本部

【甘想】連動シナリオ

【甘想】リア充は爆発物

若草幸路

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2016/02/07 02:37

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掲示板

オープニング

●チョコもリア充も刺激物
 愚神騒ぎもひとまず落ち着き、とある駅前の商店街では平和にバレンタインフェアたけなわである。しかし、その平和はやはり愚神だの従魔だの、そういうもので乱されるのだった。

 ばこん! とアーケード街に轟音、と言うには控えめな炸裂音が響く。

「リア充がまた爆発したぞ」
 美貌の乙女――この地に住まうエージェントが英雄と共鳴した姿――が、クリームとスポンジまみれになりながら手にしたダガーを下ろした。

『正確には、リア充の真似をする従魔ね。イマーゴ級かしら?」
「断定はできん。だが幸い、手応えはまるでないな」

 脳裏に語りかける相棒に答えながら、ライヴスを吸われた通行人を手近な店に引きずっていく。昏倒した男は血色こそ悪いが、幸せそうだ。
 道には見渡す限り、フェア用のマネキン――スポンジケーキとチョコ、そしてアイシングや諸々の菓子で構成された美男美女――が従魔に取り憑かれてうろうろしている。一人で歩いている者に走り寄り、物言わぬ口を笑みに固めてしなを作ってみせ、抱きついてライヴスを奪うのだ。異常発生の際に扉のある店に避難しろ、と呼びかけたのだが、従わない者がいる。いわゆる"ぼっち"が、従魔でもいい! と甘い誘いに乗ろうとしているのだった。

「まったく……ああ、この方を頼む。事態が収まるまで、ここから出ないように」

 引きずっていった先の店主に厳命して振り返る。と、目と鼻の先に、誘いに乗ってしまった女へ手を伸ばす、食紅で肌色をつけられたスポンジもあらわなイケメンがいた。時間から考えて己の仲間が爆発するところを見ていたはずだが、それを認識する頭脳はないらしい。

「吸われきったら死ぬんだ、離れろ!」

 その手を制して女と従魔の間に乙女は割って入った。と、スポンジまみれで睨みつけるその姿を視界に捉えた従魔は、顔を引きつらせてその全身を硬直させる。エージェントのダガーで胸を貫かれると、その凍り付いた姿は炸裂することはなく、静かにその形を崩し、ただの菓子の固まりに戻った。

『固まってる間は爆発しないみたいね。笑いそうになるのをこらえてるのかしら?」
「あるいは、だな。しかしいっこうに減らん」
『商店街のみんなが張り切ったばっかりに……応援はまだかしら』
「異常発生直後に一報を入れて15分。ワープゲートの位置から考えれば、もうやって来る頃合いだ」

 不安がる相棒をそうなだめて、体を借りている英雄は女の罵声を背に再び駆けだした。増援が来るまで、あと5分。

解説

●任務
 にぎやかな週末に商店街へ現れたリア充、もとい従魔とそれに惑わされる居残りぼっちたちをなんとかしましょう。
 ※OPに出てくるエージェントは、PC達の到着を確認すると商店街とその周辺の避難勧告・安全確保に専念します。(戦闘には参加しません)

●従魔「リア充チョコBOME☆BOME」《略称:リア☆爆》×10体(ぼっちも同数)
 イマーゴ級。チョコや菓子類でできたマネキンを依り代にしています。
 男と女の二タイプが存在。一人で行動している人間を狙って身振りと甘い匂いで幻惑し、相手がノってきて触れてきた瞬間に抱きついてライヴスを吸収します。
 ロマンティックからかけ離れた状態(変顔など)を認識するとその場で硬直しますので、そこを突いて倒しましょう。(硬直は1~2分で解けます)

 なお、固める前に攻撃を加えるとその場で爆発する(一般人だと軽く怪我を負う可能性あり)、という報告が上がっています。ご注意ください。

●場所について
 長さ150メートル、アーケードつきのモダンな商店街です。道幅は軽トラックが楽々通れる程度。
 従魔・ぼっち双方とも、商店街全体に散らばっています。

リプレイ

●ああ人生に砂糖あり
 ばこん、ぼこん、ぼこん。
 のどかな有線の音楽に合わせて炸裂の不協和音を奏でる従魔。この商店街では、エージェント達の迅速な活動が行われている最中だ。

 続々と増えてゆく菓子、もとい従魔の屍を回収すべく、一台の軽トラがゆっくりと商店街を走っていく。
「はーはっはは! 初仕事だし楽しくやろうじゃないか!」
 荷台にいるのは、伊達眼鏡をかけ、おろしたてのシャベルを手にした青年能力者、田中 太郎(aa3310)。
「楽しいのは結構ですが、メインのお仕事を忘れないでくださいね?」
 運転席からきぐるみ姿で制するのは、パートナーの鈴木 鈴花(aa3310hero001)。二人はぼっちたちに合コンの呼びかけを行っていた。仲間と連携し、ぼっちたちを一か所に集めるためである。
「そこなボッチの紳士淑女の君たち!」
 荷台に立つ田中の飄々とした声がアーケード内に響く。声に反応したのか、従魔も数体が振り向いた。
「これが終わったらボッチ同士で合コンでもしたまえ! 同じボッチの気持ちが分かる者同士で仲良くすればいいじゃないか! 何だったら僕が幹事をしようか?」
 ある意味正論である。――しかし、それができるなら最初からぼっちなどではない、というのがぼっちの悲しいところだ。ぼっちは集合せず、代わりに男と女の従魔が一体ずつ、狙いを太郎と鈴花に定めてゆらゆらと近づいてきた。
「……思うようにはいきませんね」
 鈴花は軽トラを止めて降車し、近寄ってきた男の従魔にその全身を見せる。蒼白の肌に赤い瞳、なるほど顔立ちも麗しい――しかし、きぐるみである。きぐるみなのでせっかくの白銀の髪が見えない。ロマンからは隔たったそのファッションをすべて視界に入れたとたん、従魔は凍りついた。その静止した物体の前に、両性的な顔立ちの男が一瞬現れ、消える。そのあとには、崩れ落ちた菓子だけが残っていた。
「さすがに人ひとり分の大きさ、結構集まりますね」
 ぼこん、と誰かが従魔を砕いた音を聞きながら、鈴花もせっせとおろしたての清潔なシャベルで残骸を軽トラの荷台へ運ぶ。
「リア充爆発しろって言うけど、本当に爆発出来るなんてねぇ……いやぁ良きかな良きかな」
 そう笑って、お笑い芸人のごとき眼鏡ナナメ掛け変顔を披露し終えた太郎が再び共鳴を行い、先の男の姿となって固めた従魔を砕く。がらがらと崩れるその菓子たちをせっせと運ぶさまは、甘いものを運ぶアリにも見えなくはない。
「さあ、次だ! 菓子が僕たちを待っている!」
 太郎がそう言うと、再び鈴花の運転する軽トラが進み始めた。眼前には、まだまだお菓子がうろついている。

「手ごたえは確かにイマーゴ級。それが救いって感じだな、こりゃ」
「これで成長されていたら、色々と被害が酷い事になりそうですわ」
 商店街の入り口で、ふらふらと従魔たちへ近づこうとするぼっちを見て、赤城 龍哉(aa0090)とヴァルトラウテ(aa0090hero001)は嘆息する。さっき従魔の顎を砕いたばかりなのにな、と龍哉は用意してきた般若の面をひらひらさせてヴァルトラウテに苦笑いをしてみせた。ヴァルトラウテもそれに苦笑いでうなずいて、手を取りそうになっていたぼっちの一人に手を伸ばす。
「お怪我はありませんか? ご自分で動けるなら、あちらへ。後は係の指示に従って避難頂ければ宜しいですわ」
 だが、相手の返事は色よくはない。ふるふると首を横に振るそのぼっちに、龍哉の声は少し厳しくなる。
「相手してくれるなら従魔でもいいとか寝ぼけた事言ってねぇで、さっさと避難してくれ」
「このような一時の気の迷いにお囚われることはありません。命を投げ打つのなら、別の事にするべきですわ」
「合コンもあとでやるって言ってるしな。しんどいかもしれねぇけど、従魔に抱きつかれるよりは、な?」
 説得に逡巡したぼっちはぽつりと、お二人は参加します? と唐突に問うてきた。その言に、ヴァルトラウテはしゅっと龍哉の後ろに隠れる。文字通り、盾にしている状態だ。別に二人は恋仲でもなんでもないのだが、断るのにはなんとなくこちらのほうが都合がいいのだ。
「あ、こら、ヴァル!?」
「ごめんなさい、お誘いには応じられませんの。大丈夫、きっといい人が見つかりますわ」
 いいなあ能力者って……と言いたげなぼっちの顔。
「……とにかくここは危険だから、その話は後でな! さ、あっちの指示に従ってくれ!」
 龍哉は慌ててぼっちの手を引き、地元エージェントのところへ引っ張っていく。倒さなければいけない従魔の数は、まだまだ多いのだから。

「……相変わらず、従魔の中には奇妙な性(さが)を持つ者が居るの」
 テミス(aa0866hero001)はそう、石井 菊次郎(aa0866)に向けて大袈裟に不思議がってみせる。菊次郎は
「ロマンティックに……と言うと大変ですが、そうでないと認識させるのは、まあ簡単じゃないでしょうか?」
「ま、従魔と分かって近付くような輩には多少の怪我も教訓のうちかも知れぬがな」
「そうですが……商店街に被害が出ては事です。此処は安全策で行きましょう」
 歩みだす菊次郎はテミスと共鳴を終え、妖気を商店街にまき散らしながら探索を進めていく。近づく者を拒むかのようなそのオーラは、しかし従魔に意図を理解されなかった。手持ち無沙汰だった一体が、菊次郎に興味を惹かれてこちらにやってくる。菊次郎はずい、とその従魔にギリギリまで近づくと、視線を合わせてその十字型の瞳孔を見せ、尋ねる。
「失礼ですが、この瞳を見た事はありませんか?」
 従魔は答えない。心を持たぬ従魔は、質問の意図も、その手の込んだ宝飾品のような瞳のことも理解できず、ただ微笑んでみせるだけだった。
「……無駄足ですかね」
『そのようだな』
 手元の本から発せられるテミスの声に、菊次郎はかぶりを振る。次の瞬間、本――魔法書《黒の猟兵》から溢れ出た黒い霧が獣の形を成し、従魔を足首から上をひと呑みにして砕く。ばぐ、と妖獣の中で従魔が弾け、黒い霧が消えるとともにその粉々に崩れた体を地面にこぼす。そこから数瞬遅れて、ぽこ、と小さく靴を構成していたチョコレートがはじけた。
「骨も肉もない……所詮は従魔です。居残っている方達が早く認識してくださったら、HOPEの業務も捗るのですが」
 ふう、とため息をついて、菊次郎はインカムで他の皆に一体撃破の報を入れる。返ってくる報告から描かれる散開陣形の偏りを頭にたたき込み、商店街を縦断してのフォローアップに回るべく、妖気を発しながら再び歩み出した。

 妖気、という点では負けていない者がいた。
「ロマンティックと縁の無いエージェント……という事でお呼びが掛かったのかしら?」
ふわりと揺れる銀の髪、透き通った碧の瞳――しかしその持ち主、エステル バルヴィノヴァ(aa1165)のオーラは暗い。
「……エステル……既にすごいダウナー系の圧力が! 無理してはダメよ」
「……いえ、大丈夫です。こんなゆるふわ系で偽善に満ちた従魔など、存在そのものが許せません……殲滅です」
 泥眼(aa1165hero001)の心配をよそに、エステルはその瞳を揺らめかせて眼前の従魔を見据えた。女性型が一体、男二人に向けてしなを作っている。その様子を眺めるさまは、今の季節に似合いの冷やかさだ。
「なんなら誘いに引っ掛かった人類の裏切り者共も一緒に……」
「……お願い、ヤメテ」
 かなり不穏な言葉とともに、エステルは泥眼を連れてゆらゆらと、しかし確かな足取りで従魔へと歩んでいく。一歩、二歩、視界に映る従魔。鬱状態の思考をトレースし、世界への呪詛が吐き出される。
「カカオの実を収穫するまでにどれだけの児童労働が行われているか知っています?」
 突拍子もない言葉。だが、ロマンチックを壊すのはその言葉ではない。エステルの背負うオーラ、泥眼が言うところの『ダウナー系の圧力』だ。
「チョコで描かれたあなたの笑顔は、それに釣り合って居るのかな? ……私にはそんな笑顔とても無理……」
 既に焦点が若干合っていないエステルの眼差しに、従魔は固まる。その張り付いた笑顔も、心なしかひきつっているように見えた。エステルは無言で共鳴を行い、その体躯には不釣り合いなほどに大きい16式60mm携行型速射砲でそのやわらかな従魔を粉砕する。それでお終い、である。
 ――しかし、思考をトレースするうちに本当に鬱状態にはまり込み始めた彼女の言葉は止まらない。
「私、昨日一日の自分の行動原理を分析してみたんです……36%が無意識の行動、22%が嫉妬、18%が偽善……偽善が一位ですらないんです。これって動物以下ですよね…………ねえ、動物以下の私の命の価値ってどの程度なんでしょう?  ああ、飢餓地帯の子供達と私の命の違いがわからない……教えて! 私はなぜ生き延びてるの!!??」
 その問いへの答えはない。助けた男たちもまた、エステルの迫力によって固まっているのだ。
『エステル! そこでストップよ!!』
 エステルの脳裏に響く制止の声。瞬間、共鳴が解かれて泥眼がするりと実体化し、男達を立ち上がらせて駆けつけた仲間に預ける。なおもふらふらと従魔を探そうと歩み出すエステルを追いかけながら、泥眼は振り返って言った。
「お二人とも、今の言葉は忘れてね。……覚えていても良い事無いから」
 あ、はい。――男たちが返せたのは、それだけだった。

「変顔ってどんな顔の事なんでしょうか?」
 泥眼から託された男たちを近くの店に預けたマクフェイル ネイビー(aa2894)が、首をかしげる。
「私もよくわからないけど変なんじゃない?」
 リーフィア ミレイン(aa2894hero001)も、首をかしげる。
「私達には難しい話のようですね……」
「そうね……」
 ロマンチックを壊すというのがピンとこないらしく、二人とも困り顔で商店街を駆けてゆく。と、眼前にぼっちの女と、男の従魔。今まさに――手を取った。
「! いけない!」
 ロマンがどうとかはわからないが、なすべきことはわかっている。マクフェイルは駆け寄って従魔を引きはがし、割って入る形で眼前に捉えた従魔を睨みつけた。その言い表せない鬼気を感じ取った従魔の動きが固まり、その隙にリーフィアが女の手を引いて先ほどの店に駆け込んでゆく。
「人をたぶらかすのも、ここまでです……!」
 共鳴。瞳が赤に染まり、細身の剣が幻想蝶から取り出される。実体化するかしないか、というほどの一瞬で音もなく両断され、崩れ落ちていく砂糖菓子。爆発しないでよかった、と、混じりあった意識は安堵する。皆の安全と、リーフィアの安全を守れたことへの安堵。
 ふ、とマクフェイルの瞳の赤が失せる。目を閉じて開くと、リーフィアがしゃがみ込んで従魔の残骸を集めていた。マクフェイルもしゃがみこみ、ざくざくと塊を小脇に抱えていく。
「思ったより多いですね」
「袋を持ってくればよかったでしょうか……」
また二人が困り顔になっていると、軽いクラクションの音が後ろから聞こえてきた。残骸を集めて回っている、太郎と鈴花の軽トラだ。
「おー、派手にやったな! 残ってるやつがあったらこっちに積んでくれ」
二人からシャベルを借り、残骸を軽トラの荷台へ積み込む。ふと見渡せば、他にも残骸があちらこちらに散らばっている。
「一人より二人、二人より……」
「ええ、四人ですね」
マクフェイルとリーフィアはうなずきあい、太郎たちぼっちたちへの呼びかけと誘導を手伝いながら、破片を拾い集め始めた。

 商店街の出口、つまりもう一つの端では、それ以前の問題を抱えている者がいた。
「ふむ、ロマンティックと言えば男女の愛の姿……女役は麟殿で良いとして男役は……」
もっさりしたジャージ姿の女性にちょい悪オヤジがロマンチシズムを説いている。骸 麟(aa1166)と宍影(aa1166hero001)だ。この二人、出動時のブリーフィング中に肉まんを食すことに夢中になっており、話を半分どころか一割聞いているかいないか、の状態だった。そのため、
『……確か今回の従魔にはロマンティックな雰囲気が有効だと言った様なことでござった』
『ロ、ロマンティック!? オレに出来るかな?』
肝心な止め方の部分を、正反対に記憶しているのである。
「おお、ここにイケメンなマネキンが! これで万事OKでござる」
「宍影、何でそんなもの持ってるんだ?」
「そこの店からお借りしてきたでござる。あとで返すゆえ、あまり無茶はできませんな」
「……それを相手にどうするんだ? そういうの、さっぱり分からないぞ」
「確かにちょっとセリフを考えるのは難しいでござるな……では、某(それがし)が頭の中でセリフを入れますから、そのまま口に出せば良いでござる」
「おお!」
 そうと決まれば話は早い、と麟と宍影は共鳴する。そこに現れたのは、忍び装束をまとったくノ一。そして背後にちょい悪おっさんの幻影。マネキンと手に手を取って、麟は頭の中に響くセリフを語りだした。日ごろの鍛錬か声は通っているが、ひどい棒読みである。
「なな、ナオヤ、ど、どうしてここに?」
『麟、君のことが忘れられなくて困る』
「……なんだ!? ナンパ野郎じゃねえか! ストー、じゃない、えー……リンキミノコトガワスレラレナクテ……」
『次は麟殿の台詞でござる』
「《そうなんだ? ぼくの事忘れてたと思ったよ。だって、メッ……》……えー、宍影? 誰だよコレ?」
『麟殿に決まっているでござろう』
「……オレ? オレはこんなに女々しくない!」
 傍から見れば、筋の通らぬ独り芝居。それを、マネキンを振り回しながら鬼の形相で演じる女忍者。その珍妙な光景に、通りがかりの従魔が一体、見事に固まった。
「は!? ……骸虎山破!!」
 一発。胸を貫かれ、二つの物言わぬ菓子の山ができあがる。
「……今、固まったぜ……ふふ、オレの演技も捨てたもんじゃないな。だよね?」
『ううむ……どうも反応が変でござる。見てはいけないものを見た、みたいな顔をされた気が』
「そんな事無いだろ宍影。次行くよ」
 結果良ければ全て良し、知らぬが花のたとえもあるさ。共鳴したまま、二人は次の観客を探しに駆けていった。

 一方、意図的にボケをかます者もちゃんといる。
「チョコとかけまして」
「かけるデス?」
「ロマンティックと解きます」
「溶きチョコ? その心は?」
「昼ドラのようにドロドロです」
 ワーオ! とキャス・ライジングサン(aa0306hero001)は、鴉守 暁(aa0306)の謎かけにおおげさに驚愕してみせる。二人の視線の先には、ぼっちの男と従魔の女。手を取るにはまだ少しかかりそうだが、何歩か相手と距離がある。暁は大きく息を吸い込み、ぼっちの男を指さして啖呵を切った。
「ヘイそこのいかにもチェリーなボーイ!」
 暁の挑発に、従魔の媚態にやにさがっていた男が眉間に皺を寄せてこちらを振り向く。暁はその表情を意に介さずまくし立てた。
「そっちのチョコに抱きつかれると死ぬぞー。大人のおねーさんに抱き着かれるチャンスを失い、チェリーのまま死ぬ気分を考えろー」
 その言いぐさに怒りで顔を赤くした男に、暁はとなりのキャスを指差した。
「さあ、義理でよければこっちのチョコ食べて生きるという選択はどうかな!?」
 そう言うと暁は、キャスの豊満な胸の谷間にあらかじめ買っておいていたチョコをきゅ、と押し込む。腕に押され、むにゅりとチョコを押し潰す、両の柔肉。
「カモンボーイ。チョコだけにチョコっとダケド抱き締めてあげるデース」
 爆乳の甘い誘惑に男は魅了され、弾かれたようにキャスに走り寄ってきた。従魔は寒いダジャレを理解できなかったのか、慌てたように男へ追いすがろうとする。爆乳がロマンを阻害するのか、その動きは先に比べてはるかに緩慢だ。
「! ちょーっと待っててね!」
 追ってくる従魔を見て取り、暁とキャスが共鳴を行って男を背に庇う。そして従魔に向けて放たれたファストショットは、頼りない砂糖菓子のブーツを撃ち抜いた。姿勢を崩したところへ続けざまに放たれるヘッドショットが、アイシングで滑らかに整えられた頭部を吹き飛ばす。直後、ばごん! と大きな音をたてて全体が四散した。共鳴を解いても、二人にべったりとクリームがくっついている。抱きしめる際に男は嫌がるどころか幸せそうなのが、まだ救いかもしれない。
「抱きしめる以上は別料金だからねー、気がすんだらささっと避難しちゃってよ。このあと合コンあるらしいし」
 合コンは確定事項ではないし二人は参加するとも言っていないのだが、男はその単語に弾かれたように顔を上げ、一礼すると商店街の外へと駆けて行った。やれやれデース、と顔を拭きながらキャスがつぶやき、暁がうなずく。
「そういうお店とか、バーとかに行けばいいのにね」
「クラブのおにーさんおねーさん優しいヨネー」
 ぼっちたちの底知れぬ日々のさみしさを知ってか知らずか、二人はあっけらかんとそう言ってのけ、次の従魔を探し始めた。

「殴ると爆発するナマモノなんて、非常に面白いですね!」
 男の娘 マグロを持って 仁王立ち。
 綺麗に五七五で決まるレオン シュヴェルト(aa3097)のありさまたるや、顔立ちや振る舞いがいくら麗しくとも、ロマンチックでは絶対に、ない。
「ではでは! 敵を探しにまいりましょう!」
 既にその数を減らしつづけている従魔を捕捉すべく、マグロと共に商店街を駆け抜けてゆく。道々で出会うぼっちたちには、真心こめたチョコレートを渡してお帰り願うのも忘れない。
「真心が籠ったチョコレート、貴方に差し上げます」
「貴女のような可愛らしい人に、是非受け取ってほしいです」
 男性には少女の、女性には少年の顔で微笑むレオン。
「――お家に帰って、じっくりと味わってくださいませ!」
 その姿に、ぼっちたちは思わず微笑み返して避難していく。それに笑顔でうなずき、レオンは手近な従魔に突進してマグロを振り抜く、のではなく槍で突き刺す。AGWでない武器は従魔に有効打を与えられないためだ。しかしそのためか、従魔がロマンチックを壊されて固まるのが一瞬遅れた。

 ばっこーん。

 勢いもあって、レオンは盛大に爆発したケーキとクリームを真正面からかぶってしまう。しかしそれを意に介さず、彼は再びマグロを手にして走り出す。
「さあ! 次はどこですか!」
 クリームまみれのロング丈メイド服の少年。次に狙いをつけた従魔は、今度こそ一瞬で固まり、さらなるクリームまみれの悲劇は起こらなかった。マグロが役に立っているかどうかは、このさい横に置いておいたほうがいいだろう。

●合コンするのかしないのか
 かくしてリア充を騙る従魔は討滅され、あとには嘆くぼっちと菓子の山が残された。
「なんと言うか…虚しさばかりが残る任務でした」
「主にはやはりロマンティックさの欠片も無かったという事が証明出来た訳だが」
菊次郎とテミスのやりとりが今回の事件を要約する中、事態収束の報を地元エージェントに入れ、被害状況を確認しあう。ようやく間違いに気づいた麟と宍影は、微妙な表情だ。
「……納得出来ないぜ。瓢箪から駒って言うの? ……あ、これ逆の意味か」
「珍しく合ってるでござる……」

 太郎は軽トラに積んだ残骸、つまり菓子の再利用を提案したが、衛生上の問題で食品として提供する案は却下された。しかし、
「合コン……街コンか、この場合。これについては日を改めて、商店主たちに掛け合おう。」
 そう微笑みと共に返された地元エージェントの言葉に、太郎は大きく頷く。
「うむ、今回の経験を生かして、次は彼や彼女達にも仲のいい異性ができるといいな!」
「太郎さんは参加させませんけどね」
 鈴花の重いものを背負った微笑みも意に介さず、はっはっはと太郎は笑ってみせた。重かろうが軽かろうが、彼は楽しければそれでいいらしい。

 次の時こそは、彼らと彼女らに真実の幸いあれ。
 甘い匂いが漂う、されど本当の甘い空気にはまだ少し遠い街角に、誰かのそんな祈りが聞こえた気がした。

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結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • ようへいだもの
    鴉守 暁aa0306
    人間|14才|女性|命中
  • 無音の撹乱者
    キャス・ライジングサンaa0306hero001
    英雄|20才|女性|ジャ
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
    人間|25才|男性|命中
  • パスファインダー
    テミスaa0866hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 悠久を探究する会相談役
    エステル バルヴィノヴァaa1165
    機械|17才|女性|防御
  • 鉄壁のブロッカー
    泥眼aa1165hero001
    英雄|20才|女性|バト
  • 捕獲せし者
    骸 麟aa1166
    人間|19才|女性|回避
  • 迷名マスター
    宍影aa1166hero001
    英雄|40才|男性|シャド
  • 習うより慣れろ
    マクフェイル ネイビーaa2894
    人間|24才|男性|防御
  • レディ
    リーフィア ミレインaa2894hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • ハートメイト
    レオン シュヴェルトaa3097
    人間|14才|男性|回避



  • タナカ棒発案者
    田中 太郎aa3310
    人間|22才|男性|回避
  • エージェント
    鈴木 鈴花aa3310hero001
    英雄|18才|女性|シャド
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