本部

クレイジークラウン

弐号

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/02/26 18:58

掲示板

オープニング

●バルーンフェスティバル
 平和な小学校にそれが現れたのは朝、ちょうど生徒たちの登校が盛んな時間であった。
「皆、おっはよー!」
「おはよー!」
「うわお! いいお返事!」
 ピエロのメイクをした男が校門前で大量の風船を持って行きかう生徒たちに挨拶をして回っている。
「いいお返事をした子にはご褒美だ! ほら、風船あげるね!」
「ホント!」
 ニコニコと笑顔を絶やさずピエロが一人の生徒のランドセルに風船を括り付ける。
「ヤッター!」
「なんだよ、いいなぁ」
「俺も俺も!」
「いいよー、ほらほら並んで並んで。みーんな、風船あげるからね!」
 楽し気な口調と色とりどりの風船に引き寄せられてピエロの周りに生徒たちが一斉に集まる。
 ピエロは一切嫌な顔せずせっせと子供たちのカバンや服、腕などに風船を巻き付けていく。子供たちは目を輝かせて喜んでいた。とてもとても和やかな風景。
「あのー、ちょっとよろしいでしょうか……」
 何人かの子供に風船を取り付けたところで、一人の教師がピエロに声をかける。
「ハイハーイ。ごめんねぇ。風船は子供たち限定なんだー」
「あ、いえ、そうではなくてですね。申し訳ないんですが、防犯上の観点から校門前でこういう事をされるのはちょっとご遠慮願いたいのですが……」
「えー!」
 言いにくそうに切り出した教師の言葉に集まった子供たちから不満の声が漏れる。
 既に風船を貰えている子は自分だけが貰えた優越感に浸って満足げだ。
 だが、それはすぐに絶望に代わる。
「そっかー。僕から子供たちを奪おうっていうんだね。そうはいかないよー?」
「え?」
 和やかな声の中に不穏な空気が混じる。白く塗られたピエロの顔からは感情がうまく読み取れない。
「僕から子供たちを奪おうだなんて、絶対に絶対に絶対に絶対に許さない! 子供たちは僕のものだ!」
 今まで友好的だったピエロの口調が突然激しいものへと変化する。教師を含め、その場にいる全員が異質なその態度に驚き恐怖した。
 そして、逃げる間も無くそれは起こった。
「あれ?」
「う、うわぁ! なんだこれ!」
 風船を付けた子供たちがふわりと宙に浮く。
「これで子供たちは僕のもの。君には絶対に渡さないよ」
「いやぁー! た、助けてぇ!」
 見る見るうちに子供たちの体は上昇していき、およそ10メートル前後の高さでふわふわと漂い始めた。
「グ、愚神だぁ! に、逃げろ!」
 教師の悲鳴と主に集まっていた生徒たちが泣きじゃくりながら走って逃げだす。
「ウフフ、ウフフフフ。追いかけっこかい? 楽しいねぇ?」
 心底楽しそうに笑いながらピエロは子供たちを追いかけ始めた。

●子供達を救え!
「というわけで、かなり急ぎの任務だ」
 銀髪の女性エージェントが乱暴に周辺地域の地図や資料を机の上に広げながら言った。
「場所は小学校。今現在、助かった子供たちは校舎の中に避難。愚神は校舎の扉を破壊してまで侵入しようという気はない様で、グラウンドを徘徊している」
 トンと校舎見取り図の校庭の場所を指さし、そのままスゥっと指を滑らせ校舎の反対側へ移動させる。
「グラウンドとは反対側からの脱出を試みたが、不思議と感知され阻止された。教師が安全を確認する為に外に出たときは現れなかったそうだから、どうも子供だけは気配が分かるらしい」
 そこで一度言葉を切ってエージェントが髪を掻き毟る。いかにも言いにくい事があるようなそぶりだった。
「で、最大の問題なんだが……ライヴスゴーグルで見たところ、あの風船は自力で浮いているのではなく、あの愚神が自らのライヴスで浮かせている。つまりは、だ。あの愚神を倒すと子供達は落下することになる」
 十メートル前後――おおよそ3階か4階相当の高さである。子供が落ちればただではすむまい。
「愚神を倒す前に子供達を何とかする必要がある。非常に厄介な任務だが何とかしてくれ。頼む」
 そう言ってH.O.P.E.のエージェントは深々と頭を下げた。

解説

●敵
デグリオ級愚神『スマイリークラウン』
ピエロの格好をした愚神です。風船と風を操り様々な攻撃を仕掛けてきます。持っている風船の為か、ジャンプ力は相当高いようです。また近くにいる5~10歳前後の子供の気配を察知する能力を持っています。
・風船について
アイテムや武器というよりは愚神の一部です。ライヴスを介さない攻撃では一切ダメージを受けませんが、位置の調節は可能です。
風船そのものが浮くというより、風船が括り付けられた者ごと持ち上げられます。ですから、服に風船を付けられた子が服が脱げて落下や脱出ということはありません。風船の破壊か、愚神の死亡が落下条件です。また、エージェントであっても括り付けられれば宙に浮く結果になるでしょう。(共鳴したエージェントは自然落下でダメージは受けません)
風船は愚神の意思で爆破することが可能で、結構な威力があります。これを飛ばして攻撃してくるのがメインの攻撃になるでしょう。

●環境
浮かされた子供の数は5人。いずれもグラウンド内を漂っています。愚神が風を操って遠くへ行かないよう調節しているようです。
周辺の避難は完了していますが、OPの通り校舎内には子供達と教師が取り残されています。
愚神は校庭から移動するつもりはないようです。
学校は4階建てです。

リプレイ

●然るべき報いを
「あれが、例のクソピエロか……」
 正門の陰に身を隠し、自身も顔を白粉を塗ったピエロ顔で麻生 遊夜(aa0452)が呟く。その視線の先にはグラウンドの真ん中でぽつんと佇む一人のピエロ。今回の討伐対象の愚神である。
「ガキを泣かす輩は許せねぇ」
「……ん、オシオキだね」
 彼の首に巻き付いているユフォアリーヤ(aa0452hero001)がこくりと頷き同意する。
「正解だ、眉間にぶち込んでやらあ」
「……ん!」
 リーヤの言葉ににやりと笑って見せる。今回の愚神の悪行は孤児院を運営する遊夜にとっては決して許せるものではなかった。必ず報いを与えると強く決意しながら二人は共鳴し、戦闘態勢を取る。
「こちら、遊夜だ。位置についた。愚神に動きはねぇ。始めてくれ」

●心の中のヒーロー
「わかりました。こちら行動開始します」
 ライヴス通信機を通して遊夜の報告を受けた晴海 嘉久也(aa0780)が短く答え、周りの仲間たちに目配せをする。
「まずは、まずは共鳴せずに校舎内に入り中にいる方々との接触が目標ですね」
「うん、そうなるね」
 今一度、エスティア ヘレスティス(aa0780hero001)が作戦の確認をする。
「子供は外に出れませんが、教師の人達の協力を得られればいいんですけど」
「それと……マット……」
 ハーメル(aa0958)の言葉に墓守(aa0958hero001)が付け足すように呟いた。
「子供達の救助が僕たちの任務ですもんね。絶対に……みんな、助け出しますから。待っていてください」
「蛍丸さま……」
 若干気負いを感じさせる黒金 蛍丸(aa2951)の口調に雛守 詩乃(aa2951hero001)が心配そうな視線を向ける。
「こらこら、そんな肩に力入ってるとうまくいくもんもいかないぞ!」
「うわっ……?」
「ちょ、ちょっとシリウス……!」
 蛍丸の背中をドンと叩き励ます『破壊神?』シリウス(aa2842hero001)を新星 魅流沙(aa2842)が慌てて止める。
「いきなり失礼でしょ!」
「あ、いえ……。おかげで少し落ち着きました」
 そのやり取りに蛍丸は照れたようなはにかみ笑いを浮かべる。
「さ、それじゃあ行こうか」
「ああ、ガキどもが心配だ。急ぐとしよう」
 東雲 マコト(aa2412)とバーティン アルリオ(aa2412hero001)の二人が学校の裏門を指さし告げる。
「そうだね、行こう」
 それに頷き、嘉久也が慎重に門をくぐり、敷地内に足を踏み入れた。
「入りました。愚神に動きはありますか?」
『いや、大丈夫だ。アホ面でガキどもを見上げてるぜ』
「了解です」
 遊夜に状況を確認しながら校舎へ向かう。
「失礼します。どなたかいらっしゃいませんか!」
 魅流沙が校舎のドアをノックし、声を出すと奥から初老の男性が顔を出した。
「ど、どなたですか」
「H.O.P.E.のエージェントです。救助に来ました」
「ああ! 来てくださったのですね! ありがとうございます!」
 蛍丸の言葉にホッと胸を撫でおろし、男性が扉の鍵を開けてエージェント達を中に迎え入れる。
「お待ちしておりました!」
「子供たちはご無事ですか?」
「はい、今は体育館に集まってもらっています。ただ、やはり怖いのでしょうね。普段の元気さから考えられないくらい大人しくしてます」
「かわいそう……」
「何とかしてあげないといけませんね」
 エスティアの悲痛なつぶやきにハーメルが表情を引き締めて決意を新たにする。
「それで、先生。できれば子供たちを受け止める為にマットとかテントとか、でっかい布みたいなものが欲しいんですけど、あります?」
「布、ですか……」
 マコトの質問に男性教諭が顎に手を当て思案する。
「そうですね、マットであれば体育準備室にありますが、床運動に使うものであまり大きくはないですね。運動会で使うテントなら5,6枚ありますが……愚神がいるグラウンドの向こう側の倉庫の中になってしまいます」
「あちらを立てればこちらが立たず、という感じですね……」
 ため息交じりに詩乃が呟く。それに魅流沙が続く。
「一番怖いのはキャッチに失敗して子供が怪我をすること。できれば布は大きめのものが欲しいですね」
「じゃあ、テントだな。なーに、愚神がいない間にダッシュで取ってくればいいんだろ? ラクショーラクショー!」
「走るのは……得意だ……」
 笑顔で答えるシリウスの言葉に墓守が静かに同意する。
「……そうですね。やはりテントを使用しましょう。愚神が囮に引っかかったら、まず倉庫へ向かいテントを持って子供たちの元へ行く。この手順ですね」
 嘉久也の言葉に一同が同意して頷く。
「それと、これは任意なんですが……何人か先生方にも協力者を募れませんでしょうか」
「協力ですか?」
 エスティアの言葉に教諭がおうむ返しに答える。
「出来れば一気に風船を割って子供を迅速に助け出したいのですが……。現状の人数ですとどうしてもキャッチするのが何とかというところでして……」
 言ってハーメルが面々の方を手で示す。ここに来ているエージェントの人数は十人。二人一組でテントを広げて子供の救助に向かえば、どうしても風船を割る人手が足りず時間がかかってしまう計算だった。
「もちろん強制はしねぇ。なにせ場合によっては愚神の標的にされる危険があるからな。あくまで任意だ」
「わかりました……聞いてみましょう」
 男性が決意を込めた声でアルリオの言葉に答える。
 と、そこへ廊下の奥からパタパタと慌ただしい足音が聞こえてきた。
「ん?」
 足音のした方に視線を移すと、一人の男の子がこちらに向かってかけてくる姿が目に入った。
「俺も……俺も連れってってください!」
 エージェント達の目の前に来るなり頭を下げて叫ぶ男の子。
 思わず顔を見合わせる。
「き、君、危ないから……」
 男の子を下がらせようとする教師を嘉久也が手で制す。
「何かあったのかい」
「妹が捕まってて……だから……」
 ぐずぐずと鼻を詰まらせ、男の子が声を絞り出す。
「そっか。心配だよね」
 ハーメルがその子の頭をクシャっと撫でる。
「大した勇気じゃねぇか、ボウズ」
「うん。今はまだわからないけど、もしかしたら君に力を借りるかもしれない。その時は助けてくれるかな?」
 親指を立てて称えるシリウスに続いて蛍丸がその場に屈み目線を男の子に合わせて語り掛ける。男の子はコクンと無言で頷いて見せた。
「ふっ、ガキでも男は男だな」
「男でも女でも、心の中にヒーローがいる人は強いよ」
 アルリオに軽口を返し、マコトは自身の帽子をかぶり直し気を入れなおす。
「気合入った。負けられないね」
 そう言って壁の向こうにいるであろう愚神の方を睨みつけた。

●『成人女性』
「さて、次は私たちのお仕事ですね」
 既に共鳴した姿で月鏡 由利菜(aa0873)が確認する。
『まさか現場の見学にきてこのような事件に遭遇するとはな』
「運がないといえばそうだけど……でも、子供たちを脅かす愚神を許すわけにいきません」
『ああ、運がないとは思っていない。むしろ運が良かったと思うくらいだ』
 由利菜の中でリーヴスラシル(aa0873hero001)が怒りを露わにする。
「でも、本当由利菜さんたちがいてよかったです。今回の作戦は人数が重要でしたし」
 こちらは逆に共鳴せずに素の姿のままの姚 哭凰(aa3136)が笑顔を作る。子供のようなあどけなさを感じさせる姿だが、れっきとした成人した女性である。
『ふふ、あとはくーちゃんにちゃんと囮役が務まるかどうかということですねぇ』
 幻想郷の中の十七夜(aa3136hero001)がニコニコと笑顔を浮かべながら話しかける。
「う、それよね……。感知されないと囮にならないけど、感知されたらされたで凹むね……」
「うふふ、感知されたら合法ロリ完全公認ですねぇ」
「好きでこんな体型してるわけじゃないんですよ!」
「あらあら? フリフリの可愛い服を好んで着ているのに?」
「趣味嗜好は関係ないでしょう!」
 十七夜にからかわれ顔を真っ赤にした哭凰が、一度深呼吸をして気を静める。
「ふぅ。と、とにかくですね。まずは試してみましょう。話はそれからです」
「ええ、こちらはいつでも大丈夫ですよ?」
 二人のやり取りに微笑ましいものを感じつつ、由利菜が内心気を引き締める。今、哭凰は共鳴していない。何か問題が発生した時、対処しなければならないのは自分だ。油断はできない。
「では、行きましょう。ナギは一回幻想蝶の中に入ってて」
「わかりました」
 声音に若干の緊張を隠しつつ、哭凰が門を踏み越えて校舎の方へと進んでいく。
「……特に反応はありませんねぇ」
「外したかな?」
 しばらく様子をみてみるものの愚神がやってくる気配はない。
「ええと、遊夜さん。入りましたけど、愚神のようすはどうですか?」
『……おめでとう、哭凰さん。あんたはどうやら大人のレディとして認められたようだ』
「……ありがとうございます」
 喜ぶべきか悲しむべきか。複雑な心持で哭凰が返事を返す。
「となると、この姿に意味はありませんね。ナギ?」
「はい、わかりました。くーちゃん」
 アイコンタクトで意思疎通し、共鳴状態へと変化する哭凰と十七夜。
「では、仕方ありませんね。本当はやりたくありませんでしたが、例の子に頼むしかないですね」
『連絡にあった男の子か。確か裏口の近くで待機しているという話だったが』
 今回の作戦では愚神をグラウンドからこの裏口側へ引き寄せるのが必須条件である。多少の危険は伴うが、こうなってしまっては子供の協力者に頼むより他なかった。
「あ、あの子でしょうか」
 裏口の扉の内側で座っていた少年と妙齢の女性を見つけ哭凰が指さす。
「失礼します」
 由利菜が扉を開け、二人の元へ歩み寄る。
「エージェントの方ですね。お話は伺っております」
「はい。その……彼が?」
「ええ」
 女性に確認して男の子の方へ顔を向ける。
「俺、妹を守らなくちゃならないんだ。だから、連れてって下さい!」
 男の子が勢いよく頭を下げる。
「こちらこそよろしくね。ただ、絶対に無理だけはしないでね。約束だよ」
「……うん!」
『……絶対に守らねばな』
「ええ」
 ラシルの声に由利菜が力強く頷く。
「それじゃあ、一緒に来てくれるかな?」
「うん……」
 一瞬の間の後、意を決して男の子が二人に連れだって校舎の外に出て歩き始める。
『これで引っかかってくれるかしら……』
「失敗したら別の方法を考えないと駄目ね」
 と、入り口からしばらく歩き、外へ続く門へ近づいて来たところで遊夜からの通信が入る。
『動いた! 愚神がそっちに向かったぞ!』
 ライヴス通信機から遊夜の叫び声が響く。
 一瞬でその場の空気に緊張が走る。
「右左どちらですか!」
 哭凰が子供の手を掴み抱きかかえ由利菜と背中合わせで周囲を警戒する。
『上だ!』
 遊夜の声とほぼ同時に哭凰の足元に影が落ちる。
 それが意味する事実に気付き、哭凰は子供を抱えたまま前方に勢いよく飛び込んだ。
「うわぁ!」
「くっ!」
 子供に怪我がないように自分を下にして自弁に滑り込む。
 一瞬前まで哭凰がいたところには笑顔のピエロが佇んでいた。
 その向こうには同じく跳びのいていた由利菜。図らずも挟み撃ちの形である。
『しかし、私たちの役目は討伐ではなく時間稼ぎ。楽な状況ではありませんね』
 哭凰の中の十七夜が胸の内の子供を見ながら呟く。
「子供は僕のものだよ?」
 笑顔を張り付けたまま哭凰と子供の方へ向き直る愚神。
「……子供に余所見をしている余裕なんて、与えません!」
 由利菜が展開した魔法陣から愚神の注目を奪わんと大量のライヴスが放出される。
(この陽動方陣で、愚神の注意を引き付ければ……)
 だが、その思いとは裏腹に愚神は由利菜を無視し、哭凰の方へと飛びかかった。
「――!」
 咄嗟に後ろに飛びのき再び距離を取る哭凰。その着地点を狙って愚神が手に待つ風船を一個投げ付けてくる。
(まずいっ!)
 せめて子供にだけは怪我がないように風船に背を向け庇う。
 風船が破裂し、悪意のあるライヴスが込められた風が哭凰に叩き付けられた。
「哭凰さん!」
「だ、大丈夫です。大した威力じゃありません。この子も無事です」
 多少の強がりを交えつつ哭凰が由利菜の声に答える。
『どの世界、いつの時代も悪意に狙われるのは子供か……!』
「でも、陽動方陣をまるっきり無視するなんて……!」
『たまにいるんだ。目的意識が強い奴の中にはそういうのがな。だが、さすがに切りかかられては意識を向けざるを得んだろう。こうなったら力押しだ! 行くぞ、ユリナ!』
「はい!」
 子供を抱えた哭凰に戦闘を任せるわけにはいかない。槍を構え愚神に向かって突撃する由利菜。
「はぁぁ!」
 愚神は急に振り返りその突きを寸でで避けて、横に飛びのく。
「邪魔をするなぁ!」
 愚神が叫ぶとともに風船を持った手を振りかざし、そのうち一個が由利菜に向かって真っすぐ飛来する。
「援護します、由利菜さん!」
 哭凰の声に短く頷くと、由利菜はその風船をまったく避けようともせず――否、むしろ風船に真っすぐ向かって駆け出す。
「――!」
 驚いた愚神が風船を爆破するよりも早く、哭凰の放った弾丸が風船を貫く。
 パァンという破裂音と共に弾ける風船。多少の風は発生するものの、先ほど哭凰が食らったものに比べればそよ風だ。
「生気の循環を乱す! ライヴスリッパー!」
 愚神の動揺を見逃さず密着し、魔法陣を展開する。
「ううううう!」
 体内のライヴスの流れを乱され、愚神がその場に膝を付く。
「成功です! 始めてください!」

●三点バースト
「よし、一瞬で片を付けるぞ!」
 遊夜が銃を構え子供達に結び付く風船に狙いを定める。
 二人が裏庭で戦闘をしている間に子供たちの受け止め態勢は整っていた。
「時間は掛けたくない、手早く行くぞ!」
『……ん、いっぱい割る』
 驚異的な連射速度で一瞬で三発の弾丸を発射する遊夜。そのどれもが狙いを違える事無く風船を貫いた。
「行って!」
「時間との勝負ですね」
 続けて魅流沙と嘉久也がそれぞれの武器で一つずつ風船を割る。
「うわぁぁぁぁ!」
「きゃああああ!」
 遥か高みから落下する子供たちが悲鳴を上げる。
「よっ、と」
 それを地面でテントを広げうまく受け止める。エージェント達はもちろんのこと、教師達のグループも問題なく子供を受け止めることに成功したようだった。
「さあ、もう安心だよ」
 恐怖からか放心した様子の子供たちにマコトが優しく声をかける。
「その靴かっこいいね、大事にしなよ?」
 ニコッと笑いかけて頭を撫でる。そのこの履く靴には最近流行りのヒーローが描かれていた。そこでようやく子供に笑顔が戻る。
「一度一か所に固まってください! 怪我をしている子は治療します!」
 蛍丸が助かった子供や教師達に向け声をかける。
「それに……」
 共鳴状態になり、足に怪我を負った子供にケアレイを掛けながら声音を低くして蛍丸が呟く。
「一か所にまとまってもらわないと守れないですからね」
 そう言って見上げた校舎の屋上には、風船を持つ愚神の姿があった。

●ヒーローの条件
「その愚神は子供達を何より優先します! 気を付けてください!」
 校舎を回り込んでグラウンド側にたどり着いた由利菜達がエージェント達に警告する。
「よくも……!」
 屋上から飛び降りた愚神が、不思議な慣性でふわりと緩やかな速度で着地する。
「これでガキどもはこっちのもんだ、テメェには絶対渡さねぇよ!」
 ニヤリと笑い愚神を挑発するように声をかける遊夜。しかし、愚神は怒りに身を震わせながらも、その言葉には反応しなかった。
「よくも僕の子供たちを奪ったな!」
 怒号と共に愚神から突風が吹きつけ、エージェント達は思わず顔を覆い、たたらを踏んでその場に堪える。
「う、うわぁ!」
「ひぃぃ!」
 ライヴスによる攻撃に耐性のない教師や子供達から悲鳴が上がる。
「くっ……!」
 マコトと魅流沙が咄嗟にその身を挺して悪意の風を遮らんとするが、そのすべてを遮断するのはさすがに困難だった。
「白銀騎士の共鳴者『プリンセスナイト・ユリナ』!人へ仇なす魔に月の裁きを!」
 怯える子供達を殊更に励ますよう大きな声で名乗りを上げながら、由利菜が矢を穿ち愚神に向かった放つ。
「ふぅん!」
 しかし、気合と共に巻き起こった強烈な風によりそれは跳ね飛ばされる。
「あの風は厄介そうだ……」
「待ってください、弱体化を試みます!」
 嘉久也の言葉を受け、蛍丸がライヴスの結界を張らんと意識を集中させる。
「ライヴスフィールド!」
 愚神を巻き込みグラウンドのほとんどを覆う形で結界が完成する。
「これで多少は弱まるはず……!」
「いい手です。畳みかけましょう!」
 嘉久也が結界が展開されたタイミングを見計らって、二丁拳銃から弾丸を放ち愚神に撃ち込む。
「――!」
 矢継ぎ早に繰り出された数発の弾丸に堪らず防御姿勢を取る愚神。
「そこだ!」
 とそこへハーメルがライヴスで作り出した分身と共に投擲用ナイフを愚神に構える。
「邪魔!」
 愚神が押し返さんと手から風を放つ。
「何の……これしき!」
 バランスを奪われつつも無理やり狙いを定めナイフを投擲する。
「何とか……!」
 ハーメルの刃は愚神の腕に突き刺ささる。
「フォォォー!」
 僅かに空いた一瞬の間に愚神が奇声をあげ、大きく飛び上がった。その手に持つ大量の風船のおかげか、能力の風操作か、あるいはその両方によるものか。リンカーの基準から考えても並外れたジャンプ力で宙に飛び出し、愚神が数個の風船を投げつけ、同時に突風で加速させる。
 その標的はエージェントではない。怯えすくむ子供達。
「あの野郎っ……!」
「させません!」
 哭凰と嘉久也がそれぞれの弾丸でその風船を割っていく。
 しかし、すべては裁ききれない。逃した風船の一個が子供達に迫る。
「きゃああああ!」
「やらせねぇ!」
 子供たちの悲鳴を遮るようにヒーローヴァンクールへとその身を変えたマコトが風船と子供の間に割って入る。
「うおおおお、一か八かだ!」
 愚神の攻撃は風がメイン。盾になるだけでは防ぎきれない。ゆえにヴァンクールは風船に飛びかかり、むしろ抱きかかえるようにして風船を己の身で包んだ。
 強烈な破裂音。
「マコトさん!」
 蛍丸の声掛けにニヤリと笑い、親指を立てて答える。
「無事か、ボウズ達……」
 後ろを振り向き問いかけるヴァンクールに首を上下して答える子供達。彼らには傷一つ付いていなかった。
「着地を狙う!」
 緩やかに落下する愚神の着地点を狙い嘉久也が一気に距離を詰める。
「残念賞~!」
 しかし、愚神は大きくその場を離れんと自らの能力で風を操る。ふわりと愚神の体が風に流され始める。
「そうはいきません!」
『風を操れんのがお前だけだと思ったら大間違いだぜ!』
 しかし、愚神の操る風とは逆方向から風が吹き付ける。魅流沙の操るライヴスの風だ。
「なっ!」
 愚神の風と魅流沙の風で勢いが拮抗し、結果そのまま真下に落下する愚神。
「ドンピシャです。覚悟はいいですか?」
そこには嘉久也が槍を携え、待ち構えていた。
「はぁぁぁ!」
 愚神が着地するよりも早く、気合と共に強力な一撃が突き込まれる。
 勢いに押されて愚神が数メートルに渡り吹き飛ばされた。
「子供たちを傷つけるなら……僕はあなたを許さない……」
 その先には蛍丸。
 蜻蛉切で切りかかる蛍丸と、対して指先に真空の刃を生み出し爪のようにして対抗する愚神。
「……っ!」
 愚神と蛍丸の影が交差し、槍と鎌鼬で互いに傷を負う。
「死んじゃえ!」
 痛みから一瞬動きの止まった蛍丸に後ろから愚神が襲い掛からんと振り向き駆け出す。
「てめぇのステージもここまでだ」
 しかし、それを妨害するように遠距離から遊夜がライフル弾を放ち、その弾が空中で喪失し愚神を背後から襲う。
「何? 何!?」
 何が起こったか理解できず、きょろきょろと周囲を
警戒する愚神。
『……ん、面白い動き』
「ピエロの面目躍如だな」
 その隙に蛍丸も距離を放し安全圏へと退避する。
「さ、スカッと笑いも取れたところで、薄気味悪ぃピエロにはご退場願おうか」
 傷だらけの体を押してヴァンクールが愚神の前に立ち塞がる。
「くそぉ! どいつもこいつも! 僕の邪魔をするなぁ!」
 風を操ろうと両手を掲げる愚神。しかし、冷静さを失い周りへの警戒が薄れた愚神に、背後から飛来した一対のナイフに括り付けられた鋼線がその両手を拘束する。
「え?」
「油断し過ぎですね。何事も冷静に」
「ナイス、ハーメル」
 防御も何もない。攻撃にすべてを捧げた前傾姿勢でヴァンクールが愚神に向かって駆け出す。
「くそぉぉ!」
「子供を危険に晒しやがって、許さねぇ!」
 全身全霊の一撃が愚神を貫く。
「ピエロだか道化だか知らねぇが、冗談は顔だけにしな」
 すっと一歩引き後ろを振り返り歩き出す。そして愚神の持つ風船が連鎖爆発を起こし、愚神はここに爆発四散した。

●いつかヒーローになる
「ほーれ、プレゼントだ。大丈夫、怖くないぞー」
 あえて子供たちにトラウマを残さぬよう、自身もピエロのメイクを施した姿で遊夜が子供たちにバルーンアートを配る。
「あ……ありがとう……」
 おずおずとまだ戸惑いの隠せないようするで女の子がバルーンアートを受け取る。
「こっちにもありますよー。どうぞー」
「うん、ありがとう、くーちゃん!」
 天真爛漫な笑顔でお礼を言う子供に哭凰が思わずずっこける。
「あ、あのわたしはお姉さんなの。わかる?」
「え、くーちゃんはくーちゃんでしょ?」
「あらあら、良かったですねぇ、くーちゃん?」
「そもそもあなたがそうやって呼ぶから……!」
「あらあら、うふふ……」
 笑顔で哭凰の講義を流す十七夜。まったく気に留める様子がないのは明らかだった。
「ふふ、いいじゃないですか。子供に好かれている証拠ですよ。ね、墓守」
「あ……う……その……」
 ハーメルが墓守の方を見ると彼女は彼女で子供に囲まれ困惑しているところだった。
「スゲー、ねーちゃんその仮面、何?」
「カッケー! 見して見して!」
 殊の外、仮面に関して主に男子から食いつかれ、戸惑う墓守。その姿に思わずハーメルも笑顔になった。
「さ、こっちはこれだ!」
「あ、紙飛行機ですか。いいですね、そういうの……」
 シリウスの用意した紙飛行機に男の子たちが注目する。
「紙飛行機? 本当に飛ぶの?」
「まあ、見てろって。結構飛ぶんだぜ……そらっ!」
 シリウスがシュッと紙飛行機を投げる。それはかなりの距離を飛んでみせ子供達を喜ばせた。
 一方、体育館の中では由利菜とラシルが子供たちの為のボードゲーム大会を開催していた。
「ふふっ、みんなで遊びましょうね」
「やはりこういうのは男の子の方が食いつきがいいな。うん、教師に向けていい経験だ。……ほら、ちゃんと並びなさい」
「はーい」
「ふふっ、素直でいいですね」
 その微笑ましい光景にエスティアが頬を綻ばせる。
「ああ、今回の事件はトラウマになりかねないからね。こうやって楽しい思い出で上書きできればいいのですけれど」
 校舎やグラウンドの被害状況を確認しながら嘉久也がほほ笑む。そして、その脇にいるマコトに顔を向けた。
「怪我の方は大丈夫ですか、マコトさん」
「痛たたた、無茶はするもんじゃないね……つう~」
「ガキ共を守るためには仕方ねぇことだ。我慢しろ」
「まあね」
 痛がりつつも誇らしげな表情でアルリオの言葉にマコトが答える。
「でも、格好良かったですよ、マコトさん」
「でしょ? 頑張ったかいはあったよね」
「マコト様も蛍丸様もご自身の体を大事にしてください!」
「ははっ、ごめんよ、詩乃」
 心配して頬を膨らませる相棒に向けて笑顔を返す蛍丸。
 と、そこへ少年と少女がとことこと歩いてきた。
「きみは……」
「お姉ちゃん、お兄ちゃん、ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
 それは先ほど協力を申し出てくれた男の子だった。
「おかげで妹も助かりました!」
「うん、それは良かった」
 心の奥から湧き上がる感情のまま笑顔が浮かぶ。
「俺、姉ちゃんや兄ちゃん達みたいにヒーローになりたい……なれるかな……」
 少しうつむいて言う少年の頭をクシャっと撫で、マコトは言った。
「なれるさ、君ならね」

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 血まみれにゃんこ突撃隊☆
    東雲 マコトaa2412

重体一覧

参加者

  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • リベレーター
    晴海 嘉久也aa0780
    機械|25才|男性|命中
  • リベレーター
    エスティア ヘレスティスaa0780hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • 神月の智将
    ハーメルaa0958
    人間|16才|男性|防御
  • 一人の為の英雄
    墓守aa0958hero001
    英雄|19才|女性|シャド
  • 血まみれにゃんこ突撃隊☆
    東雲 マコトaa2412
    人間|19才|女性|回避
  • ヒーロー魂
    バーティン アルリオaa2412hero001
    英雄|26才|男性|ドレ
  • 魅惑の踊り子
    新星 魅流沙aa2842
    人間|20才|女性|生命
  • 疾風迅雷
    『破壊神?』シリウスaa2842hero001
    英雄|21才|女性|ソフィ
  • 愛しながら
    宮ヶ匁 蛍丸aa2951
    人間|17才|男性|命中
  • 愛されながら
    詩乃aa2951hero001
    英雄|13才|女性|バト
  • 『成人女性』
    姚 哭凰aa3136
    獣人|10才|女性|攻撃
  • コードブレイカー
    十七夜aa3136hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
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