本部

【甘想】連動シナリオ

【甘想】すきをきかせて

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/02/04 21:01

掲示板

オープニング

●まだ少し早いお話
 青年……ユウ(az0044hero001)は戸惑っていた。目の前にある現状はどういうことだと頭を抱えていた。
 ここは確かに能力者である竜見玉兎(az0044hero001)の部屋のはずである。プレートも確認したし、何より(少々語弊はあるが)共に住んでいるのだ。間違うはずもない。
 が、しかし。
 部屋の状態は、ユウが思わず頭を抱えてしまうほどのものであった。
 どこから掻き集めてきたのか分からない漫画の数々。そこかしこに並べられたお菓子の料理本。部屋の中は何やら甘ったるい匂いでいっぱいだ。
「おい、玉兎」
 小さな少女の名を呼んで姿を探すがどこにもおらず……そして彼は台所でとんでもないものを発見してしまった。
 置かれていたのは、これまたどこから買ってきたのか分からない怪しげな雑誌。表紙にはショッキングピンクで書かれた『バレンタインとは!?』と『彼を悩殺☆』という文言。
 それだけでも頭が痛いのに、中を見てみれば『リボンは赤がいい』だとか、『オススメは暗い部屋で』だとか、玉兎にはまだ早すぎるものばかりである。
 このままではいけない。だが自分が教えるのもどうだ。
 悩みに悩んだ末、英雄は一つの決断を下した。

●持ち込まれたお願い
「頼む。玉兎がこれ以上何かの影響を受ける前に、バレンタインについて教えてやってくれないか」
 困り顔で小さな能力者を見下ろす英雄と、きょとんとした顔で英雄を見上げる能力者。
 乙女の聖戦を前に、無知な子供に『バレンタイン』を教える依頼が……発行された。

解説

●目的
何も知らない玉兎に『バレンタイン』について教えてあげてください。

●場所
会議室のような大きな部屋を一つ貸し切り。
大きな机は一つだけだが、小さな机と椅子は人数分より少し多めに用意されている。
お菓子や飲み物も各種揃えられて多く用意してあり、少なくなれば職員が補充してくれる。

●NPC情報
・竜見玉兎(たつみぎょくと)
常に真っ白なウサギのぬいぐるみを抱きかかえている少女。
無知ではあるが好奇心旺盛で、気になることはどんどん聞いてくる。
※OPで登場した雑誌は先輩エージェントからもらったとのこと。
・ユウ
玉兎に「ウサギさん」と呼ばれている英雄。
甘い物は得意では無く、それ故にバレンタインについて深い知識もない。
バレンタイン=チョコレートが行きかう日程度の認識である。

リプレイ

●バレンタイン講義……の前に
「へー、従魔殺害依頼とかだけじゃなく、こういう依頼もあるんだ」
 部屋の中をきょろきょろと見渡し、お菓子や飲み物を見ながら呟く獣人ギシャ(aa3141)と、
「教育が出来るとは思えんが……」
 一見着ぐるみにしか見えない英雄、どらごん(aa3141hero001)。トレンチコートにソフト帽を身に着けたハードボイルドなドラゴンである。中の人はいないらしい。
「どんなことを教えるつもりなんだ?」
 そう言うどらごんが見つめる先にいるのは、うさぎのぬいぐるみを抱きかかえた玉兎。英雄がこんな依頼を出してきたということは何も知らないのだろう。参考にと渡されたらしい雑誌を能力者達に渡し、話しかけられては頷いたり首を傾げたりしている。変なことを教えてはならないような気もするが。
「ニセモノの聖人で異教徒のバレンタインが処刑・生贄にされたのが二月十四日。それを記念して――」
 どらごんによる教育的指導チョップによって問題発言の多い説明は途中で止まる。何かおかしなことを言ったかと言いたげな目をしている能力者を前に、ハードボイルドに溜息を吐き。
 ギシャは見事、玉兎と共に教わる側の仲間入りを果たしたのだった。

●まずは参考になったものを
「おーえろーい」
「大胆デスネー」
 玉兎が持っていた雑誌を眺め、鴉守 暁(aa0306)とキャス・ライジングサン(aa0306hero001)が楽しそうに笑う。それを覗き込んだアーテル・V・ノクス(aa0061hero001)も、これは……と綺麗な顔に眉を寄せている。
 雑誌の内容は『肉食系』向けに編集された物で、表紙どころか中身もショッキングピンク。何も知らない玉兎にはあまりにも早すぎる代物である。
「玉兎ちゃん、この雑誌どの先輩にもらったのかお姉さんに教えてもらえるかな?」
 暁とキャスに渡された雑誌を閉じ、ぐるぐるに丸めてにっこり笑顔の來燈澄 真赭(aa0646)。先輩エージェントの危機であるが、きょとん顔の玉兎には何が起きているのかさっぱり分からない。雑誌をくれた先輩の名前をどうにか真赭に伝えるのが精一杯である。
「玉兎ちゃんの参考にしようとした物はもうちょっと大人になってから……高校生や大学生からになってからね」
 慌てる玉兎に優しく声を掛け、視線を合わせるように屈むアーテル。
「大人っぽいのもいいけど、玉兎ちゃんにはこれ以外の方法がピッタリよ」
「これ……いがいの……?」
「そう。雰囲気を作るとか、回りくどいことをしなくても素直に気持ちを伝えること」
 そんなことでいいのかと目をぱちくりさせる玉兎がアーテルから視線を外して見つめるのは英雄のユウ。
「プレゼントは綺麗な方がいいかもしれないけれど、相手が喜んでくれるのが一番よ」
 アーテルの優し気な視線の先には黎夜がいる。心の内までは分からないが、アーテルなりに黎夜を大切に思っているのだろう。
「相手が何が好きで何が嫌いか、一緒にいればだんだん判ってきますけど、言葉を交わしたり何かを経験しないと理解が浅いですからね」
 少し声を潜め、にこりと微笑む。普段と雰囲気が違うのは黎夜の前では無いからだろうか。
「せっかく繋がった縁です。大事にしていきましょう?」
 その声に、言葉に。玉兎はこくこくと頷いて、ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。

●貴方の思うバレンタイン
「俺にとってのバレンタインは、日頃お世話になっている人への感謝をする日、かな」
 雑誌の件が一段落し大きなテーブルを囲んでのバレンタイン講義へ。ホワイトボードが用意されたり新しいお菓子が追加されるそんな中ぽつりと言葉を零したのは黄昏ひりょ(aa0118)だ。一方、ひりょの言葉にそわそわと体を揺らすのは彼の英雄のフローラ メルクリィ(aa0118hero001)。
「え? じゃあ、私に感謝してくれるの? 何かくれるの?」
 目をきらきらと輝かせるフローラに、この前ぬいぐるみを買ったような…と思いつつ。
「あ~……うん。感謝しないとな」
 苦笑いで答えるひりょに、
「わ~い、何がもらえるんだろう! ぬいぐるみ? 食べ物?」
 まだ少し先のバレンタインへ思いを馳せるフローラである。もふもふが好きな彼女にとってぬいぐるみはプレゼントの最上位なのだろう。食べ物もまた同様である。喋りながらも合間合間でお菓子を摘まむのを忘れない。
「俺も相当食いしん坊だけど、フローラには負けそうだ」
 フローラから離れた菓子を取ってやりつつ、楽し気に言うひりょ。彼とフローラの誓約は『人々の笑顔を守る事』だ。その人々の中には当然フローラも入っているわけで。
「フローラ、うん……君を腹ペコ魔人と命名しよう!」
 軽口を言い合いながらも、その様子はどこまでも明るく笑顔だ。
「ぶ~ぶ~、可愛くないよぅ。せっかくならもっと可愛いのにしてよ~」
「例えばどんなの?」
「ん~……ぺこりん星人?」
「うわ、びみょ~」
 ひりょの言葉にむすっとし、頬を膨らませながらもお菓子を食べるフローラと同じく、お菓子をちょこちょこ摘まんでいるのはニア・ハルベルト(aa0163)だ。和やかな会話の中、ふと気になったのかユウに近づいていく。
「ユウさんはバレンタインデーって興味ないの?」
「……ないな。甘い物はあまり、好きじゃない」
 現に彼の目の前のお菓子は全く減っていない。英雄は食事を必要とはしないから食べなくても問題ないとはいえ、それとこれとはまた別の話だ。美味しいものは美味しいのである。
「そっかあ。わたしはほら、甘いもの大好きだから。友チョコたくさんもらえたら幸せだなあ」
 言いながらニアはまたチョコレートをぱくり。一口食べては幸せそうにするものだからよっぽど好きなのだろう。しかし……。
「とも……チョコ」
 何も知らない英雄はふと首を傾げる。ともチョコ。一体どんなチョコレートなのかと。
「あ、知らない? 友チョコ。他にも義理チョコとかファミチョコとかあるんだけど」
「義理チョコは分かる。ふぁみ……それはチョコレートなのか?」
 友チョコにすらついていけない英雄・ユウ。彼の脳内では近場にあるコンビニエンスストアがチョコレートと合体している。ふぁみチョコ。
「うん。二ホンだと渡す相手によってチョコの名前が変わるんだって。面白いよね!」
「渡す相手……あぁなるほど。ファミリー、家族か」
 ようやく合点がいったようである。友達にあげるから友チョコ。家族にあげるからファミチョコ。チョコレートも奥が深いのだなと考え込むユウを見て、
「なかなか説明しにくいのはわからないでもないが一般常識的なものは説明できるだけ勉強しておいたほうがいいぞ?」
 声を掛けてきたのは真赭の英雄である緋褪(aa0646hero001)。どうやらニアとの会話を聞いていたらしい。
「幼年の能力者と成人に見える英雄の組み合わせだと実際がどうであろうと英雄が保護者として見られることが多いからな……」
 今回のような教育面もそうだし、生活していくのに必要になる一般常識もそうだ。英雄だからとはいえ、知らないでは済ませられないこともこの先多々あるだろう。
「毎度このような勉強会を開けるわけじゃないんだ」
 いつどうなるかなんて誰にも分からないことだ。誰かに教えてもらう機会が何度あるか分からない。それに、玉兎の一番傍にいるのは他でもないユウなのだ。家族のいない彼女が頼るとしたら英雄のユウだろうし、周囲もそう思うだろう。
「突っ込まれ過ぎたら答えられないからと棚上げしてうやむやにするよりも、二人で調べるなりして問題は決着させておいたほうがいいぞ?』
「…………」
「うやむやにしたところから関係に皹が入りだすと修復するのに苦労するからな……」
 経験則か、それとも別の何かを思い出しているのか。苦々しい顔でぼやく緋褪。
「皹……か」
 今この場にいる能力者と英雄は、皆仲がいいように見える。それぞれ形は違えど、お互いを思いやっているのだろうとも。……自分と玉兎はどうなのだろうか。緋褪の言う通り、どこかで皹でも入れば終わってしまう関係なのだろうか。
「まぁ今はバレンタインのことじゃないか?」
 テーブルでは先ほどまで和やかにバレンタインについて話されていたがはずだ。しかしいつの間にか用意されたホワイトボードに暁とキャスが人や処刑台を描き始めてしまっている。このままではいけない、とどらごんが止めに入るが、何故か消す物が見当たらない。そうこうしている間に話はバレンタイン商法に移り、チョコレートと会社らしきものが描き足されている。
「そんなこんなで製菓会社の愛を伝えるチョコレート贈呈の日になりましたー」
「商売上手デスネー」
 何やら大変なことになっている。真赭がストップを掛けているが、そんな中でも玉兎が楽しそうに話を聞いているのがまだ救いだろうか。
「保護者としてしっかりしないとな」
 ぽん、と緋褪に背中を押され、ユウは玉兎の傍らに。緋褪は真赭の隣に着席する。ようやく見つかったホワイトボード消しで絵は消され、残念そうな声を上げる暁とキャスであった。

●貴方の思うバレンタイン2
「玉兎は、バレンタインがどんな日って、思ってる……?」
 隣の椅子に座る木陰 黎夜(aa0061)は、玉兎にそう問いかける。
「チョコレート、を……あげる、日……?」
「うん……日本では、女の人が男の人に、チョコをあげる日ってなってるけど、最近は、友達や家族にもチョコをあげる日になってる」
 バレンタインは女性が男性に、ホワイトデーは男性が女性に。それが今は一般的だ。しかし一般的なのは日本の話であって。
「ドイツでは、男の人が女の人に、花を贈る日だって、知り合いが言ってた……」
 場所が変われば風習も変わる。ドイツや周辺の外国では花、特に赤いバラを贈るのが好まれるようだ。意味はもちろん、日本と変わらない。
「あなたが好きって、気持ちを伝えるために……。あと、一緒にいてくれてありがとうって、言うのもあると、思う……」
「ありがとう……」
「普段は言えねーことを、プレゼントと一緒に伝える口実って、いうのかな……」
 途切れ途切れに、それでも自分の伝えたいことを伝える黎夜。他の人に、アーテルに聞こえないように、玉兎にだけ聞こえるように声を潜めて。
「うちは、今までバレンタインでアーテルに何かあげること、なかったんだ……」
「……そう、なの」
 玉兎の目には、黎夜もアーテルも互いを大切にしているように映っていた。けれど、そんな二人にも事情がある。
「嫌いだった訳じゃなくて…自分のことで精一杯だったから、だな……。男の人が苦手だから、近づいたりお話したり、できなくて……でも、女の人の口調でしゃべるって約束して、うちを助けてくれたのは、アーテルだったから……だから今年は、今までありがとうって言うために、何かを渡すんだ……」
 何を渡すかは決めていないけれど喜んでくれる物がいいと思う、と。アーテルが嫌いな物を渡して、悲しい顔させたらイヤだからと。そう教えてくれた黎夜に、玉兎は何度も何度も頷く。
「すてき。すごく、すてきだとおもう、の」
「……ん。だから玉兎も、好きな物を聞いたり…内緒じゃなかったら、一緒に出かけて選ぶのも、いいんじゃねーかな……」
 秘密でサプライズもいいだろう。けれどせっかくなら、二人で一緒に好きな物を。そんな時間も大切な思い出になるはずだ。
「お酒、とか……玉兎やうちも買えねー物、あるから……」
「うん……うん。はなして、みるの」
 まずはお互いの好きな物から、一つずつ。

●バレンタイン講義
 こほん、と軽く咳払いをし、ドラゴンの着ぐるみ……もとい、どらごんが指し棒を片手にホワイトボードの前に立つ。バレンタインとは、ずばり。
「花やメッセージカードなどの思いを込めた贈り物と共に、普段は心で思っていても言えないような感謝の気持ちを伝える日だ」
 分かりやすく、また簡潔な説明である。贈る物は関係性や男女で変わるだろうが、つまりバレンタインとはそういうものなのだ。
「日々の感謝の言葉が苦手な者もいるから、わざわざ記念日として設定することで、恥ずかしげもなく言えるようになるわけだ」
 クリスマスにカップルが増えるように、エイプリルフールには嘘が飛び交うように、記念日だからこそ言えることもある。それがいいかどうかは別として、何らかのきっかけになっているのは確かな話だ。先ほど暁とキャスが話していたように、チョコレートを贈るのはチョコレート会社の戦略が強いのかもしれないが。
「子供は子供らしくカードを贈り合え。そっちの方が思い出として残せる」
 大人同士でならともかくとして子供まで戦略に乗ることはない、とどらごんはメッセージカードを取り出した。実はこっそりと職員が用意して渡しておいたものなのだが、ハードボイルドに努力や根回しは無用だ。見せなくていい部分は見せないに限るのである。
「めっせーじ……」
 どらごんに渡されたカードを見つめ、ぽつりと呟く玉兎。それとは対照的に慌ててカードに何やら書きつけるギシャ。
「これ!」
 一生懸命な字で書かれた言葉は『いつもありがとう』。そのカードはどらごんに。それからもう一枚には『友達になってください』と書かれ、玉兎に手渡される。
「……とも、だち……?」
 カードを受け取ったまま何も出来ない玉兎に、今度はユウが咳払いを一つ。
「貰っておけ」
 それが今のユウに言える精一杯だったようだ。どことなくぎこちなさを残しつつ、玉兎がギシャにぺこりと頭を下げる。メッセージカードは大切にポケットへ。今日の大切な思い出になるように。

●貴方の思うバレンタイン3
 玉兎やギシャの間だけでなく、折角だからとメッセージカードが飛び交う中……一人の英雄が立ち上がった。彼女の名前はルーシャ・ウォースパイト(aa0163hero001)。ニアの英雄である、が。その瞳はーー愛情に熱く燃え盛っていた。
「このわたくしが思うに、バレンタインとは!!」
 大きく息を吸い込み、この場にいる全員をぐるりと見渡してから。
「愛を語らうための素晴らしい機会!! ですっ!!」
 そう、言い放つ。何人かが呆気に取られているが、相棒のニアはルーシャの様子を眺めつつ黙々とお菓子を頬張っている最中である。慣れている。
「言うまでも無く、わたくしにとっては毎日が愛を語るに相応しい日ですけれど……今を生きる皆様全員にわたくしを見習えというのは、些か以上に横暴というもの」
 自らの胸に手を当て、まるで歌うようにさらさらと言葉を紡ぐルーシャ。その情熱に惹かれたのか、いつの間にか部屋に居た全員が彼女の言葉に聞き入っている。……二名ほど姿が見当たらないが。
「恥ずかしがりやの方や、ちょっとカッコよく愛を告げたい方にとっての一大イベント! 右も左も猫も杓子もチョコレートに翻弄され、あちこちに愛という名の花が咲く!!」
 彼女の熱い言葉に、部屋の空気も自然と熱くなる……ような気がする。気のせいかもしれないが。そしてニアに釣られたのかフローラもこっそりお菓子を摘まみ始める。このお菓子美味しい。それならこっちのお菓子も好きかも。あ、これも美味しい。とお菓子談義にも花が咲く。
「それがバレンタインデーという日だと思っていただければ、まず間違いはありません!!!」
 誰が聞いている聞いていないなどお構いなしに、ルーシャはまるで全世界に宣言するかのように言い終え……握りしめていた拳をそっと解いた。それに合わせて熱に浮かされた玉兎からぱちぱちと拍手が送られる。まだ全て理解できていないが、バレンタインがすごい日だというのはよく伝わったようだ。
「長々とお話ししましたが、要は好きな方に『好きだ』と伝えるチャンス、ということですわね」
 ユウからお茶を受け取り、着席するルーシャ。ふふ、と穏やかに微笑む彼女の言葉に、玉兎が「すきなかた……」とぽつり。それに再び火が点いたルーシャが、
「もちろん、恋い慕う相手に限らず、ご家族やご友人に日頃の感謝を告げるのもよろしいかと思います! 恋愛とは異なるものだけれど、それもまた愛の形ですから!!」
「うん。好きな人にっていうのもあるけど、お世話になった人とかにいつもありがとうって渡すのもあるかな」
 暴走するルーシャをさらっと流しながら補足する真赭。アーテルや黎夜、どらごんもひりょも言っていた、『バレンタインはいつもは言えないことを伝える日』。感謝の言葉だったり、告白であったり、何を伝えるか何を渡すかはその人によって違うのだろうけれど……。
「……ああ、それと。手作りチョコにはご注意を。いくら愛が込められていても、無理に食べると体を壊しますからね」
 真面目な話ですよ、と真顔なルーシャである。真顔のままちらりと目を向けた先には、ニア。見られていることに気付いていない彼女は、チョコレートのパッケージ裏に書かれたレシピを見てどんな物を作ろうかと悩んでいる真っ最中だ。ルーシャの顔を見るに、ニアの腕前はつまりそういうことなのだろう。理解出来ていない玉兎の代わりに視線に気づいたユウが深く深く頷いた。
 しかし、手作りチョコに反応したのがフリーダム小悪魔二人……暁とキャスである。
「ではー実践してみようかー」
 間延びした声と共に、いつの間にか用意されていたカゴの中へチョコレートだけが放り込まれていく。実践する、とは。
「の前にーチョコ作ろうかー」
 あまりにも自由な二人だが、チョコを作るための給湯室はばっちり押さえられていたようだ。先ほどルーシャが話している内に抜け出して諸々用意していたらしい。職員涙目の早業である。
「ぎょくちゃんはどんなチョコにしたいのん?」
 折角だからと全員で給湯室へ移動する中、暁に話しかけられて悩む玉兎。
「本来はバレンタインデーと同じくホワイトデーというのもあって、その時にお返しをもらったりとかもあるかな?」
 一方、もう一人の何も知らない子供・ギシャにホワイトデーについても説明しているひりょと、きらんと目を輝かせるフローラ。
「その時にも、ひりょ何かくれるんだ? 楽しみにしてるね」
「いや、フローラ……お返し、と言ったろ? お前食ってばかりじゃないか」
「えぇ~……そんな事ないよっ。ちゃんと飲み物も飲んでるもの!」
「いや、そういう意味じゃなくてだな……」
 どう言えば伝わるのかと頭を抱えるひりょであった。こちらはこちらで英雄への説明が大変そうである。

●感謝のチョコレート
 既に時間ぎりぎりだったが、手順通りに作られたチョコレートはどうにか固まってくれたようだ。
「リボンは赤がいいよねー」
「情熱的デスネー」
 固まったチョコレートを型から外し、用意されていた箱に入れる暁とキャス。他の面々も出来上がったものを入れているのを確認して、悪戯っぽく笑う二人。
「じゃー電気消すよー」
 ぱちん。誰かの戸惑った声が聞こえたがお構いなしの二人は勢いよく明かりを消した。雰囲気大事よねーと言い合う二人を止める術はない。明かりが消えたと言っても薄ぼんやりとは見えるし、片付けも既に済んでいたので危険なわけではない。……はずだった。しかし。
「ぎょくちゃんはユウ君をどうしたいー?」
 立ち尽くす玉兎を横から挟むようにしてしゃがみ、交互に囁きかける二人。
「友達?」
「恋人?それとも、」
 ぱちん。キャスが続きを囁く前に、明かりが点く。ほんのひと時の悪戯で、二人の声を聞いたのもどうやら玉兎だけのようだ。
「大丈夫?」
 立ちすくんでいた玉兎の元に、アーテルと黎夜が。暁とキャスはユウに叱られている真っ最中である。英雄とはいえさすがに驚いたようだ。
「ん……大丈夫、なの」
 それから、出来上がったチョコレートの交換会が始まった。特にひりょは持参していたようで、友人であるニアやルーシャ、知人のギシャやどらごんには勿論のこと、初めましての参加者にも丁寧に一つずつラッピングされたチョコレートを渡している。私にもとねだるフローラには今さっき出来上がったばかりのチョコレートを。暁とキャスは義理チョコと称して参加者に配って回っている。たまたま部屋を覗き込んだ職員にまで喰らえーと言いながら渡しているようだ。黎夜やアーテルはまずお互いに。ルーシャはニアの作成した物体Xをどうにか処理している真っ最中だし、ニアはニアで貰ったチョコレートを美味しそうに食べている。ギシャは「はじめまして」と書いたメッセージカードを添えてチョコレートを渡し、どらごんはそれを見守る。
 そして、上手く出来なかったチョコレートをぬいぐるみと一緒に抱きしめている玉兎に。
「うちのこや同居人とかに配るものを作る予定だから一緒にやる?」
 今度は上手に作れるように、と声を掛ける真赭。彼女の言ううちのことは愛犬のことで、動物好きの彼女らしいバレンタインだ。同居人とは緋褪のことだろうか。
「……うん、やりたい、の」
 ここにいる人だけでもこれだけ色々な形のバレンタインがある。だがその根底にあるのは、『誰かを大切に思う気持ち』なのだろう。それをしっかりと学んで。
 明るい部屋の中、チョコレートを介した交流会はどこまでも賑やかに続いていくのであった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 薄明を共に歩いて
    アーテル・V・ノクスaa0061hero001
    英雄|23才|男性|ソフィ
  • ほつれた愛と絆の結び手
    黄昏ひりょaa0118
    人間|18才|男性|回避
  • 闇に光の道標を
    フローラ メルクリィaa0118hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 守護者の誉
    ニア・ハルベルトaa0163
    機械|20才|女性|生命
  • 愛を説く者
    ルーシャ・ウォースパイトaa0163hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • ようへいだもの
    鴉守 暁aa0306
    人間|14才|女性|命中
  • 無音の撹乱者
    キャス・ライジングサンaa0306hero001
    英雄|20才|女性|ジャ
  • もふもふの求道者
    來燈澄 真赭aa0646
    人間|16才|女性|攻撃
  • 罪深きモフモフ
    緋褪aa0646hero001
    英雄|24才|男性|シャド
  • ぴゅあパール
    ギシャaa3141
    獣人|10才|女性|命中
  • えんだーグリーン
    どらごんaa3141hero001
    英雄|40才|?|シャド
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