本部

真なる『敵』だけ討て

真名木風由

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2016/02/25 02:35

掲示板

オープニング

「暴動、ですか」
 剣崎高音(az0014)が、眉を寄せる。
 ジャカルタ支部へ研修の為に訪れたのに、急遽任務へ切り替わった『あなた』達もその呟きと同じように事実を確認せずにはいられなかった。

 世界的な観光地であるバリ島。
 芸能・芸術の島として名を知られているが、島内には刑務所も存在している。
 この刑務所の一角において、暴動が発生したそうなのだ。
 それだけであるなら、エージェント達の出番ではない。
 だが、暴動を起こすべく画策した者が──愚神であった。

 暴徒達を扇動する存在が受刑者の誰とも一致しない、場違いな服装や戦闘能力より愚神である可能性より、すぐさま通報がされ、ちょうどいいタイミングで、『あなた』達が支部へ到着、人手が足りないということで任務へ切り換わったというのが流れだ。 

「愚神が入り込むまでに看守や刑務官が死亡している可能性はありますね。……暴動で確認は出来ないでしょうが」
 高音が溜息を零す。
 愚神は受刑者達を救う為にそのようなことをしている訳ではないだろう。
 拠点整備を効率良く行い、その後で整備してくれた受刑者のライヴスも頂戴し、足りなければ他から頂戴し、住み心地よろしいドロップゾーン形成……愚神の考えることなど知りたくもないし理解も出来ないだろうが、現段階で予想出来るのはこのようなものか。
「監視カメラの状況で中庭へいると思われる愚神の討伐、ですか。従魔などが出るのも時間の問題でしょうし、急いだ方が良さそうですね」
 『あなた』達は可能な限りの支度を整え、現地へと急いだ。

 愚かな神に舞を捧げる必要はない。
 捧ぐべきは、滅びの一撃。

解説

●目的
・『敵』の全撃破

●現地及び敷地内情報
・時刻夕方(日の入り1時間前程度)、快晴。
・現地到着時点で6割受刑者に制圧されている。
・刑務所らしくしっかりした造り、見取り図は資料に添付されてある。
・中庭への最短到達は15分程度。

●敵情報
・デクリオ級愚神ダダ
白髪の老婆の姿をした愚神。ヴィクトリア朝の喪服を着用している。
外見、話術より受刑者達はまだ愚神と気づいていない。
中庭におり、受刑者達に指示を出している。
以下PL情報
見た目に反し、物理攻撃タイプ。
大剣と短機関銃は戦況に応じて使用。
ライヴス感知能力(50m程度)とダメージを与えた際にそのダメージで回復を行う能力がある。露骨な能力ではないことも露見していない一因。
受刑者の勝ち得たと確信した瞬間のライヴスを彼らに気づかれることなく吸い尽くす。人数が少なくなければケントゥリオ級となれるのではと目論んでいる。

・ミーレス級従魔ロティ
戦闘開始3ターン経過後、3体中庭に降り立つ。
浮遊能力を持つ泥人形。特殊能力は特にないが、登場からダダが倒れるまで2ターン毎に3体降り立ってくる。
ダダは遮蔽物のように使う模様。

※戦闘開始時点、中庭には暴動を起こした受刑者(非能力者)もいます。
彼らは討伐対象ではありませんが、手を打たなければ露見するまで受刑者はダダを守り、露見後はダダが戦闘に利用します。

●NPC情報
剣崎高音、夜神十架
指示がない場合受刑者・従魔対応。

中庭以外は軍及び念の為に動く別働隊が対応することより考慮の必要はありません。

●注意・補足事項
・刑務所突入直前に共鳴しているものとします。
・緊急時につき一般品持ち込みは一般的な事務室にある範囲のみとなります。
・受刑者は非能力者であり、人の法にて罪を償う者であることをお忘れなく。倒すべき敵を間違えないよう厳命が出ています。
所詮受刑者、討伐に必要と諸共攻撃を行った場合、厳しい沙汰が下る場合もあります。

リプレイ

●暴動の理由
 エージェント達はすぐさま支部の輸送機へ乗り込んだ。
「あ~ん、我のバカンスが~」
「いやいや、元々研修に来てんだよ。実戦になったけどな」
 嘆く王 紅花(aa0218hero001)を嗜めつつ、カトレヤ シェーン(aa0218)が資料に目を落とす。
 現地到着時点での暴動の状況は不明、見取り図を見、少しでも効率良く動く必要がある。
「暴動の主犯が愚神……か」
「一目で怪しいとわかるような気がするがのぅ」
「藁にも縋る思いなのか、オツムが足りてないのか……」
 リィェン・ユー(aa0208)の呟きに反応したのは、イン・シェン(aa0208hero001)とベルフ(aa0919hero001)だ。
「どの道娑婆はこの暴動で延長だろうな」
「でも、そんなに怪しかったら、こういうご時世なのに……」
「ま、暴動を起こす暗いだからそんなこと気にするような連中じゃないってことじゃないか?」
 ベルフへ首を傾げる九字原 昂(aa0919)にリィェンが推察を口にする。
 それに耳を傾けていた倉内 瑠璃(aa0110)は、ノクスフィリス(aa0110hero001)へ顔を向けた。
「……お前なら、どう考える?」
「この場にいるのは罪を犯し、投獄された者達。それ故に自由を求める……愚神はその心を利用した、といった所でしょうか」
 自分ならばと前置きした上でノクスフィリスが見解を述べると、早瀬 鈴音(aa0885)が複雑そうに吐息を零す。
「犯罪者助けようってのもまた微妙な感じするんだよね」
「刑務所に収容されているのが純粋な殺人犯だけではないわよ? 不当な罪で投獄された人がいないと言い切れないなら、今は守るべき。罪を実際に犯していても、利用されて殺されていいことではないわ。それは罪滅ぼしとは違うもの」
 N・K(aa0885hero001)の言葉に納得出来る程鈴音も成熟した大人ではなく、年相応の感性を持った少女だ。
 鈴音は「帰ったら聞く」と資料の読み込みに集中する形を取り、N・Kも今すべきことの為に資料に目を落とした。
「思ったのですが……」
 資料を読み込んでいた構築の魔女(aa0281hero001)が呟いた。
「刑務所の規模と受刑者の数が一致していない気がします」
 受刑者に遭遇しない最短ルートを考案していた彼女は、当然受刑者の規模も確認した為気づいた。
 すると、輸送機を運転する職員から、収容人数の倍以上の受刑者がいると告げる。
「その辺日本と違うのな。だから、狙われたのか」
「島が観光地であるとは言え、逃げ場が限られている地ですわね。愚神にとっても悪くない場所だったのでしょうが、刑務所の立地条件としても悪くなかったのでしょう」
 赤城 龍哉(aa0090)が理由を察して舌を打つと、ヴァルトラウテ(aa0090hero001)が周辺地図なども確認し、結論を出す。
 この国のこの刑務所に限らず、収容人数を大幅に超える受刑者がいる刑務所は多い。
 今回はここがそういう事態になったが、他にもそういう事件は起こるかもしれない。
「極論、歩けるなら『道』ですから、中庭を俯瞰して短時間で、というルートが望ましいのですが」
「ロローー……」
 傍らの辺是 落児(aa0281)の目に諦観がある。
 それを、ドロシー ジャスティス(aa0553hero001)と気合を入れていた(っぽい)夜神十架(az0014hero001)が顔を向ける。
「大丈夫……魔女、は……頭いい、もの」
「ーーロ……」
 頭いいのと最短ルートの選択は直結しない。
 落児はそう諭したかったが、通じない。
「ベストのルートなら拘ってる場合ではないだろう。イメージプロジェクターを所持している者が受刑者の装いをし、内外から突き崩せば恐らく早い」
「なるほど」
「刑務所入りとは違いますけど、刑務所を駆けることになるとは」
 カトレアと構築の魔女の会話に耳を傾ける鋼野 明斗(aa0553)は頭の後ろを掻きながら、ぽそりと呟く。
 直後、ドロシーからスケッチブックでばしばし叩かれ、そこにある『シャンとする!』という半ば日常化した文字を見た。
「解ってる。仕事はするさ」
 そこへ、状況を確認した剣崎高音(az0014)の声が響いた。
「間もなく、着陸するそうです」
 着陸後、エージェント達は、最新の状況を確認する。

 刑務所内、6割は受刑者に制圧されていると言う。
 人数の多さと熱狂が勝ったのが大きそうだが、それらは軍と、現れるかもしれない従魔に備える別働隊へ任せ、自分達はすべきことに集中しよう。
 エージェントは共鳴し、輸送機内で打ち合わせた内容を再度確認し合い、刑務所の中へ突入した。

●突破
 暴動はかなりの規模だ。
 軍が動き出したことに目を取られた隙を衝き、リィェンはイメージプロジェクターで受刑者達が身に纏う服の幻影を纏った。
(不自然ないように出るのじゃぞ)
 一旦幻想蝶にその身を置くインがリィェンにしか聞こえない声で注意を促す。
 任務上、刑務所突入時に全員共鳴という指示が出ていたが、リィェンは作戦上の理由が認められ、突入時での共鳴はしていない。
(露骨に怪しいのに怪しいと思わないのであれば、抑圧された環境下以外にも何かあるかもしれないしのぅ)
 或いは、弁が余程立つか。
 リィェンは、その最後が最も警戒すべきことと判断した。
「何はともあれ、仕事開始、と」
 建物の陰から暴動の最中へ滑り込んでいく。

「ですから、首謀者は愚神なんですよ!」
「証明するものは何だ!」
 昂が中庭周辺からの離脱を狙って遭遇する受刑者へ声を張り上げるも、受刑者は暴動の興奮もあって、通じない。
(『情報に根拠がないのは事実だ。祭を終わらせて、冷たい寝床と現実、上乗せされた刑期を教えてやれ』)
 昂の内のベルフは早々に説得が厳しいと切り替えさせにかかる。
 頭が足りない連中、そう片付けるのは簡単だが、情報を流布するのに唐突過ぎたのは事実だ。
 環境が悪かったのもあるだろうが、愚神の話術も巧みと見ていい。
「この辺は元々自分達の領分ではない筈です。自分達の領分に専念し、駆け抜けましょう」
「魔女さんが支部の事務室で懐中電灯を借りてくださってますが、使わないにこしたことありませんしね」
「通信室の制圧が出来れば早かったかもしれませんが……」
 明斗が中庭への到達が最優先と落ち着いて言えば、高音も頷く。
 非能力者が共鳴した自分達にダメージを与えられることはないのだから、意に介せず駆け抜けた方が速い。
 構築の魔女が軍と動く別働隊へ刑務所内へ愚神が関与している放送を流してはどうかと依頼したが、そのことを確認する受刑者が出る可能性があること、通信室の鎮圧に時間が掛かる可能性があることより、行わない方がいいという最終判断が下された。
「暴動の影響を最小限に留める、受刑者の確保以上の依頼は、頼り過ぎでしたね」
 そもそも軍はH.O.P.E.と連携して動いてくれる存在であり、彼らはエージェントではない。
 別働隊も研修に来た自分達が駆り出されるのだから、その規模は推して知るべし。
 愚神へ直接向かうことになったとは言え、その円滑な動きを注視する余り、彼らの本来の役割に支障を来たせば、違う箇所での綻びが出る。故に、最終的な有効になりえない。
「潜入してくれたリィェン、鈴音が少しずつ瓦解させてくれれば動きが止まりやすいと思うけど」
 ラピスラズリ(共鳴した瑠璃のことだ)が別行動のエージェントの作戦成功を思う。
 事前にルート選定し、バリケードが作られていないような場所を選んでいる為、少数の受刑者に見つかることはあるが、走って振り切っている。
「中庭にもいるだろうが、さて、どの程度の時間で聞き分けてくれるか」
(『最悪無力化して運搬じゃの』)
「時間がない時はそうだな」
 カトレヤも紅花と同じ意見である。
「が、思ったより進むの苦労しねぇな」
(『軍、別働隊の方に感謝すべきことですわね』)
 作戦上、わざと共鳴してみせる龍哉とヴァルトラウテも一旦共鳴している。
 共鳴していない状態では共鳴している者と機動力が一緒にならず遅れがちになる可能性があり、そこを囲まれる危険性がある。
 龍哉ならば受刑者達を振り切る力はあるかもしれないが、順調とは言い難くなる為、突入直前で一旦共鳴解除し、突入時に再度目の前で共鳴することになったのだ。
(軍の人には見えないし、振り切ってるから、おかしいと思われているだろうけど……)
 昂は選定ルートを走っていても目立つ筈なのに、思ったよりも受刑者に遭遇しないと呟く。
(『そっちは味方に感謝だな』)
 ベルフは別行動の味方の動きが自分達にとっていい方向へ動いていると判断、昂へ今は最速で中庭へ到達が最優先と告げた。

 一方、リィェンと同じようにイメージプロジェクターで受刑者を装う鈴音も暴動の最中仲間とはぐれた風を装い、噂で中庭から引き離しに掛かる。
(『中庭にいない受刑者は、軍の方に任せましょう。魔女さんが依頼されていたし、中庭から離脱した受刑者もお願いすることになると思うけど』)
(愚神は人と同じにならない。今は、それだけ考える)
 N・Kに応じた鈴音は受刑者の振りをして、徐々に中庭へ向かいながら、噂を伝えていく。

●内部より
「しかし、こうも上手くいくと、逆に不安になるよな」
「軍が制圧に乗り出したみたいだがなー」
「軍? 早くないか?」
 リィェンは合流した受刑者達と言葉を交わしていた。
 飛び交う情報を拾ったらしい受刑者へ大袈裟に言ってみると、「前より投入が早いらしい」と受刑者の1人が肩を竦める。
(愚神が絡まなくとも暴動は起こってたのか)
 リィェンは心の中で呟きつつ、「何で早いんだろうな」と聞いてみた。
「知るかよ。けど、今回は制圧が順調ってのは、逃げた職員が叫んでた。俺窃盗だからそんなにここにいないから、ニュースでしか前回ことは知らねぇんだよな」
「効率的って、主導者がいいのかなぁ」
 いつの間にか鈴音が混じっていた。
「女は纏まって動いてると思ったんだが」
「はぐれたのよ。軍が動いてて、皆散り散りよ」
 リィェンはそれが嘘だと知っているが、そこは便乗し、「随分数が投入されてるんだな。尋常じゃない」と眉を顰める。
 元々、この彼らは凶悪な犯罪を犯している者達ではなかったのだろう、言われてみればと顔を見合わせ出す。
「主導者は誰なんだ? 俺は皆が蜂起したのに合わせたから、聞いてないんだが」
「俺も詳しくないんだが、やったら頭のいいばあさんが指揮してるってのは聞いた」
「そんなばあさんいたか?」
 リィェンが首を傾げると、鈴音が女性受刑者として手を挙げて見せる。
「聞いたことないわ。女子の中にそんなおばあちゃんいないわよ。私も新入りだけど、そんなおばあちゃんなら、挨拶しないとダメな所でしょ」
 鈴音が若さ故の根拠ある疑問を口にすると、受刑者達の不安は更に膨れ上がる。
(『上手いわね』)
 便乗した方がいいと助言していたN・Kがリィェンの作戦に舌を巻く。
 単純に愚神が関与していると言い放っても、それを確かめる術がない彼らは敵対する者と味方の言葉を天秤にかける。
 敵対者から突き崩すより、内側から疑問に持っている者を装い、彼らの不安を煽った方が効率的だ。
 暴動をしている者は興奮しているが、同時に、極度の緊張状態でもある。
 そこを衝いたのは、リィェンの『経験値』が大きい。
 頃合いか。
 リィェン、鈴音が心の中で同じことを思った瞬間、不安の決定打を与える動きが始まった。

「こちらはエージェントだ」
 中庭にカトレヤの声が響く。
 AGWを示しても、非能力者には解らないだろうことを考慮し、わざと受刑者が投げた石に当たってやる。
 ライヴスを伴わない攻撃に傷ひとつつかないことこそ、何よりもの証明。
「恐らくは耳触りの良いことを聞かされているのかもしれませんが……」
「このまま行けば、そこの婆にライヴスを喰われて干からびるのがオチだぜ。愚神って奴は口八丁で相手を上げて落とすのが大好きだからな!」
 一旦共鳴を解除したヴァルトラウテと龍哉が言葉で注意を引き、目の前での共鳴をして見せる。
「おいおい、何でたかが暴動に能力者がでてくるんだよ!?」
 不安を確認する名目で中庭へ行って来ると受刑者達と別れたリィェンがわざと物陰から怯えた声を上げる。
「まさか愚神とかが関わってるんじゃないだろうな!! そうだったら、下手に流れに乗ると命取られるんじゃないか?」
(『ラピス様、お待ちを』)
 リィェンの声に便乗しようとしたラピスラズリをノクスフィリスが制止した。
(『『同じ受刑者』から、離脱を促して貰った方が良さそうです。……ラピス様のお言葉はきっと私と同じ位性根が腐っているでしょうけど』)
(否定出来ない)
 ノクスフィリスがくすくす笑うと、ラピスラズリが唸る。
 望みが叶う所かこの国にはまだ普通にある死刑が執行されるだけだから怖いねと小悪魔的に煽るつもりであったのだ。
 が、リィェンの同じ立場からの煽りが今の所上手く行っているなら、そちらに任せた方が良いだろう。
「おやおや、エージェントも煽るのがお上手だね? 隠れていても判るよ。皆、騙されるんじゃ……」
「そんなことが判る奴が、普通の人間の筈がない。……つまり、お前は愚神かそれに類する者ってことだな!」
 漸く口を開いた老婆の愚神へリィェンの声が響く。
 瞬間、その顔が歪んだ。
「語るに落ちましたね」
 明斗が事実だと指摘する。
 事実でなければ、哂う所だと。
「エージェントは普通の人相手に武器なんか持って来ないわよ?」
 同じように受刑者と別れた鈴音が偽装を解除し、本来の姿でアロンダイトを掲げた。
「この……!」
「させるかよ!」
 老婆の愚神が囚人に向け、短機関銃を向けようとし──間合いを詰めていた龍哉がストレートブロウで受刑者のいない方向へ吹き飛ばした。
「討伐対象は愚神だけだ。お前達ではない。戦闘に巻き込まれたくない者は速やかに中庭から立ち去れ。これは警告だ。尚も立ち去らない者は──覚悟は出来てるんだろうな!?」
 カトレヤが火之迦具鎚を地へ振り下ろすと、我に返った受刑者が我先にと中庭から逃げようとする。
「早く逃げてよね。そいつ法律なんかよりずっと残酷なの」
 鈴音が受刑者達の退路へ立ち、その間にも愚神の移動が制限されるようエージェント達が動く。
(『味方の作戦が上手くいった。後は、解ってるな?』)
(……潜伏で気づいていないみたいだからね)
 念を重ねて中庭へ入る直前に潜伏を発動させていた昂は、ベルフのアドバイスに頷く。
 リィェンとのやり取りで、あの愚神は身を隠しているリィェンをエージェントと断定していた。
 ライヴスを感知する能力を持っている可能性がある。
 絶やさぬようにし、絶好の機で奇襲する。
 昂は物陰からその時を待つように見た。
「ひとまず、受刑者の撤退に難を残さずに済みましたね。無力化や負傷者の運搬もありうると思っていたのですが……」
「暴き方が逆説的で根拠があったからでしょうね」
 受刑者が負傷した場合の護衛と運搬役を高音に依頼していた構築の魔女が安堵すると、高音はリィェンのお陰と口元を小さく上げる。
 撤退のスムーズさには初手でストレートブロウと決めていた龍哉の、吹き飛ばし方向まで計算した動きがあってのことだが、まだ受刑者全員が安全な場所に離脱したとは言えない。
「忌々しい能力者どもめぇっ!」
 殺意を剥き出しにした老婆の愚神、後の識別名ダダが襲い掛かってきた。

●真なる『敵』
「身を隠しても無駄そうですからね」
 明斗もダダがライヴスを感知してこちらを認識していると判断、逃げる受刑者のフォローは鈴音、高音に任せ、グレートボウを撃った。
 まだ日はくれておらず、資料に添付された日没時間を考慮すれば、あと、30分は余力がある。
 グレートボウで攻撃しつつ、反時計回りに動いて後背を狙おうとするが、探知能力がグレートボウの射程程度はあるのか、ダダは明斗の射撃攻撃を警戒しているようだ。
(ま、隙になればそれでいいが)
 大事なのは、最終的な勝利。
「く……小賢しいっ!」
 接近されたからか短機関銃から大剣に切り替えたダダが接近する龍哉、側面から回り込むリィエンを睨む。
 彼らへ対応しなければ、受刑者へ追撃が出来ない程度の知能は持ち合わせているようだ。
「それはこっちの台詞だよね?」
 ラピスラズリは受刑者の撤退状況から攻撃に転じた方がいいと判断、死者の書を携え、ダダへ攻撃を開始。
 龍哉とリィェンがその攻撃を回避したダダへ呼吸を合わせ、攻撃しようとし──目の前を泥人形が遮った。
 浮遊する泥人形といったそれは、従魔だろう。
「各所に従魔、識別名ロティが確認されたようですが、中庭へ移動開始しているようです」
「つまり、コレか」
 連絡を受けた高音へ龍哉が低く応じ、ロティへ火之迦具鎚を振り翳す。
 叩き潰すような一撃を受けてまだ倒れないが、カトレヤが接近しており、火之迦具鎚で追撃し、別のロティを遮蔽物にしてダダの攻撃から逃れようとした。
 しかし、ダダは構わずロティごと攻撃を仕掛け、その大剣はカトレヤに到達しなかったが、その傷が癒える──与えたダメージ分回復する能力があるのか。
「優先して潰すぞ」
 気づいたカトレヤがすぐさま共有すると、構築の魔女がPride of foolsを手になるほどと呟く。
「武器ではなく、回復兼盾ですか」
 挙動を見るに大した能力は持っていない。
 だが、高音の連絡が事実なら、刑務所中から集まってくる、つまり、一定時間ごとにやってくる可能性がある。
「浮遊するなら音より、日の入り近い今の影を見て、タイミングを合図した方がいいですね」
 リィエンの攻撃からダダを守ろうとするロティへ突き崩す為のブルズアイ、よろけた瞬間を見逃さず、リィエンがダダへ到達した。
「このくそガキっ! さっきから邪魔ばかりしおって!」
(『馬鹿力じゃのぅ』)
「まったくだ。こんな馬鹿力の老人がいるかよ」
 ダダの大剣を受け止めた感触にインが感想を漏らすと、リィェンも呆れたように零す。
 仲間への攻撃を防ぐことが第一、そう、これはその布石──
「なっ!」
 ダダの足元、ドレスの合間を裂くようにそれは投じられた。
「足元がお留守だよ」
(『どこかで聞いたことがあるセリフだが……まぁその通りだ』)
 昂が投擲したハングドマンの鋼糸がダダの足に絡まっていた。
 リィエンは奇襲を待つ昂を待っていたのだ。
「この……!」
 怒るダダへ構築の魔女のファストショットが吸い込まれる。
 増えるロティはダダを遮る壁になるべく周囲を浮遊するが、龍哉の強烈な一撃がロティを叩き伏せ、ダダへ近づこうとするロティを遮るようにカトレヤも叩き伏せる。
 その頭上を越えてダダへ向かおうとするロティへ、ラピスラズリの輝きを持つライヴスの蝶が襲い掛かり、地へ叩き落す。
「助かった、ありがとう」
「お役に立てて幸いです」
 ラピスラズリが、数が増えてきたとライヴスフィールドを張ってくれていた明斗へ援護の礼を言うと、彼は言葉を受け取りつつ、落下したロティを撃った。
「強さ自体は粗悪品ってとこだな!」
「増えるのだけは困るがな!」
 優先的に潰す龍哉とカトレヤの攻撃の合間を縫うようにラピスラズリのトリアイナが繰り出される。
(『粗悪品ですが、数は脅威ですわ。纏めて攻撃して一気に数を減らした方が上策でしょう』)
「なるほどな」
 ヴァルトラウテの助言を受け、龍哉は明斗の牽制の矢を受けつつ、一旦飛び退く。
 カトレヤも紅花の助言を受けて合わせて飛び退き、攻撃対象を捕捉し易くなった所を、ラピスラズリのブルームフレアが焼き払う。
 直後に新手が出るが、龍哉が一気呵成で仕留めると、その彼を狙われないよう高音がフォローに入った。
 彼女がフォローに入ったということは。
「中庭の受刑者は離脱完了、軍が捕縛したよ」
 鈴音がその成果を報告した。
 殿を務めた鈴音が攻撃されなかったのはストレートブロウの攻撃調整だけでなく、全員が全員の役割を理解して動いたからに他ならない。
(『日の入りしてからじゃ遅い。そろそろ準備しておくべきじゃろうな』)
「確かに後手後手はあちらだけでいい」
 紅花に応じたカトレヤがライトアイの支援に動き出す。
「おのれ、おのれえええ」
 怒り狂うダダの言葉に最早知性はない。
 形振り構わない攻撃をしようとし、ダダはバックステップした。
 その場所に光弾が通過し、そして、自分の失策を知る。
「能力がアダになったわね?」
 星天の腕輪から光弾を射出した鈴音は、笑ってやる。
 ライヴス探知能力があるなら、位置は正確に知られている。距離を取っていれば攻撃を警戒し、その攻撃を回避する為に動く。
 N・Kから『逆転の発想』という形でそれを思いついた鈴音はわざとそれをやった。
 言うまでもなく、次に繋げる為。
「何度も忘れるなんて酷いね」
 再度潜伏を発動させていた昂が着地点を見越し、女郎蜘蛛を発動させていた。
 ライヴスのネットに囚われたダダはラピスラズリがこちらを見ていることに気づく。
 その口が、小悪魔的に彩られたかと思うと、闇が放たれる。
 呪いの闇に気絶するダダへ、トップギアで己を高めたリィエンが駆け込んでいた。
(『頃合いじゃの』)
「いい加減終いにしてやる……秘技【首断】」
 気を失ったダダはその言葉を耳にすることなく、己の最期を迎えた。
 後方もブルームフレアのお陰もあり、ほぼ終わりそうだ。
「増援は打ち止めのようですね」
 増援に気を払っていた構築の魔女はロティの増加が止まったことに気づいた。
 高音の攻撃直後の隙を縫うように攻撃を叩き込めば、ロティが沈黙する。
「無限に現れても困りますが、助かりますね」
 明斗がグレートボウの攻撃でロティの動きを牽制すると、オーガドライブを発動させた龍哉が一気に勝負を決める。
 ライトアイで十分な視界を確保させた後もロティを攻撃していたカトレヤもすぐに援護に戻ってくれた鈴音と共にロティを倒せば、中庭に漸く静寂が戻った。
「討伐完了ですね。現在の状況を確認しましょう」
 明斗がスマートフォンで連絡を取ると、リィェンと鈴音で不安を煽られた受刑者達にもダダが愚神であったことが伝わり、動揺を呼んで、暴動は9割終息しているとのこと。
 残りも説得の段階に入っているそうで、エージェント達は自分達の任務の終了を察し、やっと一息ついた。

●後にして思うは
「出所はどうなるんだろう」
「さぁな。少なくとも仮釈放の類は諦めて貰うことになるだろうが」
 昂の呟きにベルフが軽く肩を竦める。
 ケアレイ、ケアレインに加え、チョコレートのお陰で負傷者もなく任務は終わったが、受刑者の今後については自分達の手の及ばない所である分思わずにはいられない。
「治ったからって、痛いの変わらないし、残ったら困るし、柄じゃないしー」
「何も残らなくて良かったじゃない」
「そうだけどー」
 とは言え、ちょっと不貞腐れの鈴音はN・Kに窘められつつ、歩いている。
「どんな罪か知らないけど、生きることが死以上に重い枷になることもあるなら、殺されてた方が彼らは解放されたのかもしれない」
「……そう言う考え方も出来ますが、あまり好ましくありませんね」
 瑠璃の呟きを拾ったノクスフィリスにそう言われ、瑠璃は「解ってるよ」と呟いた。
「俺が攻撃する前に終わっちまった。……デクリオ級相当って話だが」
「等級に関係なく、愚神が行き着く先は煉獄ですわ」
 龍哉がエージェント総攻撃前にダダが倒れたと不完全燃焼気味に呟くと、ヴァルトラウテは全体の勝利こそ重要と説く。
 スムーズな流れも龍哉のストレートブロウがあってのことだ。
「自分用に弄った甲斐あって今まで以上に手に馴染んだな」
「自分の癖に合うのが大事じゃろうな」
 リィェンは自身の為に改造した屠剣の感想を語ると、インは重畳と口元を笑ませた。
「無事に制圧完了したようですね」
「愚神が侵入した際に刑務官や看守の一部が殺されてしまったようですが、被害は最小限といった所でしょう」
「これ以上は軍の方の出番ですね」
 明斗が連絡を受けてそれを口にすると、被害を確認した構築の魔女が続き、高音も軍の尽力への期待を口にする。
「……ーー」
 落児に労われるドロシーと十架は小さく頷いて、隣をトコトコ歩いている。
 言葉は通じている訳ではないようだが……。
「これでバカンスじゃ」
「だから、研修で来てんだよ」
 全て終わったと紅花が顔を輝かせ、まずはバリ島ならではの夕飯と口にするも、カトレヤが呆れたように溜息を吐く。
 バリ島ならではの夕飯が食べられたかどうかは、彼らの報告書に記されてないので、彼ら自身に聞いてほしい。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 義の拳客
    リィェン・ユーaa0208

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • クラインの魔女
    倉内 瑠璃aa0110
    人間|18才|?|攻撃
  • エージェント
    ノクスフィリスaa0110hero001
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  • 見えた希望を守りし者
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    英雄|7才|女性|バト
  • 高校生ヒロイン
    早瀬 鈴音aa0885
    人間|18才|女性|生命
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    英雄|24才|女性|バト

  • 九字原 昂aa0919
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  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
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