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【白刃】戦いを終えて
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旅の栞【相談卓?】
最終発言2015/12/27 15:12:41 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2015/12/27 16:09:44
オープニング
空と海の境目。
その境界線があやふやになりそうな程輝いている。
絶妙なコントラストは、美し過ぎて思わず溜め息が零れてしまう程だ。
生駒山で展開された大規模作戦は、終了した。
H.O.P.E.はこの大規模作戦で尽力したエージェント達を労う為、1泊2日という短期間ではあるが、慰安旅行を計画、方々に協力を依頼した。
『あなた』達はその計画された慰安旅行のひとつに参加している。
この慰安旅行のプランは、上海に本拠を持つ協力企業、回憶旅行社の提供によるものだ。
回憶旅行社は社長の意向で日本へ進出していないのだが、今年1年戦い続けてきたエージェントに命の洗濯をしてほしいとこちらから大規模作戦に関係なく申し出るつもりであったということで、H.O.P.E.からの依頼を請けてくれたそうだ。
そして、回憶旅行社が準備を進めてくれていたのが、モルディブでのリゾートだ。
モルディブは、高級リゾート地としても名高い国だ。
普段なら高級過ぎて絶対に宿泊出来ないホテルが、今回は慰安旅行ということもあり、無料とのこと。
正確に言えば、このホテルがオールインクルーシブ、つまり旅行代金に飲食代、施設利用・アクティビティ料金、チップがほぼ含まれているプランのみであった為、H.O.P.E.が全額負担としたらしい。(勿論、かなり高額の為、人数がこのように絞られている訳だが)
気兼ねなく質の高い1日を過ごせるのだから、ここでしか味わえないおもてなしを満喫し、命を洗おう。
エージェント達はそれぞれの予定を確認してから、バンガローへ案内してくれるスタッフの後を追った。
解説
●滞在するバンガロー
・海を一望出来るプライベートバンガロー。
・1~4名で滞在可能(同滞在者明記必須)
・デッキにはプライベートプールとサンベットあり。室内はとても広い。ふかふかベッド。大型TVあり。
・お風呂からも海を見渡すことが可能。音楽(クラシック・ヒーリング系)も流せる模様。
●選択可能時間帯(1つだけ選択可能)
・日中・夕方・夜・夜更け
●時間帯で出来ること
時間帯によって可能行動が異なります。
全時間帯で可能
バンガローでのんびり
砂浜を散歩
日中のみ可能
ホテル共通の海水プールで遊ぶ
シュノーケリング
釣り(キャッチ&リリース・クルージングと同時選択不可)
日中・夕方可能
プライベートクルージング(釣りと同時選択不可)
夜のみ可能
食事(下記から1つ選択)、全てドレスコードなし。
1:ダイニングレストラン
屋内席と水上デッキ席のどちらか。
創作のコース料理。
2:ピッツァレストラン
半屋外席のみ。
ジュースバーでもあり、南国らしいジュースが出てくる。
3:水上ダイニング
すぐ真下を泳いでいる魚を使った、地中海系のシーフード料理。屋外席。
4:海中レストラン
地下レストラン。周囲がガラスで、海の様子が見られる。夜特有の趣があるとか。
多国籍のコース料理に合うよう厳選されたワインも自慢。
5:カクテルバー
波打ち際にあり、海と星を眺めながらカクテルを楽しめる模様。
※商標登録されたカクテルはマスタリング対象です。
●NPC情報
剣崎高音、夜神十架
プレイングでお誘いあった場合のみ一緒に来たとして登場します。
なければ登場しません。
シナリオの性質上お誘いする方は掲示板で必ず宣言してください。
●注意・補足事項
・羽目の外し過ぎに注意。周囲に迷惑が掛かると判断された場合スタッフが制止します。
・全年齢範囲の描写となります。キス以上の描写は明確に行いません。
・時間帯の中でも欲張り過ぎるとひとつひとつの描写が薄くなります。絞ることを強く推奨します。
リプレイ
●これからと導きと
空の青、海の碧、真っ白い砂浜……日本は冬と違い、南アジアのモルディブは暑い。
唐沢 九繰(aa1379)とエミナ・トライアルフォー(aa1379hero001)は、バンガローに荷物を運んだ後、まずはシュノーケリングを楽しんだ。
「シュノーケリング、楽しかったですね!」
九繰はモルディブの美しい海、日本の海にはいない南国の魚達が住まう世界を楽しんだようだ。
「そうですね。近所の魚屋では見かけない生き物ばかりでした」
表情と声ではそうと分からないエミナも南国の海の世界は興味深かったようで、右手の甲にある小窓で自身が感じた感動を顔文字で表現していた。
「一泊二日でも南の島でのバカンスなんて、普段は絶対に来られませんよね」
「今回の企画は、本当に太っ腹ですね」
H.O.P.E.への感謝を口にする九繰の隣で、エミナはそれだけ大きな成果を挙げたということだろうかと推測する。
レガトゥス級愚神の滅びの腕を向こう側へ押し返し、首謀者とも言えるトリブヌス級愚神3体を退けた。
討伐ではないのかと何も知らぬ者は言うかもしれないが、それまで蹴散らされてきたことを思えば紛れもない勝利だろう。
あの時押し返さなければ、あの時退けなければ。
今この白い砂浜を歩いておらず、空の青と海の碧が交わるこの景色を見て、お喋りなど出来なかった。
「気懸りが全くない訳では、ないですけど」
例えば、退けたトリブヌス級愚神達の行方。
あの愚神を放っておくことは出来ないだろう。
けれど───
「大怪我を負ったりもしましたね」
エミナがそれだけではないと左右異なる印象の瞳を向けてくる。
そう、九繰は大規模作戦の最中、深手を負ったから。
今はその傷も癒えたが、それは運が良かったからかもしれない。
「えへへ、あれは酷い目に遭いました。度胸とかも、つきましたけど」
でも、一連の任務が切っ掛けで仕事仲間だけでなく、友達も増えた。
そう思えるから、悪いことばかりがあった訳ではない。
「大きな被害が出る前に、退けた愚神達の居所を突き止めねばなりませんけれどね」
「正直、世界の平和とか人類の危機とか……そういうのはまだピンと来てないんですよね」
「それでもいいと私は思います」
エミナは九繰を否定しない。
どんな動機であっても、その想いから来る行動の結果が命を救うことに繋がるなら、エミナはそれでいいと思う。
「それなら、命の洗濯も大事ですし、もっと遊びませんか? まだ夕食まで時間もありますし、海水プールに行きましょう!」
「泳ぐのは得意ではありませんよ。……新鮮で楽しかったですが」
「泳ぎ方、教えますよ」
九繰とエミナはゆっくりと海水プールの方角へ歩き出す。
思い切り泳いだら、プールサイドでトロピカルなジュースが飲みたい。
空と海を見ながら、ジュースを飲んで、お喋りしたら、夕食の時間はあっという間だろう。
夕食はどこにしよう。
海中レストラン? 水上ダイニング? それとも───
白浜には2人の軌跡が余韻のように残っている。
●海を走る
「……エージェントで良かった……」
卒業後の奨学金返済も気になる苦学生鋼野 明斗(aa0553)は、プライベートバンガローに感涙した。
『プール! ふかふか! テレビでかっ!』
スケッチブックに感想を書き記しては、豪華なバンガローを実感しているのは、ドロシー ジャスティス(aa0553hero001)である。
「そろそろ待ち合わせ場所に行かないと」
『ガッテン!』
明斗らしくなく浮き足立っているが、待ち合わせを忘れたりはしない。
時間を遡ると。
折角だからプライベートクルージング(ドロシー曰くセレブプレイ)へという話はバンガローへ向かう途中でしていたのだが、どこに行こうか相談する剣崎高音(az0014)と夜神十架(az0014hero001)へ声を掛けたのだ。
「ご一緒にクルージングでも行きませんか?」
『ナンパじゃないのよ』
自身の背後でこっそりアピールするドロシーにまだ気づかず、明斗は決めていなければと誘ったのだ。
100%貧乏人のおのぼりさんを自覚していたので、自分達だけでプライベートクルージングが心細いというのが理由として大きい。
「いいですよ。クルーザーでのんびり海を見るのも楽しいですから」
快諾する高音の隣で十架がこくこく頷き、互いのバンガローに荷物を置いたら合流しようとなったのだ。
「しかし……サービス全般まで別料金じゃないなんて」
自分のお金では宿泊……出来る日が来るのか?
そう思いつつも明斗はドロシーを連れ、高音達と合流。
やがて、準備も整い、クルーザーは出発した。
「圧巻ですよね」
「こういう機会でなければ、宿泊は出来ないでしょうね」
「私もですよ」
サングラス姿の明斗がリラックス用のチェアに寝転んでいると、少し手前の椅子に腰掛ける高音が苦笑する。
実家住まいの高音の生活が自分以下ということはないだろうが、最高級のリゾートは雲の上なので、同意も頷ける。
「十架ちゃんもドロシーさんも楽しそうですね」
2人は出発してから今まで大興奮状態。
陸側のスタッフに十架とぴょんぴょん跳ねて大きく手を振った後、揃って海を覗き込み、海の中の世界や進む度に蹴り立てられる波に感心し、今は風を感じるのが楽しい様子。
「自分もそろそろ動きますか」
明斗が身を起こすと、スタッフに双眼鏡を借りる。
ゆっくりのんびり探していると……いた。
「あっちの方を見て」
皆を呼んで、指し示した先はイルカだ。
「流石モルディブですね。野生のイルカは初めて見ました」
「……いる、か……?」
『ジャンプしてる!!』
高音と違い、十架とドロシーには馴染みがなく、初めて見るイルカに大興奮。
ジュースを飲みながらも、明斗はドロシーがストローが刺さったココナッツの中身をぶちまけたりしないようそっと遠ざけた。
夕陽が沈む中、クルーザーは陸へ戻る。
「今日はドロシーと遊んでいただき、ありがとうございました」
「ドロシー……おやすみ、なさい」
こちらこそと微笑む高音の隣で、明斗の肩に担がれるドロシーへ十架が小さく声を掛ける。
夢現といったドロシーはバンガローのふかふかベッドでイルカと泳ぐ夢を見ているかもしれない。
(……夕飯、ルームサービスがないか問い合わせしよう)
尚、明斗は勿体無い精神でそう考えていたのは内緒の話だ。
●夜の海の中を眺めて
中城 凱(aa0406)と離戸 薫(aa0416)、礼野 智美(aa0406hero001)と美森 あやか(aa0416hero001)の4人は、バンガローでのんびり過ごした後、夕食にと海中レストランへやってきた。
「見ているのか見られているのか分からないな」
「昼だともっとそうかもしれないね」
凱と薫が見るガラスの向こうは夜の海。
このレストランはパノラマで海の中の風景を楽しめるのだ。
空からは月明かりが差し込んでいるらしく、その様は神秘的とも言える。
「しかし、慰安旅行とは言え、凄いな」
凱の言う通り、モルディブの中でもランクが高いホテルだ。
いい所だったと話したらしい凱の父親もこのランクのホテルに宿泊とは想定しないで勧めただろう。
「風呂からも海が見えるってのはいいものだった」
熱帯に位置するモルディブで雪を見ながらということは無理だが、海を見ながらも良かったと智美。
「けど、年末にこういう所に宿泊って難しかっただろうね。たまたま慰安旅行に便乗したそうだけど、計画を立ててくれていた旅行社には感謝しないと」
「年末はきっとどこも忙しいでしょうしね」
薫が以前訪問した回憶旅行社の担当者を思い浮かべながらそう言うと、あやかも小さく頷く。
年末となればどこも忙しい。薫も妹達の面倒を見る時間も長くなり、今回のような泊りがけの外出も難しいのだが、両親は送り出してくれたので感謝したいと思う。
そこへ、最初の料理が運ばれてきた。
「初めて見る料理ね」
あやかが目を瞬かせる。
頼んだコースはモルディブと西欧の融合した料理のものである。同程度の文明レベルとは言え、その世界の全てを知っていた訳ではないだろうことより初めてという感覚も不思議ではない。
全員で宿泊するバンガローで夕食を何にするか相談した際、断られるであろうカクテルバーを除外した上で考え、最終的にここでとなったのだが、特にあやかは迷った為、その甲斐はあったらしい。
「酒が呑めないのが惜しい位だ」
「見た目どう考えてもアウトだろう」
凱はノンアルコールドリンクを口にする智美へ呆れる。
モルディブはお国柄、飲酒に関して厳しい。リゾート地はそれの適用外だが、流石に智美相手に酒は出してくれないだろうと最初から頼んでいないのだ。
「これから続々料理は来るだろうが、外の魚も美味そうだな」
「智美さん、その感想はあんまりかと」
夜とは言え、海の中では魚も泳いでいる。
レストラン側も見られる可能性がある魚の図解リストを各テーブルに用意しているが、詳しくなくともガラスの向こうの景色には心惹かれるものがある。
「ここにして良かったと思うけど……凱はいつもダイス持ってるの?」
「たまたまだ」
最終的に100面ダイスの目でここと決めようと提案した凱へ薫が問うと、そういう時もあると凱。
「何か、似たような覚えがあるようなないような」
「あったんですか」
薫が智美とあやかの失われた記憶の向こうに思いを馳せ、苦笑している間にも料理は運ばれてくる。
「モルディブはカツオが主流みたい」
周囲の景色より出される料理に興味があるあやかは目敏く気づいたようだ。
日本でも馴染みある魚だが、調理方法ひとつでその表情を変える。
「ドレスコードがないのが助かる位の店だな」
「H.O.P.E.で根回し済みかもしれないけれどね」
「なるほど」
凱がそう言うと、向かいに座る薫がそう微笑む。
通常こうしたレストランでドレスコードは考慮されるものだが、なくて大丈夫ということは、そういう服装前提となり、敷居を感じさせてしまうという配慮があってもおかしくはない。
実際の所は分からないが、薫が微笑んでそう言えば、そう言う気がしてくる。
(視線は無視しよう)
智美の生暖かい視線をスルーし、凱は「来て良かったな」と微笑を向ける。
「皆それぞれ時間を過ごしているんだろうね」
「俺達だけがこのレストランだったのはちょっと意外だったが」
薫と凱が言う通り、このレストランにエージェントは彼らしかいない。
あまり広くない店内、それぞれの空間で楽しめるようになっている為、ドレスコード関連で注目されることはないが、周囲にエージェントがいないことは分かる。
「気後れする必要もないだろう」
言い切る智美は物怖じせず、ある種の慣れが見えるが、その理由は失われた記憶の向こうである。
「そう言える智美さんが凄いと思いますけど」
「智ちゃんは肝が据わってるから」
薫の言葉にあやかが微笑む。
彼女達は親友同士という記憶を持っているが、かつての世界のことを多く失っている。
例えば、その身辺。
あやかは寄り添った誰かがいたと推察出来るが、真実は分からない。智美にしても、あやか以外の周辺人物に関する記憶は失われている。
例えば、任務のあり方。
凱と薫には、彼女達が手慣れているように見える、戸惑いはなく、かつての世界でもそう戦っていたかのような息は、共鳴するとより感じる。けれど、彼女達は詳細を憶えてはいない。
かつての世界でどう過ごしていたのだろう、というのは凱も薫も共通して気になることだ。
「ま、お前は人のことを気にしている場合ではないと思うが」
「うるさい」
智美の一言に凱が放っておけと返す。
よく分からない薫はあやかと顔を見合わせるが、自分のことを言われているとは気づいていなかった。
●その光景に感謝して
構築の魔女(aa0281hero001)は、バンガローでのんびりしながらもレストランのパンフレットを眺めていた。
夕食は高音達と一緒の為、誘いに応じてくれた彼女達とならどこがいいだろうと吟味しているのだ。
「お店はどれがいいでしょうね」
構築の魔女がそう呟くと、辺是 落児(aa0281)の指が動いた。
「ーロロ」
指し示したのは、ピッツァレストラン……のジュースバーの写真だ。
南国らしく、トロピカルフルーツを使ったジュースが数多く楽しめるようだ。
「いいかもしれませんね。十架さんもグラタンお好きみたいですから、チーズが苦手ということはないでしょう」
「……ーー」
落児も頷き、構築の魔女はピッツァレストランに決めた。
待ち合わせの場所へ行くと、高音と十架は既にいた。
「どうでしたか?」
「いるか……跳んでた、わ」
構築の魔女の問いに十架が小さな身体を一生懸命使ってイルカを手振り説明。
彼女の話を聞きながら、ピッツァレストランへ。
半屋外の席は海がよく見えるよう設計されており、昼間見た紺碧の海は今その表情を変えている。
「ここまで開放的とは思っていませんでした。夕闇に沈む紺碧の海、風情がありますね」
「……ロー」
落児から僅かな驚きと疑問が空気として漂う。
「あら? 風情のあるものも好きよ?」
構築の魔女はそう言って視線を再度海へ転じるが、彼女自身も自分の想いを優先しているのは認めている所だ。
「夕焼けの……時は……もっと、オレンジだった、わ」
「船の上ですと、また違った趣があったのでしょうね」
「海の色が夕陽を反映して綺麗でした」
十架と高音の話に耳を傾ける構築の魔女を見、落児も「ロ……」と黙って考えてみる。
構築の魔女にはそれなりに世話になってきたと思っていたが、まだ色々知らないこともある。
と、十架がちょっとそわそわした様子で周囲を見回す。
人見知りの十架が不慣れな環境と周囲が落ち着かないのかと見ていると、ジュースのグラスが空だ。
「ーーロ」
ジュースバーへ一緒に行こうと落児が誘ってみると、十架はこくこく頷いて、席を立った。
遠慮は不要だが無理強いはと思っていたが、十架は落児の隣を歩いている。
怖がられていないことには感謝する落児は十架が安心出来るよう留意してエスコートしていく。
「落児とも仲良くしてくださってありがとう」
構築の魔女が、高音へそう声を掛けた。
彼女の目から見て、落児は少し楽しそうにエスコートしているらしい。
「どこかほわっとして見えますね」
高音もジュースバーのメニューを一緒に吟味している姿を見、微笑む。
「えぇ。ですから、代弁ではなく、私個人の感謝です」
「私こそ十架ちゃん共々良くしていただいていますよ。今だって、ピッツァレストランに誘ってくださいましたし」
「折角の機会ですからね」
ゆっくり話をしてみたいと思っていた高音へ構築の魔女も微笑を向ける。
「美味しい料理に圧倒される情景。……安らぐ? 落ち着く? 言葉にはし難いですが、素敵な気分ですよね」
「1泊2日が勿体ないです」
「それは言えてますね」
笑い合った所で、2人が選んだトロピカルジュースを手に戻ってくる。
彼らのテーブルへ石窯で焼かれたピッツァが運ばれ、舌鼓を打つのはもう間もなくのこと。
●踏み出しの一歩
(どうしたものじゃろうな)
奈良 ハル(aa0573hero001)は、自身の迷いを強く実感している。
それは、今宮 真琴(aa0573)のこと。
出会った当初、真琴は今のようではなかった。
今があるのは自分の影響だろうと自負はしている。
能力者と英雄……パートナーという間柄、そう思っていたのに。
(まったく……ワタシは何をやっているのじゃろうな……)
真琴の好意以上にはとうに気づいていて。
夕食も自分が海鮮料理が好物である、それだけの理由ですぐ真下を泳ぐ魚を使った、地中海系のシーフード料理が楽しめる水上ダイニングにしようと言ってきて。
普段こそコンビ漫才になることもあるが、そうした気遣いがいじらしいとも愛しいとも思う。
けれど、踏み切れない。
夕食後に歩こうと言った砂浜は、誰もいない。
寄せては返す波の音だけが聞こえている。
(少しだけ話をしたいと言ったのは真琴だろうに)
月明かりの下でもその耳が朱を帯びていると分かり、ハルは微笑ましいと口元に微笑を浮かべる。
やがて、真琴が足を止めた。
「あのね……あのねハルちゃん」
今まで黙っていたのは、この勇気を振り絞る為だったか。
ハルがそう気づいたのは、真琴がおずおずと小箱を差し出したから。
「な、んじゃ、それは……?」
何となく予想はつくが、確かめずにはいられない。
小さく何か言葉を漏らしてから、真琴は再び黙る。
が、振り絞った勇気は少しの逡巡で立て直したらしい、波の音に紛れるようにその声が聞こえた。
「クリスマス……色々あって何も出来なかったから……プレゼント……用意……しまし……た……」
小さな声が更に小さくなっていくが、ハルはその言葉を波の音に紛れさせたりはしない。
不意打ちに近い贈り物を見、ハルは目を伏せる。
「……すまんな……ワタシは何も用意しとらんのじゃ……」
だが、その時だ。
真琴の「いいの」と小さな呟きと共に視線の端で何かが煌いた。
予感めいたものを感じて小箱を開け、真琴の手首を見る。
同じ、銀のブレスレットだ。
「……お揃い」
恥じらい俯く真琴に笑みが零れるのが分かった。
「……まったく」
その言葉と同時に身体は動いた。
ハルへ引き寄せられた真琴が真っ赤な顔で見上げてくる。
「着けてくれるんじゃろうな?」
それは、受け取りの言葉。
頷いた真琴が、ハルの手首へそのブレスレットを着けてくれた。
「ありがとうな、真琴」
戸惑う真琴の耳元で囁くと、ハルは真琴の想いを受け入れるかのように抱きしめる。
何を今まで迷っていたのか。
考える必要などなかった。
全てを守り全てを貰う。
答えは、思い描いた形は既に出来ていた。
さしあたっての問題は、我がごとのように感じていない少女には何かと刺激が強いだろうということ。
「ワタシに答えを出させたのは、真琴じゃからな?」
ハルは翌朝の真琴の顔色を思い浮かべ、その未来と同じ顔色になるよう彼女の唇へ迷った末に出した答えをあげた。
これから、ゆっくり、全てを貰っていけばいい。
●星降る夜
アヤネ・カミナギ(aa0100)は、ナハト・ロストハート(aa0473hero001)と共に夜でもそうと分かる白い砂浜を歩いていた。
「綺麗……海に星が映っていて、まるで星が海の中で輝いているみたい」
ナハトは年相応の少女のように嬉しそうに声を弾ませている。
呪いに蝕まれたヴィント・ロストハート(aa0473)の英雄には、何か少し位はと思い、慰安旅行にも来たし、こうして、共に砂浜を歩いている。
(クリッサも何故か推してくるからな)
アヤネが頭に過ぎらせるのは、自身の英雄クリッサ・フィルスフィア(aa0100hero001)のこと。
似た者同士と思うヴィントの英雄である彼女を何故推してくるのだろうと思うが──
「空にも海にも星空があるなんて……。アヤネ、凄く夜景が綺麗ですよ。この世界には、こんなにも綺麗な場所があったんだね」
「こういう場所、時間帯でないと見られない景色もあるからな。俺もあまり見る機会はなかったが……確かに、ここは綺麗だ」
アヤネは、ナハトを慈しむように見つめた。
その光景を、気づかれない距離を保って見守る影あり。
「クリッサ、覗き見なんてお前も物好きだよな……。まぁ、こうして便乗してる俺も物好きな訳だが……」
散歩に出た両者を可能な限り足音と気配を殺して尾行したヴィントが、この計画を立てたクリッサを見る。
「あら、折角なら経過を見守りたくなるくらいの気持ちはあると思うけれど?」
クリッサはアヤネにもう少し親しい人を作って貰おうと思っていた。
これはいい機会、ということで、アヤネとナハトをくっつけようと画策、ヴィントへ持ち掛けた流れがある。
「私としてはね、アヤネが私の居場所であることだけで十分なのよ。だから、彼にはもっと色々な相手と関係を築いて欲しいと思ってね。ナハトのことは少なからず想っているみたいだし、お互いに相性も良いんじゃないかと思って」
クリッサはアヤネが幼少の頃、この世界へ降り立った。
かつての世界でコンプレックスであった本質から孤立しつつあった状態でこの世界にやってきて、誓約を交わしたアヤネが新しい居場所となったからか、アヤネへそうしたことを望むようだ。
「いい感じになりそうかしら……。そうだといいんだけど、アヤネも好意を素直に表現しないからね……」
アヤネを見守るクリッサの言葉に「どうだろうな」と応じたヴィントは、ナハトを見つめるアヤネを見る。
「誰かを好きになる……か。こうやって見ると、アイツの方が俺よりも人間らしく思える……というより、俺の方がそういった感情に疎いだけか」
どこか自嘲気味な含みを持つ呟きを口にした表情は呟きに見合っていたが、夜の闇はその表情を隠す。
そんなやり取りを知らない2人は、星空を見上げている。
「日中と違って、星が降ってきそうで……掴めそうだね」
そうして背伸びをするナハトは、今『真紅の剣姫』ではなく、年相応の少女だ。
と、その時だ。
「あわわわ……っ」
砂に足を取られたナハトがバランスを崩す。
咄嗟にアヤネが支えようとし、ナハトも抱きつく形になるが、勢いと足元が砂ということでナハトに押し倒される形で砂浜に倒れ込んだ。
「ご、ごめんねアヤネ。怪我、しなかった……?」
アヤネが頭など打っていないだろうかとナハトが顔を覗き込む。
直後、倒れ込んだことで密着し、アヤネとの距離が近いと気づいて、頬を赤らめる。
「……俺の方は大丈夫だ。……ナハトは大丈夫か?」
この世界の存在ではない英雄であるナハトがこうした状況で足を挫くということはないだろうが、だからと言って、転ぶのを見過ごしていい訳ではない。
それよりも、近い距離にいるナハトの顔が恥じらいで赤くて、そちらに目がいってしまう。
と、ナハトがアヤネへ寄り添うように抱きつき、顔を胸に押しつけてきた。
「えっと……、少しだけ……こうしててもいいかな?」
ヴィントとはまた違った意味で安心する、というか。
小さく付け足された言葉に応えるようにアヤネもナハトの背に優しく腕を回した。
「……ああ、構わないさ。俺はお前の『居場所』のひとつでいられたらいいと思っているしな」
「ナハトの奴、思い切ったことをやったものだな。さて、ここからどうなるか見物か……?」
「不可抗力に見えたけど、同意するわね」
(アヤネもナハトも気づいてないが)ヴィントとクリッサの見届ける中──
「ナハト、顔を見せてくれ」
アヤネは自身の胸に顔を押しつけているナハトへ声を掛け、少し顔を上げたナハトの頬に片手で触れる。
ナハトの顔がより赤くなっていて、アヤネは『それ』を口にする。
「少し思っていたことがある」
そう切り出せたのは、空にも海にも星が煌くこの夜の雰囲気だからか。
「ナハトのことを、『大切にしたい』、とな」
時間が停まったようなナハトが瞬きもしないで自分を見つめている姿が、とても大切に感じられ、アヤネは抱きつくナハトごと身を起こし、けれど、優しく抱きしめているのを変えないまま、ナハトへその言葉を証明した。
「行きましょうか」
重なった影を見、クリッサは顛末は見届け終わったと身を翻す。
ヴィントも、クリッサに続くようにバンガローへの道を歩く。
「こいつは尚更、アイツを呪いから解放する為に一層尽力しないとな……」
ヴィントの、その薄い笑みも、小さな呟きも。
夜の闇と波音が誰にも教えないとばかりに全て攫っていく。
ナハトにとって、それは忘れられない数秒だったかもしれない。
アヤネの顔が近づき、前髪と前髪が触れ合ったと思った時には、アヤネのサファイアブルーとゴールドの瞳が伏せられ、唇が重なった。
離れていった時には、これ以上ない位胸がドキドキして。きっと顔は真っ赤だと鏡を見なくても分かる。
「アヤネ、ありがとう……」
ナハトはアヤネへその想いを込めて抱きしめる。
その声が心なしか嬉しそうというのは、自分でも分かる……アヤネに、伝わってる?
「でも、こんな所を他の人に見られたら恥ずかしい……と言っても、こんな時間じゃそうそう人もいない……よね?」
「いないみたいだ」
アヤネが視線を巡らせた時には、木の陰に人はいない。
ほっとするナハトへ、アヤネはもう1回キスをした。
彼女の居場所は、ここにもあると教えるかのように。
大きな戦いを終えてここへやってきたエージェント達の、心癒す夜が更けていく。
明日より、前へ進む力を。