本部

もちつけぺったん!

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
15人 / 4~15人
英雄
14人 / 0~15人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2016/02/22 16:12

掲示板

オープニング

●米俵には60kgの米が入っている
「もらった」
「えっ」
 玄関を開けたら、米俵を担いだ相棒が立っていました。
 何を言っているのかわからないと思うが以下省略。
「……え?」
 森田ととの(az0040)は困惑していた。玄関先から「両手塞がってるから開けてくれ」と呼ばれて扉を開けてみれば、肩に藁の包み――米俵を担いだ相棒の緋色(az0040hero001)が立っていたのである。
「もらった」
「いやそれはわかったっすけども」
 何もわからないが、とりあえず「相棒が米俵を担いで帰ってきた」ことは把握した森田。
「なんすかそれ」
「餅米」
「……もちごめ」
 そしてこの真顔である。森田はただ神妙な顔をして頷くことしかできない。
「古米が余ってたらしくてな。持って帰ってくれって言うから」
「それで貰って帰ってきたんすか……」
 玄関先にででんと鎮座する藁の塊を見下ろして、森田は困惑に満ちた顔で小首を傾げる。今時分に藁の米俵があるとは思わなかった。しっかりした作りのそれは、職人の技が光る逸品である。
「……どうするんすかこれ。うちだけじゃこんなに沢山消費できないっすよ」
「餅が食いたい」
「いやそれはわかったっすから」
 森田から自身の幻想蝶を受け取った緋色はその中に米俵を仕舞う。そうして何やら訴えるような視線を森田に注ぐのである。
「餡餅が食いたい」
「……わかったっすよ、杵と臼借りてくればいいんすな」
「頼む」
 一歩も引く気の無い相棒に、森田はついに白旗を揚げるのであった。

●可能性は無限大
「……と言うワケなんすよ」
「ははぁ、餅米60キロねぇ」
 ショーケースに両手の肘をついただらしない姿勢で唇を尖らせている森田。相対しているのは、森田宅の近所にある和菓子屋の店主である樫野である。
「ウチは杵も臼も餅つき機もないっすから……樫野さんとこなら借りれるかと思ったんす。というか、60キロもどうやって消費すればいいのかわかんないっすよ……。樫野さん、なんかいい案とかないっすかね?」
 平日の昼間ともなれば小さな和菓子屋に来る客など限られている。森田は気安い様子で樫野に相談を持ちかけていた。
「そうだねぇ……お餅だけでも結構種類あるし、餅米ならお赤飯とかおはぎも作れるねぇ。ああ、おこわも餅米で作るんだっけ」
 何やら帳面に書き付ける作業を並行しながら、樫野は手に持ったペンをもてあそびつつ思案顔である。
「んぁぁ……毎日お餅とおこわとか嫌っすよ……」
 食卓に整然と並ぶ餅とおこわを想像したのか、森田は渋面で唸り声をあげていた。2人で消費する米の量などたかが知れているのである、1俵の餅米を消費するなどどれほど時間がかかるのか。しかも新米ならいざ知らず、緋色が持ち帰ったのは古米。早々に消費せねば餅米の味が落ちてしまう。
「あとは……餅の大量消費といえば、餅投げとかかな?」
 頭を抱える森田に、樫野は苦笑しながら首を傾げてみせる。
「お正月前なら白餅にして配ってもよかったんだけどねぇ。ご近所さんに振る舞うにしても、この時期だとお餅とか食べ飽きてたりしそう……」
「それっすよ!!」
「うん?」
 樫野がぽろっとこぼした一言に、森田は面白いほど食いついた。
「なんで気付かなかったんすか私! そうっすよ、ついこの間ホープにエージェント登録したじゃないっすか! これは親睦を深めるためにも、お世話になったお礼をするためにも、季節外れの餅搗き大会を開催すればいいんすよ! 餅米も消費できて、親睦も深められて、一石二鳥じゃないっすか!」
 渋面から一転、ぱぁっと表情を輝かせた森田は、興奮した面持ちでぴょんと飛び跳ねるようにして姿勢を正す。対する樫野は状況の変化についていけず目をぱちくりさせている。
「……えーっと、悩みは解消された感じなのかな?」
「はいっすよ! 樫野さんのおかげっす!!」
 にこにこと人好きのする笑みを浮かべて、森田はぱたぱたと両腕を忙しく上下させた。
「こうしちゃいられないっす、早く帰って緋色さんと案を詰めないと! 樫野さん、またあとで杵とか臼とか角せいろとかお借りしたり餡子お願いしたりすると思うっす、よろしくお願いするっすね!!」
「え? う、うん、そのくらいならいつでも大丈夫だよ」
 森田の勢いに気圧さ気味の樫野。それでも森田の憂いが解消されたことはなんとなく察したようで、にこにこと人のいい笑顔を浮かべている。
「よかった! ではまた後ほどお伺いさせていただくっすね!」
「かしこまりました。ありがとうございましたー!」
 購入したお菓子の袋をぶん回しながら走り去る森田の背に声をかけて、樫野はふぅとひとつ息を吐き出す。
「……餡子、たくさん炊かないとだねぇ」

解説

 とあるH.O.P.E.支部の掲示板にこのような張り紙が貼られている。

『《餅搗き大会開催のお知らせ》
みんなでわいわい楽しく餅搗き大会しませんか?
お餅以外にも餅米で作れるものは作っちゃいます!
ふるってご参加くださいませ!

日 時:2月某日 11:00頃開始
場 所:H.O.P.E.支部 多目的広場
参加費:無料
人 数:最大30人
その他:餅搗き用の道具、餅米、餡子(こし餡・つぶ餡)、きな粉、醤油は用意済
    飲み物はお茶のみ準備済み
    その他必要物は参加者持ち込寄り
連絡先:H.O.P.E.エージェント 森田ととの
    H.O.P.E.エージェント 緋色
    又はH.O.P.E.支部事務局まで』

●目的
餅搗き大会を成功させる

●情報
・NPC『森田ととの』
今回の餅搗き大会の発案者。この間エージェント登録したばかりの駆け出し。
相棒の緋色がどこぞから貰ってきた餅米の消費方法を考えた結果こうなった。
餅搗き大会に関する質問は常時受け付けている。

・NPC『緋色』
だいたいこいつのせい。この間エージェント登録したばかりの駆け出し。
餡餅が食べたかったなどと供述している。言い出しっぺなので事前準備は緋色がやるらしい。
古米は2日程度水に浸けておく派。杵搗き餅は正義。

・『餅米』
古米の餅米。俵一俵分(約60kg)ある。
基本的には蒸して餅にする予定であるため、当日は全て水に浸されている。
なお米俵は会場の隅に放置されている模様。

・『多目的広場』
とあるH.O.P.E.支部にある多目的広場。何もない。
広さ約40スクエア(約80平米)で、30人が詰め寄せて騒いでも大丈夫な程度の広さがある。

リプレイ

●昔懐かし
「おはようございますッスよ!」
「今日はよろしくな!」
 最初にやってきたのは齶田 米衛門(aa1482)とスノー ヴェイツ(aa1482hero001)の2人だった。時刻は午前10時前、集合時間まではまだ時間がある。森田と緋色は9時頃から準備していたのだが、予想より早い齶田達の登場に少し驚いた様子である。
「おはようございますっすよー! お久しぶりっすね! その節はお世話になりました……!」
「いやいや!! こちらこそッスよ!」
「気にすんなって!」
 以前助けられたことのある森田はぱぁっと笑顔を浮かべ、はたと気がついて慌てて頭を下げる。そのままお辞儀合戦になりかけたところで、緋色が横から待ったをかけた。
「よく来てくれた。が、早いな」
「手伝おうと思って早めに来たんスよ。蒸すの時間かかるッスよね?」
 袖を捲りながら首を傾げる齶田に、餅米を水から引き上げていた緋色が目を瞬かせる。
「いいのか?」
「もちろんッスよ! 餅米ザルに上げればいいんスか?」
 餅米を浸していたポリバケツの淵に手をかける齶田。バケツはかなり重いはずなのだが軽々と扱っている。慣れた手付きで作業を開始した齶田に、大丈夫そうだと判断した緋色も止めていた手を再動させた。
「ああ、頼む。ただ、2日程水に浸けているから割れやすい、気を付けてくれ」
 そこで、はた、と、緋色の言葉を聞いた齶田の動きが止まった。
「緋色さん」
「ん?」
「ナイスと言わせて頂くッスよ」
 そしてこのサムズアップである。どうやら「古米は2日程水に浸ける派」である緋色のスタンスに何やら共感するものがあったらしい。流石農家、米にはうるさい。
「これが米好きの絆って奴かー」
 生米に興味のないスノーは、森田に飴を押し付けながら棒読みで生温い視線を齶田に送るのだった。

 そこにやって来たのは、何やら大荷物を抱えるサミュエル・サムス(aa2971)である。パッツパツの衣服が今にも弾け飛びそうだ。続くアレイム・アドン(aa2971hero001)もサミュエルと同じような状態である。
「必要なものを持ってきたのだが、広場に車が入らなくてな。抱えてきた」
「それは……お疲れ様っすなぁ……」
「メモリーに入れてくればよかったんじゃないか?」
 森田がツッコミを入れたそうな顔で、緋色が不思議そうな顔で首を傾げている。
「俺にはこの筋肉があるからな!」
「ナイスバルク!」
 2人の問いに、サミュエルはふんぬとポージングを決めてみせた。アレイムも負けじとポージングを取りながら賞賛の言葉を投げかけている。なお上半身のシャツは耐え切れずに弾け飛んだ。
「……とりあえず、荷物は広場の端に置いておいてくれ」
 緋色はツッコミを放棄した。森田は耐え切れずに顔を背けた。
「うむ、設営はこちらでやってしまっていいのだろう?」
「ああ、頼んだ」
 朝の日差しに輝く筋肉を惜しげも無く晒しながら、サミュエルとアレイムはイベント用テントの設営を開始するのであった。

「おー、やってるやってる」
 次いでやってきたのは五行 環(aa2420)と鬼丸(aa2420hero001)の2人。しゅんしゅんと湯気を立てるせいろを前にお互いの顔を見合わせ、少しだけ不安そうな顔をしている。
「みんな早いんだな」
「な。俺らも早く行こうぜ。どもー、今日はよろしく!」
 軽いノリで主催者である緋色に声をかけに行く鬼丸。続く五行も動きやすい様に準備をしながら、かまどの火加減を見ている森田の方へと足を進める。
「いらっしゃいっすよ! よろしくお願いしまっす!」
「よろしくお願いします! 俺達手持ちあんまりないですけど、いろいろやらせてもらいますんで!」
 顔に煤をつけてニコッと笑顔を浮かべる森田に、五行はがばっと頭を下げた。
「わわっ、そんな! こちらこそ参加していただいてありがとうっすよ!!」
 突然の行動にわたわたする森田。しばらく焦った後、通りすがりの緋色に頭を叩かれてハッと我にかえる。緋色は呆れ顔だ。
「よろしく頼む」
「はい! なんかすることありますか? 杵とか臼とかお湯であっためといたりしなくていいんです?」
「……そうだった。すまないが頼めるだろうか」
「もちろん!」
 素で忘れていたらしい緋色が申し訳なさそうな顔をして五行を見やる。五行は元気に返答を返すと、ノリノリでポージングしていたサミュエルとアレイムを見て爆笑していた鬼丸の首根っこを引っつかんで、お湯をとるべく湯沸かし専用釜の方へと歩いて行った。

「……遅れた、か……?」
「えー? まだ時間前だよ?」
 ビニール袋をガサガサと鳴らしながらやってきたのは御神 恭也(aa0127)と伊邪那美(aa0127hero001)である。
「おはようございますっすよ!」
 そこに通りかかったのは、生米の入ったせいろを抱えた森田である。
「……おはよう……。……餅米を、少し分けてもらいたいのだが、いいだろうか……?」
「モチロンっすよ! 作業台もてきとーに使っちゃって欲しいっす! 今日はよろしくお願いしまっす!」
 そのまま忙しそうに去って行く森田の背中に軽く会釈して、御神は広場の隅の方に設置された簡素な作業台に必要な道具を並べていった。

「わー! ととのさんこんにちはー! お餅をつきに来ましたー!」
 時刻は11時少し前。テンション高く手を振りながら走ってきたのは、以前齶田達と共に森田らを助けた御代 つくし(aa0657)である。少し遅れて彼女の相棒、メグル(aa0657hero001)の姿も。
「わー! 御代さんこんにちは! ようこそいらっしゃいっすよー!! もうちょっとでお米が蒸しあがるっすから、少しだけ待ってて欲しいっすよ!」
 御代と面識のある森田もぱたぱたと手を振って応えている。
「どうも。……お手伝いしますよ、緋色さん」
「ああ。今日はありがとう、手伝ってもらえるのは助かる」
 緋色とメグルは何事か通じ合った顔で硬い握手を交わしていた。
「御代さんよろしくッスよ!」
「あっヨネさんだ! ヨネさんはどんなお餅好きですかっ!」
 知己の間柄である齶田と御代はお互いにブンブンと手を振って喜びを全身で表現している。
「餅はなんだどもうんめさ決まってるッスよ」
「そっかー! うんうん、お餅はなんでもおいしいよね!」
 そしてこの真顔である。とりあえず齶田は餅ならなんでも美味しくいただく主義らしい。
「おっつくし! いいところに来たな、きな粉砂糖黒飴やるよ! ほら、メグルも!」
「あ、りがとうございます……?」
 そして安定の飴配り機スノー。シチュエーション的に合っているのかいないのかよくわからない飴を渡されたメグルは若干困惑の混じった礼を返していた。

「……あれ……? もう……始まってる……?」
「時間はまだ来ていないはずなんじゃがな」
 相棒である奈良 ハル(aa0573hero001)の陰に隠れるようにして顔を出したのは、今宮 真琴(aa0573)である。
「いや、まだだ。時間までもう少しある」
 餅米の蒸し具合を確認していた緋色が作業の手を止めて顔を上げた。
「よかった、もう始まってしまったのかと思ったぞ」
 ホッとした顔をする今宮と奈良。緋色はせいろを元に戻して申し訳なさげに片目を眇める。
「餅米が蒸しあがるのがもう少し先になる、それまで待っていてくれ」
「あ、いや、ワタシはおはぎを作ろうと思っているのじゃが、餅米は分けてもらえるかの?」
「おはぎか、いいな。どうせこの量だ、好きなだけ持って行ってくれ」
「そうか! よかった、恩にきる」
 蒸気の吹き出すせいろをぽんと叩く緋色に、奈良は嬉しそうに目尻を下げるのであった。

「えっもう始まってるの!?」
「わぁ、お米のいい香りがする!」
 既に大勢の人が集まっている会場の様子に、天都 娑己(aa2459)は焦りの混じった声を上げた。相棒の龍ノ紫刀(aa2459hero001)は鼻をひくつかせて蒸された餅米の甘い香りを嗅いでいる。
「ごめんなさい、遅くなったかな?」
「そんなことないっすよ! まだ始まってないっす! もうちょっとで餅米が蒸しあがるっすから、もうしばらく待っててくださいっすよ!」
「わかった。ああ、そうそう、実は音楽流そうと思って、小さいけどスピーカーとか持ってきたの。邪魔にならないなら設置したいんだけどいいかな?」
「もちろんっすよ! ……あ、でも餅搗きの最中は結構うるさいっすから、折角の音楽がきこえなくなるかもわかんないっす。大丈夫っすか?」
 心配そうに首を傾ける森田に、天都は少し考えた後、一つ頷いた。
「雑音になりそうなら撤去することにするね。とりあえず今は設置しておくことにするよ」
「わかったっすよ!」
 にっと笑顔を浮かべた森田につられるように表情を綻ばせて、天都と龍ノ紫刀は、スピーカーを設置するため、会場の端へと向かっていった。

「こんにちは」
「こ、こんにちは! 今日はよろしくお願いします!」
「こんにちはなのだー!」
 同じタイミングでやってきたのは、小野寺 亮(aa1067)、狼谷・優牙(aa0131)、プレシア・レイニーフォード(aa0131hero001)の3人。
「いらっしゃいっすよ! もうちょっとで始めるっすから、しばらく待ってて欲しいっす!」
 五行と共に臼に張られたお湯を処理しながら森田が応える。
「こんにちはー、今日はお世話になります」
「よろしくな!」
 続けざまに比良坂 蛍(aa2114)、黒鬼 マガツ(aa2114hero001)もやってくる。開始時刻が近いためだろう、続々と人数が揃い始めている。
「お久しぶりです、クリスマス振りですね。……あの時は挨拶できる状態ではなかったですからね」
「ああ、あの時は世話をかけた。よろしく頼む」
 主催者である緋色に、若干遠い目で挨拶している比良坂。彼の脳裏に浮かんでいるのは、きっと乱れ飛ぶ生クリームだろう。比良坂は脳裏の幻影を振り切るように軽く首を横に振った。黒鬼は会場の皆に声をかけるため先に行ってしまっている。
「……さて、そろそろ餅米が蒸しあがる頃だ。少々早いが、搗き始めるか」
 火加減を見ていた緋色が額を拭ったのを合図に、エージェント達は各々行動を開始するのであった。

●ぺったんたん!
「おっやってるやってる!」
「遅れちゃったのかな?」
 ぺったん、ぺったんという独特な音をBGMに聞きながら、餅 望月(aa0843)と百薬(aa0843hero001)が広場へと足を踏み入れる。
「時間は大丈夫っすよ! ちょっと早めに始めただけっす!」
 ぱたぱたと忙しなく走り回っていた森田が足を止めて腕をぱたつかせた。
「適当に混ざって欲しいっすよ! 大丈夫っす、餅米はまだまだあるっす」
 青いポリバケツを指差して神妙な顔で頷く森田に、餅と百薬は顔を見合わせた。
「よっしゃ、餅つきイベントだ、やるぞ」
「餅つくよ、食べるよ」
 うむ、と頷き合った2人は、チョコレートを取り出しながら作業台の方へと向かっていった。

「わっ、すごい! おもちってこーゆーものなんだね!」
「リッソ、わかったから落ち着こう、転ぶぞ」
 目をキラキラと輝かせているのはリス耳のワイルドブラッド、リッソ(aa3264)とその相棒である英雄、鴉衣(aa3264hero001)だ。
「おいら、おもち作ってるの初めて見た!」
「あ、こら、待て!」
 鴉衣の制止の声も聞こえているのかいないのか、リッソはてててっと走って臼の方へと近付いていく。
「つぶつぶだ!」
「ん? 気になるッスか?」
 リッソが近寄ったのは齶田と緋色が餅米を捏ねている臼。捏ね始めてそれほど時間が経っていないため、まだ餅米の粒が残っている状態である。
「ねぇねぇ、これがあのつるっとしたおもちになるんだよね!? すごいなぁ。どうやってなるのかなぁ」
「水に浸して、蒸して一度柔らかくして加工するのか。小麦は挽く。餅『搗き』と言うだけあって、その木の棒で突いているのだな」
「……もしかして、初めて見るのか?」
 リッソだけでなく、鴉衣も興味深そうな目で餅搗きの様子を眺めているのを見て、緋色が首を傾げた。
「うん! 見た目がパン生地みたいな食べ物だってことは知ってたけど、おいら、実物は今日初めて見るんだ! だからすっごく楽しみ!」
 にぱっ、と満面の笑みを浮かべるリッソ。無邪気な様子に餅米と挌闘していた周囲の雰囲気がほんわりと和んだ。
「やってみるッスか?」
「いいの!?」
 ぱぁぁ、表情を輝かせるリッソ。偶然通りかかった、お湯の入った容器を運んでいた御代が真顔で頷いた。視線はぴょこぴょこと嬉しげに揺れる尻尾に釘付けである。
「つくし。……つくし! お湯まだですか!」
「あっ、今いく!」
 相方の発する不穏な気配を感じ取った保護者――失敬、メグルが若干焦りの混じった声色で御代を呼ぶ。だがぱたぱたと走る御代の視線は未だもふもふ尻尾を追っている。
「……触りたいんなら、ちゃんと許可をもらってからにしてくださいね」
「わかってるよ!」
 返事は元気な御代。メグルは不安と心配の入り混じる表情で御代からお湯の入った容器を受け取っていた。
「重いから気を付けるッス」
「うん!」
 一方その頃、リッソは齶田から杵を受け取って餅搗きに初挑戦しようとしていた。
「おっとと」
「気を付けろ、当たると痛いでは済まないぞ」
 重心が偏っているため、常人より身体能力の優っている能力者でも慣れていない者が杵を持つとふらついてしまう。身長の低いリッソであれば尚更だ。
「すごいな、あの粒々したものをこんなに重いもので叩きつけるとこうなるのか」
「クロエ、その言い方はなんか違う気がするよ?」
 ふらつくリッソを心配して後ろから手を添えた鴉衣が感心した風に頷いている。若干語弊がある気がするが気にしてはいけない。

「もう始まってるじゃない」
 和気藹々とした雰囲気の会場を見渡して、鷲木菟(aa3500hero001)は憮然とした顔で呟いた。
「ったく、誘っておいて先に行けだなんて。トウミときたら何様のつもりよ……」
 ぶつくさと文句めいたことを言いながら会場入りする鷲木菟。真っ先にその姿に気が付いたのは、その艶やかな筋肉を惜しげも無く晒しながら餅を搗いていたサミュエルとアレイム。
「むん? お嬢さん、お一人かな?」
「イイネ!」
 杵を持ったままサイドチェストをキメるサミュエルと、ダブルバイセップスをキメつつ合いの手(?)を入れるアレイム。そのポージングにはどんな意味があるのか、それは当人達しか知らない。
「……後からあたしの相方が来る予定だけど」
 えっなに意味わかんない、とでも言いたげな表情で筋肉の塊――失敬、サミュエルとアレイムを見遣る鷲木菟。ちなみに、この会場に来て筋肉コンビの姿を見た者は、大概鷲木菟と同じ様な表情となっている。そのうち慣れるので誰もなにも言わなくなるが。
「そうか! では相方とやらが来るまで、俺たちの華麗な杵捌きを見ないか?」
「え?」
「キレてる! キレてる!」
 状況についていけていない鷲木菟を放置して、サミュエルとアレイムはふんぬと木製の杵を持ちに振り下ろした。力強い音が臼から響いてくる。
 一回杵を振り下ろすたびにポージングすることに、果たして意味はあるのだろうか。
「……なんなの」
 置いてけぼりの鷲木菟は、若干呆然とした表情で筋肉コンビの餅搗きを眺めるのだった。

「すごい! 本当にもちつきだ! ヤタ初めてするよー、楽しみだねキンカー!」
「さ、寒いにゃ……なしてあちしも付き合わねば……」
 背中の片翼と尾羽をぴるぴると震わせながら感動を表現しているのは鴉のワイルドブラッド、八咫(aa3184)である。そして、きらきらとしたエフェクトすら背負っていそうな雰囲気の八咫とは対象的に、もっこもこに着込んで震えているのは相棒である金華(aa3184hero001)だ。彼女が動くのに合わせてがさがさと音を立てているビニール袋の中には、2L入りのソフトドリンクが詰まっている。
「あ! いらっしゃいっすよー! 適当に混ざっちゃってほしいっすよ!」
 新顔の登場に、搗き上がった白餅を片栗粉を振った木製のばんじゅうに入れて運んでいた森田が足を止める。ほこほこと湯気の立つ白餅の登場に、八咫のテンションは最高潮だ。
「ととの君だー!! ね、ね、ヤタもそれ運ぶ! 運んだら褒めて褒めて!!」
 ぴょんぴょこ飛び跳ねながら森田の元へと走っていく八咫。人怖じしない八咫の様子に一瞬面食らった森田だったが、すぐに笑顔を浮かべてばんじゅうを下から支える役目を申しつけている。
「にゃ、手ぶらで来るのもにゃんだったから飲み物持ってきたにゃ。置いとくから好きに飲んで欲しいにゃ」
「わわっ、いいんすか!? ありがたいっす! そこまで手が回らなくてお茶だけだったんすよ! あ、そうだ、もし寒いようならあっちのお湯専用竃であったまっててくださいね!」
「ほんとかにゃ? ありがたいにゃ、お言葉に甘えさせてもらうにゃ」
 猫の獣人であるためか、金華は英雄にしては珍しく寒さに弱いらしい。震えながら両手をこすり合わせる様子を見て、森田は差し湯用に沸かしている竃を金華に勧める。
「ついでに火の番してくれたらありがたいっす」
「それくらいお安い御用にゃ!」
「ねーねー、ヤタもぺったんしたいー」
 いそいそと火の元へ向かう金華の背中を見送って、八咫は森田の顔を見上げた。うずうずしている様子を見ながら、森田は少し困った顔をする。やらせてやりたいのは山々なのだが、少々細い八咫が一人で杵を持つのは少々心配が勝るのだ。森田はまだやることがあるため手伝えない。
「ん? 餅搗きしたいのか?」
「うん!」
 さてどうしたものか、と森田が悩んでいると、八咫の様子に気が付いた五行が小首を傾げて声をかけてきた。餅搗きで体が温まったのか、五行も鬼丸も着物の合わせをはだけさせている。
「なら俺らんとこでやりゃあいいっすよ。森田さん、いいっすよね?」
 杵を担いだ鬼丸が森田に笑いかけた。願っても無い申し出に、森田は一も二もなく八咫を2人に預けることにしたらしい。お手伝いをしてくれた八咫にお礼を言って、少し冷めてしまった白餅を抱えて急いで作業台へと走って行った。
「よっしゃ! じゃあやるか!」
「うい!」
 五行と鬼丸が受け持っていた餅米はもう殆ど搗き終わっている。多少危なっかしい搗き方をしても問題はないだろうと判断し、八咫に杵を持たせる五行。
「重いから気をつけろよ」
「うん! よい、しょ……わわっ」
「ほらほら、しゃんとしろって」
 杵の重さによろめいた八咫を支えて、鬼丸と五行は楽しそうに破顔するのであった。

●餅搗き大会……?
 マクフェイル ネイビー(aa2894)が相方であるリーフィア ミレイン(aa2894hero001)を伴って広場に足を踏み入れた時点で、既に餅米第2段を搗いている最中であった。
「すみません、遅くなりました」
「今日はよろしくお願いしますね」
「よろしくっすよー! 本来なら今くらいから始める予定だったっすから問題ないっすよ!」
 木製のばんじゅうを積み重ねて運んでいた森田がにぱっと顔を綻ばせる。
「すみません、今ちょっと手が離せないんす。適当に好きな場所に入ってもらっていいっすか?」
「ええ」
 申し訳なさそうな顔をしながらぱたぱたと走って行った森田の背中を見送って、さてどこへ行こうかとマクフェイルは広場をぐるりと見渡した。

 まず目につくのが、ほとばしるパトスをこれでもかと見せつけながらポージングを取っている筋肉コンビ――もとい、サミュエルとアレイムである。餅を搗くたびにポージングを取っているので一向に餅が搗けていない気がするのだが、ツッコミを入れてはいけない気がした。なにやら悟りの境地に達していそうな表情の鷲木菟の姿も見えたが、触れてはいけない気がしてそっと目をそらす。
 どうにかこうにか目立つ筋肉コンビから視線を剥がせば、齶田と緋色とリッソと鴉衣、五行と鬼丸と八咫、 メグルとプレシアと天都と龍ノ紫刀が、それぞれ楽しそうに餅を搗いている姿が見える。
「ほっ!」
「ん」
 一切会話せず黙々と餅に向き合っているのは齶田と緋色だ。齶田の杵使いは安定感がある。緋色は手馴れた様子で餅を返していた。どうやらある程度搗いてからリッソと鴉衣に交代する予定らしく、リッソはワクワクとした顔で2人を眺めている。
「そりゃ!」
「えい!」
「上手い上手い! その調子だ!」
 五行と鬼丸は八咫の気が済むまで杵を持たせるつもりらしい。
「えいえい、といやー!」
「危ないっ! 落ち着いてください、餅を搗いたらひっくり返すんですよ」
「あや、そか。搗くだけじゃだめだったんだっけ?」
 小柄な体躯故杵に振り回されるような格好で餅を搗いているのはプレシアである。サポートしているのはメグルだ。
「そうそう、搗いて、返しての繰り返しだよ」
 プレシアと交互に杵を振り下ろしているのは天都。背後には龍ノ紫刀が控えている。
「娑己様、時々失敗するんだから気を付けてよ?」
「大丈夫!わかってるってー! ……ひゃっ!?」
「杵が後ろに飛ぶなんて、娑己様くらいだよね……」
 理由は察して欲しい。
「人が密集していますから気を付けてくださいね」
「たはは、ごめんなさい」
 メグルにたしなめられ頭を掻く天都に、龍ノ紫刀は小さなため息を吐き出していた。
 皆和気藹々とした様子で適度に会話しながら作業をしている。視界へ強烈に訴えかけてくる筋肉コンビがいるにもかかわらず皆通常運転だ。慣れって怖い。

 餅搗きゾーンからほど近い場所には簡素な木製の作業台が置かれている。白い布で覆われた台の上には、これまた真っ白な餅取り粉が振りまかれており、一見すればまるで雪のようにすら見えた。
 それなりに広い台の上には木製のばんじゅうが堆く積まれている。蓋つきの黄色いばんじゅうに入っているのは森田が用意した餡だろう。
 ほんわりと白い湯気が立ち上っているばんじゅうは既に餅が入っているものだ。
 餅の周りには狼谷、御代、餅、百薬、比良坂、金華、森田の姿が。年長組はひたすらに手を動かして餅をちぎり取っている。なにせ臼4つ分である、これでもかというほど数が多いのだ。なお金華はぬくぬくと火に当たっていたところを御代に捕まってしまい半強制参加である。が、思いの外餅を丸める作業が楽しかったようで今は文句も言わずに餅をちぎっていた。
「森田君森田君、あたしチョコ餅作りたいんだけどいいかな?」
「お餅があったかいうちに入れてトロッとしたのが美味しいの」
 餅を丸める手を止めず、餅と百薬が森田に声をかける。名前が「餅望月」であるのが関係しているのかいないのか、餅の餅を丸める手捌きは様になっていた。字面がわかりづらいのはご愛嬌。
「モチロンっす! あ、でも大福みたいにするんならお餅に砂糖混ぜた方がいいかもわかんないっす」
「あ、なら僕も苺大福作っていいですか?」
「苺大福! いいっすな、いいっすな! あとで作るっすよ!」
 粉まみれの手を挙げて主張した比良坂の言葉に、森田は楽しそうに破顔していた。
「……」
 周りの音も聞こえないほど一人集中していた狼谷は、ほっぺたに付いた餡子を森田に拭われたことにも気付かず黙々と餅を丸めているのであった。

 さて、残りのメンツであるが。
「…………」
「ね、これ本当に大丈夫?」
 御神は静かに困っていた。
 餅米から白玉粉を作ろうと、石臼を持参したまでは良かったのだが。
「ものすごく時間かからない……?」
 伊邪那美が困惑の表情で御神の顔を見上げている。
 そう、伊邪那美の言う通り、餅米を石臼で挽くのにものすごく時間がかかっているのだ。少量なら問題なかっただろうが、今回は人数が人数である。まだ餅米100グラムも挽けていない。このままでは日が暮れてしまう。御神は何かを断ち切るようにふつと目を閉ざした。
「……粽を作る」
 御神は白玉作りを諦めた。

「ふんふふーん」
 割烹着姿の奈良は上機嫌にフサフサの尻尾を左右に振っていた。
「ハルちゃんほんとおはぎ好きだね」
「おはぎは正義じゃからな。真琴、ここの餡子は美味しいぞ、一つ食べてみんか?」
 分けてもらった蒸し米を半殺しに搗きながら、たまにつまみ食いをしている奈良。小さく作った味見用のおはぎ(※5つ目)を今宮に差し出して上機嫌だ。
「ボクはチョコフォンデュするから遠慮しとく。チョコマシュマロっておいしいよねー」
「!? 餅たべるんじゃろ!?」
「それはお餅メインの場合ねー」
「今日は餅メイン!」
「ハルちゃんだっておはぎ……」
「……今日は餅米メイン!」
「ねぇ、あの人たちなんで裸なんだろね?」
「話し聞けよ!!」
「あ、獣人さんだー。あとで声かけてこよーっと」
「聞けーっ!」
 電池式のチョコフォンデュ機を用意している今宮は、とことんマイペースだった。
「あ、おはぎだ。これ確か『はんごろし』って言うんだろ?」
「!? 誰じゃおまえ?!」
「えっ俺? 俺は黒鬼マガツ。よろしくな!」
「えっあっ、よろしく……?」
 自由人今宮に気を取られていた奈良は、黒鬼の接近に気が付いていなかった。急に声をかけられて目を白黒させている。
「な、キレーなオネーサン、よかったらおはぎくれない? できればきな粉で」
「お、おう……?」
 奈良はグイグイくる黒鬼に咄嗟の反応が取れず、流されるがままにおはぎ作りを再開するのだった。

「……うーん」
 小野寺は悩んでいた。
「米粉クレープ作りたかったんですが……どうしましょうか」
 小野寺が持参したのはコンセント式のミルミキサーとホットプレート。が、残念ながらこの広場に電源が取れそうな場所がない。
 支部の建物内に入れば電源はあるだろうが、一人だけ別の場所に行くのは何かが違う気がした。
「広場だから何かイベントを行うための電源や何かしらの施設があると思ってました。本当になにもないんだね……」
 人が多いため、車から電源を取ろうにも車が広場に入らない。
「どうしたっすか?」
 小野寺が悩んでいると、丸めた餅の入ったばんじゅうを持った森田が通りかかった。
「ここ、コンセントで電源取れるところはないですか?」
「あちゃあ、すみません、ないんすよ」
「ならしかたないですね……。お手伝いできることってありますか?」
「いいんすか!? ならお餅丸めるの手伝ってもらえるっすか?」
「ええ。料理は一通りできますし、お役に立てると思います」
 ぱぁっと表情を輝かせた森田に表情を緩めて、小野寺は小さく息を吐く。
「クレープ、作りたかったなぁ……」

 さて、大荷物を抱えてやってきたのは、鷲木菟の相棒、大和丸 勝海(aa3500)だ。
「遅れやした!」
「なぁに悠長に遅れて来てんのよ! あんた迷惑ってのを知らないの!?」
「すいやせん。どうしても皆さんに食べていただきたいものがございやして」
 筋肉コンビの醸し出す謎空間に絡め取られていたためか、若干涙目で大和丸を出迎える鷲木菟。少し、どころではなく不安だったらしい。さもありなん。
 大和丸は遅れた分を取り戻すように、会場の隅で黙々と作業を開始。石で簡易竃を作るらしい。
「……何作るの?」
「力士の特製・餅入り味噌ちゃんこ鍋っす」
「……へぇ」
 料理名を聞いた鷲木菟の機嫌が急上昇した。とても素直な性格をしているようで、大和丸の作業をそわそわしつつ見守っている。手を出そうとしては失敗して落ち込んでいるあたり何処か憎めない。

 一通り広場を見渡したマクフェイルは、なかなかにカオスな状況に、そっと目を逸らすのであった。

●おもちもちもち
 基本の白餅。定番の餡餅。変わり種のミルク餅に、甘いチョコ餅に苺大福。
 笹で包まれた特製粽に、餡子ときな粉のコントラストが食欲を誘うおはぎ。
 くつくつと煮立つチョコフォンデュは、ビターとミルクとイチゴと抹茶の4種類。
 簡易竃にかけられた鉄の大鍋からは味噌の香りが漂っている。
 美味しそうな香りだが、なかなかにカオスな風味である。森田は出来上がった物達を一通り見渡して、一つ頷くと注目を誘うように片手を挙げた。
「そろそろ、手が空いた人は食べる方に回ってほしいっすよ!」
 実食の時間である。

「お餅、お正月でなくても食べられたのはよかったですねー。色んな種類あって飽きないですしー」
 黙々と餅を丸めていた狼谷も、自分で丸めた餅をもふもふと食みながらほんわり顔だ。
「ね! お正月過ぎても、つきたてのお餅が食べられるなんて! 最高〜!」
 ほこほこと湯気の立つ餡餅をぱくついて、ほっぺたを抑えて満面の笑みを浮かべる天都。
「おもちってお正月に食べるの?」
 もちもちと小さな口に餡餅を詰め込んでいたリッソが狼谷と天都の言葉に反応している。リッソは餅を見るの自体初めてなのだ、見聞きする全てが目新しいのだろう。
「え? う、うーん……そうですね」
「うんうん、よく食べるのはお正月かな。でもいつ食べても美味しいんだよ!」
「そうそう! ね、ね! 搗き立ては格別おいしいんだよ! あったかい内に一緒に食べよっ!」
 先ほどからずっとうずうずしていた御代がついにリッソに突撃した。皿に盛っているのはきな粉餅。好物らしく大量に盛られている。
「ほらきな粉餅だよ! お餅はやっぱりきな粉が1番だよ!」
「待ってくださいつくし、今のは聞き捨てなりませんよ。1番は海苔を巻いて砂糖醤油でしょう」
 御代の一言に醤油を取りに行っていたメグルが反応した。2人の間に火花が散る。
「お餅はきなこっ! いっぱいきなこっきーなーこっ!」
「砂糖醤油です。海苔を巻いて砂糖醤油です。さーとーうーでーすーっ!」
 今、戦いの火蓋が切って落とされた! リッソと鴉衣がオロオロしながら見守っている。
「えと、えと! おもち、白くてぺたぺたで、おもしろそう!」
「僕たちは食べる事が初めてなんだ。良い食べ方や食べ方の注意点はあるだろうか」
 不安そうな2人に、ハッと我に返る御代とメグル。第○次トッピング論争を開戦している場合ではない。
「そうですね。搗き立てのお餅は喉に詰めやすいので、少しずつ良く噛んで食べてください」
「トッピングも好きなものつければいいんだよ!」
「好きなもの……。ぺたぺたしてるけど、これをくっつけてもおいしいかなぁ?」
 そう言ってリッソが取り出したのは砕かれたナッツ。
「「なにそれおいしそう(ですね)」」
 なんだかんだで仲の良い2人である。
「いろんなお餅がいっぱいなのだ♪ お餅意外にももち米で作ったものもいっぱい♪ 美味しいものが多いのは幸せなのだー♪」
 その隣では、右手に餡餅、左手に粽を持ったプレシアが、口の側に米粒をつけてはしゃいでいる。
「粽は、本来なら端午の節句に出す物だがな」
 プレシアの呟きを拾った御神がポツリと呟きを漏らす。
「そうなの?」
「……出来上がった物の味に偏りがありそうだったからな。口直し的な物があった方が消費が捗ると思ったんだが」
 キョトンとした顔のプレシアにつられるようにして御神が言葉を漏らす。
「いいじゃない、おいしいよ。労働の合間に食べる食事はさらにおいしく感じるし!」
「……食事の合間に労働をしているんじゃないのか?」
 伊邪那美は何度か餅をつまみ食いしている姿を見ていた御神がぼそっと呟いたが、聞こえているのかいないのか伊邪那美からの返答はない。
 御神は悟られないよう小さくため息を吐いて、白餅と醤油に手を伸ばすのであった。

「はぁ、やはりおはぎは良いのぅ……」
 ほぅ、と白い息を吐き出して、奈良は至福の表情を浮かべている。
 目の前には大量のおはぎと熱いお茶。作っている最中も結構な量をつまみ食いしていたはずなのだが、奈良の消費ペースは一向に衰えない。指に付いた餡子もぺろりと舐める徹底ぶりである。
「やっぱ俺はみなごろしよりはんごろし派だな」
「ねぇそれおはぎの話だよね? 物騒なこと言ってるけどそれおはぎに使う餅米の話だよね??」
 なにやら不穏なことを言い始めた相棒黒鬼に、はらはらとした視線を向けている比良坂。残念ながら黒鬼はおはぎウマーするのに忙しいため返答はないかった。
「にしても、皆がいろんな餅料理を提案しててお店みたいだね。……ハッ! これってフェス? お餅フェスだったの!?」
「おー、どのブースから攻める?」
 残念ながら今ここにツッコミはいないのである。

「えー!? 搗き立てのお餅って焼いちゃダメなの?!」
「そうなの?」
 チョコ餅を串に刺したものを手に持って、餅と百薬は素っ頓狂な悲鳴をあげた。
「駄目、ではないが」
 せいろの火加減を見ていた緋色は困り顔で首を傾げている。
 どうやら餅と百薬が焼き餅を作ろうとしたのを緋色が止めたらしい。
「俺は、と言うか森田の実家では、搗いたその日の餅は神様のものだから火を通してはいけないと教わった。搗き立ての餅に火を入れていいのは、死者に供えたものを食べる時だけだと」
「へぇ〜……」
「なるほど」
 地域の風習、というものだろう。緋色にも強く否定する気はないようだが、なんとなく落ち着かないらしい。
「なら仕方ないね。うん、このまま食べることにするよ」
「すまないな」
 申し訳なさそうな顔の緋色に気にしないでほしいと断って、餅と百薬はチョコ餅にかじりつく。
「うん、トロトロじゃないけど、おいしい!」
「ならこれもどう?」
「つるっとしててウマいよ!」
 すっとどこからともなく現れたのは、きな粉と黒蜜のミルク餅が乗った皿を両手に持った天都と龍ノ紫刀。
「緋色さんもどうですか? きっとハマりますよ〜!」
「……そうだな。一ついただこう」
 食べて食べて! と全身で表現している天都にふっと微笑を零して、緋色は膝下を払って立ち上がった。

「美味しい!!」
「なんだこれすげぇ!!」
 その頃、五行と鬼丸はカルチャーショックを受けていた。
「わっすごい、この大根めちゃくちゃ甘いっすね」
 森田も口元を押さえて目を見開いている。
「喜んでもらえたみたいでよかったッス」
 てれりと笑っているのは、半分ほど切り取られた大根を手に持った齶田である。どうやら自家製の大根で大根おろしを作り、餅にまぶして振舞っていたらしい。
「何個でも食べれそうです」
「おかわりいいっすか?」
「おう! いっぱい食えよ!!」
 おずおずと鬼丸が差し出した器に大量の餅と大根おろしを入れ、特製ダレをかけているのはスノー。ちゃっかり自分の皿にもいろんな食べ物をキープしているあたり、彼女の食い意地が伺える。
「大根もっすけど、搗き立ての餅って美味しいんだな!」
 鬼丸は大はしゃぎで餅をみょーんと伸ばしている。五行が「喉に詰めんなよ」と声をかけているがフラグだろうか。
「森田さん、今日はいろいろと準備ありがとうございます。こういう機会でもないと餅搗かないんで、良かったです」
「ふぇ!? いやいや、楽しんでいただけたようでよかったっすよ! こちらこそご参加いただいてありがとうございました!」
 と、真面目な顔で頭を下げる五行に、粽を食べていた森田も慌てて返礼する。
「ねぇねぇ何食べてるの? ヤタにもくーださい!」
 五行と森田で返礼合戦になりかけた時、楽しそうな声と共に八咫がやってきた。口の周りが片栗粉で白く汚れているのが微笑ましい。
「おっ、食うか? その前に口の周り拭いちまおうな」
「んぅ」
 面倒見のいいスノーが笑いながら八咫の口の周りを拭いている。一瞬だけ驚いた顔をした八咫だったが、口調の割に優しい手つきのスノーに、ふにゃりと表情を緩めるのだ。

「なにあれ美味しそう! あっでもこれも美味しいし……あ、まだ食べてないのが!」
「食べ物はにげやしやせん。どうぞ、ゆっくりお召し上がりなすって」
 白餅と粽を手に持ち、鍋の入った器を台に置き、大根おろし餅に視線を釘付けにした鷲木菟に、おたまを片手に持った大和丸が鷹揚な顔でひとつ頷いている。
「これは旨い!」
「おぬしやるな!」
 相変わらず上半身裸の筋肉コンビ――もとい、サミュエルとアレイムも鍋をすすっていた。あらかた配膳が終わったため、彼らも食事に口をつけているのだ。
「礼といってはなんだが!」
「ナイスバルク! イイネ!」
「いや意味わかんないから」
 唐突にポージングを決め始めたサミュエルに、先ほど散々餅搗きポージングを見せつけられた鷲木菟は遠い目を向けていた。
「うむ。いい機会だ集合写真でも取るか?」
 ひとしきりポージングを決めたサミュエルは、おもむろにインスタントカメラを取り出してみせる。どこから取り出したのかを考えてはいけない。きっと幻想蝶から取り出したのだ。
「それもまた宴の楽しみ。皆さん、まだまだ宴の最中ではありやすが、ここいらで写真などいかがでございやしょう?」
 大和丸の声に注目が集まる。
「ではいくぞ! ナイスバルク!」
「ナイスバルク!!」
 謎の掛け声とポージングと共に、カメラのフラッシュが光るのだった。

 広場には、たくさんの笑い声が響いている。

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • ショタっぱい
    狼谷・優牙aa0131
    人間|10才|男性|攻撃
  • 元気なモデル見習い
    プレシア・レイニーフォードaa0131hero001
    英雄|10才|男性|ジャ
  • 撃ち貫くは二槍
    今宮 真琴aa0573
    人間|15才|女性|回避
  • あなたを守る一矢に
    奈良 ハルaa0573hero001
    英雄|23才|女性|ジャ
  • 花咲く想い
    御代 つくしaa0657
    人間|18才|女性|防御
  • 共に在る『誓い』を抱いて
    メグルaa0657hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • みらいのゆうしゃさま
    小野寺 亮aa1067
    人間|18才|男性|回避



  • 我が身仲間の為に『有る』
    齶田 米衛門aa1482
    機械|21才|男性|防御
  • 飴のお姉さん
    スノー ヴェイツaa1482hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • オールラウンドスナイパー
    比良坂 蛍aa2114
    人間|18才|男性|命中
  • オールラウンドスナイパー
    黒鬼 マガツaa2114hero001
    英雄|26才|男性|ジャ
  • エージェント
    五行 環aa2420
    機械|17才|男性|攻撃
  • エージェント
    鬼丸aa2420hero001
    英雄|17才|男性|ドレ
  • 初心者彼女
    天都 娑己aa2459
    人間|16才|女性|攻撃
  • 弄する漆黒の策士
    龍ノ紫刀aa2459hero001
    英雄|16才|女性|ドレ
  • 習うより慣れろ
    マクフェイル ネイビーaa2894
    人間|24才|男性|防御
  • レディ
    リーフィア ミレインaa2894hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • エージェント
    サミュエル・サムスaa2971
    人間|28才|男性|攻撃
  • エージェント
    アレイム・アドンaa2971hero001
    英雄|28才|男性|ドレ
  • 木漏れ日落ちる潺のひととき
    八咫aa3184
    獣人|12才|女性|回避
  • あと少しだけ寝かせてくれ
    金華aa3184hero001
    英雄|16才|女性|シャド
  • エージェント
    リッソaa3264
    獣人|10才|男性|攻撃
  • 味覚音痴?
    鴉衣aa3264hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • エージェント
    大和丸 勝海aa3500
    人間|25才|男性|攻撃
  • エージェント
    鷲木菟aa3500hero001
    英雄|13才|女性|ブレ
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