本部

エージェントたちの悲しき夜話

星くもゆき

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/12/28 20:21

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掲示板

オープニング

●ただひたすらに
 H.O.P.E.東京海上支部の一室。そこには何名かのエージェントが集まっていた。
 彼らはただ、時を待っている。出動の時を。

 集められた理由は、ヴィランからと思しき犯行予告が届いたことである。
 その犯行予告によると、本日、土曜日の19時に東京のどこかで派手な暴動を起こすつもりらしい。場所を特定できるような手がかりはなく、H.O.P.E.としては事件が起きてから対応に移るほかない。
 海上支部から輸送機で現地へ行くのが一番時間がかからない方法だろうということで、エージェントたちは現在の状況にいるわけだ。

 現在の状況――それは皆が待ちぼうけをくらっている状況。
 23時を回っているにも関わらず何の指令もない。
 彼らの任務をサポートする女性オペレーターはもうスマホをいじり出してしまっている。
 職員も結構な数が帰宅してしまってぽつぽつと人がいる程度。
 そんな東京海上支部でただひたすらに出動の指令を待っている状況だ。

 今、外ではどういう人たちが過ごしているんだろう。
 忘年会シーズンだから酒を飲んで騒いでいる人が多いだろうか。
 あるいはクリスマスが近いから恋人と過ごしている人がたくさんいるのだろうか。
 あるいは家族でどこかに旅行に出かける人が多いだろうか。
 家でゆっくりコタツでくつろぎながら時間を過ごすのも悪くない。


 海の上の建造物の中で、自分たちは何をしているのだろう。
 っていうか何時間も放置状態だし、H.O.P.E.の対応ひどすぎるんじゃない。
 返せよ。週末の一日を、返せよ。


 H.O.P.E.東京海上支部の一室で、能力者たちの溜まった鬱憤が爆発する!

解説

日常系ほのぼのシナリオです。
エージェントたちも能力者である前に人間、仕事のストレスも溜まるでしょう。
H.O.P.E.のエージェントとして得たものがあれば失ったものもあるはず。

だから、そんな彼らの嘆きとか怒りとか哀しみとか吐き出してみようという話です。
ついでにH.O.P.E.への文句とかも言っちゃって大丈夫。

一応任務の待機中なので海上支部の探検隊結成などはNGとなります。
オペレーターに話しかけるかは自由です。

部屋の中
・大型液晶テレビ(ゲーム機も揃っている)
・テーブルを囲ってソファがL字形に3台
・ガラス張りなっている面から外の様子が見えます。夜景が綺麗。
・お菓子や飲み物完備。酒類はなし。

よほど現実味がない場合以外、何かの持ち込みもOKです。
上記になくても、部屋の中にあっておかしくないものは多分あります。

PL情報
ヴィランの犯行予告は単なるいたずらです。
あとで「誤情報だったわ」的な報告が来ます。

リプレイ

●待ちぼうけの夜

「23時か……4時間過ぎても音沙汰なし、と」
 窓際で夜景を見ていた麻生 遊夜(aa0452)が時計を確認してつぶやく。背中におぶさって肩を甘噛みしてくるユフォアリーヤ(aa0452hero001)の頭を撫でてやりつつ、オペレーターの様子を確認する。相変わらず進展はなさそうだ。
「貴重な週末……ガキ共との大事な交流時間だったんだがなぁ」
 大きな溜息とともに肩を落とす。
「……がぅー、暇ー」
「あだだだだだ、わかった、わかったって」
 リーヤの噛む力が上がっていく。しばらくはご機嫌取りをしてやらないとならないだろう。

「もう何時間になるんだ……」
 じっと座って待機を続けていた真壁 久朗(aa0032)もだいぶ参っている。
「僕もちょっと眠くなってきました……」
 セラフィナ(aa0032hero001)は小さくあくびをして、久朗の肩にもたれかかる。
「出動があるかもしれないし、このまま眠るわけにもいかないからな」

 黙して待つのみ、と退屈を耐え忍んでいた小鉄(aa0213)もそろそろ限界が近いのだろう、少し動きがそわそわしてきている。
「騒ぎが起きぬのは良いことでござるが、ござるがなぁ……」
「文句言わない。万一に備えるのも私たちの仕事でしょ?」
 穏やかな口調で稲穂(aa0213hero001)は小鉄を諭す。

「待ちぼうけか……こんな時間まで拘束されるとはな」
 ソファの隅に座っていた賢木 守凪(aa2548)がぽつりと漏らす。
「たまにはいいんじゃなぁい? こういう時だからこそぉ、交友を深めるとかねぇ?」
 彼の英雄カミユ(aa2548hero001)は長時間の待機にも関わらず平然と、というか飄々とした態度を見せる。
「ほぉら皆暇そうだしぃ、話しかけてみればいいんじゃなぁい? くふふ♪」
「お前が楽しそうなのが気に入らん……」

 神鷹 鹿時(aa0178)はすでに勉強道具を広げている。教科書やノートを持ってきていたのは幸運だった。
「ロック、俺もう耐えられないぞ……! 俺も何かしたいぞ……!」
 フェックス(aa0178hero001)は我慢の限界をとっくに超えてしまったようで、部屋の中を歩き回ったり、鹿時の勉強に横槍を入れたりしている。
「お前のせいで勉強が進まないだろ……!」

 佐倉 樹(aa0340)は待機中ずっと、室内でだらだらとしているシルミルテ(aa0340hero001)を眺めているだけだった。だが鹿時が勉強している様子を見てからはレポート作成に着手することにした。

 古賀 佐助(aa2087)はテーブルに突っ伏して何もしていない。卓上に投げ出されたスマホ。当初はスマホを弄って時間を潰していたのだが、これほど待たされるとは思ってはいなかった。もはやすることがない。
 ふと隣を見ると、寝息を立てるリア=サイレンス(aa2087hero001)の姿があった。
「……あ、空飛ぶエクレア」
「……っ! どこ……?」
 リアは飛び起きて、中空にあるはずのないものを探し求める。
「キノセイデシター」
「……そう」
 一瞬のやりとり。そして重厚な沈黙。何の気なしにリアをからかったが、より虚しさが増した気がして佐助は己の愚行を悔いる。

 19時からキャス・ライジングサン(aa0306hero001)のむっちり膝枕で眠っていた鴉守 暁(aa0306)は4時間経って目を覚ました。暁の動きを感じ取り、キャスも覚醒する。
「おはよーキャスー」
「オハヨーアカツキー」
 起床の挨拶を交わすも、暁はキャスの膝枕を手放そうとしない。頬をすりつけて堪能する。膝枕ぷにぷにサイコーということである。
 しばらく味わった後にのそのそと体を起こし、オペレーターに状況確認を行う。進展なしということを告げられ、ソファの元の位置まで戻り腰を下ろす。
 そこでようやく、部屋の空気がどんより重いことに気づく。
「おやおや、皆そわそわイライラしてるなー」
 のんびりした声が部屋に響き、全員一斉に暁を向く。
「よーく考えるんだ。今こーやって待機させられてるわけだけどさー、情報の裏取りしてこいとか言われるよりはずっとましだよー。そーゆうのは職員がやってくれてるから待機で済んでるってことでしょー。だからありがたくのんびりしようぜー」
 その発言を受けて、皆は目を合わせる。確かに考え方を変えれば面倒なことを押し付けられなかったとも言える。4時間放置はさすがにありえないと思えるけれども、だ。
「これが逆転の発想というものでござるか……!」
 目から鱗だったのか、小鉄が尊敬の眼差しを暁に送る。暁の言葉で部屋の空気も多少は改善されてきたようだ。
「あー! ならもう退屈すぎて耐えらんねぇからゲームやろうぜゲーム!」
 緩んだ空気を感じ取り、佐助が呼びかける。いち早く反応するのはフェックスだった。
「ゲーム……! やるぞ、俺もやるぞ……! 絶対やるぞ……!」
「お、いいじゃん。よしお前も参加させてもらえ!」
 勉強の厄介払いには好都合とばかりに鹿時はフェックスの背を押して送り出す。
「大激闘粉砕兄弟はっけーん」
 テレビを点けて、佐助と共にゲームを物色していた暁が収穫物を掲げる。
「よっしゃ、大激闘で鬱憤晴らしといくか!」
 佐助が同調し、早々にゲームハードをセッティング。ゲーム大会の準備が着々と進んで行く。
 それならばソファにテーブルというのも物寂しい。久朗はコタツや毛布、タオルケットを求めて退室した。その背中を見てセラフィナも手伝いに向かい、なぜかシルミルテも後を追う。

●初めてのテレビゲーム

「これが『てれびげえむ』でござるか」
 佐助らが起動したゲーム機に小鉄は興味津々だ。彼が育った村にはそういう類のものはなかった。プレイはおろか、見たこともなかったのだ。
 参加枠に空きがあったので小鉄も参加させてもらうことになり、基本操作を教えてもらった後に、人生の初体験(TVゲーム)を迎える。
「拙者がこういった物を触る日が来るとは思わなんだでござる」
「対戦ゲームなんて始めてだぞ……! でも絶対に負けないぞ……!」
「おー初めてさん2人かー。面白くなりそー」
 ゲームが始まってもいないのに逸ってボタンを押しまくっているフェックスと、大きな体躯でちょこんと正座してそわそわしている小鉄を見て、暁は怪しく笑う。

 開戦。

「そ、それは拙者が狙っていた『あいてむ』でござるよ!?」
「どうなってるかわからないぞ……!」
「ほーい爆弾投げるよー」
 暁はギミック等を駆使してひたすらカオスな状況を作り出す。佐助は対処できるが、初心者2人は戸惑うばかりだ。
「猛者の雰囲気出してんなー暁ちゃん」
 スナック菓子を食べながら器用に手を拭いてプレイを続ける暁を見て、佐助は感心する。
「まー勝ち負け気にしなきゃいけるでしょー」
 大激闘で盛り上がっていると、久朗たちがコタツ等を抱えて帰ってきた。セラフィナは毛布類を持ち、シルミルテは会議室にある『英雄すらもダメにする』という逸品のソファを勝手に拝借してきていた。
「何のために出てったのかと思えば……」
「ココのソファも良イけド、こレが一番ナのー」
 呆れる樹をよそ目に、お気に入りのソファでくつろいでシルミルテはご満悦の様子だ。
 久朗は冬の神器であるコタツをセットし始め、セラフィナはコタツ稼動を心待ちにしつつも、暁らが遊んでいるゲームに惹かれる。
「皆さん面白そうですね」
「おー、んじゃ後で交代するよー」
 暁の言葉にセラフィナはお礼を言ってから、セット完了したコタツに潜り込む。まだぽかぽかとは言えないが、何とも言えぬ感覚についつい頬が緩む。
 さすがに全員は入れないがそれなりに人数が収まるコタツだったので、勉強していたり暇だったりした面子が次々と温まりにやってくる。

●彼女らは通じ合うのか

 ソファにて菓子を与えたり頭を撫でたりして、膝に乗せたリーヤ様のお怒りを鎮めていた遊夜もコタツに向かう。コタツの聖なる力を用いるほかないと思ったからだ。
 リーヤをコタツに放り込もうかという時、すでにコタツに陣取ってぼーっとしているリアの姿が目に留まった。リーヤを人に慣れさせるには最適かもしれない……。
「すまんが、コイツのお相手をしてやってくれないか?」
「……お相手?」
 小さく聞き返すリア。遊夜はコイツ、と言ってリーヤを対面に設置する。
「……ん」
 耳を立てて荒ぶっていたリーヤがしゅんと大人しくなる。突然投げ出されて驚いてしまったようで、固まってぴくりとも動かない。じっとリアを見つめるのみだ。
 リアもリーヤと遊夜を交互に見つめるだけで会話は生じない。超絶人見知りのリーヤに、完全受動スタンスのリアだ。当然といえば当然の帰結だった。
「うーん、上手くいかんか……」
 目論見が外れたか、と遊夜は思った。しかし名前もリーヤとリアだし、共にジャックポットで無口、見た目は白と黒で対照的だがそれはそれで何か通じてそう、そして何より頭から跳ねるアホ毛がある。気が合わないはずがない、と遊夜は次なるアクションを起こす。
 そっと両者の間にエクレア系のお菓子を投下。
 2人のアホ毛がピンと直立する。リアにとっては大好物のエクレア(系のお菓子)、リーヤにとっては遊夜がくれたお菓子、絶対に負けられない戦いがそこにある。
 2人は目で語り合う。食べたい。いやこっちこそ食べたい。無言のコミュニケーション。
 だが傍から見てると、リアはアホ毛が左右に振れたり、リーヤはアホ毛とか尻尾とか色々動いて何だかとても愛嬌がある感じになってしまっている。
 ともかく内容はどうあれリーヤは慣れない人との交流に成功したようだ。
「……これでちっとは緩和されるといいんやがのぅ」

●勉強中

 コタツでは2人の学生が勉学に取り組んでいた。樹は大学のレポート作成、鹿時は国語と数学を勉強している。
 鹿時は出来が良いほうだが、それでもわからない箇所は出てくる。自分で考えていても煮詰まる一方なので近くにいる遊夜に教えを請うた。
「ここの方程式どう解くか教えてくれないか? 意外とこう言う謎解きは苦手なんだよな~……」
 差し出された教科書の問題を遊夜が覗く。
「どれ、ここは先輩として教示してやるかね」
 身を乗り出して問題に取り組み始める。細かい記憶はあやふやだったが、どうにか年上の面目を保つことはできた。
「外国語だったら死んでいたが、何とかなったな」
「助かるぜー、サンキュー!」
「何だー外国語ー? それならキャスがいけるぜー」
 会話の端を聞きつけた暁が顔を出す。キャスもスナック菓子を頬張りながら「オマカセデース」とやってきた。
「いや、外国語だったら麻生さんはキツかったって話。今は数学やってた」
「おーそっかー。しかし勉強とは真面目だねー、えらいえらい」
「お前は勉強しなくていいのか? 中学ならそんなにキツくないか」
 笑いながら鹿時が尋ねてくる。
「はははー何を言うかー。私は成人だぞーお酒も大丈夫だー」
「へーそっか……って、マジかよ!?」
 驚愕の事実に鹿時は目を剥く。外見はどう見たって中学生だ。胸は大きいほうだが、それでも大人には見えない。言動も大人っぽくはないし。
「……ひとまず休憩するぜ。今のも含めて頭を整理しないと……。コーヒーでも淹れようかな……そうだ、良ければついでに淹れてくるぜ?」
 鹿時の申し出に、遊夜はじゃあ頼むと返す。暁とキャスはノーサンキュー。コタツから出ると、鹿時は待機室奥手の給湯スペースに向かう。
「げっ! インスタントしかないぜ! インスタントはそんなに美味くないんだがまた我慢するしかないか……」
 がっかりしながらも湯を沸かし、カップを用意する。どうせインスタントなら何人分淹れようが手間は変わらないと思い、カップの数だけコーヒーを用意してコタツまで戻ってきた。
「麻生さん、ほいコーヒー。他にも飲みたい人がいたら取っていっていいぜー。ミルクと砂糖もあるから」
 何人かが反応してコーヒーを持って行く。鹿時は窓際で夜景を眺めながらカップに口をつける。
「コーヒーを飲みつつ夜景を見るって何かクールな気がするぜ……」
 自分の立ち姿に少しだけ酔いしれて、リフレッシュした心身で再び学生の本分へと臨んでいく。

●落ちゲー違う

 守凪は焦っていた。室内は結構、和気藹々とした雰囲気になってきたのに、自分はまだ誰とも会話ができていない。何となくタイミングを計って話しかけようとはしているのだが、性格が災いして一歩踏み出すことができずにいた。
 カミユは隣で読書をしつつ、何度か守凪の脇を小突いて輪に入るよう促してきたのだが、守凪の対人スキルの低さはなかなか覆せない。
 テレビ方面を一瞥。セラフィナにシルミルテ、遊夜とリーヤが大激闘に興じている。
「くっそ、そう来たか……やりおる」
「……ん、させない、よ?」
 白熱した戦いを繰り広げているようだ。どんなゲームなのかすごく気になる、しかし話しかけられない。守凪は激しく葛藤していた。
 絶賛苦悶中の守凪だったが、1ゲーム終わって休憩していたシルミルテと目が合った。じーっと見てくる。そしてトトトと近づいてきた。
「ンーと……一緒に遊んデクレる?」
 突然のお誘い。皆がやっていた何やら楽しそうなあのゲームのお誘い。知らないゲームへの好奇心、話しかけられた嬉しさが腹の底から湧いてくるが、やはり彼の性格がそれをストレートには出させない。
「ほぅ……ゲームとかいうやつか? ふん、本来は落ち物ゲーが俺の得意とするところなんだが……仕方ない、その変なゲームに付き合ってやってもいい――」
 言い切らぬうちにカミユの蹴りが守凪を弾き飛ばす。つんのめって顔から転げそうになったが何とか踏み止まり、カミユに鋭い眼光を投げる。カミユは何食わぬ顔でコタツに潜り込み、リーヤとの戦争を終えたリアに話しかけている。
「セラフィナー、今度は賢木サンも遊ンデくレルってー」
 シルミルテに手を引かれ、守凪は念願のゲーム機の前に着座する。
「よろしくお願いしますね」
 コントローラーを握って準備完了のセラフィナが笑顔で迎える。

 開戦。

「ゲームで負けただと……もう1回! もう1回だ!」
「賢木サン自分かラ落チテって勝負にナッテなイのー。こレが落ちゲーなノ?」
「違う……! 俺の言った落ちゲーは断じてそういう意味じゃない!」
「け、喧嘩はなしにしましょう! 皆でわいわいできて楽しかったじゃないですか!」
「カミナは本当に負けず嫌いだぁよねぇ。くふふ♪」
 泣きの1回を請う守凪と敗因分析(?)をするシルミルテ、間を取り成すセラフィナ。その光景を遠巻きにカミユが楽しそうに見ている。暁らの対戦は画面内がカオスだったが、今回は画面外がカオスだった。

●おかあさん

 稲穂は特にやることがなかったので夜食を準備していた。今夜の夕飯に使う予定で買っていた食材を投じて拵えるのはおにぎりに卵焼き、味噌汁等。心も体も温まる家庭の味である。
 給湯スペースで稲穂が調理していると、久朗が手伝いにやってきた。
「助かるわ。ひとりで人数分は大変だもの」
「気にするな、とりあえず俺はインスタントラーメンでも作るとする」
 2人はテキパキと調理を進めていく。途中で小腹を空かせた佐助が何か作りにやってきたが狭い給湯スペースに3人もいては作業に支障が出るし、稲穂の夜食が出るということで退散していった。
「久朗ちゃん、卵余ってるけど使う? 袋麺に卵入れるの私好きなのよね……あ、別に手抜きとかじゃないわよっ」
「わかってるから言い訳しなくていい」
 慌てて取り繕う稲穂を見て微笑みながら、勧められるままに久朗はラーメンに卵を投入する。
 稲穂の調理も終わり、手製の夜食が出来上がる。
「皆お腹空いたでしょ。お夜食作ってきたわよ」
 稲穂の家庭的な料理が運ばれる。久朗は1杯のラーメンを置いた後、2杯目を調理しに戻っていった。
 卓の上に配膳を済ませると、腹を空かせた者たちが匂いにつられて集まってくる。
「ウチの夕飯の材料だったから量が足りないと思うけど、とりあえずね」
 歓喜するメンバー。特に鹿時や佐助の喜びようは目立っていた。
「いやー小鉄さん、デキる嫁っすねー!」
「よ、よよ、嫁ではないでござる!!」
「こーちゃん、その力強い否定は何なの……?」
 佐助の何気ない冷やかしに動揺してきっぱりと否定した小鉄だが、それもそれで失敗なのだと言ってから気づくのである。
「いやーこれは嫁どころではないよー。もうお母さんだねーこれは」
 場を取り持とうとしたのか何なのか、暁は味噌汁を啜りながらお母さん認定を下す。
「誰がお母さんよ! 変なこと言わないでよね」
 小鉄の頬をつねっていた稲穂が全力否定する。そんな歳ではないのだから当たり前である。
 だが一度始まった悪ノリはそう易々とは止まらないものだ。
「オ母さン、オカわリー」
「お母さん、俺もおにぎりもう1個欲しいぞ……!」
 無垢な子供らにはあっという間に浸透してしまった。そのうち佐助やカミユまでもがお母さん呼びをし始めるのであった。
「やめなさい! お母さん呼びはやめてー!」
 虚しく響き渡る稲穂の悲鳴。善意の夜食作りがこんな結末を招くとは予想できるはずもなかった。
 しかし夜食は大変好評であっという間になくなってしまい、稲穂は少し嬉しかったりするのである。

●ラーメンを啜る者たち

 久朗の作ったラーメンの2杯目以降も次々と卓に運ばれてきた。ベーコンでもあればチャーシュー風に味付けして添えられたのだが残念ながら今回はお預けだ。
「これが夜食ラーメンか……。いただきます」
 相伴に預かることにした守凪は箸を握り、背徳の味を知る。
「……!!」
 初めての夜食ラーメンは衝撃的美味しさで、守凪は言葉を紡ぐこともできない。ただただ麺を啜るのみ。
「セラフィナー、ラーメン半分コー」
 守凪の隣ではシルミルテがお椀を持ってきて久朗から供されたラーメンを分け合おうとしていた。
「あ、僕が分けますね」
 箸とレンゲで取り分けて、2人揃って食べ始める。
「いただきます」
「イタだキマース」
 ずぞぞぞぞ。音を立てるのがマナー、見事な啜りざまだ。
 シルミルテ、セラフィナ、守凪。3人合わせて綺麗なずぞぞぞぞ。ゲームで闘ってからは何故か3人単位で行動するみたいになってしまっていた(主にシルミルテが誘導するような形で)。

●地雷原を生き抜け

 フェックスはずっとテレビ前に張り付いてゲームをしていたが、鹿時に「少しは目を休ませろ!」と怒られてからは当て所なく彷徨っていた。夜食を食べてお腹一杯だし、本当にやることがない。
 手持ち無沙汰でぶらぶらしていたところ、ひとりスマホを弄り続けるオペ子に興味を示す。
「まだ待機してなきゃダメなのか……? これ以上待機が続くと俺たちも限界だぞ……」
 彼女とスマホの間にひょこっと顔を出してフェックスが尋ねる。
「ダメなんじゃない……? というか私もそれめっちゃ気になるのよね……」
 オペ子も待機に滅入っているようだった。思うような返答が得られずにフェックスは気を落とす。
 そして、決して悪気はないのだが、やってしまうのだった。
「オペレーターさんって恋人いるのか……? こう夜景が綺麗な日にデートすると嬉しいってロックが言ってたぞ……!」
 パタ、と高速でスマホ画面を走っていたオペ子の指が止まる。その言葉を聞いた一部の男衆も止まる。
 ビキッ、とオペ子のスマホ画面が握力に耐え切れずひび割れた。
 来る。大波が来る。

「えーそうですけど……? 恋人いませんけど? しかも今日ホントは休みだったんですけど? 後輩にデート行くんで代わってって言われたんですけど? 普通仕事ない日に予定入れると思うんですけど?」
 着火。噴火。エクスプロった。
「ふざけてんの!? ってか私に頼むって『どうせおめー週末暇だろ』的な見下しじゃね!? 先輩なんすけど! あれですか? 恋人いなけりゃ低級っすか!? ランク低い認定なんすか!? ざけんなよ! 仕事軽視してデートしてる恋愛脳に見下される謂れないんじゃゴラァーーーー!!」

 押し寄せる怒涛にフェックスはなす術がない。「恋人『いる』のかって聞いたんだぞ……」とか抗弁しても取り付く島もない。
 フェックスは、本当の恐怖を知った。

「あー、ほらオペレーターさん! トランプやりましょーよ、大富豪とかどーっすか? ぱーっと楽しみましょーよ今夜は、ね! 俺オペレーターさんと遊びてーっすわ!」
 佐助の助け舟が入る。目と目で通じ合う男衆。鹿時と遊夜が迅速にフェックスを隔離して、その場は何とか収まったのだった。

●談義

 ほぼほぼ遊び尽くした連中は、こたつで温まってH.O.P.E.に対する文句を言っていた。
「楽しかったけど、散々待たされてせっかくの週末に俺ら何してんのって感じだよなぁ。こういう状況どーなのよ?」
 佐助が愚痴り始めると、小鉄もそれに呼応して饒舌になっていく。
「そうでござるよなぁ……。キツいのに報酬も少ないでござるし、バックアップも乏しいでござるしなぁ……」
 つらつらと不満を並べた後に、ハッとなって口を噤む。そしてドアに耳を当てて廊下の様子を確かめた。
「誰もいないでござるな。お上の耳に入ってしまっては如何なことが起きるやら、でござる」
 胸をなで下ろす小鉄だが、室内にオペレーターがいることをすっかり失念しているようだ。
「くろーも不満とかあるの?」
 愚痴話を黙って聞いていた樹が久朗に問うた。久朗はしばらく考えてから口を開く。
「いや、特に思いつかないな……。今日みたいなのはさすがに困るが」
「つまらない答えだなー。私はあるね。H.O.P.E.ってさー色々通達とか遅いんだよね、こっちも予定あるのにさ」
 パッと樹の口からは不平が漏れたのを聞いて、久朗はやはり自分は鈍いのだろうかと思い、エージェントになってからの日々を思い返してみた。
 多くの事件にも関わってきた。特に異界の門を閉じる任務のときには生まれて初めて瀕死の重傷を負った。この仕事は危険なことだらけだ。割には合わない。
 だが、様々な人に会った。友人やライバルのような人間が出来た。それは久朗にとってはかけがえのないものになりつつある。
 自分が何をすべきかはわからないが、ここにいる理由は確かにある――。
「どした、くろー?」
 虚空を見つめて考え込んでいた久朗の顔を樹が覗き込んでいた。
 久朗はふっと笑う。
「そういえば俺も不満があったよ。誰かさんに投げられて首を打ちつけたこととかな」
 ぴくりと樹が反応する。少し挑発的な笑みを浮かべて。
「よし、わかった。とりあえずこのゲームで勝負しよう。文句はそれから聞こうじゃない」
「俺はそういうの得意じゃ――」
「あ、じゃあこっちの不戦勝ってことで」
 にやにやと樹は笑っている。そうまで言われては、やるしかない。
「仕方ないな……負けても泣くなよ?」

●事件なんてなかった

 中学生の悪戯だった、という確定情報が入ってきたのは夜中の1時を過ぎた頃だった。
「ははは……何じゃそりゃあああ!?」
 魂の叫びをあげながら佐助はソファに倒れこむ。
「悪戯……でござるか?」
「事件が起きなかったのは良いことだけどもっ」
 肩透かしをくらった気分の小鉄と、溜息を吐く稲穂。
「まぁ何事もなくて良かったじゃないか! どうせ報酬はもらえるん……だよな? オペレーターさん?」
 そこは頼むぞ――と圧力を込めたかった鹿時だが、またオペ子が着火するのを恐れて何となく弱腰な言い方になってしまった。
「拘束してたしそりゃね。私も残業代もらわないとやってらんない」
 機嫌が悪いオペ子だが、報酬が受け取れることは確認できた。
「おーしそれじゃお開きだー」
 別れの挨拶をして帰宅しようとする暁だったが、ドアの手前で足を止める。そしてくるりと向き直って――。
「ってかさー、もう電車もバスもないよねー」
 待機室の時間が止まる。そうだ、帰りの足がない。
 しばらくの思考の後――深夜特有のノリで、皆は考えるのをやめた。

「大激闘で鬱憤晴らしパート2だぜー!」
「てれびげえむでござるな! 徹夜でてれびげえむでござるな!」
「こーちゃんは充分やったでしょ、次は私の番よっ」
「セラフィナーこれコナいダ見つケタ新シイお菓子ー」
「よーしキャスー、スナック菓子全部持ってきてー」
「カシコマリーマシター!」
「ふん、今度こそ落ち物ゲーの神髄を見せてやるとするか……」
「……ん、あーん♪」
「リーヤ……このタイミングでか?」


 狂乱の宴の末に皆はばったり力尽きてしまい、解散したのは日曜の午後3時頃となった。

 ちなみに報酬は少し色をつけた額が口座に振り込まれていたようだ。

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結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 告解の聴罪者
    セラフィナaa0032hero001
    英雄|14才|?|バト
  • キノコダメ、絶対!
    神鷹 鹿時aa0178
    人間|17才|男性|命中
  • 厄払いヒーロー!
    フェックスaa0178hero001
    英雄|12才|男性|ジャ
  • 忍ばないNINJA
    小鉄aa0213
    機械|24才|男性|回避
  • サポートお姉さん
    稲穂aa0213hero001
    英雄|14才|女性|ドレ
  • ようへいだもの
    鴉守 暁aa0306
    人間|14才|女性|命中
  • 無音の撹乱者
    キャス・ライジングサンaa0306hero001
    英雄|20才|女性|ジャ
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • 深淵を識る者
    シルミルテaa0340hero001
    英雄|9才|?|ソフィ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 厄払いヒーロー!
    古賀 佐助aa2087
    人間|17才|男性|回避
  • エルクハンター
    リア=サイレンスaa2087hero001
    英雄|13才|女性|ジャ
  • コードブレイカー
    賢木 守凪aa2548
    機械|19才|男性|生命
  • 真心の味わい
    カミユaa2548hero001
    英雄|17才|男性|ドレ
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