本部

オネェ新春バーゲンセール

雪虫

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
15人 / 5~15人
英雄
14人 / 0~15人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2016/01/16 16:50

掲示板

オープニング


「突然ごめんなさーい、ちょっとあたしの話を聞いて下さらないかしらーん?」
 人は、突然目の前にアンティークドレスを着た金髪ゴリラが現れた時、一体どういう反応をするものだろうか。目の前の金髪ゴリ……もといあなた達に声を掛けてきた謎の人物は、肩にかかる金髪のウェーブをふわりとなびかせながら口を開いた。
「あらん、申し遅れたわん。あたしはキャシー。かぐやひめんっていうバーで店長をやらせてもらってるのん。それで話っていうのはねん……」
 要約するとこうである。キャシーは以前H.O.P.E.所属のリンカーであるガイル・アードレッド(az0011)のツテでリンカー達に仕事を頼んだ事があり(なお前回の仕事内容の詳細はここでは語らない事とする)、キャシーはその時のリンカー達の活躍にいたく感激したのだという。
「それでねん、今回もぜひたくましーいリンカーちゃん達のお力を借りたいと思ったのよん。バーゲンで福袋をゲットするお手伝いをしてくれないかしらん。あの福袋をゲットするためならお金に糸目はつけないわん」
 そう言って金髪ゴリ……もといキャシーはバチコーンとウインクをした。福袋……お手伝い……オネェ……そして金髪ゴリラ。全力で混沌の予感が走ったのは言うまでもない。

解説

●任務
 特別福袋を各フロアで最低1つずつゲットする

●参加条件
・男である事
・女装をする事
・ヒール10cm以上の靴を履く事
・年齢は問わない
・共鳴禁止

●マップ情報
 5階建てのビルで行われる。参加者は各フロアの入口に集結し、笛が鳴ったと同時にスタート、直線距離20スクエア先の机に置いてある福袋を目指す。福袋を保持し靴を履いたまま入口前にあるレジに辿り着ければ購入となる。福袋は各フロアに5つずつ用意されている。以下は各フロア詳細。
 
1階:化粧品/移動力の高いオネェが多い
2階:バック/防御力の高いオネェが多い
3階:アクセサリー/床が何故かぬるぬるしている
4階:ドレス/攻撃的なオネェが多い
5階:下着/福袋の耐久力が低く破れる可能性がある

●NPC情報
 キャシー
 赤いアンティークドレスと金髪ウェーブと見事な筋肉が特徴的なオネェさん殿。身長192cm、本名苦竹剛三郎。防御力が高い。

 ガイル・アードレッド
 キャシーの住むナニカアリ荘の住人。ヒール10cmに悪戦苦闘の予感しかない。

 デランジェ・シンドラー
 ガイルと契約する元暗殺者英雄。今回は観戦予定。

●その他
・キャシー・ガイルは指示があれば従うが、使えるのは共に1回のみ。
・キャシーの依頼が来たのはバーゲンの3日前。戦いはすでに始まっている。
・衣装は全てオネェバー「かぐやひめん」から貸し出される。
・下の階から順に開始される。掛け持ち可だが到着が遅い程後列になる。
・当日はオネェが大殺到する事が予想される。
・素手での乱闘、タックル、羽交い絞め、福袋の強奪は基本的にOK。
・物品の持ち込みはマスタリング対象となるが、無線機に関してはOK。
・報酬金額は任務終了時決定とする。
・参加しない者は店の外に観覧席があるので、そこでおしるこor激辛カレー(無料配布)を食べながら待機。飲み物も完備。
・オネェシップに乗っ取り、正々堂々戦い抜く事を誓いましょう。

リプレイ

●嵐の前
 アーテル・V・ノクス(aa0061hero001)は空を仰いだ。晴れ渡った空だった。見ただけで心が晴れやかになるような美しい青空だった。
 そんな空の下で倉内 瑠璃(aa0110)は呆然と立っていた。彼の目の前にいるのはドレス、制服、チャイナ服など、様々な装いに身を包んだ……男の姿。そのたくましい足元にハイヒールを認めた瑠璃は、震え声で傍らに立つノクスフィリス(aa0110hero001)(以下フィリス)へ視線を向ける。
「ねえフィリス?」
「おや、何でしょうかラピスラズリ様」
「これは何かな?」
「年初めの定番、バーゲンセールですね」
「むさくるしいんだけど!?」
 瑠璃の一言に、フィリスは物憂げに息を吐いた。妖艶な美女と見紛うような(だが男である)の従者は呆れ気味に口を開く。
「何をおっしゃるかと思えば……皆様ラピスラズリ様と同じ趣味の方々ですよ?」
「馬鹿? 馬鹿なの!? ラピス達にはもっと華やかさがあるじゃない! でもあいつらには華……むぐっ」
「はい、そこまでですよ」
 世の中には言っていい事と悪い事がある。例えそれが真実でも。そこの所と瑠璃の口をきっちり押さえるフィリスからやや離れた所では、カイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)がガイル・アードレッド(az0011)の口に特大あんぱんを突っ込んでいた。
「おいあんぱん! なんでマリと黄金ゴリラが知り合いなんだ? どこでゴリラと接点が!? いや、そんな事はどうでもいいザマス! 恋の相談て一体なんだ!?」
 話はカイが相棒である御童 紗希(aa0339)に「バーゲンに付き合って欲しい」と言われた所に遡る。ついて行った先には何故か金髪のゴリラがおり、しかも紗希と仲良さげにスムーズに会話を始めたのだ。さらに「恋の相談」という物騒な単語まで聞こえてきた。そこで通りすがりのガイルの口にあんぱんを突っ込みつつ問い詰めているという訳だ。流れに疑問を抱いてはならない。
「福袋の代理購入と聞いたんですが……最後まで話をよく聞くべきでした」
「バーゲンって戦場でフクブクロっていう宝を手に入れたらいいんだろ?」
 ガイルがあんぱんを突っ込まれガクガク揺さぶられていた頃、柳 瑛一郎(aa1488)は眼の前の光景に恥じらいながら項垂れていた。その横ではアラビアンナイトに出てくる魔術師のような少年、エルザット(aa1488hero001)がやる気十分に拳を握り締めていた。間違っていないが間違っている。と突っ込む気力も瑛一郎には存在しない。
 そして水落 葵(aa1538)もまた、バーゲンという名の戦場に片手で目を覆っていた。嫌な予感はしていた。相棒のウェルラス(aa1538hero001)が嫌に上機嫌で依頼を持ってきた時点で。晴れ渡った天を仰ぎ、だがやはりの想定内に腹くくりモードに入る葵に蛇塚 悠理(aa1708)が声を掛ける。
「また会ったね……というか、良く会うね」
「……あー……うん……うん」
「示し合わせた訳でもないのにここまで良く会ってしまうとそろそろ運命共同体という感じさえしてくるね……これを機に連絡先を交換するのはどうだろう」
「ウェルラス……お前も大変だな」
 ここぞとばかりに番号を交換しようとする悠理と葵のその横で、すでに疲労困憊の蛇塚 連理(aa1708hero001)がウェルラスへと話し掛けた。だがウェルラスの方は飄々としており、むしろキラキラとした何かさえ背景に飛び散っている。
「またご一緒しましたね! 大変なんてとんでもない、担当階は違えどお互い奮闘しましょう! すいません、ちょっと失礼」
 信じられないものを見るような目付きの連理を置き去りに、ウェルラスは一人のご婦人の元へと歩いていった。赤いアンティークドレス、たなびく金髪のウェーブ、はちきれんばかりの筋肉を持つその「ご婦人」の手を、ウェルラスは優雅に取る。
「ミス・キャシー。アナタの願いの為に、微力ながら僕も力になりたく馳せ参じました」
「この前のジェントルちゃんじゃな~い。嬉しいわん、とっても頼りにしてるわねん」
 そう言って黄金ゴリ……もといキャシーという名のご婦人は投げキッスをお見舞いした。そんな、混沌と書いてバーゲンセールと読む異空間の前に立ち、齶田 米衛門(aa1482)は迷子の子犬のように視線をあちこちに彷徨わせていた。
「なして、オイばこんたどごさ居るんだべが……ま、新年なんだがら良いッスよな! にしてもひどっご多いッスなぁ……都会ばスゲェ」
「齶田クン」
 自分の名を呼ぶ声に、微妙な勘違い中の米衛門は顔を向けた。見れば金髪・ピアス・青ネイルの派手な男が片手を上げながら近寄ってくる。
「水落さん、久しぶりッスな!」
「久しぶりだな。今回の事はアレには秘匿する方向で頼む」
「アレ? アレってい……」
「シィーッ!」
 必死の形相で米衛門の口を塞ぐ葵からやや離れた所で、一人空を仰いでいたアーテルの覚悟は固まった。正直「またか」という思いは拭えないが、すでに依頼は受けてしまった。女装などすでにやり遂げた。語尾に「にゃん」と付けて喋れという罰ゲームだって堂々漢らしく乗り越えた。
 だから決めた。
 やるしかない、と。
「お着換えコーナーに案内するからあたしの後についてきてね~ん」 
 キャシーが協力者達に声を掛け、一同はキャシーに従い着替え室へと歩いていった。笹山平介(aa0342)がいの一番に部屋に乗り込み、飾ってあるカツラの一つを米衛門に合わせてみる。
「このカツラ似合いそう……うん、やっぱり似合ってますよ♪」
「笹山さんよろしくお願いするッスよ! あ、スノーから飴っこ渡せって預かって来てたんスよ、良かったらどうぞッス! 水落さんとウェルラスさんも!」
「こないだはオツカレさん。今回は……まぁイロモンだが……やれるだけやろうか……」
 スノー ヴェイツ(aa1482hero001)特製の蜂蜜カンロ飴を米衛門から受け取りながら、葵は肩を落としつつ平介に話し掛けた。そこからやや離れた所で、瑛一郎とエルザットがアーテルに化粧をしてもらうべく鏡の前に座っていた。
「こんな事お願いしてすみません……お化粧ってくすぐったいですね」
「戦いの前のフェイスペイント。いーじゃん、アゲアゲってやつだな!」
「つけまつ毛つけるから動かないで」
「オネェバーゲンで福袋を手に入れろなんて、いっそあたしの為にある様な依頼よね」
 アーテルが着々と瑛一郎を清楚系、エルザットをギャル系へと仕上げていくその後ろで、ティグリス・フェッルム(aa0104)は腰に手を当て不敵な笑みを浮かべてみせた。紆余曲折あって軍人のサラブレットから今や立派なオネェ様へと進化を遂げたティグリスにとっては、確かにこの依頼は適材適所と言えるだろう。一方、その相棒であるマクティーラ・アラガド(aa0104hero001)の甘いマスクには、捨てられた子犬のような戸惑いの表情が浮かんでいた。
「あの、ティ。本当に大丈夫ですか?」
「任せなさい。完璧なコーディネイトとメイクをしてあげるわ。やっぱり王子様フェイスってメイク次第で十分化けるわね。綺麗に出来たわ」
「これも訓練と思えば何とか……」
「それじゃあよろしくお願いしますね~」
「あたしに任せてウェルラスちゃん、誰もが嫉妬する美人にしてあげるわ~ん」
 マクティーラが色々な事をぐっと飲み込んだその一方、ウェルラスと葵は金髪ゴリ、もといキャシーにその顔面を委ねていた。ウェルラスは嬉々としているが、葵は腹を括り過ぎて無我の境地に至りつつある。
「あれ? 今回は源氏名? コードネーム? 使わないの?」
「アレの同部隊がいるからな……うっかりバレたら後が怖い」
「それならまず前回からして使わない方がよかったんじゃないの?」
「あらやだ、平介ちゃん可愛いわ~」
 葵の顔に乳液を付けていたキャシーは、一足先に女装を完成させた平介へと声を掛けた。褒め言葉を受けた平介は照れ臭そうに笑みを浮かべる。
「お化粧お上手ねん。そういう経験がおありなのん?」
「そういう訳じゃないけど、何故出来るかって……そういう女性が近くに居るから、かな? うん。そうだよきっと」
「あらまあ、ごちそうさまねん。それじゃああたしも気合い入れていくわよ~ん!」

 R.S.J.J.(aa2870hero001)は呆然としていた。任務だと能力者に言われ、渡された物に着替えて指定の場所に来いと言われ、渡された紙袋の中身も見ないまま指示の場所に来てみれば、目の前には混沌と書いてオネェの群れと読む異世界が広がっていた。
「なんなんだよオイ……そりゃあ英雄としちゃあまだオレは新米だ。仕事を選べる立場とは思っちゃいねえけどな、このふざけた格好とこの場所は一体なんなんだよぉ!?」
 R.S.J.J.はそこでようやく、渡された紙袋と入っていたメモの中身を確認した。そこで自身の能力者に騙された事を思い知る。
「あのクソガキ……後でぶっ殺してやるっ!」
 R.S.J.J.は叫びと共にメモをぐしゃりと握り潰した。そこにはこう書かれていた。
『下着を買って来い』

●1階化粧品売り場
 シュビレイ・ノイナー(aa0196hero001)は氷のごとき双眸で目の前の光景を眺めていた。もっとも、シュビレイの瞳は常から冷たく凍えているが、今はその冷たさがさらに五割増しになっている。ような気がする。その横では谷崎 祐二(aa1192)、ここではサリーを身に纏いし女装男子・タニコが、こちらは少し遠い目で目の前の光景を眺めていた。思えば三日前、キャシーにバーゲンの依頼をされ、断りきれなかったのが事の全ての始まりだった。誰にも見つからないように借りてきたヒールを家で履き、練習をし、最初は笑って見ていた相棒のプロセルピナ ゲイシャ(aa1192hero001)(以下セリー)にやがて飽きられ見向きもされなくなり……といった一連の思い出がタニコの脳裏を過ぎっていく。
「オネェだらけなら遠慮は不要ね。素敵な袋をゲットするわよ!」
 そんな祐二、もといタニコと、直立不動のシュビレイ、もといレイの横で、雅・マルシア・丹菊(aa1730hero001)が目をギラァッと光らせた。元野郎でありその手のプロ、すなわちれっきとしたオネェである雅は、色々と強い。「何が」などと突っ込んではならない。
「ヒールは普段から履いているから困らないけど、レジ近くのスタートは危険ね。あたしは真ん中よりレジから少ーし離れた場所から走るわ。皆焦ってるハズだし、大回りしようとしないから混んで動きにくいでしょ? いかに阻害されないかよ。そのためにはスタートダッシュが肝心ね。全力疾走で空いてる方から回り込めば行けると思う! 地面を蹴るように走ると滑るの。床を足で掴んで踏み込むようにすれば楽に走れるわよ♪」
 その手のプロ、もとい雅の言葉にタニコは大きく頷いた。そして笛が鳴り響き、雅はヒールで大地を掴む。
「その袋、もらったぁぁ!」
 見事なスタートダッシュを切り、オネェの壁が薄い層を狙って突破した雅は、読み通り机上にある福袋を1つゲットした。そのまま踵を返そうとする雅に、追い付いた素早さ自慢のオネェの群れが襲い掛かる。
「え、ちょ、ぎゃあああ!」
 オネェウェーブに流された雅は、しかし持ち前のオネェ力でなんとかその場に踏み留まった。そこにさらに飛び掛かろうとするオネェの背中に、サリーのタニコがタックルを決める。
「ありがとうタニコ!」
「援護するからレジへ!」
『ニャ! ニャー』
 タニコは無線機から聞こえてくるセリーの声に従い、左右から迫るオネェを両手で薙ぎ払った。その隙に雅がオネェ壁を突破し、レジに福袋を叩きつける。
「これで一個確保!」
「いえ、二個です」
 息を荒げながら拳を天井に向けた雅の横に、レイが冷静な口調で福袋を一つ置いた。自分を見上げてくる雅に、レイがクイッと眼鏡を上げる。
「争っている間に気配を消して忍び寄り、一つ奪わせて頂きました。派手に騒いで下さったので助かりました」
「な……何かカンに触る言い方ね……」
「嫌うのであればご自由に。私、他人と馴れ合う趣味はございませんので」
 慇懃無礼、かつ何処かいやみ溢れる物言いに、雅の心に「カーン」と第二のゴングが鳴り響いた。ヒール込み全長185cmの雅に対するは、ヒール込み190cmスリットロングスカートのレイ。バチバチと静かなる火花を散らす二人の横で、他の階の成功と、身元がバレない事を長髪ウィッグとヴェールの下で密かに願うタニコだった。

●2階バック売り場
 ティグリスはミリタリー風ハーフブーツで床をしかと踏みしめながら、チベットスナギツネのごとき眼で戦場を見つめていた。目の前にはオネェの群れと、その向こうに並ぶ五つの高価そうな袋。オネェ海という荒波の彼方に揺れる五つのお宝に、ティグリスはオネェの嗅覚で価値の高さを感じ取る。
「これ、余分に手に入れられたらあたしも欲しいくらいなんだけど……」
「ティグリスさん、マクティーラさん、ウェルラスさん、宜しくお願いいたします♪」
 自分の名を呼ぶ声に振り返ると、青いサングラスをかけた身長180cmのオネェが、さらにヒールで高さをプラス10cmにして立っていた。平介は慣れないヒールに脅威を感じつつ、しかし目の前にいる仲間達にいつもどおりの笑顔を向ける。
「つま先立ちしているような気分だよ・・・…でもそう思えば動けそうだ♪ この中ではティグリスさんが唯一走れそうなので、全力でサポートします、お姉さん♪」
 そう言って拳を差し出す平介に、ティグリスも「お姉さんに任せなさい」と拳を握り突き合わせた。平介は仲間達に今一度笑みを浮かべると、さっそく「戦い」を始めるべく近くのオネェに話し掛ける。
「かわいいお姉さん、突然申し訳ないのですが協力してくれません? お礼なら弾みますので」
「悪いけどお金じゃ動かないわ。ここにいるみんな、今日に今年一年の運を賭けているのよん。オネェシップに乗っ取って正々堂々勝負しましょん」
 オネェシップとは。それは、キャシーの依頼を受けた時からの共通の疑問だったが、そう言われてしまっては仕方ないし、やるべき事に変わりはない。
「よーい……ピーッ!」
 笛の音が階に響いたと同時に、オネェ海はビックウェーブとなって福袋に襲い掛かった。ティグリスは相棒に視線を向け、マクティーラは頷き返す。 
「You have!」
「I have!」
 構えを取ったマクティーラの両手にティグリスが足を乗せ、マクティーラはそのまま相棒を上空へ打ち上げた。集団の頭上へアオザイを舞わせたティグリスは、さらに飛距離を稼ぐべくオネェの肩を踏み付ける。
「それだけ分厚い肩してるんだから多少踏んづけた所で問題ないわよね。15cmヒールだけどピンヒールじゃないだけましでしょう?」
 そのまま牛若丸のごとく宙を駆けたティグリスは、眼前に飛び込んだ福袋を三つ一気に抱え込んだ。さすがに全部持っていくのは多少罪悪感がある、ゆえの情けというヤツだ。
 だが
「一人で三つもなんて許さないわよォ~!」
 大量に福袋を確保したティグリスに、オネェという名の猛獣は壁となって立ちはだかった。ティグリスはその壁を穿つべく、オネェに向かって突撃する。
「攻撃適正をなめないで頂戴ね。流石に多少手加減はするけど、タックルで強行突破しちゃう……」
「効かぬッ!」
「うそっ!?」
「私達の防御力と執念をナメんじゃないわよォ!」
 福袋への執念に防御力を増したオネェ壁は、宝を手中に収めるべくティグリスへと掴み掛かった。さらに攻撃を加えんとする筋肉質のその腕に、追い付いたウェルラスが小柄な少年の身体でぶつかる。
「高いヒールは全くの不慣れだけれども、ミス・キャシーの為に頑張り……うわっ!」
「ウェルラスさん!?」
「さ、笹山さん……あとはよろしく……」
「ウェルラスさぁぁん!」
 オネェの手からティグリスを解放したウェルラスは、しかしそこで力つきオネェ海へと呑まれていった。だが、仲間の尊い犠牲を無駄にする訳にはいかない。後を託された平介が、ティグリスに飛び掛かろうとするオネェを背後から押さえ込む。
「怪我は絶対させませんので!」
「アオザイにズボンが付いていて本当によかったです。でなければ足払いで大変見苦しい物を晒す所でした。お嬢……さん方、申し訳ないですがティの為です。大人しく道を開けて下さいね」
 突破口を作るため待機していたマクティーラが床の上に身を屈め、淡青色のアオザイを翻しオネェ達の足を払った。雪崩を起こすオネェを飛び越え、ティグリスはレジへと駆け出すが、新たなオネェ壁がそびえ立ちティグリスを捕らえようとする。
「……ええい、仕方ない!」
 ティグリスは涙を飲み、抱えていた福袋の一つを空中へと放り投げた。そして最後の壁を突破するべく、もう一つあった福袋も明後日の方向に投げ捨てる。
「ティグリスさん、流石です♪」
「くっ……あたしの分欲しかった……」
 ダメージを受けつつも、無事に福袋を購入したティグリスを平介は労ったが、ティグリスは涙を流し悲しみに打ち震えた。背後では今だにオネェ達が筋肉の戦いを繰り広げている。
「な、なんとかミス・キャシーに……うっ」
「ウェルラスさんっ!?」
 そしてオネェ海から生還したウェルラスは、平介に抱えられながら(主に精神的ダメージのために)その意識を失った。

●3階アクセサリー売り場
 アーテルは腕を組み、眼帯をつけていない左眼に戦場の姿を収めていた。軍服ワンピースに黒タイツにブーツに眼帯。見る人が見れば「踏んで下さい」と土下座をする理想的な出で立ちだった。
「うわっ、なんで床ぬるぬる!?」
 その横ではギャルファッションのエルザットが、光り輝くぬるぬるの床に思わず悲鳴を上げていた。何故床がぬるぬるなのか、その答えは大人の事情で割愛する事にするが、一つだけ言える事はこのぬるぬるをどうにかしない限り勝利の道もないという事。エルザットは傍らに立つガタイのいいお仲間、米衛門を発見すると、「ちょいちょい」と手招きをしてその耳に口を寄せる。
「何かいい案があるのかい」
 二人に気付いた悠理が連理とアーテルも輪に呼び寄せ、そして作戦会議が始まった。エルザットの策を聞き終えた悠理がいい笑顔で指を立てる。
「連理に踏まれるなら本望だよ!」
「何が本望だこのヘンタイ!」
「やるからにはきちんとやらないとね。しっかり背中を固めて。もう少し頭は中に入れて……うん、そうそう」
「マジでやんのかよ……」
 率先して踏み台指導を開始した悠理に連理は顔を引きつらせたが、やるからには失敗出来ない……と自分も靴の補強をする。
「ヨネ、痛かったらごめん!」
「福袋確保のためにガンガン踏んでくれって感じッスな。行くッスよ! 蛇塚さん!」
「上を見るなよ、上を!」
 連理の訴えと共に笛が鳴り、エルザットが米衛門を、連理が悠理を踏み台に天井すれすれへと飛び上がった。翻りそうなセーラー服のスカートを押さえつつ、ギャル風エルザットと共に落下する連理の目に、床一面に広がった謎のぬるぬるが映り込む。
「このまま滑り込むしかねえな!」
「こんなカッコまでして取れませんでしたじゃ済むかよッ……そこをどけー!」
 二人はぬるぬるに飛び込みつつ、そのぬめりを逆に利用し机へと滑り込んだ。いち早く起き上がった連理が福袋の一つを掴み、踏み台役の仲間達にパスしようと顔を上げたが、その前に立ち塞がるはぬるぬる塗れのオネェの群れ。
「渡しなさいよ……その福袋渡しなさいよ……」
「させるかぁ!」
 ぬるぬるの手を連理に伸ばそうとするオネェに、エルザットが飛びついて後ろから羽交い締めた。その隙に到着した膝上軍服スカートの悠理が、慣れた様子で福袋を連理ごと抱き上げる。
「連理! 今助けるからね!」
「元はと言えばてめーが悪いんだけどなー!?」
 連理をお姫様抱っこしつつ駆け出した悠理の前に、新たなぬるぬるオネェがゾンビのごとく立ち塞がった。そこに、ぬるぬるの上を全力でスライディングしてきたチャイナ服米衛門が、オネェの太い足首に掴みかかって転倒させる。
「もうしわげねぇッス、これもバーゲンの鉄則って蛇塚さんが言ってたんッスよ」
「こっちよ、パス!」
 レジ近くに待機していたアーテルの声に、悠理はオネェのヒールを折っては投げる米衛門から顔を上げた。そして福袋をアーテルへ投げ、アーテルはそれをキャッチする。
「転ばないようになるべく足を垂直に下ろしつつ、ノエル、行きます!」
「行かせないわ、その福袋寄越しなさいよォ~!」
 レジへと単騎突撃しようとするアーテルの前に、全身をぬるぬるに煌めかせたオネェゾンビが現れた。アーテルは息を吐き、顔をやや傾けて流し目をオネェに送る。 
「すまない、可憐なレディ。そこを通してくれないか(イケボ)」
「え、あら、え?」
 別名・ゴリ押しを披露したアーテルは、そのままレジにトライを決めた。皆がぬるぬるになりながら、ぬるぬるの末に掴み取ったぬるぬる塗れの勝利だった。

●観覧席
「おぉ! 踏み台か、考えたな」
 オネェ達が死闘を演じていた頃、スノーは無料配布のおしるこを手に観戦を決め込んでいた。同じく観戦席にいた木陰 黎夜(aa0061)も、焼き目のついたお餅と緑茶に至福を感じつつ声援を送っている。
「が、頑張れキャシーお姉さん……アーテルも……あ、おいしい……最近いっぱい食べてるから……身体、重くなりそう……」
 一見すると少年に見える「少女」は年頃らしい台詞を述べたが、実はこの発言に特に深い意味はない。むしろ彼女の相棒であるアーテルが聞けば「軽いんだからもっと食べなさい!」と激励していた事だろう。
「これってアレだろ、はじめてのお●かいってやつだよな! にしても米衛門大丈夫かよ、晩飯食えなくなるのは嫌だぞ。おおちみっ子共、飴やるぞ飴。遠慮すんな、ホレ手ぇ出せ」
 スノーは米衛門と晩飯の心配をしつつ子供達に飴を渡し、そしてセリーは飴を舐めた。ちなみにセリーはタニコが死闘を演じていた際「ニャ! (左)」「ニャー(右)」とオネェの位置を無線で教え密かにサポートしていたが、今はおしるこを口にしつつ、遊び相手を探してあちこち動き回っている。
「おや、3階床の様子がおかしいぞ!? 3名転倒、滑る床に悪戦苦闘! 何ということでしょう! 仲間? を踏み台に! 痛そうだが見事なチームワーク! 投げられた福袋が見事な放物線を描き……キャッチ! ロングスカートがなびきます! 無事レジまで辿り着けるかっ」
 一方、アル(aa1730)はヨハン・リントヴルム(aa1933)の相棒であるパトリツィア(aa1933hero001)と実況を繰り広げていた。テクノポップアイドルとして活動中のアルは、現場の熱を伝えるべくマイクを強く握り締める。
「ゴール! アーテル選手、見事福袋をレジにトライしました! 続きますは4階ドレスエリア、パトリツィアちゃん解説をどうぞ!」
「ご主人様は十代の頃、女装がそれはそれはお似合いで、ある時(ヴィランの)仕事で女装された際、ボロボロだった精神状態も相まって、ご自分の事を生まれつき女の子だと思い込んでしまい、元に戻すのに三日かかったという事件が……でも、今となっては杞憂でございますね。ご主人様も逞しくなられましたし大丈夫、……大丈夫かしら?」
 パトリツィアは心配そうに画面の中の主を見つめた。果たして現在の状況を大丈夫と評していいかは、ここでは追及しない事とする。
「レイちゃん超ウケるんだけど! っていうかあたしのメイク技術マジパネくない?」
「私はそろそろ本格的にシウお兄さんをまっとうな道に……ああ、もう手遅れなのかな……」
 別のテーブルでは咲山 沙和(aa0196)がおしるこを食べながら相棒のレイの姿にはしゃぎ声を上げ、また別のテーブルでは桜木 黒絵(aa0722)が相棒のシウの姿に暗雲を背負っていた。エリアス・B・ラビット(aa2870)も待機組達と盛り上がりたかったが……この少年、自分の英雄とは「仲が悪いほど仲が良い」「英雄だけ妙に扱いがぞんざい」という関係だが、性格が悪いという事では決してなく、今は「待機組と仲良くしたい! けど年頃の少年なので異性にはちょっとどぎまぎして話し掛けられない……」という微妙な心境を味わっていた。
「紗希ちゃんはカイちゃんの女装姿はOKなの?」
 紗希はおしるこから顔を上げると、自分に声を掛けてきたデランジェ・シンドラー(az0011hero001)に視線を向けた。デランジェの問いに対し、紗希は笑みを浮かべてみせる。
「結構面白がってます! デリカシーってものがないんだから、この機会に乙女心ってヤツをちょっとは学べばいいんだわ」
「デランジェちゃーん、一緒に実況やる?」
 アルに声を掛けられたデランジェは「紗希ちゃんもどう?」と微笑み掛け、そして二人は激辛カレーを平然と食べるパトリツィアの横に座った。

●4階ドレス売り場
 ガイルは頬を押さえ地面に座り込んでいた。目の前には真っ黒のゴスロリ服に身を包み、タイツとドロワーズを装備した巨大な女が立っている。アンティーク風編み上げブーツによって2m超えを果たしたゴスロリ服は、縦巻きロールツインテールを揺らしながらガイルに向かって口を開く。
「いいかアン子! これはもうH.O.P.E.とゴリラ共の戦いじゃねぇ! 女同士の戦いよ! あんたもこの作戦に参加したからにはきちんと女見せなさいよ!」
 ガイルは今日、ナニカアリ荘の同居人であるキャシーの依頼のため、一応それらしい格好でこのバーゲンに参加した。4階担当という事で言われた通りに来てみれば、すでに3分の1程のオネェが屍の山を為しており、見知らぬオネェに何か言われた後「バッキャロー!」と叫ばれながら見事なスウィングのビンタを喰らったという訳だ。流れに疑問を抱いてはならない。
「今一度状況を説明するわ。あんぱん、アンタを今から作戦拠点地に放り込むわ。そこで奪えるだけ福袋を奪って頂戴! 退路はヨハンナが確保してくれる手はずよ。あたしとキャシーはゴリラからあんたを守るわ! 潰し合いで数が減ったようだけど、裏を返せば今残ってるのは手練のオネェ、決して油断出来ないわ!」
「あ、もしかしてカイ殿でござるか?」
「今はアイリンと呼ぶザマス!」
「あうっ!」
「ビールの妖精ヨハンナちゃん、参・上♪ お師匠様、これも立派なニンヤへの道なのです(多分)。お師匠様の任務はヨハンナちゃんがお迎えに上がるまで亀の甲羅のように福袋を守る事です。その福袋はさながら敵地から持ち出した密書! 戦局を覆す重要なアイテムなのです!」
 ヨハン、もといヨハンナは買い物カートをオネェの群れに横付けしながら、すでに満身創痍となっているアン子へと声を掛けた。笛の音が4階に鳴り響き、アイリンがアン子の襟を掴む。
「よし、それじゃあ逝ってこおおい!」
 そしてアン子は悲鳴を上げながら魔窟の向こうへ消えていき、一部始終を見守っていた葵はそっと手を合わせた。瑛一郎は唖然と飛んでいったアン子を眺めていたが、はっと意識を取り戻す。
「照れている場合じゃない、ぼ……私も頑張らないと……!」
 拳を握り締めた瑛一郎は、アイリンとキャシーがゴリラ達と殴り合いを始めた隙に遅れて福袋へ走り出した。一方、福袋に辿りついたガイルは、アイリンに言われた通り福袋を五つ全部抱え込む。
「えっと、あとはヨハンナ殿を待って……?」
「ちょっとアンタ、一人占めなんていい度胸じゃない」
 地を這うような声にガイルが後ろを振り返ると、そこには世紀末感漂ようゴリラの群れが、バキボキと拳の骨を鳴らしながら立っていた。振り上げられた筋肉がアン子と福袋に襲い掛かる、その直前に、カートに葵を乗せたヨハンナがディアンドルを翻して現れる。
「ガイル君、福袋何個か渡して」
「お師匠様、乗って下さい!」
 葵はガイルをカートに乗せつつ福袋を三個受け取ると、それを別々の方向にいるゴリラ目掛けて投げ放った。ガイルを無事回収したヨハンナの目がギラリと光る。
「タックル攻撃が許される無法地帯だもの、文句は言わせないわ♪ ヒャッハハハー行きますわよお師匠様ア! オラオラどきなさい三下どもォ! ヨハンナちゃんのお通りよオオ!」
 説明しよう。ヨハン、今はビールの妖精ヨハンナちゃんは、ハンドルを持つと人格が変わるのだ。その猛攻にオネェの何人かが吹き飛ばされたが、選ばれしゴリラ四天王がその行く手に立ち塞がる。
「寄越せェ……福袋を寄越せェェェ……」
「あなた達のお相手はあたし達よん」
「かかってきなさいゴリラ共!」
「ふ、福袋……私も手伝います、あ、私は味方ですからっ……! ヨハンナさん行って下さい!」
 ゴリラ四天王が買い物カートに飛び掛かる、寸前に、キャシー、アイリン、瑛一郎が福袋を守るべく出陣した。飛び散る汗、光る筋肉、見事なクロスカウンターが宙を彩るその隙に、ヨハンナがカートを滑らせ
「くださいな♪ 」
と小首を傾げながら福袋とアン子ごとレジへと突撃した。

●5階下着売り場
 瑠璃はフリフリお嬢様ドレスに身を包み、不満げな表情で最後の戦場に立っていた。正直色々帰りたいが、どうしようもない事はこの世に数多存在する。
「うー、納得いかないけどやってやればいいんでしょっ! 下着……これ、ラピス達も貰えるのかな」
「ラピスラズリ様? もはやそこまで堕ちて……喜ぶべきか嘆くべきか」
「はっ!? 何でもないからね!?」
「まあ、私は一向に構いませんがね」
 不穏な会話を繰り広げる瑠璃とフィリスからやや離れた所では、R.S.J.J.が、お花がいっぱいついたすごい目立つ黄色いドレスとハイヒール姿で立っていた。こんなフザけた依頼、素直に受ける道理はない。が。
「ここでバックれるのも悪かねえけどよォ……それはそれであのクソガキに負けたって事になりそうで気に喰わねぇ……ああ、こうなりゃもうヤケだ! やってやろうじゃねえかよオラァァ!?」
 そして男の瞳に炎が灯り、R.S.J.J.はすごい目立つ黄色いドレス姿で拳を握った。R.S.J.J.は独自の勘でシウ ベルアート(aa0722hero001)に視線を止めると、声を掛けるべく歩み寄る。
「おい、あんたもエージェントだろ? お前がここに居る理由は聞かねえしオレも言わねえ。ケドよ、バラバラに動いてもブツを得られねえかもしれねえし、ここは協力しねえか?」
 シウがキャシーより依頼を受けたのはやはり3日前、その日からシウはキャシーに弟子入りし、厳しい特訓の中でオネェ道を学んできた。オネェとしての気配り、身のこなし、立ち振る舞い、言動……鉄のヒールを履き、血反吐を吐きながら過酷な訓練に耐え、その中で戦いのスタイルを確立してこのバーゲンに挑んだのだ。
「いいわよ、キャシーセンセイのため、共に全力を尽くしましょう。それが英雄としての役目ですわ!」
「さて、シウさんが囮を引き受けてくれるそうなのでラピスラズリ様には売り場に向かって頂きます」
「うん? ラピスだけ?」
「はい」
「お前は?」
「私は揉み合うのは嫌ですので」
「くっ、この性根の腐った魔族め!」
 フィリスが歯噛みする瑠璃の背を押したと同時に開始の笛が鳴り響いた。瑠璃は福袋目掛けて走り、オネェの群れに飛び込んでいく。
(取り敢えず、このむさくるしい連中をどうするか……やられる前にやる? あ、そうだ♪ これだけ高いヒールがあるなら良い手段があるじゃない? そう、ヒールで足の指を踏むって手段が……)
 そして瑠璃……もといラピスの顔に悪魔のような笑みが浮かんだ。しばらくして福袋の周りのオネェ集りから野太い悲鳴が木霊した。
 一方、フィリス、R.S.J.J.、そしてシウの三人は、入口からほとんど動かずスタンバイを決めていた。その中でもレジから少し離れた所にいたシウが、福袋を持ってレジに向かって来たオネェの姿をいち早く認め、「女性のように舞い、男性のように刺す」スタイルで福袋を奪い取る。
「ワタクシとオネェ道を賭けて戦う女性はいないかしら? 見事ワタクシに勝つ事が出来ればこの福袋をお譲りしますわ」
 シウの高飛車な挑発に、幾人かのオネェがシウを標的に飛び掛かった。ラピスとシウが騒ぎを起こしてオネェの注意を引くその隙に、元盗賊の R.S.J.J.が手癖の悪さと手際の良さを活かして別のオネェから福袋を掠め取る。
「うしっ! こいつを受け取れ!」
「ちょっとアンタ何してんのよ!」
「ぐはっ! クソがっ……! オレの事は気にすんなッ! それよりもそのブツをちゃんと届けやがれよッ!」
 そして福袋を受け取ったフィリスは、 R.S.J.J.の事を一切気にせず福袋をレジへと置いた。ほとんど動かず、戦いもせず、汗もかかずに任務を終えたフィリスが妖艶に爽やかな笑みを浮かべる。
「あらまあ、私もラピスラズリ様に倣って、躊躇いなく(自主規制)を踏んで差し上げる気でおりましたのに、これは想定外でございましたわね。ラピスラズリ様も想像以上に乗り気でしたね」
 そしてフィリスは、未だ争いを続けるオネェの群れを振り返った。オネェ達の健闘を称えるように耐久力の低い福袋がパァンと弾ける音がし、桜色の下着が紙吹雪のごとく宙を舞った。

●嵐の後
 シウはボロボロになりながら、ミステリアスかつセクシーな服装で満足気に立っていた。オネェ達との乱戦は実に激しいものだったが、
「オネェ道とは何か、その境地に至れたような気がするよでございますわ」
「シウお兄さん、普段の口調とオネェ口調が混ざってる」
「甘いわねんシウちゃん!」
「キャシーセンセイ!」
「確かにあなたはよく戦ったわん。けれど、オネェ道とは長く険しいものなのよん! 本当にオネェ道を極めたいならかぐやひめんにいらっしゃい!」
「は、はい、センセイ!」
「あああ、シウお兄さんがさらにまっとうな道から外れていく……」
「愚神と戦ってないのに、いろいろと疲れたよ……」
 黒絵が嘆きとツッコミに頭を抱えるその後ろで、靴だけは普通に履き替えたタニコ、もとい祐二は項垂れていた。一方、セリーは祐二に構わずのんびりと遊んでいる。
「お疲れ様」
「お疲れ様でしたッスよ、ばーげんってのは戦場なんスね。あー、ワシもう、うごぎでぐね……姉さん肩貸してけれ」
「しゃーねぇなぁ……肉な!」
「わがっだ、新年だがら奮発するでな」
「っしゃ!」
「楽しかったなーヤナギ。またやろうぜ!」
「それは……考えさせて下さい。あ、キャシーさん、成果はいかがでしたか?」
 互いを労わる悠理と米衛門、そしてスノーから離れた所で、エルザットと会話しながら乱れ髪を整えていた瑛一郎は疲弊した顔をキャシーに向けた。
「お陰様で全種の福袋が手に入ったわん。実はこれ、お店の子達へのお年玉なのよん。だからこれはお譲り出来ないけど、今度別のバーゲンの時にお呼びするわん。その時は一緒に行きましょうねん」
 キャシーの言葉に、幾人かの目がギラリと光った。誰が反応したかはプライバシー保護のためここでは述べない事とする。そんなキャシーに、黎夜が若干涙目になりながら近寄っていく。
「あ、あの、ぬるぬるの……クリーニング代……」
「あら、いらないわよんそんなの! みんな一生懸命戦ってくれたし、本当にありがとねん!」
 結局ぬるぬるとは何だったのか……その答えは少なくとも、薄く笑いながら沙和の口に激辛カレーを流し込むシュビレイには関係なかった。
「今日だけは、私は自分が軍人だと言う事を忘れます。恰好も違いますし、私はレイですから」
「辛い! 激辛い! でもレイちゃん良かったよ~。陰険いやみぼっち気取りを直すいいきっかけに……むがぐぐ」
「なりません。黙りなさい」
「アッハハハッ☆ 予想通りだよジャック! すごいよ! キミすごい面白いよ~」
「このクソガキがっ! お前こそ可憐なレディとお近付きになれたんですか? ああん?」
「まったく大したゴリラだったザマス……おいマリ、お前おしるこなんて食ったのか? 今年は太らないって目標はやっぱり実行不可……ぐふっ!」
「アルちゃんとパトリツィアちゃんだっけ? 実況すごく良かったわ~ん。いい宣伝になったし、来年もお願いしていいかしら~ん」
「ボクもスキルアップになって良かったよ店長さん。でも、仕事のお願いは753プロダクションまで!」
「みなさん、最後に記念写真を撮りませんか」
 エリアス、R.S.J.J.、カイ、アル、そしてその場にいるリンカー達全員に、平介は微笑みながら声を掛けた。そこに雅がご自慢のカメラを取り出す。
「あたしに任せて! いいカメラを持ってるの。はいみんな、入って入って。それじゃあいくわよ」

「はい、チーズ!」

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 薄明を共に歩いて
    アーテル・V・ノクスaa0061hero001
    英雄|23才|男性|ソフィ
  • エージェント
    ティグリス・フェッルムaa0104
    機械|24才|男性|攻撃
  • エージェント
    マクティーラ・アラガドaa0104hero001
    英雄|27才|男性|ドレ
  • クラインの魔女
    倉内 瑠璃aa0110
    人間|18才|?|攻撃
  • エージェント
    ノクスフィリスaa0110hero001
    英雄|20才|女性|ソフィ
  • 黒白月陽
    咲山 沙和aa0196
    人間|19才|女性|攻撃
  • 黒白月陽
    シュビレイ・ノイナーaa0196hero001
    英雄|23才|男性|ジャ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 分かち合う幸せ
    笹山平介aa0342
    人間|25才|男性|命中



  • 病院送りにしてやるぜ
    桜木 黒絵aa0722
    人間|18才|女性|攻撃
  • 魂のボケ
    シウ ベルアートaa0722hero001
    英雄|28才|男性|ソフィ
  • Foe
    谷崎 祐二aa1192
    人間|32才|男性|回避
  • ドラ食え
    プロセルピナ ゲイシャaa1192hero001
    英雄|6才|女性|シャド
  • 我が身仲間の為に『有る』
    齶田 米衛門aa1482
    機械|21才|男性|防御
  • 飴のお姉さん
    スノー ヴェイツaa1482hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 保父さん
    柳 瑛一郎aa1488
    人間|32才|男性|防御
  • エージェント
    エルザットaa1488hero001
    英雄|16才|男性|ソフィ
  • 実験と禁忌と 
    水落 葵aa1538
    人間|27才|男性|命中
  • シャドウラン
    ウェルラスaa1538hero001
    英雄|12才|男性|ブレ
  • 聖夜の女装男子
    蛇塚 悠理aa1708
    人間|26才|男性|攻撃
  • 聖夜の女装男子
    蛇塚 連理aa1708hero001
    英雄|18才|男性|ブレ
  • 銀光水晶の歌姫
    アルaa1730
    機械|13才|女性|命中
  • プロカメラマン
    雅・マルシア・丹菊aa1730hero001
    英雄|28才|?|シャド
  • 急所ハンター
    ヨハン・リントヴルムaa1933
    人間|24才|男性|命中
  • メイドの矜持
    パトリツィア・リントヴルムaa1933hero001
    英雄|16才|女性|シャド
  • エージェント
    エリアス・B・ラビットaa2870
    人間|16才|男性|命中
  • エージェント
    R.S.J.J.aa2870hero001
    英雄|28才|男性|ジャ
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