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イベントを守り切ろう!
最終発言2016/01/20 23:35:10 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/01/19 21:46:07
オープニング
「ショコラスイーツ・クリエイト・コンテスト?」
『あなた』達の声が綺麗に揃った。
資料を配布したパク エヒが頷く。
「最近、チョコレートやその原料であるカカオを狙った愚神、従魔の動きで、結構な数の任務が出ているのは知っていると思うんだけど、私が勤めてる会社と立花の会社で、このコンテストイベントを開催することを思い出してね、動きがある可能性を考慮して、会社と相談し、H.O.P.E.へ依頼を出したのよ」
「意外な繋がりですね」
「エージェントって支社でバレたら、あっちのイベント担当者もエージェントだからって組み込まれたのよ」
剣崎高音(az0014)がエヒの隣にいる相模 立花を見ると、エヒが知り合った経緯をそう語った。
「けれど、イベント参加者がエントリー取り止め、なんて、なったら、イベントとしても成立しなくなるし、エージェントには極秘でお願いしたいっていうのが、上の意見ね。可能性である以上、徒に不安を煽りたくないらしいわ」
立花が上からのオーダーを伝え、軽く肩を竦める。
その後方で、彼女の英雄である王 夏狼(ワン シアラン)が微妙な顔をしているが、その理由を知っているのは彼女が実は家では干物女と聞いたことがある英雄だけだろう。
「極秘……つまり、参加者、審査員、裏方、観客……どれかに紛れて警備をして欲しいそうなのよ」
「私達は担当者だから当然裏方でこっちの仕事で手一杯だから、申し訳ないけど、皆にお願いしたいわ」
彼女達は揃って頭を下げる。
任務の一環ではあるが、場合によってはそのままコンテストを楽しめる。
『あなた』達はそれを承諾し、どの立場に紛れるか話し合い始めた。
解説
●出来ること
下記1つよりその立場を選び、不自然ないよう参加しつつ(紛れつつ)、最後まで任務を遂行します。
共鳴の可能性のある任務である為、能力者と英雄、異なる立場はNGです。
・参加者
コンクール参加者としてエントリーします。
バレンタインに大切な人と一緒に食べるショコラスイーツをお題に、アイディアを考案します。
考案したアイディアは自分または待機しているショコラティエが試作し、審査員が試食します。
・審査員
試作されたショコラスイーツを試食し、参加者へ評価を下します(ただしネガティブなものはNG)
お題に沿ったスイーツであるかどうかの他自分なりに基準を持って審査するといいかもしれません。
・裏方
照明・音響といった各種雑用。概ね出来ますが、スケジュール管理のみは担当者であるエヒ・立花両名が行っている為不可能です。
・観客
ショコライベントということで、観客がいます。
女性多目ですが、男性もいます。
●イベント会場
・都内百貨店催事場
●敵情報(PL情報)
・ミーレス級従魔イートミーx3
チョコレートカラー(チョコレート製ではない)の人型従魔。ただし、目も鼻もなく、顔にあるのは口だけ。
能力は直線5に泥ブレス以外はなく、後は物理攻撃のみ。
泥でレシピや試作をダメにするべく動く。
試食タイムで観客席側から乱入しようとします。
●NPC情報
・剣崎高音、夜神十架
指示がなければ裏方(参加者誘導係)へ。
一般人避難誘導を行います。
●注意・補足事項
・相手は従魔なので容赦はしなくていいですが、倒した後イベント続行出来るよう配慮が必要です。
・従魔登場前はエージェントであることを知られないようごく普通にイベントを楽しんでください。
・倒した後も可能な状況ならイベントを楽しめます。
・試作ショコラは審査員が全て食べる為残らず、アイテム配布はありません。
・優勝した場合は当日限りのショコラバー無料招待券(配布なし)が進呈されます。
リプレイ
●可能性あるからこそ
構築の魔女(aa0281hero001)は会場を見渡し、小さく頷いた。
「事前にお願いした通りですね」
説明を受けた日にそれぞれ役割を割り振った際、構築の魔女は裏方を申し出、イベント担当者のパク エヒと相模 立花へ会場設営に関する依頼を出していた。
「ロ……―」
傍らの辺是 落児(aa0281)が、構築の魔女の依頼が反映された会場を見回す。
従魔の襲撃があるかどうか判らないが、もし本当にあった場合、混乱は最小限にすべき。
避難し易いよう各経路の確保だけでなく、それらを判り易く明示、ステージ、観客席共に空間の余裕を設けたり、階段を工夫したり、混乱を起こしやすい椅子や机も配置に気を配れば、万が一の時でも対応し易く、将棋倒しのような混乱も起き難い。
「従魔が襲撃した場合、観客席の石井さんが対応していただけるので、立見席でなくとも混乱はないでしょうが……」
テミス(aa0866hero001)と共鳴した上で観客に紛れ込む石井 菊次郎(aa0866)は支配者の言葉で従魔の動きをある程度コントロールするとのこと。
彼はオフィススペースへの誘引を希望したが、百貨店のバックヤードにも商品のストックがある等戦闘の際の不都合が生じ易い点より、ステージへ誘導することとなった。
一般審査員、一般参加者もいるが、ステージへゆっくり誘導させている間にこちらを担当するエージェントが万事対応するとのことだ。
「本当にこの国はイベント好きだな……。まぁ、楽しければイイって言う、お祭り気質ってヤツ、か」
なんて、言いながら、カール シェーンハイド(aa0632hero001)と共にやってきたのはレイ(aa0632)だ。
「照明と音響設備はどうでしたか?」
「避難の邪魔になるようなのはない。高所からの目も必要だろうし、イベント中は照明器具の裏に待機出来る場所見つけておいた。スペースの問題で、共鳴しとくが」
「何かあったら、すぐ対応出来るしね」
同じように照明を担当する構築の魔女が問うと、レイが詳細説明し、カールも続く。
「お前楽しそうだな、毎日。頭ン中はいつでもお祭りか……」
「その言い方酷くない?」
カールは、頬をぷぅっと膨らませた。
「設営面で工夫しましたが、チョコを保管しておく冷蔵庫なども注意した方がいいでしょうね。イベント開始までの間の状況を確認してきます」
構築の魔女は軽く頭を下げ、落児と共に担当者であるエヒと立花の元へ。
その後ろでは、「毎日お祭りだったらさ、もっとレイの音楽聴けるかも! そー思わねぇ?」なんて、カールがレイに言っており、レイが「祭りじゃなくても聴けるだろ」なんて呆れたように返していた。
●控室準備中
(こうしていると、普通の女の子なんだがなぁ)
鋼野 明斗(aa0553)は、傍らのドロシー ジャスティス(aa0553hero001)がレシピブックを熱心に読んでいるのを見て、心の中で呟く。
バレンタインデーが近づいてきて、TVでもバレンタインの特集が多くなってきた。
高級なのに興味を持たれたら大変と思い、ドラッグストアで特売していたお手頃な板チョコを渡して、お茶を濁していたのだが、ドロシーも貧乏(悲しい認識)な明斗に期待していなかったらしく、今回の任務の参加動機に繋がったのである。
(……本当に便乗みたいだけどな)
出たいとスケッチブックをばんばん叩いていたドロシーにとって、参加者としてショコラスイーツを作るのは重要なのだろう。
明斗はスケッチブックに書き記してある自身考案のレシピの最終調整を行うドロシーを見て、和んだ。
「俺は甘い物はそれ程得意じゃないんだが」
マルコ・マカーリオ(aa0121hero001)のやる気はあるとは言い難い。
が、アンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)は半眼でぽそりと呟いた。
「女の人、チョコ好きな人多いよね」
「それとこれは別だろう。そもそもチョコよりも贈る方が美味しい」
「チョコ贈るのが好きなの?」
会話を聞いていた伊邪那美(aa0127hero001)が、無垢な瞳でマルコを見た。
一瞬言葉に詰まったマルコは、御神 恭也(aa0127)もこっちを見ているのに気づく。
なので、マルコはフッと笑った。
「俺なんかより女性が笑顔になった方がいいだろう」
「優しいんだねー。ほら、恭也も見習わないとダメだよ!」
伊邪那美、信じてくれた。
アンジェリカはすこーし疑惑の眼差しを向けていたが、「ま、いっか」と疑惑を退ける。
「それなら、そんな人でも美味しく食べられるかって基準で審査したら? 贈られる男の人の中にだってマルコさんみたいな人だっていると思うし」
が、マルコは、「酒に合うチョコがあるのは知ってるが、そういうのはないんだろ」とまだまだやる気底上げが必要な状態。
「参加者の中に、凄く美人のお姉さんいるかもしれないよ? 未来のショコラティエールが来る可能性だってあるし」
「あ、それはありえるよね」
伊邪那美がなるほどと口を挟む。
「……なら、未来のチョコレート業界の女神を応援しに行くか」
マルコは、やっとやる気上乗せされた。
(ボクは美味しいチョコが沢山食べられるだけで満足なんだけどね♪)
従魔やら愚神やらが出なければ、この任務は幸せに終わるだけなのだ。
それは伊邪那美も同じらしく、避難経路の確認や他のエージェントとの連絡状況に不備が起きないか貸与された無線機の確認をしていた恭也へ話を振っている。
「ちょこれーと食べるお仕事なんて、最高だよね」
「何事もなく終わればそうなるな。終わればいいのだがな」
「恭也は相変わらず若さがない!」
ダメ出しされつつも、恭也はその審査基準を口にした。
「大切な人と一緒に食べる、という主題に合ったものが大事だろう。どういった理由で考案したかも知りたいが、その相手を想っただけでなく、自分の好みが入っていれば評価高い」
「自分の好みも?」
伊邪那美が不思議そうに目を瞬かせる。
食べるのだから美味しいことが最も重要、同時に目新しさも大事と思っていたのだが。
「作る相手が無理をすることを喜ぶような相手なら止めておけという話だ。食生活の我慢は良くない」
「前半は素敵なのに、後半は何か……」
「恭也は中身が老けてるから……」
恭也の言葉にアンジェリカと伊邪那美は顔を見合わせた。
●イベントの始まり
テミスと共鳴している菊次郎は従魔、愚神が登場した際、支配者の言葉の射程が有効に発揮される観客席へ腰を下ろした。
各所にはまいだ(aa0122)と獅子道 黎焔(aa0122hero001)、東城 栄二(aa2852)がおり、彼らも目を配っている。
(一般の方のアイデアをショコラティエがそのまま実現するというこの仕掛けは面白いですね。自分も出来れば応募したかったのですが……)
(『今から役を変えるか? だいぶ悩んでおったようだが』)
菊次郎の内の呟きへテミスが反応する。
(いえ。既にイベント開始まで間もないですし、止めておきます。それに、この位置の方が支配者の言葉が上手く運用出来ますので)
(『そうだな。……が、来るのか?』)
こればかりは菊次郎も確固たる答えを返せないが、テミスへ来なければそれに越したことはないと応じた上で定期連絡を入れた。
「おー! はじまったー!」
黎焔によって肩車されているまいだはよく見えるとご機嫌だ。
肩車すると見え難くなる周囲に配慮する名目で壁際の立ち見を陣取ることに成功し、まいだが借りた安物のオペラグラスで周囲を見回す。
「だろ? あたし力持ちだろ? ……それはそれとして、何か怪しい奴がいたら、知らせろよ? とんとんって、足で身体を軽く叩くだけでいい」
「りょーかい! れいえん、ちょこれーとがたくさんある!!」
元気いいまいだはイベント進行でショコラティエの側に運ばれてきたチョコレートに大興奮。
「そりゃそういうイベントだしな。この仕事が終わったら、買ってやるから」
「……あれ、たべられないの?」
「お客さんは見……って、そんなしょげた顔すんな! ちゃんと買ってやるから!」
黎焔はまいだへそう言い、買うチョコレートを何にするか検討し始める。
(配置関係は聞いていたとは言え、無駄がねえな。高所からの確認班もいるし、油断は出来ねえが、被害が大きくなるようなことはなさそうだ)
構築の魔女の案に舌を巻く黎焔は、現在異常なしの定期連絡を入れた。
「ドロシーさんが主として動くんですね」
会場最後方に陣取る栄二は呟いた。
いつでもカノン(aa2852hero001)と共鳴出来るよう油断なく気を配っているのも、食べ物を粗末にしようとする愚か者が現れるなら、容赦などしてはいけないという考えからだ。
「レシピが既に決まっていて、自身が調理する場合はすぐに取り掛かれるんですね」
栄二は、明斗が何かを薄切りにしている間、ドロシーが砕いたチョコを湯煎でとろとろにしようと頑張っているのを見る。
薄切りにしているのは、果物や野菜、だろうか? 栄二がいる場所からではよく判らない。
「食べ物、スイーツ、それもこんなに頑張って作ったものを粗末にする輩が現れた場合は、身の程を知っていただかなくてはいけませんね」
爽やか、優しい……そんな微笑だが、言ってる内容もあってか、その空気は何か黒い。
カノンが(来た方が可哀相なレベルになりそうな気がする)とこっそり思ったのだが、それは内緒だ。
「あくまで可能性を警戒した警備ですから、どういう敵が来るのか判らないのが痛い所ではありますが、狙いの想像つきますしね」
菊次郎の支配者の言葉の間にステージ上にいるエージェントがバックアップに動くが、一応有事に備えてビニールシートは準備して貰った。
何かあっても、ビニールシートを敷いた上で対応すれば、後のイベント再開に影響はないだろう、と思いながら。
●イベント妨害とその顛末
(今の所イベントは着々と進んでいるな)
(『ショコラティエの人は流石に手つきいいなー。自分で作ってる人も慣れてる人多いけど』)
何事もなく進んでいると漏らすレイに対し、カールは参加者に気を配っている。
(『ドロシーはあまり慣れてないかもしれないけど、その分難易度低いものを選んでるからかな、大きな失敗はなさそう』)
ここからは、明斗に薄切りして貰ったオレンジ、レモン、キウイの果物、サツマイモ、南瓜、蓮根の野菜を湯煎したチョコでコーティングしている作業がよく見える。
(チョコに野菜?)
(『意外に合うんだよー。レイは知らないかもしれないけど』)
少食でサプリメント主食説もありえるレイは、カールにとって料理やお菓子作りの腕を振るい甲斐ない相手だったりする。
イベントは進行していき、次々にアイディア溢れるショコラスイーツが出来上がっていく。
(ん?)
レイは、まいだが何かに気づいたことに気づいた。
まいだは混雑している会場内を見ていたが、後ろの方で同じ服装をした人達が何か変だと気づいた。
さっきはいなかったから、多分後から来たのだろう。
コートをすっぽり着ているその人達は帽子を目深に被って、しかもサングラスとマスクをしていて、その顔がよく見えない。
でも、この会場に不釣合い。
(れーえん、あやしーひとはっけーん)
直接声を掛けることは出来ないが、まいだは心の中で呟き、黎焔へ知らせるように足で黎焔の肩を軽く叩いた。
まいだの動きで黎焔が気づき、いつでも動けるように全員へ連絡、審査員席にいる恭也が暑くなったかのようにスーツの上着を脱ぎ、アンジェリカがコートのように畳んでいたヒーローマントを膝掛けのように広げ、体勢を整える。
(え、これから試食なのに……)
伊邪那美が来てしまった不審者に驚愕、そして、試食の邪魔をするなんてと目を鋭くした。食べ物の恨み怖い。
(麗しのショコラティエの未来を守れば、電話番号位いける)
なんて、マルコは口に出さず思ったのだが、表情で察したアンジェリカが「それは阻止するからね」とぽそりと呟く。
(人が多い。支配者の言葉で誘導するにしても攻撃タイミングは計った方がいい)
恭也は会場と観客の多さ、ステージの一般審査員、参加者を改めて見て計算し、攻撃範囲から離脱するタイミング調整は必要と特に射程ある攻撃手段を持つレイへほんの小さな声で連絡を取った。
『スタッフは一時的に控え室に退避完了しています。高音さんも配置完了、わざと共鳴はして貰ってません』
構築の魔女から裏方の退避状況が伝えられる。
剣崎高音(az0014)が一般人避難誘導に当たるが、H.O.P.E.のエージェントであることを示す為、最も判り易い手段として、夜神十架(az0014hero001)と共鳴して見せた方がいいとなり、彼女といつでも登場出来るよう準備を整えたそうだ。
見ると、明斗がドロシーに呆れる振りをして状況を確認しており、試食のタイミングを待つドロシーは何気ない素振りで参加者のレシピを守り易い場所へ立ち位置を変えている。
そうして、全員が警戒する中──
「それでは、審査員の皆さんに試食を──」
司会の言葉を遮るかのように怪しまれていた人(?)達が正体を現した。
目深に被った帽子もサングラスもマスクも落とした姿は、やっぱり従魔(後の識別名は『イートミー』である)、人型だが口しかない姿はチョコレートカラーだが、チョコレートの匂いもしないし、チョコレート製ではないだろう。
悲鳴が上がった瞬間、菊次郎がすくっと立った。
「君達、お客様が混乱しています。ステージへそのまま向かい、ポーズを取ってください」
発動している支配者の言葉は、従魔へ的確に作用した。
従魔達がステージへ向かうその間に高音と十架が姿を現し、「H.O.P.E.のエージェントです。ちょっとしたイベントになってしまいましたが、ご安心を」と共鳴してみせると、我先にと逃げようとする人々の動きが止まり、それを見計らって、避難誘導へ移行する。
「大丈夫。皆はボク達が守るから、落ち着いて避難して!」
アンジェリカとマルコも共鳴してみせると、審査員と参加者達を共鳴済のエヒと立花へ託し、ステージから下げた。
並行し、伊邪那美が試作品をラップに包み、保管用のケースへ。レシピは明斗とドロシーがこちらもラップに包んで、調理台の下へ仕舞っていく。恭也がビニールシートを掛ければ、戦闘場所完成だ。
直後、ステージに飛び乗った従魔達がポーズを取った瞬間、恭也が会場内を見、問題ないと片手を上げた。
「良い声で啼いてくれよ? 魂を震わすようなビブラートで、な」
レイが存在を示すようにトリオ発動。
会場内に男性客もいたものの、女性客が多め、百貨店催事場というそこ以外でも銃声が別の混乱を与えそうな可能性より、グレートボウでの攻撃だが、支配者の言葉で洗脳状態だった従魔へ外れることもなく命中した。
怒り狂う咆哮を上げる従魔がステージ上にいるアンジェリカ、恭也、明斗へ襲い掛かろうとするが、明斗はレシピを隠した調理台の前から動かない。
「楽出来ると思ったんだが」
上手くいかないものだ、と呟く明斗は従魔がブレスを放ってもアスピスで受け止めることを優先、退避しない。
(『あれ、泥じゃない!? 食べるのを邪魔するばかりか、ボクのちょこれーとを駄目にしようとするなんて許せないよ!!』)
「別にお前のチョコレートでもないと思うが……」
呟く恭也は自身へ向かってくる従魔へ鍛え抜かれたコンユンクシオを見えない速さで振り抜いた。
正に電光石火の攻撃を受け、従魔が怯んだのを射手の矜持を発動させて命中精度を上げたレイが容赦なく攻撃する。
「ふん、本当にチョコレート以外の興味はないのか」
高音の避難誘導を補助し、取って返したまいだと黎焔も共鳴し、ステージへ取って返していた。
すぐさま発動させていたライヴスフィールドは従魔達を弱体化させる力を遺憾なく発揮しているようだ。
「何故チョコを狙うのでしょうね? ……保存食として優秀だからでしょうか?」
守勢に徹する明斗の前に立ったのは、構築の魔女と共鳴した落児。
主導権は構築の魔女である為、発せられた言葉は栄養も取れて保存も利く優秀な食品だから狙われるのかという疑問だ。
(ロローー)
落児が妙に納得した見解を出す。
安心と肯定の響きは、『魔女殿らしい発想だな』というものだが、言っていることは解ってもその意図までは読めない構築の魔女サイドは、釈然としないが嬉しそうだと首を傾げるものである。
とは言え、戦闘中であるので、泥ブレスは既に判明したこともあり、出来る限り攻撃方向を誘導し、被害をコントロールしに掛かった。
「いけませんね。食べ物をダメにする為に泥を吐くなど。万死に値します」
(『従魔だからそんなことしなくても万死に値するけど……攻撃の直後に畳み掛けて』)
最後方で避難補助に携わっていた栄二もステージへ到着、微笑みながらも殺意高いことを言う彼へカノンは助言のサポートを忘れない。
「アンジェリカさんサイドをお願いします。最もダメージが浅いと思われるので」
落児と共に明斗が守るレシピへ向かおうとしていた従魔へ対処していた菊次郎の言葉に頷き、栄二が銀の魔弾で攻撃開始。
「さて、大根過ぎる役者にちゃんと報酬を差し上げなくては。破格ですね」
落児の牽制の攻撃を回避した従魔へ、菊次郎は遠慮なく銀の魔弾を撃った。
「劇の世界は俺にはよく解らん」
などと漏らす恭也は黎焔のブラッドオペレートの援護を受け、疾風怒濤。
エージェントとして高い実力を持つ恭也の攻撃を何度も受けられる程強力な従魔ではなかったらしく、従魔は泥となって崩れ落ちる。
「わ、ビニールシートあって、良かった」
そんなことを漏らすアンジェリカはストレートブロウで従魔がビニールシートからはみ出ないよう位置調整を行った。
吹っ飛んだ先にはレイの弓が降り注ぎ、従魔の位置を縫い止める。
栄二の銀の魔弾がここで決まり、この従魔も進退窮まる、といった状態へ追い込んだ。
「折角お膳立てしてんだ。お前らの最高のグライコ、魅せてよ」
「音楽はリズムが大事ってね!」
レイへ応じるアンジェリカも世界的な歌姫を目指すだけあり音楽に次の攻撃をなぞらえた。
その言葉の直後、アンジェリカとレイの呼吸を合わせた攻撃が吸い込まれ、従魔が泥となって崩れ落ちる。
「……んー……、痺れるねぇ……このビート」
レイが従魔の最期を見、頬を緩めた。
●イベントを取り戻せ
「報酬は十分受け取っていただいたようで。少ないと不平を漏らさない方で助かりましたが」
同じように従魔を仕留めていた菊次郎がビニールシートの恩恵で後の影響がないことを確認、落児がエヒと立花へ終了の連絡、まいだが高音へも同じ連絡を入れた。
「掃除すれば大体大丈夫かな?」
「ビニールシートの上だし、これ片付けるだけで大丈夫だよね」
共鳴を解除させ、アンジェリカが後のイベントを思うと、伊邪那美が泥だらけのビニールシートを見遣る。
「だが、女性達がまた来ないか怯えないか心配だな」
「女性に限らずとも戻りたい者がいるかどうかの懸念は同意する」
「こればかりはどうにも出来ないが……」
マルコの言葉にテミスが同意していると、恭也は試作品やレシピに掛けたラップを取り外すドロシーを見る。
あまり落ち込んでいないことに疑問を持っているのは明斗も同じようだが……?
「イベントちゅーしになっちゃうのー?」
「仕方ねーだろ、こればかりは」
「まぁ、待て」
残念そうなまいだへ言って聞かせようとした黎焔の声をレイが遮った。
「音響いけるなら、即興演奏で戻すぜ」
その言葉を聴いて、カールが顔を輝かせる。
と、レイがカールへ顔を向けた。
「カール、この前に教えたアレならベース出来る……よな? 当然。お前のベースに俺のギターと歌、乗っけてやるよ」
「マジで?! レイの音楽にオレも混ざれんの? それって最高じゃん? 客を戻す…ってより、オレ自身が楽しんじゃいそー!」
「許可と、アナウンスの依頼をしてきますね」
構築の魔女が落児を促し、裏へ消えていく。
許可は当然下り、すぐさま準備が整えられ、百貨店内へアナウンスが流れた。
「バレンタインらしい歌ですね」
流れ出す音楽に栄二がそう言うと、カノンは「そういうものなの?」と聞いてきたが、栄二はそういうものだとこの世界のことに詳しくないカノンへ微笑みと共に教えてあげた。
最初は、バレンタインが近づけば1度は耳にする定番の歌のカバーを。
呼び戻すのが目的である為、切ないものではなく、明るく可愛く、軽快さを感じるものを中心に。
やがて、店内放送の効果で催事場へ向けた人々がレイのギターと歌、カールのベースに引き寄せられるように戻ってくると、イベントは再開した。
「……まさか、あの様なアイデアを考えるとは! やはり野に遺賢ありと言うことでしょうか?」
エージェントと判明したこともあり、ステージ袖で観ることに切り替えた菊次郎は試食を見て唸っていた。
「我は甘い物にはとんと興味が沸かぬので何とも言えんが……」
テミスはそう言うしかないのだが、栄二が「どれも美味しそうですね。力作です」なんて言って、カノンに色々説明しているので、多分目新しいものなのだろうとは思う。
『お餅にチョコ! 意外に合ってビックリだね。おとーさん!』
『……甘さが調整し易いというのもいい。相手の味覚に合わせたチョコをコーティングすればいいと思う」
アンジェリカに応じるマルコは誰がお父さんだと思っていそうだが、女性相手には微笑を向けているようだ。
「おもち! れーえん、あれたべてみたい!」
「あれなら作ってやるよ。レシピはあれと違うかもしれねーけど」
「レシピ! そうかその手が」
まいだに応じる黎焔へ反応したのはカールだ。
「オレもチョコとか作りたいって思ってたんだよな~、レイが少食でつまんないけど、バンドのメンバーへ差し入れにいいし。……ちょこっと拝借すれば」
「カール、落ち着け。止めろ」
レイはカールを止めに掛かる。
この後、イベントHPでレシピが公開されることを聞いたカールが大変喜ぶが別の話だ。
「……俺は悪くないと思う。味が色々楽しめるし、何より相手のことを想っている」
恭也がドロシーの作品を口にすると、ぽつりと漏らした。
沢山作り、少しお裾分け分を作っていたドロシーはそわそわしていたが、それに反応し、『喜んでくれる?』とスケッチブックの文字を示す。
「俺は喜ぶと思う」
恭也はドロシーの様子で何となく贈りたい相手が判っていたから、それだけ言った。
首を傾げていた伊邪那美は「そういえば」と小声で切り出す。
「恭也は参加しないの? 詳しくなくてもよく作ってるから優勝出来そうなのに」
「俺のは全て既存のレシピだ。オリジナルではない。優勝は無理だな」
伊邪那美に誰が作らせているんだと見つつ、恭也はイベントの趣旨に沿っていないと返す。
「なら、今度はおりじなるでお願いね」
「……考慮しておく」
伊邪那美へそう言い、恭也は次の試食の品を食べ、参加者へコメントを告げた。
「ローーー……」
「甘い香りが会場の雰囲気に合って、素敵ですよね」
落児と構築の魔女に話し掛けられ、十架がこくこく頷いた。
「高音さんのお母さんは甘い物も作るの上手だったりするのかしら?」
「クッキー……おいしい、わ。高音と、……おてつだい……するの」
どうやら高音の母親は十架もお手伝い可能なお菓子を選んで作っているようだ、と構築の魔女は気づき、「それは楽しそうね」と微笑むと、十架ははにかんで頷いた。
そこへ、席を外していた高音が「もうすぐ優勝者が決まるみたいですね」と戻ってくる。
「ええ。ドロシーさんではないみたいですが、無事に終わりますね」
構築の魔女が安心したように微笑んだ。
イベント終了と同時にドロシーが弾丸のように高音と十架へ駆けていく。
「ああ、なるほどね」
明斗はドロシーの贈り先を見て、納得。
手伝いしていて気づかなかったが、ドロシーは友達にプレゼントする良い機会だと思ったのだ。
審査員であった恭也は聞いた内容と本人の様子で理解してくれたから、ああ言ってくれたのだろう。
「ところで、俺にはないのか?」
2人が美味しいと食べてくれたのを見て満足げだったドロシーは明斗へ不思議そうな顔をした。
どうやら、バレンタインの本当の意味は理解していないらしく、頭になかったらしい。
「ま、高い味を覚えない方がいいか」
明斗は自分には安売りの板チョコが似合うと自身を納得させるように呟いた。
守られたアイディアで作られたお菓子達は、バレンタインデーには誰かの元へ届く。