本部

【黒聖夜】サンタ・ブラックの侵略

星くもゆき

形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~15人
英雄
10人 / 0~15人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2016/01/07 20:00

掲示板

オープニング

●騒動の予感
 聖夜が近づく、12月。
 各国の街がクリスマスムード一色に包まれる中、多くの愚神が不穏な動きを見せていた。
 あるモノは西、あるモノは東で。怪しき愚神たちは密かな企みを抱いて待っていたのだ。
 
 人類世界にとって大切な、不可欠のイベント――クリスマスウィークを。

 ほどなくして、H.O.P.E.所属のエージェントらにオペレーターからの連絡が入る。

「サンタが現れました」

 エージェントらは首をかしげる。

「失礼、何のことかわかりませんね。各地でサンタ姿の愚神が目撃されています。何が起きているのかは把握できておりませんが、エージェントの皆さんは心しておいて下さい。なお、悪事を働くと思われるこれらのサンタをH.O.P.E.では以後『黒サンタ』と呼称することになりました」


●ロンドンの危機

 H.O.P.E.のロンドン支部は大英図書館の地下に存在し、公然の秘密と化しているその地下支部はH.O.P.E.の五大支部に数えられている。
 異世界の脅威に対する防衛拠点、大英図書館はいわばヨーロッパの要衝である。
 だが『黒サンタ』の騒動のせいで、ロンドン支部は各所へ戦力を割かざるをえなくなっていた。

 12月25日、夜。祝祭に賑わうロンドン。
 休館日の大英図書館を2人の愚神が訪れる。傍らには、黒い体毛に覆われたトナカイが4頭。ロックされた正面玄関の扉をこともなげに破壊し、吹き抜けの大きなエントランスホールへ。
 侵入者の存在を知らせる警報がけたたましく鳴り響くが、2人はお構いなしに内部を進んで行く。
「ようやっと我輩の出番じゃわい! わかってはおったが、機を待つというのもしんどいのぅ!」
 肩で風を切って悠々と歩く大男。空気を震わす野太い声が、陽気に弾ける。
 豪放なノリで発言をしたその男は、年頃は40~50代といったところだろう。その体躯はすさまじく、背丈は2メートルを超え、腹回りのたっぷりとした肉のおかげで横幅も1メートル近い。サンタクロースにも負けない長い黒ひげを垂らし、黒地に白い縁取りのサンタ服を着ている。
「驚きね。あんたの作戦が上手く運ぶなんて。ここって人手不足なのかしら」
 大男と並んで歩く、見目麗しい女がつぶやく。
 男に比べて若々しく、白く艶やかな長髪を持ち、真っ白な肌はどこか冷たさを感じさせる。白地に黒い縁取りの服装は、恐らくサンタを模したものだろう。きわどいミニスカートから美しい脚線がお目見えする。
「でもシュヴァルツ、あんたもひどいわよね。女のサンタというものはミニスカートを履くものだ、とか吹き込んで。信じちゃってたコが結構いたわよ?」
 女は自分のスカートの裾をつまみながら男の顔を見上げる。そう言いながらも自身も短いスカートを履いていることから、この女自体は特に服装に不満はないようだ。
「ブラックだ! 我輩はサンタ・ブラック! 何度もそう言っとるだろうが! そして貴様は――」
 咆哮とも呼べる大音量。呼び名にはこだわっているらしい。サンタ・ブラックなる男の大声は尋常なものではなく、それが発した衝撃で館内の床に亀裂が走っていく。
「サンタ・ホワイトね。わかったからあんまりがなり立てないでくれる?」
 ブラックが飛び散らせる唾を退いて避けながら、サンタ・ホワイトなる女は亀裂を指して落ち着くよう合図を示す。
 はっと気づいたようにブラックは平静を取り戻し、軽く咳払いをする。
「わかれば良いのだホワイトよ。それになぁ、我輩は確かにミニスカを履くものだと言った。だがそれがこの世界の一般常識だなどとは一言も言っとらんわ! 我輩の常識よ! しかしのぅ、奴らも説明を求めんかったし、そのあたりを取り違えてミニスカを履く者どもが出ようが、一切我輩のせいではないわ! がっはっは!」
 悪びれもせず、胸を張って豪快に笑うブラック。ホワイトは呆れたというように大きく溜め息を吐く。
「……やるんならさっさとやったらどう? そのために来たんでしょ?」
 事を進めろ、とホワイトが促す。一体を何をやるというのか、ブラックの顔が歪む。
「言われずとも。そのために奴らを動かしたのだからな」
 目を見開き、口角が上がり、牙のような歯を剥き出しにする。

 笑っている。不気味ともとれる、満面の笑顔だ。

 片足を上げ、四股の要領で思い切り踏みこむ。先刻の叫びで入った床の亀裂がさらに深まり、大きく割れて崩落した。
 大英図書館の下へ。地下へ。つまり、H.O.P.E.のロンドン支部へ。

 愚神たちに抗する、人類の拠点へ。


 オペレーターは、手短にエージェントらに情報を伝える。
「緊急事態です。皆さんにはすぐにワープゲートを通って、愚神の襲撃を受けているロンドン支部に向かってもらいます。現在ロンドン支部内にはエージェントがおらず、このままでは支部の崩壊は免れません。防衛戦力を集める間、先発隊として敵の攻撃を食い止めて下さい」
 口頭での説明を終えると、オペレーターは敵のデータをエージェントの端末に送信した。
「防犯システムから送られた映像と音声です。この程度しか情報をお伝えできず……申し訳ありません。皆さんのご無事をお祈りします」
 面目なさそうな表情だが、彼女にできるのはここまでだった。

 逼迫した状況へ。劣勢の死地へ。エージェントたちは赴く。

 ただ覆すために。人類の希望の象徴は、屈するわけにはいかないのだから。

解説

*無謀な行動をとると相応の結果になります。

目標:
援軍到来まで、黒サンタからロンドン支部を防衛する。

敵:
以下PL情報

・サンタ・ブラックこと ケントゥリオ級愚神『シュヴァルツ』
自信にあふれ、自己の失敗の可能性を考えないところは弱みであり強み。
主に物理攻撃を行う。高防御。
大声をあげ、自分の位置から範囲25スクエアにいるエージェントにBS衝撃を付与することがある。
上記以外の攻撃をヒットさせた場合、対象にBS気絶(1)を付与する。

・サンタ・ホワイトこと ケントゥリオ級愚神『ブラン』
冷静で割り切った思考をする。自分が危険になるような行動はしない。
主に魔法攻撃を行う。高回避。
広範囲にBS翻弄(ホワイト)を付与する攻撃をしてくる。
積極的には攻勢に出ないが、向かってくる敵には上記以外の苛烈な攻撃を加える。

・黒トナカイ4体 デクリオ級従魔
物理攻撃と移動力が高く、戦場をかき乱す。
エージェントがいる、または隣接するスクエアでも通り抜けられる。

までPL情報

場所:
大英図書館地下のH.O.P.E.支部。
大英図書館1階のエントランスホールから地下1階の支部の広いスペースが戦場。
大穴が開いて1階と地下1階がつながっている。行き来可能。
サンタ・ブラックは支部の中枢へと侵攻しようとします。

状況:
ワープゲートでロンドン支部に到着、内部から迎え撃つ状況でスタートです。
事前のスキル使用は1度だけ可能です。
逃げ遅れた職員が少なからず存在しますが、敵の妨害を受けなければ避難は自主的に行えます。
ある程度時間が経つと、世界中の支部から援軍が送られてきます。
それまでロンドン支部を守りきれれば成功となります。

リプレイ

●ホールへ

 緊急招集されたエージェントたちはワープゲートを通りロンドン支部に到着。遠くに騒音のような野太い笑い声が聞こえる。

「支部を強襲するなんて随分強気に出たものね」
「実際陥落しかけてる以上、敵の着眼点は間違ってはいないな」
 マイヤ サーア(aa1445hero001)と迫間 央(aa1445)は難局を前にしながらも淡々と襲撃の感想を述べる。

「……本部への襲撃……一連のサンタ事件はこれが目的だったというのね」
 ひとり納得したような呟きを発するのは、何度か黒サンタを相手にしたことのある言峰 estrela(aa0526)だ。
「……手薄とはいえ支部を強襲するほどだ。それなりの相手だろう」
 傍らに立つキュベレー(aa0526hero001)がエストレーラに注意を促す。
「ええ、とにかく時間を稼いで支部の陥落を防ぐのよ。それと職員も誘導しなくちゃね」

 現状の対応策を考えていたエストレーラをよそ目に、骸 麟(aa1166)はホールへと伸びる通路の天井を眺めていた。
「何てこった、身を隠せそうなダクトとかがないぜ」
 ダクト等に潜んでの撹乱戦法を取る気でいた麟が嘆く。せっかく骸忍術を活かす好機だったというのに、と。
「なぁに、それしきは瑣末なこと。骸忍術をもってすれば身一つでも奇襲撹乱など容易いでござろう。むしろこの窮地、骸忍術の名を世に知らしめる絶好の機会でござるよ」
 師として諭す宍影(aa1166hero001)の言葉に、麟は気を取り直して「おう!」と応えた。

 エステル バルヴィノヴァ(aa1165)は戦闘以外のことを案じる。
「大英図書館は人類の英知の避難所。ここを愚神の好きにさせるわけにはいきません」
「そ、そうね。書棚の遠くに押し留められれば助かるわね」
 力強いエステルの言葉に、泥眼(aa1165hero001)は少しばかりたじろいでいる。

「今度はロンドンですよ、シドさん」
「支部まで乗り込んでくるとは図々しい……」
 軽い会話を交わし、北条 ゆら(aa0651)とシド(aa0651hero001)はすぐに共鳴状態に入った。
「早く片付けて後でロンドンを回らないかーゆら?」
 青い甲冑姿の男、ゆらの恋人である加賀谷 亮馬(aa0026)が声をかけてきたが一手遅かった。空気を読めとでも言うような冷たい視線がゆらから向けられる。正確にはゆらの中のシドから。
 亮馬の中に相方のEbony Knight(aa0026hero001)の溜息が聞こえてきたような気がする。

「とんだクリスマスプレゼントだね。行こうか、フローラ」
「せっかくの雲とのクリスマスを。ただでは帰さないわ。ふ、ふふふ」
「……あの、フローラさん?」
 何だか浮かれた話をしているのは流 雲(aa1555)とフローラ メイフィールド(aa1555hero001)である。

 浮かない顔で肩を落としている者が1人、天野 雅洋(aa1519)だ。
「はぁー……久しぶりのH.O.P.E.の仕事がこれか」
「確かに大変だけれど意義がある仕事ですよ、頑張りましょうアマノ」
 本職が忙しくしばらく任務をこなしていなかった天野の肩に、リュドミラ ロレンツィーニ(aa1519hero001)が優しく手を添える。

「おぬしには荷が重い仕事になりそうじゃな」
「だからといって、逃げ出したら橘の家名に傷がつくわ」
 飯綱比売命(aa1855hero001)に痛い指摘をされても橘 由香里(aa1855)は聞き入れない。だが荷が重いという点を否定できないのがつらいところだ。

「死守命令か? これぞ漢の仕事だ。腕が鳴るな、雁間」
「勘弁してくれ……急に召集されて気がつけばヤバそうな愚神2体の目の前じゃねえか。ボーナスちゃんと出るんだろうな」
 難局に嬉々として臨むマリオン(aa1168hero001)に対し、雁間 恭一(aa1168)は割に合わない仕事に愚痴を漏らしている。

 職員の誘導のために行動を別にしているエストレーラ以外の9名が、崩落したホールへ接近。ブラックとトナカイ4頭を補足。ホワイトの姿はない、どうやら地上にいるようだ。
 まずは敵戦力の分断。愚神たちを一所に集めるのは得策ではない。ブラック、ホワイト、トナカイに別個で対応できるようにエージェントらは動き出す。

●分断作戦

 全員で接敵してはそのまま混戦になってしまう。一行は一旦身を潜め、ブラックの隔離を図る。
 そのための囮を務めるのは由香里だ。
「ロンドンの警備もザルじゃなー」
「各地のサンタ騒ぎはこちらの戦力を分散させるためだったのね。私たちで食い止めるしかないわ」
「たった2体でこちらの拠点に強襲をかける相手じゃぞ。ろくに実戦経験のないおぬしに勝てる相手ではなかろう?」
「勝てなくても……やるしかないじゃない」
 ブラックに聞こえるように、やり取りを行う。自らが無力な獲物であると示し、気を向けさせ、自分たちが通ってきた通路の奥に誘い込む算段だ。
「ほーう、可愛らしい嬢ちゃんではないか!」
 ひとまずは成功。だが問題はここから。つかず離れず、敵の意識を向けさせ続けなければならない。殴り合いではないとはいえ敵の暴威にさらされ続けるのだ。
 ブラックが来る。1歩1歩、速度を上げて。
 由香里はなけなしの秘薬を投じ、牽制のための弓を構え、命がけの囮に挑む。

 ブラックが由香里に釣られたのを見届け、トナカイ掃討班が行動を開始。
「そろそろ行くか」
(「無茶、しないでね」)
 敵の誘引が済むまで、リンクコントロールで共鳴深度を上げていた雲がホールに躍り出る。
 動き回りそうなトナカイたちが散る前に、1頭でも多くの敵の気を引く。現状ではホワイトの注意まで引いてしまう可能性もあるがこれ以上は待っていられない。敵に散開されては厄介なことになる。
 ホワイトは仲間が何とか止めてくれることを信じ、雲はトナカイに突っ込んでライヴスを放散。踏み込んだ際に2頭のトナカイに離れられてしまったが、残り2頭を引きつけることは出来た。
 猛々しく頭を振り、黒いトナカイが雲に向けて突進してくる。
「悪いがここから先は通行止めだ。守るため、退く気はない」
(「そうやって無茶するんだから……」)
 フローラの呆れ顔が目に浮かぶがそれでも、雲は己がすべきことをすると決めている。
「よし、先手必勝! 今のうちに打ち込む!」
 曲刀を振るって、亮馬の怒涛乱舞が2頭のトナカイを斬り裂く。深手を負うトナカイだが、それでも動きを止める気配はない。
「やっぱり一撃で倒れてはくれないか」
「しかし敵は弱った。一気に攻めるぞ」
 共鳴状態で淡々と話すゆらが、亮馬と並び立つ。
「ああ。そしてロンドンでデート――」
 言い終わらぬうちにゆらは、雲と交戦しているトナカイを討ちに行く。
「あ、あれ? ゆらーっ!?」
 素っ気ない態度に困惑しながらも、亮馬はゆらの後を追う。
 一連の動きを確認した雁間は、ホールから通路に続く場所に出て、雲が引きつけ切れなかったトナカイを相手取る。
(「おい! 目の前に主敵がいるのになぜ雑魚を狙う!」)
 目指すはブラック、と雁間の精神内でマリオンが訴えかける。
「すばしっこいのに好きにされたらどうしようもねえだろ! 順を考えろよ!」
 マリオンに構わず、雁間は自身に向かってくるトナカイに向けてライヴスショットを撃ち出す。
 敵が一直線に突っ込んできていたこともあり、初撃は2頭を捉える上々の立ち上がりだ。
「こいつは幸先がいい」
 挨拶代わりの攻撃を済ませると、雁間はブラックが進んでいった通路を塞ぐように立つ。
「奥には行かせねえぜ。なんせ俺の大事なボーナスが懸かってるからな」
「ボーナス、なんて出るんすかねー!」
 雁間に続いて天野はブルームフレアを放ってトナカイの一斉攻撃を試みたが、警戒したトナカイが縦横に動き回るようになっており、2頭を巻き込むことはできなかった。
「闇雲に撃ってもやっぱダメっすね」

「あら、何か出てきたのね」
 図書館ホールから見物していたホワイトが階下の状況に気づいた。
「少しは手伝ってやろうかしら」
 ちょっかいを出そうかと手を向けた瞬間、下から何かの気配。後ずさるホワイトの前髪を、高速の斬撃が切り落とす。
「おっと、お前の相手はこの俺だ……!」
 ホールを隔てる大穴から跳び上がってきたのは太刀を携えた央だ。
「シアンもそうだったが……お前たち愚神がなぜサンタやクリスマスにこだわる?」
 以前関わった黒サンタの名前を持ち出し、央は敵の注意を自分に向けさせようとする。
「私に聞かれても困るわ。考えたのは私じゃないもの」
 ホワイトは切れた前髪を弄りながら答える。言葉の真偽はわからないが、取り合うつもりはないらしい。
 そこにもう1人、図書館側へ上ってくる影。エステルだ。大穴を挟んで、ホワイトと対峙する。
「もうクリスマスは終わりです。子供たちに夢を与えるようには見えないのでお引き取り頂けませんか?」
 水晶の扇をホワイトに向け、エステルが撤退勧告を行う。
「高見の見物と思っていたけれど、こっちにも来ちゃうってわけね」
 呆れたような笑いを漏らすホワイト。退く意思はなさそうだ。
 ならばとエステルも決意する。入口側にいるホワイトを書棚に近づけさせはしない。人類が積み上げてきたものをこの愚神に踏みにじらせはしない。

●食い止めろ

 ブラックを引き込む通路奥では、避難誘導を終えたエストレーラが敵への対応を考えている。
(相手の能力は不明。下手に手を出すよりもなるべく対話で時間を稼ぎたいわね)
 視界の先に後退する由香里の姿、続けて追い立てるブラックの姿を確認。両者の間に割って入る。
「いらっしゃい? 貴方がサンタ事件の首謀者かしら?」
 歓迎するように両手を拡げるエストレーラ。由香里はブラックから距離を取り様子を見る。
「これはまた、ちんまいのが出よったのぅ。嬢ちゃん2人で我輩を止めようと言うのか?」
 腹を出して仰け反り、ブラックは笑い飛ばす。
「まさか? ワタシたち2人でどうこうできるだなんて思っていないわ」
 至って冷静に、エストレーラは答える。何を言われようと今は会話で時間を稼ぐのが賢明だ。
「シアンとかピンクとかふざけた連中と思っていたけれど、まさかここを狙うための陽動だったなんてね?」
「がっはっは! 単純じゃがうまくいくもんじゃろう」
「貴方の目的は何? 支部を襲撃したところでH.O.P.E.が消えるわけではないわ」
「なぁにちょっとした遊び心よ。人間どもがクリスマスとやらに浮かれておるのでな、我輩も混ぜてもらおうと思ったのよ」
「何それ? つまりは愉快犯ってわけ……?」
 ブラックは笑うばかりで、それ以上の答えを言わない。
「まぁもう話していても仕方ないじゃろう? どうせ死ぬのだからな」
 打って変わって臨戦態勢に入るブラック。更なる引き延ばしは無理と判断したエストレーラも身構える。
 だが、一瞬だった。
 地鳴りのような咆哮。音というより衝撃波に近いもの。エストレーラと由香里は、ブラックの大口から放たれるそれに頭蓋を揺らされるような感覚を覚える。
「きゃあっ!? 何この声? これがこの愚神のスキルということね」
(「……厄介だな。音を防ぐ手段は限られている」)
 精神内でキュベレーが応答する。エストレーラも愚神の挙動に細心の注意を払っていたが、声を出すという一瞬の動作には反応することができなかった。
 追撃、ブラックの剛腕が振り回される。エストレーラは視界がよく定まらない状態であったが、卓抜した身のこなしで辛うじて回避する。
 数秒もすれば混濁した視界が元に戻る。
「全く面倒くさい相手……でもやるしかないわね、橘さん?」
 同じく状態異常から復帰した由香里が頷く。
 どこまで2人で持たせられるか。エストレーラはブラックの懐に飛び込む。当然ブラックの拳が彼女を狙うが、素早い動きで翻弄し、攻撃を避けていく。
(とにかく今は回避優先、数が揃うまでは我慢ね)
 業を煮やしたブラックが再度の咆哮。轟音が耳をつんざく。叫ぶ瞬間を狙って口内へ攻撃しようと考えていたが、一瞬の動作にはやはり対応できない。
 丸太のような腕で払われ、壁に叩きつけられる。鈍痛。呼吸がままならない。
 濁った視界にその様子を見ていた由香里は、次に、自身に向かってくるブラックの姿を見る。
 頬をはたき、必死に視界を取り戻す。視線を上げると、剛腕。
 間一髪、身を捩って回避する。そして長槍を取り出し、構え、眼前の野獣を見据える。
 実力も経験も足りないことはわかっている。
 だが、それでも、食い止めろ。こいつを討つことはできなくとも、仲間が動ける時間を、H.O.P.E.が戦力を揃える時間を。
 その時間はやがて、この愚神を討つ刃となるのだから。

●掃討

 ホールではトナカイ掃討班の戦闘が続いている。
「シド。とりあえずトナカイさんに乗るぞ」
 四方に走り回るトナカイを見ながら、ゆらが冗談混じりにシドに提案する。
(「やってる場合か。……いや、それもひとつの手ではある?」)
「ん? シドさん、いや……」
(「あのトナカイだ。乗れ、ゆら。そして亮馬の元へ」)
 シドが指し示すのは、雲が応戦しているトナカイ。背後から接近すれば乗れそうな気もする。
「りょ、りょーかい!」
 今更冗談とは言えず慌てて指示に従うゆら。そっと接近し、わずかに動きが鈍ったところでその背に着座!
「乗れた。乗れたぞシドさん!」
(「それでこそゆらだ、才能があるのかもしれん」)
 謎の熱い信頼により成り立った奇跡。振るい落とそうと暴れるトナカイを何とか御して、ゆらは亮馬の元へと敵を導いていく。
「さすがゆら! 愛してる! 後は任せろ!」
 トナカイに乗って駆けてくる愛しのゆらに気づき、亮馬は曲刀から大剣に持ち替える。
 トップギア――力を溜めて振りかぶる。真っ直ぐ縦に、亮馬の大剣がトナカイを斬りつける。
「これぞ愛の力! やっぱり何やっても俺たちなら――」
「まだ生きているぞ、さっさと動け!」
 またしても亮馬が言い切るのを待たずして、ゆらは手負いのトナカイを追って走り去ってしまう。キツい視線も浴びせられた気がする。
「うーん、これは……」
 何をしても亮馬は調子を狂わされっ放しである。
 他方では、雲が守るべき誓いで囮役として立ち回り、他の者の攻撃で着実にトナカイにダメージを与えつつあった。
「サンキューっすよ、流ちゃん」
 雲を追うトナカイ相手に、天野は易々とゴーストウィンドをヒットさせた。スキルによる弱体化でじりじりと敵を消耗させていく。
 時たま雲が引きつけ切れないトナカイが他の者を狙ってくるも、危険そうな攻撃は雁間が率先してカバーしていく。
(こんな頭の悪い奴らなら、背後を取るのも楽なもんだぜ)
 心のうちに呟き、崩落した天井の瓦礫で身を隠しながら、麟はトナカイの1頭1頭に奇襲を仕掛ける。接近しては一太刀、離れては一射。巧みな武器捌きでダメージを重ねていく。
 その時、群れから1頭が抜け出て通路へ駆けていった。抜かせないことを気にかけていた雁間と天野が共に迎撃を試みるが、あっという間に抜かれてしまった。
「クソッ……!」
「まずいっすね、向こうはただでさえキツそうだってのに」
 通路の向こうでは由香里たちがブラックを食い止めているはず。トナカイの妨害は止めなくてはならない。
「あれはオレに任せろ! ここのトナカイはおまえらに任せる!」
 麟はそう言うや否や、雁間と天野の横を走り抜けていく。猛然と進んで行くトナカイを追い、見る間に視界から消えていく。
「ボーナスを頼むぜ、忍者女」
「まだそれ言ってるんっすか?」
 麟に後事を託されたトナカイ班は愚神対応の加勢に向かうためにも、早急な処理を目指す。
 ゆらは猛進するトナカイの足元にサンタ捕縛用ネットを投げる。地に当たった瞬間に網が拡がり、トナカイの足をもつれさせ転倒させる。
「ナイスアイディアだ」
 ゆらの行動を見て、トナカイ2頭の攻撃を切り抜けている雲も捕縛ネットを幻想蝶から取り出し、敵とのすれ違いざま――地面に投げつけネットを作動。
「おっと悪いな。手が滑った」
 だがトナカイは転倒しない。もつれながらもバランスを取り、雲に突撃――するところを上方から降ってきたナイフが阻む。首の後ろにナイフを突き立てられたトナカイは悶えるように跳ね回る。
 雲がちらりと上階を見ると、続けてハングドマンを投射する央の姿。
 走っていたホール最後の1頭の足元に刺さるナイフ。柄の鋼線に足が引っかかり、投げ出されるように転げていくトナカイ。
「よし! 後は任せろ!」
 満を持して亮馬が大剣を振り下ろす。横倒れになったトナカイの首が両断される。まず1頭。
「助かったぜ迫間さん、これを片付けたらそっちに行く」
 雲の渾身のライヴスブロー、首にナイフを受けて地に伏していたトナカイにとどめを刺す。
「とりあえずここでの仕事は終いか」
 コンユンクシオでトナカイを葬って、雁間が一区切りついたことを確認する。

●黒を狩れ

 ブラックと交戦していた2名はかなり消耗していた。
「橘さん、大丈夫?」
「大丈夫……とは言えないでしょうね」
 槍を地に立て、由香里は何とか立っている状態だ。
「そう……って、あれ、何か来る……?」
 エストレーラは相対するブラックの向こう側から何かが駆けてくるのを見る。
 黒いトナカイ。猛進。こちらへ向かって。
「ちょっと、こっち来ちゃってるじゃない。何してるのよ向こうは……」
 掃討班への愚痴が漏れる。これはいよいよ危ないか。
 そんなことを考えていると、トナカイの背後にもう1つ、影を見る。
 接近してくるそれは――。
「そこまでだぜトナカイ、オレに背を向けて生きて帰れると思うな!」
 追随してきた麟、フェイルノートの射撃。放たれた一矢がトナカイの後ろ足を射る。
 間髪入れず、弧月を抜刀。逆手に持った太刀でトナカイの首を捉え、仕留める。更にその刃を首魁へ。
 物音に気づいたブラックが振り向くと、麟の切っ先が迫っていた。刀が頬を裂く。
「がぁーーっ! 何じゃ、何じゃい!」
 頬を押さえ、大仰なほどに騒ぎまくるブラック。
「助かったわ骸さん」
「お礼……は言っておくわ、一応ね」
 礼を言う2人に、麟は手を横に振る。
「おまえらにトナカイの相手までさせるわけにはいかないぜ」
 向き直り、ブラックに弧月をかざす麟。刀身にはブラックのものと思しきわずかな血が滴る。
「骸告死撃! 次はお前の最後だ!!」
「ぬぅ……何と言っとるかわからんが、我輩はトナカイのようにぬるくはないぞ」
「それはいい、良いことだ。ようやく敵らしい敵とやれる……おい、貴様の敵はこちらだぞ」
 割り込む声。その主は雁間、正確に言えば雁間と共鳴するマリオンだ。
「煽るんじゃねえ……」
 同じく雁間の口から。今度は雁間本人のものだろう。
「威勢がいいのぅ。だがこのジャージ女を屠ってから……ぬ?」
 一瞬、雁間に気をとられた隙に麟の姿が消えている。いずこかへ。
「よそ見とは余裕があるな、愚神よ」
 マリオンが大剣を振り込む。ブラックは腕を盾代わりにその攻撃を防ぐ。
「かってぇな……」
 雁間が舌打ちをする。ブラックと正対したので1歩退き、剣から盾へ持ち替える。
「随分と腹回りに肉があるな? 余が削ってやろう、それでだいぶマシになるぞ。今のままではサンタというより肥え太ったペンギンだ」
 挑発し、攻撃を誘う。攻めに転じるのは相手が背を向けた時だ。
「がっはっは! では次はペンギンの格好をするとしよう!」
「馬鹿なのかこいつ……」
 雁間が呆れた次の瞬間、全速のタックルが雁間の体を盾ごと弾き飛ばした。勢いよく壁にめり込む。防御体勢が取れていたとはいえ、堪えがたい衝撃だ。
 だがおかげで、攻撃を終えたブラックに隙が出来る。潜んでいた麟が姿を現し、弧月を握る。
「骸円月剣!」
 必殺の掛け声と共にブラックの背を斬りつける。斬撃はしかと愚神にダメージを負わせた。
「ちょこまかと……!」
 振り向いても、すでに麟の姿はない。雁間と麟に気をとられていると、今度はエストレーラと由香里の攻撃をその身に受ける。
 そんな応酬を続けるうちに天野とゆらも加勢に到着する。
「かぁーっ、鬱陶しいのぅ!」
 ストレスを発散する叫び。6人だろうが相手してやるわい、と付け加えて、野獣は力の限りに暴れだす。

●追い詰め、そして

 図書館の1階では、ホワイトとの戦闘に亮馬と雲が加わっていた。
「せっかくのクリスマスを破壊で彩るなんてないよねー? だから、ここで止める!」
 シルフィードで攻め立てる亮馬の攻撃。ホワイトは距離を取って避ける。
 だが進行方向に書棚、そしてエステル。魔法攻撃でホワイトを向こうへ押し戻す。
「無作法な誰かのために図書館は閉館中です。お帰りはあちらですよ」
 正面入口を指して告げる。
「ご親切にどうも」
 攻撃で破けたサンタ服。その破損箇所をいじりながら生返事。エステルは自身にパワードーピングを施して追撃する。ホワイトの目を見据えて。
「この場はあなたのような者が荒らしていい所ではありません。歴史や文化の価値を理解しないあなたがたのような愚神が」
 書物は人類の歴史そのもの。それが異世界の悪辣な侵略者に壊されてしまうなど、エステルには到底我慢ができないことだ。
 だが愚神はそんなことなど我関せずといった物言いで。
「この世界の歴史も文化も、どうせすぐに消えるのよ?」
「そんなことにはなりません」
 消えさせるものか。この世界は消えない。これからも歴史を紡いでいく。世界を守るH.O.P.E.も、語り部となる大英図書館も、愚神の手に落とさせはしない。
 傷ついた体を奮い立たせ、エステルは攻勢を強める。圧に押されてホワイトは一時退避のために、入口近くへ後退。
 一息つかせることなく、央がホワイトに接近。
「ほどなく援軍が来るだろう、こちらは時間を稼げばいいだけだ……だが」
 弧月を強く握り、央は眼前の愚神を見る。
 この愚神を消せば、マイヤの憎しみを減らせるだろうか、マイヤの苦しみを和らげることができるだろうか。
 彼女を――。
「相棒を安心させてやりたいんでな、悪いがその命賭けてもらうぞ」
 強い言葉。ホワイトは微笑む。
「あら、情熱的なアプローチね」
 太刀を振る。首元めがけ。ホワイトは静かに後ずさり避ける。
 そんなことは想定済み。央が笑う。
 注意を引いたその後。
「俺からのクリスマスプレゼントだ。遠慮なく受け取れ!」
 背後から、雲の渾身のライヴスブロー。がら空きの背中へ叩き込む。
「くっ……!」
 初めて動揺と苦しげな表情を見せるホワイト。
 畳み掛けるように、亮馬の疾風怒濤。ホワイトは彼らの攻撃を捌くのに注力する。

 無音、気づかれずに。央は遮蔽物の陰を動き死角へ。
 潜伏。気配を消す。あの女に必殺の一撃を与えるために。
 仲間たちの攻撃にホワイトの意識が向いている。今だ。仕留めるなら今。
 ジェミニストライク、分身して遮蔽物の左右から飛び出す。最速最小、最短ルートの踏み込み。
 驚愕の面持ちのホワイトと目が合う。横腹へ弧月の刃が迫り――裂いた。
 斬撃の確かな手応えが、柄を握る央の手に残る。
「悪いな、化かし合いは……俺の勝ちだ!!」
 勝ち誇り、追撃の刃を振ろうというその時。
 央の胴体にホワイトがその手を置く。ピタ、と。

「化かし合いは、ね」

 零距離。ホワイトの手から白い閃光が伸び、央の胴を貫いた。
 折れる膝、落ちる弧月。さながら糸を切った操り人形。
 力なく、倒れる。

「迫間さん!」
 亮馬、雲、エステル、同時に叫ぶ。武器を振りかざしてホワイトへ。難なくかわされてしまうがそれでもいい。とにかく倒れた央から離さなければならない。
 軽やかなステップで後退するホワイト。脇腹をさすり、傷の程度を確かめる。
 そしてすでに意識のない央へ向けて、言葉。
「賭けをするならチップも同等。恨み言は言わないわよね?」

 3人は戦況を考え、苦しいと判断する。倒れた央を庇いながらこの愚神を相手にするのは容易なことではない。
 どうする。


 そう考えているとき、正面扉から1つの影が駆け込んできた。その影は真っ先にホワイトに向かい牽制、続けて扉から何人もの人間が流れ込んでくる。

「あたしのロンドンを襲うなんて、いい度胸ね」
 ホワイトを指差し高らかに声を張ったのは、ロンドン支部特務エージェントのテレサ・バートレット(az0030)であった。国内の何十というエージェントを引き連れて、ゲートを介さず直接この大英図書館まで援軍に駆けつけてきたのだ。
「援軍……間に合ったってことか」
 雲が息を吐く。今回の任務は本隊が来るまで陥落を防ぐこと。時間を稼ぐこと。
 エージェントたちは、防衛戦力が揃い現場に来るまでの時間を作り出せたのだ。
「先発隊の人たちね? このロンドン支部を、大英図書館を守り抜いてくれてありがとう!」
 振り返ったテレサが謝意を表す。

「急に増えたわね、何よこれ……」
 状況の悪化を感じ取り、ホワイトは思案する。この場に残るべきか去るべきか。
 答えは、去るのみだ。
 何十というエージェントを相手にしてなどいられない。しかもその数は増えていく可能性が高い。
 そして――ホワイトは脇腹を触る。央から受けた刀傷を。
 致命傷ではない。だが傷は深い。この体で無理などしたくない。
「シュヴァルツ! 私は退くわ! あんたも死にたくなければすぐ逃げるのね!」
 ブラックの咆哮ほどではないが、大音量。

 地下の通路奥で戦闘中のブラックの耳にも届く。
「何じゃと!? 退くなどできるか! 6人程度に尻尾を巻いて逃げるなど……」
 6人を相手に戦って無数に傷を負ってはいたが、戦闘に支障が出るほどではない。
 そんな状況で逃げるなど我輩の誇りが許さぬ、と言いかけて――。

 ブラックは通路奥に見る。
 エージェントの人波を。
 世界各国から、ワープゲートを通じてロンドンへ集まったエージェントたち。

「あれか、襲ってきた愚神は」
「……先発隊発見、援護を開始……」
 人波の先頭を走ってくるのはミュシャ・ラインハルト(az0004)とヴィクター・ライト(az0022)である。両者は剣、鞭を構えてブラックに向けて一気に駆けてくる。
 その二者を、その後ろの大群を見てようやく、ブラックも撤退を決意する。
「ええい、ホワイト! 我輩も退くぞ!」
 返事はない。上階の様子はわからないが、どうやら先に逃走したようだ。
「何て薄情な女じゃい……!!」
 エージェントたちに背を向け、逃走を図るブラック。

「ここまで来て……逃がさないッ!!」
 ボロボロの体に鞭打ち、由香里は逃走するブラックを追う。逃がしては足りない。支部を守っただけでは足りない。
 愚神を討ったという功績、それが目の前にある――。
 由香里には、そう思えたのだ。

(「止めぬか、馬鹿者ぉ!!」)

 由香里の心中に飯綱の叫びが響く。だが、忠告は遅かった。

「邪魔くさいわ、小娘!」

 ブラックの拳が疲弊しきった由香里の体を吹き飛ばす。
 背中からモロに壁に打ちつけられ、腹まで貫くような痛み。
 そして、意識を失った。

●戦い終えて

 ロンドン支部は守られた。H.O.P.E.は三桁もの人員をロンドンに送り、襲撃をした愚神2体は夜陰に紛れて姿を消した。
 先発隊として臨んだ10名のエージェントは、その責務を見事に果たしたのだ。

 テレサらが事後処理に奔走するのを眺めながら、10人は身を休めている。

「しんどい、さすがにしんどいよ今回は……」
「無茶しないでって言ったのに」
 共鳴を解いた途端、雲はその場にへたり込んだ。フローラはその雲の隣で頬を膨らませご機嫌斜め。
「な、何か防衛祝いってことでさ。ジュースとかもらってくるよ」
 雲はフローラから逃げるように立つ。

「あー、久しぶりの任務だってのにキツすぎ。しかも帰ったら仕事だよチクショー!」
「確かに大変だけれど意義がある仕事……ですよ、頑張りましょうアマノ」
 社畜身分を嘆く天野を、リュドミラは最初と同じ言葉で励ましてあげるのだった。

「上をちらっと見たけど英語の本が一杯で熱が出そうだぜ」
「そういえば知恵熱を出したことがござったな。夏休みの宿題で。積み上げて枕にして寝違えて……」
「あー……まぁ宿題なんてやらなくても立派に育つもんよ。今日も立派に骸忍術を世に広めたし? 闇討ちは忍の基本、能ある鷹は爪を隠すってやつだぜ!」
 自信満々に言ってのける麟の傍らで、宍影は頭を抱える。
「……あの宿題ちゃんとやっておけば……」

 ことわざではないが、古書を引用する輩もいた。
「確かこの世界の軍師も兵は詭道なりと言ったか? まさに敵の思い込みこそ最大の援軍というわけだ」
「孫子か? 幇の上役がやたら引用してな……無茶な作戦の免罪符にされるのは御免だがな……」
 最後まで任務に対する不平を匂わせる雁間に、マリオンはやれやれと溜息をつく。

「援軍が来るまで持ちこたえられてよかったね」
 シドと離れたゆらが亮馬にニコッと微笑む。
「あぁ……これだよ、これこそゆらなんだ! 俺の天使! 愛してるぜ!」
 やっと本来のゆらと接することができ涙する亮馬。嬉しさのあまり抱きつこうとするが、今度は相棒のエボニーに首根っこを掴まれる。
「依頼先まで来て何をしておるか。お前は」
 亮馬がゆらに触れることができたのは、家に帰る頃だったらしい。

「全てがロンドンを壊滅させるための陽動だったなんて……」
 泥眼は敵が弄した策に驚きを隠せない。
「危ないところでした。ですが、私たちは止められました」
 無事に残った大英図書館の蔵書を眺め、エステルはやり遂げたのだと実感した。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
  • 温かい手
    流 雲aa1555
  • 終極に挑む
    橘 由香里aa1855

重体一覧

  • 素戔嗚尊・
    迫間 央aa1445
  • 終極に挑む・
    橘 由香里aa1855

参加者

  • きみのとなり
    加賀谷 亮馬aa0026
    機械|24才|男性|命中
  • 守護の決意
    Ebony Knightaa0026hero001
    英雄|8才|?|ドレ
  • エージェント
    言峰 estrelaaa0526
    人間|14才|女性|回避
  • 契約者
    キュベレーaa0526hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 乱狼
    加賀谷 ゆらaa0651
    人間|24才|女性|命中
  • 切れ者
    シド aa0651hero001
    英雄|25才|男性|ソフィ
  • 悠久を探究する会相談役
    エステル バルヴィノヴァaa1165
    機械|17才|女性|防御
  • 鉄壁のブロッカー
    泥眼aa1165hero001
    英雄|20才|女性|バト
  • 捕獲せし者
    骸 麟aa1166
    人間|19才|女性|回避
  • 迷名マスター
    宍影aa1166hero001
    英雄|40才|男性|シャド
  • ヴィランズ・チェイサー
    雁間 恭一aa1168
    機械|32才|男性|生命
  • 桜の花弁に触れし者
    マリオンaa1168hero001
    英雄|12才|男性|ブレ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • エージェント
    天野 雅洋aa1519
    機械|29才|男性|攻撃
  • エージェント
    リュドミラ ロレンツィーニaa1519hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 温かい手
    流 雲aa1555
    人間|19才|男性|回避
  • 雲といっしょ
    フローラ メイフィールドaa1555hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
  • 終極に挑む
    橘 由香里aa1855
    人間|18才|女性|攻撃
  • 狐は見守る、その行く先を
    飯綱比売命aa1855hero001
    英雄|27才|女性|バト
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