本部

【甘想】連動シナリオ

【甘想】進撃のスイートキャシー

雪虫

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 5~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/02/15 15:52

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掲示板

オープニング


「よーし、これで完成よーん」
 人影は艶やかな金髪ウェーブを揺らしながら、「ふー」と満足気に額の汗を右手で拭った。人影の名は通称キャシー、金髪ウェーブ、アンティークドレス、はちきれんばかりの大胸筋と太ももがチャームポイント、スリーサイズ(自主規制)、身長192cmの、いわゆるオネェさん殿である。そしてキャシーの目の前には、キャシーと同じ姿をしたチョコレート色の物体がデカデカとそびえ立っていた。
「この前ナイスアイディアを頂いたから挑戦してみたけれど、とっても上手に出来たわーん。さあて、この調子で残りのチョコも……」
 その時、キャシーの前を黒いもやが横切った。黒いもやはそのまましゅるしゅると、キャシー型チョコの鼻の辺りに吸い込まれるように消えていった。そしてチョコがぶるぶると震え、目の辺りがカッと光り、


 人は、少し開いたドアの向こうに、チョコレート色をした筋肉質の物体があった時、一体どういう反応をするものだろうか。話は数十分前に遡る。「従魔が現れたから退治して~ん」という一般人の通報により現場にとりあえず駆け付けてみれば、目の前には「かぐやひめん」という看板を掲げた謎の店と、金髪ゴリ……もとい金髪ウェーブとアンティークドレスの恐らく人類に属する何かがそびえ立っていた。
「スイートキャシーを作っていたら、何か黒いもやみたいなものがふわふわ~とスイートキャシーの中に入っちゃったのよ~ん。驚いて回し蹴りをしちゃったんだけど何故か全然効かなくて~ん。助けてくれないかしらん、お願いよ~ん」
 スイートキャシーとは。回し蹴りとは。そして扉の向こうにいるあれは。言いたい事は色々あったが、とりあえず扉を開けなければ話は何も始まらない。あなた達は頷き、意を決して扉を開けた。
 チョコレート色の物体が6体、勢いよくこちらに走ってくるのが見えた。

解説

●目標
 従魔の殲滅

●敵情報
 スイートキャシー×6
 材質:チョコのキャシー型従魔。6体合わせてトラック1台分のチョコで出来ている。攻撃力は皆無だが命中・回避が異常に高く、連携も行う。従魔なので温度が高い所にいてもほとんど溶けない。共鳴中であればこのまま食べる事は可能。
・ラブファウンテン
 液状のチョコを噴射する。なおチョコは口から出る。床に撒かれたチョコを踏むと稀に足を取られて【拘束】付与。チョコは口に入る可能性もある。
・ラブスリップ
 床に撒かれたチョコの上を滑っての高速移動
・ラブフォーユー
 戦闘不能と引き換えに相手にマウストゥマウスでチョコを流し込む。この際外見はドロドロに崩れるので安心して下さい。【気絶(5)】付与。あと体重がめちゃくちゃ増える。気絶中はラブフォーユーを喰らう事はない。ラブフォーユーが失敗した場合スイートキャシーは戦闘不能にはならず、姿は戻る場合もあれば戻らない場合もある。

●マップ情報
 かぐやひめん
 キャシーが営むオネェバー。10×10スクエア。開店前のためテーブルや椅子などは片付けられており、現在足元に障害物はない。

●NPC情報
 キャシー
 赤いアンティークドレスと金髪ウェーブのオネェさん殿。前回リンカー達に守ってもらったチョコが従魔になってしまった事を大変心苦しく思っている。

 ガイル・アードレッド/デランジェ・シンドラー
 回避適性/シャドウルーカ―。(PL情報)デランジェはもしもの時は共鳴を解除しガイルを囮にするつもり。
・縫止
 ライヴスの針を発射し、対象の行動を阻害する。
・潜伏
 全身をライヴスで覆い、見つかり難くする。
武器:ニ丁拳銃「パルファン」

●持ち物情報
 各自携行品、バナナ(おやつ)、必要物品があればH.O.P.E.に申請可能(マスタリング対象)

●その他
 扉は一回閉めても構わないが、突入に時間を掛け過ぎた場合キャシーに強制的に店内へと放り込まれる。

リプレイ

●話は少し遡る
「ミス・キャシー。アナタのために馳せ参じました。微力ではありますがどうか僕の力をお使い下さい」
「嬉しいわ~ん。今回もよろしくお願いねんジェントルちゃん」
 そして放たれた金髪ゴリ、もといキャシーのバチコーンウインク(風付き)に、ウェルラス(aa1538hero001)は満面に喜色を浮かべた。周囲に花やらキラキラやらの幻影を舞わせている12歳(外見年齢)の姿を、水落 葵(aa1538)は何処か遠い眼差しで眺めていた。
「やぁ。今日も今日とてよろしくお願いするよ……キャシーさんもちゃんと守らないとね」
「ウェルラスー? おーいウェルラスー?」
 そんな、悟りという名の諦めの境地に両足を突っ込んでいる葵に、蛇塚 悠理(aa1708)と蛇塚 連理(aa1708hero001)の両名が声を掛けてきた。腐れ縁、もといネタ色の強い依頼限定仲間、もとい運命共同体の姿に、金髪・ピアス・青ネイルの33歳は諦め顔で片手を上げる。
「あー……よろしく。とりあえずウチの相方があんなんだから、一番最初に扉開くのは俺らやるわ……」
 そして葵はノリノリのウェルラスと共鳴し、リンクコントロールでライヴスの結び付きを強化した。そのまま異空間と書いてオネェバーへと続く扉をそっと開け……
 すぐに閉めた。
『何閉めてんのさ!』
「本能的な恐怖に逆らえっか!!」
 共鳴したまま押し問答をする葵・ウェルラスの背後では、咲山 沙和(aa0196)とシュビレイ・ノイナー(aa0196hero001)が二人仲良く固まっていた。葵がわずかに開いた扉の隙間から見えたうごめくチョコレート色の謎の物体……シュビレイは一度近くにいる、扉の中にいた物体と同じ造形の金髪ゴリ、もといキャシーを視界に映した後、静かに眼鏡をクイッと上げる。
「……さっさと共鳴しますよ沙和」
「えー、あたしがあれ倒すの!? シュビ君マジド鬼畜じゃん! ひどー!」
「黙りなさい。元々貴女がこの依頼を引き受けたんでしょう。責任をとって倒してきなさい」
「レイちゃんひっどー」
「その名前で呼ばないで下さい」
 そして沙和はレイちゃん、もといシュビレイにほっぺを全力で伸ばされた。今にも消えてしまいそうな儚げ美少女(外見)のほっぺがどのぐらいの伸び率を見せたのかは割愛する事にする。そこから少し離れた所では、木陰 黎夜(aa0061)と早瀬 鈴音(aa0885)が感嘆のため息を吐き出した。
「キャシーお姉さん、すごいの作ってたん、だな……」
「凄い、ほんとに作っちゃったんだ?」
 平和である。だが、今しがた閉められた扉の向こうは平和とは程遠い。また、集まったリンカー達の中にも、一部平和とは程遠い民族が出現していた。甘い物が食べた瞬間スプラッシュして気絶して人格が変わる程嫌いなカイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)と、めちゃくちゃ太るぐらいなら自決する覚悟の御童 紗希(aa0339)……何やら鬼気迫る表情で親指を立て合う二人をよそに、鈴音がキャシーにパチン☆ とウインクをしてみせる。
「(キャシーさんて見た目はちょっと特徴的だけど)チョコを大切な人に贈りたい心は私らと同じだもんね。折角の作品を奪った従魔はちょっと許せないし、確り退治してくるから安心して。乙女と乙女の約束だよ」 
「キャシーお姉さん……傑作だったみてー、だけど……悪さをあんましねー内に、従魔は葬る、から……ごめん。キャシーお姉さんのことは、守る、から……」
「センセイ、我々と連携してにっくき従魔を倒すのです。師弟の力見せつけてやりましょう。あと最近VBSというシステムにてセンセイとお店の宣伝をさせて頂いているのですが」
「あら本当? 嬉しいわ~ん。それじゃあ鈴音ちゃん、黎夜ちゃん、シウちゃん、皆さまちゃんもよろしくねん」
 そう言って、キャシーはシウ ベルアート(aa0722hero001)達にバチコーンとウインクをした。キャシーを本能的に危険物扱いしているカイは全身に鳥肌を立てた。が、すぐさま気を取り直し、小型カメラを頭に取り付けさせたガイル・アードレッド(az0011)へと向き直る。
「おいあんぱん。お前にNINJYAの任務を与える。店に入って中の様子を偵察して来い。お前なら出来る。という訳でNINJYAらしく逝ってこい!」
 カイは扉を開けてガイルを中に放り込み、すぐに閉めた。デランジェ・シンドラー(az0011hero001)は相棒の背中を見送った。中から悲鳴が聞こえたような気がしたがあまり気にしない事にする。
「連理だけは絶対に守るからね。この身を犠牲にしてでも!」
「お、おう……」
「行こうトウ君! 未知が待っているんだよ!」
「オレの本能が警鐘を鳴らしまくってるんだけど」
「むしゃぶるいだね!」
 イケメンオーラを飛ばす悠理に連理が引き気味に返事をし、ウキウキモードのシエロ シュネー(aa1725hero001)に白市 凍土(aa1725)は肩を落とした。そんな面々を尻目に、葵もついに覚悟を決める。
「あーもう! 気を取り直せるわけもないが行くぞ! コワイけど!」
 悟りと諦めの地の住人、葵は再び扉を開いた。異世界と書いてオネェバーへと続く扉の向こうでは、青いNINJYA装束が必死の形相で逃げ回り、その後をチョコレート色の物体が床を滑りながら追い掛ける地獄絵図が広がっていた。

●チョコレートとは
 人は、チョコレート色をした筋肉質の物体が、仁王立ちで、あるいは腹ばいで、あるいは体育座りで床の上を滑っている光景に出くわしてしまった時、一体どういう反応をするものだろうか。アーテル・V・ノクス(aa0061hero001)は眼帯をしていない左眼にその光景を映し込むと、やや女性的な顔立ちにフッと爽やかな笑みを浮かべた。
「わぁ、見事な出来ねぇ。お邪魔しました」
「……アーテル」
「ちょっと不意を突かれただけよ。入りますよ。これって所謂私を食べてって奴かしら……女装じゃないと思ったらキャシーさんのチョコの像を倒すってことなのね……」
 ツッコミ所は色々あるがとりあえず従魔を殲滅しなければ、一般市民の皆様に多大なご迷惑をお掛けする事になってしまう。黎夜はアーテルと共鳴し、腰まで伸びた後ろ髪をたなびかせて右手に死者の書を出現させる。
「お姉さんのニセモノ、お断り……」
 黎夜のはっきりとした拒絶と共に、白い羽根のようなライヴスの塊が直線上を駆け抜けた。しかし腹ばいのチョコ色ゴリ、もといスイートキャシーはその攻撃をスイ―と避ける。
「がんばだよ~忍者の人~。がんばったらチョコあげるからさー、ファイトー」
 一方、シュビレイと共鳴した沙和はガイルに声援を送りつつ、ガイルを追い掛け回している従魔にスナイパーライフルの狙いを定めた。
「足もげて動けなくなれば機動力下がんじゃね? あと、頭が無ければちょっと脅威が下がるかなって。……超グロいことになりそうだけど……こわー」
 と言いつつ、軍服スカートの美少女はロングショットを撃ち放った。しかし仁王立ちのチョコ色ゴリ、もとい仁王立ちスイートキャシーはその攻撃もスイ―と避ける。
「行きますよキャシーセンセイ、必殺、女装転性!」
 突入前にすでに桜木 黒絵(aa0722)と共鳴し、ウィザードセンスと拒絶の風を重ね掛けしていたシウは、上着をバサリと脱ぎ捨てミステリアスかつセクシーなオネェ姿へ変貌を遂げた。何処で用意したのかなどというツッコミを入れてはならない。そして足元を覆う薄い布をヒラヒラさせながら、ライヴスガンセイバーを携え従魔へと突撃する。
「お食らいなさい、銀の魔弾!」
 女性のように舞い、男性のように刺す……前回学んだオネェ道に乗っ取り、ボディービルダー風スイートキャシーの懐に入り込んだシウはエネルギー弾を炸裂させた。そこに(本物の)キャシーが回し蹴りを叩き込み、吹き飛ばす……算段だったが、
「シウちゃん、やっぱり効いていないみたいだわん」
 ボディービルダー風スイートキャシーはキャシーの丸太のような脚を側頭部に受けながら、何事もないかのように平然とその場に立っていた。そして自分の懐にいるシウへと筋肉質の腕を伸ばし、シウの白猫耳付きの頭をそっと自分の方へと引き寄せ、
「こら離せ! 顔を近づけるなっ! ちょっ、待て、舌を……しっ」
 安心して下さい、全部チョコですよ。という注釈がシウに届くはずもなく、一瞬の隙に共鳴を解除し貞操を守った黒絵の前に、口からチョコ飛沫を吹き出したシウとライヴスガンセイバーが「ゴン」と音を立てて崩れ落ちた。
「シウお兄さぁぁぁん!」
「いやぁ、なかなか圧巻だね」
『圧巻とかそういうレベルの話じゃねーだろこれ……』
 今しがた目の前で起こった光景に悠理は顎に指を当て、共鳴中の連理は心の底からドン引きした。一応スイートキャシーはラヴフォーユーを繰り出す前にドロドロに溶けてくれるので、「チョコ色ゴリラとイケメンがマウストゥマウス」、という事にはならない。一応。だが、だとしても実際喰らったとしたらその精神的ダメージは計り知れないものがあるだろう。そんな状況の中だろうと、しかし悠理は歪まない。
「チョコは連理から貰えた方が嬉しいけれどね」
『この状況で何言ってんだてめーは!?』
「まあでも女性の事は何としてでも守らないと。その上でも連理の事は絶対に守り通すからね。俺が襲われたら構わずすぐに逃げるんだよ」
『安心しろ、全力でそうするから』
 そして悠理は守るべき誓いを発動し、軍手にジャージスニーカー姿で蛇腹剣を縦に構えた。一方で、シエロが凍土に対してウキウキとした声を上げる。
『チョコだよ! トウ君チョコ!』
「オレがチョコみたいな言い方すんなよ! しかしこの状況でも好奇心を失わないなんて……シエロの好奇心、底が知れないな……」
 そうこう言っている内に凍土の近くに体育座りが接近してきた。凍土は即座に拒絶の風を発動し横っ飛びに回避する。
『えー、チョコ食べ放題なのに』
「食えるかあんなの! とりあえずオレは逃げる! 逃げるからな!」
「てめえら何ブルってんだ! 男なら正々堂々戦えやゴルァ!」
 その時、入口から非常にドスのきいた巻き舌ボイスが聞こえてきた。見た目はフランス系ハーフJK・御童紗希だが、口調は完全にその筋の人である。
「いいか! チョコゴリラからのキス程度にブルってる奴は(あまりに酷いので自主規制)にするぞヴラァ! そもそもゴリラにブルってる奴は(あまりに酷いので)せめて死ぬ前にJKの盾(自主規制)」
 世の男性の皆様、御覧下さい、これが体重が増えるぐらいなら自決する覚悟の、とにかく保身に徹したJKのありのままの姿です。少し離れた所では別の赤髪JKが、こちらは上機嫌で腕輪のように装着しているスマホカメラをいじっていた。
『何やってるの、鈴音』
「いや、自分のを公開する気は無いけど、人のキスシーンなら見たいじゃん? 加えてリンカーや英雄て美形・イケメン揃いだし、中々素敵状況かなって思うの。大丈夫、きちんと回復とかはするし」
『なら……良いのかしら……?』
 ふわふわお姉さんN・K(aa0885hero001)は共鳴状態で小首を傾げた。筋肉質の物体がスライディングしている状況でそんな事を言える辺り、彼女もなかなか大物である。
「けど、実際のとこ物理的な被害って出ないぽい? そもそも元がキャシーさんのチョコなら、女の私達って狙われるのって気もするし。何だ、結構楽な御仕事じゃん?」
『私はそうは思わないわ、鈴音……キャシーさんのお話だとあの従魔は間違いなくチョコだし、とりあえずあれをご覧なさい』
 N・Kの声に導かれるままに顔を上げると、ちょうどスイートキャシーが口からチョコを吐き出していた。液状のあれを頭から被れば、うっかり口に入る事も十二分にあり得るだろう。
「……お節の余韻が残るこの時期にさ、チョコの多量摂取はアレだよね……?」
『そういう問題もあるけれど、絵的な危険もあるわ』
「確かにあれは食らうわけには行かないねっ」
 鈴音は決意した。体重キープ徹底のために、もしもの時は容赦なく周囲の人間を盾にしようと。そんなJK達の必死の想いに応えるように、葵も悠理に続いて守るべき誓いを発動させる。
「……一人に任せっぱなしにゃできねぇんでね」
『イマトモダチッテイオウカマヨッテマシター』
「とにかくヤバい状況なのは理解した。これは立ち回りをミスるとアーティストとしての繊細なハートに強烈なトラウマを刻みかねない状況だ。
 よってクールに、かつエキサイティングに決めなければならない。さあ始めようか、魂のステージ(インかぐやひめん)をなッ!」
 何やら切なさの漂う葵とウェルラスの後ろから、ゴールドシュガー(aa2995hero001)と共鳴した鯨井 寝具(aa2995)が満を持して登場した。「アイドル史を書き換える者」「音楽神の隠し子」「スターオブスター」等、千を超えるキャッチフレーズ(全て自分で考えた)を持つ駆け出し歌手は、この場を熱狂の渦に巻き込むべく熱く魂を震わせる。
「チョコレートボディなのに溶けずに姿を保ってる根性は気に入った。だが、この俺の熱いソングを聞いてもまだ溶けずにいられるかッ? 聞いてくれ、俺のバレンタインニューソング、『Chocolate partyは軽やかに』!」

チョコレート・ブラウンに包まれた街 
吹き抜ける風さえLOVEの波動 纏ってそう 高☆揚
恋と恋と愛のパッケージは 歓迎だけど
押しつけがましいのは NO! NO! NO! NO! NO!
欲しいのはホンモノの愛出会い そうじゃなきゃ意味がない

 曲の終わりと共に寝具が腕を高く上げ、放たれたブルームフレアがスイートキャシーへ襲い掛かった。心の中の寝具をスポットライトが照らし出した。現実の寝具の頭上から、あっつあつの液状チョコレートが拍手のごとく降り注いだ。

●バレンタインデーとは
 イハドゥルカ イルパメラ(aa0250)は、チョコレートまみれの戦場でおどおどと立っていた。身長2m、体重140kg、そこかしこがビックサイズの小麦色のボディを包むのはホワイトチョコ色のハイレグレオタード。その道の人であれば色んな意味で「ごちそうさまです!」と直角になる事必須である。
「うぅ……マモンさんなんでこんな恰好にするんですか~」
『チョコまみれにするなら純白一択だからよ! チョコまみれになったイハちゃんprprしたい』
 欲望の権化、マモン(aa0250hero001)は強く力説した。prprとは何かを知らない方はどうかそのままでいて下さい。
「共鳴する時もマウストゥマウスだし……」
『非常に濃厚でした☆』
「うあぁぁ~! と、とにかくバレンタインを邪魔する従魔さんは放っておけません~。せ、戦闘は苦手ですが困っている人達の為に頑張ります~、おとなしくチョコにもどってください~。そして気絶した方は起こさないと~」
 イハドゥルカはすでに半泣きになりながら、チョコの海に沈んでいる被害者を回復させようとたゆんたゆんしながら走り出した。そんなムチムチわがまま悪魔っ娘ボディの前に、腹ばいのスイートキャシーがロケット弾頭のごとく迫る。
「はわぁっ! こ、高速で接近されると気持ちわるいです~! こ、来ないで……はわわわわっ! チョコがべたべたして……はわぁっ!?」
 イハドゥルカはトリアイナをぶんぶんと振り回したが、床のチョコレートに足を取られ盛大にひっくり返った。そこに従魔がのしかかり、ドロドロに溶けたチョコ製の顔をイハドゥルカの唇に近付ける。
「きゃあああ! ドロドロのチョコがそんな所にぃ~! む、むぐぅ! や、やめふぇくらふぁい~~!! んん~~~!」
 そして、床の上に全長2mのマシュマロチョコが転がった。ラブフォーユー直前に共鳴を解除して逃れたマモンが、満面に恍惚の表情を浮かべる。
「太ったイハちゃんも可愛いわね~。とりあえずお腹ぷにぷにするわね? ……ってうぷぅ!?」
 油断したマモンの背後から別のスイートキャシーが覆い被さり、床の上に二つ目のマシュマロチョコが転がった。リンカー達は戦慄した。女相手だろうと容赦ない……そんなリンカー達へ仁王立ち、体育座り、女豹ポーズの三体のスイートキャシーが床を滑りながら接近する。
「体重増えても、キスは……もっとお断り、です……甘いのは、好きだけど……キャシーお姉さんが、トラウマになるのも、イヤ、だな……」
 黎夜はラブフォーユーを全力で回避するべく拒絶の風を発動させた。過去の出来事によって男性恐怖症に陥ってしまった黎夜にとって、キャシーはなんとか話し掛けられる数少ない人物の一人である。また、ホラーが大の苦手である黎夜には、目の前でキャシー型チョコがドロドロに溶ける光景もトラウマになりかねない。黎夜は接近する従魔を回避し、沙和は再びスナイパーライフルの狙いを定める。
「乙女の唇は、そう簡単にやってたまるかってーの」
 見た目は儚げ、中身はチャラ系美少女は、精神を集中させ従魔へ鋭く一閃を放った。弾丸は今まさにガイルを標的に定めていたスイートキャシーの首に当たった。もげた。
「グロ!」
 キャシーは激怒した。必ず、愛弟子をチョコフォンデュにした従魔を除かねばならぬと決意した。キャシーには従魔を廃する方法がわからぬ。キャシーは一応一般人である。本物の丸太をへし折る程の脚力があったとしても、本物の従魔をへし折る事は出来ないのだ。
「黒絵ちゃん、シウちゃんの仇を取って頂戴! このままじゃチョコフォンデュになっちゃったシウちゃんが浮かばれないわん!」
 死んでません、生きてます。という事は一先ずさておいて、黒絵もまた相棒の仇を取るべく力強く頷いた。そしてチョコの海に倒れ伏すシウと再び共鳴し、体重という名の重力に負けてチョコフォンデュの住人となった。
「黒絵ちゃあああん!」
「キャシーさん、ここは俺達に任せて逃げて下さい。あとは俺達が何とかしますから」
 悠理はリンクバリアを張りつつ叫ぶキャシーへと声を掛けた。イケメンは軍手にジャージスニーカー姿でもイケメンである。そしてそれに合わせるように凍土がキャシーへと駆け寄ってくる。
「外まで護衛するよ。キャシーさんは一応一般人さんだし、キレーだしさ」
『トウ君って受け入れ幅広いねー』
「いや、キレーだろ?」
(天然だなー)
 シエロは心の底から思ったが、口には出さない事にした。そこからやや離れた所では、鬼のような形相で紗希が怒涛乱舞を振るっていた。
「うおりゃああいてまえこのチョコゴリラ共ォォオッ!」
 世の皆様御覧下さい、これが体重が増えるぐらいなら自決する覚悟の、しかし致命的衝撃ショットに備えてハーフパンツは着用しているJKの(以下省略)。しかしスイートキャシー達はその攻撃もスイ―と避け、この地獄絵図で一番最後に守るべき誓いを発動させた葵へと急接近する。
「ウェルラス、俺は逃げる、さらば!」
 本能的な勘で危機を察した葵は、共鳴を解除しウェルラスを置いて反対方向に逃げようとした。しかし、葵の橙色の瞳の前にもう一つのチョコ色の壁が立ちはだかり……後には白目を剥いた葵と、何処か嬉しそうなウェルラスのチョコフォンデュが残された。鈴音は冷静に激写した光景をスマホのフォルダに保存した。
『ばれんたいんでー? ってよくわからないけど、この時期はチョコレート関係のお仕事が多いのも素敵よね……って入るまでは思っていたわ。
 それなのになーんーで! あんなのの相手なのよ! 甘いものはぜんぶ食べたいけど、さすがにアレは食べるのを躊躇うわ!』
 金色の魔術師シュガーはぷんぷんしながら宣言した。実は倒れ伏した仲間達の尊い犠牲により、スイートキャシーは残り1体。誰かがラブフォーユーを喰らうか、全員で協力してスイートキャシーのチョコレートボディを食べ尽くせば、話はそれで終わるのだ。
 だが、今生き残っている者達の心は一つだった。さすがにあれは食べたくない……シュガーはもちろん食べたくないし、寝具とてマシュマロ系ボディを目指している訳ではない。
「チョコレートってのはたまに摂取するから美味いってもんだ。あまり食べ過ぎると太っちまうしな。スタイル維持もそれに伴う食事管理もシンガーとしては避けて通れない道。何ごとも程々が良いってもんさ」
『甘味の魔術師としては負けられない戦いだし、ちゃちゃっと片付けて口直しの新作チョコを食べにいきましょうシング』
 そして寝具・シュガーコンビはブルームフレアを再び放った。炎が従魔を包み込んだと同時に黎夜が死者の書、沙和がスナイパーライフルの狙いを定める。
『糖質の摂り過ぎは不健康だから全力で倒させてもらうぞ、キャシー姉さん。あくまで黎夜の健康の為だからな』
「まともなチョコだったらよかったけど、さすがにこのまま食べたくないかなー」
 アーテルと沙和の言葉と共に、二つの異なるライヴス弾が従魔の体を貫いた。黒絵は激怒した。必ずかの邪智暴虐の従魔を除かねばならぬと決意した。自分の腹囲と太もも囲がどうなっているかなど見ない。そんなものは見ない。
「シウお兄さんのダイイングメッセージに従って、虚を突き弾丸を撃ち放つ!」
 死んでません、生きてます。という事は一先ずさておいて、黒絵は重い体を動かし、仲間の攻撃で出来た隙を逃さず従魔の背後から銀の魔弾withライヴスガンセイバーを撃ち込んだ。さらに悠理がライヴスを纏わせた蛇腹剣で関節部分を切り刻み、紗希がライオンハート、鈴音がアロンダイトでダブルJKコンボを決める。
『よっし、最後は私にまっかせなさい』
「……うん、オレはもう諦めたよ」
 凍土から主導権を渡されたシエロは目をキラキラとさせていた。好奇心の権化たる元気者の目に映るのは、ひたすらチョコの海である。
『全力で食べに行きたいんだけど、トウ君が本能的に近付きたくないって言ってるから仕方がないね。それではトドメのブルームフレア!』
 シエロの放ったライヴスの火炎が三度従魔を包み込み、そしてようやくスイートキャシーはあるべきチョコの海へと還った。海には現在進行形で人間チョコフォンデュが転がっているが、シエロのポジティブに歪みはない。
『チョコって凄いね、夢がいっぱいだー』
「満足か!? 満足したよな!?」
『うん! すごいね、バレンタイン!』
「……そうだな、すごいな」
 共鳴を解除したシエロは、疲れ果てた表情の凍土に元気いっぱいに頷いた。好奇心の鬼、サムズアップ。

●そしてチョコまみれへ
(目覚めなさい……目覚めなさい……)
 頭に響いてきた声に、シウは眉間に皺を寄せた。何かとんでもなく嫌な夢を見た気がする。例えるならチョコレート色のゴリラに無理矢理キッスを迫られた挙句ディープなあれそれになったような……
「シウちゃ~ん、目を覚まして~ん」
「……って、うおああああ!」
 シウは勢いよく飛び起きた。危うく心臓が止まるかと思った。顔を向ければ金髪ゴリ、もとい金髪ウェーブが特徴的なゴリラがドンと横に座っている。
「目の前に金髪ゴリ……いや、キャシーセンセイ。どうなってるんだ!?」
「シウお兄さんはスイートキャシーからたっくさんのチョコを流し込まれて気絶したんだよ。そしたらキャシーさんが……」
「チョコを大量に飲んだなら人工呼吸の必要があるかと思ってねん。目が覚めて良かったわん」
 キャシーはそう言ってシウの口の上に乗せていたハンカチを懐へと仕舞い込んだ。見た目は強烈だがその辺りには一定のルールがあるようである。そしてその後ろでは、葵、イハドゥルカ、ウェルラスの約三名が(ベクトルは違うが)切なさ全開で地面に崩れ落ちていた。
「あ゛ー……口の中の甘さがひたすらにつらい。お茶をもらいたい。切実に」
「うぅぅぅ……ひ、酷いです~、ダイエットしないとぉ~……」
「太ったイハちゃんかわいい~。お腹ぷにぷに~。ぷにぷにぷにぷに」
「マモンさんひどいですよ~、うわあああん!」
「ミス・キャシー……申し訳ありません。アナタのチョコを守りきることができませんでした……」
 地獄絵図続行である。ちなみに彼らの体型についてはあまりに残酷なので詳しく描写しないものとする。だが、そんなチョコまみれ地獄絵図でも、悠理はやはり歪みない。
「ここまでチョコを見てチョコまみれになればしばらくチョコはなくても……あ、いや連理からのチョコならいくらでも食べるよ?」
「腹壊すだろ!? 板チョコでいいなら一枚や二枚くらい買ってやるよ……」
 ビターにしてスイートである。だが両方男である。そんな中カイは紗希の隣で、H.O.P.E.からのおやつであるバナナ(notチョコバナナ)をフツーにもぐもぐ頂いていた。
「……動物園でバナナ食べてるゴリラみたい」
「何か言ったか、マリ」
「いえ、別に」
 言わぬが仏というヤツだ。紗希はふうと息を吐いた。とりあえず全員どこかしらがチョコまみれだが、体重が増えていないのでよしである。こうしてチョコまみれの戦いは全員をチョコまみれにしながらひっそりとチョコまみれの幕を降ろしたのだった。

 鈴音はスマホを眺めてにこにこしていた。腕輪のように装備していた愛用のスマホの画面には、先程の戦いで撮れたナイスでベストなショットの数々。
「美形、イケメンのキスシーンを思わぬ所で大量ゲット。よし、帰ったら友達にも見せたげよ」

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結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 薄明を共に歩いて
    アーテル・V・ノクスaa0061hero001
    英雄|23才|男性|ソフィ
  • 黒白月陽
    咲山 沙和aa0196
    人間|19才|女性|攻撃
  • 黒白月陽
    シュビレイ・ノイナーaa0196hero001
    英雄|23才|男性|ジャ
  • チョコまみレディ
    イハドゥルカ イルパメラaa0250
    機械|20才|女性|防御
  • チョコまみレディ
    マモンaa0250hero001
    英雄|22才|女性|バト
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 病院送りにしてやるぜ
    桜木 黒絵aa0722
    人間|18才|女性|攻撃
  • 魂のボケ
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