本部

花と愚神と決死のNINJYA

雪虫

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 6~11人
英雄
10人 / 0~11人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/12/27 22:34

掲示板

オープニング


「おばあちゃん殿、一体どちらに行くでござるか?」
 背後からの声に振り返ると、ガイル・アードレッド(az0011)がいつもの派手なNINJYA装束でたま子の後ろに立っていた。格好こそ奇抜だが人懐っこく常に明るいガイルの姿に、たま子は皺だらけの顔をさらにくしゃくしゃに綻ばせる。
「おやガイルちゃん、今日は忍者の修行はいいのかい?」
「今から行こうと思っていた所でござる! しかしか、おばあちゃん殿の姿が見えたゆえ……どちらに行くでござるか?」
「ああ、神社のお掃除だよ。今年もお世話になったしねえ、来年もお願いしますってお願いついでに掃除のお手伝いに行くんだよ」
「ミーもご一緒するでござる!」
「ええ、修行はいいのかい?」
「ミーもジャパンのカミサマにお願いするでござる! それにおばあちゃん殿にはお世話になってるゆえ、お手伝いでござる!」
 元気いっぱいに両手を上げるガイルに、たま子はさらに顔を綻ばせた。ここはナニカアリ荘、門の前。たま子ことおばあちゃん殿ことナニカアリ荘の大家さんは、孫のようなガイルの申し出に嬉しそうに頷いた。


「じゃあ、お団子を買ってきますからここで待っていて下さいよ」
 神主はそう告げると財布を手に一人石段を下りていった。ガイルやデランジェ・シンドラー(az0011hero001)の協力もあり神社の掃除は無事終わり、あとは神主さんのご厚意に甘えておやつを食べるだけである。
「ガイルちゃん、デランジェちゃん、今日は本当にありがとうね」
「お礼にはオヨバナイのでござる。これも大事なNINJYAの修行でござるゆえ。拙者はミナサマのお役に立てるクールなNINJYAになるのでござる!」
「ふふふ。……?」
 たま子とガイルの会話を笑いながら聞いていたデランジェは、ふと感じた違和感に桃色の瞳を宙へと上げた。漂ってくる微かな、しかし明らかな悪意に、元殺し屋の英雄は相棒に声を張り上げる。
「ガイルちゃん、おばあちゃん、伏せて!」
 デランジェが二人に飛び掛かったと同時に、植物の蔓のようなものが三人に鋭く向かってきた。ガイルとたま子を突き飛ばしたデランジェの腕を、蔓が刃物のように掠める。
「ぐっ!」
「デランジェ!」
「ほう、勘のいいおなごじゃ。これは少し楽しめそうかの」
 聞こえてきた女の、悪意たっぷりの声色に、ガイルは咄嗟にデランジェと共鳴し二丁拳銃をその手に構えた。二丁拳銃パルファン……デランジェ愛用の銃のその向こうには、花から生えたような異形の女の姿がある。
「従魔……いや、愚神でござるか……?」
「ほう、リンカーとかいうヤツか? 並みの人間よりはエサの量も多そうだ……な!」
 愚神、アルラウネは笑みを漏らすと、蔓をガイル……ではなくたま子に定めて打ち放った。ガイルは咄嗟にたま子の前に立ち塞がり、二丁拳銃を乱射させる。
「が、ガイルちゃん」
「おばあちゃん殿、ミーにまかせて逃げるでござる!」
 ガイルの言葉に弾かれるように、たま子は石段へと走っていった。追いかけようとする蔓を、ガイルの銃が撃ち払う。
「お前みたいな青二才が、一人でなんとか出来ると思うのか」
「黙れでござる! 拙者、NINJYAの名に賭けて、おばあちゃん殿に一切手出しはさせないでござる!」


「緊急要請、華槙神社に愚神が一体出現した。ガイル・アードレッドとデランジェ・シンドラーが交戦している、至急現場に向かってくれ!」
 オペレーターの声に、あなた方は取る物もとりあえず急いでバスへと走っていった。オペレーターの握り締める受話器の向こうからは、助けを呼ぶたま子の涙声が響いていた。


 アルラウネは目の前の「獲物」に視線を向け、にやりとした笑みを浮かべた。愚神の操る雪のように白々とした蔓の向こうには、同じぐらい白い顔をして右腕を押さえる一人の青年の姿がある。
「威勢のいい童だが、所詮は威勢だけよなあ。ごっこ遊びなら家でやっておれば良かったろうに、ハハハハハ!」

解説

●目標
 愚神の討伐

●敵情報(PL情報)
 アルラウネ
 巨大な白い花から女の上半身が生えたような姿をしている。本体は境内の中心に位置しており、移動はしない。最も弱い者に攻撃を仕掛ける事で敵全体に隙を生み出そうとする。
・ホワイトウィップ
 花から生えた無数の蔓を操る。行動は槍のように尖らせて突き刺す、敵を捕まえる(拘束付与)、集めて盾にするの三種類。蔓は本体を倒さない限り何度でも再生する。
・ポイズンショット
 毒入りの種を前方10スクエアにランダムに飛ばす。当たると稀に減退(1)付与。
・ダルマロン
 アルラウネが生み出すダルマと栗を混ぜ合わせたような果実。背中を見せると突進してくる。1ターンにつき1~3体、蔓のある場所からランダムに発生する。
 
●マップ情報
 華槙神社
 30×30スクエア。石段を登った先に境内がある。現在神社内にいるのはガイル/デランジェとアルラウネのみ。現場にはバスでの移動となる。時刻は日中。視界の不自由はない。

●NPC情報
 ガイル・アードレッド/デランジェ・シンドラー
 回避適性/シャドウルーカ―。現在スキルを使い果たし、ダメージを負いながらアルラウネと交戦中。
武器:ニ丁拳銃「パルファン」

 松一たま子
 ナニカアリ荘の大家。愚神の出現をH.O.P.E.に知らせた後、オペレーターの指示を受け現在はナニカアリ荘でガイル達の帰りを待っている。

●持ち物情報
 各自携行品、必要物品があればH.O.P.E.に申請して構わないが、緊急を要するためすぐには用意出来ないものもある(マスタリング対象)。 

リプレイ

●バスの中
「今回は前情報がほとんど無いが、大丈夫か?」
 ウーラ・ブンブン・ダンダカン(aa0162hero001)の声に、郷矢 鈴(aa0162)は膝に下ろしていた視線を持ち上げた。調査関係の会社で「報告官」と呼ばれる彼女は、様々な情報から緻密な計画を立て、それを実行に移し達成する事を得意としている。しかし同時に、想定外の事態に面すれば対処出来ずにパニックに陥ってしまうという脆さも持っている。
「無い物を気にしてもしょうがないわ。なんとかしましょう」
「うぅむ、かなり不安だが……まあ、最初は解らない前提で観察するのがいいかもな」
「解らない前提?」
「普段とスタイルは違うが、『何かが起こる』と思って待ち構えていれば、驚きも少ないだろう」
 豪快な大戦士の言葉に、鈴は顎に指を当てた。想定外を想定する、など言葉としてはややおかしいが、自分とは違い、戦士としての経験に基づいた直観を信じて行動するダンダカンの言葉は、十二分に試してみる価値のあるものだ。
「なるほど……参考にするわ」
「今回はフツーに助けルのネ」
 一方、バスの最前席では、シルミルテ(aa0340hero001)が何故かシルクハットについている、堅結びされたうさ耳を解こうと必死の形相を見せていた。残念ながら歌唱用合成音声では緊迫感がよく伝わらないが、このまま現場に到着してしまった時を考えればそれは必死にもなるだろう。
「次に見捨てるためにも今回は、ね。そもそも見捨てても自力で立ち上がる事の出来る人しか見捨てないよ」
(変ナ形デ気に入っテルなァ……)
「そんな事よりも……すみません、戦闘が終了した報告に私達の内の誰かが行くまで、神社の石段の下で待機して足止めをしてもらえませんか? 参内者や買い物から帰ってきた神主が戦闘に巻き込まれないように」
「分かりました、その件に関してはお任せ下さい」
 バスの運転手、兼H.O.P.E.職員の返事に頷いた佐倉 樹(aa0340)は、腕を組んだまま無表情でバスのシートに座り続けた。興味が無い対象や物事に対しては割と本気でどうでもいい対応をする樹が「次」とまで口にするのだから、本当に気に入ってはいるのだろう。シルミルテの言う通り大分「変な形」ではあるが。そして樹達の斜め後ろでは、同じく「お気に入り」救出任務に闘志を燃やす者がいた。
「……ん、ござるを助ける!」
「最近そのセリフばかり聞いている気がするが……」
 耳と尻尾をピンと立てて拳を握り締めるユフォアリーヤ(aa0452hero001)(以下リーヤ)に、相棒の麻生 遊夜(aa0452)は何とも言えない表情をした。認めた者以外を拒絶する超絶人見知りのリーヤがこれ程までにやる気を出すとは……と思う半分、その他諸々が半分だ。「その他諸々」の詳細についてはご想像にお任せするが。
「でもま、そうだな。おばあちゃん殿の涙ながらの依頼だ、連れ帰らなきゃ男が廃るってもんよ」
「……ん、お姉ちゃんが今行くよ」
「忍者に憧れる青年、か……。無茶をしていなければいいが……」
 リーヤがクスクスと笑みを零していたのと同じ頃、無月(aa1531)は窓の外を眺めながらそんな事を呟いていた。無口な、闇の住人である忍者としての道を全うせんとする彼女の顔を、傍らに座るジェネッサ・ルディス(aa1531hero001)が興味深げに覗き込む。
「おや? その子に興味を持ったのかな?」
「……今はただその青年を助け、任務を遂行するだけだ。私はガイル君の護衛を行う。彼に加えられる攻撃からその身を挺してでも守り抜く」
「そうね、今の内に初動の打ち合わせをしておきましょうか。情報は無いに等しいけれど、出来る備えはした方がいいわ」
 無月の言葉を拾った鈴は、そのまま打ち合わせの指揮を取るべく凛と声を張り上げた。その影でカイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)が、手に小さめのビニール袋を携えたまま座っている。
「カイ……それ、あんぱんよね? 甘いものが大の苦手のカイが急いでコンビニまで行ってあんぱんを買ってくるなんて……何に使うの?」
「いいから幻想蝶にしまっとけ。さすがにこれ持ったままは戦えねえしな」
 カイの言葉に御童 紗希(aa0339)は一先ず頷いてあんぱんを仕舞った。どうやら戦闘に使う訳ではなさそうだが、だとしたら一体何に……。こうして、紗希の心に任務とは全く関係ない所で謎を一つこしらえたまま、バスは一同を乗せ華槙神社へと走っていった。

●救出
『ガイルちゃん、大丈夫?』
 デランジェ・シンドラー(az0011hero001)の声に、ガイル・アードレッド(az0011)は呻きを以て返す事しか出来なかった。元暗殺者であるデランジェと契約し戦う力を得たとは言っても、一人で愚神を相手に出来る程の力量は今のガイルにはない。愚神、アルラウネは目の前の「獲物」に視線を向け、にやりとした笑みを浮かべた。愚神の操る雪のように白々とした蔓の向こうには、同じぐらい白い顔をして右腕を押さえる一人の青年の姿がある。
「威勢のいい童だが、所詮は威勢だけよなあ。ごっこ遊びなら家でやっておれば良かったろうに、ハハハハハ!」
 そして愚神はトドメを刺すべく、槍のように尖らせた蔓をガイル目掛けて走らせた。蔓がガイルの胸を貫く、その直前に、ウィザードセンスに威力を増したブルームフレアが愚神を襲う。
「ソレを弄るのは」
『コッチが先約ヨ!』
「い、樹殿! シルミルテ殿!」
「今度はこちらが相手だ」
 全速力で駆け付けた樹に続いて境内に到着した真壁 久朗(aa0032)は、セラフィナ(aa0032hero001)と共鳴しレッド・フンガ・ムンガを愚神目掛けて振り投げた。赤い投擲斧がアルラウネを襲う、その隙を置かず、リーヤと共鳴した遊夜、ダンダカンと共鳴した鈴が同時に的に狙いを定める。
『……これでも耳は良いの……貴女、気に入らないわ』
 直前に聞こえてきた愚神の台詞にリーヤは狼耳をぴこぴこと動かし、威嚇に毛を逆立てながら、鈴と共にファストショットで人型愚神の眉間を狙った。ジャックポット二人の高速射撃は、しかし盾のように寄り集まった白い蔓に阻まれる。
「植物型か……人型が本体とは限らん、面倒だな」
『……ん、全部潰せば、問題ない』
「生意気な犬風情が、この我に敵うとでも……」
 口元を吊り上げながら遊夜達を見下すアルラウネは、そこで最初の獲物……ガイルに近付こうとする人影が複数ある事に気が付いた。「エサ」の息の根を止めようと意識を向けるアルラウネに、この場に不釣り合いとも言える楽し気な声が聞こえてくる。
「おぉっ! なんかでっかい綺麗な花があるのぅ。そこのおなご、写真撮影してもいいかのぅ?」
 アルラウネの返事を待たずにたかれた白く眩しい光に、アルラウネは敵の攻撃かとガイルから一瞬意識を逸らした。見れば、そこには蜘蛛の巣の意匠が特徴的な、紅黒の和装を扇情的に着崩した一人の女の姿があった。
「ふーむ、下の花は蔓性の白い花じゃから、カザグルマあたりかのう? 花言葉は心の美しさじゃ。合っておったらそなたの名前でも教えてくれぬか?」
「何をごちゃごちゃと……たわけた事を抜かす小娘が!」
 アルラウネは目を吊り上げると、女……カグヤ・アトラクア(aa0535)へと蔓を放った。白い蔓が紅黒の蜘蛛の身柄を捕らえる前に、木霊・C・リュカ(aa0068)の放ったファストショットが蔓を細かな雪へと変える。
「お困りかな? NINJYA君。助太刀参上仕るでござるよ!」
『……ん、一人で良く耐えた、な。流石、忍者達だ』
 オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)の言葉にリュカは「ふふー」と笑みを漏らすと、金木犀の瞳を白き花の愚神に向けた。その隙にクレア・マクミラン(aa1631)がガイルの元へと素早く駆け寄り、本部から持ち出した救急キットをその場に広げる。
「忍び耐える者こそ、東洋のアサシン『忍者』だとお聞きしましたが、なるほど、貴方は確かにそれだ」
『援軍です。まずはその傷を癒しましょう』
「我に背を向けるとは、いい根性だなエサごときが!」
 リリアン・レッドフォード(aa1631hero001)の声を遮るように、アルラウネの蔓がクレアの背中に襲い掛かった。それを予測していた古代・新(aa0156)が、ライオットシールドを携えて愚神の攻撃を弾き返す。
「俺の名前は古代・新! 世界を旅する高校生冒険家見習! 神様の領域で悪さとはふてぇ野郎だこの野郎!
 お前らが何を求めてこの世界に来ているのかも知らねえし判らねえし興味もねえ! だがこの三か月ではっきり判った事が一つだけある! それはお前達が余計な悲しみと嘆きを作り出すって事だ! 誰かを泣かせるって事だ!
 だからこの手でぶっ飛ばす! 神様に代わって『皆の力』でぶっ飛ばす!」
(随分とまともに怒ってますね……やはり「こういう事」は逆鱗に触れるのですね……)
 レイミア(aa0156hero001)は心中でそっと呟き、新の視界を通してアルラウネの姿を映した。姿だけは美しい、しかし異形の怪物は、その秀麗な顔を醜悪に歪め目の前の獲物に泡を飛ばす。
「うるさいのう……ぎゃあぎゃあ喚くな小童が!」
 そして再び繰り出される蔓の群れを、紗希の握り締めたライオンハートが一刀の内に斬り伏せた。その間にガイルの治療を完了したクレアが、ガイルの顔を覗き込む。
「ガイルさん、あの愚神と戦っている最中、何か気付いた事はありますか?」
「あの蔓に捕らえられると、しばらく身動きが出来なくなるでござる。それから何やらアヤシゲなシードとフルーツを出すでござる。申し訳ないがそれ以上は……」
「分かりました、皆さんに伝えておきましょう。それでは、反撃と行きましょうか」
 クレアは無線機で仲間に連絡した後その場に静かに立ち上がり、敵を弱体化させる結界を周囲へと展開させた。ライヴスフィールドのそのただ中に立ちながら、クレアは毅然と言葉を放つ。
「さて、貴方には新しい技術の実験台となって頂きます。敵を舐めてかかるのは二流のする事だと、貴方に教えてあげましょう」

●反撃開始
 愚神と英雄は、相違点は多々あれど、根本的には同じ存在だと言う説がある。どちらも異世界からの来訪者であり、この世界のライヴスによって具現化する事が出来る。ただ能力者と契約する事で具現化する英雄とは違い、愚神は生きとし生けるものから強制的にライヴスを搾取する。そして一度でもライヴスを強制的に奪った者は、英雄となる機会を永久に失うのだとも言う。愚かな神。堕ちた神。ただこの世界の生命を蹂躙するためだけに顕現する招かれざる異邦人。その一種子であるアルラウネは、眼前に立ち並ぶリンカー達の姿ににやりと歪んだ笑みを浮かべた。
「まあよい、まあよい、まあよいィィィィ。活きのいいエサが増えただけの話……そんなに望みと言うのであれば、遠慮なく我が養分にしてくれるわミミズ共!」
 アルラウネが叫んだと同時に、アルラウネから伸びる数多の蔓から何か丸いものがゴトリと落ちた。栗のような形にダルマの顔を浮かべたそれは、死角から背を向け立っているリンカーに襲い掛かろうとする。
「何をする気か知らんが害は確実だ、躊躇う理由がねぇ」
 仲間に突進しようとする謎の果実、ダルマロンを、境内入口にて全体の警戒に努めていた遊夜がスナイパーライフルで撃ち抜いた。その隙に、再びガイルを狙って放たれた愚神の蔓を、無月の操る隼風が疾風のごとく薙ぎ払う。
「ここまでよく頑張った。これより私達は剣となりて愚神を討ち、盾となりて未だ傷を負う君の事を護ると誓おう。だが、もし私達が危機に陥った時、君が剣となり私達を助けて欲しい……出来るか?」
 ただ護る訳ではない、彼を信じているからこそ仲間として頼りにしたい……そう願う無月の目に、二丁拳銃パルファンを抜くガイルの姿が映り込んだ。ガイルはそのまま銃を乱射させ、無月とガイルに迫ろうとする蔓の群れを瞬爆させる。
「了解でござる!」
「そうか、これで安心して戦えるな……行くぞ、ジェネッサ!」
『了解!』
「のう、……ううむ、名前が分からぬと不便じゃのう、何故こんな妙な所を狙ったのじゃ。そなたはカザグルマの愚神で合っておるのか。聞こえておるか。おーい」
 一方、カグヤはライオットシールドで迫りくる蔓を防ぎながら、アルラウネに張り付くようにずっと言の葉を投げ続けていた。それはまるで近所の野良猫に話し掛けるような気安さだったが、もちろん何も考えずの行動という訳ではない。敵の注意を引きつつ、言動や表情から思考や性格を読み解こうとする……とは言っても思考が特殊な愚神との交流は楽しい、戦闘と愚神弄りがしたいだけ……という私情が混じっているのは否めないが。
「うっとうしい蜘蛛女じゃ、早々に潰れてしまえ!」
『そろそろ真面目にやって。アレは投降するようなタイプじゃないよ』
 響いてきたクー・ナンナ(aa0535hero001)の声に、カグヤは不服そうに唇をむうと尖らせた。白目部分さえ塗り潰した異質に黒い右目の義眼に、未練たらしく愚神を映すが現実は変わりはしない。
「つまらんのぅ。ああいうの、庭に一株欲しいというのに」
 色々と諦めたカグヤは、ようやく手に一冊の魔法の書を出現させると、攻撃の最良地を決めるべく愚神から距離を離した。ようやくうっとうしい蜘蛛が離れた、と意識を戻したアルラウネの視界に、鈴やリュカ達の攻撃に粉砕されるダルマロンの姿が映り込む。
「……ッ、地に平伏せミミズ共!」
 手数を減らされた事にいよいよ激昂したアルラウネは、一つ息を吸うとリンカー達に向かって種のような物を飛ばしてきた。ガイルの言っていた「アヤシゲなシード」と判断した久朗は、ライオットシールドを構え紫色の種を防ぐ。
「前も似たような奴と戦ったな」
『クロさん、あの時もとりあえず突っ込もうって言ってましたよね?』
 脳に響くセラフィナ(aa0032hero001)の声に、久朗は苦く笑みを浮かべた。裏表のない無邪気な言葉が、しかし妙に胸に突き刺さるという事もある。 
「単細胞を否定出来なくなってきたな」
「あの種は恐らく毒ですので、当たらないようにして下さい!」
「うざったい蔓ですね、とっとと叩き潰しますよ!」
 クレアの注意に紗希は一見丁寧な、しかし普段からは明らかに荒っぽい言葉遣いで口を開くと、全長160センチの大剣を勢いよく振りぬいた。姿形はほぼ変わらず、性格も紗希寄りではあるのだが、共鳴すると相棒のカイの影響で好戦的な面が強く出てくる。紗希は少女の姿のまま狂戦士のごとくニイと笑うと、高揚のままに白い蔓を猛る動作で薙ぎ払った。蔓は霧散したが、しかしすぐに何事もなかったように生え変わる。その姿に、援護のために距離を置いていた樹はふむと声を漏らした。
「先程から思っていましたが、あの蔓の再生力は相当なものですね」
「だったら一気に行くまでだ! 植物を断ち割るのは昔っから斧の役割だろうしな!」
 樹の言葉に新はレッド・フンガ・ムンガを振りかぶると、渾身の力を込めて蔓の群れへと叩きつけた。合わせて遊夜がスナイパーライフルで蔓を狙い、白くぶ厚き壁に穴を穿つ。
「アウトレンジこそが援護の華と言うものだぜ! 完璧だろう?」
『……ん、最も効率的。動かないオバサンが相手なら特に、ね』
「何か言うたか犬ッコロが!」
「ずいぶん口の回る愚神のようだが、こちらを忘れて貰っては困るな」
 激昂する愚神の言葉を遮るように、久朗が穿たれた穴を逃す事無くブラッドオペレートを差し向けた。同じくカグヤが、鈴が、リュカが、それぞれの得物を以て愚神に攻撃を叩き込む。人型を狙った攻撃は白い蔓に阻まれたが、ドレスのごとく広がる白い花弁はズタズタに切り裂かれた。
「く……おのォ、おのれ虫ケラ風情が! よくも、よくも我の花を!」
 アルラウネは再生した蔓を、怒りのままにリンカー達に叩きつけんと振り上げた。その視界に闇が人の形を為したような黒髪の女が、何故かその姿を二つにしてアルラウネに飛び掛かる。
「なッ!?」
「無月、推参! 邪なる魂よ、依代より離れ己がいた世界へと還るがいい」
『いたいけな青年に危害を加えようなんて、あまり感心しないな』
 無月のジェミニストライクに咄嗟に壁を作ったアルラウネの死角から、「くふふ」と舌舐めずりをする肉食虫の声が聞こえた。一時は距離を取りリジェネーションを掛けたカグヤが、楽し気に目を細めながら再び愚神に肉薄する。
「最後の言葉を聞きに来たぞえ。―述べよ」
 そして放たれたパニッシュメントに、愚神は大きく体を仰け反らせた。しかし、まだ倒れはしない。その瞳をギイと開いて紅黒の蜘蛛を睨み付ける。
「ありがたく聞かせてやる、我のエサとなれ虫ケラがァッ!」
 槍のごとく迫る蔓を、しかし鈴の放ったフェイルノートの矢が撃ち抜いた。歯ぎしりするアルラウネの前に、白銀の戦士が右の緑眼と左の機械眼を煌めかせながら躍り出る。
「いずれにせよ、お前は俺達が倒す。無駄な抵抗はやめるんだな」
「おのれ、おのれ、おのれェッ!」
 聞こえてきた久朗の声に、怒りに我を忘れたアルラウネは再び槍の蔓を敵へと放った。久朗はそれをガードせず、膝をついて地面に沈む。武器さえも手放した傷付いた獲物の姿に、愚神に狂った笑みが浮かぶ。
「勝った! 死ねッ!」
「残念ながら、死ぬのはおまえの方ですよ!」
 トップギアにより力を溜め身を潜ませ続けた紗希は、大剣に重心を掛けつつ愚神の頭へと振り下ろした。そこにさらにクレアも踏み込み一気呵成に攻めかかる。
「覚悟を決めた兵に我々の到着まで粘られたのが、お前の敗因だと知るがいい」
 離れた二人を補うように、今度は樹の放ったブルームフレアが白き花を飲み込んだ。新も的確な攻撃タイミングを見極め、ライヴスの炎が晴れた所で、妨害される要因を一瞬でもゼロに近付けるべくライヴスショットを撃ち放つ。
「ここだガイル! NINJYAだったら、いや此処で一撃かまさなきゃ男じゃねえだろうよ! やっちまえ!」
 新の言葉にガイルはニ丁拳銃を抜き、愚神の心臓目掛けて両腕から弾を放った。アルラウネの胴体にそれが命中するのを見届け、リュカと遊夜もスナイパーライフルのキスを招かれざる愚神へ贈る。
『ごっこ遊びの悪役には、似合いの最後だな』
「『さようなら、良い旅を』……ってな」
 ブルズアイとファストショット……高精度の狙撃と高速の射撃を同時に喰らったアルラウネは、一瞬の内に枯れ果て、そして虚空へと散っていった。

●境内にて
「全く、無茶をするものだ」
 溜息を吐きながらも治療を施してくれたクレアに、久朗は苦笑を以て答えた。攻撃を喰らって見せたのはあくまでもブラフであり、愚神に演じたそれよりも大きな傷は負ってはいない。それでも、クレアは心配からの苦言を呈せずにはいられなかったし、久朗は年の離れた姉のようなクレアに反論する事は出来なかった。
 そんな久朗の元に、樹は無表情で近付いた。親密な宿敵のような、気楽な腐れ縁のような、一言では表しがたい奇妙な縁の二人の視線が交錯する。
「ご無事で何より、単細胞」
「そっちこそな、貧乳」
「シルミルテさん、無事に勝てて良かったですね」
 セラフィナはシルクハットの友達の姿を認めると、少女のように華奢な手でシルミルテとハイタッチした。その美しいエメラルドの瞳に映らぬ所で第二の戦いが始まっていたが、この世には目に映さない方がいいものだって存在する。
 そしてガイルは、口にあんぱんをねじ込まれ力いっぱい呻いていた。
「愛と勇気だけが友達のあんぱんをお前のために買ってきてやったぞ。今回はよくやったな」
「んんん~、んんん~!」
(……出発前にコンビニに寄ってたのはこの為ね……)
 半笑いでガイルの口にあんぱんをねじ込むカイの姿に、紗希はそんな事を考えていた。酒と辛いものを愛し、甘いものと生魚を大の苦手とするカイは、至急されたカレーぱんに「どうして辛さを選べないんだ」と不満を洩らすレベルである。そんなカイがあんぱんを自ら食べる事などあり得ない。一体何に使う気なのかと思っていたが……。
「ツイデニ、オマエニコレヲプレゼントフォーユー。NINJYAインパクト超ジュウシ! コレデオマエモ……」
と、カイは何故かカタコトで『毒々しい髪染め』と呼ばれるものを取り出した。某動物型ロボットの秘密道具がごとく出されたそれに、紗希が「あ」と声を上げる。
「それ、カイが毛根と頭皮における安全性が確認できないと使えな……モガ!」
「超スーパービューテフルセクシー……あー、単語が出てこねぇ……とりあえずNINJYA! YEAAAAAAAAAH!」
 咄嗟に紗希の口を塞いだカイは、青い瞳をギラリと光らせガイル目掛けて突進してきた。その手に持たれた不穏過ぎる代物と、2メートル近い大男の進撃に、身長169センチのガイルは思わず悲鳴を上げる。
「カ、カイ殿、ちょっとウェイ……ぎゃああああ!」
 ガイルは黒き巨人の進撃から逃れるべく全速力で駆け出した。そしてガイルが逃げ出したその先には、反対方向からガイルに突進してきたリーヤの豊満な胸があった。
「……ん、頑張った、えらいえらい」
 ガイルの頭に飛び掛かったリーヤはそのままガイルを抱きかかえ、母性本能全開でガイルの頭を撫でさすった。その姿は子供を褒める優しい母親そのものだったが、現在進行形で胸に埋もれているガイルの方はそれどころではない。
「ユフォアリーヤ殿……! い、息が……息が……!」
「デランジェさん、さっきの二丁拳銃を見せてもらえるか? 最近は近接型拳銃術に興味があるんだよな、あれもロマンだ」
「あらん、それも素敵ねん。いつか見せてもらえると嬉しいわん」
 遊夜とデランジェはガイルの訴えを華麗に無視し、二丁拳銃のロマンに華を咲かせていた。ようやくリーヤから解放されたガイルに、セラフィナがぱたぱたと足音を立てて近付いてくる。
「ガイルさん、デランジェさん、お久しぶりです! やっと挨拶が出来ました。ふふ、今のガイルさん、漢って感じの目をしてますよ」
「見捨てテモ、最終的には助けルし お願イされレバちゃーント助けるヨ! 」
「これからも精進する事だ。それが、君の想いを叶えるただ一つの道なのだから、な」
「そういえば、ガイルさんがクリスマスイヴ大変だったって噂で聞いたけど大丈夫だったの?」
 セラフィナの言葉にシルミルテ、無月が続き、最後に樹がガイルの顔を覗き込んだ。クリスマスイブの話題にしどろもどろになるガイルをよそに、ジェネッサはデランジェの方に歩み寄り、にこりと笑みを浮かべて見せる。
「同じ銃を嗜む者として、いつかゆっくり話をしたいね。トリガーハッピーって訳じゃないけどね。でも、デランジェ君は銃よりも綺麗な花の方が似合うかな」
「あらん、だったら次の機会に、デランジェちゃんに似合うお花を選んでくれたら嬉しいわん。素敵な人とのデートは大歓迎よん?」
 魅力的なウインクをする好青年のような「お姉さん」に、デランジェもまたいたずらっぽい笑みを浮かべて応えてみせた。そんなガイルとデランジェに、クレアとリリアンが声を掛ける。
「貴方には行く所があるでしょう。本部への報告と後処理は我々にお任せを」
「おばあちゃん殿、でしたか。すごく気にしてらっしゃいましたから、安心させてあげて下さいね」
 二人の言葉に仲間達を見回したガイルに、幾人かが頷きを以て返した。ガイルは拳を握り締め、一同に大きく頭を下げる。
「ミナサマ、この度はカタジケノウでござる! モウシワケないでござるが後はおタノミ申すでござる!」
「ありがとう、それじゃあねん」
 そして、ガイルとデランジェは石段を駆け走っていった。その後ろ姿を眺めながら、無月がぽつりと声を漏らす。
「NINJYA、か。万物は時の流れと共に変化するのが道理。もしかすると、彼こそが未来の忍びの姿なのかもしれないな」
「念のために境内を調査しておきましょうか。愚神が突然現れた痕跡が全くないとも限りませんし」
「そうだね、さっき飛ばしていた種なんかが残ってないとも限らないし」
 樹とリュカの提案に、一同は境内の探索を開始した。痕跡や残骸を探しながら、レイミアが新に声を掛ける。
「ところで、何であんなに斧投げが正確なんですか?」
「旅してりゃ狩猟に斧使う村なんてざらだぜ? 練習した事もあるしな」
「今回は前情報がほとんど無くてもかなり何とかなったじゃないか」
「そうね。 『何かが起こる』と思って待ち構える……今後も参考にしておくわ」
「種も果実も残ってないのう……庭に埋めて育てようと思ったのに……」
「まだ諦めていなかったのか……」
 ダンダカンと鈴、カグヤとクーのコンビの横を通り過ぎながら、樹とシルミルテは社の中へと入っていった。無線機で石段下にいるH.O.P.E.職員と連絡を取り、すでに戻ってきていた神主には了解を取っている。触れないよう気を付けつつ異常がない事を確認し、二人はご神体に向かって揃ってぺこりと頭を下げる。
「お騒がせしました」
「ゴめんネ」
「とりあえず、異常はないようね」
 鈴は全員の調査結果を把握すると、「報告官」らしく無線機でH.O.P.E.職員に終了を告げた。程なくして腕に大量のビニール袋をぶら下げた神主が登場した。
「み、みなさん、ありがとうございました。私が留守にしている間に大変な事があったそうで……そうだ、これ、お礼の団子です。みなさんの分も買い足してあります。途中ですれ違ったガイル君にも『みなさんに渡してくれ』って」
「なんで礼に団子なんだよ。どうせだったらビールに……もが!」
 文句を言い掛けたカイの口を、紗希がお返しとばかりに塞いだ。実は見た目よりも大食漢なレイミアが目を輝かせる。
「頂きましょう!」
「そうですね。せっかくなので頂いたらみんなで掃除もしましょうか。愚神に荒らされたまま新年を迎えるなんて大変ですし」
 セラフィナの意見にほとんどが同意を示し、一先ずは休憩タイムとなった。銘々団子とお茶を手にし(ただし一部は除く)、お決まりの文句を口にする。
「いただきます」

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 告解の聴罪者
    セラフィナaa0032hero001
    英雄|14才|?|バト
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 再生者を滅する者
    古代・新aa0156
    人間|18才|男性|攻撃
  • エージェント
    レイミアaa0156hero001
    英雄|16才|女性|ブレ
  • エージェント
    郷矢 鈴aa0162
    人間|23才|女性|命中
  • エージェント
    ウーラ・ブンブン・ダンダカンaa0162hero001
    英雄|38才|男性|ジャ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • 深淵を識る者
    シルミルテaa0340hero001
    英雄|9才|?|ソフィ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • おうちかえる
    クー・ナンナaa0535hero001
    英雄|12才|男性|バト
  • 夜を切り裂く月光
    無月aa1531
    人間|22才|女性|回避
  • 反抗する音色
    ジェネッサ・ルディスaa1531hero001
    英雄|25才|女性|シャド
  • 死を殺す者
    クレア・マクミランaa1631
    人間|28才|女性|生命
  • ドクターノーブル
    リリアン・レッドフォードaa1631hero001
    英雄|29才|女性|バト
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