本部

新春新入エージェント歓迎会のお知らせ

霜村 雪菜

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~10人
英雄
8人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/01/21 20:10

掲示板

オープニング

●参加者募集中
 本部のロビーには、いろいろな告知や情報のポスターやプリントが張り出してある。気軽なものから重要なお知らせまで幅広いが、新しく張り出されたポスターは大判フルカラーでひたすら目立っていた。
『新年新入エージェント歓迎会のお知らせ!』
 と、一番上にでかでかと書いてある。
 HOPEには、新しく入ってくるエージェントが常にいる。組織の性質上、学校や会社のように四月に全員揃って、というわけにはいかない。そのため任務で一緒にならない限り新しい人と古参の者が知り合えないということも多い。それでは味気ないし、入ったばかりだと不安なことも多いから先輩にいろいろ話を聞ける機会と場を設けた方がいいだろうということで、月に一度このような歓迎会が開かれる。今月は新年会も兼ねた集まりとなるようだ。ちなみに、新しいエージェントは英雄も含めて六人らしい。
 新年会なので、余興の枠もあるとポスターには書かれてあった。一人で何か披露するもよし、何人かで隠し芸をするもよし、ただ見ているだけでもよし、とある。
 所属しているエージェント全員を一堂に会することは多すぎて不可能だし、あまりたくさん集まっても新入エージェントは緊張するだろうということなのか、参加希望者の上限は十人だった。
 まだ告知がされたばかりのようで、申込用紙はちょうど十枚あった。英雄と一緒の参加を希望するのであれば、一枚の申込用紙でできるようになっている。英雄とリンカーは二人一組、ということなのか。もしそういう計算でいけば最大二十人、新入エージェントも英雄と一緒の参加と仮定して、合わせると三十人。賑やかな集まりになりそうだ。
 楽しそうだが、さてどうしようか?

解説

目的:新入エージェントの歓迎会及び新年会に参加します。
新しく入ってくるエージェント達は英雄と合わせて六人。いろいろわからないことや不安に思っていることもあるかもしれませんので、励ましてあげましょう。
余興:
新年会も兼ねているので、希望者は余興ができます。一人~数人で、歌ってよし踊ってよし隠し芸してもよしです。もちろん、ただ見ているだけ、食べているだけ、飲んでいるだけでもOKです。

リプレイ

●ただいま宴会準備中
「ふふ、新年会だよ、お酒だよー!」
 木霊・C・リュカ(aa0068)は、テーブルを運びながら浮き浮きと言った。目の不自由な彼をいつもそれとなくサポートするオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)の姿は見えない。作業効率を上げるために共鳴しているのだ。
『……出し物なんて、できるのか?』
 リュカの脳内でオリヴィエの問いが響く。
「お酒の一気飲みなら!
『……』
 早々に、自ら余興を考えるオリヴィエだった。
 新入エージェント歓迎会は、人数が多いのとなるべく自由にいろいろな人と交流しやすいようにという目的に沿い、立食形式だ。疲れた人や座ってじっくり話したい人のために、壁際に椅子も用意する。
 料理は得意な人達に任せて、リュカはひたすら会場設営だ。カップと皿をテーブルに置き、酒やソフトドリンク系の飲み物はHOPEから借りてきたクーラーボックスに入れる。
「歓迎会だって、面白そうな事になりそうだね厳冬」
 会場の隅で、紙吹雪を作りながら言ったのは符綱 寒凪(aa2702)。
「宴か! 飲み食いなら任せろ! あ、餃子食いたい餃子」
 厳冬(aa2702hero001)は、マスク越しに主張する。寒凪は苦笑しつつ、どんどん紙吹雪を作っていく。
「帰ったら作るね、さてお仕事お仕事」
「やった! さすが凪だぜ! 仕事? 仕事なら終わらせねェとだな!!」
 厳冬は、張り切って紙吹雪作りを再開する。紙くずがどんどん増えるのを、寒凪はこまめに掃除していた。
「何か、お手伝いすることはあるでしょうか?」
 そこへやってきたのはマクフェイル ネイビー(aa2894)とリーフィア ミレイン(aa2894hero001)。
「あ、ありがとう。でもここはもうそろそろ終わるから」
 寒凪はにこやかに答え、周囲を見回した。
「料理の配膳とか、そろそろ必要かもしれないよ」
「あ、そうですね。じゃあ、そちらに行ってみます」
 二人は足早に去って行った。今回が初めての依頼ということらしい。つまり彼らも新人で、歓迎される側に加わっていてもいい立場だ。現場の人間として参加してみよう、とマクフェイルのほうが提案したとのことだ。
 やる気があって意識が高いなぁ、と思う寒凪も、決して歴戦の覇者と呼ばれるようなベテランではない。だから今回の歓迎会も、楽しんでいこうというスタンスだ。
「さ、そろそろ紙吹雪は集めておいて、他のところを手伝おうか」
「おう!」
 紙吹雪と、出てしまった紙くずをそれぞれ分けて袋に入れ、紙くずの方はしっかり燃えるゴミとして処理してから、二人はとりあえず余興の準備をするメンバーに手伝うことはないかと訊いて回ることにした。

●歓迎会開催
「拙者もまだまだ若輩者ではござるが、困った時は頼って欲しいでござる。そしてまた時間があれば拙者の修行相手にでも……」
「だから修行に他の人を巻き込もうとする癖、辞めなさいってば」
 新入エージェントに迫る小鉄(aa0213)を、稲穂(aa0213hero001)が窘める。
「私達で分かる事なら何でも教えてあげるから、心配しないで、ねっ!」
 稲穂が微笑むと、緊張していた新入エージェントも表情を綻ばせた。
「は、はい。ありがとうございます」
 歓迎会が始まってしまうと、当初はかなり広く感じられたホールが狭く見えるほどの賑わいを見せた。英雄も含めて総勢三十人ほどいるのだから、それも当然だ。幸い料理と飲み物の不足は心配いらないようだ。
 しかし、世話好きの稲穂としては、そこもあまり安心できない。
「何かしら手伝った方が良いのかしら……」
 ふとした手の空いた瞬間、そわそわと裏手の方を気にしてしまう。小鉄はそんな彼女を見てやれやれと首を振る。
「稲穂よ、今日は騒ぐ日であって、働く日では無いでござるよ……?」
「あ、うん。でも……」
 言いかけた稲穂は、ぴたりとそこで固まった。
 小鉄が、いそいそとどこからともなくマフラーを取り出したからだ。
「はっ、ここはHOPE宣伝ニンジャとして頑張らねばでござるな!」
 ばっと勢いよく巻き付けた彼のマフラーには、『宣伝ニンジャ』の文字がでかでかと書かれている。さぁどんと来いと新人達の質問を待ちわびる風情だ。
「ねぇ、何を宣伝するの、既にHOPEに入ってくれてる子達なんだけどっ!?」
 すかさず突っ込みを入れる稲穂。
 その間に何となく小鉄の雰囲気に押された新人が、何人か質問を始めた。小鉄本人は自信満々なのだが、聞かれた質問が分からない事も多々、稲穂は呆れつつもフォローを入れるのだった。
「じゃんじゃん聞いてよ! ……と言っても、お兄さん達も数か月前まで同じ状況だったまだまだ新人枠なんだけどね」
 その近くで同じように新人の質疑応答を促しているのは、リュカ。ザルどころかワクと言っていいような勢いの酒豪のためまったく酔っていないが、実は相当量飲んでいる。オリヴィエはあまり自分では飲み食いをしないのだが、ひょいひょい動けないリュカに食事を適当にとってきて渡していたりと細々動いている。そのついでに空いた皿やコップなどの片付けと洗浄もこなしているのだから、実に要領よくかいがいしい少年である。
「えっと、戦うような依頼もあるって聞いたんで、ちょっとそこが不安で……」
「なるほどねー」
 聞き上手のリュカは、適度な相づちを打ちながら新人達の緊張と口を解していく。
「……話すのは、苦手なんだ」
オリヴィエは、困ったように目を逸らしている。二人とも新人枠とは言っているものの経験は豊富な方で、あまりに大事なことは聞かれても答えられる気はしないが、こんなことがあった、程度の話ならできるのだし、それでもまったく白紙の状態である新人達にとってありがたいことには違いなかった。
笹山平介(aa0342)は、柳京香(aa0342hero001)と一緒にパーティーを楽しみながら、会場内をそれとなく見回していた。
「昔の自分を見ている様だね……」
 誰しも新人の頃はあるのだ。そんな思い出に浸りつつ、彼は思考を切り替える。
「よし♪ 早速緊張をほぐしに行ってくるよ♪」
「いってらっしゃい」
 普通に見送る京香。平介が向かったのは、緊張のためか隅で一人立ち尽くしている新人のところだ。
「どうしたんですか? 何かお困りのことは?」
「ひゃっ! あ、いえ……」
 人見知りをするのか、心細そうなその少女はおどおどと平介を見上げた。
「何か飲み物は? ジュースとお酒、どっちがいいですか?」
 見た目は未成年でも、実際は二十歳を超えていることもざらにあるのがこの業界(?)だ。なので念のため二つの選択肢を提示した平介に、しばらくもじもじしていた少女はやがて小さな声でジュースを所望した。
 平介は、しばらく少女と話をした。彼女は英雄ではなくリンカーで、高校生だった。初めのうちは表情も口も硬かったが、物腰の柔らかい平介の気配りとおいしい料理に、次第に緊張は解けていったようだ。
「今の表情はとてもよかった、少しでも緊張がほぐれたのならいいのですが」
 ふとした瞬間に笑顔を見せた少女に、平介は微笑んだ。
「困った時こそ落ち着いて状況把握を忘れないように……ね?」
「は、はい!」
 大きく頷いた少女の頭を、彼は優しく撫でた。
「あっちにいるの、あなたの英雄じゃないかしら?」
 いつの間にかそばへ来ていた京香が、そっと少女に話しかける。
「お友達ができたみたいだけど、あなたのこと気にしていたようよ。このお料理、持っていってあげたら?」
「は、はい、ありがとうございます!」
 少女は二人に何度もぺこぺこ頭を下げて、料理の皿を手に英雄の下へ駆けていった。彼女の英雄は、同じく新人らしい数人と一緒に彼女を迎え、しばらくすると楽しげに歓談を始めた。
「打ち解けたようですね。料理も全員の好みに合っていたようですし」
「そうね」
 時間が経つにつれて、みんながよく食べる料理がどれかわかるようになる。減りが早いのが当然人気の一品だ。
 平介は周囲の人達が手にした皿の料理を、丁寧に記憶にとどめていった。
「あ、あそこに賢木さん達が。挨拶しに行きましょうか」
「ええ」
 二人は、余興準備中らしい賢木 守凪(aa2548)と、その傍らにやる気なさそうに立っているカミユ(aa2548hero001)のところへ向かう。
「おはようございます♪」
「ん――うおっ!」
 肩を叩かれて振り向いた守凪の頬に、真っ直ぐ突き出していた平介の指がむにっと刺さる。
「平介、貴様ーっ!」
「ごめんなさい……これが平介のジンクスなの」
 平介に代わりフォローを入れる京香。怒るに怒れなくなり、守凪は口をぱくぱくさせていた。
「おや、手品をやるのですか?」
 平介は、そんな守凪の後ろのテーブルに用意されていたトランプを目に留めて言った。
「ああ、隠し芸では手品を披露するぞ。ふふん、俺の華麗なマジックに恐れ慄くがいい!」
 得意げに胸を張る守凪には聞こえない位置で、カミユがぼそっと呟いた。
「カミナは張り切ってるけどぉ、失敗しそうだぁよねぇ。一応隠し芸できるようにぃ準備しておくよぉ。誰かに板を五枚同時に投げてもらってぇ、怒涛乱舞で攻撃ぃ。真っ二つにしてみせるよぉ」
「それはすごいわね」
 アフターフォローもばっちりらしいコンビだった。
「だがまずは、別の余興だ」
 ばっと片腕を上げ、守凪はホールの中央辺りを指さす。そこにはすでに、椅子が円の形に並べられていた。
「いつの間に」
「手伝ってくれる人がいてねぇ」
「分からなければ怯える。知らないからこそ恐怖する。ならば教えてやろう。エージェントとは何かをな!」
つかつかと、守凪は椅子の方へ進んでいく。その後ろに、何となく平介達も続く。
「まずはレクリエーションで緊張を解すことにしよう。やるのはフルーツバスケットだ。お題に『ドレッドノート』など単語を混ぜれば互いの交流にもなるだろう?
「おお、なるほど」
「一理あるわね」
 頷く平介と京香。守凪は、満足げな顔で周囲を見渡した。新人達や今回一緒にスタッフとして歓迎会を運営しているエージェント達が、すでに結構集まっている。
「くれぐれも俺がやりたいわけじゃないからな!!」
 なぜか、守凪は勢いよく言い放った。
「仕方が無いよねぇ、協力するよぉ。隣に新人さんがいたらぁ、説明してあげよぉかなぁ?」
 やる気満々の契約者に、肩をすくめる英雄だった。
 椅子は人数分はないし第一そんなにたくさん並べられないので、希望者のみ参加、ギャラリーとして周りで見ている者も楽しげに見守っている。
「まずは俺が題を指定してやろう。…『ドレッドノート』の英雄!」
 高らかに叫ぶ守凪。何人かはわらわらと椅子に座り始める。
「ドレッドノートはねぇ、攻撃特化ってぇ感じかなぁ?」
 さりげなくカミユのフォローが入り、ゲームは徐々に盛り上がりを見せていった。
「なるほど、これなら用語の勉強にもなっていいわね」
 見物していたリーフィアが、感心したように頷いている。
「さすがベテラン、配慮が行き届いていますね」
 マクフェイルも、興味深くゲームの成り行きを見守った。参加してもいいと言われているが自分達は今回ホスト側、ここは新人達を優先すべきだろう。それに、楽しそうにしている新人達の様子は微笑ましくて心温まる。
 一方、他のスタッフメンバー達もそれぞれ思い思いに新人達をもてなしたりしている。
「GURENだ。よろしくなー。どうしたらいいか分からない? 不安だ? まずはナンパよぉ☆ イケメン、可愛い子ちゃん、気になるヤツには声をかけちゃってー☆」
 GUREN(aa2046hero001)が軽いノリでチャラく話し始めたところで、月影 せいら(aa2046)がきらりと眼鏡を光らせる。
「ちょ、ちょっと軽く言っただけだって!」
 GREENはあわてて弁解する。
「GURENが失礼しましたわ。わたくし月影せいらと申します。ついひと月前あたりに所属したばかりですの」
 華奢で可愛らしく、穏やかな物腰のせいらに、新人達はほっと緊張を解いた。せいらはスカウト掲示板を勧めたり、イベントの時は気軽に声を掛けることが出来るなど、友達作りに関して自分の体験を基にアドバイスしていく。
「皆様いい方達ばかりで新米のわたくしにもとても親切にして下さいますわ」
 HOPEに入って日の浅いせいらの言葉は、説得力を持って新人達に響いたようだ。
 そこで、横合いから歓声が上がった。何だろうと振り向いた彼女達の目に飛び込んできたのは、苦無でジャグリングをする宣伝ニンジャ小鉄の姿だった。
「最近こんな修行を始めたでござるよ、意外と集中力を鍛えるのに良いでござ……」
「こら、刃物を出さないの!」
 もはや忍ぶ気がまったくなさそうな忍者は、案の定稲穂に注意されている。
「そうですわ、私達も余興ができますの。早速披露しますわね」
「えっ、まさか……」
 嫌な予感を感じ、GREENがじりじり後ずさりを始め、だっと逃げ出した。
「あっ! 待って!」
「うおっ!」
 が、すぐにどこからともなく現れた平介に捕獲される。
「お手伝いなら喜んで♪」
「まあ、ありがとうございます!」
「ちょ、ま、わああ!」
 じたばたするGREENを平介と京香がてきぱきと取り押さえ、あっという間にせいらが用意した的の前に立たせてしまう。
「せいらちゃん~、俺のカッコいい顔に傷つけないで~、お嫁に行けない~」
 懇願するGREENの顔の横に、ドスッと矢が刺さった。
「ひぃっ!?」
「大丈夫ですわ。先は尖っていませんから、もし当たっても刺ささりませんわ。少し痛いだけですの」
 それはそれで問題だと思ったが、もはやGREENに反論の余地はなかった。
 次々に放たれる矢。それらはすべて綺麗にGREENを避けて的に吸い込まれていく。見事な腕前に、新人達からやんやの喝采が上がった。
「お粗末様でした」
 にっこり微笑み一礼するせいら。ようやくお役ご免となったGREENは、そそくさとその隙に姿を消した。
「……いい腕だ」
 それを遠くから見ていたオリヴィエが、ぼそりと呟いた。そしてリュカの手を引いて、せいらが矢を抜き終えた的の前に立たせる。
「え、どうしたの?」
「……余興」
「いいねぇ! で、何するの?」
「……ウィリアム・テル」
 リュカは、笑顔のまま固まった。
「……、………えっ」
「これ、頭と肩の上乗っけて立って」
はい、というように林檎を5つ手渡すオリヴィエ。一体どこから持ってきた。まさか、計画的犯行か!?
「ちょ、え? え?」
 おろおろするリュカの頭と肩に、オリヴィエはてきぱきと林檎を載せていく。そしてある程度距離を取ったところで、シャープエッジを投げた。
 しゅっ、と空気が避ける音がする。一瞬の間を置いて、リュカの肩にあった林檎が一つ貫かれ、落下した。
「ふ、風圧が、風圧がお兄さんの顔の横に……」
 べそべそ泣いているリュカには構わず、オリヴィエはさらに刃を投げ放つ。林檎は次々に的確に射抜かれて、ごとごと下に落ちていく。
 最後に残ったのは、リュカの頭の上にある一個だ。
「早く終わって~」
 身動きもままならないリュカの頭上めがけ、オリヴィエは最後のシャープエッジを放つ。
 見事ど真ん中を射抜かれて、林檎は落ちた。
 沸き上がる歓声と拍手。
 その中をゆっくり歩いて、林檎を拾い上げたオリヴィエは、観客にぺこりと礼をした。
「よっ、HOPEいち!」
 彼の頭の上から、寒凪と厳冬が紙吹雪を降らせる。驚いた顔をしたオリヴィエも、まだ少しべそを掻いていたリュカも、温かい労いにやがて微笑んだ。
「良いよ! 輝いてるよ!」
 気合いを入れてしこたま作ったので、オリヴィエとリュカ、そして平介と京香とせいらまでもが真っ白になっても、まだまだ紙吹雪はなくならなかった。
「裏方って楽しいから、私好きなんだよね」
 一旦紙吹雪の袋を持って裏手に撤収した寒凪は、火照った顔で満足げに笑った。
「つまんなくねぇか? 凪が面白いってんだから面白いのか?」
「ふふ、好きにしたらいいんじゃないかな……厳冬はそのままでも十分面白いよ」
「ふーん、よくわかんねぇが力仕事なら俺様に回せよ! 凪は弱いからな!」
「うん、任せたよ」
 陽気な相棒の肩をぽんと叩いて、そこではてと思い当たる。
「そういえば、もう一組余興をするって人達が」
「あっ、すみません」
 そこへ、マクフェイルとリーフィアがやってくる。
「その紙吹雪、お借りしてもよろしいでしょうか?」
「余興で使わせてほしいという方が」
 マクフェイルの後ろにいたのは、華やかな着物姿の女性と少女。
「これでも牡丹(aa1655hero001)にスパルタ教育受けてるんだよ!」
 蓮華 芙蓉(aa1655)は、持参した奥義を高らかに掲げてみせる。

●宴もたけなわ
「お前が選んだカードは……ハートのAだな!」
「すごーい! 当たりだよっ!」
 守凪のカードマジックに喜ぶ芙蓉を、少し離れたところで見守る牡丹が微笑する。
 このあと芙蓉の舞と牡丹の三味線と唄による余興があるが、必要なスペースを空けるために二人は待機中だ。準備は、有志のスタッフ達がやってくれている。少し恐縮だ。
「わあ、このお菓子おいしい! ね、食べてみて!」
 人なつっこい少女は、近くにいた人にお菓子を勧めまくっている。ころころと表情の変わる芙蓉に、周りの者達も何となく表情が和んで、いつの間にか話の輪ができている。
「何かあったら聞いてね。だいじょーぶ! 色々あったけど元気元気なんだよ! 色んなとこ行って色んな人に会えるのはとっても楽しい事だと思うんだよ。一緒に頑張ろー!」
 元気な芙蓉は、もっぱらお菓子に夢中だ。牡丹は酒の瓶を持って酌に回る。
「何か気になる事があれば、いつでも聞いてくんなまし」
 花魁の酌など、そうそう体験できるものではない。思わぬ幸運に頬を染める者も多かった。
「用意できました」
 リーフィアが知らせに来る。牡丹はリーフィアと、傍らにいた新人エージェントに優雅に一礼し、芙蓉を呼んでしずしずとその場を去る。
「楽しみだわ。どんな催しなのかしら?」
 仮の舞台としたホールの一角がよく見える位置で、リーフィアはマクフェイルに囁いた。
「はじまるようです」
 マクフェイルの言葉が合図だったかのように、芙蓉と牡丹がゆっくりと頭を下げた。拍手が上がる。
「芙蓉の花の舞うところ、よおく見してやりなんし」
「任せよしー!」
 芙蓉は、仮舞台の中央にちょこんと膝をついた。
 三味線がしゃんと鳴る。
 よく通る声が、厳かに唄いだす。
 日本舞踊。なかなか目にすることはないし、若い者にとっては馴染みの薄い芸能だ。神妙に見守る人々の前で幼い芙蓉は流れるような動きで立ち上がり、両腕を身体の前で真っ直ぐ伸ばし、返す動きで扇を広げる。
 足の運びは軽妙に、それでいて優雅に。極力床から足を離さずに。
 翻る袂も、裾模様も、舞の一部。それらを美しく空間にとどめるかのように、芙蓉はぴたりと動きを止める。姿勢は美しく、どこかから忍びやかな溜息が漏れる。
 牡丹の声も心地よい。三味線と相まって響く独特な唄が、伸びやかにホールを満たす。
 実は芙蓉は唄が苦手なのだが、舞の腕は指導者である牡丹から見てもなかなかのものだ。現に見ている人々は、一様にうっとりとした表情をしている。
 もっともそんな本心を、芙蓉に言うことはしない牡丹である。芸事は日々精進、終わりなき修行。幼いうちから容易に満足するようでは極みには行き着けない。
 扇を手に、芙蓉はゆっくりと制止する。同時に唄と三味線も終わる。芙蓉は床に正座して、扇を畳んで前に置き、ちょこんと一同に頭を下げた。
 喝采が上がる。
 嬉しそうに牡丹を見て笑う芙蓉の頭上から、真っ白な紙吹雪が降ってくる。見上げた牡丹の視線の先に、吹雪を撒く寒凪、厳冬、平介に京香、そしてオリヴィエの姿があった。
 せいらとGREEN、小鉄、稲穂、守凪とカミユ、マクフェイル、リーフィア、そしてリュカは、新人達の後方で拍手していた。
「えへへー」
「日頃の成果は出せておりんしたか?」
「うーん。……牡丹レベルに到達するにはまだまだお稽古が足りないんだよっ!」
 扇を大事に持って、真っ直ぐ牡丹を見上げる芙蓉。
「来年にはもっと上手くなってみせるんだよ!」
「では、帰ったら稽古でありんすな」
「……ま、任せよし……」
 牡丹のスパルタを思い顔を引き攣らせる芙蓉に、牡丹はにっこりと優しく微笑した。
 今のレベルに甘んじない当たりが、将来楽しみだと思う牡丹だった。

●宴の終わり
「飲み過ぎたりはしてないでござろうな……英雄は酔わぬのでござるが」
「はいはい、酔ってる人は水飲んでねっ」
 小鉄と稲穂は、酒に飲まれた様子の者を見つけては水を配って回っている。
「お互い頑張りましょう♪」
 平介は、残った料理を持ち帰り用容器に詰めて、帰っていく新人達に挨拶とともに渡している。ちゃんとそれぞれの好みであろうものを手土産にしているあたり、彼のそつのなさが現れていた。さらに酔いつぶれている新人がいたら、送っていく予定だ。
「今日はいいものがたくさん見られてよかった♪ またご一緒する事があれば、よろしくお願い致します」
 先ほど声をかけて励ました人見知りの少女には、手土産だけでなく頭も撫でてやる。少女は嬉しそうに、はにかんだ笑みを浮かべた。
「特に一人で帰れなさそうな人はいないようですね」
 辺りを見回して確認した平介は、にっこりと自分の後ろのテーブルを振り返った。ちゃっかり自分用に包んだ料理が、いつでも持って帰れるように用意されていた。
「お疲れ様ー!」
 寒凪は、帰っていく者達に挨拶しながらも、せっせと片付けをしていた。厳冬も元気よく手伝っている。
「うん、やっぱり面白かったね厳冬」
「餃子!餃子食べたいぞ!」
「ふふ、分かったよ」
 それなりに料理も食べていたが、やはり一仕事終えたあとは空腹になる。スーパーに寄って材料を揃えなければと、楽しい算段を始める寒凪であった。
「HOPEの皆様は、いい方達ですね」
 モップを動かす手を止めて、リーフィアはマクフェイルに微笑んだ。
「これから頑張っていけそう」
「ええ」
 目を見交わす。特別な親密さを持った者達特有の眼差しで。
 よい一年を迎えられそうな予感に包まれた、温かな新年会だった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 分かち合う幸せ
    笹山平介aa0342
  • 鋼の冒険心
    符綱 寒凪aa2702
  • 習うより慣れろ
    マクフェイル ネイビーaa2894

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 忍ばないNINJA
    小鉄aa0213
    機械|24才|男性|回避
  • サポートお姉さん
    稲穂aa0213hero001
    英雄|14才|女性|ドレ
  • 分かち合う幸せ
    笹山平介aa0342
    人間|25才|男性|命中
  • 薫風ゆらめく花の色
    柳京香aa0342hero001
    英雄|24才|女性|ドレ
  • 花の舞
    蓮華 芙蓉aa1655
    人間|9才|女性|回避
  • 金剛花王
    牡丹aa1655hero001
    英雄|21才|女性|シャド
  • 非リアを滅す策謀メイド
    月影 せいらaa2046
    人間|16才|女性|攻撃
  • 紅蓮の矢
    GURENaa2046hero001
    英雄|21才|男性|ブレ
  • コードブレイカー
    賢木 守凪aa2548
    機械|19才|男性|生命
  • 真心の味わい
    カミユaa2548hero001
    英雄|17才|男性|ドレ
  • 鋼の冒険心
    符綱 寒凪aa2702
    人間|24才|?|回避
  • すべては餃子のために
    厳冬aa2702hero001
    英雄|30才|男性|バト
  • 習うより慣れろ
    マクフェイル ネイビーaa2894
    人間|24才|男性|防御
  • レディ
    リーフィア ミレインaa2894hero001
    英雄|18才|女性|バト
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