本部

大凶をぶった切れ!

師走さるる

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
7人 / 4~7人
英雄
5人 / 0~7人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/01/11 19:44

掲示板

オープニング

 一年の始まり。おせちに年賀状に特別番組。色々あるけれど、初詣もその一つ。
 女子高生の黒嶋唯も友人達と共に、年に一度しか着ない着物で近所の久羽輪神社へとやって来ていた。
 テレビで取り上げられる大規模な神社ほどではないけれど、そこそこ大きなその神社では参拝するにも数十人の列に並ぶ。
 白い息を吐き出してようやく列から抜け出すと、唯は早速二人に問い掛けた。
「二人は何てお願いした?」
「わたしは年末イベントの開場待ちで体調崩したから、もう風邪を引かないようにかな」
「あたしは彼氏が出来ますように。唯は?」
「私はもっと先輩達みたいに格好良いエージェントになれますように」
 去年エージェントになったばかりの唯はそう言って先輩達を思い浮かべる。
 初めての依頼で傷を負い、半ば強引ではあったものの先輩エージェント達から学ばせて貰える事になった唯。仲間や英雄を信じる事、状況や自分の力を知る事の大切さ、優しさ……あの時は沢山の事を学んだ。そのおかげで今は彼女も大きな怪我はせず、充実したエージェント生活を送っている。
「あはは、唯らしいじゃん。恋も勉強も放っぽり出してエージェント活動!」
「でも、そもそも神様にはお願いするんじゃなくて、有難う御座いますって感謝を伝えるものらしいよ?」
「大丈夫大丈夫。きっと神様だって最近の参拝客の事くらいわかってるよ。時代は変わったなあって生暖かい目で見てくれるって」
「伊達にこの世は見てねーぜ! ……みたいな?」
「……そんなあたし達が生まれる前のアニメの主人公みたいな神様嫌だわ」
 わいわいと話をしながら次に三人が向かったのは社務所だった。
 お守りを買っていく人達を眺めながら順番待ちをするのは、勿論おみくじの為。200Gぽっきりを納めて今年一年の運気を占うのだ。
「よーし、出でよ……大吉ィ! って、大凶!?」
 唯が掴みとり、開いたおみくじには堂々と『大凶』の文字。
「あはは、本当に大凶なんて入ってんのね。まあ、所詮おみくじだからね、おみくじ……ええっ! あたしまで大凶!?」
「わ、わたしも大凶……」
 馬鹿な。
 大凶が入っていないと言うのは嘘だったのか。テレビやら噂やらで得た曖昧な情報が頭の中を駆け巡る。
「ふふ……運命なんて人生なんて自分で切り開くものなのよ! 破り捨ててやるわ!」
「所詮おみくじって言ってた本人が一番気にしてる! ……って、あれ? どうしたの?」
「んんん……ただの、紙の、くせにっ……これ、全然、切れないっ……」
「えええ! まさか大凶の呪い? それともやっぱり神様にお願いして祟られた!?」
「何だか頑張り過ぎて……力も入らなくなってきた……はあ、はあ」
「……まさか」
 はっとした唯は幻想蝶に眠っていた英雄を起こすと共鳴し、自分の大凶を切り裂いた。
 するとおみくじは本来の姿を取り戻し、中吉と書かれた一枚の紙になる。
「やっぱりこれ、従魔だ! 二人ともその大凶貸して!」
 唯が二人のおみくじにとり憑いた従魔を倒した、その時。社務所から巫女さんの高い悲鳴があがる。
 振り向けば、手品のように箱からばさばさばさ……! とおみくじだった従魔が飛び出して、何処かへと集団移動を始めた。たまたま引いた従魔のくじ。それが三枚だけであるはずがなかった。
 あんなに沢山の従魔、まだまだひよっ子どころかぴよっ子の唯には手に余る。
「どうしよう……他のエージェントさんも居たらいいんだけど……!」

解説

あなたは初詣にいらっしゃったのでしょうか。ようこそお参りくださいました。
それとも、悲鳴をあげた巫女さんはあなただったのでしょうか。
まさか参拝は終わっていて、従魔と気付かず引いた大凶に凹んでいらっしゃる……とか。
(OPより前に従魔だったと知る事は出来ませんが、気付いたと同時に騒ぎが起こった、と言うのは可能です)

何はともあれ、偶然神社にいたあなたはこの騒動に遭遇しました。
おみくじにとり憑いて大凶に姿を変えた従魔達を倒し、元のおみくじへと戻しましょう。
数体がやられて危機を察知したおみくじ達は、木に結ばれた大凶達と合流する為に社務所から飛び出したようです。
合流すると人間達を襲い始めます。集まると気が大きくなるのは人間だけではないのですね。

神社は入り口に駐車場と鳥居があり、真っ直ぐ歩くと社務所が、そこから更に歩くと鳥居と手水舎、そして奥に本殿があります。
おみくじの結び所は社務所の数メートル横にあるので、従魔達はすぐに合流してしまうでしょう。
社務所周辺にいる一般人は30人程ですが、境内には沢山の人がいます。

敵は従魔(イマーゴ級)のとり憑いたおみくじ200枚。
数は多いですが、大概は数十枚が纏まって襲ってきますので、攻撃が当たれば一気に数を減らせるでしょう。
従魔を切っても刺しても元のおみくじには影響ありませんので、遠慮無く大凶をぶった切ってくださいね!
ただし一枚一枚が小さいので、命中が低い方は一度の攻撃で減らせる枚数が少ないかもしれません。

尚、OPに出てきた黒嶋唯は一般人を守るために動いており、殆ど戦力になりません。

騒動後に従魔の憑いていないおみくじを引く事が出来ます。
プレイングに書いてあった場合はダイスの女神に訊ねてみますね。
あるいはあなた(PLさん)自身が結果を決めてしまっても構いません。
人生もリンクブレイブの運命も、自分で切り開くものですからネ!

リプレイ

●初詣

「うわー、人多過ぎ……エスティ、これが初詣よ。もう良いでしょ?」
 行き交う人の肩を避け、朱の鳥居を潜った穂村 御園(aa1362)が少しうんざりとした顔で言った。
 ずらりと並んだ参拝者の列。憧れの先輩と一緒なら兎も角、この寒い中じっと待つだけならば家でアイドル特番でも見ていたい。
 けれどST-00342(aa1362hero001)は頻りにスコープの付いた頭を動かして、あちらこちらを眺めていた。
「いや、非常に興味深い……多くの人が今年の決意を神聖なものに誓う為にこれだけ集まる。幸福な風景だ」
「そうかな? さっき絵馬みたけどみんな結構切実だったよ……離婚の慰謝料の目標額書くのどうかと思ったけど」
 御園が先程見た幸福や神聖とは正反対の光景を思い出している間に、ようやく列が一つ進む。
 その代わりに参拝を終えた奉丈・遮那(aa0684)が、人の群れからぴょこりと抜け出した。
「流石初詣、でしょうか。思ったよりも凄い人でした……」
 ふうと吐き出す白い息。遮那は幼い顔を寒さで赤く染めて、とことこと参道を歩く。
 歩いていた先にあった神社。折角だし初詣をと寄ったものの、拝む時間よりも並ぶ時間の方が長かったのには少しだけ疲れてしまった。
 次はどうしようかな、と遮那は円らな瞳をきょろきょろとさせて鳥居を潜っていく。
 ――パン、パン。
 参拝者が途切れる事はない。次に神の前で手を合わせたのは、お正月らしく四季の振袖を着た少女と青い髪の女性だ。
「学業と、エージェント業と……それと、アルバイトが上手く行きますように……」
 そう静かに願っていたのは、振袖に似合うよう纏めた髪に簪を挿した月鏡 由利菜(aa0873)。
 由利菜はプロテスタントであるが、生まれや育ちは日本。彼女にとって初詣は新年の恒例行事であった。
「まずは……正式なユリナの担任教師になるのが先決だな」
 隣のリーヴスラシル(aa0873hero001)は、自分ではなく由利菜の事を願っていた。

 社務所の付近にも参拝客が溢れていた。そこで引いてきたおみくじを手に、フェックス(aa0178hero001)はがっくりと肩を落としている。
「大凶だぞ~……、お金が減るかもだって……。お小遣い減るのは嫌だぞ~……」
「大凶ってマジか……」
 フェックスに初詣の大切さを教えていた楽しそうな神鷹 鹿時(aa0178)は何処へやら。
 まさかお揃いで大凶を引いてしまうとは。
 木に結ぶ元気もないのか、その前で二人そろってずーんと沈んでいる。
「大凶……」
 皆月 若葉(aa0778)も同じ文字の書かれた紙を見て呟いていた。
「珍しいんだろ? よかったじゃないか」
「いや、運勢的には最悪だから……」
 確かに大凶なんて珍しいものだけど。ラドシアス(aa0778hero001)の何の気もない言葉に、若葉は苦笑する。
 その時、きゃあっ! と女性の悲鳴があがった。
 どうやらそれは巫女のものらしく、社務所から白い紙束がばさばさばさ! と勢い良く飛び出していく。
「何をやってもダメって何かのテンプ……ん? 何か騒がしいな?」
 鹿時も思わず目を向ける。その先では弥刀 一二三(aa1048)が、声をあげた巫女達に状況を訊ねていた。
「そこの巫女はん、これは一体何が起こっとるんや?」
「わ、私達にも何が何だかっ……」
 神社側は誰も何が起こったのかわからないようだった。その巫女も含めて慌てている。
「って事はまた従魔の仕業っちゅう事か」
「って、え、これ従魔なの!?」
「行列に並んだ挙句に従魔……あながち大凶も間違ってないか」
「リンカーがこの場に居るんだからむしろ幸運かもよ?」
「大凶かと思って落ち込んでたら、従魔かよ! ややこしい真似すんなよな!」
 幾人のリンカーが従魔と気付く中、古賀 佐助(aa2087)もようやくその事実に気付く。気落ちさせられた恨みも籠って、大凶をぎゅっと握りしめた。
「……ん……とりあえず、倒す?」
 こてん、と首を傾けて白い長髪を揺らすと、リア=サイレンス(aa2087hero001)は佐助に問う。
 断る訳なんてない。すぐさま共鳴した佐助は怨みも込めて、握っていた大凶をビッと引き裂いてやった。

「鳥の群れ? えーーーー、御神籤が空飛んでる!? また彼奴らかよ……」
「ST-00342は直ちに付近のエージェントを探す事を提案する」
 遠くに見つけてしまった不可解な光景。こうなったら順番待ちをしている場合ではない。御園とST-00342はざわざわと乱れ始めた列を飛び出した。
「何かあったのですか!」
「私達はH.O.P.E.のエージェントだ。何か力になれるかもしれない」
「あの、僕もエージェントですけど……! よろしければ協力します!」
 騒がしさとST-00342の呼び掛けに由利菜やリーヴスラシル、遮那も合流する。
 そして騒ぎの中心である社務所へと向かえば、久羽輪神社にいたリンカーがそこに集まっていた。
『や、こんな時にワタシも君たちもお互い不幸だね。一緒に元凶潰しと行こうじゃないか』
「只の大凶やったら後は上がるだけやて思うんやけど、従魔やったら退治せんと何仕出かすか分からんどすな~!」
「初詣が台無しにならないように早いとこ倒さないとだね。……あれ、黒嶋?」
「皆月先輩……それに月鏡先輩も! そちらにいらっしゃる皆さんもリンカーですか?」
 ぴよっ子エージェントの唯がほっとしたように集まった全員を見つめる。
「これだけのリンカーが集まったのなら、何とかなりそうですね」

●開演

『ユリナ……今の状況で考えなしに剣を振るえば、間違いなく大騒ぎになる。ここは祭事の一環として立ち回った方がいい』
 共鳴したリーヴスラシルがそう伝えると、由利菜はこくりと頷いた。
 大騒ぎにしたくないと思ったのは他のリンカーも同様。参拝客の避難も兼ねて、なんと従魔退治を厄払いのパフォーマンスにしてしまう事にした。
「ショーの準備が有りますので場所を空けて下さい!」
 話が付くや否や、御園は周辺にいるざわざわとした参拝客達に呼びかける。
 共鳴したその姿は機装少女。ショーのお姉さんのような御園の愛らしさもあり、信じた者達が入口や本殿へと避けていく。
 しかしショーと聞いて目を輝かせ、動かないままのちびっ子も出てくる訳で。
「そこの僕? 今はまだ準備だから詰まらないよ? 後で来てね」
「えー。でももう格好良いお兄ちゃんやお姉ちゃんがいるじゃん!」
 う……と困った御園が本当の事を言おうかと迷っていると、その格好良いお兄ちゃん達が呼び掛けに加勢した。
「此処は危険や! 早よ向こうへ!」
「俺と一緒に入口まで行こう!」
 イメージプロジェクターで服装を変え、一風変わった宮司姿になった一二三と陰陽師姿になった若葉だ。
 どこか演技掛かった声と身振りに、子供も特撮の世界に入ったような気持ちで大きく頷くと、若葉に手を引かれていった。

 入口より離れた場所にいた参拝客は、遮那と唯が本殿の方へと避難を呼び掛けていた。元々そちらに居た人達もいる為、それなりの人数が集まっている。
 だが入口と違って、それ以上の逃げ場はない。
 遮那は流れてきた従魔が参拝客達に向かわぬよう、鳥居の前でフラメアを構え、彼らを守る様に立っていた。
「……僕でも、本当に皆さんを助けられるでしょうか」
 少しだけ不安になる遮那。異界探索なら何度もしているし、戦い自体が不慣れな訳ではない。
 だが本部で依頼を受けた事は無く、人助けとなると初めてだった。それが今、守らなければならない人達が後ろにいるのだ。
「初めてで突っ走らないだけ奉丈さんは十分凄いよ。自分と……英雄と、仲間を信じよう」

 りん、

 厄払いの始まりを告げる様に、由利菜の持つ鈴の音が響く。
 巫女姿となった彼女は、従魔の注意を引くようにライヴスを周囲に放ちながら童子切を構えていた。
 童子切りは鬼を切った謂れのある退魔の剣だ。正しく今、従魔を絶ち切るに相応しい。
「さあ、私達がこの大凶のおみくじ達を祓い、皆様の厄も祓ってみせましょう」
「不死鳥戦士フェニックスブレイザー見参! 大凶からみんなを救うため陰陽師に召喚されたぜ!」
 鹿時は共鳴した赤髪の姿で、SFヒーローへと変身していた。厄払いとしては他のリンカー達の格好が尤もらしいが、馴染み深いヒーローと言うならば彼だろう。
 ビシッとポーズを取ると、参拝客達は遠くから拍手を送る。
『新年早々、無粋な大凶。纏めて射貫いて厄払いといこうか!』
 二人目の退魔の巫女となった佐助は、赤と黒のオッドアイで従魔達をしっかりと見つめた。
 そして素早く放たれる、梓弓の矢。従魔の束が鳥と言うならば、射抜かれ破けた紙片は羽の様。ぱっと散っては消えていく。
 厄の払われたおみくじはひらりひらりと落ち、地に伏していった。
『災い転じて福と為す。此処まで揃った大凶を纏めて払うんだ。転ずるなら、皆大吉間違いなし、ってね!』
「巫女さんが頑張ってるんやったら、次はオレが厄払いせんとあかんな!」
 一二三の武器は服装と合わせ、笏に見える様にしたフラメア。それをズッ、と白い群れに刺せば、何枚もの従魔が中心を突き破られて消え失せていく。
「ここは神聖な場所、皆が一年の幸せを願う所や! お前らの好きにはさせへんで!」
 続け様、見得を切った一二三に歓声があがった。
 観客が次の展開を楽しみにしていると、今度は敵役の仕掛けと見える従魔達がぶわりと舞う。一部はおみくじの結び所を目指して飛んでいくが、由利菜のライヴスに引かれた従魔がばさばさばさ! と彼女に向かっていった。
「大丈夫か由利菜! 安心してくれ!」
 だが実際に従魔の攻撃を受けたのは鹿時であった。由利菜を庇うように前へと躍り出た彼に、何枚もの従魔が纏わりついてくる。
「あー、くそっ。お前ら、しつこいぞ!」
 そう言って鹿時が光の刃でブン、と振り払うと従魔達は再び空中に退いていった。
「あ、有難う御座います……!」
「漢が女性を守るのは当たり前だ! 指一本触れさせないぜ」

 りん、

「派手な演出や長物を振り回したりもしますので、出来る限り離れてください!」
「俺達が守ってみせるから、安心して遠くから見ていてね!」
 第一鳥居の傍では御園と若葉が引き続き避難、もといショーのスペースを空ける為に協力してくれる客を誘導していた。
 しかし社務所から逃げ出した従魔が結び所にいた従魔と合流し始めると、こちらにも向かって来る。
「あんた達はこっちに来ないでねっ、と……!」
 御園が放った弾は光を放ち、多くの従魔をその光で包みこむ。
 驚いた従魔達はその場でばさばさばさ! と小さな竜巻でも起こったが如く慌て回る。
「はは、従魔達も吃驚したみたいですね。それじゃ、陰陽師の俺も頑張らなくちゃ……」
 続いて若葉がぎり、と破魔弓を引く。距離が近い所為か、参拝客にはその真剣な雰囲気が本当の厄払い儀式のように思えた。
 破魔弓からは光の矢がシュッと飛び出していき、正確に従魔を射抜く。ぱっと生まれた細かな紙片は消えて、おみくじは元に戻っていった。
「ねえ、あれってどんな仕掛けになってんだろ。透明な紐で吊るしてあるとか?」
 しかし参拝客は呑気なものだ。近付いて来る従魔おみくじに恐怖心すらなく興味を示す。御園は彼らに忠告しながらぱすん、とライヴスの弾で従魔を祓った。
「拾わないで! 中身は全部大凶です! 一年棒に振りたく無いですよね」

 戦いが始まって暫くすると、危惧した通り遮那の方へと従魔が流れてくる。
 と言ってもどうやら社務所側で討ち洩らした従魔らしく、ぴらぴらと三枚の紙だけが揺れている。
「ここから先は絶対に通しません! ……えいっ!」
 向かって来たそれを逃さぬよう遮那は注意深くタイミングを見て、フラメアを突き刺す。従魔が倒され、元に戻ったおみくじ達が落ちていく中、遮那は背後からの拍手を聞いていた。
「や、やったあ……!」
 しかしその時には別の従魔がこちらへと向かって来ていた。はっとした遮那に、ひゅ、と風を切る音が聞こえた。
『悪いがお呼びじゃないんでね! 早々にご退場願うよ!』
「古賀さん!」
『誰にも厄は寄せ付けないよ。それが今日のワタシ達の役目だからね』
 佐助の放った矢だった。今度こそ傍に来ている従魔はいない。
 残りの従魔は御園と若葉に退治されているか、一二三のライヴスに引き付けられていた。

 りん、

 美しい鈴の音と共に、ライヴスの込められた童子切が輝いていた。そしてショーの終幕を迎えようとしているのか、由利菜が凛とした声で従魔へ言い放つ。
「天下五剣がひとつ……童子切安綱を以て、凶兆の根源を絶つ!」
 駈け出した由利菜は、残っていた従魔を薙ぎ払う。
 朱天童子と見立てるに相手は不足。しかしその舞いのような刃の軌跡と由利菜の迫力が、パフォーマンスとして見応え余りあるものであった。
「間隙を縫ってちょこまかと……おまえのような大凶は切り捨てるのみ! ライヴスセーバー鳳凰斬!!」
 更に鹿時が由利菜の横へと跳んで来てスパッ! と従魔を真っ二つにした。
 一二三は己が引き寄せた従魔を己の手で片付けようと、フラメアを掲げる。そして勢い良く振り下ろすと共に、観客にも聞こえるよう強く叫んだ。
「これで……終いや!」

 そして、鈴の音が止む。
 代わりに、わっと拍手の音で溢れていった。

「――厄払いショーをご観覧頂き、誠に有難う御座いました」
「ご協力も有難う御座いました! 皆さんのおかげで最後までショーを演り切る事が出来ました!」
「ほんまにおおきに。今年も良き一年になるよう、祈っとります」
 リンカー達は丁寧に観客に頭を下げると、従魔の所為で散らばったおみくじを回収していく。
 神社には再び大きな拍手の音が響き渡っていた。笑顔で手を叩く人々の楽しい気持ちが、神様にとってなにより嬉しい捧げものかもしれない。

●終幕

「本当に有難う御座いました。お蔭様で大きな混乱もなく、無事にお参りしていただけそうです」
 そう言って今度は本物の宮司や巫女が深々と頭を下げる。
 そこらを行き交う何も知らない参拝客は今も尚、楽しかった、格好良かったと感想を口にしていた。
「素晴らしいショーを奉納していただいた代わりに、と言うのも何ですが、よろしければ改めて御神籤を引いていかれませんか」
「ええんどすか? ほんなら今度こそ、今年の運勢占ってみましょーか」
 彼らに勧められ、一二三が箱から取り出したその紙には中吉と書かれていた。
「んー、ぼちぼちどすな。まあ、このくらいが丁度ええんかもしれんね」
「それでは僕も、お言葉に甘えて……わっ! 大吉ですか! やったぁ!」
 引いたおみくじを見て、遮那が嬉しそうに声をあげる。
「わ、私達も大吉です!」
「これは、願いが叶うかもしれないな」
 由利菜とリーヴスラシルも大吉を引いて喜ぶ。特に二人は願い事をした後だ。神様がその返事をくれたのだとしたら幸先が良い。
「へへ、新年早々良い事したし、これは良い結果が出るだろ!」
 次々と出る良い結果に、鹿時にこにこと箱から取り出した。
 その一枚は、大凶。
「大吉だぞ~……! お金が増えるって……! 嬉しいぞ~……!」
 横では無邪気に喜ぶ相棒の姿。
「なんでまた大凶なんだよ……しかもさっきと同じ……人助けしたのになぜなんだ……」
「そう言えばロック……! お年玉まだか……! 大吉の通りいっぱい貰えるんだろ……!」
 その時、鹿時の脳内でカチリという音が響いた。彼の心に点火した音だ。
「ふ、ふふふふ……あははは! 世の中おみくじの様にはいかねぇぞ!」
 ヒーローだったはずがもはや惨状。炎上。これでもかと大凶が細かく引き裂かれていく。
 一方、佐助とリアのコンビはお互いに良い結果だったようだ。二人でおみくじを見せ合って笑っている。
「お? 吉って大吉の次に良いんだよな? よっしゃー!」
「私は大吉だった……」
「俺は中吉か。ねえラド、おみくじって木に結ぶのと持って帰るのどっちが正しいのかな?」
「……どっちでもいいんじゃないか」
 末吉と書かれたおみくじをひらひらとさせてラドシアスは答えた。
「破るのが正解だぜ!」
「ははっ、神鷹ちゃんは凄い事言うねぇ。従魔じゃない大凶もすっかりビリビリじゃん」
「……神様に、怒られない……?」
「け、結果が悪い時は、木に結ぶのも良いと思いますよ。神様との縁を結ぶという話もありますし」
 続く御園がおみくじを引く。結果は小吉のようだが、彼女にとっては全体の結果よりも恋愛欄が大事である。
「今年こそ先輩と……え? このトンビって誰? まさかあの幼馴染??」
「……御園済まない、こちらは大吉だ。ST-00342は御神籤の交換を提案する」
 一体どんな恋愛欄だったのか。それは彼女と優しく交換してくれたST-00342、そして神のみぞ知る。
「……ぐすん」

「黒嶋がいて助かったよ。あけましておめでとう、今年もお互い頑張ろうね。依頼も順調そうで何より……あ、そうだ! これからも上手くいくようにお守り代わりにこれあげるよ」
「わわっ、そんな高くて貴重そうなものは頂けませんよ! ……でも気持ちは有難う御座います。先輩達の言葉をお守り代わりに、これからも頑張りますね」
 唯は今日も勇姿を見せてくれた先輩達に、ぐっと意気込む。
「そういえば皆月さん、あの時のわんちゃんは無事飼い手の方は見つかりましたか?」
「それが、俺の家であのまま飼う事になったんだ。今度月鏡さんも皆に顔見せてやってよ」
「まあ、是非……! 心配していたので、元気にされているなら良かったです」

「……あれ、何?」
 リアは入口付近に張られたテントを見つけ、佐助の手をくい、と弱い力で引いた。佐助がそちらに顔を向けると、どうやら神社側の気配りなのか甘酒を配っているようだった。
「ん……? あぁ、甘酒だね。飲んでく?」
「……甘い? じゃあ、飲んでみたい……」
 甘いと聞いて、リアの癖毛がぴょこっと揺れる。その愛らしい姿に佐助はニッと笑うと、目の前の巫女さんに指を二本突き出した。
「はいよー、すいませーん! 甘酒2つー!」

「この湿度の低さ……不味いよ。早く帰ってお肌のフォローしなければ!」
 ぷるぷると震えた御園が帰ろうとすると、鹿時が「あれ?」と呼び止める。
「御園、後でもう一回ショーするって言ってなかったか? 俺まだまだ体力有り余ってるぜ!」
「え……あー、えっとぉ……」
「ST-00342は正直にその場凌ぎであったと白状する事を推奨する」
「……あ、あはははー……退散っ!」
 ぴゅうっと走り去る御園の勢いに、赤髪と黒髪がふわりと煽られる。二人は鳥居の真ん中でも堂々突っ切る彼女をそのまま見送った。
「急に駈け出して、穂村さんとST-00342さん、どうしたんでしょうか」
「世の中色々っちゅー事やね。うちらはうちらで、ぼちぼち帰ったらええんと違う?」
「……そうですね!」

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • キノコダメ、絶対!
    神鷹 鹿時aa0178
    人間|17才|男性|命中
  • 厄払いヒーロー!
    フェックスaa0178hero001
    英雄|12才|男性|ジャ
  • エージェント
    奉丈・遮那aa0684
    機械|15才|?|生命



  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 温もりはそばに
    ラドシアス・ル・アヴィシニアaa0778hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃



  • 真実を見抜く者
    穂村 御園aa1362
    機械|23才|女性|命中
  • スナイパー
    ST-00342aa1362hero001
    英雄|18才|?|ジャ
  • 厄払いヒーロー!
    古賀 佐助aa2087
    人間|17才|男性|回避
  • エルクハンター
    リア=サイレンスaa2087hero001
    英雄|13才|女性|ジャ
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