本部

墓場の魔法使い

水藍

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/09/28 18:42

掲示板

オープニング

●眠れる主を脅かす者

 墓石の近くにこっそりと存在している黒く燃え尽きてしまった灰の固まりは、かつてその墓に眠る主へと供えられた花の残骸に違いないだろう。
「…また、あいつらの仕業か…」
 年老いた墓守が変わり果ててしまった花の残骸を手で掬いながら忌々しげに呟いた。
「今月に入ってもう10回は見たな。…畜生、あいつらめ、遺族の思いをなんだと思ってやがる…!」
 礼儀正しく並んで立っている墓石の足元を、冷たい風が通り過ぎていく。過ぎ去る風の強さに耐えられずに、かつては遺族の供えた花であった残骸の灰が頼りなく巻き上がる。
 強く灰を握り締める墓守の老人の姿は、花を焼いた者への憎悪に満たされていた。
 激しい感情を辺りに撒き散らす墓守の耳に、ぱたぱたと軽い足音が響いた。どうやら近くに子どもが数人いるらしい。
 握りこんでいた手を開きながら、しゃがんでいた墓守はゆっくりと立ち上がって辺りに注意を払う。幼い足音は段々と墓守のもとへと近付いてくる。
「じぃ…ちゃ…!…おじいちゃーん!」
 助けを求めるかのように叫ぶ子どもの声がはっきりと聞こえた時、墓守は漸く子どもが自分の背後から近付いてきている事を知った。
 振り返ると、活発そうな少年が此方へと手を振りながら懸命に掛けてくる。墓守はその少年の姿に覚えがあった。
「おお、おまえさんか。そんなに急いでどうしたんだ?」
 目の前で立ち止まった子どもは、はぁはぁと息を切らせながら自分の走ってきた方向を指差した。
「お母さんが…!お母さんがあいつらにやられて…!」
「なんと…!其れは大変だ!」
 墓守は未だに息を切らす子どもを己の肩に担ぎ上げ、子どもが走ってきた方向へと足を急がせた。

●HOPE本部にて

「墓場に火の玉。しっくり来る感じだが、その火の玉が被害をもたらしている様だね」
 依頼担当の男が皮肉げに口の端を吊り上げた。
「依頼してきたのは過疎の進んだ小さな集落の墓守、だね。なんでも、墓場に現れた人ならざるもの達が遺族の供えた花や供え物を燃やしたり、墓参りに来た住民を襲ったりしているらしい。住民の怪我は軽い火傷で今のところは済んでいるけれど、これ以上放置したら犯行がエスカレートしかねないから、討伐の依頼を出した、と言ったところかな」
 ふむ、と1つ頷いて、男は言葉を続ける。
「何、人ならざるものの犯人の目星はついてる。ウィルオウィスプ、だ。見た目は火の玉に似ているけれど、火を飛ばしてきたり接触してきて激しく燃え上がったりする。幸いにも今のところは被害者は軽い火傷で済んでいるけれど、接触される者が出てきたら最悪死に至る。…まあ、君達能力者なら腕試しにうってつけの相手だろうね」
 にっこりと不適な笑みを浮かべながら、男は依頼のあった場所への経路が書かれた地図を差し出してきた。
「君達なら大丈夫だろう。――君達、能力者と英雄なら、ね」

解説

一般市民の平和を維持する為に墓場を徘徊している従魔(ミーレス級)を討伐してください。

●地理
 広さは凡そ100坪程度の平地に、墓石がみっちり並んでいます。戦闘の際には墓石が障害物にもなり得ますが、壊さないように気をつけてください。
 墓地の周りを木々が群生している森が取り囲んでいます。

●敵の情報
 相手の数は5匹を一部隊にして襲い掛かってきます。
 一匹一匹は弱いですが、集団で襲い掛かってきますので注意して対処してください。

●留意点
 もしも敵が森に逃げ込んだ場合は火災になる恐れがあるので、できるだけ短期決戦を心掛けてください。
 短期決戦が望めないようならば、相手を取り逃がさないようにしながら上手く戦えるように相手の注意を自分に引き付けて下さい。

リプレイ

●生ける者に出来る事
 H.O.P.E.から請け負った依頼により集められた能力者と英雄が、待ち合わせ場所であるとある地方の山道にて座卓を囲んでいる。
 約束の時間通りに集まった全員の目の前で、改めて依頼内容を確認していた金髪の美少女が唐突に口を開いた。
「静謐であるべき墓所に乱れを呼ぶなんて……本当に、度し難い……!!」
 アイフェ・クレセント(aa0038)の英雄であるプリシラ・ランザナイト(aa0038hero001)が、度し難い死者への冒涜を歯噛みしながら呟いた。
「亡き人を想うって感覚はまだよくわかんないけど……。ここを訪れるのは、今を生きてる人だもんね」
 アイフェがプリシラの言葉を聞き俄かに俯いた。彼女の隣には沈痛な面持ちを浮かべている大事な妹のアデノフォーラ・クレセント(aa0014)と、アデノフォーラの英雄であるジャガンナータ(aa0014hero001)が佇んでいる。
 アデノフォーラと共同であたる初の任務であるこの依頼ともなれば、気合が入らないわけがないアイフェは俯かせていた顔を上げてアデノフォーラの両手を強く握った。
「アーちゃんを守った上で依頼も達成する。おねーちゃん頑張っちゃうよ!!」
「……うん」
 力強く宣言する姉に対し、妹のアデノフォーラもどこか嬉しそうに頷いた。
 山小屋で繰り広げらていた微笑ましい姉妹愛を思い出しながら、渦中の人であったアイフェとアデノフォーラの二人を見ながら、ヴァレリア(aa0184hero001)が近くに立っているシルヴィア・ティリット(aa0184)へ声を掛ける。
「弱いと言っても数は多いんだし、油断してると火傷しちゃうかもね?」
 悪戯っぽくそう言いながらウインクするヴァレリアに、シルヴィアが頬を膨らませた。
「ヴァレ姉の意地悪! ……油断するつもりはないけど、でもやっぱり火傷は嫌だなあ。気を付けよっと」
 一人意気込むシルヴィアは、何かを思い立ったかのような顔をした後くるりと回れ右をして、後ろにいる4人へと振り返った。
「じゃあ、私たちは先に行って敵の数が分からないかを依頼人に聞いて来るね! 皆は墓地の入り口で待ってて!」
「えっ……、シルヴィア様!?」
「……行っちゃった」
 言い終わる前に駆けていったシルヴィアを、周りに向かって一礼した後ヴァレリアが追いかけていく。思わず声を掛けたアリス(aa0040hero001)は呆然と小さくなっていく背中を見ることしかできなかった。
「あー……、もう見えないね」
「些か性急すぎる気もするでござるが……、まあ斥候は必要だと思っていた所でござる」
「……ん」
 遠くを見るように両目の上に手を添えながら、骸 麟(aa1166)が言った言葉に宍影(aa1166hero001)と佐藤 咲雪(aa0040)が同意を示す。
「まあ、敵の正体は分かってるんだ。言うなればもう敵さんは私達の手の中で踊っているようなものだよ」
 ルドヴィカ・ブロック(aa0670)が少し口角を上げた。
「地獄からさえも見放され、彷徨い続ける哀れなウィリアム。ウィル・オ・ウィスプ。それはそれで、一つの永遠の形なのかしら? 私はご免だけれど。何にせよ、初依頼が墓地で人魂退治だなんて……死霊術師冥利に尽きるわね」
 ルドヴィカの英雄、シャンブラー(aa0670hero001)の方を意味ありげに見つめた。ルドヴィカが見つめる先で、物言わぬシャンブラーの纏う外套が静かに揺らめいた。
「シルヴィア様……、本当に大丈夫でしょうか?」
 心配そうにシルヴィアの消えていった方を見つめるアリスを咲雪は見上げた。
「……このまま、帰れば……」
「咲雪? 今何か言ったかしら?」
「……」
 ぽつりと溢した咲雪の不穏な言葉に、アリスは心配そうな顔から一転、目を三角にして咲雪を見下ろした。
 慌てて目を逸らす咲雪に、アリスは大きなため息を吐いた。
「咲雪?」
「……なんでもない」
 観念したように首を振る咲雪を、アリスは腰に手を当てて胡乱な目で見つめた。

●死者の眠る土地へ
 シルヴィアとヴァレリアが駆けて行った後、二人は意外にもすぐに帰ってきた。
「たっだいまー! 依頼人に聞いて来たよー!」
「お待たせいたしました」
 元気よく帰ってきたシルヴィアに、一同は安堵のため息を漏らす。テンションの高いシルヴィアとは打って変わって、ヴァレリアは礼儀正しくお辞儀でもって帰還の意を示した。
「シルヴィア殿が駆けて行かれた時は、それがし、気が気ではなかったでござるよ」
「一件落着。……まあ、もしもの時の為に気休め程度に本部から貰った消火器は用意してたんだけどね」
 言いながら、麟が持っていた赤い消火剤の入った瓶を掲げた。
「え……、麟さん? もしかしてそれ万が一火達磨になって帰ってきた私に掛けるつもりだったの……!?」
「冗談だよ、冗談。……さぁ、早く聞いてきた情報を教えてよ」
 掲げた消火器を下ろしながら、麟が先を促した。シルヴィアはそれに不服気に口を尖らせながらも、喜々として口を開いた。
「まず、敵の数は日によって変わるからよく分からないんだって。……で、あんまり有力な情報も得られなかったし、お土産ついでについでに軽ーく現場の下見もして来たんだけど、基本的に墓石は整列してるから人が一人通れるくらいの通り道はあるよ」
 若干悲しそうな顔から一変、シルヴィアは困った顔で言葉を切った。
 沈んだ顔をするシルヴィアの言葉を続けるように、ヴァレリアが口を開いた。
「開けた場所には相手が溜まっている事が多いようなので、余り開けた場所での戦闘は望めません」
 二人からの報告に、アイフェが何やら考えている様子を見せる。
「……アイフェさん?」
 黙り込んだアイフェに一番に気付いたのは咲雪だった。
 咲雪が声を掛けた刹那、アイフェが顔を上げて自信ありげな表情を見せた。
「よし、じゃあ、攻撃役と警戒役に分かれて討伐しよう。シルヴィアさんとアデノフォーラと私で攻撃役、麟さんと咲雪さんとルドヴィカさんが警戒役で……、どうかな?」
 アイフェの提案に全員が同意を示した後、一同はこっそりと死者の眠る土地へと足を踏み入れたのだった。

●炎を操る霊魂
 墓地を見渡せる茂みに身を潜め、一同は死者の眠る土地を徘徊する無礼な火の玉達の様子を伺う。
「ウイルオウィスプか……懐かしいでござるなあ。柩中天ではあれを灯り代わりに修業したものでござる」
 墓地を取り囲む森の草むらに隠れながら、宍影が感慨深げに言った。
「む、骸忍術にとって死の支配する場所は、ま、まさに独壇場……だよね?」
 相手に見つからない様にするためか、出来る限り体を小さくしている麟が呻くように言った。
 墓地に足を踏み入れた一同を待っていたのは、予想以上の数の火の玉――ウィルオウィスプの数だった。
 時刻は当に太陽が西へ傾き、三日月が夜空に浮かび上がって闇が辺りを支配している。が、しかしこの墓地に限ってはウィルオウィスプ達の炎の明かりのせいで薄ぼんやりと明るい。これでは死者も眠りにつけないであろう。
「意外に数が多いですね……」
 アリスが目の前で浮遊する炎の塊に思わず、といった様子で呟いた。
「見てるだけじゃ終わらないし、一先ず二手に分かれようよ! 私達攻撃役は前衛、警戒役は後衛でどう?」
 シルヴィアのシンプルな作戦に、アイフェが困ったように声を漏らした。
「うーん……、それじゃ心もとないかも。ここは大まかに攻撃役が敵を潰しつつ、警戒役が森へ逃げるのを阻止しながら手近な敵を攻撃する、ってのは?」
「おお! それなら効率的だね!」
 アイフェの提案にシルヴィアが肯定を示したのを見て、アイフェは他の面々の意見を求めるために一人一人の顔を見て回った。
「……ん、わかった」
「明瞭快活、んでもって合理的でいいね!」
「それが一番いい案ね」
 最後に、アデノフォーラが深く頷いたのを見て、アイフェは安堵した。
「んじゃ、行くよ。……いち、にの、……さんっ!」
 アイフェの合図とともに、全員が各々の英雄とリンクドライブを始めた。
 ただならぬ気配に、墓場を彷徨っていたウィルオウィスプ達も6人の方へと一斉に向きを変えて襲い掛かってくる。
 一番に躍り出たのは、ジャガンナータが自身の鎧と化した姿をしたアデノフォーラだった。
 アデノフォーラは握り込んだ大剣、コンユンクシオを振りかぶる。
 大仰な動作のせいで生まれてしまったアデノフォーラの隙を見て、ウィルオウィスプがこれ幸いと火の粉を飛ばすために大きく体を震わせた。
「おっと! アーちゃんには指一本触れさせないよ!」
 アデノフォーラの影から、戦乙女を彷彿とさせる凛々しい姿となったアイフェが自身の武器であるネイリングソードでもってウィルオウィスプを切り伏せた。
 そのすぐ横では、ヴァレリアとリンクしたシルヴィアが武器であるマビノギオンから発生させた魔法の剣で無数のウィルオウィスプをねじ伏せる。
 襲い掛かってきた一部隊の殲滅が終了すると、次の部隊が襲い掛かって来る。
 先程と同じようにアデノフォーラとアイフェの連携、そしてシルヴィアの見事な魔法のおかげで第二部隊も難なく倒せた時だった。
 数匹のウィルオウィスプが、攻撃役の3人の目を盗んで森の方へと飛んでいくのを、シルヴィアが目の端で捉えた。
「っ! 麟さん! 咲雪さん! ルドヴィカさん!」
 なおも襲い掛かってくる敵を倒しながら、シルヴィアは警戒役である麟と咲雪とルドヴィカへ声を掛ける。
『咲雪、側面に敵性反応。2秒後に敵の攻撃、回避して』
「……ん、捕まえた」
 ドゴォッ、と地面が揺れるような打撃音が響いたと思ったら、パイロットスーツのような衣服に変化した咲雪がポルックスグローブで渾身の殴打を決めていた。
 咲雪の近くで、ルドヴィカがクリスタルファンで輝く風を発生させているのが見える。シルヴィアは安心した。
 警戒役の働きを知ってか、アイフェがまたウィルオウィスプを切り伏せた後振り返って声を張り上げる。
「どんどんいこう! 援護も追撃も任せてねっ!!」
 その声に反応してか、その場にいる全員が張り切って敵に立ち向かう。
 攻撃役の包囲網から潜り抜けたウィルオウィスプが、こっそりと森の方へと近づく。
『ふむ、あの火の玉衆…このままでは不味いで御座るな』
 頭に響く宍影の声に、麟が後ろを振りかえりひょいひょいと墓石の上を飛び越えていく。
「南無南無南無…頭重くないですかあ?重くても文句は受け付けませんよー?」
『り、麟殿?? 先月と比べて大分重…ぐ!』
 宍影の忠告も無視して、麟はマイペースに墓石の上を移動して森へと向かうウィルオウィスプの目の前に降り立った。
 ハンズ・オブ・グローリーをウィルオウィスプの目の前に構え、麟は高らかに叫んだ。
「骸火……遁散!」
 周りにいた複数の敵を巻き込み、徘徊していたウィルオウィスプ達は確実に数を減らしていくのだった。

●帰って来た暗闇
「かなりの数を倒してきたつもりだけど……、後どの位だろ?」
「うーん……、とりあえず、墓石の辺りを徘徊している奴らは倒せたみたいだね」
 はぁはぁ、と肩で息をしながら、アイフェとシルヴィアが辺りを警戒した。
 事実、墓地に踏み入れた時に目の当たりにした大量のウィルオウィスプ達はもうちらほらとしか見当たらなくなっていた。
「全滅しないと意味がないし……。はぁ、本当にあとどの位いるんだろうね?」
 シルヴィアがため息交じりに溢した。
「うーん……。相手が弱いから倒すのは苦じゃないんだけど、あんまりにも数が多すぎて嫌になってくるよね。……油断すると火傷しちゃう、しっ!」
 シルヴィアの背後に迫っていたウィルオウィスプをアイフェが一振りの元切り伏せた。
「っ有難う! ……うーん、ここは一旦警戒役の人たちと連携をとって敵の残党を調べる必要があるね」
「それじゃ、一番身軽そうな麟さんに頼んで全員で敵を追い込むように伝えてもらおうか?」
「よーし、じゃあそうと決まれば……、麟さーん!」
 シルヴィアが後方を振り返り、特に宛ても無く大声で麟の名前を叫ぶ。
 墓場に着いたときに比べると大分暗くなった辺りに、シルヴィアは急に不安に襲われる。
「り、麟さーん? どこですか?」
 暗闇に紛れてしまいそうなか細い声に釣られるかのように、アイフェも段々と心細くなって来た。しかし、敢えてそれを表に出さないようにしながらアイフェもシルヴィアに倣って麟へと呼びかける。
 2人できょろきょろとしていると、異変に気付いたアデノフォーラも一緒になって周囲を見渡す。
 ふと、視界を覆う暗闇が揺れた様に見え、アイフェは目を凝らした。
「はいはい、私を呼んだかな?」
「うわぁ!?」
「えっ、何!?」
 暗闇が行き成り人間の輪郭をとったかと思うと、その暗闇がアイフェに向かって陽気に挨拶をした。その事に驚いたアイフェが大声を上げてしまい、近くにいたシルヴィアは事態の飲み込めずにアイフェの大声に驚いて思わず武器を構えて声を上げた。
「そんなに驚かなくても……。忍は神出鬼没、変幻自在。闇に紛れるなんて造作もない事なんだよ?」
「その造作もない事は忍にしか出来ないから! いきなり出て来られたら驚くの!」
 不思議そうに小首を傾げている燐が、アイフェの目の前の墓石の上で無造作にしゃがみ込んでいた。忍である麟にとっては肌の一部のような暗闇でも、アイフェやシルヴィアのような忍では無い人間からすると、暗闇は得体の知れないある種の妖怪のような物である。
「……まぁ、出て来てくれたんだし、いいか。……あのね、麟さん。頼みたい事があるんだけど」
「おぉっと、その先は言わずもがな。忍に頼むような事といえば1つだけでしょ? つまりは仲間を集めて敵を追い込もう、って魂胆かな?」
「う……、うん、良く分かったね……?」
「何、忍には造作も無い事だよ!」
 大仰な動作で両手を振りかぶり、燐はアイフェたちに向かって気軽に親指を立てた。
「それじゃ、早速お仕事しますかね」
 それだけ言い残して、麟は再び暗闇の中へと溶け込んでいった。
 その様をシルヴィアとアイフェ、そしてアデノフォーラは半ば呆然とした様子で見送るしか無かったのだった。

●囲まれた魔法使い
 一体どういった方法を使ったのかは見当がつかないが、アイフェ達に頼まれたすぐ後に仕事――全員へと敵を追い込む作戦を伝達する事に成功した燐は、一先ず6人の能力者達を墓石の並ぶ墓地を取り囲むように配置させる事に成功した。
「さて、それじゃあ始めようか」
 どこからか取り出したクリスタルファンを広げ、ルドヴィカが誰にとも無く呟いた。
 アイフェ達が考えた作戦を伝える為に駆け回った麟の発案で、総員が配置についた事を示す合図役としてルドヴィカが抜擢されたからだ。
「この作戦が吉とでるか凶と出るか……、興味をそそられるわね」
 傍から聞けば余り抑揚が無く、本当に彼女が興味をそそられているのか他人には判別つかないがルドヴィカは確かにこの状況を楽しんでいた。
 そして、大きく広げたクリスタルファンを振りかぶり、そして地面に空気を叩きつけるかのように振り下ろす。すると、クリスタルファンから無数の光の粒子が放たれた。
 振り下ろされたルドヴィカのクリスタルファンに、自信の英雄を纏った6人の能力者達が未だ他者の土地を荒らす無礼なウィルオウィスプ達目掛けて襲い掛かる。
「マビノギオンの攻撃は避けられないよ!」
 シルヴィアが高らかに叫び、複数のウィルオウィスプ達が光の剣の下崩れ落ちる。
「行くよっ、アーちゃん!」
 アデノフォーラとアイフェの鋭い一太刀がウィルオウィスプを断ち切る。
「オレだって居るんだからね!」
 麟のシルフィードが風を切り裂く。
「私達も居るのよ?」
 ルドヴィカのクリスタルファンが再び光を纏った。
「……逃がさない」
 そして、咲雪の一撃が炸裂した。
 全員が一斉に持てる全ての力を込めた一撃をお見舞いし、こうして墓場の魔法使い達は跡形も無く消え去ったのだった。

●取り戻した静謐
「ね、騒がせちゃってごめんなさい、って事でさ、皆で黙祷しない?」
 すっかり静かになり、夜明けが近くなって来た時分の事だった。
 アイフェが後片付けをする面々に向かって提案した。
「まぁ! それは良い考えですわね、アイフェ様!」
「……ん、良いと思う」
「死者に祈る……、生者に課せられた義務ですわ」
「騒がせたのは確かですもの。アイフェも良い事を考えたね!」
「うんうん! それじゃ、一同黙祷ー、ってね」
「まだ早いでござる!」
 リンクドライブを解除した事で人数が増えたパーティの全員がアイフェの提案に同意した。
 楽しげにはしゃぎながら墓石を撫でる麟を押さえ込む為、宍影が麟を捕まえた。
 各々作業の手を止め、一先ず墓所の全景が見渡せる高台へと移動する。移動中は皆口を引き結んで厳かな面持ちであった。
 揃って手を合わせ、皆目を閉じて故人を偲ぶ為黙祷を捧げる。それがこの騒動の結末であった。
 自身の出来うる限りの追悼の意を心中で示し、目を開けたアイフェは隣に居る麟が未だ目を閉じてなにやら呟いている事に気付く。
(そういえば、麟さんは墓石の上を移動していたよね……、他の人よりも黙祷が長いのはそのせいかな?)
 アイフェ達は麟の長い黙祷を待つため、高台から降りた所で麟と宍影を待つことにした。
 一方その頃、麟と宍影はと言うと。
「南無八幡大菩薩…我に艱難辛苦を…」
「…むしろ祟るでござる」
 アイフェの真面目な気遣いとは裏腹に、麟本人は大真面目に見当違いな事を唱えているのであった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 魅惑のパイスラ
    佐藤 咲雪aa0040
  • エージェント
    シルヴィア・ティリットaa0184

重体一覧

参加者

  • 久遠の誓いを君と 
    アデノフォーラ・クレセントaa0014
    人間|15才|女性|攻撃
  • エージェント
    ジャガンナータaa0014hero001
    英雄|34才|男性|ドレ
  • エージェント
    アイフェ・クレセントaa0038
    人間|15才|女性|攻撃
  • エージェント
    プリシラ・ランザナイトaa0038hero001
    英雄|16才|女性|ブレ
  • 魅惑のパイスラ
    佐藤 咲雪aa0040
    機械|15才|女性|回避
  • 貴腐人
    アリスaa0040hero001
    英雄|18才|女性|シャド
  • エージェント
    シルヴィア・ティリットaa0184
    人間|18才|女性|攻撃
  • エージェント
    ヴァレリアaa0184hero001
    英雄|19才|女性|ソフィ
  • エージェント
    ルドヴィカ・ブロックaa0670
    機械|28才|女性|生命
  • エージェント
    シャンブラーaa0670hero001
    英雄|20才|?|ソフィ
  • 捕獲せし者
    骸 麟aa1166
    人間|19才|女性|回避
  • 迷名マスター
    宍影aa1166hero001
    英雄|40才|男性|シャド
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