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脂肪は燃やし尽くすもの!
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依頼前の挨拶スレッド
最終発言2015/12/23 09:18:30 -
作戦会議室
最終発言2015/12/24 19:53:19
オープニング
●クリスマス前の複雑な感情
「燃やせ-燃やせ-脂肪を燃やせ-。怠惰な体に火をつけろー」
カラオケボックスで獅子口美嘉留は、激しく替え歌を歌っていた。付き合わされた清流院公磨の表情は軽く引きつっており、時折口元がピクピク蠢いてる。
「走れ-走れ-力の限り-、お前の脂肪を燃やすため-」
「うああああ、やめ、やめい!!」
公磨が頭を抱えて立ち上がり絶叫する。そのまま端末を勢いよく取り上げると演奏中止を人差し指で激しくクリックしまくった。それに応じて直ぐに曲の演奏が止まり、ボックス内に複雑な感情が入り交じった静寂が訪れた。
美嘉留は、半分座った目でジッと公磨を見た。どこか汚い物を見るような蔑んだ目だ。
「その視線は俺の心に突き刺さっちゃうんですけど……」
「お前はすでに死んでいる……」
「は?」
唐突な美嘉留の宣言に公磨の目が点になる。何かの謎かけか何かか、美嘉留はその台詞を、あまつさえマイクを通して、何度も言った。
そこで公磨は考える。美嘉留が公磨にこういう視線を投げかける時は、大抵デブだのあの頃のトキメキだの、という話になるのだ。だから、今回もそうに違いない。
「You're dead already.ってことか、そうなのか!」
ちらりと公磨は美嘉留を見るが、どうも渋い顔をしている。どうやら言いたいことが違うらしい。
「もしかして、die yet って言いたいのかね。yetって疑問系にしかつかわんよね!」
美嘉留は、満面の笑みを浮かべ数回頷いた。
「さあ、私は何が言いたかったでしょう」
「ダイ……、エット……だよな」
ぼそりと答えた公磨に対し、美嘉留は公磨をじっと見つめる。そして、処刑は早くして欲しいと身構える公磨に対し、じっくりと溜めに溜めてから答えた。
「正解!」
●ダイエット講師を公募します!
HOPEの事務員が掲示板に一枚のチラシを画鋲で留めていた。手描きで可愛くレタリングされ、最後に小さなイラストを添えた手描きのチラシだ。
「ダイエット経験者求む!!」
日時:某月某日 AM8:30時~
場所:K市某公民館
・対象人物は、ダイエットと聞くと拒否反応を示し、一緒に居るときは良いのだが直ぐに怠けてしまう傾向有り。
・小腹が空くと屋台に赴きラーメンを食べてしまう。買い置きのカップ麺もたっぷり常備という節操の無さに自信有り。食欲に正直で我慢しない。
・怠惰な英雄のダイエットがいつまで経っても成功しません。
どうか知恵をお貸し下さい!
獅子口美嘉留
さらに指名手配班のようなイケメン時代のビフォー、脂肪にまみれたアフターの公磨の写真がでかでかと映し出されていた。
「そんな簡単にダイエットができるなら苦労しないよね……」
チラシを留め終わった事務員は、一つため息を吐いて自分のお腹の脂肪を摘まむ。そして、自分もクリスマスまでに何とかしなければと思うのだった。
解説
●シナリオの目的
1.英雄か能力者どちらかのダイエットを語る
自身がどの様なダイエットを行い耐えてきたのか。そのダイエットは成功したのか失敗したのかを語って下さい。
2.ダイエットの経験を踏まえて、全員で公磨が行うべきダイエットメニューを提案する。食事、運動、オカルト等何でも提案して下さい。
3.実際にダイエットメニューを公磨が実行する。その際に、何らかの形で公磨をサポートする。
※基本的に、どの様なダイエットメニューでも美嘉留が公磨に実行させますが、酷く苦痛を伴うもの、他人に害が及ぶもの、公序良俗に反する行動は公磨が嫌がります。公磨は、三回まで我慢しますが、四回目になると逃亡を図ります。
公磨の体重が少しでも減少している、若しくはダイエットを継続させることが出来ればシナリオ成功です。
●場所
K市の住宅街にある公民館2階の一室。10畳ほどの部屋に円卓とホワイトボードが置かれている。通りに面して窓が設けられている。入り口のドアは一つで、プッシュタイプの鍵がついている。
●登場
獅子口美嘉留(ししぐち みかる) 人間 女 14歳 回避適正
おとなしそうな成りをしているが内面に熱く燃える闘争本能を持つ。そして、その闘争本能を満たすためにゲーセンに通い詰める日々を過ごす。厳つい顔をした父親に似ず可愛く生まれて良かったと心底思っている。自分が能力者である事は家族には絶対秘密であり、公磨とは外でしか会わない。
清流院公磨(せいりゅういん きみまろ) 英雄 男 22歳 シャドウルーカー
かつてはイケメンだったであろう顔のパーツを脂肪に埋もれさせた男。高性能な自分の能力の上に胡座をかいて生活しているうちに怠惰な性格となり、現在のような体型となる。こちらの世界に来てからはネットゲーム廃人となった。声も超絶イケボなのだが容姿が伴っていない残念系男子。
リプレイ
●ダイエット話をしてみよう!
会議室に続々とダイエットを手伝ってくれるというHOPEの能力者達が集まった。
「やあ、久しぶり。あれから調子はどうでしょうか?」
「こんにちは。お元気でしたでしょうか?」
「天城さん、リリアさん。お久しぶりです。またお世話になります!」
以前ゲームセンターでヴィランに襲われたところを助けてくれた能力者の一人天城 稜(aa0314)とリリア フォーゲル(aa0314hero001)は、来るなり直ぐに挨拶をしてくれた。
全員が円卓に座っているのを確認し、美嘉留はダイエット会議の開催を宣言した。
「具体的なダイエット方法を模索する前に、皆さんのダイエット話など聞かせて貰って良いですか?」
美嘉留の言葉に、公麿の方眉がぴくりと動いた。ついに始まってしまったと言う面持ちだ。ダイエットを機に来年こそは残念女子な自分を払拭し、女子力高いモテる女になってやるんだという強い意志を持って参加している御門 鈴音(aa0175)も神妙な面持ちになる。そんな鈴音を見て輝夜(aa0175hero001)は、人間とはつくづく愚かなものじゃのぅと思い、クククと喉を鳴らしていた。
「ダイエットですか……そういえば、家内に勧められた事があったかな……」
坂野 上太(aa0398)が今は亡き妻子の姿を映るスマホを見ながら呟くと、その場が一瞬で凍り付いた。ノイズと枦川は冷静に坂野の話を聞いている。
「坂野のおっさんは、空気を重くするのが得意なんだ。気にするなよ」
バイラヴァ(aa0398hero001)が苦笑して坂野のフォローをしておく。
「僕が、ダイエットしたのは、妻に言われての事でしてね」
あの頃は暴飲暴食の限りで……と、チラリと公麿を見る。
「炭水化物ダイエットというんですが、米とか小麦粉とか食事から抜かれるんですよー」
公麿の表情が徐々に曇っていくのが誰の目にも明らかだった。
「所謂、主食ですからね……うどんはもちろん、パスタもダメです。パンもピザもです。当たり前ですが、菓子類もほぼ不可ですね」
「ラーメンも駄目ですかね……」
公麿がそっと手を挙げる。
「当たり前でしょ! 炭水化物は厳禁なんだから!」
公磨と美嘉留の反応に頷き、坂野は軽く笑った。
「まぁ、結局、続かなくて失敗しちゃったんですけどね」
両手を広げ、肩をすくめる坂野だが、それほど太っているように見えない。健康そのものの様に見える。
公麿がその事について尋ねてみると、坂野はやはり笑顔で答えた。
「今ですか? そうですね。たまにはやってみようかなと思います」
ダイエットの思い出は、坂野にとって家族との良い思い出なのだろう。記憶の無い公磨だ。ダイエットが良い思い出になればそれに越したことは無いと思えた。
「ダイエットなら僕もしたこと有りますよ」
スレンダー系イケメン男子である天城にダイエットの経験があるとはの意外であった。円卓を囲む一同の視線が集中する。美嘉留と鈴音は思わず身を乗り出していた。
「どっ、どどど、どうやってダイエットしたんですか!」
「ダイエットかぁ……前に半年掛けて18kg落としたっけ……。アレはもうやりたくないね」
半年で18kgと聞いて、公麿が盛大にお茶を吹き出す。
「いや、ホント。アレはきつかった。精神的にくるから、食べないように自制できる根性がないならお薦めしないよ」
「リバウンドもしてしまいますしね?」
何処か遠い眼をしている天城だが、事情を知っている様子のリリアは頬笑んでいる。
「具体的な方法は言えないけど、真似しない方が良いよ」
それから、リバウンド無しで体重を落とす事を考えると1-2kgが限界だと付け加えた。
「しかしだ、皆さん」
唐突に枦川 七生(aa0994)が口を開いた。
「これ程の肥満体を維持する事は簡単な事ではないだろう。その努力は評価に値するとは言えんかね」
鋭い目で見られると、公麿は、檻の中で観察されている気分になって身が竦む思いがする。
「肥満できるだけの環境がある、とも言い換えられますしね……。褒められるものではないとは思いますけど」
キリエ(aa0994hero001)はそう言ってから、 先生の話は長いので、話半分に聞き流しておいてくださいね、と付け加えておく。
「私もこれまでに何度かダイエットを試みた事があるが、どれも失敗に終わってしまってな……」
天城に続いて意外な話である。枦川も天城と同様に、ダイエットが必要な体型に見えないのだ。
「ん、何故私がダイエットをしようと思ったか…?私にとって必要でなくとも、それもまた、知識の一つに他ならないからだが。まあ、今回の私の目的は君の体重および体脂肪の増減と、皆がどういう知識を君に提示するのかの記録なのだ」
美嘉留と公麿の顔にハテナマークが浮かんでいた。
「わからんかね、つまり私から君に提示するダイエットの方法、というものはさほど用意していないのだ」
この人に記録を取って貰えれば、ダイエットの確たる効果が目に見えて判るのではないだろうかと美嘉留は思った。そして、それが公麿に対し良い方向へ働けば万々歳である。
「是非とも記録の収集をしていってください!」
美嘉留は何か言いたそうな公麿を押しのけるようにそう言った。
「然しそうだな…これはアドバイス、になるのか。君に一つ、こういった情報を与えるのもいいだろう」
枦川は淡々と公麿に語りかける。向けられた鋭い視線は真剣そのものだ。
「頭脳労働はカロリーを必要とする。君のプレイしているネットゲームは、十分に頭脳労働の域だ」
流石、判っておられる、と鈴音は頷いた。どうやら公麿もネットゲームが好きらしく、同時に頷いている。枦川は更に続けた。
「脳を動かすには糖が必要だ。これが失われればそれを補給するために食事、カロリーを必要に感じる。然し、運動をしている訳ではない為実際消費しているカロリーはそうないのだ。つまりは、食べた分だけ増える。とはいえ頭を使うのは良いことだ。大切なのはその知識を持っておく事、それから……時々は頭を休める事だな」
言い終わると枦川はお茶を一口飲んだ。
「僕でお力添えになれるかはわかりませんけど……」
キリエは、コホンと咳払いした。何時も枦川の炊事、洗濯をこなしているキリエにも思うところがあった。
「食欲旺盛なのは良いことだと思います、ただ、カップ麺は少しコスパが悪いかな
体にも良いものではないし、屋台に行くだけの手間をかける余裕があるならトーストなんかでも構わないです、自分で料理を作ってみるようにするとか」
至極尤もな意見である。美嘉留は、凄い勢いでメモ帳に記入していった。
「そうすれば、ほら、自分がどれくらい食べてるか、わかりやすいでしょう? 運動や極端な食事制限なんかは……続けようと思わないと続けられませんし。痩せてしまえば、痩せろなんて言われなくなる……。動機としては、それで十分だと思いますよ」
確かに、ことある毎に美嘉留からダイエットを連呼されるのは精神的にきつい。沸々とやる気が湧いてくるのを感じた。
●実践! 実践!
「手当たり次第に実践するしかないですよね」
美嘉留は、みんなから提案されたダイエットメニューを眺めてそう言った。案としては、運動によるカロリーの消費と食事療法による体質改善だ。あとは公麿が実践して、長期継続可能なダイエットを選ぶのみである。
(それで上手くいいきゃ、それでいいだろ。楽でいいじゃないか)
ミク・ノイズ(aa0192)は他の面々の作戦には口出ししないと決めて此処に来ていた。リスターシャ(aa0192hero001)も同様に他のメンバーの様子を見ている事にする。
「では、わらわから実践させて貰うぞ」
ここに来て最年少と思われる幼女からの提案である。鈴音は、来るべき時が来たという感じでグッと口を結んでいる。
「それでは全員隣の小学校へ移動するのじゃ」
輝夜は楽しそうに喉をクククと鳴らした。
「私たちは仕込みがあるので、厨房をおかりしますね」
「葛井さん、仕込みがあるなら僕も食事案を持ってきたのでリリアも一緒にお願いします」
葛井と転変の魔女は、持ってきた袋を携えて厨房へと向う。それにリリアも同伴した。
先に出ておいてくれと言う輝夜と鈴音を置いて、一行は隣にある小学校の校庭に移動した。公麿は公民館を出るときにジャージに着替えている。
「待たせたな!」
校庭で暫く待っていると輝夜の元気な声が響いた。そこに立っていたのは、恥ずかしそうにもじもじしている鈴音と仁王立ちの輝夜だ。二人とも絶滅寸前と言われる女子体操服であるブルマを履いており、胸にはひらがなでそれぞれの名前が書いてある。
「私も一緒にダイエット頑張ります!」
顔を赤らめて鈴音が行ったのを聞いて、輝夜はカカカと笑う。
輝夜のダイエット案はとにかく体を動かす事だ。しなやかな肉体にこそ健全で純粋な悪が宿るというのが彼女の持論なのだ。悪と言うところが少々引っかかるが、輝夜は元の世界で人食い鬼なので少しずれてる所がある。
輝夜は、学校にあるような雲梯や登り棒を駆使するルートを順に設定した。それはまるで某テレビ番組のS○SUKEの如くだ。輝夜は、最後にポンとカステラが載っているお皿を置いた。ゴール前でフィギュアスケーター並のトリプルアクセルを華麗に決めてゴールに置いてあるカステラを貪ると言う算段だ。
「まあ見ておれ」
輝夜は、次々に設定したコースをクリアしていく。遊具を使ったルートとはいえかなりの運動量だ。ゴール前で輝夜がトリプルアクセルを華麗に決めてカステラにパクついた。
「どうじゃ?簡単じゃろ?」
輝夜はドヤ顔で好物のカステラをほおばっている。
「さっすが輝夜♪ ……ってできるか! んなもん!」
結局、ハードな運動は体力筋力が付いてからでも遅くはないという結論になり、普通の体操から徐々に体を動かすことを慣れさせる事となった。
「公麿さんは、ネットゲームが好きなんでしょ?」
公麿と並んでラジオ体操第一をしているから、語尾に妙な力が入ってしまう。
「大好きですよっ、と」
「なんのっ、ゲームをっ、遊んでるんでしょうか、っと」
「PS○2を6鯖で遊んでますよっ、と」
二人とも、ネットゲームの話題をしながら身体を動かしている。そんな二人を美嘉留は少しむすっとしながら見ていた。そんな美嘉留に輝夜がスッと寄ってきた。
「時に美嘉留。お主、何故にあの男にダイエットさせたいのじゃ? アレはアレで幸せそうに生活しておるように見えるがの?」
そう言ってカステラを口に運んだ。なにやら面白そうな話がはじまったと、枦川もやってくる。
体操が終わった後、天城とリリアにスロージョギングのやり方を教えて貰っている公麿と鈴音をじっと見つめる。
「運命の出会いだったからかな。それで、出会った頃は、今よりずっと痩せててかっこよくてね。友達に自慢できる英雄と契約できたって写真も沢山とったんだよ」
美嘉留は、ポケットからパスケースを取り出すと、輝夜にそっと中の写真を見せた。
「ほほう。これは……」
現在とは似ても似つかぬスタイリッシュな公麿と笑顔の美嘉留が身体を寄せ合っている自分撮り写真だ。
「私が元々ゲームが好きで、一緒に遊んでいるうちにネットゲームに填るうちに怠惰になちゃって……。あのザマなんです」
とほほと、肉を震わせてジョギングのフォームを確認している公麿を指さす。
「性格も良いし、契約通り一緒にいてくれるんだけど、外見的に乙女心はブロークンハーテッドです」
「で、ダイエットさせて外見的にも完璧になって貰うと思った訳じゃの?」
「そんなとこです」
「英雄と能力者という関係とはいえ別個の存在じゃ。人間が自分の理想道理になってくれれば世話無いの。わらわの眼には、公麿がずいぶんとお主を立てて行動しているように見えたのう。まるでわがままな姫に従う家臣のようなものじゃ」
輝夜は、そっと視線を自分の主である鈴音に向けた。失われた記憶に引っかかる様な雰囲気があるものの思い出すには至らない。
「言いたいことは山ほど有るが、もう一度お互いの事を考えてみる良い機会かも知れぬのう。ほれ、必死に走っているあ奴に応援ぐらいしてるべきじゃろう?」
そう言って輝夜は、ポンと美嘉留のお尻を叩いた。
「公麿ーっ。頑張れーっ!」
公麿は意外な応援に、グッと右腕を上げて答える。答えたのだが、その場にへなへなと崩れ落ちた。両手を地面につき、肩で息をしている。美嘉留の目は点になり、輝夜はカカカと笑った。メモを取っていた枦川も笑いをこらえているように見える。
「おれは、もう……駄目だ……。キミは先に行ってダイエットを完遂して……く……れ……」
「公麿さん、あなたの死は無駄にはしませんっ! あ、あたしはあたしのダイエットを完遂して見せます!」
小さくなっていく鈴音の姿を公麿は暫く見ていた。そうしているうちに、乱れた呼吸も整ってくる。
「ふおっ!!」
気合いを入れて立ち上がった。そして、一歩、また一歩と進んでいく。そして、そのまま休憩までずっと走り続けていたのだ。
一歩も動けなくなっている公麿を見て、パライヴァは居ても立ってもいられなくなり駆け寄った。
「……弱い自分に打ち勝つ。ちゃんと根性もってるじゃねぇか。感心だぜ」
息が切れていてまともに話せない公麿は、手を挙げて答える。
「坂野のおっさん? あぁ、あいつは、若いのに説教くせえからな、今は席を外させたぜ」
パライヴァは、水入りのペットボトルを渡して、自分もその隣に腰掛けた。
「坂野のおっさんのダイエット……続けられなくなった理由なんだがな……知りたいか?」
公麿は何の気無しに頷く。
「……死んじまったんだ。おっさんの家内はな。愚神の襲撃で」
「そうだったのか」
「俺様も公磨も、なにか目的があるはずだ。存在する為の理由がよ……。その理由と比べれば、ダイエットを止めたいという甘い誘惑なんか障害にもならねぇだろうよ」
公麿は、じっとパライヴァの話を聞いていた。
「俺様は信じてるぜ。公磨がイケてる英雄だってな」
パライヴァは、公麿の肩を叩くとスッと立ち上がる。頑張れよと言い残して坂野の所へ戻ってきた。
「なにを話してたんですか? バイラヴァ」
「なぁに、イケメン英雄同士の秘密って奴さ」
時計の針は、12時を大きく回っていた。
「その顔はやる気になっていますね!」
美嘉留達が公民館に戻って来るなりそう言って、葛井 千桂(aa1076)はぽーんと胸を叩いた。
「対象が男性なので勝手が違いますけど、調理師としての技術とこれまでのダイエット経験の集大成を伝えます!」
転変の魔女(aa1076hero001)がレジメを全員に配布したのを見計らい葛井が解説を始めた。
「男性は内臓脂肪が皮下脂肪よりもつきやすく落ちやすいため効果が出るのが早い事と、内臓脂肪を落さないと皮下脂肪が落ちにくいためまずは内臓脂肪を落とします」
内臓脂肪と聞いて、思わず自分の腹を見つめる公麿と坂野。痩せているように見えても付いている場合が多いため油断できないのが内臓脂肪だ。
「別紙1を見てください」
ページを捲ると、別紙1に食事療法の段階とメニュー案が資料として纏められていた。
資料の内容は以下の通りだ。
第一段階:デトックス(いわゆる毒抜き)と胃腸を休めるためファスティング(断食)を24時間行い、ドリンク(トマトジュース・フルーツジュース等)とサプリで過ごしてもらいます。その後食事療法に移りますが、内臓脂肪は脂質・油分が最大の原因です。脂身はカット、油はオリーブオイルを使用。
第二段階:皮下脂肪は糖質が主な原因です。そして糖質の摂取元は炭水化物です。但し、炭水化物制限ダイエットはリバウンドの可能性が高いので、吸収を抑える方向で行います。
食事の出し方を野菜類→たんぱく質→炭水化物の順で出すようにします。出し方としては会席料理の出し方になります。まず先付・八寸といった形で野菜、または野菜+軽いたんぱく質を出し、煮物・焼き物・椀物といったたんぱく質メインに野菜を添えた物、最後に炭水化物のご飯+汁物を出すことで食べる順番を制限し、こうすることで糖質の吸収がかなり抑えられます。また一度に出さずに時間をかけて食べる事になるのでこれまでより少量で満腹感を得られます。
最初の段階から夜にはトマトを出すようにします。加熱でも加工でも構わないので毎夜欠かさず摂取することで痩せやすい体質にしていきます。サプリでも可です。
料理については調理手順を簡略化したレシピと、数週間分程度は加工して冷凍や常備菜化したものを提供し指導が終わってからも続けられるようにします。
葛井が説明している間に、転変の魔女が一皿、また一皿と円卓に料理を並べていった。そのどれもが絶品なのだ。
「これ、凄く詳しいですよね」
天城が感心するように言った。天城もダイエットの基本を押さえていたつもりだが、食事療法に関してはレベルが違うと思わされる。レシピも出された料理も最高の物だ。
「専門分野なんです」
少しはにかんで葛井が答えた。
「それに、転変の魔女が手伝ってくれましたから」
みんなが美味しそうに食べているので転変の魔女は嬉しそうに笑っている。
「みなさん、私が料理したのも有るんですよ。ちょっとお二人に手伝って貰いましたけど」
リリアが出した料理も、低カロリー且つ高たんぱく質、その中に少し食物繊維が多い根菜を入れる食事メニューだ。レジメの第二段階に丁度良いメニューだろう。
「でもこれ、作るの大変そうですよね……」
美嘉留は、全員の視線が突き刺さるのを感じた。
「え、あたし?」
またも全員で頷かれる。公麿も頑張ろうとしているのだ、自分も何かサポートしてあげなければとも思えてくる。
「よっしゃーい。まかせておけー!」
ぐっと力を込めて立ち上がり、美嘉留は叫んだ。その顔はテレて真っ赤になっている。
後はコツコツ努力するということになり、この場は解散となった。
「本当にありがとうございました」
美嘉留は、全員が見えなくなるまで玄関で手を振っていた。そんな美嘉留を見て公麿は、これは頑張るしかないなと心を決めるのであった。
●ちょっと延長戦
美嘉留と別れて家路に着こうとしたとき、公麿は声を掛けられた。振り返ってみると、そこにいたのはノイズとリスターシャだ。それに天城とリリアも同行している。
「さて、一つ提案がある。一般的な方法で、楽なやり方はあるが・・・・どうする?」
無表情にそう言うが、親切心で言ってくれているのだ。公麿は、頷いてノイズ達の後に付いていった。
4人に連れてこられたのは温水プールだ。5人とも、水着を着てプールサイドに集まっている。
「じゃ、歩くか……」
「泳ぐんじゃなくて?」
「そう。歩くんだ」
ノイズは、公麿にプールの中を30分歩かせる事にした。プールサイドから檄を飛ばす。
「『泳ぐ』じゃないぞ。『歩く』だ。腕もしっかり振ってな」
リスターシャには水中から監視をしてもらう。呼吸をする必要がないリスターシャは、プールの底で三角座りをして公麿が泳いでしまわないかチェックだ。天城とリリアは公麿に付き添い身体の動きを指導していく。
この運動、足腰に負担も掛からず意外と継続可能な上にカロリー消費も高い。スロージョギングと合わせてやって行けそうな運動だった。
「次は食生活だな……」
温水プールの喫茶店で、5人はノイズが用意していた資料をのぞき込んでいた。専門家の葛井とは違う手書きのコピー資料だ。丁寧に書かれた文字が意外と可愛い。
最初の項目には、『肉』を選んだなら、どんな肉でも制限はしないが、穀物(米・小麦・芋など)と根菜類は一切接種しないと書かれている。
「肉を選んだ場合は、牛だろうと豚だろうと赤身だろうと霜降だろうと肉の種類は問わない。ただし、『肉』と『葉野菜』以外は食べさせないからな」
次の項目には、『野菜』を選んだなら、まず小鉢一皿分の生野菜のサラダを食べてから、鳥胸肉やササミなど低脂質なタンパク源をメインにした食事を取ることと書かれていた。
「だいたい、一日かけてボール一杯の野菜を摂取することを目指してもらうからな。」
「炭水化物は?」
「それは脂肪の原因第一号なので摂取してはいけないということだ」
口をついて出た公麿の言葉をノイズは切って捨てた。
「後はあんたの努力次第だよ」
言いたいことは言ったし、続けることが出来れば結果も出るだろう。そう思いノイズは席を立つ。それを追うようにリスターシャも席を立った。
「頑張ってくださいね」
一声掛けてノイズの後を追いかける。
「じゃあ、僕たちも此処でおいとましますね。公麿さん、頑張って」
「それじゃ、またね。今後に期待してます」
天城とリリアも帰って行った。
一人残された公麿は、改めてダイエットへの決意を固めていた。
●ダイエットの日々は続く!
ダイエットの日々は続いていた。公麿は、サボらずにダイエットに勤しんでいた。部屋にもうインスタントラーメンの袋は一つもない。
一緒にダイエットを始めた鈴音とも連絡を取り合い。お互いのダイエット話をメールでしている。結果が出るのはまだまだ先だが、お互い良い未来が待っていると信じたい。
「おーし、今日のダイエット料理完成!」
台所から美嘉留が食事を持ってやってくる。あれから美嘉留はちょくちょく公麿の家に来て料理を作るようになっていた。
「ん~、少し痩せた……かも?」
「いやいやいや。まだ一週間も経ってないからな。殆ど変化無しだ」
「無理のないダイエット計画を教えて貰って本当に良かったよ。食べ終わったらゲーセン行こう! これもダイエットのメニューなんだからね!」
ダイエット料理を食べる公麿を見る美嘉留の顔は輝いているようだ。
寒風吹きすさぶ年の瀬に、この場はどこかフワリと暖かい空気が流れているように公麿には思えた。
結果
シナリオ成功度 | 普通 |
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