本部

【甘想】連動シナリオ

【甘想】ウィズアウト・ア・ヴァレンタイン

藤たくみ

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
0人 / 0~0人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2016/02/20 23:03

掲示板

オープニング

●闇を呼ぶ声
 共存はおろか住み分けすら困難な存在に脅かされたら、どうする。
 話し合いを試みる?
「耳を貸してくれるの?」
 尻尾を巻いて逃げるだけ?
「逃げ切れるとは限らないわ。安全な場所に当てが?」
 では、潔く首を差し出す?
「願い下げ」
 ならば脅威に対抗し得る、相手を殺すだけの力が必要だ。
「けど、どんな理由があったって殺すのは悪い事よ」
 正当化してはならない。
「最後の手段である事を忘れてはならない」
 ゆえに自問を絶やしてはならない。
「でも躊躇してはならない」
 すなわち――

「覚悟しなくてはならない」

 殺す為に。
「生きる為に」
 そして認める事だ。
 生とは、無限に続く悪徳の螺旋階段を上るのと同義であると。
「……うそ」
 お前の信じる正義――あの父親こそが屍の山を築き上げて来た悪の化身であると。
「違う! パパはいつだって正しくあろうと――」
 お前も同じだ。
 愚神どもを殺す為に多くの仲間を犠牲にした。血は争えぬというわけか。
「やめて」
 お前は申し子。
「やめてよ!」
 お前が悪い。
「いや」
 認めろ。
「いやっ――」
 ミトメロ。


●日は高く
「い、や……」
『イヤなら今すぐ握り特上五十人前でりばりー予約するヨロシ~』
 薄暗い寝室にて物憂げに寝言を漏らすテレサ・バートレット(az0030)の耳元で、マイリン・アイゼラ(az0030hero001)が非常に都合の宜しい呪文を囁いている――
「…………」
『あ』
 ――と、眠り姫はおもむろに瞼を開いて、その青い瞳を胡散臭い魔女に向けた。
「おはよ。なにしてるの?」
『昔なつかし睡眠学習アル』
「……そう」
 悪びれもせず妙な冗談で応えられても、食って掛かりも毒づきもせず。
『うなされてたヨ』
 マイリンがカーテンを引くと、温かな日差しが差し込み――寝覚めに刺激が強かったのだろう――テレサは額を押さえて俯いた。
 枕元のスマートフォンが示すのは“10:05 FEBRUARY 14”――また寝坊だ。
『今日で新年八回目アル』
「九回よ、マイリン。去年は秋から十一回、通算二十回ね」
『細かい数字の問題じゃないアル。……いくらなんでも多いアル』
 マイリンはベッドに飛び乗ると、拠りかかるようにテレサと背中をぴったり合わせる。
 悪夢の原因は他でもない、生駒山で多くの仲間を失った事を未だ引きずり、折り合えずにいるのだ。
 あの時は救援要請に応じたエージェント達の助力で持ち直したが、だからと言って死んだ者は二度と還らない。
「だけど、“苦悩や葛藤すら味方につけた時、ヒーローは本物となる”。これは目を背けてはいけない事なの」
『またそうやって抱え込もうとして!』
 マイリンは珍しく声を荒げて、背中で背中をぐんと押した。
『テレサは自分に求めすぎアルヨ……もっと弱っちくたって誰も怒ったりしないアルぅ~!』
「怒られなくてもパパが恥をかくわ!」
 テレサも負けじと押し返す。
「そしてH.O.P.E.会長一家の醜聞はマスコミや各国のお歴々が付け込む格好の標的……知ってるでしょ? どんな些細な事でも隙は見せられない――の!」
『そんなハナシしてないアル! だったらこっそり弱音吐けばいいだけアルっ!』
「余計な気を遣わせちゃうでしょっ!」
『……忘れろなんて言わないけど』
 不意に拮抗していた力の片方が、その声が、言葉が寂しげに収縮し。
『いつまでもそんなじゃみんな浮かばれないヨ』
「――!」
 テレサも背筋を緩め、一息つく。
「……うん、判ってる」
『判ってない! アタシだって――…………なんでもないアル』
 振り向けば、いつしかマイリンは膝を抱えうずくまっていた。
「ごめんね」
 大切なパートナーの小さな肩に両腕を回して抱き締めて、もっと小さな声で、詫びて。
 テレサは今一度、己の理解を示した。
「大丈夫、ちゃんと判ってるから。ひとりぼっちじゃないって事」
『そんな事よりお腹空いたアル』
「寿司屋に行け」
 台無しだった。


●ひとりじゃないから
 一人で事を構える時に備えなくてはならない――常日頃からテレサはそう考えていた。
 目の前に誰かの、あるいは自分の身に危機が迫った時、必ずしも英雄(マイリン)が傍に居てくれるとは限らないからだ。
 その一環として、以前から心身を鍛えるべくマーシャルアーツを修め、維持し、更に磨きをかける為に日々欠かさずトレーニングを続けている。
 また、余暇を利用してジムへと赴き、手頃な相手が見つかればスパーリングを、居なければ様々な敵をイメージして一人黙々とシャドーを繰り返す。
「日本に来てからはサボり気味だったんだけどね。ちょっと……ううん、思いっきり身体動かしたくなっちゃって」
 どれほど技を磨き上げても生身でいる限りライヴスを宿す敵に通じはしないし、直接的にあまり意味はないのかも知れない。
 だが、イメージとモーションを結びつけたトレーニングは相手の動きを予測して身をかわしたり、他の者を逃がす隙を作るのに一役買う事もあるだろう。
 そして、もしも共鳴を果たせたなら、パートナーの力に頼り切らず双方の長所を活かして立ち回る一助となり得えよう。
 何にもまして、積極的に血を巡らせ酸素を取り込む事で、一時的にだが胸のわだかまりが薄まって、物事を見通し易くなる。
「みんなも一緒にどう? いい気分転換になるわよ」
 自身を戒め、見つめ直す為に。
 こころ、強く、正しく在る為に。
 ひとりじゃないから、ひとりでも戦い抜けるように。

解説

●解説
【はじめに】
 皆様はテレサに誘われた体でジムに向かう事になりました。
 場所はH.O.P.E.東京海上支部の総合フィットネス施設内、日中午後。
 今回は何らかの理由(任意)で必ず【英雄不在】とします。

【ルール】
 一対一でスパーリングしましょう!
 勝敗を競うものではありませんが、通常の戦闘同様、あるいはそれ以上の具体性を以って、どのように立ち回るかプレイングにお書きください。
(双方の合意が認められた場合のみ勝負も可としますが、テレサには怒られます)
 以下は例外なく適用されますのでプレイング内での言及は不要です。
・スパーリングは一人につき一回まで。
・道着かジャージ(持参可)、パウンド練習用など厚手のオープンフィンガーグローブ、レッグガード最低限着用。
・英雄不在につき共鳴不可、武器・スキル無し、危険行為厳禁。
・一定時間の経過、もしくは急所攻撃命中(寸止めとして描写)の時点で終了とする。
・運動が苦手など不利な設定は反映可、逆に武術の心得がある設定は有利として扱われない。

【テレサ】
 OPの偏った悪夢やマイリンとの問答はPL情報であり、顔にも態度にも出しません。
 ある意味平常運転なので気にせず、動機付けのサンプル程度にお考えいただければと思います。
 今回はシャドーする傍ら皆様のスパーをよく見ておきたいようです。
 参加人数が奇数の場合のみ、どなたかのお相手をいたします。
 マイリンは回転寿司屋に行ったのでリプレイには(多分)登場しません。

【他】
・組み合わせをご相談いただきますと、より楽しくプレイングが書けるかと思います。
(指定がなければこちらで適宜調整します)
・オプションとしてボクシンググローブ、ヘッドガードやプロテクターなど各種サポーターもご利用いただけます。
・一応見学に徹する事も可能です。
・疑問点は掲示板作成の上ご質問いただければ、テレサが把握している範囲でお答えします。

リプレイ

●バレンタインがいないから
「あの……パートナーいいですか?」
 掌を開閉してグローブの具合を確かめる零月 蕾菜(aa0058)に遠慮がちな声をかけるのは、赤谷 鴇(aa1578)。
「役者不足かも知れませんけど」
「私も人の事言えないですよ」
 四つ五つ年下だろうか、小柄な蕾菜よりも鴇の背丈は低い。
 だが、外見で決め付けたら痛い目を見そうだ。
“一応見てはいるから手を抜かないように”
 そう言って幻想蝶へ引っ込んだ英雄を思い、蕾菜は溜め息を吐く。
「下手な戦いをしたら、あとでどんな特訓をさせられるか……」
「え?」
「……なんでもありません。お手柔らかに」
 互いに礼をして、蕾菜は肩幅に足を開くと両掌を離して前へ向け。
 対する鴇は打撃手らしい半身に構え。
 双方距離を保ったまま、じわじわとマットに円を描き、睨み合いとなった。
(焦っては駄目、必ずくる)
 共鳴時と異なり膂力を底上げできぬ以上、相手の力を利用するのが効率的――蕾菜はそれを踏まえ、ひたすら機を窺う。
 刹那、鴇が前のめりに前進。
 蕾菜は歩みを止め、より注視すれば鴇は右銅目掛け拳を繰り出す。
 その腕を掌底で逸らし。
「くっ」
 同時に身を翻して相手を中心に再び円運動へ移り、距離を保つ。
「もう一度!」
「……!」
 鴇は再度右側面へ踏み込み、腹部を狙った。
 しかし的確ゆえ読み易く、蕾菜はこれへも手を添え――諸手で抱き込みにかかる。
「うわ!?」
 鴇は両椀が螺旋に締め付ける直前にバックステップ、姿勢と呼気を整えた。
(打ち込む気配はない)
 どうやら掌底は逸らすのみ、反撃は掴みが主体。
 鴇としても序盤は様子を窺うつもりだっただけに、やり辛い。
 ならば。
「いきます!」
 あえて攻めるタイミングを伝え、たん、と前進し。
 やや遠くから拳を放つと、やはり蕾菜は慌てず掌底を繰り出す。
 鴇は即座に拳を引き、同時に踏み込んで逆手の肘を引く。
「しまった!」
 蕾菜は空振りを察知、しかし続く第二撃に応じるよりはと即座に当身へシフトする。
 奇しくも二人は互いの腹目掛け、同時に拳と掌を――

 ――と、ここでアラームが鳴り響いた。

 共に寸止めの姿勢を辞して息を吐く。
「全然歯が立たないですね」
「そんな事ないですよ。私も、少しムキになってしまいました」
 汗を拭う鴇に、蕾菜が微笑を以って労いの言葉を掛けた。

「なんだか判らないけどとにかくすごかったです!」
 思わぬ見応えに大宮 朝霞(aa0476)が興奮そのままの賛辞を贈る。
「そうね。……あの子強くなるわ」
「同感です」
 テレサがほつりと添えた言葉に、クレア・マクミラン(aa1631)も頷く。
「生き延びられたなら」
 その、そよ風を見るような瞳に、少年の姿を映し込んで。


●後天的天性
「一作目は三回、二作目なら五回観てますから」
「ふふ、未経験だからって侮れないわね」
 サンドバッグの前で朝霞とテレサが某有名ボクシング映画の話題に花を咲かせていた頃。
「あ、亮さんだ」
「相手は……美果さんね」

「今日はよろしくね~」
「お、おお。こっちこそな」
 窮屈そうにヘッドガードで囲われた天間美果(aa0906)の顔を見上げ、その巨躯に圧倒されつつ百目木 亮(aa1195)はなんとか持ち堪える。
 師たる老人以外の相手としては全てが違い、技を試すには手頃……なのか?
「……姉ちゃん、今日はなんでまた?」
「毎日チョコ食べすぎちゃってね。ダイエットも兼ねて……」
「自分を正す為ってわけか。俺と同じだな」
 彼は今日、面接帰りだった。
 結果は推して知るべし。
 だが、諦めるつもりは、ない。この場も然り。
「いくわよ~」
 まず踏み込んだのは、美果の方だった。

「さっき亮さんが言ってたんだけどね」
 テレサがおもむろに朝霞へ言った。

 エージェントやってりゃあ収入はあるさ。
 だがな、先の事も考えなきゃなんねえって近頃思い始めたんだ。
 英雄(爺さん)も年だしよ。
 能力者(俺)より先に死んじまう事だってあるだろ。
 ……実際居なくなるって、この目で見ちまったしな。
 そうなりゃ稼ごうにも稼げねえ。

「“なら色々経験積んでまともな人間になる事を考える方が得だ”――って」
 就職活動も、スパーリングも、全てその為だと。
「……そっか」
 朝霞はいつか握り締めた着物の感触の残る手を、ぎゅっと握る。

「うおっとぉ!」
 ぶぉん――既に三度耳を掠めたる音、突風の如し。
 触れたら身体ごと持って行かれそうだ。
「ふぅ~、ふぅ~」
 だが美果は己が肥えた身に振り回され、肩で息をし始めている。
 時間いっぱい避け切れるだろうか。
(時間、時間か)
 思えば無駄な時間ばかり過ごしてきた。
 今からでも変えなくてはならない。動き出さねばならない。
 そう、この巨大な女性がダイエットを志すように、自ら。
(俺はご立派な人間じゃないけどよ)
 出遅れた分まで少しでも這い上がろうと足掻く――それが今できる事。
「――!」
 また、16オンスのグローブが空を貫く。
 直撃すれば死ぬかも知れない。
 また避けるか?
「いいや」
 変えるのだ。
 身を逸らして美果のハードパンチが過ぎる直前、亮はその上腕へ手を添えて軸を外し、すぐに逆手で背中を軽く押して両椀の回転を生じさせた。
「あら!?」
 美果は自ら起こした力を利用され、くるんと回ってバランスを崩し、つんのめって、のけぞり――尻餅で大げさな地響きを起こした。
「いたた……」
「っとすまん、大丈夫か」
 存外綺麗に決まった事に驚く間もなく、亮は美果へ手を差し伸べる。
「お陰でいい運動になったわよ~」
 噴き出す汗にまみれながらも満面の笑みで美果は手をとり、立ち上がろうとして――

 亮が引き倒された。


●自縛自在
「では」
 先にエリアへ進み出たのは、ODのパンツと黒のタンクトップに身を包んだクレア。
「っと、俺か」
 リィェン・ユー(aa0208)が套路を終え、やや遅れて真向かいへ立つ。
 互いに、礼。
「――っ」
 直後、すぐにクレアが間合いを詰め、手刀を繰り出す。
 リィェンがこれを受け流すとその前腕を更なる手刀で打ち据え、後退した。
「ふむ」
 リィェンが打たれた手をばたばた振るい、再度構えて。
 その瞬間、またクレアが動く。
(速さはない)
 リィェンは落ち着いて観察する。
 次も腕を狙った手刀、ならばと打たれる間際カウンターを放つ。
 クレアがすかさず腕を返しその手を取ると背負い投げの腰を入れるも、リィェンは素早く体軸をずらし、逆に取りに来た腕を極めに掛かった。
 クレアは空いた肘でそれを阻止し、しばしの膠着。
 そんな応酬が何度か続き、双方身を退いた。
「軍隊仕込みってわけか」
「ご名答。ここからが骨頂です」
「楽しめそうだ」
「存分に」
 クレアが鋭く前進―ー否、突進した。
「なっ!?」
 以前の速度に目を慣らされたゆえ殊更速く感じられる。
 更に攻手も、フックかと思えばカウンターを打つ間もなく手刀へシフト、連撃から不意のストレートといった具合に目まぐるしく、戦術を絞りすぎていたリィェンは対応がことごとく後手となった。

「すごい……!」
 連携とはどう在るのか、いかなる動作が悪手たり得るか。
 まさしく学びたい事が繰り広げられ、鴇は感嘆した。
 詳細にメモを取り、それらの理由を考えながら、引き続き展開を見守る。

 やがてクレアが出したすねへの横蹴りに対し、辛くも逸らして直撃を避けたもののそのまま足を踏まれ。
「!」
 次の瞬間には、首筋に手刀が突きつけられていた。
「続けますか?」
「……いや。大した手並みだな」
 リィェンが両手を挙げると、クレアは手刀を納め、端的ながらも凛然と言った。
「習得は容易、しかし効果は絶大。それが軍用格闘術です」


●命の弦
「二人ともお疲れ様、勉強になったわ」
 先の美果同様汗だくになったテレサが、クレアとリィェンを労う。
 ずっとシャドーをしていたのか――リィェンは片眉を上げた。
「そんな調子じゃ、いざという時もたないぞ。なんなら息抜きにでも」
「ありがと、また今度ね」
「……無理するなよ」
 呆れるリィェンに続き、クレアも声をかける。
「休日はいつもトレーニングを?」
「半分はね。あとは映画や舞台を観たり料理を……あたしに興味が?」
「ええ。同じ島出身の、あなたに」
「そういう事! 光栄よ」
 微笑を交わし――直後。
 最前の突進の如き鋭さを以って、衛生兵は言葉を紡ぎ出した。
「テレサ、我々の祖国が今に至る為に何十億もの命が失われた。私も軍属時代、多くの仲間が平和の礎となるのをこの目で見てきた」
「……ええ」
「しかし、私は同情しない。皆、自らの意志で平穏な生活を捨て、覚悟と共にその道を選んだのです」
「何が、言いたいの」
「つまらない自惚れは覚悟への侮辱になる」
「自惚れでっ……こんな事する筈ないじゃない!」
「果たしてそうでしょうか。本当に言い切れますか?」
 声を荒げるテレサを、クレアは涼やかな眼差しで見据えるのみ。
 その時。

「いやああああ――!」

 スパーリングエリアから、朝霞の悲鳴が木霊した。


●(鼻)血のバレンタイン
 少し前の事。
「レヴィンさん、お願いします!」
 ヘッドガードをかぶった朝霞がボクシンググローブをぼすぼすぶつけながら、観戦で昂ぶった気持ちを顕わにする。
「おぅ。ま、今回は息抜き程度に軽ーく……」
「手加減無用ですよ?」
 しゅっしゅっとジャブを繰り出し、レヴィン(aa0049)の目を真っ直ぐ見て。
「……そう来ねーとな。アイツのこだわりで普段は剣振り回しちゃいるけどよ、元々こっちのが性に合ってんだ」
 ぱしん――掌に拳を打ちつけ、レヴィンは不敵に笑う。
「女だろうと関係ねぇ。同業のよしみだ、思いっきりいくぜ!」
「はい! 胸を借りるつもりで挑みます!」
 早速レヴィンが大振りの無芸なパンチを放つ。
 朝霞はこれをスウェーで回避しジャブを見舞う――が、レヴィンはあえて頬に食らいながら強引にトゥーキック。
「つっ」
 予備動作の小さなジャブが幸いし、朝霞はすぐさま後退で衝撃を最小限に留める。
「まだまだです!」
「たりめーだ!」
 今度は同時に踏み込むも、先手は朝霞の連撃ジャブ。
 しかしこれまたレヴィンが意に介さず屈んでアッパーモーションをとったので、即座にローキックへと移行。
「がっ!」
 無理やり腕を振り抜こうとしたレヴィンの側面を打ち――彼は転倒した。
 そして、起きなかった。
「……?」
 朝霞が不審に思って近づくと――
「なーんてなァ!」
「うわぁっ!?」
「ぐふッ」
 レヴィンは突如がばっと上体を起こす。
 驚いた朝霞はうっかりボディブローを放ち、それは起床途中のレヴィンの顔面へ、クリーンヒットした。

「楽しそうですよね。すごく」
「でも……」
「気にならないのかしらね~」
 今の一撃による鼻血をどくどく流しながら、なお笑顔で対戦相手に食らいつく獣じみた青年を、皆ぽかんと眺めていた。

 そして現在。
「いやああああ――気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いっ!」
 何をしても鼻血を撒き散らしながら笑って迫り来る恐るべき存在を前に、朝霞はジャブとストレートのコンボを打ちまくっていた。
 だって気持ち悪いから。
「……っ!」
 ことごとく命中し、なすがままのレヴィンは、しかし笑みを崩すどころか更に口角を吊り上げ。

 刹那、拳と血が交錯する隙間を、雷光の如きパンチが――突き抜ける。

 眼前でぴたりと止められた拳に目の焦点が合った途端、朝霞はへなへなと座り込んだ。
「必殺、ブロー……」
 なぜだか変電施設を連想しながら。

「ナイスファイト、オオミヤ」


●交錯式説教タイム
「何がナイスよ」
 テレサが後ろからレヴィンの頭をごちんと殴った。
「あいでっ」
「なんでケンカしてんのよ! 怖がってるじゃない! 朝霞もこんなのまともに相手したらダメでしょ! ……仲間同士で何かあったらどうするの」
「すみません……」
「バカちげぇよ」
 しゅんとする朝霞を辛そうに見遣るテレサへ、レヴィンが言い放つ。
「バカって言われた……!」
「仲間だから頭ん中真っ白にして闘り合えんじゃねーか。な? 楽しかったろオオミヤ」
「あ、はい。実は少し」
「へへっ、いいもんだよな」
「……レヴィンくん」
「俺は俺一人でも充分強ぇ。そーゆー星の下に生まれてっからな! ……けどよ、俺一人じゃどうにもならねぇ事もあんだよな。仲間がいるからこそ俺は俺の強さを発揮できるっつーか」
「レヴィン」
「俺はお前の事信頼してんだ。お前も俺を信じとけよ、バートレット。何せこの俺は絶対に負けねぇからな!」
「今“俺”って八回言いましたよね」
「正義っつーのは最後に必ず勝つもんなんだろ? この俺が体現してやるぜ!」
「これで九回、さすがです!」
「――!」
 朝霞がカウントしたのは、テレサが今年悪夢を観た回数と同じだった。
「――鼻血垂れて決めてんじゃないわよ! バカレヴィン!」
「ぶっ」
 サムズアップするレヴィンの顔にティッシュを投げつけて「当たり前じゃない」などとぶつくさ言いながら、テレサはクレアへ向き直った。
「やっぱり自惚れてるのかも、あたし」
「……彼のように?」
「癪だけどね」
 二人は朝霞の手を借りて鼻に詰め物をしている青年を一瞥する。
「でも、それが間違いだとは思えないの。だから、」
「聞く耳は持たない、と?」
「……逆よ」
 テレサは屈託なく微笑む。
「肝に銘じます、先輩」
 クレアは目を伏せ、少し柔らかな声で、一言添えた。
「どうか忘れないでください」
 仲間が居るとは、きっとそういう事なのだから。


●つまりは
「しかしこの時期の誘いにしちゃ変わってるな」
「時期って……あ! ああーー!? しかもこんな時間!」
 リィェンに言われ、テレサがスマートフォンを覗き見て、頭を抱えた。
「もしかして今日が何の日か忘れてたんじゃ……」
「羨ましいわ~。あたしなんてそれにかこつけて食べ過ぎちゃったのに」
 蕾菜と美果がひそひそと話す傍ら、テレサはバッグの中を引っ掻き回し。
「あった! 市販品で悪いんだけど……」
 程なく、彼女は取り出した個包装の菓子を、皆に慌しく手渡して。
 踵を返し「それじゃお先に! また遊ぼうね!」と走り去った。
 レヴィンが「今度闘ろうぜー!」と背中に声をかけると「鼻血じゃ済まさないわよー!」と言い残して。
「マイリンさん迎えに行ったのかな」
「かね。そそっかしい姉ちゃんだ」
 朝霞と亮が開けっ放しの出口を見て、笑った。
「あっ、僕も探しに行かないと。きっと周囲に迷惑をかけていますし」
「あたしは甘い物食べて帰ろうかしら。動いたらお腹空いちゃった……」
 そうして鴇と美果が対照的な足音を立て、相次いで立ち去る。

「……これ、なんだろう」
「ファッジですね、多分チョコレート味の。英国では一般的なお菓子です」
 掌の上の個包装をしげしげと見詰める朝霞に、クレアが答えた。

 ハッピーバレンタイン――そういう事なのでしょう、と。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 世界蝕の寵児
    レヴィンaa0049
  • 馬車泣かせ
    赤谷 鴇aa1578

重体一覧

参加者

  • 世界蝕の寵児
    レヴィンaa0049
    人間|23才|男性|攻撃
  • ひとひらの想い
    零月 蕾菜aa0058
    人間|18才|女性|防御
  • 義の拳客
    リィェン・ユーaa0208
    人間|22才|男性|攻撃
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 肉への熱き執念
    天間美果aa0906
    人間|30才|女性|攻撃
  • HOPE情報部所属
    百目木 亮aa1195
    機械|50才|男性|防御
  • 馬車泣かせ
    赤谷 鴇aa1578
    人間|13才|男性|攻撃
  • 死を殺す者
    クレア・マクミランaa1631
    人間|28才|女性|生命
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