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奇襲
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最終発言2015/12/24 15:27:01 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2015/12/23 16:11:59
オープニング
「ちくしょう! なんてこった! 全く、このまま年を越せないなんて俺はゴメンだぜ!」
若い男のエージェントが叫ぶ。
「増援はまだなのか!? これじゃ手一杯だ! やられるのがオチだぞ!」
中年に近いベテランエージェントがライヴスメモリーに触れて、AGWを起動。どうやら事態は一刻を争う様だ。
場所は日本。最も土地の広い北海道の雪山での出来事。
冬も本番と言いたげに雪は寸分の狂いもなく降り注ぎ、まるで豪雨の様に降り積もっている。その場に派遣されたエージェント達は足元、いや、ほとんど身体全体を雪に埋もれながらそれらをかきわけ、凌ぎつつも慣れない戦闘に極端に体力を奪われていった。
相手はデグリオ級の従魔だった。それも山奥にある洞穴の中で大量に増殖している。その原因はある1人の愚神の存在だった。
その目的は不明。しかし、ライヴスを回収しどうやらもう既にドロップゾーンを形成した模様。つまりゾーンルーラーと言う訳だ。その証拠が、デグリオ級の従魔。セルウスの大群だ。愚神は一般人、最悪何者かの能力者から憑依して大量のライヴスを得た後、その山奥の洞穴にこもりこの時を待っていたと言わんばかりにドロップゾーンを形成した。
果たしてその憑依された何者かは生きているのか? 謎は深まるばかりだ。
徐々に体温が低下していく。気が狂う程の寒気の中でエージェント達は身動きが取り難いにもかかわらず例の洞穴の周囲を行き交うデグリオ級の従魔とのやや劣勢な戦闘に励んでいた。しかし希望が全くない訳ではなかった。増援が来ると言う知らせが自らの戦闘意欲をかきたてたのだ。
増援はヘリに乗って空からやって来ると言う。相手を殲滅するのは無理でもこちら側がやられるのは時間の問題だ。今すぐにでもその増援が奇襲を仕掛けなければさすがに勝機は薄い。従魔にしても愚神にしてもこんな環境下で戦闘をするのは人間には不慣れだが、あまり関係のない話なのかも知れない。ただ、ライヴスを介した特殊能力者。H.O.P.Eのエージェントにとっても同じ事なのかも知れないが。
「確か増援は全部で12人だったよな?」
「ええ。しかしこの悪天候の中で果たしてどれだけ時間がかかるかどうか……」
「それまで持ちこたえれば良いだけの話じゃないの!」
「そうだね。それに僕達には英雄だっている。その12人のエージェント達がどれ程の実力を持っているのか期待しよう」
「ああ。それまでは俺達がここを死守するんだ。街中にでも入ってこられたらヤバイ事態だぞ」
未だ、愚神の目的は不明のままこうして雪山の戦いは始まった。微かな希望を胸にいずれ来たるべき12人のエージェント達の奇襲作戦を成功させる為に。
解説
またもやバトル。今回は結構緊迫した事態からオープニングは始まります。
ドロップゾーンを形成した愚神。それにデグリオ級の従魔まで大量に出現する北海道のとある雪山での出来事。
そこで今回、提示したい任務は以下の通りです。
・従魔の殲滅隊と愚神討伐組とに仲間達と連携して別れる。
・愚神の本来の目的及び真相に迫り、真実を追求する。事の発端の経緯に迫る。
・愚神に憑依された何者かの消息を確認する。
・ドロップゾーンの拡大を抑える為に、あるいはドロップゾーンを拡大させる前にゾーンルーラーである愚神を倒す。
・オープニングで戦っていたエージェント達の安否の確認。もしくは保護。
まあ、色々ありますがもちろん自由に動いて貰っても全然かまいません。あくまでPLさん達のPC達に活躍してもらう為の場ですから、これは自分の意見を挙げたまでです。特に難しく考えないで、何か意見や考えがあるならばそれも歓迎です。皆さん、もっと面白くなる様なネタがあると思うのでこの局面を打開出来るような戦闘方法等、自分のPC達の活躍の場を広げるのならばそれもありだと思います。
それでは熱いプレイングお待ちしております!
リプレイ
雪山に一台の大型ヘリが出現した。
「援軍か!?」
中年のエージェントは未だデグリオ級の従魔。セルウスの大群に降り注ぐ雪と共に圧倒されつつも、思わず声を張り上げた。体力も底を尽きかけていたがそれは確かな希望だった。
「へ……へへ。死に物狂いで戦ってきた甲斐があったってもんだ」
その大型ヘリの出現をどう受け止めたのか? 若いエージェントの男は今にも倒れそうだ。
雪山の洞穴に未だ潜んでいる謎の目的を持った愚神。何者かの憑依体と化し、ドロップゾーンまでも形成した。いわばゾーンルーラー。
もしかしたらかなり用心深く、知性の高い愚神なのかもしれない。
その謎を解くべく、今ここにいるエージェント達の救助も兼ねて愚神そして増殖する従魔討伐に抜擢されたのは新たな精鋭部隊。
他でもない8人のエージェント達だった。
――大型ヘリコプターの中――
「皆さん。今回は愚神、そして大量の従魔が相手です。殲滅はもちろんの事ですが何せ土地が土地です。この吹雪の中、地形の表面は雪で真っ白な上、視界は極めて見えにくくなっています。ライヴスを介した英雄との共鳴による戦闘上ではあまり問題はありませんが、万一に備えて作戦は必須です」
鋼野 明斗(aa0553)は見た目は特に何も気にしていない風を装いつつも神妙にその場の空気を読んで敢えてそう問いかける。
『その為の奇襲作戦ですわね!』
鋼野の英雄。ドロシー ジャスティス(aa0553hero001)もその気性はともかく、やる気は十分に漲っていた。スケッチブックに書かれたその台詞に意気込みを露わにする。
「――そう。作戦は奇襲と言えば大袈裟に聞こえるかもしれないけど、相手の愚神がこの雪山の奥地に潜んでいるとなると選択肢は2つに分かれる」
「従魔討伐組……そして愚神の殲滅」
あくまでも穏やかにかつ真剣な口調で語る鋼野に応じたのは、月鏡 由利菜(aa0873)だった。彼女は続けてこう言った。
「だけど、本当に大丈夫でしょうか? いくら大規模作戦で負傷者が多かったにしても今ここにいる8人。つまり無傷で生き残った私達だけで……本来ならば12人の要請があったはずなのですよね?」
「だからこその奇襲作戦。今ここにいる私達だけで何とかしなければならない。従魔、セルウスの大群も侮れないレベルに達している」
冷静に切り替えしそれに応対したのはリーヴスラシル(aa0873hero001)。他でもない由利菜と誓約を交わした英雄。
そう。ラシルの言う通りだった。愚神はもちろんの事だが、大量に増殖する従魔もデグリオ級と呼ばれるセルウスにまで成長していた。その知性は儚いにしても、ミーレス級以下の従魔を従える事が出来る。
つまり被害の拡大はまだここだけに止まる事を知らない。最大の脅威である愚神が深い山の中の洞穴にいる限り。その為の奇襲作戦なのだ。
それを今ここにいる8人のエージェント達だけでなんとか乗り越えなければならないのだ。愚神の目的は謎のまま、協力して作戦に当たらなくてはならない。
「とりあえず皆さん。スマホでのアドレス交換はもう済みましたでしょうか? 雪山用の登山靴のレンタルはこちらで既に手配済みです。ここから降りる前に忘れずに着用していって下さい。それと他の人達は何かありますか?」
「はーい。人数分のスノーシューとハンズフリーの無線機なら持って来たよ。でも雪山用の登山靴があるなら無線機だけでオッケーかもね」
志賀谷 京子(aa0150)は明るい調子でいつもの様に猫かぶり。ニンマリとした笑顔を振りまく。その英雄のいつも京子にからかわれてる被害者のアリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)は思わず溜め息。
「わたし達は事前に持ってきた物はありませんが、H.O.P.E.の記録を呼んで過去にこの今現在、出現している従魔が観察された事があるか、それとこの周辺地域で未だ原因不明のライヴスが奪われた事件があったか、もしくは多発したかを本部職員に調べさせて貰いました」
エステル バルヴィノヴァ(aa1165)は皆に続いてそう言った。チェコ出身のエージェントで覚醒訓練による事故から幾つかの経験を経て自身の英雄である泥眼(aa1165hero001)と出会った。彼女は丁寧な物腰で結構重大な物事を現状認識として言う癖があり、時々周囲を困惑させる。その為か俗に言う高二病だと思われがちだ。
しかしそれに反応したのは他でもないアルプス山脈で育ったモニカ オベール(aa1020)だ。
「何かあったの!? こうなりゃ、あたしが全員救助するよ!」
「……モニカ。その情報は過去に起きた出来事だ」
彼女と誓約したヴィルヘルム(aa1020hero001)も少々手を焼いている様だ。
「それで? 何か分かったの? あたしもヒーローとして黙ってられないな」
東雲 マコト(aa2412)は正義感の強いキャスケット帽子がトレードマークの大学生。
だが、事実エステルの調査は貴重な情報源の1つだった。
『そうだな。確かに。何かあったのか? その昔この地で』
マコトの容貌。つまり女性としての立場は認めているがどうにもその自称ヒーロー説にペースを乱されがちな英雄バーティン アルリオ(aa2412hero001)は真っ赤なグラサンと青のロングコートがトレードマークだ。
「結論を言うと残念ながら答えはNO。あまり有益な情報は得られませんでした」
「だとしたら、なおさら謎ですよね?」
それに同調すると同時に異を唱えたのはどことなく仕事を首にでもされたサラリーマン風の男。他でもない石井 菊次郎(aa0866)だ。サングラスにスーツ姿のどこか大人の雰囲気を纏っている。
「主よ。何が言いたい?」
テミス(aa0866hero001)は少し反論口調で異議を申し立てる。元来精霊の彼女はそう言う気質を宿しており、どこか尊大な態度を崩す事はない。
「いや、別に大した事は何も。ただ、なぜこんな山奥にドロップゾーンを形成したのか? ライヴスの供給源はどこにあるのか? 目的はライヴス以外にあるのか? そしてなぜこんな時期に……つまり今なのか? まあ、それとは別にこれは私情なんですがこの瞳と同じ色をした人を見た事は誰かありませんか? ええ。もちろんカラコンですよ」
ヘリコプターの操縦士がもう現場はすぐそこです。と、何気無く応答した。
『うっし! やっと目的地のご到着か! 相手が誰だか知らねえけど早速、大暴れしてやんぜ!』
最後に威勢の良い言葉を放ったのは東海林聖(aa0203)だ。それに倣うかのように英雄Le..(aa0203hero001)も一言。
『ヒジリー。ルゥ、お腹空いた』
こうして8人のエージェント。そして英雄達の奇襲作戦は始まった。
従魔討伐組は京子、アリッサ、由利菜、ラシル、モニカ、ヴィルヘルム、エステル、泥眼、マコト、アルリオ。
愚神の殲滅は聖、ルゥ、鋼野、ドロシー、石井、テミス。
もちろんこの吹雪が吹き荒れる広大な山地に取り残される形となった今、戦闘中のエージェント達の為に食料である温かいコーヒー、高級お弁当、そして全員が戦闘に不備の無い程度の由利菜が用意してくれた防寒具一式を取り揃えて。
「援軍だ!」
「やったぜ! 待ってました!」
今回の奇襲作戦を事前報告として受けていたこの吹雪の中の山の渓谷で未だに増殖するデグリオ級の従魔を相手に戦意喪失しなかったのは、あくまでもそれが目的だと言う事に他ならない。ここに残されたエージェント達のほんの微かな唯一の希望だ。
だが、彼等自身も気付いているだろうが、自分達の役目はもう終わったのだ。つまりこれは囮作戦。デグリオ級の従魔をこの山地にとどめる為に数少ないエージェントだけを派遣して被害を最小限に防ぐ。そしてそこから大型ヘリに乗ってやってきた8人のエージェント達の愚神及び従魔の本格的な殲滅。
つまり本当の戦いはこれからだ。奇襲作戦はこうして見事にここに取り残されたエージェント達の戦いを糧に、その体力を凌ぎ削り合いながらもジワジワと相手の思惑をこちら側に仕向けたのだ。泥沼の戦い。時間との戦いだった。奇襲作戦の成功を最大の焦点として。そして今この時、その作戦は見事にマッチした。繋がったのだ。
従魔討伐組にとってまず最初にこの吹雪が乱れる寒波の中、やるべき事は2つあった。
1つは言うまでもなく従魔との戦い。そしてもう1つはここに囮として残された最初に戦っていたエージェント達の救出。
すぐさまその囮のエージェント達に合流したのは京子とアリッサだった。
「よく頑張ったね。応援に来たよ。はい。これ差し入れのお弁当。ヘリの中で食べてね。ブランデー入りのスキットルもあるよ。でも飲み過ぎない様にね」
中年のエージェントと若いエージェントはまるで奇跡でも起きたみたいにその表情を輝かせた。
「おお、あんた等が今回の増援されたエージェントか。悪いがお言葉に甘えさせてもらう。こちとらもう疲労困憊だ」
「へ、こうVIP待遇されちまうと囮作戦もそんなに悪かねえな。だが、俺ももう限界だ。ヘリの中でゆっくりと眠らせてもらうよ」
次に戦っているエージェントを見つけたのはマコトとアルリオだった。
「待たせたな! ヒーローのお出ましだ!」
マコトはその戦闘に介入。元々弱っていたのか、その従魔は呆気なく倒れた。
「ありがとう。助かったよ。正直、もうダメかと思った」
「囮作戦とは言え、辛いものは辛いわね。ここからはあなた達に任せるわ。お願いね」
口々に言うエージェント達にマコトは照れ笑い。他人に褒められることに慣れていないのか、それが一段落ついた所で、早速食料を渡す。
「ハイッ! 温かいコーヒーだよ!」
『さすがにもう温くなっているけどな』
どうやらもう救助するエージェントはいない様だ。
従魔討伐組の京子、アリッサ、由利菜、ラシル、モニカ、ヴィルヘルム、エステル、泥眼、マコト、アルリオは早速戦闘モードに入っていった。
一方、愚神への本格的な奇襲作戦を行う聖、ルゥ、鋼野、ドロシー、石井、テミスは例の愚神が潜むと言われている洞穴付近でヘリから降下した。
「さあて、何が潜んでいるんでしょうねえ?」
クック、と笑いながら石井は自らの目的を達する為にその異様な雰囲気を醸し出している洞穴へと近付く。
――その時だった。
突如として、いや、やはりと言えば良いのか? デグリオ級の従魔が中から複数襲い掛かってきた!
『お、早速現れやがった! 行くぜ! ルゥ!』
『……ヒジリーはまだまだ子供なんだから』
しかし聖とルゥは積極果敢に戦闘へと挑む。迷いはない。幻想蝶。ライヴスメモリーに触れて早速共鳴。リンクした。そしてAGWを起動。
デグリオ級の従魔は知性は低いが二足歩行型のゾンビの様な形態を模していた。
雪山でこれを見たら誰もが生きた屍だと思うだろう。もしくは細くて小柄なビッグフット。未知の生命体と言った所か。
「基本的にこういう形は望んでないんだけどな」
『慢心ダメ、絶対!』
「主よ。我等も」
「そうですね。貴重な情報源はすぐそこですし」
それに続いて鋼野、ドロシー。そして石井、テミスも臨戦態勢に。因みにドロシーに至ってはやはりスケッチブックで応対していた。
しかし、重大な謎は未だに謎のままだった。
無事、囮作戦のエージェント達を救出した従魔討伐組はそれぞれが合流し、お互いの情報交換のやり取りをしていた。問題の洞穴の位置は従魔の出現範囲から大体割り出せた。
「後は、この従魔達を倒して洞穴へと侵入するルートを確保するだけだね」
「まあ、先は長いか短いか分からないけれどもこの調子で行けばなんとかなりそうですね」
この広大な地形では何よりも従魔の出現範囲と位置を割り出す事が例の洞穴への近道だった。その為、京子とアリッサはまだ余裕の表情でいた。
しかしそこに水を差すかの如く由利菜とラシルが警告を発する。
「事態はそんなに単純でしょうか?」
「ユリナの言う通りだ。囮作戦でのエージェント達は口々にこう言っていたではないか」
――この雪山の地形は元々崖の切り立った渓谷から成り立っている。従魔の大群はもちろん、足元には十分に注意しろ。でなければ愚神の潜んでいる洞穴へと辿り着く事は愚か、途中で遭難に遭うか最悪見えもしない崖っぷちに真っ逆さまだ。
「真っ逆さま……」
エステルは一瞬、身が縮こまる思いがした。最悪の場面が脳裏を過ぎる。
「つまりあたし達はこれまでこの山が崖っぷちにあるとは知らずに従魔の殲滅、そして囮として残されたエージェント達の救出に勤しんでいたって訳ね」
――そう。ここは吹雪が吹き荒れる雪山。全ては真っ白に覆われているとはいえいつどこでクレバスに陥落するか分からない。
不発弾や地雷の埋まっている戦場を何も知らずに歩いている様なものだ。
「既に何体かの従魔が目の前で消え去った事も確認されている。要するに道を開拓する為には慎重に事を運ばなければ命はないと思った方が良いと言う事だろう?」
山育ちのモニカとヴィルヘルムは存外に冷静だった。しかしその表情は頑ななまでに微動だにしない。真剣そのものだった。
どおりで先程から従魔の群れが一向にやって来ない訳だ。こうして会話出来る余裕すらある。
何もこの環境で苦戦しているのは能力者であるエージェント達側だけではなかった。山奥にある洞穴から次々と出現する従魔にとっても同じ事だったのだ。
しかしここで1つの疑問がまたも浮上した。
――洞穴に潜んでいる愚神の目的は一体何なのだろうか?――
それを知る為にはこの窮地から脱出する以外に道は無かった。
リンクした愚神殲滅組は着々と例の洞穴から湧き出てくる従魔をAGW等を駆使して倒し、暗がりの中へと戦闘モードONで進んでいった。
『うおおおお!』
己のスキル。トップギアを駆使して力を溜めた聖はとても好戦的であり、次の瞬間にはライヴスを一気に全開で放出していた。
その容姿はリンクした状態で、金色の双眸に髪は紫色。武器や身体にライトグリーンのオーラを纏った雰囲気で背後にはルゥの影が見え隠れしている。
最後衛にいた鋼野は洞穴内侵入後、ライトアイを使って巧みに仲間達の援助を行った。もちろんリンク後、その容貌は大きく異なっていた。
金髪碧眼。髪は背中に垂れる位の長髪。黒の長袖Tシャツにジーンズ。しかしその上に胸部鎧、手甲、脚甲を部分的に施した軽装。
最初の大型ヘリで見せた少し几帳面なのかやる気がないのかその策士的な一面は払拭され、今は冷静で滅多に表情を動かさない。決して相手に内面を見せない。相手を畏怖させる無表情そのものだった。
そして、大型ヘリ内で情報収集に勤しんでいた少しミステリアスな男。石井と英雄テミスは未だその情報が不足したまま仕方なしにと言った風情で戦いを強いられていた。
「まあ、ライヴスの供給源は恐らくここにいる愚神とやらに乗っ取られた被害者。つまり能力者と見てあまり問題は無さそうですかね?」
彼は事前にH.O.P.E.の職員に事の発端の情報を聞き出していた。特にライヴスをどこで手に入れたのか? 芳しい答えが見つからなかった為、愚神を揺する様々な策略が彼の頭の中に渦巻いていた。
実質、彼は私情で動いていた。大型ヘリ内での発言にもあった通り自分の瞳と同じ色をした人物を探す為に。その為には手段を選ばない。今回の奇襲作戦に参加したのもそれが動機だった。
実際、彼は自ら愚神殲滅組へと旨い具合に名乗りを挙げ、そして今現在何気なくそれに加わりこうして戦っている。
「さて。例の愚神とやらは俺の瞳と同じ色をしていますでしょうか?」
融合中のテミスは魔法具のグリモアの中で押し黙ったままだった。
従魔討伐組は何気ない戦闘を強いられつつも、徐々に洞穴の方向へと一歩、そしてまた一歩とズルズルと引きずられる様に近付いていった。クレバスに陥落する事もなく。
その手掛かりは従魔の足跡だった。この吹雪の中、すぐに見えなくなる足跡の痕跡を負うのは至難の業だったがさすがはライヴスを介する能力者達。それを見逃す事はなかった。
ただ、広大なフィールドであるこの落とし穴が潜んでいる雪山は泥沼の戦いとはいかないまでも、互いに緊張感のある切羽詰まったものに変化した。
「アリッサ、まだまだいけるよね。相手をかきまわして主導権を握り続けるよ」
「ここはわたしたちの得手ですからね。敵にとって最悪の存在であり続けましょう」
京子とアリッサは相手をクレバスに突き落とす位の意気込みで戦闘していた。敵の動きを制御したり引き付けたりして巧みにバランスを取り、主に補助的な位置取りをしていた。
そして従魔の密集地点にライヴスショットを放ったのは他でもない由利菜だった。
「……個々の能力なら、負けないつもりです! 弾けよ、ライヴスの弾丸!」
その英雄ラシルは迷いなく守るべき誓いを発動。
「我が仲間達を護る力を……!」
ライヴスを周囲に発散。敵の注意を自分に引き付ける。そこへ範囲攻撃としてライヴスショットを由利菜が放つ。絶妙なコンビネーションだ。
マコトは味方に襲い来る従魔をモアドッジを使用して回避率を上昇させ、自分はへヴィアタックで強烈なライヴスの一撃を放っていた。
それを見ていたアルリオはかつての恋人の面影の事等すっかり忘れてしまった。ただ、そばにいたいと言う強い想いが彼を戦闘へと駆り立たせていた。
『あまりハシャギすぎるんじゃねえぞ! ヒーロー!』
「分かってる!」
エステルは、ケアレイやリジェネーションを活かし常に味方の回復役を買って出た。
「もうこれ以上、あなた達の好きにはさせません」
先程の先行部隊、囮となった人達にも同じスキルを施して大事には至らなかったものの、従魔……いや今回の事件である首謀者の愚神に対する怒りは収まらなかった。
「結局、愚神の狙いは何なのかな?」
さり気無くそう呟いた泥眼の一言にエステルは自身の生い立ちからかすぐに我に返った。大丈夫。今の自分には泥眼がいる。そしてこれ以上、犠牲者を出す事は出来ないと自分自身に言い聞かせ胸に誓う。
モニカとヴィルヘルムはこの山岳地帯の先頭を歩き、常に危険が無いか周囲を目で追っていた。山育ちで育った経験と勘がこんな時に役に立つとは思いもよらなかったろう。
そして遂に例の洞穴付近まで辿り着き、目的地の洞穴を発見した。
洞窟の奥にいる愚神。それはとても知性がありそうには見えなかった。ただ、その傍らにはライヴスの供給源である被害者……つまり能力者がいた。もちろん昏倒していたが。
「グフフフ。こんな吹雪が吹き荒れる山奥の我がアジトへようこそ。貴様等はこれから我の生贄になってもらう。つまりそのライヴスをゾーンルーラーである我に捧げるのだ」
相手はへビ―級のバカとは言わないまでも、変なローブと呪具を全身に着飾った悪趣味な輩だった。
思わず閉口してしまうエージェント達をよそにそいつは語り出す。
「我は異世界から来た魔神ゲラン。栄えあるこの世の王となる者だ」
確かにそいつの全身は魔神……と言うよりも、骸骨みたいな姿形だった。顔はドクロそのもの。肩から背中にかけて骨ばった様に尖った上半身。下半身は紫色のローブに覆われていてよく分からない。
魔神と呼べる部分は人語を喋っている事と二足歩行だと言う事だけだった。ただし要領は良さそうだ。つまりかなり性質の悪い始末に負えない輩だと言う事。
そして自分自身の犯した過ちにこいつは未だに気付いていなかった。
「どうやらこれは……なるほど大した趣味だ」
「また無駄足でした」
自身の瞳の所在を期待していただけに、その落胆は激しい。共鳴――リンクした石井はその思惑を覚られない様にそっと呟く。
英雄のテミスはなんとなく予想はしていただけにグリモアの中で一言だけそう言った。無論、今の相手には聞こえるはずもなかった。
しかしその実力は確かな様で相手にとって不足はない。実際に能力者のライヴスを喰らい、ドロップゾーンを形成し、しかもゾーンルーラーとなったのだ。デグリオ級の従魔を大量発生させたのもこの愚神ゲランだ。
『なあ? 何でこんな所でドロップゾーンを形成したんだ?』
最初にその疑問を口にしたのは意外にも聖だった。
「フン、バカな奴等だ。貴様等はハメられたのだ。敢えてデグリオ級の従魔を送り込んだ我の手によって。我はここにいた1人の能力者を喰らった。ライヴスを奪ったと言い換えれば良いか? そしてそいつの最期の言葉にハッと気付かされたのだよ」
『……何て言ったんだ?』
――今に見ていろ……俺の援軍が身の程知らずの愚神であるお前を討伐しに……必ずやって来る――
この時点で既にエージェント達は何かを覚っていた。恐らく被害者であるエージェントの最後の合図。ダイイング・メッセージ。
「人間とは、こうも身の程知らずだとは……ライヴスを奪われるだけ我に奪われて最期に遺した言葉がそれだった。我はこの世の王になれるとその時、確信した」
「なるほど……とても分かりやすいですね」
鋼野は自嘲気味にそう言っただけだった。
「まさかとは思うが……それでドロップゾーンを?」
「――そうだ。我は自身のこの洞穴から世界の覇者になる為にドロップゾーンを形成し、ゾーンルーラーとなった。そして出来得る限りのデグリオ級の従魔をいずれ来たるべき日に備えて大量に生み出した」
それが自らの所在を明かす事になる致命的な誤算だった……とは誰も言うまい。
「なるほど。……この雪の王国の主である御身に拝謁出来た事誠に感謝します」
皮肉たっぷりに石井はそう言った。
しかし相手は気付いていなかった。囮作戦を使ったのは何もそちら側だけじゃない。中途半端な知性を持った大量の従魔達は最初に戦っていたエージェント達の手によって葬られた。
要するに体力を消耗しきっているのは最初のエージェント達だけ。その後、バトンタッチした8人のメンバーにはあまり支障はないも同然だと言う事を。
その戦いを見ていないこの洞穴の奥深くで鎮座していたゲランは既に今ここにいるメンバーがライヴスを消耗しきっていると勝手に思い込んでいるのだった。だから余裕を浮かべているのだろう。
それが今回の奇襲作戦の真相だった。
ひたすら沈黙を守り何もかも相手が勝手気儘にご都合主義で全て明かしてくれた事により、発生した今回の事件。
身の程知らずは他でもない。この愚神。魔神ゲランだけだった。
『よーし! 分かった! じゃあ、そろそろ行くぜ!』
まず先制攻撃を仕掛けたのは聖だった。もちろん予想外のライヴスの量にいきなり面食らったのは他でもない。愚神ゲランだ。
「な!?」と言った時にはもう遅かった。
――スキル。トップギアを使い力を溜めていた聖は疾風怒濤の連撃で一気に畳み掛ける。AGWの刃を相手に斬り付ける。
次にその連携に合わせたのは素早く愚神の死角に回り込んだ鋼野だ。
「その首、頂きます」
一気に間合いを詰めて体重を浴びせた一撃を喰らわせる。
それに便乗したのはもちろん石井だ。
「ここまで来た甲斐があったってものですかねえ?」
鋼野と共に挟撃に持ち込んだ石井の皮肉は先程よりも痛烈だった。実際に大ダメージを愚神ゲランは浴びていた。
「グ、グアアアアア!!」
――そしてその戦闘にナイスなタイミングで加勢してきた残りのエージェント達。従魔討伐組。
こうして事態は呆気なく幕を閉じた。
――戦闘終了後――
「いやーお蔭様で助かりました! 読みが当たったって言うんですかね?」
今現在まで気絶していたそのライヴスを奪われて憑依された能力者――つまりエージェントは気を失う間際にわざと相手を挑発し罠に掛けた。それはある種の賭けだった。
――今に見ていろ……俺の援軍が身の程知らずの愚神であるお前を討伐しに……必ずやって来る――
もちろん援軍等、最初から無いに等しかった。だから愚神を揺すり、動揺を誘ったのだ。元々こんな山奥にH.O.P.E.のエージェント達がやって来るはずもない。
それにはドロップゾーンの形成やそれこそデグリオ級の従魔が大量発生する事態に陥らなければ……。今頃骸と化していたのは愚神ではなく、この男だけだった。
そして実際にエージェント達はやって来た。奇襲作戦は見事に成功した訳だ。
ここにいる8人のエージェント達、身の程知らずの愚神ゲラン――。
そして他でもない今ここにたった1人だけいるエージェントにとっても。(了)
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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