河瀬圭

形態
イベント
難易度
普通
オプション
  • duplication
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 無制限
英雄
7人 / 無制限
報酬
普通
相談期間
14日
完成日
2016/04/08 12:01

掲示板

オープニング

●オープニング
 オーストラリア第2の都市、メルボルン。現在ここにドロップゾーンが開き、およそ200名ほどの一般人が巻き込まれている。
 その知らせを受けてH.O.P.E.のエージェントらは対処に追われることとなった。
 暑く長い夏の日の下、空調が効いた部屋は快適な筈なのに同席者の顔は一様に険しい。
 アリススプリングス、ニューカッスル、パース、メルボルン、シドニーと複数都市でドロップゾーン出現、あるいは従魔による攻撃があり、市民らはパニック寸前だ。資産に余裕のある層では一時避難を選ぶ者もあり、国外へと向かう飛行機は満席続き、キャンベラ、ダーウィン、ケアンズといった国際空港はオーストラリア脱出を望む人で溢れかえっていると聞く。
「パースの議員から先程陳情が、他にも不安にかられた各州から応援要請が……」
「今ここで対処を決定したいのはメルボルンだ」
 苦り切った顔で彼はメルボルンのドロップゾーンに議題を絞る。他は他でうまくやってくれ、そう思いながら資料をスクリーンに出す。
「偵察の結果、このような特性を持つ愚神と分かった」
 スクリーンに出た映像は現場のものだろう。皆、息を呑んだ。
 ステージと、それを取り巻くゾンビの群れにしか見えない映像だった。ドロップゾーンの一般人はゾンビの姿となって活動する、そういうルールが適用されているのだろう。
 しかしこのゾンビ御一行、皆思い思いに楽しんでいるようにしか見えない。音楽に合わせてヘッドバンギングをキメている奴、コルナサインを振りかざしている奴、音楽に合わせてモッシュピットが自然発生し、誰かがダイブしてはボロボロになって出てくる。
 後方にはテーブルが出て、酒瓶がそこらに転がっている。果てはゾンビ同志で殴り合いが始まり、負けたゾンビがチルアウトゾーンで転がっている。
 沈黙を破って誰かが正直な感想を呟いた。
「B級映画か?」
「しかもこの大音量のデスメタル。愚神イエロージェスター[‐]などと名乗ったそうだが、ふざけた野郎だ」
 部屋の空気から緊迫感が無くなった。非常事態だと分かっていても、現場の光景はゾンビコスチュームで揃えたおまつり騒ぎにしか見えない。
 ステージの上では邪英化した石村貴子[いしむら・たかこ]がギターを弾いている。髪の毛を逆立て、濃い化粧をした姿はメタルクイーンの様相だ。次々にギターバトルを挑むゾンビをちぎっては投げちぎっては投げしている。
 お供をするのはドラムを担当する愚神イエロージェスター、そしてベースを担当するアーニャとダーチャだ。
 また一体、ステージからゾンビギタリストが脱落した。
「やっぱりヘリで脱出するんですかね?」
「ゾンビは走る奴でした?それともじわじわ歩いて迫ってくる奴?」
「あ、オッパイポロリした」
「ゾンビじゃなあ……」
 ゴホン、と大きな咳払いをして一同を黙らせる。
「この愚神に遭遇したエージェントの報告からみて、おそらく姿を消すスキルを持っていると思われる。疑われないようにゾンビの扮装で近づこう。特殊メイクの専門家を呼べ」

●NPC紹介
・愚神イエロージェスター[‐]
シナリオボス。憎たらしい悪ガキ。外見的特徴は黄色のケープのおチビさん。
左手の操り人形で攻撃する。
・石村貴子[いしむら・たかこ]
能力者だが現在邪英化している。その結果、悩んでいたことから吹っ切れた状態で現在ステージ上でメタルクイーンと化している。
・英雄アーニャとダーチャ[‐]
石村の英雄。石村の邪英化に伴いこちらも邪英化している。口の減らないガキ。外見はチェックのケープのおチビさん。

解説

●解説
・全3回のシナリオの、今回は3回目になります。これまでの詳細はリプレイをご覧ください
・目的は愚神イエロージェスターの撃破及び、邪英化した石村貴子の救出です
・参加者全員もれなくゾンビの特殊メイクを施されます。ご了承ください
・愚神は形勢不利とみるや姿を消して逃げ出そうとします
・姿を隠した愚神を発見するのに適したスキルやアイテムがあると楽に進められるでしょう
・石村を救うには、まず石村を倒し、次に石村の英雄アーニャとダーチャを倒してください
・愚神イエロージェスターは「インビジブルクローク」(後述)「女郎蜘蛛」「地不知」を使用します。
・スキル「インビジブルクローク」
アクティブ/メイン 射程:0 ~ 0 効果範囲:単体
解説:全身をライヴスで覆い、隠れます。普通の手段で見つける事は出来ません。攻撃を受けると解除されます。
・石村貴子は「ケアレイ」「クリアレイ」を自身もしくは愚神イエロージェスターに使用します
・石村貴子にギターバトルを挑む事も出来ます。能力者側が勝てば、彼女の救出にあたって、能力者の有利になるでしょう。

●次回選択肢
・石村貴子を救出する
・愚神イエロージェスターを倒す

リプレイ

●1
 鏡の中の自分の顔色がどんどん悪くなっていく。死人のような肌色に特殊メイクの力を感じずにはいられない。
「すごいな」
 思わずヴァイオレット ケンドリック(aa0584)が感嘆する。こんな感じにならないかと、とあるドラマのゾンビの図を持ち込んだのだが、まるでそのドラマの出演者のようになっている。
 褐色の肌は血色悪く、白い髪はもつれ、いかにも死者の風貌だが、機械化されている耳はそのままだった。
「これが仕事ですから。写真は撮られます?珍しい体験ですからSNSにアップすると話題になると思いますよ」
 メイク担当者がいささか自慢げに胸を張った。
「いや、それは……また今度にする。これも仕事だし」
「そんなことを言っておるがのう、どんなゾンビにしてもらおうか昨日はいろいろ悩んでおったようなのじゃ。楽しみだったんじゃろうな」
「ノエル!」
 ノエル メイフィールド(aa0584hero001)が茶茶を入れ、ヴァイオレットは慌てた。ノエルの方へ顔を動かそうとして、メイク担当者がたしなめる。
「あ、動かないでください」
「すみません」
「楽しみにしてくれていたら嬉しいですよ。お互い楽しく仕事出来るならそれに越したことはないですから。……はい、これで仕上がりました。頑張ってください、応援してますよ!」
 その言葉は本心だろう。
 現在、メルボルンにはドロップゾーンが出現し、H.O.P.E.のエージェントが監視にあたっている。
 メルボルンだけではない。オーストラリア各所で同様の事態が同時に発生し、全土はパニック寸前の様相を呈していた。
 彼らの任務は、ここメルボルンのドロップゾーンを作りだした愚神イエロージェスター[‐]を退治することだ。ただし、ちょっとしたオマケがついている。
「うわ、ゾンビだ! よくできてる」
 皆月 若葉(aa0778)も、そのオマケを積極的に楽しんでいるひとりだ。ゾンビの扮装でドロップゾーンに潜入せよというオマケに、今までにない体験と喜んでいる。
 肌は青白く塗られ、カラーコンタクトで虹彩を隠した。口紅で唇の色を紫にすると、かなり死者らしさが増してくる。最後は髪をボサボサになるようにセットした。ぱっと見ではゾンビだ。
『そうか、よかったな』
 ラドシアス(aa0778hero001)は若葉とは違うクールな対応だ。リンク状態だと念話で意思疎通できるのが便利だ。
「ラドは……いや、何でもないです。有難うございました」
 つい声に出して返事しかけた若葉を不審がったのか、メイク担当者の手が止まる。慌てて有難うと言って誤魔化した。
 声に出して返事してしまえば独り言にしか聞こえないので危ない人になる。不便だ。
 この状況を楽しんでいる者もあれば、面倒がっている者もいる。
 今はH.O.P.E.が手配した車両で現地に赴く最中だった。特殊メイクも終わり、車両の中には能力者・英雄合わせて10名を越えるゾンビがくつろいでいる。
「変なお化粧しないとダメだなんて面倒くさいねー」
 ニア・ハルベルト(aa0163)が自分の顔を鏡で見ながら溜息をつく。ほつれた金髪、濁った瞳、赤みの失せた頬には丁寧に汚れがペイントされている。
 ルーシャ・ウォースパイト(aa0163hero001)もそれに肯く。
「ええ、風情がありません」
 え? 風情? なんか違わない? とニアが思ったときには遅かった。
「愛を語るにはそれにふさわしい場所、それにふさわしい姿が必要よ。暴れる屍人に大音量の音楽、これから行くところにはそのどちらもが欠けているわ。愛! ああ、素晴らしい言葉……」
 H.O.P.E.が手配した車両で現地に到着するまでルーシャは愛を語り続けた。また始まったといささか慣れた顔でその演説を聞き流す一同の中で浪風悠姫(aa1121)が少しばかりナーバスな横顔を見せている。
「らしくない格好に、愚神に邪英か……」
 青白い頬に落ちくぼんだ眼窩、と見せかける為に目元には黒々と隈が描いてある。すがめた目で流れる風景を眺めていた。
 快晴のメルボルンなのに人通りはほとんどなく臨時休業中の店ばかりが軒を連ねている。戒厳令でも布かれているようだと悠姫は思う。
 須佐之男(aa1121hero001)が元気のない悠姫の様子を見て肩を叩いた。
「逆境で奮い立ってこそ、ヒーローだろ?」
 そう言って励ました須佐之男も立派なゾンビ顔だったので悠姫は笑いを噛み殺す。
「そうだよね、厄介だけど助けないと」
 車両が止まった。
 愚神のパーティー会場に着いたようだ。

●2
 まるでゾンビ映画のような、という前情報と違わない現地の乱痴気騒ぎだった。だが、カトレヤ シェーン(aa0218)の無表情は変わらない。耳を聾する大音量のデスメタルに対してもだ。すん、と鼻で呼吸する。
「臭いは再現しなかったんだな」
「腐った死体の?そりゃ勘弁だ」
 レイ(aa0632)がその言葉に肩をすくめる。想像しただけでも遠慮したい事態だが、九重 陸(aa0422)とオペラ(aa0422hero001)は違う感想を持ったらしい。
「オペラさん、それってもしかして、あの愚神は腐った死体がどれだけ臭いものか分かってないということなんじゃ」
「やはりあればヴードゥーの神にしてギターの腕と引き換えに魂の契約を行ったと噂される四つ角の悪魔レグバではなく、ただの愚神ということね」
 ステージの上では黄色いケープの愚神がドラムセットを前に跳ねまわっている。手数の多いドラムだ。デスメタルに要求される技量はクリアしている。何かのスポーツに励んでいる風にも見えると、レイの英雄、カール シェーンハイド(aa0632hero001)は思った。
 躍動する愚神の小さな姿に、桜木 黒絵( aa0722)は表情を曇らせる。
「まだ子供だよね……」
 黒絵の戸惑いを感じ取ったシウ ベルアート(aa0722hero001)は励ますように肩を叩く。
「いやいや、黒絵。あれは合法ショタという奴であってだな」
「そうかその手があったか……ってなわけあるかーい!」
 ボケを放つシウに黒絵はノリツッコミでお返しする。
「まあそれはともかく。見た目と年齢は一致するかわからんぞ。それに腐っても腐って無くとも愚神は愚神。黒絵」
「うん」
 黒絵も愚神を討つためにここに来たのだ。敵を全力で排除する、その為の前準備がいくつかある。
 ひとつは姿を消す能力を持っている愚神イエロージェスターへの対策と、もうひとつはお供をしている邪英、石村貴子[いしむら・たかこ]とアーニャとダーチャ[‐]の救助だ。

●3
 邪英化した能力者と英雄を救出する手段とは、能力者を昏倒させた後に英雄を倒すことだ。随分な荒療治だが致し方ない。
 邪英化した貴子は今ステージの上でギターバトルの最中で、ギャラリーのひとりとなって客席から様子を見守る悠姫と少し離れた舞台袖付近で同じく待機中の須佐之男は、ギターバトル終了後の貴子に生まれるであろう隙を狙おうとしていた。
 だが、やはり雑魚のゾンビでは相手にならないようだった。対戦希望のゾンビは敗れては復活し、しつこく食い下がっているが時間の無駄だろう。
 流石ゾンビ、往生際が悪い。悠姫がそう思う間にゾンビらをかき分けて別のゾンビが現れる。
 真打ち登場だ。
「お話になりませんわね」
「ヒア・カムズ・ア・ニュー・チャレンジャーってな」
「私も手伝わせてもらう」
「さ、ケリつけようか」
 連コイン状態のゾンビを押しのけてオペラ、レイ、ヴァイオレット、カトレヤがステージに上がる。
 そして須佐之男が待機しているステージの端に陸がさりげなくやってくる。
「オペラさんひとりですか?」
「貴子さんみたいな人がデスメタルをやるのが許せないから私に任せて欲しい、ギターバトルが終わればすぐに呼ぶからここで待っていてくださいねって」
 英雄のみの行動を須佐之男が心配してか陸にそう尋ねるが、それは彼女の意志だと説明される。ギターバトルで打ち負かす自信があるのだろう。
「頼りにしていますよ。多分、勝負が決したときに隙が出来ますから」
 そんな会話を打ち消すような太いベースギターの音。音波で頭がグラついた。
 ヴァイオレットの演奏だ。
 前回のライブでは陸に世話になったそのお礼も込めて、ここ数日で肉刺をつくってしまった指先で爪弾く。
「ここからは私たちの時間だ」
 ヴァイオレットは舞台袖で待つ陸に目をやり、次にギターを持ったオペラに向かってベースを弾いてうながす。
 呼ばれてオペラは前へと進み出る。いつもなら優しげな彼女も今は屍人の形相だ。だがそれ以上に冷たい怒りのようなものを口元に刻んでいるのがより恐ろしい。
 マイクをとったオペラが宣戦布告する。
「貴子、貴女のようななまじ心根の優しい人間がデスメタルを始めようなんて……反吐が出ますね! わたくしが貴女のお味噌をブチまけて、ネズミのクソ以下のその音、止めてあげる!」
 こんなオペラさん見たことない。陸が驚きを隠さずにステージを見つめる。
 宣戦布告に貴子はギターを鳴らして受けて立つ。重苦しいリフを交互に奏で、その勝負は未だ互角だ。
 貴子が呻くようなグロウルを披露する。その地を這うような低音を聞いてオペラは鼻で笑う。
「貴女のグロウル、それでは子守歌よ。本物のグロウルというのはこういうものよ! ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!」
「す、すげえグロウル……オペラさん、あんな歌も歌えるんだ!」
 オペラは歌が得意だ。陸も良く知っていたが、こんな歌唱の心得まであったとはさすがに知らなかった。
 歌い、奏で、そして暴れる。AGWワイルダネス・ドリフターで周辺の機材を殴りつけた。非リンク状態なので愚神等の存在には効果ないが、オブジェクトに対しては普通にギターで殴りつける程度の効果がある。
「な、なんだコイツら!?」
 ここにきてドラムの前で運動していた愚神イエロージェスターが慌て始める。それをみてカトレヤもまたワイルダネス・ドリフターをかき鳴らしながら乱入する。
 ギターバトルと見せかけつつ、さりげなく愚神へと近づいていく。
「なあに、ただのロックンローラさ!」
 そして愚神の頭上にワイルダネス・ドリフターを叩きつける。リンク状態のカトレヤの手にあるワイルダネス・ドリフターはAGWとしての機能を発揮し、勢い余った愚神はフロアタムに頭から突っ込んだ。
「やっぱ、デスメタルは楽器破壊だぜ。イェーイ!」
 続けて何度も上からぶったたく。ドラムセットが情けない音を立てた。
「痛いじゃないか!」
 ワイルダネス・ドリフターを振り上げ楽器ついでに愚神を破壊しにかかるが、敵もさるもの、マリオネットをカトレヤの背面に回らせ攻撃する。
 愚神の動きが見えていなければまともに喰らっていただろう。
 舌うちひとつしてカトレヤはステージを降り、そうはさせじと愚神はそれを追いかける。
 愚神と邪英を弾き離した後のステージで、重苦しく響くグロウルと攻撃的に刻まれるリフの応酬は続いている。
「デスメタルには生ぬるいのよ、貴女は、貴女の絶望は!」
 オペラが煽り、貴子が演奏でやり返す。
 実際、技量はそこまで問題視するほどでもないとレイは思った。
 だから、心に響かない理由はシンプルなことだ。
「手前ェの今の音には魂が無ェんだよ……ッ!」
 オペラの隣に陣取ってレイは貴子に喧嘩を売った。
 考えてみるとこのステージで貴子は何も喋っていない。オペラの挑発にも無言で演奏を続けるのみだった。
「なぁ、貴子。お前は……そんな音で良いのか? お前の愛してンのは、そんなモンだったのか?」
 本当に愛しているものをけなされて、怒らずにいられる人間はいない。
「お前が本当にやりたいのは、デスメタルじゃねえだろ!」
 その言葉に貴子のギターが沈黙した。
「俺はスラッシュメタルが好きだ!」
 複雑なリフから情緒を意識したメロディアスなソロ。スラッシュメタルへの愛を、自分の音楽へのありったけの思いを、ギターに託して一心に奏でる。
 額から汗がしたたり落ちた。
 指が弦の上を流れるように動き回る。これ以上ない早弾きを目指して限界まで集中する。
 拍手も何もかもを忘れるような演奏だった。1秒ほど呆気に取られた後、ようやく正気に戻った陸がレイのギターに拍手を送った。
 ヴァイオレットの、オペラの、そしてレイのパフォーマンスに、どちらに熱狂しようか迷っていたゾンビらが雪崩を打ってレイらのプレイを支持する。
「折角作った最強のバンドがぁ! ギタリストもベーシストも引き抜いてこれからが……ンギャッ!」
「黙ってろ」
 愚神の悲痛な叫びにレイはファストショットをお見舞いする。
「ハイハイ、よそ見しない」
 一瞬、無防備になった愚神にニアが香水瓶を投げつけて、愚神は頭から中身を全部被る格好になった。安物の香水のドギツく甘い香りで鼻がおかしくなりそうだ。
「もう一発、殴るとスッキリ気分爽快かなー?」
 ニアのストレートブロウが愚神に炸裂し、小さな影が綺麗に宙を舞う。
 愚神へと集まる攻撃に貴子とアーニャとダーチャが反応する。視線が動いた。
「隙あり! それを待ってたぜ」
 それを狙ってのファストショットを撃ったレイは快哉を叫ぶ。
 隙を待っていたのはレイだけではない。
「エリック、来い! 共鳴しますよ!」
「は、はいっす!」
 オペラが陸を呼んで共鳴する。
「さぁ、正義執行だぜ!」
 悠姫の元に戻ってきていた須佐之男が拳を打ち合わせて共鳴する。
 すでに共鳴状態のヴァイオレットはライヴスフィールドを発動し、(非共鳴状態だと愚神、邪英、従魔らにダメージを与えられないし、アクティブスキルも発動できない)邪英らの弱体化を試みる。
「アーちゃん、ダーちゃん、せめて楽に眠ってくれよな!」
「この速射、見切れるか?」
「お前ら、つるまねーと何もできねえのな!」
 陸はリーサルダークでアーニャとダーチャを気絶させようとし、悠姫はトリオ、レイは射手の矜持からのトリオで、一気にたたみかけんとした。
「ぎゃいん!」
 集中攻撃がステージの上の貴子ら邪英に命中する。
「まだだ!」
 そのままヴァイオレットが接敵し、貴子へと攻撃する。手に持ったギターで応戦しつつ、なんとか愚神と合流しようとジリジリと場所を変える貴子に、ギリギリの距離から飛んできた悠姫のロングショットが命中する。
「今は我慢してくださいね」
 このまま邪英と愚神との連携は取らせない。ヴァイオレットと悠姫の奮闘に、陸も内心ごめんと思いつつもアーニャにギターを叩きつける。
『では、ちいと我慢してもらおうかの』
「そうするしかないな」
 ヴァイオレットと共鳴中のノエルはそう言った。先に貴子を倒してライブスの供給を断たねばアーニャとダーチャが倒せない。
 ヴァイオレットが心を鬼にして振りかぶり振りおろした武器の下、貴子は昏倒した。
 陸と殴り合っていたアーニャとダーチャが、そのとき動きを止めて貴子を見た。突如作動したスプリンクラーが降らせる雨の中、貴子へ駆け寄ろうとするアーニャとダーチャに、陸はギターをフルスイングした。
「ごめん!」
 いい音がした。アーニャとダーチャは完全に伸びている。

●4
 姿を消す愚神相手にどうすればいいの、と黒絵は悩み、やりようはいくらでもある、とシウは言い、そうだなとラドシアスが同意した。
 じゃあ具体的にはどうすんの、と若葉が尋ねるのでシウは答えた。
「こいつさ」
 取り出したのは煙草とライターだった。
 その煙草を共鳴中のシウが吸っている。今回のメイン人格はシウが担当だ。シウの外見にプラスして白猫の耳と尻尾が生えている。
「黒絵は煙草やめさせたがっているからねえ。おだやかじゃあないだろうな」
『おだやかじゃない』
「これは任務だよ、趣味も兼ねてるけど」
 心配する黒絵にシウは減らず口を叩く。煙でぼんやりする頭、舌に残る刺激、やはり煙草はいい。
 煙が天井へ上っていく。煙探知型の火災報知機の真下を選んだのだ。そろそろ引っ掛かる頃だろう。
 ジリジリと大きな音を立てて火災報知機が鳴り、それと連動してスプリンクラーが作動する。降り注ぐ水は能力者らも愚神も平等にずぶぬれにした。
 愚神はずぶぬれになりながらニアとカトレヤの2人と渡り合っている。
「ようやくバンドが組めたのに……これからがお楽しみだったっていうのに……」
 バンドがオシャカになったことを愚神は知る。見回しても能力者複数、状況は不利だ。
「こういうときは……逃げるが勝ちだー!」
 姿を消して愚神は逃げ出そうとする。予想通り。
「水の跳ねかえり、後は皆が香水瓶をそりゃもう沢山ぶつけたからその匂いを頼りにやれば、多分当たる」
「ついでに消火器で床を泡だらけにすれば足跡も残るね」
 そう言いながら若葉が消火器を投げ込み、矢で射る。中身があふれて床を汚していく。
 愚神が動けば足跡が残る。見えているも同然の状況で悠姫が後ろから援護しようとフラッシュバンを差し込んだ。
 この辺、と炸裂させた強烈な閃光は愚神と、愚神に接敵していたニアとカトレヤを巻き込んだ。愚神の足は止まったが、ニアとカトレヤも動きが止まっている。
 閃光に立ちすくむ愚神に、若葉の放ったブルズアイとシウの放った銀の魔弾は命中し、愚神は姿を現すが、ニアが閃光に目が眩んでいるのを愚神は見逃さない。
 操り人形を遣い一閃、ニアが深手に膝をつく。
「ケアレイを」
 フラッシュバンの衝撃から回復したカトレヤがすかさずケアレイをニアに掛け、傷を回復させる。
「ありがとう、助かるよ」
 ニアが感謝をカトレヤに告げて立ち上がった。
「さて、悪い子にはお仕置きが必要だよねえ」
 姿を現している今がチャンスだった。ニアはトップギアからの疾風怒濤で大ダメージを狙う。
「そういうことなら、援護するよ」
 ニアの意図を見て取って若葉が援護、愚神の回避方向に射撃を集中させて退路を断つ。
「よし、斬ろっか」
 舞うような連続攻撃は目が追いつかない程のスピードで愚神を的確に切り刻んでいく。刃が閃くたびに愚神が被っているケープが千切れ飛んで血肉が飛び散る。
「グエ……」
 床に斃れて死んだふり状態で、何故たやすく見つかったのか愚神は考える。床には足跡が見えた。スプリンクラーが撒く水でぬかるみつつある床、消火剤が散乱した床、そしてやたら化粧臭い自分……
 それか。再度愚神はインビジブルクロークを発動した。
 とどめを刺そうと近づいたニアの目の前で愚神が姿を消す。
「また?」
 この辺、と横薙ぎにした武器は空振りした。近くにいるのは分かるのにもどかしい。これでは逃げられてしまう。
 じりじりとした焦りにおそわれ、ニアは奥歯を噛みしめた。
「ライヴスをより多く使って隠す範囲を増やしたな」
 ニアが攻撃を外したのを見て、カトレヤがライヴスゴーグルで愚神の位置を確かめる。
「おかげで良く見えるぜ!」
 ライヴスの塊が天井に見えた。地不知の効果で天井を走っているのだ。このまま逃げるつもりなのだろうが、そうはさせない。カトレヤは弓を取り、引き絞る。
「落ちろ!」
 見事に命中したその攻撃で、愚神は地面にボトリと落ちた。止めを刺そうと接近するカトレヤとニアに、愚神は必死の形相で相対する。
「女郎蜘蛛だ!」
 ライヴスのネットがカトレヤとニアを拘束する。そのスキに愚神は必死で出口を目指した。
「逃がさない!」
 進行方向を邪魔するようにシウはブルームフレアを放ち足止めする。
 ブルームフレアを避けて再度壁なり天井なりに移動したところで銀の魔弾で始末しようとシウは考えていた。
 だが愚神の行動は更に血迷ったものだった。頭からブルームフレアの壁に飛び込んだのだ。
「なんて無茶な……」
 ブルームフレアの中で焦げている愚神の影を狙って若葉がすかさずブルズアイを撃ちこむが、驚きは隠せない。
「追いかけろ、俺達も動けるようになったら行く」
 カトレヤが叫び、シウと若葉は頷いてドロップゾーンの外に出た愚神を追った。

●5
 厳戒態勢のメルボルン市街地。ドロップゾーンの外の世界は今まで愚神が遊んでいた場所とは違った。
 昼の光はまだ強いが、風には少し秋の気配がある。
 周辺を取り巻くH.O.P.E.職員が遠巻きにこちらを狙っている。
 既に大ダメージを喰らっている愚神はとうとう立っていることさえ叶わなくなり地面に崩れ落ちた。
(シェリーさえ居なければ、もっと目立たないように動いたのに……)
 地面についた耳が音を拾う。近くを走るトラムの音だ。この世界には無音ということが存在しない。
(クソが……)
 地面に倒れ伏す愚神の元に駆けつけたシウと若葉が見たのは、もう弱りきったそれだった。あと一撃で消滅するだろう。
『シウ』
 子供なのだからお尻ペンペンの刑でなんとかならないかと黒絵は言った。黒絵は優しいし、その優しさをシウはとても好ましく思う。だが。
「これはもう、どうしようもないよ」
 姿形はどうあれ、愚神は愚神で、愚神というだけで人類社会に対する脅威であり、どうしようもないのが事実だった。黒絵に見せたくないシウは背を向ける。そして若葉が武器を取った。
「終わったよ」
「ありがとう。悪いね」
 パーティーの終わりはいつでも物寂しい。

●6
「お世話になりました、有難う。ご迷惑ばかりおかけして本当に申し訳ない」
 病院のベッドの上で貴子は見舞いに訪れた若葉とレイ、カール、オペラと陸に礼を言った。
 メルボルンの混乱はひとまず収拾はついたものの、まだエージェントらの仕事は多い。前途多難だ。
 若葉がこれ、と言って再生したのは邪英化していた間の貴子の演奏だった。
「演奏している貴子さん、生き生きしてましたよ。もう一回、自分の気持ちに正直に向き合ってみては?」
「……あ、こんなこと演ってたのね、私」
 割れた音を数分聞いて少し恥ずかしそうに俯く。そしてもう一度顔を上げて言う。
「メタルは、うん、好きなのよね。デスメタルよりはグラムメタルが好きだったから肩身狭かったけど」
 やっぱりデスメタル派じゃなかったんだなとレイは納得する。
「貴子、今度はあんたの魂、魅せてくれ……例え自身で奏でられなくとも、あんたの魂を持つ者。引き継ぐ者。きっと居る筈だ……」
 音楽業界は出入りが激しい。好きだったバンド、尊敬していたバンドが活動を止めるのは珍しくない。そのたびに泣きそうな程悲しいが、いつでもその魂を引き継いで、新しいバンドは育っていく。
 カールもレイの思いを引き継ぐようにこう言った。
「オレって、レイの音楽が滅茶苦茶好きなワケ。きっと……レイの手から直接、それが生まれなくなっても。そー言うヒト、貴子にも居るさ。絶対ェな!」
「……有難う、ごめんなさいね、今回はホント、お世話になってばかりで。……ビザの問題もあるし、一度日本に帰ってからもう一度自分の思いに向き合ってみるわ。貴方達のおかげで折角生きているんですから、精一杯生きてみる」
 貴子はもう一度頭を下げて、決意をゆっくりと口にした。
 病院からの帰り道、思い出したように陸は言う。
「オペラさん、楽しそうだったっすね」
 完全にデスメタルをこなしていたオペラの楽しそうな姿を若葉の録音を聞いて思い出したのだった。
「そうですか?わたくしは演奏する時はいつだって楽しいですよ。……ふふ、でもエリックとが一番です。日本に帰ったら演奏しましょうね」
 いつものおっとりしていて優しいオペラが陸の頭を撫でた。

●7
 同時にドロップゾーンが各所で展開されるという、今回オーストラリアを襲った未曾有の危機は、H.O.P.E.所属のエージェントらの活躍もあり、ひとまずは退けられた。
 とはいえ、オーストラリアには未だいくつかのドロップゾーンが残っており、愚神や従魔も残ってはいる。彼らとの戦いは未だ続いている。
 特に、黒幕と目された愚神シェリー・スカベンジャーの撃破はかなわず、その行方は杳として知れない。
 また、エージェントらのみならず、一般人にも大きな被害が出たのは痛恨事であった。
 これからは戦いと同時に復興も行っていかねばならず、忙しい日々が続くだろう。
 そんなオーストラリアのとある四つ角。
 辻とは、そもそも異界と出会う場所であった。世の終わりまでこの世を彷徨う定めを負う亡者の場所、それが四つ辻であった。
 暮れ方、残照とともに冷たい風が吹く四つ角で、ヒッチハイカーと思しき小さな影に男は車を止める。
「乗せてくれない?」
 黄色いケープの子供。子供だからとて、軽んじてはならない。
「次の街でいいなら乗りな」
「いいよ。お願いします」
 それはこの世の終わりまで世を流離う亡者か、あるいは亡者を使役する悪魔か、あるいはその他の何かか……
 そんな幽霊譚は過去のもの、今はクリエイティブイヤーの只中で、人の世に仇なす愚神イエロージェスターは滅んだ。
 だからこれは、黄色いケープの子供がいるのは、ただの偶然なのだろう、きっと……。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • エンプレス・ルージュ
    カトレヤ シェーンaa0218

重体一覧

参加者

  • 守護者の誉
    ニア・ハルベルトaa0163
    機械|20才|女性|生命
  • 愛を説く者
    ルーシャ・ウォースパイトaa0163hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • エンプレス・ルージュ
    カトレヤ シェーンaa0218
    機械|27才|女性|生命



  • 無名の脚本家
    九重 陸aa0422
    機械|15才|男性|回避
  • 穏やかな日の小夜曲
    オペラaa0422hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • LinkBrave
    ヴァイオレット メタボリックaa0584
    機械|65才|女性|命中
  • 鏡の司祭
    ノエル メタボリックaa0584hero001
    英雄|52才|女性|バト
  • Sound Holic
    レイaa0632
    人間|20才|男性|回避
  • 本領発揮
    カール シェーンハイドaa0632hero001
    英雄|23才|男性|ジャ
  • 病院送りにしてやるぜ
    桜木 黒絵aa0722
    人間|18才|女性|攻撃
  • 魂のボケ
    シウ ベルアートaa0722hero001
    英雄|28才|男性|ソフィ
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 温もりはそばに
    ラドシアス・ル・アヴィシニアaa0778hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • ヒーロー見参
    浪風悠姫aa1121
    人間|20才|男性|攻撃
  • エージェント
    須佐之男aa1121hero001
    英雄|25才|男性|ジャ
前に戻る
ページトップへ戻る