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金が欲しいなら、奪い合え
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金の魔力
最終発言2016/02/20 15:54:20 -
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最終発言2016/02/20 15:51:54
オープニング
●悪魔はカネか人か
これは、とある地方都市で起こった事件である。
現金を運んでいた輸送車が横転事故を起こした。幸いにして怪我人は出なかったが、輸送車の荷台は壊れ、強風にあおられてソレは四方八方に飛んで行った。
――現金
人々の欲を一番現した紙は風に乗り、四方八方へ飛んでいく。
最初にそれを拾った人間は『ラッキー』と思った。
次に拾った人間は『警察にとどけなければ』と考えた。
次に拾った人間は『もっと欲しい』と思った。
そして、いかにすればより多くの現金を手に入れることができるかを考える人間が現れ始めた。あまりに簡単に答えは出た。
より多くを欲した人間たちは隣の人間を殴り倒し、現金を手に入れるという方法に出たのであった。
●銀行員
その愚神は、ビルの屋上から街を見ていた。金が飛び散った街は最初こそ穏やかであったが、段々と人々の欲望が抑えきれなくなったかのように剣呑な雰囲気を帯びていった。今ではもう、人々は万札を奪うために殴り合うことしかしていない。事故で飛び散った金を握りしめた人々は、全員が催眠状態にかかっているのだ。
――他人から、多くを奪え。
金を握った人間たちは、もうそれしか考えられないはずである。
「なんとまぁ、無残な光景ですね」
気真面目な銀行員の姿をした愚神は、笑う。
あの金は、すべて従魔がついている。従魔が人を惑わせ、催眠状態にし、欲望のままに奪い合わせているのだ。
「HOPEがでてくるでしょうが、金という敵と戦うことができますかね?」
街の混乱は、まだ続いている。
そろそろ、従魔に操られていない人々の恐怖が最高潮に達している頃合いだ。きっと彼らは恐怖にかられて、その場にいる人間を襲うだろう。
それもいい。
それでいい。
「私は、混乱を望んでいるのです」
●街の混乱
「輸送車が事故をおこした現場周辺で、暴行事件が多発している?」
HOPEにそんな奇妙な知らせがはいった。本来ならば警察の役目になるのだろうが、警察の一部も突然暴れ出し、現場は混乱しているらしい。原因は不明であるが愚神や従魔の可能性がいなめないとしてHOPEに声がかかったのである。
「まだ未確認情報なんですが……警察の話しによると現金輸送車に積まれていた金に従魔がついていたのではないかと」
電話を受けた受付嬢が、恐る恐る口にする。
HOPEの職員は、顔をしかめた。
「現金に従魔か……。もしも、この話が一般に広まったら貨幣への信頼が失墜する恐れがあるな。リンカーたちには、今回の敵がなんであったかを口外するなと言い含めてくれ。必ずだ」
解説
・従魔に操られた人々の鎮静
・愚神の討伐
地方都市……そこそこ発展しているオフィス街。街の中心部では現金輸送車が横転しており、半径三十メートルで暴行事件が多発している。北には公園があり、南には大きな郵便局がある。街では強風が吹いており、時間がたつほどに現金はばら撒かれ、金の亡者は増えていく。
金の亡者……金を拾った一般人。催眠状態になっており、金をより多く奪うことしか考えられなくなっている。金を奪い取れば鎮静化するが、大量に出現している。力は一般人だが、意識はほぼない状態。金とリンカー、どちらを見ても攻撃をくわえてくる。罪のない一般人なので、怪我をさせないように保護して欲しいと支部と警察より要請がある。
金(従魔)……紙幣にとりついている従魔。とくに何をするわけではないが、手で触れると現金のことしか考えられなくなる。一定時間がすぎると金の亡者は増え、さらに時間がたつと金の亡者に脅える普通の一般人が身を守るために乱闘に参加してくる。
銀行員(愚神)……金を発生させた愚神。街の中心部にあるオフィスビルの屋上に出現。屋上に誰かが来るとビルから飛び降りて、金の亡者たちのなかにまぎれて逃走しようとする。愚神の見た目は一般人と際がないため、金の亡者にまぎれられるとなかなか見つからない。追いつめられたりすると、金に囲まれる幻影を見せてくる。相手に幻を見せている間に、従魔に操られている人間に攻撃をさせる。(PL情報――愚神を倒すと従魔は消滅します)※金に囲まれる幻影を見せられた時のリアクションがプレイングシートに書かれていない場合は「金だぁ! いやっほぅ!!」的な幻を見ている描写となります。
リプレイ
愚神の眼下では、金が舞っていた。
はらり、はらり、と舞いを散る現金を一枚でも多く掴み取ろうと街の人々は殴り合う。その異様な光景を、愚神はビルの屋上から見て笑んでいた。
「私は、混乱を望んでいるのです」
●欲望の暴徒
「お金は人を狂わせるっていうけど、哀しい光景だね」
HOPEより要請を受けて現場に急行したは、志賀谷 京子(aa0150)目の前に広がる光景にそんな感想を漏らした。スーツ姿の大人たちは、宙を飛び交う現金を一枚でも多く掴もうと乱闘騒ぎを起こしていたからである。
『お金に心を奪われて、自由を失っているから?』
アリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)は、京子に訪ねる。
「そんなとこ。ま、わたしがお金に困ってないからそう思えるんだろうけど」
比較的裕福な家庭に生まれ育った京子は金に対して困ったことがなく、故に執着心も薄かった。だが、それを理解できる理性もある。
「金は欲しい……が、こんな形で手に入れても嬉しかねぇな」
孤児院を運営する麻生 遊夜(aa0452)も、京子の意見には同感であった。麻生の隣に並び立つユフォアリーヤ(aa0452hero001)も、その意見に深く頷く。
『……ん、当然。教育に悪い、お仕置きが必要』
正気を失った人間が、麻生に襲いかかろうとする。彼はリーヤとリンクし、体の主導権を渡した。リーヤは足技で襲ってくる人間のバランスを崩させ、その手に握られていた金をオオカミのように口でもぎ取った。
『……ん、もういらないでしょう?』
「これこれ、お行儀が悪いぞ。愚神本人が騒ぎの中心いねぇえってことは、高見の見物をしているってのが相場だな。大体、そういう敵自体は強くないのが定番だが……」
『……ん、油断は良くない』
麻生は、ビルを探して視線をさまよわせる。しかし、すでに何名かが自分と同じ考えにたどり着いたようであった。
「すでに何人か向かったみたいだ、続報を待ちますかね」
「……ん、今はこっちのほうが大事」
リーヤは不機嫌であったが、それに輪をかけて不機嫌な人物がいた。言峰 estrela(aa0526)である。彼女はすでにキュベレー(aa0526hero001)とリンクし、愚神のような姿で人々を睨んでいた。
「罪のない一般人なので怪我をさせないようにして欲しい……ねぇ?」
言峰は、金を奪いあう人々のなかへと進んでいく。
「罪はなくとも欲はあったんでしょ?」
『……紙幣に従魔が取りついていたようだがなァ』
弁護しているのは煽っているのか分からないキュベレーの言葉に、言峰は軽く舌打ちをする。金と欲は彼女にとって憎しみの対象であり、自分を狂わせた最も忌避すべきものの一つであった。いつものように人当たりよく振る舞っていた殻を、今は築けない。
彼女は、武器を持った。
そして、駆けだしていた。
「峰打ちにしてあげるけど……結構痛いわよ」
言峰は、暴徒と化した一般人を殴りつけていた。
その光景を見ながら、Le..(aa0203hero001)はやれやれとため息をついた。
『……お金に目がくらむ……文字通りって状況……だね』
「文字通り……全くだな。悪銭身付かず……とか聞いたことがあっけど身につかねェ……が正しい状況だな。まぁ、感想をのんびり言っている場合じゃねェな!! 行くぜ、ルゥ」
東海林聖(aa0203)がロットを片手に、言峰の跡を追う。
「ちっとイテーのは、勘弁しろよなッ!」
聖が従魔に操られた人々を順調に殴り倒したり、拘束したりする。その光景を見ながら『ヒジリーは「こういうの」得意なんだっけ……』とルゥは呟く。聖の体術は実家で仕込まれた、柔道や合気道である。今はロットを使った棒術もミックスさせて立ちまわっているようだが、その動きは見事の一言だ。殴られるほうはたまったものではないかもしれないが、聖は実に手際よく暴徒を鎮静化させていった。
一方で、エステル バルヴィノヴァ(aa1165)は泥眼(aa1165hero001)とリンクし、現金輸送車を元の体制に戻していた。そして、すでに空っぽになっていた輸送車に人々を押し込んでいく。エステルの目は、非常に冷たかった。
「酷い姿です……お札に火をつけて、一緒に燃やしてしまったらどうかな?」
エステルの呟きに、泥眼は目を丸くする。
『それは、やめて。あの人たちも被害者なのよ?』
「そうでしょうか? 催眠は切っ掛けで、群集心理に駆られて自分の劣悪な感情を解放しているだけにも見えます」
冷えたらエステルの言葉に、泥眼は何も言い返せなかった。
「一般人は、建物に避難を! 後は、俺たちHOPEに任せろ!!」
麻生が、できるかぎり大きな声で叫んだ。
その声に、暴徒に脅えていた従魔にまだ操られていない人々が反応する。脅えていた彼らにとって、麻生の声は天の助けのように思えたのである。
「風が流れる方向に被害が増えている……愚神、従魔によるガスかウィルス系の攻撃だと思われる! 物に触れるな、離れるんだ!!」
ガスやウィルスの話は、当然のごとく嘘である。しかし、金に振れれば従魔に操られる事を考えればあながち外れではないだろう。
五行 環(aa2420)と鬼丸(aa2420hero001)も、別の方向から「ウィルスがばら撒かれたぞ、避難しろ!!」と意識ある一般人を近くの建物へと誘導していた。環も麻生と同じく声を張り上げているが、逃げる人々は途切れることはない。金の従魔に取りつかれている人々の数も多く、このなかに犯人がいるとしたら見つけらそうにない数であった。
「これだけ人がいると犯人が探しづらいな……」
環は、呟く。従魔をばら撒いた愉快犯は、おそらく近くでこの混乱を見守っている。ならば、まずは周囲の人間の数をできるかぎり減らさなければならない。そうでなければ、万が一でも逃げられた時に一般人を巻き込むことになる。そのためにも、まずは生気を保っている一般人の保護が先決であった。
正気を失った人間が、環に殴りかかろうとする。環は鬼丸とリンクし、自分に向かってくる拳を受け止めた。そのまま、環は握られていた紙幣をうち抜く。
麻生が『消毒だ!』と叫びながら、イグニスを使って金を焼く。麻生の言葉を信じる人々には、麻生があたかもウィルスを焼き殺しているように見えた。実際に焼いていたのは、従魔付きの現金であるが。
「愉快犯か。どうせ、どっかで見ているんだろう」
愉快犯は、自分がおこした騒ぎを見ておきたいものだ。ならば、犯人はこの近くにいるはずである。環は、そう考えていた。
「舞い上がる焔が結構綺麗ですね。お札は、こういうふうに使った方が有意義かも?」
空を漂う紙幣をエステルは、火焔呪符で狙い打つ。
紙の紙幣はあっという間に塵になり、それを見るエステルは笑っていた。
『……いいのかしら?』
泥眼の呟きに、エステルは嫌な事を思い出してしまった。
「金融機関のお金ですから、保険対象にしているはずです。……でなければ、どうしよう!」
まさか弁償しろとは言われないだろうが、今さらながらエステルの背に汗が流れたのであった。そんななかで、八朔はビルへと向かっていた。
『ああ、哀しいな。洗脳とは言え、これが人の姿とは泣けてくるよ。なればこそ元凶は始末せねばなるまいて。一言にして、不愉快だ』
ナラカ(aa0098hero001)が、狂う人々を眺めて言う。
「……まぁ、概ねは同意見だよ。この姿を人間だとは認めたくないな、腐って見える」
八朔 カゲリ(aa0098)は、ナラカの言葉に同意を示す。
すでに、彼の仲間である京子も動いていた。彼女は「経済にダメージを与えたいなら、もっと上手いやりかたがありそうだし、これは愉快犯なんだろなぁ。愉快犯なら、この混乱を見ようとしないわけがない。現場を見下ろせるビルを探しべきだよ」と言っていた。
『エストレーラに六華、それに聖もおる。他の者たちも、醜聞は晒すまいて。皆の働きで、無聊を慰めるとしよう』
ナラカの言葉は、信頼であった。
八朔は、その言葉に頷く。
●小さなスナイパー
「……え、援護射撃なら……あんまり怖くない、かな?」
言峰 六華(aa3035)はEлизавета(aa3035hero001)に抱き抱えられながら、ビルの屋上にたどり着いていた。ここから、混乱する街を一望しているであろう敵を狙う撃つためである。外は少し肌寒く、強い風が六華の髪を弄ぶ。
『……六華は私が守りますので。安心してください』
エリザは、そう囁く。
「それじゃあ……」
六華は袖を少しめくり、エリザと共にウロボロスに触れる。
それが、二人の共鳴の合図であった。
「……状況、開始」
六華は、スナイパーライフルを取り出す。そこでふと、従姉妹の言峰のことが気にかかった。彼女はいつもと違う雰囲気で、どことなく六華を不安にさせていた。現場を前にした緊張とも違う雰囲気で、ぴりぴりとしていた。六華は無意識に、視線で言峰を探す。
『……六華、敵から視線を外してはいけません』
エリザにとがめられた六華は、慌ててスコープを覗く。言峰のことも心配だが、今は愚神の排除が先決である。
ビルの屋上を何個か確認し、六華はようやくその場所を見つけた。街で一番背の高いビルの屋上に、ごく普通の銀行員のような男が下界を見て笑っていた。
「まだ、撃たないんだよね」
『ええ』
――味方があそこにくるまで。
小さなスナイパーは、深呼吸をした。
●欲望の幻想
八朔と京子は、ビルの屋上のドアを開く。
そこには、銀行員風の男がいた。彼は、自分の足元で繰り広げられている金の奪いあいを実に楽しそうに見つめていた。京子は「趣味の悪いやつ!」と愚神を内心で罵りながら、消火器を手に取った。
真っ白い煙が、愚神を包み込む。
八朔は双銃を愚神に向けて、ライブスショットを使用する。さらに遠くから愚神に狙いを定めていた六華が、引き金を引く。
弾丸の音が、空に響く。
六華の足元には空の薬莢が落ちて、彼女はエリザと共に息をのんだ。まだ、煙のせいで愚神に弾が当たったかどうかを確認する事が出来ない。
少しずつ白い煙は消えていった。
煙が晴れると、京子はにやりと笑った。愚神のスーツには、破れがあった。何発かは、当たったようである。
「あら、立派なスーツを汚してしまってごめんなさい。弁償するから、一緒に来てもらえますか? ――HOPEまで」
愚神は、周囲を見渡した。先ほどの狙撃で、目の前の二人以外に敵がいることに愚神は理解していた。それと同時に、このままでは負ける事も理解していた。
「この混乱は短くするには惜しい。それでは、皆さん。さようなら」
愚神は、下へと落ちて行った。
その光景を地上より見ていた麻生は、テレポートショットを使用する。彼が放った弾丸は、愚神の足に命中した。
京子と八朔は、その光景を確認するより先に愚神を逃がすものかと下へと飛び降りる。風圧と重力を十二分に感じながら、京子はライブスブラスターを使用した。重力の助力とブラスターの威力は、共に愚神より早く京子を地面に運ぶ。
空中で、愚神が叫ぶ。
「あなた方も、欲の夢を見なさい!」
八朔は、空中で瞬きをした。自分の周りに金が浮かび、自分はこれから金が浮かぶプールへとダイブしようとしている。あまりに、突拍子もない夢である。受け身をとってみれば、そこは固い地面で自分が見ているものが幻影と分かる。やはり、これは幻であるらしい。八朔の足元の金たちは、だんだんと増えて溢れていく。まるで、いくら使ってもなくならないんだよとアピールするかのようであった。
「金など所詮は使うもの。こんなは、塵だ」
八朔は、幻影に向かってそう言う。
一歩あるくごとに、八朔の足もとで金が舞い散る。それでも彼の眼には、砂塵が降り積もっているようにしか見えなかった。
京子も、八朔と同じ幻を見ていた。
金がどんどんと降り積もって行く光景に、彼女はため息をつく。
「わたしを現金で表現できる程度の金額でどうにかしようだなんて、ずいぶんと安く見られたものね」
『……ある意味立派ですけど、どれだけ自己評価が高いんですか!』
京子の言葉に、アリッサは驚くばかりだ。
「わたし、将来は世界大統領になるし?」
自信たっぷりに、京子は言う。世界大統領という強気な言葉に似合いな憮然とした態度に、アリッサは呆れることしかできなかった。
『はいはい、言ってなさい』
京子は振り積る幻想を紙幣にむかって「失礼しちゃう」と言った。自分の価値は金などより重いのだ、と改めて京子は胸を張った。
愚神がいるビルに向かっていた環も、幻を見ていた。自分に降り注ぐ金を見て、思わず「桃色シリーズのDVDが買える!」と趣味に走ったことを考えてしまう。だが、その煩悩を彼は振り払った。
「欲望上等!! ……だが、それをコントロールするのは己自身だ!!」
『お前、そういや坊主だったよな?』
鬼丸は振り積る現金を眺めつつ『これ桃色シリーズが何本買えるだろう?』と呟いたのだった。この二人、似た者同士である。
現金輸送車のなかに我をなくした人間を詰め込んでいたエステルも、現金が振ってくる夢を見る。振り積っていく現金の幻に彼女は顔色を蒼白にし、その場にうずくまった。
「……なにこれ? 私の無意識なの? ……潜在意識にお金に対する執着があるってことと?」
泥眼はエステルを励まそうとするも、幻想を見ているエステルのマイナス思考は止まらない。
「そう言えば、昨日隣を歩いていた女の子のアクセサリーを良いなと思ってしまった……偽善です! 私は汚らわしい偽善者!! 車の中でわく蛆虫と同類なんて! 私に罰を、誰か私を裁いて!」
自分の頭を抱えて叫ぶ彼女に、泥眼は思わず語りかける。
「……あなた、何気に酷いわよ」
聖も、現金の夢を見た。
何事にも一直線の彼はそれを見た瞬間に「ルゥの食費がつれェんだよな……」と考えてしまった。これだけの金があれば、常にお腹をすかせている英雄の食費ぐらい何年も賄えてしまいそうだ。だが、すぐに聖は考えを入れ替える。
「いいや、ダメだな!! こんな方法で手に入れるぐらいならバイトだ!! バイトして稼いでやるぜ!!」
聖が「ついでに、体も鍛える!」と叫んでいるのと同時刻、麻生も幻を見ていた。現金が降る幻に彼は「だから、こんな形で手に入れても嬉しかねぇんだよ」と呟いた。自分の家族に顔向けできないような金などいらない。麻生は、幻を全力で否定していた。
「……ん、いらない」
隣で、リーヤが静かに同意を示す。その顔は、いくらか誇らしそうでもあった。
言峰も、金の幻影をみていた。
豪奢な屋敷のなか――
汚い言葉で罵りあう家族――
「喧嘩しないで……」と鳴いていた無力な昔の自分――
全てが、幻だ。
幻であっても、あまりにも鮮明であった。言峰は、苛立ちに任せて刃を振るう。その先には、言峰に襲いかかろうとする金の亡者がいた。
「あら……ごめんなさい? 加減を謝ったわ」
『あまりやりすぎると不可抗力が通じず過剰防衛になるぞ……?』
言葉とは裏腹に、キュベレーは笑っていた。
「……ほんとお金なんてクソくらえ、よ」
「言峰さん!」
幻影から抜け出したエステルが、言峰が切り捨てた人間に向かう。未だに顔色は悪かったが、それでも彼女は言峰が切った人間の治療を施し始めた。幸いにして、言峰が切った人間には息があった。過剰防衛にはならずにすみそうである。
「最終的に帳尻が合えば問題ないですよね?」
『……気の毒に』
泥眼だけが、切られた人間に同情の目を向けていた。
ビルの上で、六華は慌てていた。
狙撃は一応の成功を見せ、エリザから『あの状況なら、及第点です』と評価を貰った。だが、次の瞬間には六華の目の前に大量の紙幣が現れたのだ。
「わわわっ……お金がいっぱい。交番はどこなの?」
実家が金持ちであり、年齢的にもお金の大切さを実感していない六華は大量の金銭に慌てふためくことしかできなかった。そんな六華の隣で、エリザが『しっかり。これは幻です』と声をかけていた。
●金はありかた
石井 菊次郎(aa0866)は、落ちてくる愚神に気がついていた。その愚神に向かって、テミス(aa0866hero001)とリンクをした石井は幻影蝶を使用する。
愚神の幻影が止まる。
石井は懐のポケットに手に入れて、さもすれば同僚のようにすら見える愚神に声をかけた。
「失礼、落しものです……あれ、なんで俺はポケットに入れるんだ? すみません、先ほどそちらであなたこれ」
石井は、わざとポケットに現金が入っているように芝居をした。石井の声が、ワントーン低くなる。
「……これ頂いて良いですか? ……はっ! 俺はなんて事を! いや、でも」
「良いですよ。いくらでも、差し上げましょう」
愚神は、笑顔で答える。
「なんて気前の良い人だ! ……あなた、もう少しこれを持っていますね? それも頂けませんか」
愚神は空中に舞う現金を掴み、石井に投げつけた。普段から使用する馴染みのある紙幣が、石井に降り注ごうとしていた。
「いくらでもお取りなさい。欲望のままに!」
石井はブレームフレアを使い、自分に投げつけられた紙幣を焼き払う。全ての紙幣は塵になり、風に乗って消えていく。
「愚神は白い粉をかぶって、左足に怪我をしているぞ!」
幻影から抜け出した八朔が、仲間に愚神の特徴を伝える。愚神に狙いをつけようとするが、八朔にも金の欲望に我を失った人々が襲いかかった。
「襲ってくる相手に怪我をさせないようにとは、無理な相談だ。加減はしても、容赦はしない」
八朔は、愚神から狙いを外す。
そして、自分を襲うとする人々を殴りつけた。
「我も人、彼も人、故に対等――洗脳だからと、それでも容赦はしない。それは、誓約からも外れる……。愚神の被害にあって、殴打ですんだだけ有りがたいと思えよ」
八朔の代わりに、愚神に向かって言ったのは聖であった。
聖は武器をもちながら、一気に愚神との距離を詰めていた。
『テメーが、この騒ぎの元凶かッ!』
聖の拳が、愚神を殴ろうとしていた。
環はティグリスサーベルを手に持ち、聖と共に踏み込む。
「人の欲望ってのは、お前を楽しませるためにあるんじゃねぇ」
環たちの攻撃を受けた愚神は、金の雨のなかで崩れ落ちた。愚神の体が舞いあがった紙幣に埋め尽くされそうになったとき、石井は思い出したようにその質問をした。
「一つ聞きたいことがあります。この瞳について何か知りませんか?」
彼は、慣れた手つきでサングラスを外す。
現れたのは、紫の瞳だ。
「さぁ? 私は欲望に濁らないモノなど、興味がないのです」
愚神が沈黙し、金はただの金となった。
ただしく、道具と成り果てたのであった。
「相変わらず、有る事無い事抜かすよく回る口だな? しかし、主は金が嫌いか?」
テミスが、尋ねた。
愚神に瞳を見せるために外していたサングラスを元に戻しながら、石井は答える。
「紙幣は人の劣情を人がより良く生きるために、転化して利用する偉大な発明です。嫌いな訳がないですよ」
「そのとおり。欲望は希望でもあり願いでもあるからな。囚われ過ぎなきゃいいわけよ」
環の言葉を、エリザに抱きかかえられてビルから降りてきた六華は聞いていた。
僧の言葉には、救いがあるように思われた。
「レーラちゃんに、教えてあげたい……」
小さな少女はいつのまにか消えてしまっていた言峰を想い、そう呟いた。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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