本部

この青で、塗りつぶされるように溶けて消ゆ

鳴海

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
4日
完成日
2016/01/31 00:02

掲示板

オープニング


 私は空を見上げる、抜けるような青空。濃い青が傘のように広がって、やがて薄く灰色がかっていく、そんな天井を私はずっと、見上げて生きてきた。
「もう、やめよう。こんな無駄なこと」
 針の音が響く。腕時計の電池を捨て。私は私の時間を止める決心をした。

 

 世界が遠ざかっていく。私を置き去りにそこかへ行ってしまう。
 地球が私を抱きにくる、重力という手足で私をからめ捕り、加速度的にその中心へ中心へ。
 わたしは名残惜しそうに伸ばされた手を引っ込めた。
 胸の前で小さく抱いて、まるで胎児のように体を丸める。
「私、死ぬんだね」
 そんな風に思ってみても実感が全くわかなかった。

 そして三秒後、私の体はミンチのようになるだろう。
 そして五秒後、私の魂は天に上り。
 そして八秒後、私をみつけた誰かが悲鳴を上げ。
 そして、十秒後。世界はまた、何事もなかったように動き始めるのだろう。

 ああ、なんで、なんでこんなことになってしまったのだろう。
 私は何か間違ったことをしただろうか、ただ他の人と同じように生きていただけなのに。私は、私は……
「ああ、神様……」
 どうか、まだ、声が届くなら。
 最後に恨み言を言わせてください。
「どうせなら、もっと、行きやすい世界がよかったな」
 
 私はそう、目をつむる、三秒後が迫っていた。
 私は最後、自分を襲うだろう体がはじけ飛ぶその感覚を待っていた。
 しかし、その瞬間はいくら待っても襲ってはこなかった。
 
「その願い、聞き届けよう」

「だれ!」

 私は周囲を見渡した。轟轟と耳元でなる風の音以外何もないその空間で、ただ目の前に蒼が広がっていた。
 そして私は、自分が異変に巻き込まれていることをしる。

「ああ、なんで、どうしてこんなことに」

 世界一面が青だった。上も下も右も左も、飲まれそうな青の世界に私はただ自由落下を続けている。
 地面が無かった、それどころか、私が飛び降りたはずの学校も。
「ああ、そうか、私、死ねないんだ」


「なら、せめて、この青に解けて消えたい」


   *   *


「今回の保護対象は『止処 梓(とめど あずさ)』だ」
 そう、司令官であるアンドレイは言った。
「現状彼女が囚われているドロップゾーンには愚神『アーネア』が住み着いている、その眷属も一緒にな」
 デクリオ級の愚神と、眷属従魔も極めて下級のミーレス級。戦闘自体は簡単だろう。
「あまり強くはないんだが。問題はそのドロップゾーンにある」
 現在アーネアが展開中のドロップゾーンは半径300メートル程度の円状のゾーンだが、足場がない。一面空だ。
「あるとすれば雲程度。触ると冷たいぞ、気をつけろ」
 そのゾーン内では下に重力で引っ張られることになるが。そのゾーンの端に到達すると、反対方向のゾーンの端から出てくることになる。つまり。
「一度入ると出れないし、一度堕ちると落ち続けることになる」
 そんな人類にとって不利と言える地形での戦闘に頭を悩ませていたH.O.P.E.だったが、そうも言っていられないことが発覚した。
「このゾーンを管理している愚神が、女子高生を気に行ったらしく、このゾーンの中に囚われているようなんだ」
 かれこれ三十時間程度は落ち続けているのだという。
「この少女を愚神の間の手から救いだし、アーネアを倒してくれ。対抗策はこちらで用意したから、戦闘も問題ない」
 そうアンドレイは、目の前に『翼』を並べて見せた。
「グロリア社の提供だ。今回限りの特別な品ってあつかいだからな。大事に使うんだぞ」
 そうアンドレイはニヤッと笑った。
 
   *    *

 梓の半生を一言で表すなら、可もなく、不可もなくだった。
 勉強はトップクラスにはなれないが優秀。素行もよく。運動部では結果は残せないなりに努力は認められ、後輩やチームメイトからも頼りにされる存在だった。
 礼儀正しく生きていた彼女だったが。
 しかし、この半年で状況が激変してしまった。
 愚神の進行。白い刃を煌かせた愚神の姿を彼女はみた。
 そして巨大な従魔が、母を丸呑みにしていくのも。
 それだけではない。家庭を失った矢先に彼女は学校での居場所も失うことになる。
 彼女に告白してきた同級生がいた、別のクラスのかなり人気のある男子生徒だったが。彼女はその告白を断った。
 理由は「今はそんな気分になれないから」
 彼女は両親の死から立ち直れずにいたのだ。
 その生徒自体はすぐに彼女のことをあきらめた、だが周囲が彼女のそんな態度を許さなかったのだ。
 その生徒をふったことが許せない。そう彼女は女子達から攻撃を受けることになる。
 そして彼女は学校での居場所も失った
 今、彼女を支配しているのは、喪失感です。
 家族も友達もいない、そんな自分がこの先生きていけるはずがない。
 そんな思いが彼女の中で大きくあるようです。
 このミッション、目標は愚神の討伐ですが。どうか彼女のことも気にかけていただけないでしょうか。

解説


目標 愚神の排除


デクリオ級愚神『アーネア』
 アーネアは鷹のような翼をもつ女性型の愚神です。かぎづめによる近接攻撃と。暴風による遠距離攻撃を行います。
 暴風を受けると強制的に遠くまで移動させられてしまうので気を付けてください。


眷属従魔
 巨大なコンドルです。くちばしと爪による攻撃が協力で、機動力が高く、回避力がべらぼうに高いです。
 むしろこっちのほうが苦戦すると思います。
 合計三体います。


 今回は足場がない永遠に落ち続ける空での戦闘です。

 リンカーたちにはいずれかの翼が支給されます。どれもこの特殊な空間でしか使用できず、長時間の使用には耐えきれない。 
 また共鳴したことによって翼の見た目が変わるのは日常茶飯事です。見た目を変更する場合はプレイイングにそう書いて頂ければそう対応します。性能は変わりません。
 また翼は攻撃を受けると破壊される可能性がある。


*ヴァイシュ・シュバルツ
 霊力を黒と白の粒子に変換し空を飛ぶ翼、鳥や天使の羽に近い見た目
《性能》 左右の動きに強く、上下の動きに弱い。移動力、イニシアチブに影響します。耐久力が低い。


*聖天六式開法翼・ウリエル
 機械の翼。またシールドを展開する機能があります。
《性能》 縦の動きに強く、また回避能力と防御力に影響。ただし耐久力が低い。


*エネルギーウイング・メギド
 肩に装着したデバイスから霊力を常に掃出し続けるエネルギーで空を飛ぶ。
《性能》機動力は一番低い。ただし翼自体に攻撃力があり、使用者の攻撃力に影響。耐久力も高く、一番壊れにくい。


*ウイニングダッシュシューズ
 羽の生えた靴。小回りがきき、なにより可愛いです。
《性能》上下左右の移動に強い、特殊な効果なし。また耐久力も高め。


『止処 梓』
 絶望して落ち続ける少女、彼女と対話し彼女が前向きに生きる気力を取り戻させて上げてください。

リプレイ


Amidst the blue skies A link from past to future The sheltering wings of the protector (青空のただ中 過去と未来の絆 護り人の力強き翼)

 ゾーンに入ると脳裏に昔読んだ戦争物の本の一文を思い出す。
 そう『天城 稜(aa0314)』閉じていた目を開いた。
 眼前に広がる空は広大で、見渡す限り何もない、せいぜいあるのは雲ばかり。
 そんな抜けるような空間に横たわるように稜はいた、全身で流れる風を感じている。
「これが、空か」
 ここが、空、見渡す限り何もない。
 落ち続ける空。抜けるような空。
 風が吹き上げるように稜を髪を、服を激しく叩く。
 その隣には『リリア フォーゲル(aa0314hero001)』がいた。
 少女は銀糸の髪を風で揺らしながら稜に微笑みかける。
 そしてその手をとり、つぶやく。リンク。
 眩い光が、蒼を引き裂くように広がりそして。
 鳥獣たちは敵の訪れを知った。
 戦闘開幕。この無窮の空を引き裂くためにリンカーたちが蒼穹に舞い上がる。
「空中のドロップゾーンを支配する女性型の愚神ですか? ……厄介な場所ですが、女性型となれば確認せねば」
――ああ、まったく小賢しい所に巣食っておる……膾に下して地面に盛り付けてくれようか」
「……しかし、なぜあの愚神は彼女を選んだのでしょう?」
――愚神らしい気まぐれで有ろうが。気になるのか?
 そう会話を繰り広げるのは『石井 菊次郎(aa0866)』と『テミス(aa0866hero001)』彼は水晶のような翼の生えた靴を着用していた。
 彼の瞳のように美しい色合いの翼だった。
 翼はリンカーによって姿を変える。それは本人の意思による場合もあれば無意識による場合もあった。
『八朔 カゲリ(aa0098)』はその翼をもってして空に佇んでいる、見つめる先には四つの点。遥か向うから愚神が迫ってきているのを見ていた。
 その背には黒焔の翼。
 陰炎を立ち上らせ、バチバチと爆ぜるそれは浄化の力を宿している。
――くるぞ
『ナラカ(aa0098hero001)』がつぶやいた。
「じゃあ行こうかって、うおわぁーーー!?」
 悲鳴が空にこだまする。
『流 雲(aa1555)』は重力の鎖にひかれ、まっさかさまに下へ落下を始める。
「雲っ!」
 それを『フローラ メイフィールド(aa1555hero001)』があわてて追いかける。
 その手を伸ばし、そして雲を割って堕ちた雲の手を取り共鳴。
 直後雲の内側で強い光が爆ぜる。綿あめのような雲を散らして、雲は翼をもつ共鳴の姿へと変わった。
「……流石にビビったな」
――共鳴して行けば良かったのに。そしたら大丈夫だったわよ?
「一度は空を飛んでみたいと思うのさ」
――……落ちてたんだけどね?
「いた、三時の方角に女の子。梓だ」
 稜が上空から指示を出す、今回彼は上空からの管制支援役だった、この油断すれば上下左右もわからなくなる青色の世界ではどうしてもそう言う役が必要になる。
――……少女? さて、私の目には映らぬが。
 ナラカが言った
「なっ」
 稜は言葉を失った、その少女が保護対象であるという話はナラカもきいているはずだったからだ。
――だが、それは覚者も同じであろう? 生に真摯ではない。それは即ち、意志も覚悟もないと言う事だ。あったとしても、単に死に向かうだけなら意味もない。私が求める輝きはないよ。 
 その言葉にカゲリは肯定を返した。
「……まあ、概ね同意ではある。 生きやすい世界なんてある訳がない。己は己としてしか生きられない。自分を殺す決意が出来るなら、不幸の一つにでも抗って見せろと言う話だ」
「ああもう、なんでそんなことを言うのさ。このままだった、戦場のど真ん中であのこを助けなきゃいけなくなるんだよ、その前にどうにかしないといけないのに」
「じゃあ、私が助けに行くよ」
 翼竜の羽から紫煙を立ち上らせて。『シエロ レミプリク(aa0575)』は翼をはためかせた。
「たぶん、あの子私と同じだ」
 猛スピードで突貫する彼女を相方の『ナト アマタ(aa0575hero001)』ですら止めることはできない。
――好きにせよ。
 半ば驚きで何も言えなかったナラカは静かにその背に言葉を預ける。
――私が言えるのはそれだけだ。
「接敵まで40秒……」
 稜が告げる。
「……手はず通り、私は従魔を狙いますね」
 魔銃少女レモンはその身華奢な見た目にあわない大口径の銃を構えた。
 彼女は『卸 蘿蔔(aa0405)』と『レオンハルト(aa0405hero001)』の共鳴時の姿であり、今回の対従魔線の切り札だった。
 レモンは両足を大きく広げて、ウィングダッシュシューズで体を安定させる。
「先行してシエロさんを援護します」
 その靴には靴から生える大きな翼は彼女の髪の色にもにた、美しい金の輝きを纏っている。
――あの子の気持ち、お前は分かるかい?
「まさか……あの子の苦しみはあの子にしか分かりませんよ」
 レモンは片目をスコープに当てる。この距離は敵の攻撃は届かず、レモンの攻撃は届く。
 彼女の間合いだった。
「速いな……」
「ええ、だからこそ……外しません」
 初撃はブルズアイを使用。16式60mm携行型速射砲が火を噴いた。敵がそれに気づき高速で旋回を始めたが、彼女の魔弾から逃れることは難しかったようで、従魔一体が体制を崩したのが見えた。
「命中! お見事です」
「いえいえ、そんなそんな」
 稜がほめると、レモンが可愛らしく照れ笑いを浮かべた、その隣で『谷崎 祐二(aa1192)』と『アヤネ・カミナギ(aa0100) 』の両名は青ざめて立っていた。
 遠めで見ていてもわかった体。敵は恐ろしく早い。
「今でも無事でいてくれたらいいんだが……」
 祐二が不安げにつぶやくと
――にゃ
そう『プロセルピナ ゲイシャ(aa1192hero001)』が励ました。
「えーと……戦闘時は、こう言わなくちゃ……天城 稜! エンゲージ! くるよ、思ったよりも早い!」
 稜があわてた様子で、銃を乱射する、しかしそれは接近する従魔に一発も当らない、敵の回避性能はかなりのものだ。みるみる距離が縮まっていく。
 目標は先ほど銃撃を当てたレモン。あの一撃で理解したのだろう、彼女の脅威を。
 従魔は矢のように突貫しレモンを目指す。
「あらら、おこらせてしまいましたか」
 レモンがにやにや笑いながら雲を見る。
「好都合さ」
 雲がレモンを下がらせ、従魔の前に出る。そしてアロンダイトを構えた。
「その爪が、簡単に届くと思うなよ」
 そう従魔を威嚇する雲の視線。
 異形の者たちは覚る。
 この者を排除しない限り勝利はない。
「従魔の方が速度が速い、いざという時少女を守れるように立ち回ってください」
 稜がそう言い。
「任せたぞ」
「検討を祈ります」
 カゲリと菊次郎は雲の脇を通過、愚神の元へ一直線にかけた。
「第二射行きますよ!」
「俺に当てるなよ!」
 レモンが告げ、雲が叫んだ。
 テレポートショットが従魔の死角から撃ち込まれる。敵の隊列が乱れた。
 祐二がその従魔を鎌の間合いでとらえる。
「逃がさん!」
 祐二はヴァイシュ・シュバルツの出力を最大に上げる、白と黒の軌跡を描きながら従魔に追従する。その爪を牙を、かまではじきながらも、必死にその動きを封じるべく肉薄する。
「六時の方向、いけない後ろだ雲さん」
 その言葉に雲はすばやく反応、靴でステップを踏むように反転、回し蹴りでくちばしを弾き、そしてその剣で翼を落そうと振るう、しかし攻撃は当たらない。
「あぶなっ」
 その攻撃のすきを狙ってもう一体、従魔が迫る、その爪は剣ではじいた。
 従魔が威嚇の声を上げる。それに追従してアヤネがその剣を振るった。
 金属質の翼からすんだ高音を響かせて、空を自在に飛び回る姿は壮麗の一言。
「く、ついていくのが精いっぱいか」
――動きをよく見て、当てるのではなく誘導して、そこに刃を置くように切るので

『クリッサ・フィルスフィア(aa0100hero001)』が語りかける。
 その言葉で、アヤネの目つきが変わる。
 フラメアを構えたまま、空中で静止、そして雲の背ならう従魔の目の前に瞬時に移動した。
「どれだけ機敏だろうと、向かってくるなら軌道は読み易く、此方から仕掛けるよりは当て易い」
 刺突、そして切り上げる斬撃、それは霊力を纏った銀色の線となり。従魔の羽を深く切り裂いた。
「注意をひきつけることはできているな……」
 アヤネと雲は背を預合い360°すべての視界をカバーする。
 その二人の周囲を死肉を狙う禿鷹のように二体の鳥獣従魔は旋回する。
 従魔三体は見事にリンカーたちが引きつけている、やがて愚神へカゲリと菊次郎が接敵するだろう。
 二対の翼が愚神の元へ走るのを、梓は淀んだ意識の中見ていた。
「ああ、ここは天国かしら、それとも……」
 地獄、そんな言葉を噛み殺し、梓は自嘲気味に笑った。そんな時だった。
 彼女の視界の端に、なにかが映った。
「あれは?」
「ハローハロー、ウチはシエロ!助けに来たよ梓ちゃん」
 シエロはその姿に心底驚き、目を見開いた、絶望と微睡などどこかに消え去りただただそれが近づいてくるのを見つめていた。
――……寒そう
 ナトがつぶやく。
「おっとそうだった! はい、まずはこれをどーぞ」
 シエロは少女をキャッチすると、魔法瓶の中に入れたココアを差し出した。
「え、あなたは?」
「H.O.P.E.のエージェントだよ、助けに来たの」
 そのして直後、カゲリと菊次郎が愚神と接敵した。
 まずは軽い一射。カゲリは双銃のにメギドの力を乗せて放つ。爆発的に加速した弾丸を、アーネアはやすやすと回避して見せた。
 その雄々しく広がる翼を見つめナラカがつぶやいた。
――禿鷹の眷属を従える鷹か。気に入らぬが、この幽世は悪くない。無窮の空とは中々に面白い物を見せてくれる。
「さながら、蒼穹の女王と言ったところですね」
 菊次郎がナラカに言葉を返す。
――この程度で王とは呼べんだろ、まぁ、身の程を知らぬ愚神らしいか
 ナラカの言葉に反応したのか、アーネアは見下ろすように二人の頭上に位置取り言った。
「わが空を汚す不届き者よ、我らの血肉になるがよい」
 アーネアは翼を震わせ、霊力を帯びた風で二人を攻撃する。それを二人は左右に分かれて回避して見せた。
「いずれはこの世界はわが軍勢であふれる。そうなれば、空を支配するのは私だ」
 愚神アーネアが言う。
 それに対し不敵に笑って見せるナラカ。戦闘の続きを始めようと前に出たカゲリヲ制し。
 唐突に菊次郎は口を開いた。
「女王陛下、素晴らしい宮殿ですね。無窮の蒼宮と言ったところでしょうか」
 菊次郎はアーネアを見据え、臆することなく言葉を重ねた。
「ほう見る目があるな、人間、殺すのは最後にしてやろう。いや絶望のままに落ち続けさせた方が美味になろう」
「堕ちる? 美味?」
 菊次郎は問いかける。
「全てはエサ。そしてこの工程は料理、お前たちは食材、絶望で熟せ、お前たちよ、我らの血肉となれ」
「成る程……ならば御身にに一つ質問がございます。なぜ御身は彼女、止処梓に情けをかけられたのでしょう? 彼女はそのままでは自ら地に墜ち砕け散る運命でした」
「これはあの子の絶望と願いの体現、あの子は覚悟もなく黄泉へ渡ろうとした、死に続けながら生きたいと願う愚か者。なのでな」
 アーネアは口の端を釣り上げ、牙をむき出しにして笑った。
「この世界へ閉じ込めた時の奴の心内が美味でな、生かさず、殺さず力を吸い取ることにしたのだよ。ははは、いい、いいなぁ。涙の味は。はははは」
 そうげひた笑いを浮かべるアーネアに菊次郎は恭しく頭を下げた。
「彼女へのご配慮感謝します。ところで」
 そう菊次郎はサングラスをずらし尋ねた。
「この瞳と同じ瞳を持つ者をご存知無いでしょうか?」
「知らぬよ、私は。私より弱いものに興味はない、全ては私が支配するのだから、全てに興味がないのさ」
 その回答に菊次郎は礼を述べた。話にならない、そんな判断だった。

 殺し合おう。そう武器を構える二人。そしてはじかれるように三つの翼がぶつかり合った。
「黄泉へ渡ろうとした?」
 愚神の言葉は全てインカムをとおして、リンカーたちに伝わっている。
 なので、その言葉を聞いていたシエロは梓に問いかけた。
「死のうとしてたんだよね?」
 梓は一滴もココアを飲もうとしなかった、冷め、湯気もなく冷たくなったそれを、空に投げ捨て、そして言った。
「そんな、の。当然じゃない!!」
――あ。
 ナトが茫然とつぶやく、梓がもがいた衝撃でシエロは魔法瓶を取り落してしまった。
 罰が悪そうにうつむく梓、しかし目に涙をためながら、ただがむしゃらにシエロに言葉をぶつけた。
「父さんも母さんも死んで、友達もいない、その気持ちが、あなたにわかる!?」
 自分のことを思ってくれる人はもういない、自分に生きてほしいと願う人間はもういない、失った痛みだけがじくじくと残り。ただただ生きていてもつらいだけだった。
 だから梓は、学校の屋上から飛んだのだ。
「こんな私、生きていたって……」
「そんなことないよ……」
 少女は顔を上げた。シエロの優しい声に意表を突かれたのだ。
 その時だった。
「ええい、何をしている、遊んでいるな眷属よ、愚か者からあの娘を引きはがせ!」
 翼でカゲリの銃弾を払い。菊次郎の魔術を翼から放った暴風で相殺する。
 上下が反転した体制で、愚神は従魔に少女への対処を命じた。
 その指令を受け、従魔たちは現在のターゲットを無視、シエロの元へ走る。
「まずい」
 稜が進行方向に銃弾をばらまき妨害するが、従魔の速度こそ弾丸のよう、数秒で接敵するのは目に見えていた。
「いちゃついてんだから邪魔しないでっての!」
 シエロはフラッシュバンを放つ、これでしばらく、敵の注意をそらすことができるはず。
 そう、目をあけると、目の前には巨大なコンドルが、そのかぎづめを振り上げ、まさに振り下ろそうとする、瞬間があった。
 シエロは今少女を両手に抱いている、回避できないそう思った瞬間だった。
 従魔の脳漿がはじけ飛んだ。レモンの銃弾がかろうじて従魔の息の根を止めたのだった。
 しかし。従魔はあと二体いる。
「装填まに合いません!」
「シエロ!」
 祐二とアヤネが二人で進路退路を塞いでも、もう一体の従魔は高速で旋回し、シエロに迫る、そして、そのかぎづめがついに、シエロに届いた。
「シエロさん」
 稜の射撃をやすやすと回避し、またその爪がシエロを穿つ。
 それであればシエロが攻撃に回ったほうが、従魔の対応はしやすいはずだ、しかし今は少女を守るために攻撃手に回れない、一時的に少女を手放すこともできるが。シエロはもう少女を一人にしたくない、その一心でかばい続けた。
「なんで、私を置いていけばいいのに、何で私なんかを助けるの。もう、私、こんな世界にいたくない、もう何もないこの世界に」
「ああ、失うってのは、辛いよねぇ……取り戻せないものだと尚更」
 シエロの両足がガチャリとなった。左顔面を指でなぞり、そして、ハハッっと弱弱しく笑った。
――……シエロ?
 大丈夫? そんな言葉ですら口にできない、ナトにはわかっていた、彼女がどれほどの物を失ったのか。
「君が大切なモノを失った時の気持ちが全部わかるとも、失ったモノの代わりになれるともウチは思ってない」
 そのくちばしがシエロの体を穿つ。
 しかしシエロはその体に傷がつくほどに梓を強く抱きとめた。
「だけど梓ちゃんが望んでくれるなら、ウチは梓ちゃんの大切なものになりたいんだ」
 従魔が、まるで死体をついばむようにシエロの翼にとまり引きちぎらんと暴れる。
「離れろ!」
 雲が割って入る。しかし。その時にはもうシエロの翼は限界だった。
 白煙を上げ、徐々に出力がさがっていく。
 堕ちるふたり。
「もう限界みたい、雲さん頼んでいいかな」
「まかせろ、絶対に守る」
 雲が手を伸ばす。
「やだ、なんであなたが私のかわりに落ちないといけないの?」
 梓は目に涙をためてシエロに行った。
「私も昔手を差し伸べてもらったから、その手がどれだけ暖かかったか知ってるから。だからかな」
 そうシエロは雲を見る。お願い、そのつぶやきは風の音でかき消される。
「その手を伸ばせ、シエロの思いを無駄にするつもりか!」
「いや、いや!」
「お前ほどヘビーじゃないがな、俺も居場所がなかった。だが一度一番下まで落ちてしまえば後は上がるだけだ。自分の足で立て。俺達に出来るのは立とうとする奴に手を差し伸べる事だけだ!」
 初めて梓は雲を見る。そして伸ばされた手にその手を重ねた。
 掴む。
「ね、温かいでしょ」
 その瞬間、シエロの翼が限界を迎えた。
「シエロ!」
 金属片をまきちらしながら落ちていくシエロ。
 それを追う、時間はなかった。
「雲さん、祐二さん、アヤネさん、そこはアーネアの間合い、うわ!」
 突如轟音、見れば、空が歪んでいた、風という名の空気の壁が、猛速度で雲に叩きつけられる。
「ぐあ!」
 風圧で押し流される雲。
「あっちは、やっと片付いたみたいだな」
「そうですね……」 
 カゲリと菊次郎は肩で息をしていた。二人はぼろぼろで翼も白煙を立ち上らせていた。
「あの愚神、相当強いですね。危ない!」
 接近しようとする愚神に稜が銃弾を当てる。
「このままやっていてもらちがあきませんね。カゲリさん、少し相談が」
「なんだ、こんな時に」
「作戦があります」
「どうした、何かやるのか?」
 祐二が並走飛行しながら二人に問いかける。
「ええ、そして皆さんにお願いしたいことがあります、時間と機会をください」
 その言葉にアヤネが頷く。
「わかった、では、準備が整ったなら、合図を……」
 アヤネはライオンハートに武器を切り替え、トップギア最初から全力で向かう。
「はああああああああ!」
 その攻撃をアーネアは回避。
「次から次へと……」
 その後ろについた祐二がそのかまでアーネアの羽を切り取ろうと回す、しかしアーネアは稲妻のような速度で頭上に逃げる。
 それを追撃するアヤネ。全身の捻りによる速度を上乗せした疾風怒濤の連撃を見舞う。
「く……」
 愚神の表情が歪む。
「場所が空中で踏み込む場所が無かろうと、力の伝達方法のやり様はある!」
「この、バカに……」
 大きく翼を広げるアーネア。暴風の構えだ、しかし的を大きくするそれは愚策だったと言える。
「大丈夫ですか? ひやひやしましたよ。シエロさんが上から落ちてきたのを見た時は」
――危うく、頭と頭でぶつかるところだったもんな
 レオンハルトが呆れたようにつぶやいた、それにシエロは恥ずかしそうに笑みを創る。
「上と下でつながってるの忘れてた」
 そう会話をしながらゆっくり高度を合わせるレモン、そして。
「翼、最大出力で展開」
 まるで伝説の巨鳥の翼のように金色の翼が大きく広がり、レモンとシエロの体重を支える。
「タイミングを合わせて、行きますよ」
「3」
――……2
「1!」
「「ファイア!」」
 二人の少女の声が重なった、そして二丁の16式60mm携行型速射砲から放たれた銃弾が。
 アーネアの翼を穿った。
「あが!」
 衝撃波で周囲の蜘蛛が円状にちり、そして空の王は空に縫いとめられる。
「あがががが」
――して覚者よ。如何だ、空を舞う気分は。人の作り出した翼とは言え『鳥の王』たる私と同調しているのだ、汝が空に適応出来ぬ道理はあるまい
 ぼろぼろの体を引きずって、カゲリはアーネアの下で銃を構える、見上げる頭上にはアーネアを挟むように菊次郎がいた。
「そうだな、少なくとも、あいつを叩き落とすには十分だ」
 その言葉を合図に、菊次郎は魔本を開く。ページが勝手にめくられ、まるでめくられるごとに力を増すように、彼の周囲を紫色の光が満たしていった。
 リーサルダークまるで空間すらねじ切りそうな力の塊は、夜のような闇をまきチラシながら、ただ下へ、下へ加速した。
――来たぞ!
「わかっている!」
 ライブスブロー、そして翼の力を纏った銃弾を、カゲリは放つ。
 その銃弾はすべてを飲み込む漆黒を持って、リーサルダークと共にアーネアに着弾した。
 ぎゃああああああああああああ。
 アーネアの悲鳴がこだまする。それと共に、上下に散る、夜の闇と浄化の黒焔。それはさながら翼を広げたカラスのようにみえた。
 そして。
「時が尽きれば死もまた死ぬるとか……無窮もあり得ぬから望まれるのでしょう。それでは」
 菊次郎がそうつぶやくと、爆炎がアーネアをつつみ、気が付けば、周囲を夜の闇が支配していた。

   *   *

 ゾーンは愚神の消滅と共に消え去った、今は暗い森の中で迎えが来るのを待っているリンカーたち。
 その中心には梓がいた。彼女はポツラポツラと事情を語る。その手を蘿蔔が握り、屈みこんで彼女の目をじっと見つめている。
「私、もう……、この世界に居場所がないんです。だから……」
「勘違いするなよ。この程度、大小こそあれ誰もがやっている事なんだ。
 同情をする気はない。憐憫もない。喪失感なんて、自分で埋めるしかないんだ」
「そんなこと言っちゃ、ダメですよ。大丈夫、この人恥ずかしがってそんなことを言っているだけなのです。」
 蘿蔔はそうすべてを離し終わった少女を抱きしめ。
「話してくれてありがとう」 
 そう言った。
「悲劇はあってはならない……でも今日のことは、あなたが進むために必要なことだったと思っております」
 蘿蔔の言葉を肯定するようにプロセルピナがニャーとなき、何かを伝えようと、梓の膝の上に上がった。そして涙をぬぐい抱きしめる。
「ねぇ……家族も友達も居ないと思っているかも知れないけど、君に味方をしなかった人はホントに居なかったのかな?悲しみに囚われないでもう一度思い出して?」
 稜が言うとリリアが彼女を連れてきた。
「きっと、貴方が喪失感に囚われている時にあなたの事を心配や味方してくれた人が居たはずです……だから、死のうなんて思わないで……」
 リリアによる治療で回復した、シエロは梓を見るとよかったと微笑んだ。
「君が話してくれたことを聞いて、梓ちゃんがとってもいい子で、仲良くなりたいって、辛い今を支えてあげたいって思ったから、取り戻せるもののお手伝いもしたい、取り戻せないものと、同じぐらいのこれからを一緒に作りたい! だから。そのー。ウチと友だちになってくれない?」
 さしべられた手を、梓は恐る恐るとる。温かい。この人の手はこんなにも、そう感じた。
「もし居場所に迷うのなら、俺達がその一つになろう。何か有れば頼ってくれ」
 アヤネが名刺を取り出す。梓に持たせた。
「なんでそこまでしてくれるんですか?」
「俺を信じる信じないは君の自由だ。だが、俺は君の様な寂しそうに見える人はどこか放っておけなくてな」
 祐二はプロセルピナと手をつなぎ、梓の片手をとった。
「今は信じられないかもしれないけど、自分にはもう何もないと思っていても、同じくらい大切なものが増えていくよ。な、セリー」

「死のうとしたことも生きてることも決して無駄じゃない。恥じることも悔やむこともない」
 蘿蔔が言う。
「そうそう」
 雲が同意した。
「疲れたなら休めばいいし逃げても良い」
 レオンハルトがしんみりとつぶやいた。
「命があればなんとかなるものです……大丈夫」
 そして遠くからヘリの音。迎えが来た。
 そのヘリがこちらへ向かってくるのを見ながらテミスはつぶやいた。
「…本当に愚神というものは理解し難い」
 菊次郎が答える。
「今回の教訓は人も同様だと言う事では無いでしょうか?」
 この夜少女は生まれ変わった。
 まるでしらじらしいくらいの蒼穹に現れて、助けてくれる人がいると知って、まだ生きることをあきらめなくてもいいのだと知った。
 彼女はもう命を粗末にはしないだろう。差し伸べられた温かい手に誓って。
 口にはしなかったが、あふれる笑顔を見て生きよう。そう誓ったのだった。
「あ! 遊園地行かない?」
 雲が唐突に声を上げた。翼のせいでジェットコースター並の急加速を何度も味わったというのにもかかわらず。
「ならせっかくだし皆さん達もどうですか?」
その後は楽しい会話で場があふれた、普通の女の子が友達とするような、そんな日常で。
 それから数か月して落ち続ける少女はH.O.P.E.にお手伝いとして雇われることになる。それは、また今度の話。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
  • 惑いの蒼
    天城 稜aa0314
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866

重体一覧

参加者

  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • エージェント
    アヤネ・カミナギaa0100
    人間|21才|?|攻撃
  • エージェント
    クリッサ・フィルスフィアaa0100hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 惑いの蒼
    天城 稜aa0314
    人間|20才|男性|防御
  • 癒やしの翠
    リリア フォーゲルaa0314hero001
    英雄|20才|女性|バト
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • 苦労人
    レオンハルトaa0405hero001
    英雄|22才|男性|ジャ
  • LinkBrave
    シエロ レミプリクaa0575
    機械|17才|女性|生命
  • きみをえらぶ
    ナト アマタaa0575hero001
    英雄|8才|?|ジャ
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
    人間|25才|男性|命中
  • パスファインダー
    テミスaa0866hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • Foe
    谷崎 祐二aa1192
    人間|32才|男性|回避
  • ドラ食え
    プロセルピナ ゲイシャaa1192hero001
    英雄|6才|女性|シャド
  • 温かい手
    流 雲aa1555
    人間|19才|男性|回避
  • 雲といっしょ
    フローラ メイフィールドaa1555hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
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