本部

NINJYAとジャパニーズ正月遊び

雪虫

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
9人 / 5~15人
英雄
9人 / 0~15人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2016/01/08 01:15

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掲示板

オープニング


 梅吉三澤はうんざりしていた。よく言われる事なのだが、「三澤梅吉」が氏名ではない。「梅吉」が氏で「三澤」が名だ。そして梅吉がうんざりしているのはそこではない。面倒な事押し付けやがって……梅吉はそんな事を思っていた。ちなみに梅吉は教師である。よれよれジャージに無精髭、健康サンダル姿がスタンダートの教師である。「子供達に悪影響なのでやめて下さい」「俺みたいな大人になるなって見本見せてんだよ!」と一部のお母さん方と日常茶飯事で繰り広げている小学校教師である。そして問題はやはりそこではない。
「くっそ、面倒臭ぇなぁ」
 そんな事を呟きながらアパートに帰宅した梅吉は、そこで階段下に見慣れた人影がいる事に気が付いた。いいカモ、もとい面倒事を押し付けられるヤツ、もとい頼りになる伊達男に、梅吉は嬉しそうにニヤリと笑って手を上げる。
「おーい、ガイルちゃーん」


「と言うわけで、おじちゃん殿のヘルプをお願いしたいでござる!」
 依頼はこうだ。ガイル・アードレッド(az0011)の言うおじちゃん殿……梅吉三澤は現在小学校の教師をしており、校長から「子供達が正月遊びに興味を抱くような授業をしてくれ」と提案をされたそうなのだ。
「しかしか、おじちゃん殿ではなかなかいい案を思い付かないのだそうで……そこで拙者がおじちゃん殿にお願いをされたのでござる! とは言っても拙者もジャパンのタコやコマの事はよく分からず……という事でお願いでござる!」
 そう言って、ガイルは深々と頭を下げた。ついこの間も似たような事があったような……などとは思ってはいけない。

解説

●任務
 子供達が正月遊びに興味を抱くような授業をする

●遊び
 全体的にどういう「遊び方」をするかは改変可能。演出もリンカーにおまかせする。一応以下のものを挙げてはいるが全部行う必要はない。複数掛け持ち可能。

・羽子板
・カルタ(カルタ内容はリンカーにおまかせする)
・コマ回し
・凧上げ
・竹馬

●場所
 小学校から15分程歩いた川原。それなりに広い。それなりに寒い。

●時間
 昼。授業は1時間程を予定している。全ての遊びの授業を一斉に並列で行うか、一個ずつ行うかについてはリンカーにおまかせする。

●NPC
 梅吉三澤
 ガイルの住むナニカアリ荘の住人。(一応)小学校の教師。「あんぱんは何にでも合うNINJYA食」とガイルに吹き込んだおじちゃん殿。ガイルに授業の依頼をしたが、ガイルに知識がない事もリンカー達に頼みに行くだろう事も計算済み。

 ガイル・アードレッド
 毎度お馴染みお騒がせNINJYA。正月の遊びに関して何も知らないので、子供達と授業を受ける気満載。知識はゼロだが指示を出せば協力はする。

 デランジェ・シンドラー
 忍ばぬASSASSIN。正月の遊びに関してなんとなく程度に知識はあるが、ガイルにその事は教えていない。指示を出せば協力してくれる事もあるが、指示によってはしてくれない事もある。

 子供達
 男女合わせて20人。伝統的な正月遊びにはあまり興味がない模様で、遊びは家でゲーム派が大半。川に近付くような悪い子はいないので川に落ちる事は心配しなくていい。以下は正月遊びに対する子供達の発言である。
「つーか寒いし!」
「とっとと終わらせてとっとと帰りたい……」
「家でモヒカン刈ってた方がいい」

●その他
・大きな怪我はしないようにお願いします。
・一般人と周辺に被害を出さないようにお願いします。
・小学生に対する授業である事をお忘れなきようにお願いします。

リプレイ


「ミナサマ、こちらでござるよ」
 自分達を呼ぶ声に、一同は青いNINJYA装束が遠目にも目立つ青年の元へと歩いていった。河原の傍ではガイル・アードレッド(az0011)が、相棒のデランジェ・シンドラー(az0011hero001)と共に荷台の前に立っている。
「今日はおじちゃん殿のお手伝いを引き受けて頂き、サンキューベリーマッチでござる!」
「これが子供用の遊具ですの?」
「ああ、最近はあんまり見なくなったけどな。何とも懐かしい遊びのオンパレードだぜ」
 荷台を興味深げに覗き込んだヴァルトラウテ(aa0090hero001)(以下ヴァル)に、赤城 龍哉(aa0090)は答えを返した。荷台の中には竹馬、コマ、羽子板、羽根……それらを眺める二人の横から、真壁 久朗(aa0032)とセラフィナ(aa0032hero001)もひょこりと顔を覗かせる。
「正月遊び……やった事があるような無いような」
「僕はさっぱりありませんね!」
「子供達と一緒に勉強、だな」
「あ! 真壁さんとセラフィナさんじゃないですか。知ってる方がいてよかった」
 背後からの声に振り返ると、口元に人の好さそうな笑みを浮かべた青いサングラスが特徴的な青年が、嬉しそうに手を振りながら久朗達の元へと駆けてきた。セラフィナは笹山平介(aa0342)の姿を認めると、屈み込んだ180cmの平介と両手を合わせてハイタッチする。
「はい、真壁さんもハイタッチ!」
「え、いや、俺は……」
「ごめんなさいね、毎回こんなんで。ほら、あんまり困らせるんじゃないわよ」
 柳京香(aa0342hero001)は戸惑う久朗に声をかけつつ、平介の襟首を猫の子を持ち上げるように引っ張った。一時引きずられていく大猫と入れ替わるように、今度は白猫……ではなく白虎丸(aa0123hero001)と虎噛 千颯(aa0123)が荷台の中に視線を落とす。
「昔の遊びならがおぅ堂の出番だな! 張り切っちゃうぜー」
「駄菓子を渡すのはやめておけよ、授業の一環なんだろ。伊邪那美殿も一緒に遊ばれてはいかがでござるか?」
 白虎丸は正月遊びの玩具から、傍らに立つ白銀の髪の少女へと視線を向けた。伊邪那美(aa0127hero001)の目に映るそれらは、言われなければ「遊具」という事にさえ気付けないようなものばかりだ。古めかしい絵の描かれた板を取りしげしげと眺める伊邪那美の隣で、御神 恭也(aa0127)もコマと縄を無骨な手で持ち上げる。
「懐かしいな……子供の頃に遊んで以来だな」
「今回はボクも教わる側になるみたいだね」
「恭也ちゃんよろろ~。がんばろーねー」
「よう、リンカー諸君ご苦労さん」
 千颯が体を斜めにして恭也に手を振っていると、見慣れぬ中年の男がリンカー達へと近寄ってきた。よれよれジャージに無精髭、健康サンダル姿のその男は、寒さに自分の腕をさすりながら親し気に口を開く。
「俺は今回の依頼人の梅吉三澤ってもんだ、よろしくな。そうそう、事前にガイルから聞いてたヤツだが、芋と甘酒と餅は用意出来たぜ。校長にこういうのも正月の醍醐味ですってゴリ押ししてな。ただ、酒粕はちょっとゴリ押し出来んかった。市販品で我慢してくれ、すまん」
 言いながら梅吉は荷台の半分に掛かっていたビニールシートを取り外した。さつまいも、餅、大量の甘酒……全てガイルから依頼の伝達を受けた際、寒さ対策と正月の醍醐味を加味してリンカー達が予め申し出をしていたものだ。
「うちの生意……じゃなかった、可愛い生徒共の授業をよろしくな。ちなみにH.O.P.E.のエージェントって事はまだ言ってないから上手く活用してくれよ」
「すいません、梅吉先生」
 躊躇いがちに自分を呼ぶ声に、梅吉は顔を横に向けた。ヨハン・リントヴルム(aa1933)は紙袋から箱を一つ取り出すと、それを梅吉の眼前へと差し出した。
「これ、ドイツのチョコレートです。家族がお土産に持たせてくれて……これを子供達にご褒美として渡したいんですが……」
「おお、うまそうだな。折角持ってきてくれた事だし、じゃあ芋や甘酒と一緒に授業を頑張ったご褒美として希望者に配ってやってくれ。誰か一人だけにっつうのは後々厄介の種なんでな」
「分かりました、ではそれで」
「ヨハンナ殿~! 本日もよろしくでござるよ~!」
 「ヨハンナ」という単語に、ヨハンはバッと顔を向けた。振り返って訝し気な顔をするパトリツィア(aa1933hero001)から逃れるように、ヨハンはガイルの口を塞ぐ。
「お師匠様っ! そ、その話はパトリツィアの前ではちょっと……」
「そ、それはソ―リーでござる! パトリツィア殿違うでござるよ! ガールの格好などしてないでござるよ!」
「しー!」
 一層ガイルの口を押さえるヨハンに、昔女装で何かあったのか、パトリツィアはどことなく心配そうな顔をした。そんな一同の様子を眺めながらデランジェはクスクスと笑っていた。


 河原に集結した子供達は、見るからに不機嫌そうな顔で目の前に並び立つリンカー達を見上げていた。「寒い」「興味ない」「帰りたい」、そんな心の声が今にも聞こえてきそうな程である。
 だがもちろん、いくら不機嫌そうだろうと怯んだりする訳にはいかない。どんな強敵であろうとも恐れず、引かず、モヒらない、だ。久朗は大きく息を吸うと、パンパン、と大きく手を叩いた。子供達の注意が一瞬引きつけられた隙に凛と声を張り上げる。
「今回はH.O.P.E.のエージェントによる特別授業だ。様々な正月遊びを用意してある。自分が面白そうだと思う遊び担当の所へそれぞれ向かってくれ」
「カッコイイお兄さんお姉さんによる今日だけの課外授業です。お友達にも自慢出来ますよ! それと、ささやかですがご褒美も用意してありますので楽しみにしてて下さいね!」
 世間にはH.O.P.E.のエージェントとして働きながら、戦隊モノのヒーローやアイドルなどとして活躍している者もいる。そのH.O.P.E.のエージェント達から直接授業を受けられるという事に、子供達の間にざわめきが広がった。また、「ご褒美」の名に釣られ目を輝かせる子供もいる。そこにさらに畳み掛けるように、リンカーレッド、リンカーグリーン、リンカーゆるキャラも子供達にアピールをする。
「この中でバランス感覚に自信のある奴はいるか? OK、自信があるって事なら、それがどの程度のものかコイツを使って試してみようか」 
「テレビで見た事ある人いるかなー? 非公認ゆるキャラの白虎ちゃんだぞー!」
「待て! ここでもお前はそんな事を言うでござるか!」
 龍哉、千颯、白虎丸に引き続き、他のリンカー達も子供達に声を掛け、生徒達は自分の興味のある場所へとそれぞれ散らばっていった。龍哉は自分の担当武器……もとい遊具の竹馬を肩に担いだまま、自分の前に集まった子供達へと視線を向ける。
「俺は竹馬について教える。こいつの肝は、地面に設置する場所が小さいからバランスを取って動き回るのが案外難しいっていう所だ。だが、こいつを自在に操れるようになると、バランス感覚が鍛えられてこんな事も出来るようになる」
 言うや龍哉は肩に担いでいた竹馬を子供達の前へと降ろした。それは通常の竹馬よりも1.5倍程長く、足場もそれに比例して高くなっている上級者向けの竹馬だった。龍哉はその竹馬にヒラリと飛び乗るとまずは両足で歩き回り、後ろ歩き、ジャンプ、果ては竹馬の上で逆立ちなどいくつかの妙技を披露した。突然の大道芸に子供達が目を丸くする中、龍哉は華麗な身のこなしで地面の上にヒラリと降り立つ。
「因みに竹馬を上手く操れるようになると、姿勢も良くなるし平衡感覚が鍛えられるから、他の運動をする時にも色々と効果があるらしいぜ。最初の目標は五秒間竹馬に乗る事。五分間ずっと乗っていられたら上出来だな。それじゃあ開始!」
 龍哉が手を叩いたと同時に、数人の子供達が配布された竹馬に乗ろうと各々行動を開始した。バランスを崩しそうな子供には、ヴァルと龍哉がそれぞれ手やアドバイスを差し伸べる。
「無理だと思ったら竹馬を一度降りると良いですわ。大丈夫? 最初は姿勢を崩さず慌てずに、ですわ」
「この竹馬ってのは昔は子供の遊び用に竹を使って手作りしたそうだぜ。今回は売ってる奴を使うけどな」
「はい注目~! 俺ちゃん達はコマ回しを教えるよ~。そこの興味なさそうな君! 地味ーとか思ってると痛い目みるぜー!」
 一方、千颯は白虎丸達と共に子供達を半円の形に誘導していた。その中心では恭也が、コマと紐を手に直立不動の姿勢でキリリと立っていた。
「ではまず最初に、恭也ちゃんの曲芸コマ回しをお披露目しまーす。一回しかやらないからよーく見てろよー」
 千颯の言葉と共に、恭也は空中へ向けて紐を巻いたコマを放った。コマが紐を離れる寸前に自分の手のひらへとコマを引き寄せ、そこからさらに紐の上に回転するコマを滑らせていく。いわゆるコマの綱渡りを披露して見せた恭也は、今度はレプリカの日本刀の上でコマを捻って回してみせた。回転するコマを刃の切っ先で見事に支える恭也に、子供達から思わず「おおー」という歓声が漏れる。
「ふむ、腕は衰えてはいない様で何よりだ」
「凄いんだけど……相変わらず訳の分からない特技を持ってるよね恭也は」
「とまあ色々曲芸技もあるコマだけど、コマ回しの醍醐味は何と言っても対戦だぜ! 今日はどれだけ長く回せるかを競う寿命比べをやるからな!」
「それぞれ教わりたい人の所に集まるでござる」
 呟く伊邪那美の横で千颯と白虎丸が声を張り上げ、子供達は目当てのリンカーの元にコマと紐を手に走っていった。恭也は子供達に見えるように草むらの上に膝をつくと、分かりやすいようにを心掛けながらゆっくりと紐を巻いていく。
「上手く巻けない時はだな、紐に五円玉を結び付けて回し易くするんだ。巻き易くはなるが、いささか回転力が落ちるのが難点だな」
「でも、巻きが崩れにくくなってやり易くなったよ」
「コマは投げるようにして更に紐は一気に引く! だぜ」
「いささか抽象的表現のような気がするでござるが……きちんとお手本をみせるでござるよ」
「あー、惜しい。でも紐の巻き方は一番上手なんだからあとは振り抜きだねぇ。もっとこう勢いをつけて……そうそう、お、上手いねえ!」
 ウェルラス(aa1538hero001)は上手く出来ない子を発見すると優れた点を褒めて煽りつつ、紐の巻き方や振り抜き方を事細かに指導した。そして子供達が長くコマを回せるようになった所を見計らい、恭也の背を捕らえて子供達の前へと押し出す。
「さー、このお兄サンに勝てる猛者はいるのかなー? 我こそはって子は元気に手をあげようねー」
 ウェルラスに背を押されながら恭也はしばし考えた。子供相手に対戦する事はやぶさかではない。これが友人や伊邪那美相手、賭けコマであるならその限りではないが、気付かれないように手を抜いて負けるぐらいの器量はある。
 だが、今のこの状況では、多少ラスボス感を滲ませた方が生徒のやる気に繋がるはずだ。ウェルラスも後ろで「ラスボス、ラスボス」と何やら呟いている事だし。恭也は切れ長の目を見開くと、友人達を相手にするつもりで生徒達に鋭く視線を向ける。
「年下相手と手を抜くとは思うなよ。悪いが勝ちを譲ってやる訳にはいかんのだ」
「……大人げ無さ過ぎだよ」


「こんにちはー皆さん! 僕はヨハン先生だよー、今日はよろしくねー」
 にこやかな笑みを浮かべながら手を振るヨハンに、計十二個の瞳が一斉に向けられた。大学から「新しい正月遊びを考える」という課題を出されたヨハンは、そのテストプレイも兼ねて今回の依頼に参加している。もちろんテストプレイだからと手を抜くつもりは一切ない。二本の羽子板を取り出し、子供達に説明をする。
「僕らは羽子板について教えるよ。この板で羽根を交互に打ちあって、落とした方が負け。という訳でお師匠様、実演に一緒にやりましょう! たとえお師匠様とはいえ手加減はいたしません!」
「そ、その勝負受けて立つでござる!」
 ヨハンとガイルの勝負が決定したその横で、賢木 守凪(aa2548)は視線をうろうろと彷徨わせていた。堂々と遊びに参加出来るとあってやる気充分に参加した守凪は、遊びを理由に頑張って他のリンカー達に話し掛けるつもりでいた。だが、尊大で偉そうだがツンデレ気質の守凪にはこれが中々難しい。ヨハンとガイルはすでに対戦が決まってしまったようだし……
「賢木さん、私と勝負しませんか?」
 その時、守凪の背後から天使の声が聞こえてきた。見れば平介が、羽子板と羽根を手に自分の後ろに立っている。しかし、とまだツンが邪魔をする守凪の肩を、諸々パトロールに勤しんでいる久朗の手がぽんと叩く。
「自分の思うままにやってみたらどうだ? ほら」
「……ふん、よし、俺とゲームだ笹山! 負けたら顔に墨で丸やバツを書くぞ。これはルールだからな、今更逃げたりはしないだろう?」
「もちろんです。私が勝ったら笑って下さいね♪」
「平介。勝負は勝負、勝ちなさい」
「まいったな……頑張るよ」
 京香の応援に平介は笑みを向け、そして羽子板対決は火蓋を切った。白熱する四人のリンカー達の姿を眺めながら、言峰 estrela(aa0526)は少し離れた所で息を吐く。
「みんな楽しそうね……ワタシも日本の事をあまり知らないし、見学させて貰おうかしら……」
 用事があって少し遅れてやってきたエストレーラのすぐ横には、キュベレー(aa0526hero001)が「鉄の乙女」の名のごとく直立不動で立っていた。冬の装いに身を包んだキュベレーはまるで寒さを感じていない風であるが、時折吹き付ける冬風はやはり冷たく凍えるものだ。エストレーラは被っているねこみみニット帽を深く被り直しながら、手を少しでも温めようと白い息を吹きかける。
「手袋もしてきた方が良かったわね……もう、どっちが子供なんだか……あら?」
 楽しそうなエージェント達を微笑ましく見守っていたエストレーラは、そこで皆から外れた所に三人程子供が座っている事に気が付いた。エストレーラは立ち上がると、子供達の後ろからそろりそろりと近付いていく。
「どうしたの?」
「うわ! な、なんだよアンタ!」
「あそこにいるリンカー達の仲間よ。どうしたの? 楽しくない?」
「楽しくないし! つーか寒いし!」
「とっとと終わらせてとっとと帰りたい」
「家でモヒカン刈ってた方がいい」
 家でモヒカンは普通刈らない……そんなツッコミが瞬時に頭をよぎったが、もちろんこのまま見て見ぬフリをするという訳にはいかない。
「最初からそんな気持ちで見ていたら面白くないのは当然よ。ただここでじっとしていたって、それこそ寒くてつまらないだけよ?」
 言いながらエストレーラは一人の手を優しく握った。目を丸くする子供から一時的に視線を逸らし、残りの二人にも「おいでおいで」と手招きをする。
「今日だけはお姉さんの言う事を信じて遊んでみましょ? 途中参加が恥ずかしいならワタシも一緒に居てあげるわ?」
 そしてエストレーラは子供達を連れ千颯の元へと歩いていった。何やら子供達を前に新しい事をしようとする千颯にエストレーラが話し掛ける。
「楽しそうね? ワタシ達も混ぜてくれるかしら?」
「お、いいぜー。今からお手玉の授業をするから見てってちょー」
 エストレーラは連れてきた子供達を輪に加え、自分も後ろへと移動した。千颯は経営している駄菓子屋から持ってきたお手玉を取り出すと、それを子供達の視界に映す。
「こいつはお手玉って言うんだぜー。一見地味に見えるかも知れないけど、お手玉で遊ぶのは脳を活性化させていいんだぜ! 大体こんな具合で……」
 そう言うと千颯は、まずは四個のお手玉を一つずつ宙へと放り投げた。そして、顔に丸とバツをつけてこちらに近付いてくるガイルを大声で呼び寄せる。
「ガイルちゃん! ちょっとこれキャッチして。NINJYAならこれくらい出来ないとな、ほい!」
 言いながら千颯はガイルに向かってお手玉を一つ放ってみせた。慌てつつ受け取ったガイルに、もう一つお手玉を投げ渡す。
「ガイルちゃん、二つはこうだぜ! こうやって一個投げたら反対の手に受け渡して……」
「こ……こうでござるか?」
「そうそう! そんで俺ちゃんに戻してみて!」
 千颯はガイルの投げたお手玉を受け取ると、再び四つのお手玉で宙に輪を描いてみせた。そこに一つ、また一つと足していき、最後は合計八つのお手玉で巨大な輪を披露する。全てを手に収めお辞儀をした千颯に、子供達の拍手が贈られた。
「まずは少なめから始めて、何人かで集団ジャグリングをやってみようか。分かんなかったら教えるから遠慮なく聞いてちょー」
 家でこっそりと練習してきた成果を無事に出し切った千颯に、子供達は元気のいい返事をもって応えたが、一人だけそっとお手玉の輪を離れていく者がいた。不器用なその少年は、竹馬もコマも羽子板もお手玉も上手く出来る気がしなかった。早く帰ってゲームがしたい……そんな少年の肩を、一見派手な服装をした水落 葵(aa1538)がぽんと叩く。
「どうした。つまんねーか」
「なんだよおっさん」
「今から凧上げする予定のおっさんだよ。ちょうどいいや。一緒にやるか」
 葵はおっさん呼ばわりを否定せず、むしろ自ら宣言さえした。相棒のウェルラスから呼ばれるのは傷付くが、さすがに子供相手にムキになるつもりはない。無駄な抵抗は諦めるが良し。本人曰く「店で売っていた」らしいモヒカン凧を持参してきた平介と共に、凧上げのために一等広い場所へと移動する。
「よーく見てろよ」
 葵は子供に宣言すると、風の動きと勢いを読み、糸巻を一気に全部使い切って凧を遥か上空に飛ばした。目を奪われる少年の姿を確認してから回収し、にやりと笑みを浮かべてみせる。
「俺にゃ出来たが、お前さんは出来るかい?」
「そ……そんなん興味ねえし。ゲームやってた方がいい……」
「全く同じステータスのキャラがAとBの二人いて、AよりもBがスキル一つ多く持っていたら……お前さんはどっちを選ぶ?」
「この時間で自分のスキルレベルをいくつまであげられるか、そういう楽しみ方もあるんじゃない?」
「上手くいくよう手伝うから、一緒にやってみよう?」
  葵、ウェルラス、平介の言葉に、少年はようやく頷いた。平介は笑みを深めると、凧をより高く飛ばすべく少年を肩車する。
「君は糸巻をきちんと持ってね。それじゃあいくよ!」
 平介は少年を肩車したまま風上に向かって走り出した。そして糸が張る寸前で、葵がモヒカン凧から手を離す。空高くへと飛んでいく凧に、平介と葵がすかさず少年に声をかける。
「糸をくいくい引きながら伸ばして……凧に風を当てるように、上がったら風に対して背中を向けるといいんだよ」
「おー、そうそう、そんな感じ」
「なんだか保父さんみたいですね!」
「張り切ってるみたいだな。楽しそうだ」
 子供達に混じって授業を受けていたセラフィナは、久朗の耳元に口を近付け楽しそうに笑みを浮かべた。久朗も一つ笑みを落とし、全体に声を張り上げる。
「楽しい所すまないが、次は巨大カルタを行うぞ!」
「羽子板はねぇ、魔除けだったんだよぉ? おっとぉ、もうそんな時間かぁ。はいはいみんなぁ、移動だよぉ」
 正月遊びに関する話を子供達に聞かせていたカミユ(aa2548hero001)は、くふふと声を零しながら子供達の背中を押した。リンカー達は持参した段ボール製巨大カルタを河原じゅうに並べていき、ヨハンが千颯が用意してくれたメガホンを手に元気に声を張り上げる。
「今から巨大カルタを行いまーす。カルタの内容はドイツの諺を日本語に訳したものだよー。取れたカルタは回収係のお兄さん達に渡してねー。それじゃ行くよー、『目の上のトマト』!」
 全く聞き慣れない言葉に、子供達の動きが一瞬止まった。その隙に札を見つけた守凪が、頬にハートマークをつけたまま勝ち誇った声を響かせる。
「子供だろうと手は抜かないぞ。ゲームで手加減は厳禁だからな。全力で相手をしてやろう!」
「見てるよぉ。皆頑張れぇ~」
「それじゃあ次だよ。『物事には必ず終わりがある、ソーセージには終わりが二つある』!」
「カルタ取りなんて楽勝に決まって……今何と言った?」
 そして、河原はカルタ取りの戦場へと変貌を遂げた。子供達もリンカーも札を求めて河原の上を走り回る。千颯と白虎丸は一人一枚は必ず取れるよう注意しながら、特に一人でいる子や小柄な子に積極的に声を掛け、
「あっちに今の句のあったような~? こっちも大人数いるんだから一緒になって遊ぼー 」
「俺が肩車するから、遠目から見るといいでござるよ」
 恭也と伊邪那美 、平介と京香は足の遅い子の手を引っ張り、
「敵の配置と思って覚えれば簡単よ」
「そうだね、それなら簡単だ」
 葵とウェルラス、パトリツィアが協力して札の回収・管理を行い、ヨハンがメガホン片手に札を読み上げ、
「まだまだ逆転出来るよ頑張って! 次読むよ、『ソーセージを投げてベーコンを得る』!」
 守凪は全力で子供と札を取り合っていた。
「いいや俺の方が先だった! これは俺の札だ! おーれーのーだー!」
「大人気ないよねぇ……」
 その時、走り回っていた子の一人がバランスを崩して転んでしまった。タイムキーパーをしていた久朗が即座にそっと担ぎ上げ、セラフィナと共に救急箱を持っている守凪の元へと連れていく。
「怪我も遊びで学べる事の一つだからな」
「いたいのいたいのとんでけー! ですよ」
「日本のお正月って素敵ね」 
 守凪が子供の膝に絆創膏を貼っていた頃、参加せず見守る事にしたエストレーラはぽつりとそんな事を漏らした。一応心配していたが、今は子供達みんなでカルタ遊びに興じている。
「……そうか」
 そんなエストレーラに対し、キュベレーはただそれだけを返した。他人から見れば気の利かない相槌でも、反応を見せたというだけで二人にとってはれっきとした会話なのだ。エストレーラはそんな相棒に、ただ静かに微笑んでいた。


「おっし、芋が焼けたぞ。ほら先生も」
 龍哉は焚火の中から濡れた新聞紙と銀紙に包んださつまいもを取り出すと、梅吉や生徒の手にそれを一つずつ渡していった。生徒達がカルタ遊びを行っている間に、ガイルやデランジェの手も借りつつ用意した焚火と焼き芋だ。その横では恭也が、磯辺焼きの準備を行いながら僅かに無念を滲ませていた。
「本来なら搗き立ての餅の方が上手いのだがな」
「流石に蒸し器と臼に杵を短時間に用意は出来ないから仕方が無いよ。あと大人の甘酒用に酒粕を申請してたけどさ、酒粕から作った方はアルコール分あるらしいけど、大丈夫なの?」
「酔うほどは無い、仮に酔っても外の寒さで直ぐに醒めてしまう程度だから問題は無い」
「さあ、甘酒でございます。お寒いでしょうが、これを飲んで温まって下さいませ」
 パトリツィアは温めた甘酒をカップに入れて生徒に渡した。平介は渡された甘酒に視線を落とし、苦笑するような表情をする。
「お酒入ってなくて良かったよ。甘いお酒は眠くなってしまうから」
「まぁ、眠っちゃったらその時は担いで帰るから安心しなさい」
「そういう訳にはいかないよ」
「そう」
「うん、そう」
「ドイツ語はね、英語と読み方がちょっと違うんだ。例えば僕の名前はJohannと書くけど、読みはヨハン。でも、基本的にはローマ字の読み方と一緒だから、読み上げるだけなら英語よりよっぽど簡単なんだ。まずは一緒に、ドイツ語を読んでみようか」
 平介とやり取りする京香から少し離れた所では、ヨハンがチョコレートを渡しつつ、ドイツ語に興味を持った生徒相手にドイツ語講座を行っていた。他の場所でも子供達を肩車したり、遊びの続きを行ったりとリンカー達は生徒達とそれぞれの時間を過ごしている。
「もし今日楽しいと感じてくれたなら、それを自分の友達にも広めてくれ」
「楽しい事はみんなでやるのがいいのです!」
「もし興味が湧いたら先生に声を掛けてみな。竹馬でもなんでもきっと貸してくれると思うぜ。久し振りだが、中々楽しめたな」
「では、最後にみんなでハイタッチしましょう。はいガイルさん!」
 久朗、セラフィナ、龍哉の言葉に続き平介が朗らかに声を上げ、まずは近くに立っていたガイルとハイタッチをかわした。そのままセラフィナともハイタッチをし、そして久朗ともハイタッチを
「笹山! もう一度俺と勝負だ! 次こそは両の頬にでっかい丸とバツを書いてやる!」
しようとした所で、薄めた墨汁と筆を持った守凪が平介の真横から現れた。そのまま頬にハートマークをつけた守凪に追いかけ回される平介に、久朗はほっとしたような、おかしくてしかたないような微かな笑みを浮かべていた。

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結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 告解の聴罪者
    セラフィナaa0032hero001
    英雄|14才|?|バト
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 分かち合う幸せ
    笹山平介aa0342
    人間|25才|男性|命中
  • 薫風ゆらめく花の色
    柳京香aa0342hero001
    英雄|24才|女性|ドレ
  • エージェント
    言峰 estrelaaa0526
    人間|14才|女性|回避
  • 契約者
    キュベレーaa0526hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 実験と禁忌と 
    水落 葵aa1538
    人間|27才|男性|命中
  • シャドウラン
    ウェルラスaa1538hero001
    英雄|12才|男性|ブレ
  • 急所ハンター
    ヨハン・リントヴルムaa1933
    人間|24才|男性|命中
  • メイドの矜持
    パトリツィア・リントヴルムaa1933hero001
    英雄|16才|女性|シャド
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