本部

【駆け出しエージェント指南】心

蘇芳 防斗

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
寸志
相談期間
5日
完成日
2016/01/08 21:23

掲示板

オープニング

 ここ最近、サンクトペテルブルクにあるH.O.P.E.支部ではちょっとした騒ぎが日常になっていて、それは今日も繰り広げられていた。
「それで結局、何がしたいわけ?」
「だからー、世界を守るんだよ!」
「……はぁ」
 その、今日の発端は女性の割には大柄な彼女の問い掛けからでそれに対して声変わりをしたばかりかまだ若干ハスキーな声を発する少年の声が響くと、彼女は視線を下げれば次いで溜息を漏らして。
「……こう、何て言うかもっと具体的な所ってないのか?」
「具体的だろ、てか英雄のあんたならそっちの方が分かりいいんじゃないの?」
「いやいや、英雄の皆が皆そんな事考えてる訳じゃないしむしろ方向性としては漠然とし過ぎだって……世界を守る、って言ったってなぁ」
 そしてすぐに口を開き応じたその彼女が発した言葉から察するに、女性は少年と誓約を交わした英雄で、ならば対面の少年は能力者……と傍から初めて二人を見守る者達はそう理解する中でも喧々囂々会話は未だ続けば何時もの様に戸惑いを露わに、頬を掻きながら女性は言葉を重ねる。
「まぁ……実際そうするとして、そのためにこれから俺達は何をするんだって言う話なんだけどさぁ」
「……あー」
「え、まさか今気付いたとか言わないよな……全く俺も焼きが回ったな」
「何だよその言い草!」
「そりゃ言いたくもなるさ!」
 さばさばと、比較的落ち着いた調子で発せられた彼女の問いに少年は一時でも声を詰まらせるなら、肩を竦める女性に果たして今日も彼は噛みつくといよいよ本格的に今日の口論が始まろうとした、その時だった。。
「今日も今日とてうるさいですよーぷんぷん!」
 受付担当のお姉さん、何時もの様に二人の間に割り入って仲裁に入るのもお約束。
「全くどうして毎日こうも同じやり取りをしては揉めているんですか!」
『だって……』
「はー……」
 少年と同じ位の背丈でも肩をいからせしっかり二人へ叱咤すれば問うと、声をハモらせる二人にやはり溜息をついて受付嬢、いさかいの理由は多からずもこの事態の原因は理解していた……誓約の経緯こそ分らずも能力者と英雄の間に多かれ少なかれ『ずれ』が生じて結果、苛立ちを互いにぶつけているこの事態に。
 一度、戦闘を経験させる事も考えたがこの状況では最悪の事態も考えられる以上はおいそれと送り出す事は彼女としては当然出来る筈もなく。
「なら、諸先輩方から話でも聞いてみますか」
 と、その時になって漸く得た閃きをそのまま口にする彼女へ果たして二人。
「あっ、エージェントを始めた理由とか能力者になったきっかけの出来事とか?!」
「他にもなれそめとか、そもそもの行動原理とか諸々……ですかね。とにかく、エージェントとして登録こそされていますけどちゃんとした活動をする前に二人には先ず、自身の足場を固めて貰わないといけませんね」
「成程……そうかも冴えてるな姉ちゃん!」
「俺はやだなー……」
 賛否両論、意外と少年の方が食いついて女性の英雄は頬を掻きながら不満げな表情を浮かべるもこれ以上の選択肢は二人にとって恐らくないから受付嬢はまた口を開くのだった。
「はいセフィアラさんだまらっしゃい、とりあえずは座学から! 本格的な活動はそれが終わったら!!」

 この依頼が、憧れだった能力者になった少年がエージェントとして踏み出した最初の一歩だった。

解説

●目的
駆け出しエージェントに皆さんの経験談等を語ろう!
 全員プレイングが白紙でない限り失敗はありません

●状況等
フィンランドにあるH.O.P.E.支部の会議室を借りています。
簡単な飲食なら問題ないので、必要なら何かしら持ち込んでも構いませんが未成年の飲酒は禁止です。

駆け出しエージェント二人の現状はOPに書いてある通り。
どんな話であれ、最終的に色々な意味で真っ直ぐな少年ハインが自らで手近な指針を定めさせる事が出来れば良いでしょう。

●ハイン・ザルバート
フィンランドにある小さな山村出身の少年、15歳。
とある事件で憧れだった能力者と触れ合い、彼らの活躍を目の当たりにして暫くしてから唐突に能力者として覚醒し、セフィアラと出会った。
性格は責任感が強く曲がった事が嫌い。どちらかと言うと単純で単細胞だが頑固な一面もあり、今回の事態になった。
先輩エージェントである皆さんの話には興味津々、どんな話でもちゃんと聞くが自分も曲げません。

●セフィアラ
本来いた世界では大海賊だったと自称する女性、見た目二十代後半。
彼女がいた世界では圧倒的なカリスマを誇りながら自らも前線で巨大な戦斧を豪快に振るい、並ぶ敵なしの大海賊団を率いていたと言う話だけでどうして海賊になったか等の詳細については語られていない。
どちらかと言うと豪放で竹を割った様な性格だがその実、情に深い側面もある。
今回、先輩エージェントである皆さんの話にはしっかり耳を傾けるもひたすら話を聞くだけ等、退屈なことが嫌いだったりもする。

●その他
PCさんの設定等を自由にプレイングに書いて、二人へ話して貰って構いません。
但し、内容等によっては描写出来ない場合あります。申し訳ありませんがご承知おき下さい。

リプレイ

●その少年、真っ直ぐに迷う
 H.O.P.E.サンクトペテルブルク支部の一角にある、広い方に分類される会議室では何やらエージェント達が集まっていて。
「へいへーい! 恭也ちゃんよろろ~」
「うん? 千颯さんか……あぁ、こちらこそな」
『伊邪那美もよろしくでござるよ』
『白虎丸ちゃーん!』
 互いに顔を見知る、虎噛 千颯(aa0123)と、御神 恭也(aa0127)に、その英雄が、白虎丸(aa0123hero001)と、伊邪那美(aa0127hero001)も気さくに言葉を交わしていたが、ここに集ったその理由は新たに始まった年への挨拶ではなく若き新米エージェントと対話するための集いで。
「へぇ、結構集まりましたねぇー」
「ここにいる皆、エージェントなのか……!」
 そんな皆へ、自ら淹れた紅茶を配りながら驚きを露わに事の発端である受付嬢のお姉さんに頷きを返せば、その若き新米エージェントがハイン・ザルバートは瞳を輝かせては忙しなく皆を見回すも。
『年の頃はバラバラだけど、どいつもそう言った雰囲気があるな……なぁハイン?』
「何だよ、俺だってもうエージェントだぞ!」
『はいはい』
 一方のセフィアラはと言えば彼と同じく皆を見回し率直な所感こそ漏らしながら半ば茶化す様にハインへそう声を掛けるから二人、薄らでも険悪な雰囲気を皆へ見せるがそれは次いで響いた声に和らぐ。
「んむ? いつぞやの依頼で会った少年じゃな」
「あっ。村を助けてくれた姉ちゃん!」
「わらわはカグヤ・アトラクアと言う、これを機に覚えて貰えれば幸いじゃ」
 その声の主、カグヤ・アトラクア(aa0535)のもので、唯一見知った存在の彼女を見ればハインが初めて笑みを浮かべるから、頷きを返して彼女も表情を緩め応じれば言葉を続けて。
「エージェントとしての心構えなんて簡単なモノじゃよ」
「あ、始めちゃいます? じゃあ始めましょう!」
 早速と本題を切り出そうとしたそれを聞いたから受付嬢。掌を叩き合わせては音頭を取り始めるなら皆もそれに従う様、手近な椅子へと腰を掛けるのを見て声を発するハイン。
「……んー、先輩の皆。よろしくお願いします!」
 一同の中で一番に若い事もあるとは言え、礼儀も一応弁えているから彼だけは立ったままで皆へ頭を垂れて。
「俺のは余り参考になるとは思えないのだがな」
「先輩と言われるほど仕事熱心じゃないんだけどね」
『でもこう、純粋な子を見ると心が洗われるね~』
『まあ同じ駆け出し同士、何か共感できる部分もあるんじゃねーの』
 恭也が苦笑と共に漏らした呟きへ、風見 春香(aa1191)も賛同する様にそう言葉を続けるが伊邪那美と、ロバート・ジェイムズ(aa1191hero001)にやんわり窘められたから二人、顔を見合わせて後、セフィアラも皆へ頭を垂れる。
『まぁ、ガラじゃないが俺からもよろしく頼む』
『……面白そうなコンビ、だよね?』
「それは失礼じゃない、か……?」
『あぁいや、言いたい事があれば遠慮なく言ってくれて構わないぜ。特にこいつにはな』
 そんな新米エージェントの反応を目の当たり、フローラ メルクリィ(aa0118hero001)の純粋に響いた疑問に、黄昏ひりょ(aa0118)は若干だけ狼狽を露わに彼女を窘めセフィアラを見るも、当の彼女はと言えば二人のそんな様子も楽しげに見つめながらからりと応じ、改めて皆を見回してはハインの肩を叩くなら。
「でもさ、皆だってそうだろ! 世界を守ってるんだから!」
 やはりその言い方が癪に障るなら叫ぶ少年を目の当たりに、天城 稜(aa0314)と、リリア フォーゲル(aa0314hero001)の二人は密かに言葉を交わす。
「……ふうん? 世界を守りたい……ね。純粋にそう言える子かぁ、良い子だね?」
『あら? 眩しく感じますか? 貴方らしくも無いですね?』
「いやいや、此れでも守りたい物はあるんだよ?」
 どこか茶化す様に響く自身の英雄の言葉に苦笑いを浮かべると同時、柚葉はハインへ柔らかい声音を響かせた。
「まぁ椅子に座って、お話しようか?」
「あ、はいっ」

●それぞれの生い立ち、成り立ち
 場の雰囲気は和やかに、それぞれ椅子に座っては経験皆無のエージェントと対する。
「じゃあとりあえずはー……ハイン君より先ず皆の話から聞いてみましょうかもぐもぐ。はい、柚葉さん」
 も先ずその音頭を取るのは受付嬢のお姉さん。春香が持参したミルク粥のパイのご相伴に漏れなく預かりながらそう告げ、蒼咲柚葉(aa1961)とシュヴァリエ(aa1961hero001)の方へ次いで視線を投げると名指しされた彼女、狼狽も露わにおろおろと。
「はわわ……どうしてたいした経験もしてない私が語る事に……」
『あら、たいした経験してるじゃない。大規模作戦でグリムローゼにザックリ行かれるなんてすごい経験だと思うけど』
 その仕草といい見た目といい、至極普通にも見える彼女にしかしシュヴァリエは落ち着く様、苦笑を口端にだけ滲ませながらそう声を掛けるとハイン。
「ん、グリムローゼ……ってこの前の?」
「そう言う話は知っているんだね~。うん、いい心がけだと思うよ?」
『情報収集も積極的で、助かるって言えば助かるんだけどねぇ……』
「まぁまぁ」
 一つの疑問を挟むとそれに頷いたのは千颯、うんうんと頷きを返すならそれにはセフィアラも賛同の言葉こそ返すも、次いで嘆息を漏らしたからハインが何か言う前に受付嬢が柚葉へ一瞥を送るから察して彼女。
「私が語れる事なんてなぁ。私も成り行きでエージェントになってたし……あ、でもお父さんとお母さんに憧れて頑張ってるって言うのは良いかな?」
「へー、父さん母さんもエージェントなんだ」
「そうですよ。でも、世界中を飛び回っているから家には殆どいないですけどね」
「じゃあさ、どうやってシュヴァリエ……さんと知り合ったんだ」
『まぁ、偶然ですね。話すには長いけど……勘違いと勢いで、ですよね?』
 顎に人差し指を当て思案しながらも言葉を継ぐのには間は置かなければ、殊更に瞳を輝かせて見つめてくるハインの様子にどこか照れ臭さを覚えながらも応じるとまた彼から響いた疑問には今度、シュヴァリエが端的に答えるがただそれだけでも思い出すだけで恥ずかしい事案なのか、頬を朱に染めて俯く柚葉。
「能力者になった切っ掛けか……」
 それを見て次いで口を開いたのは恭也、久しく口を開いたのはそもそも無口なだけで決して不愛想と言う訳ではなく、だから淡々した調子でも言葉を紡いでいく。
「俺の場合、家業の手伝いである人物の護衛をしている際に、愚神の騒動に巻き込まれてな。避難中に伊邪那美と出会い、安全圏まで脱出する為に契約を行った」
『懐かしいね~。まあ、出会い頭に小太刀を行き成り突き付けて来るしボクの話を信用しなかったけどね』
「何をしても通じない相手と出会ってから、気配も無く現れた幼女。普通に考えれば敵だと認識する物だ。有無を言わさずに斬り付けなかっただけ有情だ」
『ははっ、それは違いない!』
『ひっどーい!』
 だが果たして天井を二つの黒き瞳で見上げながら語ったその話、英雄伊邪那美との邂逅は意外なものだったから、笑い声を弾けさせるセフィアラ共々噛みつく彼女。
「……意外と英雄との出会いとか誓約とかってそんなものなの?」
「うーん、結構多いのかもね?」
 そこまで話を聞いて、偶然ではあるが立て続けに似通った英雄との邂逅譚を聞いてハインが尋ねるから、首を傾げながらも稜が応じると果たして先の問い掛けから何事かに気付いたから次いで問いを投げたのは白虎丸。
『そう言えば……ハイン殿とセフィアラ殿はどうして契約するに至ったでござる?』
 精巧な白き虎の被り物で顔を隠す、一風変わった半獣半人の英雄の問いに果たして答えたのはセフィアラだった。
『んー……現界したらこいつが目の前にいて、直後に誓約せがまれた』
『あぁ、やっぱりそうだったんですね?』
『残念な事だけどな』
「残念って言うなよ!」
 その彼女の口から紡がれた答えに、白虎丸と同じく途中で薄々気付いたからリリアが穏やかな笑みと共にそう零せば、肩を竦める海賊英雄にハインは牙を剥くもまた口を開いたのはリリア。
『でも……それだけで契約するって言うセフィアラさんも』
『来たばかりで当てもなかったしなぁ』
 突っかかってくる主をリーチの差で押さえながらセフィアラにだけ聞こえる様に発したそれへ彼女は頬を掻きながら端的に応じるだけ。
「そう言えば俺は訪れた先でフローラと出会ったんだよな?」
 とそんな会話と衝突を目の当たり、ふと思い出したかのように口を開いたのはひりょ。
「その街で『人の傷を癒す不思議な力を持つ人物がいる』って噂を聞いたからなのだけど……でも当時、フローラは誰かと誓約していたわけじゃなくて。だから俺が街へ辿り着いた頃には存在自体がもう消えかかっていたんだ、無理して力を行使してたんだろうね」
 話の流れに合わせ、自身が英雄であるフローラとの出会いについて思い出しながら話し出せば、今までと違ったその話にハインはセフィアラそっちのけで彼の前へと椅子を移動させては座ると笑いながら二人、話を続ける。
「お互いに誰かを癒したい・力になりたいって思いが強かった。そんな時に訪れた街ではぐれ従魔による騒ぎが起こって……その時に俺は力が覚醒、フローラと誓約してこれをなんとか撃破に至った」
『共感する所があったから、きっと出来たんだよね?』
 そうして語られた話は物語じみていて、しかし根拠こそなくてもフローラが最後に添えた言葉が響けば皆を納得させる……能力者と英雄が結ばれるのはそも、そう言うものなのかも知れない。
「……凄いなそれって!」
「俺はこの手に入れた力で、また皆の笑顔を守っていきたい……改めてそう思ったんだ」
 そんな二人の縁に感嘆と称賛からハインが笑みを零すからひりょも釣られ笑みを浮かべながら頷き、掌を握り締めて呟けばフローラも蒼き双眸の端を緩めたその時。
「うんうん、いい話だー……それじゃあ次のステップに行ってみましょうか?」
 ここで久しく口を挟む受付嬢のお姉さん、一息の間を置いて誰も割り込んでこない事に頷くと主題を変えようと皆へ促すのだった。

●成すべき事、成るべき形
 話はそれから、そもそもエージェントになるに至ったその動機へ移行する。
「エージェントになったのは、自分の力が何処まで行くのかを知りたかったからだな。才を多少は持っていたらしく、負ける事が少なく慢心していた当時の俺には伊邪那美の力が無くては手も足も出ない愚神は衝撃だった」
 その語り出しは恭也から。先の対話でもそうだったが話し出せば饒舌になるのか、それともハインに思うところがあるのかはともかく、つらつらと言葉を紡いでその動機を語る。
「だが、同時に喜びも感じた。人を容易く害する事が出来る自分を化け物と思っていたが、そんな自分を容易く害せる愚神を前にして自分が只の人間だと感じられたからな。そんな俺が、愚神相手に何処まで喰い付けるか知りたいが為と言うのが大きな理由だな」
「かっこいいな……!」
 慢心はなくしかしそれでも力の届かない異形。ならば力を手にした以上、試したいと言う彼の素直なその話、その欲求にハインは考えた事もなかったから殊更に純粋に尊敬の念を向けるも、しかし彼よりも頭三つはゆうに低い英雄は大きな赤い瞳をハインへ向けて水を差す。
『でも余り真に受けちゃだめだよ。自分を戦闘狂みたいに言ってるけど、裏じゃ料理とか御菓子なんか作ってるんだからね』
「誰が作らせているんだ……」
『お前ら、面白いな』
 果たしてそれには呻くのが精一杯な恭也の様子はしかし楽しげにも見えたから、もう何本空けたか空になったビールの瓶を弄びながらセフィアラは混ぜっ返し。
「私はそうね……趣味と実益、そのふたつを満たせるからエージェントをやってる」
「えぇと、春香さんはルポライターもやっているんでしたっけ?」
 やんやとそちらの話が盛り上がる一方。笑みを浮かべたまま次の主導権を握ったのは春香で先の二人を気にしながらもハインが彼女の方へ向くなら響く、受付嬢の問いに頷き返して話し出す。
「私はヴィランや愚神、従魔だって写真にするよ。ただ残念ながら、連中とは大切なモノの基準が合わなくてね。例えばフィンランドの森と湖、もう何度か撮りに行ったけど……アレを黒い汚泥の世界に変えられるのは、とても困るんだ」
「それって許せないな!」
 新緑の髪を揺らし、茶の瞳を瞬かせながら紡がれたその話……価値観の相違は当然とは言え、それ故に生じている自然への影響を初めて聞かされたからハインとしてもそれは真っ直ぐに怒りも露わにするから頷く春香を見て、今度はセフィアラ。
『良く分かんねぇけど、結構忙しくないのかそれって?』
『東に西に忙しい契約者だがまぁ、退屈はしねーしなあ』
 海で生きていた彼女としても聞き逃せない話ではありながら、それよりも現実的な問い掛けを響かせるなら、それに応じたのはロバートで肩を竦めながらも果たして紡がれたその答えはウィンクも伴っていたから、納得の笑みだけ海賊が返すと次いで響いたのはカグヤの声。
「エージェントとしての心構えなんて簡単なモノじゃ――私利私欲で生きよ」
「ふぇ?」
「悪を倒す正義に生きたい。誰かを守る為に。地位や名誉を得る。戦闘による興奮や報酬が目当て……そのどれもが己の為じゃ。世界に尽くす聖人のような無私や、感情無く機械的に依頼達成を目指す者なぞを誰も憧れたりはせん」
 その切り口が余りに唐突で、意外だったから思わず間の抜けた声をあげる少年にニッと笑みを浮かべると尚も話を続ける彼女。
「エージェントとして、正義の味方として振る舞いたいのであれば、人の心を忘れずに生きるのじゃ……じゃからな、世界を守りたいという欲望があるのなら好きにやるがよい。その心が輝きを失わないのなら、誰もがその背を押して手伝ってくれるはずじゃ。わらわも含めてな。つまりは一人で何かを成そうとせず、即ち仲間を作って協力する為の心構えじゃ」
「うんうん……!」
 そしてそこまでを話し終えて彼女は漸くセフィアラの視線に気付く、『余り煽るなよ……』と。
 だがそれにはちらと彼女と視線を合わせ先とは違う質の笑みを湛え応じるだけで、カグヤはハインの首肯に同じく頷きを返せば最後を締め括る。
「まぁ、やりたい事は全てやれという放任主義じゃなわらわは」
 そこまでを話し終え、優雅に紅茶を啜り始めるカグヤへも輝く瞳を向けて……しかしセフィアラは未だ腑に落ちない状況を口にする。
『悪かない話だけどさ、もうちょっと難しい話しようぜ?』
「えー。皆の話、凄いためになってるんだけど!」
 まだ現界してまもない彼女としても皆の話、その考え方はどれにも同意出来また納得もするからこそ、肝心要の話に進んでもらいたいのだろう。とも考えれば、今更ではあるが短気な部類なのかもしれない。
 閑話休題。
「そうだね……ハインさん、自分がエージェントをやる上でどうしても譲れない想いが有るか? それが正義や人道、仲間の生命の危機に対して妥協出来るのか?」
 そんな彼女の意を汲んでか、ハインへその問い掛けを稜が発するなら少年の答えは。
「それは……」
『まぁ、そうだよな。まだお前は世界を知らない。まぁこの世界に関して言うなら俺もだけど……でも別に恥じる必要は別にないぞ。お前がエージェントになるって言うならもっと学んで、考えなきゃあいけない』
「………」
 言葉を捻り出そうと口を開き、しかし沈黙だけ紡ぐなら頷いてセフィアラがそう諭し掛けると沈黙を重ねる彼……つまり彼女はそれが言いたかった。けれど二人で延々と話しているだけではそれが届かなくて。発せられなくて。
 だから、皆の陰に立つ受付嬢はこの場を設けエージェントの皆と会話させて正解だったと密かに笑っている事には誰も気付かない。
「じゃあ改めて~……ハインちゃんは何をしたいの~? 漠然としたものじゃなくて確りとしたのを教えてな~」
「とりあえずは小さな事でもいいから、何か目標が持てると頑張っていけるかもしれないね。ハインさんも何かないかな?」
「……うーん」
 場の雰囲気は変わらないまま、しかし話の流れは変わるなら口調こそ最初から変わらぬまま軽やかでも問い掛けの芯は真面目に千颯が尋ね、ひりょがその問いをもう少し噛み砕いてハードルの高さも下げるが無論、その問いにも少年の口から解を発する事は出来ない。
「ハインちゃん忘れないでな~。リンカーはヒーローには成れるけどスーパーマンには成れないんだぜ」
 それは予想の範疇だから千颯。温和な表情を更に緩めながら一つ、例え話を紡いではどんなに崇高な考えを持っていても人である以上救えるのはその両手分だけ。そこを履き違えたらいけないとも添え、そして話を続ける。
「だから自分がリンカーとしてある為に揺るがない絶対的なものが必要なんだぜ! 俺ちゃん達で言うなら護るって事だ! 俺ちゃんは子供を、白虎ちゃんは人を護る為なら自分がどうなっても構わないと思ってる」
 それが彼とその英雄の骨子、信念だからいささかの揺らぎも言葉の端に見せず強く言い切ると、息を漏らして後に先までのやんわりした口調に戻れば。
「……ま、此処まで思いをいきなり持てって言っても難しいと思うからまずは世界を救う為に何が出来るかから考えてみたらいいんじゃないかなー。それこそさっき、ひりょちゃんが言った小さな事からでもね~……って俺ちゃんちょっと説教臭かったかな?」
『……千颯がまともに先輩らしい事をしている……でござる』
「白虎ちゃんそれどういう意味?」
『何を怒るか。俺は褒めている……でござる』
「褒められてる気がしない……」
 そう話を占めては自嘲の笑みを浮かべると果たして傍らでそれを見守っていた白虎丸はと言えば、唖然とした調子でそれだけ言うのが精一杯でその意を尋ねる千颯に表情は被り物故に変わらないまま、取って付けたござる口調で真面目にそう応じるから項垂れる主に首を傾げる英雄のそんなやり取りには皆、既視感こそ覚えながらも自然と表情を緩ませて。
『千颯が殆ど俺の言いたい事を言ってくれたが、俺からも一つあるでござる。猪突猛進、大変結構でござるが、もう少し周りを見る目を養うといいでござる』
「うん、そうなんだろうな……」
 けれどそんな中でも白虎丸、ふと思い出したから自身の口からもハインへ伝えたい言葉を想いを端的に伝え頷いて……まだ何も分からなくて、分からないからこそそれも真っ直ぐに受け止めるから半人前のエージェントは頷き項垂れる。
 少年の思考は漸く自身の立場に基づき始まり、それ故に今までの直情な自らを恥じているからだろう、先とは打って変わり消沈としたもので。
「でもハイン君の世界を守るって目標、凄く素敵だと思いますよ?」
「……だよな!」
「昔はどうでもいいって思ってたけど今は私も大切な人がいるこの世界を守りたいです……!」
 しかしそれも次いで響いた柚葉の、励ます様なその言葉を耳にすれば切り替えが早い所を皆に披露し早々と立ち直るから、そんな彼へ笑い掛けながら同意を示す彼女。
「大規模作戦でグリムローゼと戦ってた時……私はみんなを助けたいと言う思いだけで動いてました。結果、私はグリムローゼの一撃でやられてしまいました。だから私の経験で一つだけ忠告させて下さい。自分の身を捨てて守るのは自己満足であって守られた方は悲しい思いしか残らないんです。自分が居なくなったら悲しむ人が居るから……だから私はもう無茶はしないって約束しています」
『うん、そうだね。それは間違いなく、大事なことだよ』
 次いでその可憐な口元から紡がれた言葉は自らが経験して得た言葉だから、それも間違いなく受け取ってハインは頷き……そして一つ、矛盾に気付く。
「……どっちが大事なんだろ?」
 千颯と柚葉が言ったその根本は確かに食い違っていて、しかし彼が発したその疑問にはもう誰も何も言わなかった……どれだけ拙くても自ら考え歩き出した以上、その答えを見付けるのもまた自身なのだから。

●これからの導
「そう言えば村はあれから変わりないじゃろうか?」
「うん、特には何も。皆平和に過ごしてるよ」
 それからもハインにセフィアラを交えた、皆の話は続く。
「もうこんな時間ですね……あんまり参考になるような話は出来なかったなぁ」
 外はもう既に暗く、時計の針も夜の八時を回っている事に漸く柚葉が気付けばハインに歩み寄って笑いかけ。
「もし何かあったら頼って下さいね。私も少し位、先輩として誇られる様な人にならなきゃね! だから君の夢、応援するよ! セフィアラさんと一緒に頑張ってね!」
「……ありがとう!」
 そして自身も得ることがあったからこそ激励を贈れば破顔して応じる彼の傍ら。
『セフィアラさん。貴女はきっと……彼が眩しいだけですよね?』
『……どうだろうね』
 微かにだけ笑みを張り付けているセフィアラを見るから、ぼんやりとした佇まいで皆を見守っていたリリアが彼女の核心を突けば、肩で息を漏らして彼女は最後まで素っ気なく答える。
 ハインもそうだがセフィアラもどうやら結構に頑固な部類だと今までの会話で伺い知れ、それがおかしいからリリアは静かに笑うだけ。
「君は、世界を守りたいと言うが……それには君の譲れない矜持を捨てなければいけない時が来る。君はそれが出来るのかな?」
「難しい事はまだ分かんない。けど……でも、その時に出来る精一杯の事はしたい」
 ともあれ一時の別れ。最後に稜がハインへ一つの問いを投げ掛ければ、今度はそれへ素直に分からないと言いながらも自身の小さな核の一端を覗かせるなら頷いて彼。
「僕たちの話を聞いてもらって君の中の譲れない矜持や目標を考えて欲しかったんだ……ようこそ、H.O.P.Eへ。君も此れでエージェントだ!」
「うん。でも、君ら2人でエージェントだ。それを忘れずにお互いがやりがいのある方法で、結果で世界が守られれば良いね」
 改めて、この対話の意図を明らかにするなら頷くハインへ春香も首肯しながらしかしもう一言だけ添えれば少年は笑い、応じる。
「そうだな、頑張るよ……!」
『セフィアラは世界の海を股にかけたかもしれねーが、少年の航海はまだ始まったばかりってことだな。もう少し気長に見てやるんだな、何か感じる所があったから誓約したんだろ?』
『……まぁそう言う事にしておくさ』
 それは皆と話を始めた時とは違う質の明るいもので、それはロバートも感じたからセフィアラへも変化を促そうと言葉を投げるも彼女は頑ななままで、だがそれは悪いものでないだろうと判断するからそれ以上は何も言わずグラスに残った僅かなビールを飲み干すのだった。

「……そうは問屋が卸さないんですけどまぁとりあえず、次のステップの事を考えてもよさそうですかねー」

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
  • しあわせの白
    蒼咲柚葉aa1961

重体一覧

参加者

  • ほつれた愛と絆の結び手
    黄昏ひりょaa0118
    人間|18才|男性|回避
  • 闇に光の道標を
    フローラ メルクリィaa0118hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 惑いの蒼
    天城 稜aa0314
    人間|20才|男性|防御
  • 癒やしの翠
    リリア フォーゲルaa0314hero001
    英雄|20才|女性|バト
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命



  • エージェント
    風見 春香aa1191
    人間|20才|女性|命中
  • エージェント
    ロバート・ジェイムズaa1191hero001
    英雄|35才|男性|ジャ
  • しあわせの白
    蒼咲柚葉aa1961
    人間|19才|女性|回避
  • エージェント
    シュヴァリエaa1961hero001
    英雄|15才|女性|バト
  • グロリア社名誉社員
    防人 正護aa2336
    人間|20才|男性|回避
  • 家を護る狐
    古賀 菖蒲(旧姓:サキモリaa2336hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
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