本部

戦(や)らないか?

睦月江介

形態
ショート
難易度
不明
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/10/01 21:48

掲示板

オープニング

●変態よりなおタチが悪い
 薄暗く、埃っぽい路地裏。大都市の裏に無数に存在する退廃の温床、その中でも比較的開けた一角。
 その中心で、熱い吐息が漏れる……そして、そこに佇む人間のように見える何か。

 真夏の炎天下に熱気を撒き散らすその様子は、周辺をナワバリにしている不良達からすれば不快以外の何者でも無いだろう。
 耐えかねた若者が一発殴ってやろうと人型の熱源に近づく。それに気付いたのか、大きく歯をむき出して笑う影。
「おいそこの暑苦しいデカブツ!」
 近づいてみれば、想像以上の巨体だった。振り上げかけた拳が相手のあまりの迫力に引っ込んでしまう。
 巨大な影は、鈍重そうな見た目とは裏腹に無駄の無い素早い動きで腕を振り上げ、若者の肩をがっしりと掴む。
 笑みを浮かべたその顔が眼前に迫る。吐き出される熱は、それが恍惚から来る熱気だと一瞬のうちに理解させてしまう熱さ。
 振りほどいて離れようにも、万力のような力で全く動かすことが出来ない。
「な、何なんだよ、お前何なんだよ!?」
 パニックに陥り、わめき散らす若者にその巨人はただ一言、話しかけるのみだった。

「なぁ少年……戦(や)らないか?」

 たまにこういった場所に出没する変質者ならまだ良かった。巨漢は若者の方を放してゆっくりと距離を取り、気合と共にただでさえ巨大だった肉体を更にパンプアップさせる。
 一瞬のうちに服が吹き飛び、黒光りする鋼の肉体が露になるが、その筋肉のつき方や骨格は明らかに人間のそれではない。
 更に良く見れば熱ばかりでなく時折炎を体から迸らせている。暑苦しい巨人が、その瞳を真紅に染めて、若者を見る。

「なぁに、少年……心配することは無い」
 巨人が振り上げた拳が真紅に燃え上がる。

「痛いと感じた頃には死んでいる」
 悲鳴すらも焼き尽くすほどの火柱が上がり、廃墟の空を貫いた――。

●猛暑の鉄火場
「プリセンサーより愚神出現の情報が入った、事態は急を要する」
 HOPE敷地内、能力者が集められたブリーフィングルームに炎天下の中走ってきたためだろう、ぐっしょりと汗に濡れた職員が駆け込んでくる。
「この暑い最中はた迷惑な話だが、愚痴を言っている時間も惜しい。さっそくで悪いが説明に入るぞ」
 プリセンサーが察知した出現ポイントが、モニターに映し出される。
「さっきも言った通り、愚神出現の『未来』をプリセンサーが察知した。時間帯は昼間、出現ポイントは町外れの裏路地だ」
 能力者達の前に展開された地図が示すのは、いくつもの路地が入り組んだ廃墟の一角。
「デクリオ級の愚神で、識別名は『バーナー』。二体のミーレス級従魔を指揮下に置いている。人々のライヴスを食らわんとじきに活動を開始するだろう事は想像に難くない。
 まず手始めに周辺にたむろしている不良や浮浪者、次は中心街の人々を狙うだろう。幸い今すぐ出動すれば被害者はゼロの状態で状況を開始できる。プリセンサー様様だ」
 だが、問題はそこではない、と一つ間を空けて、今度は周辺の写真をモニターに映し出す。
「……今回の愚神は、非常に厄介な性質を持っている。常に高熱を纏っていて、ゴミ等が多い廃墟に出現するため大規模な火災に発展する危険がある。愚神の気を引いて、なるべく街の中心部から遠ざけてくれ。幸い、相手はその為に役立つであろう性質を持っているようだ」
 職員は、話をするだけで暑苦しい、とでも言いたげにそれを伝える。
「どうやら『バーナー』は相当な武闘派のようで強そうな奴……具体的に言えばガッシリした男との1対1の戦いを好む性質があるようだ。逆に小柄な少女などの一見して弱そうな相手にはダメージを与えられない限り見向きもしない。基本的には強そうな男を追うだろうから、その性質をうまく生かして戦場をコントロールしてくれ。君達が愚神を引き付けられれば、万一火災が起きても被害を最小限に食い止めることが出来る。君達にばかり無理をしてもらうようで申し訳ないが、どうか頑張ってくれ」
 現場は季節はずれの猛暑なので、そのうえ炎をまとう暑苦しい愚神との戦いは辛いだろうが、と彼は苦笑する。だが、すぐさま表情を引き締め説明者は一同をぐるりと見渡した。
 何度も言うようだが、事態は急を要するのだ。
「愚神を放置すれば、それだけ被害が増え続ける……『バーナー』も最初は強そうな人間だけでも、遠からず見境なく人を襲うようになるだろう。成功を祈るぞ、能力者と英雄諸君。グッドラック!」

●ヒート・スタート
 カチリ、と時計がプリセンサーが告げた時間を指す。
 HOPE支部のワープゲートから現場に急行した能力者達が視線を向けるのは、薄暗く埃っぽい路地裏。その先のわずかに開けた一角に立つ巨大な影。
 陽炎が揺らめく中、それが凶暴な笑みを浮かべてこちらを向く――!

解説

●目標
 デクリオ級愚神と従魔達の討伐

●登場
デクリオ級愚神『バーナー』
 黒光りする鋼の肉体を持つ巨漢。時折肉体から炎を吹き出し、炎を纏った拳を武器とする。
 人語を解すが極めて好戦的で戦うことしか頭に無い為、話し合いはほぼ不可能。
 物理攻撃力が高め。肉弾戦に特化しており、魔法防御は低い。
・ヒートパンチ
 近接(物理)、単体対象。
 命中した対象へ激しい火傷を負わせ、バッドステータス減退(2)を付与。
・ソウルバーニング
 自分を中心に10m範囲に高熱と炎を撒き散らす魔法攻撃。
 ダメージはないが、命中した者へバッドステータス衝撃を付与する可能性。


ミーレス級従魔『フレイムダンサーズ』×2
 バーナーの指揮下にある従魔。リプレイ開始時はバーナーの後ろで戦場を盛り上げるかのように踊っている。
 大きさは成人男子程度、炎が人の形を取ったような姿をしている。
 知性はほぼなく、バーナーの指示により1対1の勝負の妨害をさせないように動く。
 踊るようなステップで攻撃を仕掛けてくるが、動きそのものは単調。
 物理攻撃力と素早さに優れるが、防御面は脆い。
 
消火班
 HOPEの味方。戦闘圏周辺の避難誘導や消火活動を一手に担ってくれる。(基本的には事後処理につき戦闘不参加)
 シナリオ開始時から作戦を開始する。

●状況
 裏路地の一角、多少は広い。
 時間帯は日中。晴れ。
 PC達は戦闘専念可能。事後処理のために消火班が追って出動する。
 リプレイは愚神達とほぼ1ターンでエンゲージできる場所から始まる。事前に罠を仕掛ける、あらかじめスキルを使っておくなどは不可能。

リプレイ

●準備と結果
 紅蓮の炎を吹き上げる魔人『バーナー』は無計画に突撃していた場合恐ろしい強敵と化していただろう。その黒光りする鋼の肉体が示すように高いタフネスを誇るため、相手が望む1対1の戦いでねじ伏せるのは困難を極め、更に狭い路地裏ではその巨大な拳から逃れる術が無い。オマケに取り巻きのこれまた暑苦しい人型の炎が多対1の展開をさせまいと妨害する。これだけの悪条件をひっくり返したのは、事前の準備だった。
 ワープゲートから現場へ急行するまでのわずかな間に、大宮 朝霞(aa0476)が戦闘に適した場所をスマートフォンを使って割り出し、囮を務める予定のDomino(aa0033)に伝える。正確には彼と行動を共にするMasquerade(aa0033hero001)が1人で引き受けるのだが。
 作戦としては極めてシンプル。Masqueradeがバーナーを引き付け、誘導。その間に残る能力者達が速やかに取り巻きのミーレス級2体を撃破、しかる後に合流しバーナーを掃討するというものだ。だが、そのシンプルさゆえに初任務の者も多く、急遽集まったことで連携にも不安が残るという状況をカバーすることが出来ていた。まったくもってプリセンサーと情報社会様様だが、わずかな時間を生かして地図情報と作戦を共有するという無駄の無い行動が、作戦の結果を決定したのだった。

●暑苦しい戦いの開幕
 実際に現場に到着した能力者達がバーナーそしてそれを称えるかのように踊る人型の炎『フレイムダンサーズ』の姿を見て、そして撒き散らされる熱気を肌に感じて抱いた感情はある程度の差異こそあれど、基本的に同じだった。すなわち――『暑苦しい』。
「暑っ苦しいヤツだねお姉ちゃん」
 イリス・レイバルド(aa0124)が自身と共にある英雄アイリス(aa0124hero001)に語りかける。幼い少女の率直な感想なので微笑ましく思えない事もないが、口にしてほしくは無かった。口にすると余計暑苦しい。
「全くもって同感じゃな」
 ナラカ(aa0098hero001)もうんうん、と同意する。彼女が本来の姿で有する炎は比較にならない、と豪語するものの、それとこれとは話が別だ。暑いものは暑い。
「のんきな事を言っている場合か。どうも品定めを始めたようだぞ」
 八朔 カゲリ(aa0098)が至極全うにパートナーにツッコミを入れる。そう、この立っているだけで汗が吹き出る廃墟の区画は、既に戦場なのだ。黒光りする巨人は、案の定Masqueradeに目をつける。
「ウホッいい漢(オトコ)! そこなペンギンのような姿をした御仁よ、この俺と戦(や)らないか?」
「ほら、思ったとおりご指名されてるッスよ、つーワケで、王様Goッス!」
「うむっ! 我が民草を燃やそうなど不届き千万。帝王たる余が直々に相手をするのは道理であるな! その挑戦受けて立とう!」
 パートナーのDominoともども、今回たまたまバーナーの興味を引きそうな体躯をしているのがMasqueradeだけとはいえ、単独での囮という危険な任務に対して彼らは意外と乗り気だった。
(こういう危険な役割程給料が良いらしーッスからね!)
 Dominoの方の理由は若干ゲスい感じもしたが、言わぬが華というものだろう。
「よろしい、では存分に拳をぶつけ合おうではないか! 他の者どもはこの俺とペンギン男との逢瀬を邪魔しないように人形とでも遊んでいるが良い!!」
「むぅおっ!? 何だ!? この暑さで寒気が!」
「あ、それは全然フツーなんで問題ないッス、王様。大丈夫ッス、ちゃんと自分も共鳴化してサポートするッスよ! とりあえずこっちッス、この先が多少開けていて被害も少ないはずッス!」
「此方も手早く片付ける気だが、それまで耐えて見せろよ」
「心配ご無用ッス、これでも頑丈ッスから」
 カゲリの心配の言葉に、Dominoは自信に満ちた表情で答える。誘導とMasqueradeの囮が機能して、中心街から戦場は離れて行くのを確認するが、すぐそばにまた別の高温発生源が2つ。『バーナー』の指示によって踊りながら迫ってくるこの人型の炎をどうにかするのが次の問題である。こいつらの撃破が遅れると囮が危なくなる……急がなければ。
「敵は三体だけ、周囲の破壊は抑える、いいな……どさくさに紛れてガラスとか割るなよ」
『ちぇ、わかりましたよーだ』
 鹿島 紀子(aa0106)とベル・Q・シルバー(aa0106hero001)のこんなやりとりがあったりすると、実際張り詰めていた緊張も少し緩むが、それすらも良い影響となるのが『心の強さ』というものなのかもしれない。

●踊る炎と能力者
「……実際に愚神と戦うのは初めてか。大丈夫かな? あたし上手くやれるかな? どう思う、お婆様」
 佐々井 柚香(aa0794)がわずかに不安の色を見せるが、お婆様と呼ばれた相棒のタヴィア(aa0794hero001)はそれに対してしっかりと勇気付ける言葉を返す。
「……柚香なら上手くやれるさね、自信をお持ちよ。あんたは他ならぬわたしがこれと見込んだ逸材なんだからね」
 そして、信頼の形は1つではない。カゲリとナラカ、鹿島とベル、イリスとアイリス、大宮 朝霞とニクノイーサ(aa0476hero001)、それぞれに強い信頼で結ばれている。
「だってボク一番小さいから親玉から狙われようがないんだもん!」
『まあ、囮役は私たちの背丈ではしょうがないね』
「……取巻き、さっさと倒して合流しよっか」
「同感じゃな、兵は拙速を尊ぶ、とも言うしのう」
 イリスの言葉に同意するナラカ。相棒のカゲリはといえば、もう剣を構えて踊る炎と対峙している。今はゆらゆらと揺れているだけだが、動きを見せればすぐに共鳴するだろう。
『朝霞、おまえ本当に戦えるのか? 喧嘩もした事ないのだろう?』
「大丈夫よニック、問題ないわ。今日から私は、世界を守るヒロインになるのだから!」
 朝霞はニクノイーサをニックと呼ぶ。
「さぁ、共鳴よ! 変身! マジカル☆トランスフォーム!!」
『……その掛け声、やめようぜ』
 朝霞は早速ニックと共鳴状態になり『聖霊紫帝闘士ウラワンダー』(自称)に変身。目をバイザーで隠し、白とピンクを基調とした宝●の男役を思わせる中性的な衣装を身に纏う。
 ニックからすれば相当恥ずかしいのだが、ノリノリの本人を見ていると悪く無いと思えるから不思議だ。
「さぁ、いくわよ!」

●いざ、熱く踊れ
 ごう、と高熱を振りまきながら踊るようなステップで突撃してくるフレイムダンサーズの一撃を、イリスの盾がガッシリと受け止める。更に、小さな体で成人男性ほどの大きさがあるそれをあろうことか逆に押し込んで圧力を加え、動きを止めて見せたのだから敵に表情があれば驚愕していたことだろう。
「お姉ちゃんの教えひとーつ! 盾も攻撃に活用しろ! 小さいからってなめてると……ひき潰すぞッ!!」
「良い気迫だ。それと……こいつらの動き、確かに速いし踊っている分トリッキーに見えるがやはり単調だな」
 この程度ならば落ち着いて対処すれば十分に避けられるし当てられる、と付け加えて銀髪を揺らし、真紅の瞳で分析しつつ敵に一撃を加えるカゲリ。ナラカと共鳴しているが故のその姿は、戦場にあって幻想的なほど、美しく見えた。
 無論、それで黙っている敵ではない。もう1体のダンサーズが報復と言わんばかりにカゲリに踊りかかるが、横合いから柚香が放った銀の魔弾が直撃し、その一撃は届かない。
「……きちんと自分の役目を果たすからさ、あたしに任せて」
 最初はアイリスとカゲリが交戦していたダンサーズから、1体ずつ片付けるつもりだったが不意の一撃にひるんだチャンスを逃す鹿島ではない。すかさず目標を切り替え、ヘヴィアタックの一撃でダメ押しする。
「悪いがダンス鑑賞の時間は無いな。ぶちかまし……」
『サ・プ・ラーイズ! あっははは!』
「……あー、ベルめ、勝手に出てきたな」
 共鳴が深くなり、ベルの人格が表に出始めて鹿島は頭を振る。真面目な性分ゆえか、はたまた肉体のコントロールに違和感があるからか、悪戯好きなベルの意識が強いこの状態はどうにも好かないのだ。
『いいか朝霞、味方の動きに合わせて攻撃するんだ。味方と連携すれば、へなちょこなお前でも戦える』
「わかったわニック! てぇーいっ!!」
 重い一撃を立て続けに受けて踊っているわけでなくふらついているのが分かるダンサーズに、更なる追撃を加えんとする朝霞。その素早い動きで能力者達同様に止めに入ろうとする残りのダンサーだが、しっかりとイリスが押さえていたために、そのカバーが間に合うことはなく、そのままトドメの一撃となり消滅する。
 最初から2対5という数の不利があったことに加えて、主の1対1を妨害させないために互いをカバーしていたダンサーズは、残り1体のただのダンサーになった時点で、既に敗北は決定的なものになっていた。鹿島がわざと繰り出した大振りの一撃の囮にまんまと引っかかり、動きが止まったところに柚香が2発目の銀の魔弾を命中させ、今度はイリスが一撃を加える。もはや結果が見えた、というところですかさずカゲリが先行する。
「後はもう倒せるだろうから、俺は先にあちらに回る」
 ぶっきらぼうな物言いだが、これも彼なりの言外の信頼の現れである。
『全く、素直ではないな。まあ、それも我が覚者(マスター)らしいといえばらしいが』
 ナラカは覚者(マスター)たるカゲリを気に入っている。この不器用さも、どこか可愛いものだと苦笑してしまうのだ。だが、笑うのは後でも出来る。今は、1人戦場を支えている仲間を助けに行かねばならない。想像よりも素早く残りのダンサーの始末を付けた仲間と共に、駆ける。灼熱の魔人は、まだ健在なのだ。

●燃え上がる魂
「バーナーとやらよ。貴公に余は倒せぬ。絶対に……である!」
 Masqueradeはこういった挑発を繰り返して、うまく誘導を行っていた。だがそのバーナーの思考回路までは想定できなかったようだ。こうした挑発に悔しがり、いきり立ってくるかと思っていたのだがむしろ逆だったのだ。
「ハッハー!! うれしい事を言ってくれるではないか。ならばこの熱く燃える拳、何度叩き込めるか試してやろう!!」
 強敵の存在に喜び、歓喜のままに向かってきて燃える拳が打ち込まれる。その身を焦がす火傷のダメージもバカにならず、ケアレイの光をもって肉体を癒すが、既に最後の1回だ。流石に単独でデグリオ級相手は厳しい。
「そしてぇ! 迸れッこの熱い魂!!」
 気合とともに撒き散らされる高熱と炎。流石にこれら全てを一身に受けきる事はできず、周囲にはわずかだが焦げ臭い匂いが漂い始めていた。熱と火傷で一瞬意識が薄れたところにぽん、と触れる手。二人の戦いにいち早く、不意打ち気味に飛び込んだカゲリは、まずはDominoに労いの言葉をかける。
「良く耐えた、とだけは言っておくよ。疲れたなら退いても良いぞ?」
「なに、この程度、帝王たる余にはどうということは無い」
「あ、じゃあお言葉に甘えてちょっと下がらせてもらうッス。強がっていても結構きついのが実情ッスから」
「何をいう、我が従者よ! この程度であればまだ……」
「一休みして部下の仕事を見守るのも、王様の大事な仕事っスよ」
「それもそうであるな! 部下の見せ場を作るのも帝王の仕事として重要である」
 単純なMasqueradeをDominoはちゃっちゃと丸め込み、一度下がる。代わって前に出るのはカゲリ、鹿島、そしてイリス。朝霞も飛び込もうとするが、ニクノイーサがそれを諌める。
『奴の能力をよくみろ。朝霞では接近戦は危険だ。それにまずは仲間のフォローが先だ』
「そうね、ここまでお疲れ様、Dominoさん。みんな、西の方へ! 建物が少ないから最小限に被害を抑えられる!」
 ケアレイで回復し、同時に火の手が上がり始めている状況を判断してこの一角の中でも更に被害を押さえ込めそうな場所を進言する。これも事前に頭に地図を叩き込んだおかげだ。
「はいよ。強いおねえさんは、好きですか? なんてな」
 鹿島がヘヴィアタックの一撃で、バーナーの意識を自分に向けさせる。したたかに殴られたバーナーの口から、歓喜の熱い吐息が漏れ、邪悪な笑みを向ける。
「……オンナだからってナメてたろ? 甘いんだよ」
 鹿島の言葉に更に説得力を持たせるかのごとく、最後の銀の魔弾がバーナーを捕らえる。柚香だ。
「……あたしの魔法がどこまで通じるか。ここで試させて貰うよ!」
 実際のところは、試すまでもなく十二分に通じている。これまでの魔弾は全て、倒すまでには至らずとも撃破のための大きな決め手になっているのだ。強敵が増えたことで、再び歓喜の声をあげるバーナー。来る、と判断した者達はすかさず後ろに控える者達の盾になった。アイリスの的確な指示を受けて盾を構えるイリスと、鹿島だ。
『意識を防御に集中、盾を前面に構えて、脚に力をこめて大地に喰らいつけ。その際味方への射線を防いで壁になれればベストだ、爆発……くるぞ』
 吹き荒れる熱風。だが、それ自体に殺傷力はない。能力者たちはみな、熱さに顔を歪める程度だ。
「この程度、サウナみてえなもんだ……」
 この熱風が、文字通り最後の魂の迸りとなった。圧倒的な頑強さを誇るバーナーといえど、5対1の集中攻撃には成す術もなく巨大な火柱となって消滅したのだった……そして、最後の波状攻撃の差異にわずかに向けられた言葉。
「――戦りたいんだろう? なら殺られても文句はないだろう」
 というカゲリの言葉にすら笑みを返したバーナーに、全員が戦慄を覚える。ただ、戦うことにのみ執着し、滅ぼされることにすら満足するという精神は、黒光りする鋼の肉体よりも、紅蓮の炎よりも、恐ろしいものだった……。

●戦い終わって
 戦いが終わり共鳴が解除されると、イリスは戦闘中が嘘のように姉の後にサッと隠れてしまった。
「えと、お…お疲れ様、です」
 脅威が去り、互いに労をねぎらう能力者の面々。合流した時点で火の手が上がり始めていたため心配された火災も、消火班の活躍もありボヤ騒ぎ程度で済んだ。避難していた人々から感謝の言葉を浴びるが、正直疲労と暑さで適当に返さざるを得なかった。
 鹿島はこういう時こそ甘い物、と好物のべっこう飴を取り出そうとするが、ポケットがベタベタした。
「くそ、ポケットのべっこう飴、溶けてやがんの」
 仕方が無いだろう。高熱を撒き散らす愚神との戦いで溶けないべっこう飴などというものがあれば、もはやマジックアイテムである。
『アイス! アイス食べよう! あついー!』
 暑い暑いと文句を言いまくるベル。だが、気持ちはこの場の全員が良く分かる。
「……しゃーない、買って帰るぞ」
『さて、怪我人もいるだろうし治療と休養を取りに帰ろうじゃないか』
 アイリスの言葉を受けて、全員戦場を後にする。その向かう先は、何故か全員HOPE支部ではなく近くのコンビニだった。凶暴なまでの高熱を撒き散らす愚神には勝利した能力者達だったが、この暑さの中、アイスの魅力には誰一人勝てなかったのだった……。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 罠師
    Dominoaa0033
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476

重体一覧

参加者

  • 罠師
    Dominoaa0033
    人間|18才|?|防御
  • 第三舞踏帝国帝王
    Masqueradeaa0033hero001
    英雄|28才|?|バト
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • エージェント
    鹿島 紀子aa0106
    人間|26才|女性|攻撃
  • エージェント
    ベル・Q・シルバーaa0106hero001
    英雄|14才|女性|ドレ
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 聖霊紫帝闘士
    ニクノイーサaa0476hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • 守護者の誉
    佐々井 柚香aa0794
    人間|13才|女性|攻撃
  • エージェント
    タヴィアaa0794hero001
    英雄|64才|女性|ソフィ
前に戻る
ページトップへ戻る