本部

おはなしをきかせて

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/12/31 19:41

掲示板

オープニング

●まだ少女だった頃
 彼女は逃げ惑っていた。
 自分を守ってくれた家族の血を浴びて服は真っ赤に染まり、靴は片方どこかに置いて来てしまった。
 それでも止まるわけにはいかない。後ろを振り返ってはいけない。
 必死に逃げなければ死んでしまうと、幼いながらも彼女は理解していた。
 このまま逃げていても死ぬかもしれない。助からないかもしれない。胸に抱えた誕生日プレゼントを開けることも出来ず、もしかしたら……。
 絶望に覆われそうな思考の片隅でーーー声が聞こえた。
 助かりたいか。救われたいか。それなら俺と『約束』をしろ。
 どこから聞こえるのか分からない。しかし少女はその言葉に、悪魔の囁きかもしれない声に強く頷いた。

●幼い能力者と大きな英雄
 この世界に現れた英雄の一人、ユウは困っていた。
 目の前にいる、自分と誓約を交わした能力者……名前は竜見玉兎(たつみぎょくと)。
 高身長の部類に入る自分が屈んで尚も目線の合わない彼女は、今年で十歳になるかという少女であった。話を理解しているのかいないのか分からない。彼女が受けた精神的苦痛のせいか、まだすらすらと会話も出来ない。
 だからこそユウは困り果て、大好きなウサギのぬいぐるみを抱く玉兎は今にも泣きそうな顔をし……そして本部に依頼が届いたのだった。

●少女のおねがいごと
 依頼を受けた能力者達が通されたのは、暖房の効いた小さな部屋だった。
 大きな机が一つと小さな机、それとセットになっている椅子がいくつか。大きな机には様々なお菓子や飲み物が並び、拙い字で「ごじゆうにどうぞ」と書いた紙が置かれている。
 まるで、これからパーティーでも始まるような。
 そんな考えさえ浮かぶ部屋の扉が、こんこんとノックされた。がちゃりと扉を開けて入ってきたのは、真っ黒な髪に真っ黒な目。そして真っ白なウサギのぬいぐるみを抱いた少女。
「あの……おねがいが、あるの」
 自身の契約英雄にに背中を押され能力者達の前に進み出た少女――玉兎は君たちを見上げ、小さな声でたどたどしい言葉で呟く。
「のうりょくしゃが、りんかーがどんなことをするのか……ぎょくとに、おしえてほしいの」

解説

●目的
まだ依頼を受けたことのない玉兎にこの世界のことや英雄のこと、リンカーがどんなことをするか……などを教えてあげてください。

●場所
会議室のような大きな部屋を一つ貸し切り。
大きな机は一つだけだが、小さな机と椅子は人数分より少し多いぐらいにある。
お菓子や飲み物も各種揃えられて多く用意してあり、少なくなれば職員が補充してくれる。

●NPC情報
・竜見玉兎(たつみぎょくと)
腰辺りまである黒髪に黒目の日本人の少女。常に真っ白なウサギのぬいぐるみを抱きかかえている。
能力者になったきっかけは目の前で家族が愚神に惨殺されたこと。死や戦闘についてはまだ恐怖心がある。
・ユウ
玉兎の英雄でいつも彼女の傍にいる。真っ白な髪と色素の薄い肌、それから真っ赤な目をしている人型の英雄。玉兎には「ウサギさん」と呼ばれている。
玉兎に能力者としての自覚を持ってもらいたいが、同時にあまり戦闘に出させたくない過保護な面も。

※OPの「まだ少女だった頃」と「幼い能力者と大きな英雄」はPL情報となります。

リプレイ

●ほのぼの空間
「新人研修……みたいなモンッスかね?」
 部屋の中で和気藹藹と自己紹介を始めているリンカー達を見て、Domino(aa0033)はぼそりと呟いた。能力者が、リンカーがどんなことをするのかを教える……よくある新人研修そのものだ。先輩リンカーがなりたてのリンカーに講習をすることも珍しくはないし……。
「幼子を導くのもまた帝王の務めよ」
 堂々としたペンギン、Masquerade(aa0033hero001)が意気込むのに一抹の不安を覚えつつ、さてどうしたものかとDominoは頬を掻く。
「悩める方のお話を聴き、お話をお返しするとなれば、いつも通りなのですわね」
「えぇ、そうですよ。プルミエ クルール」
 既に椅子に座り、ゆったりと紅茶を飲むのはCERISIER 白花(aa1660)。その隣ではプルミエ クルール(aa1660hero001)が完璧に奉仕をしている。プルミエ自身は白花の傍らに立ち、絶妙なタイミングで……白花が欲しいと思ったタイミングでティーカップに紅茶のお代わりを注ぐ。所作の美しいそれは阿吽の呼吸を通り越し芸術的ですらあった。
「いつも通りにお話をしましょう」
 うさぎのぬいぐるみを抱きしめたまま立ち尽くしている少女をちらりと見て、白花は立ち上がった。

●まずは自己紹介から
「うちは黎夜、よろしく……」
「私はアーテル。今日はお招きありがとう、玉兎ちゃん」
 ぺこりと頭を下げた玉兎の前には、左目に眼帯をつけた木陰 黎夜(aa0061)とその英雄であるアーテル・V・ノクス(aa0061hero001)の姿があった。
「…………?」
 不思議そうな顔でアーテルを見つめる玉兎に、慣れっこだという風に微笑するアーテル。
「ああ、私はお兄さんなの。黎夜は男の人が苦手でね。苦手が少し治るまで女の人のしゃべり方になるって約束しているの」
 その言葉に玉兎は納得して頷いた。アーテルが促したのかユウ自身の行動なのか、いつの間にかユウの姿は遠くにあった。
「うさぎ、好きなのか?」
 木陰の言葉に、玉兎は視線を戻してこくこくと首を振る。
「うちもうさぎは好き。くまも」
 緊張を解そうと持ってきていたくまのぬいぐるみを差し出す木陰と、ぬいぐるみを見て嬉しそうに目を輝かせる玉兎。
「ギョクトちゃん、初めまして! わたしはニアって言うんだ。よろしくね!」
「わたくしはルーシャと申します。お見知りおきくださいませ」
 木陰とはまた別の方向からニア・ハルベルト(aa0163)が元気に挨拶をし、ルーシャ・ウォースパイト(aa0163heero001)が優雅に一礼をする。礼に合わせてふわりと揺れるのは銀色の髪。微笑んだ瞳を開けば赤く。まるで……。
「白い髪に赤い瞳……ユウ様とわたくしって、少し似ているわ!」
 くすくすと笑って言って、壁際に黙ったまま突っ立っていたユウに近づいていく。玉兎が少しだけ不安そうな顔をするが、それに気づいたアーテルが「座ってお話をしましょう?」と優しくテーブルへと促した。

●特殊な事例
「やー、依頼受けたはいいけどこれって人選ミスだよねぇ……」
 輪から少し離れたところで、來燈澄 真赭(aa0646)がぼやいた。
「まぁ人を放置して動物優先で動くエージェントは他にはいないだろうな」
 その隣で、英雄である緋褪(aa0646hero001)が同じくぼやく。
 來燈澄は能力者である。しかしその熱意は人ではなく動物に注がれていた。緋褪も注意をしはするが、基本的に來燈澄の意思を尊重している。
「失礼な。一人で動くことなんてまず無いんだし、仲間に任せてるだけだよ」
「一人だったらは……聞くまでもないか」
 自らの英雄の言葉に、うーん……と少し考えて。
「たぶん動物は保護して、人は……自主避難に任せるか危険地帯から弾き飛ばすくらいだろうなぁ」
 動物を優先する彼女らしい言葉に、緋褪は溜息をつく。今回の依頼が動物関連で無かったことが救いだろうか。いや、どうだろう。ちらりと壁の方を見れば、ユウが玉兎を見つめながら立っている。あれを動物と思って受けた……のではないだろう。きっと。
「ま、でも受けたからにはやらないとね」
 緋褪のちょっとした疑問を知ってか知らずか、來燈澄は一つ頷くと玉兎のもとへ……他のリンカー達と同じく、輪に加わっていった。

●英雄であるということ
 視線を逸らし、誰が近づいて来ようが我関せずといった顔をしていたユウの前に立ったルーシャは、
「ユウ様は、玉兎様に何をお望みなの?」
 思わずユウが表情を変えてしまうような質問を的確に投げた。
「……何を」
「わたくしたち英雄は、パートナーに様々なことを期待しがちだわ。けれど、それがあの子たちの重荷になってはいけないとわたくしは思うの」
 そう言ってちらりとニアを見るルーシャの表情は柔らかく、まるで本当の姉妹のような慈愛を持っている。それだけ多くのことを語り合い、二人で選び取ってきたのだろう。だからこそルーシャにとって玉兎とユウの関係は歯がゆくもあり、どうにかしたいところでもある。
「ですから、まずは玉兎様との距離を縮めることをお勧めします!」
「……距離を縮める……」
「えぇ。そうすれば、今以上に会話が弾むことは間違いありません!」
 こくっと強く頷くルーシャ。それにたじろぐユウ。今以上に、いやそもそも会話がゼロに等しいのだから……とユウが玉兎の方を見れば、どうやら講習会が始まったようだ。誰かの輪の中に入り、微笑みすら見せる玉兎。
「あの子の本当の気持ちを受け止める覚悟、果たしてあなたにおありかしら?」
 試すような言葉が、ユウの耳に響いた。

●第一講義:エージェントとリンカー
 ユウが悩み始めている一方その頃。玉兎を囲み、時々菓子を摘まみながらの講習会が和やかに開かれていた。
 議題はずばり『リンカーとは何か』。
「ええっとねー。エージェントになるならお仕事しなきゃダメだと思うけど。ただのリンカーだったら、普通の人とあんまり変わらないかなー」
「そうッスね。ただ『力があるから特別な仕事も出来る』ってだけで、自分のやりたい事を見つけてからでも遅くはねーッスよ」
「うん。リンカーだからって必ずしも愚神や従魔と戦わないといけないってことはないからね」
 玉兎の隣に座るニア、さらに隣に座るDominoと來燈澄。それぞれの話を聞きながら、小さなメモ帳に分からない言葉や教えてもらった言葉をひたすら書き記していく玉兎だが……その顔は芳しくない。
 頭では分かっているつもりで、けれど彼女の中にある思いが『本当にそれでいいのか』『自分にエージェントなんて務まるのか』という疑念を生む。どうにか言葉にして聞いてみたいとは思うのに言葉が出てこない。そんな玉兎を正面で見つめていた白花が、実際にやってみましょうか、と立ち上がった。いそいそと準備を始めるプルミエと、白花に呼ばれて近づく玉兎。何が始まるのかと見守るエージェント達。
「例えば…私が、今あちらにご用意していただいたお菓子から少し離れた位置に座っておりますわね」
 あちらと白花が指したテーブルの傍にはプルミエ。少し離れて置かれた椅子には白花が座っている。
「ですが、お菓子の近くには私の英雄がおります。私がお菓子を食べたい場合、どうすればよろしいと思われますか?」
「……えっと」
 玉兎の視線を受けてもプルミエは動かず、にっこりと笑顔を浮かべたままだ。白花も当然動かない。エージェント達も黙ったままで、ただ玉兎の言葉を待つ。
「とって、もらう……?」
 たくさんの疑問符を語尾につけながら、おずおずと白花に伺いを立てると、白花は良く出来ましたとばかりに笑顔を浮かべた。
「えぇ、その通りです。プルミエ、何か一つお菓子を持ってきてもらえるかしら?」
「かしこまりました、白花様」
 小さめの皿をに菓子を二つ取り、一つを白花へ。もう一つはきょとんとしたままの玉兎に差し出される。
「能力者……リンカーというのは、例えるならば、今のプルミエのようにお菓子の傍にたまたまいたり、お菓子を取ることがたまたまできたりするだけの人間なのです」
「たまたま……」
 菓子を取る。誰かを助ける。たまたま助けられる人の傍にいるから、たまたま助けることが出来るから。
「要は、他の人よりちょっとできることが多いだけ、ですね」
「ですが、その『ちょっと』を求められるのも、またリンカー、ですの!」
 愚神と戦い、依頼をこなすエージェント。そうなるのもならないのも、全て個人に委ねられる。能力者と、英雄に。
「確かに! 脅威と戦うということも大切ですわ。でも皆様が仰ったように、戦い以外にも手助けを求められる事は多いですの」
「私とプルミエは主にそういった『戦い以外』の手助けを求められた依頼のお仕事を受けさせていただいてます」
「……戦い以外の……依頼……」
「何分、ご覧の通り他のみなさんよりだいぶ年寄りですからね。さすがにそういった方面では若い方々にはかないません」
 苦笑する白花に、戦闘でも完璧に補佐させていただきますと胸を叩くプルミエ。だが、白花にはエージェント以外の仕事もあると言う。
「ですので能力者だからといってそれに由来することだけではなく、玉兎さんが以前から夢みられていたお仕事に就かれて、そのうえで時々手助けのための依頼を受けるというのも、また一つの道ですよ 」
 白花の仕事は占い師だ。新客よりも常連客の多い店で、時には悩み相談すら受けるという。エージェントでもそのような生き方を選べるのだ。

●第二講義:エージェントのお仕事
 再び大きなテーブルに戻り、講義……というよりは談話が再開される。
「街の清掃やイベントのマスコット役……そうそう、今回みたいに新人のリンカーとお話しするってのも意外と多いンスよ?」
「そう……なの……?」
 まるで本当の先生のような言葉に玉兎は安心したような声を上げる。
 新人のリンカーがどれだけいるのかは分からない。けれど、こう悩んでいるのは自分だけなのかもしれないと思っていた少女にとって、『話を聞きたがる新人リンカーが自分以外にもいる』というのはまるで仲間を得たかのようだった。
「今私たちがここにいるのもきみのお願いを聞いて集まったからだしな」
「こーして好き勝手喋れば報酬が貰える……ってーとちょっと乱暴かもしれねーッスけど、リンカーに成り立てでどうすれば良いか迷ってる人を導くのも、先輩リンカーとしての仕事ッスね」
 報酬に関してつい口にしてしまうのは、Dominoがそれだけ真剣に向き合っているからだろう。瞳の奥の通貨記号を鈍く輝かせながら菓子を多く取ってしまうのも普段の節制故だ。只より高い物は無い。しかしあるのなら頂いてしまってもいいだろう。菓子はどうしても高くつくのだ。
「玉兎はケンカとか戦うことは嫌い?」
 隣に座る木陰の言葉に、玉兎は小さく頷く。愚神や従魔に襲われ、何かを失ったのは玉兎だけではないだろう。だからこそ戦わなければと思うのに恐怖が勝ってしまう、と呟く。
「自分とか戦いがとにかく苦手で、愚神と戦う時は完全に王様任せッス。共鳴したら王様の中に閉じ籠って、あれこれアドバイス飛ばすだけッスよ」
 ウサギのぬいぐるみを強く抱きしめ俯いていた玉兎に、Dominoが優しく言葉を掛ける。不安を取り除く声に、言葉に、玉兎は顔を上げる。
「わたしはね。ルーシャと一緒に、困ってる人たちの力になりたい」
 玉兎から少し遠い位置にある菓子を取り、それを玉兎に渡しつつ……ニアは微笑んだ。困っている人は放っておけない、例えお節介焼きと言われようとも。それがニア・ハルベルトという人物であり、ルーシャと共に培ってきたものだ。
「わたしだけじゃ出来なくても、わたしたちなら出来ることがあると思うんだ」
 一人で無理なら二人で。二人でも駄目なら三人で。それでも駄目なら皆で。
「そうすれば、きっと何でも出来るはず!」
 だから困ったことがあったら頼って欲しい、と。
 光のような少女は、そう言って綺麗に笑った。

●第三講義:英雄とは
「英雄は別の世界から来た愚神と戦う力を持った人ね」
 木陰や玉兎の皿に菓子を追加しつつ、アーテルが説明を始める。
「でも別の世界に身体を置いてきた幽霊みたいなものだから、能力者と誓約…絶対破っちゃいけない約束を1つしないと実際には戦えないわ」
 ライヴスや誓約についての説明を受けるには受けた玉兎だが、まだ十になったばかりの少女にとってそこは不明瞭な部分でもある。ユウと初めて共鳴をした時のこともおぼろげで遠い記憶だ。
 そんな玉兎の様子を見て、パートナーである木陰にちらりと視線をやり。
「共鳴は……実際に見せた方が早いかしら?」
 アーテルのその言葉に、木陰はわずかに眉を寄せる。だが玉兎の為だからと渋々椅子から立ち上がりーー部屋の中を、光が満たした。
 能力者と英雄が互いの姿を認識し、幻想蝶と呼ばれる特別な宝石に触れることで発生する、『共鳴』。人によっては性格すら変わるという説明を思い出しながらどきどきと見守る玉兎の前で光は段々と消え……そこにはアーテルの姿が無く、木陰一人が立っていた。
 短かった黒髪が腰まで伸び、左目にしていたはずの眼帯が外れている。その目の色は、くすんだ黒色。
「……すごい」
 聞いた話と見る物では大違いだ。ぱちぱちと思わず拍手すら送る玉兎に対し、木陰は照れたような恥ずかしそうな顔をしてすぐに共鳴を解除してしまった。髪は元に戻り、眼帯もしたまま。不思議な現象ではあるが、これが共鳴の特徴だと説明するアーテル。
「まずは玉兎ちゃんができることから始めましょうか。怖くないことから少しずつ」
 いきなり戦場に出ろというわけではない。けれど、共鳴することに慣れておかなければ。
「いざって時に意外と動けないものだからね。動けない時に怪我をするのは多分、ユウさんだから」
 そう、玉兎を怖がらせないような言葉と微笑でアーテルが。
「怖いとか苦しいとか痛いとか、色々ある。でも、その分友達ができたりお礼を言われたりする」
 楽しく依頼が出来ますようにと木陰が、それぞれ玉兎に言葉を掛けた。

●これからのことについて
「まずは【貴方がやりたいこととそれを成す為には何が必要か】ということをウサギさん?と話し合ったらどうかな?英雄も能力者も【お互いを理解してる一番の味方】になるのが最善だからね」
 來燈澄自身それを実感しているからか、言葉には重みがある。
 人よりも動物を優先する來燈澄の気質を緋褪は尊重し、改めるようなことを言わない。大好きな睡眠の邪魔もせずにむしろ尻尾を貸してくれさえする。
「うちらの方針もかなり特殊なもので万人に受け入れられるものじゃないけど、一人じゃないってわかってるから折れずにやっていけてるしね」
 一人だったら折れていたかもしれない。二人だから進んで行ける。
「後は相談して決めた方向に向かってまっすぐに進めばいい。周りに何か言われたとしても一番の味方はずっときみのそばにいるのだから」
 そう言って見上げた先には何かを決めたようなユウがいて、ルーシャと共にこちらへ来ようとしているところだった。
 一番の味方。一番の理解者。もしもお互いにそうなれたらと立ち上がった玉兎の前に、一人の英雄が立ち塞がった。

●鏡合わせの二人
「しっかし、見れば見るほどソックリだな」
 なあ七海、と目を丸くしてぽかんとしている玉兎に語りかける五々六(aa1568hero001)に。
「……私、こっち」
 と死んだ魚のような目を向けるのは獅子ヶ谷 七海(aa1568)だ。
 五々六がそっくりだと言うのも無理はない。獅子ヶ谷も玉兎も種類は違うがぬいぐるみを抱いている。さらに、獅子ヶ谷の境遇は……従魔に襲われ、普通の生活を失ったという生い立ちは玉兎と似通っていた。
「五々六は、あっちで遊んでて」
 そっくりという言葉が気に障ったのかそれともいつものことなのか、獅子ヶ谷に暗に邪魔者扱いをされた五々六は部屋の隅へ行ってごろりと横になる。
 テーブルから少し離れ、二人きりで……少女と少女は向かい合った。
「竜見、さんは……なにを、したいですか?」
 普段ならばぬいぐるみを介しての会話を行なう獅子ヶ谷だが、その言葉は獅子ヶ谷本人の口から発せられた。たどたどしく、どこかに不安や怯えも滲ませながら。
「私は、愚神がきらい。お父さんとお母さんをころした、従魔がきらい。だから、ころすの」
 ころす。殺す。獅子ヶ谷の強い言葉に、ぎゅっとぬいぐるみを抱きしめる玉兎。その背中をユウが軽く、受け止めるという意思を持って精一杯の優しさで押す。僅かな動揺で顔を上げ、玉兎は頷く。
「わたしは……わたしとおなじひとを、なくしたい」
 震える声で、伝わるようにと言葉を発する。玉兎が自身の感情を強く出したのは、これが初めてだった。もしも今日が無ければ一生有り得なかったかもしれない、この場で勇気を貰ったからこその、一言。自分と同じような目に遭わないように、誰かを助けたいと獅子ヶ谷に言う。
「……そう、ですか」
 何かを考えるように猫のぬいぐるみに顔を埋めた獅子ヶ谷と、何か間違っていただろうかとまだ自信を持てていない玉兎。その後ろでどう言葉を掛ければいいかと悩むユウ。
 そこに、満を持して。その言葉が相応しい程、待ってましたと言わんばかりの大きな態度を見せつける英雄……ペンギンのMasqueradeが雰囲気を変えるべく咳払いを一つして。
「さて、そこな少女、そして英雄よ。心して聞くが良い」
 その声に、言葉に、思わず居住まいを正してしまう。それだけの強さがMasqueradeには備わっていた。
「リンカーが出来る事に限度など無い。出来ると思えば出来、出来ぬと思ったのならば出来ぬのだ」
 為せば成ると昔偉い人物が宣った。それと同じ……リンカーは人と変わらないと帝王は説く。
「リンカーに成ったからといって、歩いて大地を揺るがす事もなければ、言葉を発しただけで人を吹き飛ばす事も無い」
 だから。
「故に自身を……そして半身を恐れるな」
 玉兎とユウの出会いをMasqueradeは知らない。しかしリンカーになったのであれば、それを望んだのであれば。
「こうして教えを請うのであれば、向上心があるのであろう。成らば出来る筈だ。共に語らえ、共に笑え、共に泣け」
 まだお互いのことを知らないのならばこれから知っていけばいい。一人と一人ではなく、二人で。
「全てが貴公等の糧となる事を約束しよう。この帝王! Masqueradeがな!」
 正しく帝王。正しく英雄。それを見せつけられてユウは打ち震えた。何故キグルミがここに?とひっそり思っていなかったわけではないが、見た目に首を傾げたのは確かだ。だが……印象は打ち砕かれた。
「余は帝王! 民に非ず、人に非ず、然れど英雄であり帝王! Masqueradeである!」
「あー王様の妄言は何時もの事なんで聞き流していーッスよ」
 手を軽く振るDominoの声はユウの耳に届いていない。高尚な精神。障害があろうと崩して進んで行きそうな信念。同じ英雄であっても、これほど違うのかと。今日この日改めて、人を見た目で判断してはいけないという言葉を胸に深く刻むユウであった。

●終わりと始まり
「きょうは、ありがとうございました、なの」
 始まりよりも明るく顔を上げて礼を言う玉兎と、その隣に立つユウ。まだぎこちなくはあるが、二人の様子は随分とらしくなっていた。
 見送りをする玉兎に思い思いの言葉を掛け、部屋を去っていく中……最後に残ったのは獅子ヶ谷と五々六だ。五々六は寝転がりながら、たまに起き出しては菓子を食べていただけであり……今もそれは続いていたわけだが。
 余った菓子を包もうかと悩み始めていた玉兎に獅子ヶ谷は近付く。
「あの……報酬の、ことで」
 増やすならいくらでも、と請け負おうとする玉兎に、首を横に振る。
「大して……役に、立てなかったから……」
 けれど報酬の代わりに。
「また……いっしょにお話、してくれますか?」
 また。今日のように。次も。
「うん。……うん……! なんかいも、おはなし、したいの。かわりじゃ、なくて」
 これからも関わっていたいから、だから感謝の証として報酬を受け取って欲しいと玉兎は言う。それに少しだけ顔を綻ばせ、次はもっと役に立てるようにすると五々六を連れて獅子ヶ谷も帰り。
 そして、二人だけ。
「……ウサギさん。わたし……がんばる……がんばる、の」
 一人と一人ではなく、今日やっと二人になった能力者と英雄。
 始まったばかりの二人を応援するかのように、祝福するかのように……部屋には温かい夕日が差し込んでいた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 罠師
    Dominoaa0033
    人間|18才|?|防御
  • 第三舞踏帝国帝王
    Masqueradeaa0033hero001
    英雄|28才|?|バト
  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 薄明を共に歩いて
    アーテル・V・ノクスaa0061hero001
    英雄|23才|男性|ソフィ
  • 守護者の誉
    ニア・ハルベルトaa0163
    機械|20才|女性|生命
  • 愛を説く者
    ルーシャ・ウォースパイトaa0163hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • もふもふの求道者
    來燈澄 真赭aa0646
    人間|16才|女性|攻撃
  • 罪深きモフモフ
    緋褪aa0646hero001
    英雄|24才|男性|シャド
  • エージェント
    獅子ヶ谷 七海aa1568
    人間|9才|女性|防御
  • エージェント
    五々六aa1568hero001
    英雄|42才|男性|ドレ
  • 龍の算命士
    CERISIER 白花aa1660
    人間|47才|女性|回避

  • プルミエ クルールaa1660hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
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