本部
【甘想】バカと性悪
掲示板
-
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/01/18 23:22:23 -
相談卓
最終発言2016/01/22 21:29:02
オープニング
●バカの伝言ゲーム
「兵器?」
振袖を着た女性が眉を寄せた。人形のような美しさだが、瞳の色は人間のそれとは明らかに異なる。無論、人間ではない。愚神だ。
「最近、人間どもがこそこそ何かを運んでいるのだとか。おそらく兵器だろうと言われています」
答えたのも愚神である。こちらも人間と見栄えは変わらない。顔が真っ白でパーツがゼロのところを除けば。
「どこ情報。それ」
「愚神のグリムローゼです」
「……ああ、あの愚神の名にふさわしい」
要するにバカにしているのだが、相手には伝わらない。
「グリムローゼがセデルに言い、セデルはカブアクに……」
「バカの伝言ゲームってわけね」
「え、何か言いました?」
愚神は首を振った。
「それであたしにどうしろって言うの」
「はい。私もぜひ、兵器破壊に参加したいと思いまして。それでその、ヤチトセ様の従魔をお貸しいただければと」
「自分のは?」
「私の召喚する従魔はちょっと……」
「暴走するもんねえ。そっちの方がかえっていいかもしれないけど。ま、いいわ。貸してあげる」
「ありがとうございます!」
●バカと性悪
「本当に貸すなんてびっくり」
不意に金髪碧眼の女性が現れる。彼女もまた愚神だ。
「何の用?」
ヤチトセは冷たい声で言った。金髪の愚神はそんな声など歯牙にもかけずまあまあと言った。
「おこぼれに預かりたくて。従魔を通して戦い見られるでしょ。あたしにも見せてよ。面白そうなリンカーがいたら覚えときたいから」
「いやって言っても勝手に見るでしょ。その忌まわしい能力で」
「まあね。ところであたし思ったんだけど」
「何よ」
「バレンタインよね。多分」
「でしょうね。不幸にも誰も指摘しなかったみたいだけど」
自分のことは棚に上げて言う。
「指摘? しないわよ。もしくはできない」
金髪の愚神は肩をすくめた。
「愚神なんてバカと性悪しかいないんだし」
●呉服商の憂鬱
「HOPEに連絡」
呉服商は電話を切ると秘書に指示を出した。
「どうしたんですか?」
秘書は紅茶をカップに注ぎながら言った。呉服商のではない。自分のカップだ。
「輸送中のカカオ、チョコレート工場、街角の手作り教室。愚神や従魔がチョコに関するものを見境なしに襲撃しているらしい」
秘書はぽかんとした顔で「なんでまた」と言ったが、見る見る内に青ざめた。
「ちょっと待ってください、うちのイベント用チョコレートのトラック、もうすぐ雲路和紙につきますよ」
「いや、もう着いてる」
「!」
「わかった? ターゲットになりうるのはもうトラックじゃない。雲路和紙工房だ。HOPEへ工房警備依頼をかけれくれ。私は雲路和紙に行って直に状況を説明してくる」
「了解」
「チョコレートパーティでもする気かね。愚神と従魔のみなさまは」
軽い口調とは裏腹に呉服商の目は厳しく光っていた。こっちは社運をかけてるんだ。邪魔されてたまるか。
時遡り―
「見つけた」
シロタマゴは歓喜の声を上げた。『兵器』を積んだトラックが次々と建物に集まってくる。ここに『兵器』が次々運び込まれてくる。
「グリムローゼもバカだな。兵器庫を一気に叩けばいいものを。なあ『ポヤパヤプー』?」
白い巨大な毛玉は答えない。その代わり唯一のパーツである大きな口をぱかりと開けた。
解説
●目的
愚神と従魔の殲滅。
●敵情報(PL情報)
・シロタマゴ(愚神:デクリオ級)
体は背広姿の成人男性。顔は真っ白でパーツなし。武器は銀色の指輪。3つの武器(刀、薙刀、十手)へと自在に変形することが出来る。初期は後述のポヤパヤプーの上に乗り、高みの見物。
・ポヤパヤプー(従魔:デクリオ級)
気球ぐらいの大きさの白い毛玉。巨大な口が1つあり、そこから3種類の拳大の毛玉型従魔を吐き出す(後述)
一度に吐き出す数はライヴスの高低に比例し、最大30匹。次に吐くまで10分かかる。それ以外の能力はないが、防御力が高い。
・吐き出される従魔(ミーレス級)
ポヤ→小さな穴が2つついており(鼻?)そこから火を吐く。
パヤ→大きな目が1つ付いており、そこから衝撃波を放つ。
プウ→薄紅色。膨らんで対象物を押しつぶす。
防御力は非常にもろい。数で圧すタイプ。ポヤパヤプーの盾になる場合も。
●周辺状況
自然豊かな場所。和紙工房以外は遠くに田畑がある程度。工房は老朽化しており、少しの攻撃で大破する可能性がある。
●その他情報
・雲路和紙工房
率いる伝統的な手法を守り続けてきた和紙工房。破綻寸前だったが、とある呉服商(依頼人)からのチョコレート包装紙大量作成・ラッピング依頼で破綻危機を回避できるチャンスをつかむ。現在社員一丸でフル稼働中。デザインはとある呉服商の専属デザイナーのもので高い技術力が必要とされる。愚神、シロタマゴからは兵器庫だと思われている。社長は雲路かよ。
・とある呉服商
26歳の女性。海外の方が有名。日本での知名度を上げるために社運を賭けてバレンタインイベントを企画。イベントと雲路和紙製作所を守るためにHOPEに依頼をかける。
リプレイ
●毛玉とタマゴ
2台のワゴン車が走っている。乗っているのはHOPEから派遣されたリンカーたち。向かうは依頼先の雲路和紙工房。
「敵の目的が分からないわAlice」
「何がしたいんだろうねアリス」
「聞いてみようか」
「有益だと良いけれど」
車内でアリス(aa1651)とAlice(aa1651hero001)が無表情のまま首を傾げる。巷で起こっている愚神・従魔によるチョコレート・カカオ襲撃事件の話である。今回の依頼もその関連案件だ。
別車両で雁間 恭一(aa1168)とマリオン(aa1168hero001)も同じような会話をしている。
「しかし、なぜ連中はカカオやらチョコやら急に襲撃し出したのだ?」
「手酷く……いや、確かに間抜けな行動だと思っていると足を掬われる事も有るからな。ロンドンでは酷い目にあった」
「ふ。聞いてみるか?」
「止めとけ。相手が本当に馬鹿だったら目的なんて聞いても無駄だし、頭が切れる愚神なんて性格がねじ曲がってるからマトモに答えるわけねえ」
「大概こう言う事は性悪が馬鹿を焚き付けて起こすものだ。馬鹿の答えを見れば裏で操る連中の狙いが透けてくるものよ」
妙に楽しそうなマリオンに恭一はそれ以上の発言を諦めた。
「やれやれ、愚神もバレンタインに嫌な思い出があるのかな」
九字原 昂(aa0919)も怪訝な顔でつぶやく。
「さぁな。だが、お前さん達ほどの恨み辛みは無いだろう」
ベルフ(aa0919hero001)の返しに昂は何か答えようとして顔をしかめた。痛む箇所をさする。この前の仕事で得た傷はまだ完治とは遠い。
「あいたたた……やっぱりこの間の無茶が響くなぁ」
「いつも万全な状態で仕事ができるとは限らん。自分の現状を把握して、その上で可能なことを探せ」
ベルフは優しい声で諭した。昂は素直にうなずく。そのやり取りをハーメル(aa0958)が黙って聞いていた。
車が止まる。今回の依頼先、雲路和紙工房に着いたのだ。
「HOPEから派遣された者です」
リンカーたちが雲路和紙工房に訪いを入れるが誰も来ない。
「おかしいな」
八朔 カゲリ(aa0098)がいぶかしげに言う。
「まさか、もう襲われ」
クー・ナンナ(aa0535hero001)が言いかけたところで勢いよくドアが開いた。出てきたのは着物姿の女性である。依頼人の呉服商だろう。HOPE職員に見せられた依頼人の写真と同じ顔だ。水仕事でもしていたのか襷掛けしてあらわになった指先からひじまで水で光っていた。
「こんにちは。今回は依頼を引き受けてくれてありがとう。リンカーさんたち」
そう言うと手ぬぐいで腕を拭きながら挨拶する。リンカーたちも口々に挨拶を返した。呉服商は職業故かナラカ(aa0098hero001)やカグヤ・アトラクア(aa0535)の服装を興味深げに見たが、流石にそんな場合ではないと思ったのか話を続ける。
「こんな格好でごめん。無理して大量発注したから手が足りなくて。社長の雲路さんも手が離せない状況なんだよ。すぐに顔を見せると思うけどね。だから」
呉服商は口をつぐんだ。リンカーたちは素早く振り返った。
気球大の毛玉がぷかぷか浮いている。唯一のパーツである口を大きく開けて。
「……」
色々予想外だったのか呉服商はぽかんとしている。予想外だったのは別に彼女だけではない。
「こりゃあ面妖なやつだな」
黒鬼 マガツ(aa2114hero001)が驚きを隠すこともせずにつぶやく。
「なんていうか……ファンシーだよね。モフモフしてるし」
隣の比良坂 蛍(aa2114)も困惑のせいなのか棒読みの感想をもらす。
「大きい毛玉の上に何かいる。顔は……無い? 卵みたい」
「ああ、本当だ。あの物語にもいたね」
「いたね……落とす? でも、今落としても邪魔か」
「そうだね。戦況次第で勝手に落ちて来るだろうし」
「あの卵の大転落は、その時まで我慢かな」
言いながら2人の”アリス”が手を重ね合う。そこからゆっくり2人の姿が姿が歪み始める。リンクが始まったのだ。呉服商が一度瞬きをし終えた時、髪も瞳も炎の様に、血の様に紅い色をした少女が1人立っていた。
「雲路さんに伝えてくれ」
墓守(aa0958hero001)が敵を睨みながら言う。
「必ず守るから。と」
●開戦
「リンカーどもか」
気球大の毛玉の上に載った愚神は笑みを含んだ声で言った。体は背広姿の成人男性だが、その上についているのはアリスが言うように白いタマゴのような顔である。
「そうまでしてあのボロ屋を守ろうとするということは……やはりここは武器庫にということか」
「ははっ、あれが武器庫か。武器庫に見えるのか彼奴は! 見ろよ覚者、莫迦がいるぞ! 真面目に莫迦を履行しているなど滑稽以外の何物でもないな!」
ナラカが笑い声を上げた。姿もあいまってなかなか迫力がある光景だ。ゆるりと目が細められられる。
「――っと。いかんいかん。つい笑い転げてしまう所であったわ。いやさ、真に可愛らしくて笑ってしまったよ。ああ、真に愛いのう」
「まあ、滑稽と言う意見は同じだが。俺には何がお前の琴線に触れたのか全く解らない」
カゲリは呆れ気味に言った。だが、目はしっかりと従魔と愚神を捉えて離さない。どれだけ馬鹿な絵面でも、相手が本気でやっているなら何も言ない。何にせよ敵なら討つのみだ。馬鹿だからと軽んじられる訳ではない。
「下らない演技を。兵器でなければなぜ各地でああも必死に荷物を運び、守る?」
この手の思い込みの激しい奴に何言っても無駄である。
(そう言えば、この一連にはグリムローゼが絡んでいると言う話があったな)
リンクしながらカゲリが内心でつぶやく。なにか引き出せればいいが。
「話は終わりだ。お前の力を見せてやれ。パヤポヤプー」
「パヤポヤプーって言うんだ」
クーがつぶやく。なんだか雰囲気ぶち壊しな名前である。もっとも、雰囲気ぶち壊しと言う点においては2人リンク時の装備もなかなかだ。なにせ。
「私の技術をとくと見よ!」
2人がリンクする。その装備はどう見ても可愛らしい黒兎タイプのどうぶつ着ぐるみなのだから。と言っても、別に他のリンカーたちの癒し用ではない。高い防御力を誇るカグヤの自慢の一品である。背部にライブスラスターを取り付けることで課題だった移動力の大幅減が解決。リンカーの平均移動力を得た。技術者は怖い。
「ぱやぽやぷー」
無駄に渋い声でポヤパヤプーが鳴く。その口から30体の毛玉がばらまかれる。一見、ただの毛玉に見えるが、無論ただの毛玉ではない。よく見えれば種類が3つある。小さな穴が2つ付いている毛玉、大きな目が1つ付いている毛玉、そして薄紅色の毛玉。
「うわキモい」
蛍とマガツは声をそろえた。皆も、大体同じ意見だろう。と言っても素敵な見た目だから歓迎するわけがない。どんな姿でもやるべきことは1つ。
殲滅させるだけ。
●依頼遂行中
真っ先にポヤパヤプーへと駆け出したのは早々にリンクを終えたハーメル。鷹の目を発動させ、愚神を見張りながら接近してきた小毛玉はシャープエッジで確実に仕留め、遠くの小毛玉にはハングドマンとシャープエッジを次々に投げて幅広く小毛玉たちをも屠っていく。その後ろをカゲリ、恭一、アリスが続く。3人はほとんど小毛玉と戦うことなく走っている。それを可能にしているのはハーメルの面を意識した動き。
だけではない。
「ほら、こっちに来い。遊んでやるぞ」
カグヤが破邪の大鈴を振り回しながら走る。走り出した4人の背後に回ろうとした約半数の小毛玉が一斉にカグヤへと攻撃を仕掛けた。目玉付き小毛玉は軽い衝撃波を放ち、2つの穴が開いた小毛玉は炎を放ち、薄紅色の小毛玉は膨らんで押しつぶそうとする。カグヤはそれらの攻撃を盾で防ぎつつ、近寄ってきた毛玉を雷神ノ書で屠っていく。
無論、この数をライヴスフィールドで弱体化させたとは言え全て引き受けられるはずもない。それはハーメルも同じ。
「!」
目玉のついた小毛玉がハーメルの足元に近づいた。穴の開いた小毛玉に対応していて反応できない。目がわずかに大きくなる。
次の瞬間。その小毛玉はなにもできずに突如霧散した。昂のハングドマンによって。カグヤの背後から近づいた薄紅色の小毛玉も同じく昂のハングドマンによって倒される。彼もまた鷹の目を発動させ、ハーメルとカグヤの援護役を担っている。
だが、如何せん数が多い。ハーメルたちは何度か足止めを食らい、なかなかポヤパヤプーにたどり着けないでいる。
「見た目ファンシーなのにえげつなー」
小毛玉従魔の怒涛の攻撃に蛍がつぶやく。だが、そのつぶやきは誰にも届かない。彼は今、工房内にいるから。無論、遊んでいるわけではない。
「和紙工房に火はまずいよね」
彼の言葉の一瞬後、カグヤの後ろに回った火を吐く小毛玉が霧散した。休む間もなく、火を吐く小毛玉中心に次々狙撃していく。
「あの大毛玉、もう毛玉吐かないのかな。8分経ってるけと」
取り敢えず、愚神はまだ高みの見物を続けている。あいつを狙うにはまだ早い。もう少し情報を得てからがいいだろう。
もう少しでパヤポヤプーに肉薄するところでハーメルがスピードを緩めた。それとほぼ同時にアリス、カゲリ、恭一が一斉に大きく地を蹴った。
目指すは大元、ポヤパヤプー。
カゲリは横にまわると速射砲でポヤパヤプーに攻撃を加える。ほぼ同時にアリスが雷上動でパヤポヤプーを攻撃。2つの攻撃にパヤポヤプーが大きく揺れる。だが、表面上は無傷なままだ。
「思ったより堅い」
アリスがつぶやく。恭一もインサニアで斬りかかったが、愚神の十手に阻まれた。
「古風なもん持ってんな」
「便利な武器だ」
2、3度打ち合って引いたのは愚神。ポヤパヤプーが口を開けた。
「ポヤパヤプー」
渋い声があたりに響く。
「ウィザードセンス」
その口中へとアリスがウィザードセンスを放つ。が、ポヤパヤプーの上に戻った愚神が薙刀で弱体化させたため、出てきた小毛玉を数匹霧散させただけだった。
「なるほど」
アリスは落胆した様子もなくつぶやく。
「防いだってことは効くってこと」
「タイムラグは10分じゃの。吐く数も減っておる。確実ダメージを受けておるな」
新たな敵を怯む様子もなくカグヤが言う。
「新入りも来い! 遊んでやろう」
ライブスラスターで縦横無尽に動き回り、小毛玉たちを引き付ける。
「お陰で狙い易くていいね」
蛍は次々と小毛玉たちを撃ち落しながら言う。撃ち落さなければならないのは増えたけど。
昂とハーメルがいないから。
「!」
愚神のすぐそばにハングドマンとシャープエッジが通りすぎ地面に刺さる。全く予想していなかった場所から昂とハーメルの攻撃を受け、愚神がそちらへ振り向いた。 だから気づかなかった。恭一がインサニアを構えたのを。ポヤパヤプーはようやく危機を感じたのか逃げようとする。だが、先ほど昇が放ったハングドマンについた銅線のせいで動きが制限される。
昇が放ったハングドマンは最初からそれを目的にしていた。ハーメルがシャープエッジを同時に投げたのはそれを隠すフェイク。
「いつの間に」
愚神がアリス、カゲリ、恭一に気を取られている間に回りこんだのだが、無論そんなことを言う必要性はない。
「よそ見は感心しないな」
ぎい!
ライヴズブローの効いたの一撃を受け悲鳴を上げ、ポヤパヤプーがのたうち回る。愚神が大きく傾いた。
「ほらもう一発……どうした? 踊れよ!」
さらに一発受けてポヤパヤプーがさらに悲鳴を上げる。
「銀の魔弾」
ポヤパヤプーの口中にアリスの放った攻撃が炸裂した。激しく揺れる。容赦なくカゲリが次々弾丸を打ち込む。が、まだ倒れない。その代わりに愚神が落下した。
「殺す! 貴様ら全員殺す! 兵器庫を潰すのは後だ」
「まあ、待て。聞きたいことがある。どうしてチョコレートが人間にとって貴重な戦略物資だと気付いた?」
真顔で嘘情報を流すマリオン。なかなかの名演技である。
「ちょこれーと? 兵器の名前か。我が情報網を甘く見ては困るな。同胞、グリムローゼが貴様ら人間がこそこそ何かを運ぶのを確かに見た」
「グリムローゼ……」
アリスがつぶやく。
「知った名前が出てきたね。随分回復したみたい。次はちゃんと殺らないと」
(そう言えば、この一連にはグリムローゼが絡んでいると言う話があったな)
カゲリは目を細める。これ以上の情報を望めればいいが。
「そう、このチョコレートには人間のライヴズを活性化する機能が有ってな。魔術の儀式と共に摂取すると一般人でも大きな力を結集する事が出来るのだ。大規模な儀式を行う為に今チョコレートが集められているところだ」
「何故それを言うのじゃ! HOPEに何を言われても知らんぞ」
戦いつつ合いの手を入れるカグヤ。
「なんと! ヤチトセ様もこれを知ればお喜びになる。能力者、その場所と時期を教えろ」
「ヤチトセ?」
狙撃を続けながら蛍がつぶやく。愚神仲間か? 敬称をつけたということは力はヤチトセの方が上か。今回の件とどう関わる?
「時期と場所? ふ、教えられんな。知りたかったら実力で聞き出すがいい!」
「無論、そうさせてもらう」
無様に落っこちて殺気丸出しだった割りになかなか格好いい台詞である。愚神の指輪が光り刀と変化する。
愚神の刀とガーディアンエンジェルがぶつかり合う。頭は悪いが腕はいいらしい。タイミングを合わせたアリスの雷動をかわし、武器を狙った蛍の狙撃を弾く。
「あいつどこで見てるんだろ」
蛍は呆れた声を上げ、工房を出る。小毛玉どもはもう数体しかいない。カグヤが大量に引きつけてくれたお陰で狙いやすかった。
「さて、ターゲット変更だね」
狙うは愚神の武器。あれは厄介だ。
「大分参ってきたな」
弾丸を次々打ち込まれポヤパヤプーに初めて亀裂が出きた。
そこでようやく小毛玉たちが盾になろうとポヤパヤプーへ寄っていくが、カグヤに阻まれ、昇に翻弄され、ハーメルに動きを制限され、蛍に撃ち落とされ届かない。
「お前が最後のようじゃの」
とうとう最後の小毛玉がカグヤによって屠られた。
「残念だったな。盾は来ない」
パヤポヤプーが口を開ける。再び、小毛玉を吐き出そうとしたのだろう。
「お俺の前で口を開けるなよ」
ライヴスを込めた弾丸が小毛玉を吐き出す前にポヤパヤプーの口中で炸裂した。
耳障りな声を上げてポヤパヤプーが無数のごく小さな毛玉になって砕け散る。毛玉は地面に落ちると同時に消えていく。
ただ1つをのぞいて。
「!」
その小毛玉は口がついていた。大きな目も。目の下には鼻らしき小さな2つの穴もある。頬の部分は薄紅色だ。明らかに他の従魔と違う。カゲリは銃を構え直した。
対愚神戦の勝負はなかなかつかないと思われたが、愚神のミスによって流れが変わった。
愚神がガーディアンエンジェルを十手で受け止めたのだ。
「今」
アリスはそれの瞬間を待っていた。愚神が攻撃を受け止め、動きを止める瞬間を。使用するのはモーション不要の雷神ノ書。
愚神がのけぞった。同時に武器を狙撃する蛍。十手が宙に舞った。愚神は慌てて飛び退こうとしたが、その前に吹っ飛んだ。
「勝負あったな」
恭一の一撃によって。
「ヤチトセ様」
地面に伏せながら愚神が叫んだ。
「見てらっしゃるんでしょ!? ヤチトセ様! どうか援軍を!!」
また出てきたヤチトセの名前。
「あの従魔、あなたの?」
アリスはどうもおかしい気がした。大毛玉と小毛玉の連携は取れていたが、大毛玉と愚神の連携は悪かった。
「あれはヤチトセ様の」
「バカはどこまで行ってもバカね。こっちの情報べらべらと。これ以上くだらないおしゃべりされたら大変」
唯一残った小毛玉が突如声を出した。皆が一斉に武器を構える。
「無駄だ」
カゲリが言う。
「こいつに武器は通用しない」
「その代わり、こっちから攻撃できないんだからお相子でしょ?」
毛玉がしゃべる。
「ヤチトセ様! 助けに」
「ポヤパヤプーが誰のものか、だっけ?」
毛玉―いや、ヤチトセは愚神の言葉を無視してアリスの方に視線を向けた。
「私のよ。ヤチトセの。もう少し上手く使うと思ってたんだけど。まあ、面白いもの見せてもらったからいいとしましょう。あ、そうだ。その子、グリムローゼのことほとんど何も知らないから何したって無駄よ。それじゃ、ごきげんよう」
毛玉が上昇する。
「待て!」
「待ってください」
追いかけようとするハーメルを昂が押しとどめる。
「工房は守られました。今日はこれでよしと」
昂の言葉は遮られた。残された愚神の叫び声によって。絶望のあまり理性をなくしたのか何を言っているのか判別できない。武器を刀に変え昂へと斬りかかる。すばやくハーメルがカバーに入り、シャープエッジで受け止めた。
「重っ」
ハーメルがわずかに圧し負ける。だが。
「もう用済み。終わりにしようか」
アリスの声とともにブルームフレアが愚神を包む。
「あの物語を思い出させるその見た目、気に入らない」
愚神は声も出さずに灰となり、消えた。小毛玉も。
「デタラメを信じおって……逃がした方が面白かったやも知れぬ」
「それでヴァレンタインにどこぞのデパートで決戦か? 間抜けだぜ」
リンクを解いたマリオンの軽口に恭一が首を振った。
「それにしても、ヤチトセって一体どんな敵だろうねAlice」
「そうだねアリス。まぁでも、どんなでも良いや」
「いつか会ったら戦うだけだものね」
「それ以上でもそれ以下でもないね」
2人のアリスが小毛玉が消えた方を見ながらおしゃべする。
「何はともあれ」
カグヤもリンクを解く。
「これで依頼完了じゃ」
●戦いの後で
「お疲れ様」
戦いを終えたリンカーたちを呉服商と40代ほどの小柄な女性が出迎えた。
「怪我したひとはいない? よかった」
呉服商が安心したように微笑む。
「こちらは雲路和紙工房の社長で雲路かよさん」
雲路社長は一歩前に進んだ。
「雲路です。うちの工房を守ってくれて本当にありがとう。よかったら上がっていって。甘酒ありますよ」
「甘酒もよいが、工房を見学させてもらえんか」
カグヤは熱心な口ぶりで言った。なかなかお目にかかれない伝統的職人芸の数々をぜひ見たい。技術を盗みたい。
「もちろん! 是非見て」
「いいんですか?」
呉服商はにまと笑った。
「技術、盗まれるかも」
雲路社長もにまと笑い返す。
「上等」
見学を終えたカグヤたちは別の部屋に通された。一緒に見学していた蛍とマガツがラッピングを手伝うと言い、他のリンカーたちも賛同したからだ。部屋では数人の工員たちと混ざって呉服商がラッピングしている
「どう?」
呉服商は手を動かしながらカグヤにいたずらっぽく笑って見せた。
「技術は盗めそうですか?」
「人聞きの悪い」
カグヤはしれっと言った。
「しかし、いいものを見た。見事な技術じゃ」
「知ってる」
呉服商は満足げな顔をした。
「だからどうしても守りたかった。本当にありがとう」
「気にするな。仕事じゃ」
「それでも」
呉服商は真面目な顔で言った。
「ありがとう」
「甘い香りがする部屋だな」
「箱の中にチョコレートが入ってるからね。あ、開けないでよ。箱」
「いいわよ。ちょっとぐらい」
工員の女性がとりなす。マガツは中を見た。甘ったるい匂いの黒い塊にしか見えない。
「これホントに美味いの? 蛍は食べないだろ?」
「そうだね、嫌いじゃないけどそんなに食べないかな。でもレーズンチョコは子どもの頃好物だったよ。よく食べてた。ドライフルーツとチョコレートって合うんだよね」
マガツの目が光る。
「え、じゃ、このアンズも。どこ行ったら食べられるんだよ、ていうか蛍作ってくれよ!」
荷物から好物のドライアプリコットを取り出す。それはもう子供みたいなきらきらの笑顔で。
「あ、あははー」
(うっかり情報与えちゃった手前やらざるを得ないよね。この時期に男2人でチョコ買い求めるとか何の罰ゲームだよ。うう。拷問なの? 公開処刑なの?)
蛍はがっくり肩を落とした。
「これ包装紙?」
「薄いね」
「綺麗だね」
「紙じゃないみたい」
「布みたいだね」
「絵もいいね」
2人のアリスが包装紙を見ながらおしゃべりしている。
「マジ!? あのねえ、これ俺がデザインしたんだ」
ラッピングしていた少年が喜色満面といった表情でいきなり立ち上がった。
「こら。いきなり失礼だ。彼はうちの専属デザイナー」
「よろしく。そんなことよりこの着物の女性、いいだろ。この手首の角度が。会心の出来だ。この手首」
言わなくてもいいフェチをさらすデザイナー。周りは無言でどん引きしている。
「見て。ラッピングすると……ほら綺麗な和模様になるの。すごいでしょ。やってみて。破れにくいし跡も付きにくいから簡単よ」
工員の女性が気を利かせて話を変えた。クーはもこもこの格好のままラッピングを始めて周囲に癒しを振りまいている。
「ほう。綺麗だな」
ナラカは完成品を手にとってため息を付いた。なんとなく視線を上げるとデザイナーと目が合う。
「格好いい着物着てるね。ちょっとスケッチしてもいい? 後、そこのお姉さんも」
そこのお姉さんというのはカグヤのことである。
「構わんぞ」
「あまり長居はできんが、いいか?」
「大丈夫! 俺描くの早いから」
言うが早いか部屋を飛び出した。落ち着かないデザイナーである。
「こんなに薄くて破れにくいのなら和紙を用いた衣服や装備等が作れんじゃろうか?」
カグヤの言葉に今度は呉服商の目が光った。
「あるよ。和紙を長い紙縒りにして布を織るんだ。帯や着物を……見たほうが早いな。ちょっと来て。サンプルあるんだよ。よかったら着て! マリオンさんもよかったら」
「構わんぞ。恭一はどうする」
「俺はいい」
ラッピング作業が存外に楽しいらしくロクにこっちを見もしない。
「男性陣も欲しいな」
もう完全に目的を忘れている。これではデザイナーのことをとやかく言えない。
「そう言えば、男性陣が少ないような」
呉服商が首を傾げる。
「ああ、彼らはのう」
工房内でリンクした昂とハーメルは水仕事をしながらお喋りをしている。
「傷はもう大丈夫ですか? 九文原さん」
「うん。大分いいですよ」
「ありがとねえ。助かるわ。でも無理することないのよ」
古参らしき女性工員が言う。
「大丈夫です」
「僕らこのくらいじゃ疲れないです」
「ありがとう。お陰で今日ははかどるねえ」
「役に立てたならよかったです」
2人はにっこり笑った。ほんの少し前まで命がけで戦ったとは思えない笑顔だった。
数時間後。
「またおいでー」
「今日は本当にありがとう。うちの店にも是非来てくれ」
「守ってくれてありがとうな!」
「手伝ってくれてありがとねー」
「助かったよう!」
沢山の声に送られながらリンカーたちは工房を出た。
その後、リンカーたちの元に自分たちで守ったチョコレートの包みが届いた。ちなみにその包み紙にはイベント時、呉服商がした「感動的演説効果」でプレミアがついたそうである。