本部

年を忘れて過ごす時 和気藹々編

真名木風由

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2015/12/27 03:53

掲示板

オープニング

「この季節だと、どこも混雑していますね」
 剣崎高音(az0014)の言葉通り、この時期、どこも混雑している。
 忘年会は、個人や会社問わずあるのではないだろうか。
 そして、例に漏れず、エージェント達も有志主催で忘年会があり、『あなた』達は参加したのだ。
 鍋のコースは幾つかあり、参加者が選べるとあり、申し込みの際事前に伝えた鍋のテーブルの案内を受け、『あなた』達はその範囲で自由に座った。
 座敷席は中々の広さだ、今は無理だろうが、少し落ち着けば腰を落ち着けた今の場所から移動し、他のエージェントに声を掛けてもいいかもしれない。
 折角の忘年会、より多くの仲間と楽しいひと時を過ごした方がいいだろう。
 場の空気で、黙っていたけど実は、なんて話題も出来てしまうかもしれない。
 飲み物が全員行き渡れば、乾杯の声と共にグラスがカツンと音を立てる。

 年忘れの忘年会。
 和気藹々和やかに過ごすひと時。
 さて、『あなた』はどう過ごそうか。

解説

●鍋のコース
・鮪のねぎま鍋
サラダ、お刺身、鮪の竜田揚げ、鍋、うどん、デザートのコース

・和牛もつ鍋
サラダ、煮込み、鶏肉のから揚げ、鍋、ラーメン、デザートのコース

いずれも飲み放題つき
ソフトドリンク
コーラ、オレンジジュース、ジンジャーエール、ウーロン茶、緑茶、アイスティー
アルコール類
生ビール、芋焼酎、日本酒(冷・熱どちらもOK)、梅酒、赤・白ワイン、各種サワー・カクテル(一般的な居酒屋のメニューにあるものならあるものとします)

※上記どちらかから選んでください。
能力者と英雄、別選択OKですが、鍋ごとにテーブルが分けられているので、初期の席は別となります。
初期は同じ鍋を選んだ人同士となります。(同席希望があれば副えるようにはします。ない場合は任意)

●NPC情報
剣崎高音、夜神十架
共に和牛もつ鍋選択。
プレイングで触れられていなければ最低限の描写となります。

●注意・補足事項
・英雄もこの場にいるものとします(お留守番・幻想蝶の中にいるはNGです)
・コースは飲み放題。ただし、外見年齢20歳未満の方は、店側の要望により、飲酒は禁止となっています。ソフトドリンクを頼んでください。
・無礼講ですが、前後不覚になる程酔う(嘔吐含む)・酒に酔って人に絡む・飲酒強要等周囲に迷惑を掛ける行為はご遠慮ください。その場合、高音が外へ連れ出します。
・お酒関係は商標登録されているものに関してはマスタリングの対象となります。具体的名称での描写はありません。
・初期は鍋で選ばれた席となっています。プレイングによっては移動も可能ですが、欲張り過ぎるとひとつひとつの描写が薄いものとなります(特に能力者と英雄別行動の場合は)ので、絞って行動されることをお勧めします。

リプレイ


 一陣の風が頬を撫でる。
 けれど、鋼野 明斗(aa0553)は風など意に介さず、ドロシー ジャスティス(aa0553hero001)を見た。
「とりあえず、今回の忘年会の重要性は解っているな?」
『合点承知!』
 スケッチブックを掲げるドロシーも真剣な顔。
 そう、時は年末……苦学生の明斗にも容赦なくそれは襲い掛かる。
 出て行くものが多ければ、真っ先に削られるのが食費。
 今は安物のプリンも見切り品でなければ購入しない徹底振り……だからこそ、この忘年会ではしっかり栄養を摂らなければ。
 2人は、真剣な面持ちで戦場(?)へ入っていった。

「明斗さん、ドロシーさん、こちら席空いてますよ」
 剣崎高音(az0014)が明斗とドロシーを手招きしている。
 ドロシーを歳が近い女性の傍、と思っていたが、事前に希望していたもつ鍋の席的に高音達のテーブルが1番条件に合っていそうだ。
 十架の隣にドロシーを座らせ、自分もドロシーの向かいに腰を下ろす。
「今夜は冷えるみたいですね。こういう時は温かい鍋というのは賛成です」
 このテーブルには既に辺是 落児(aa0281)と構築の魔女(aa0281hero001)も腰を下ろしている。
 と、落児が顔を動かしたので、皆の視線がそちらへ動く。
「ここ空いてるか?」
「どうぞ、空いていますよ」
 アキレウス(aa0115hero001)の確認に構築の魔女が微笑んだ。
 パートナーであるファレギニア・カレル(aa0115)は鮪のねぎま鍋を選択したとのことで、一緒ではないそうだ。
「へぇ、向こうとは鍋の種類も違うのか」
「もつ鍋だと、こういう鍋なんですよ」
 アキレウスがカレルの席とは違うステンレスの鍋に驚くと、高音が微笑む。
「おれんじじゅーす……」
 それまで黙っていた十架がぽつりと呟く。
 ドロシーと飲み放題リストのメニューを見ていた十架、どうやらずっと迷っていたらしい。

「空いてる席のお陰で助かったかな」
 中城 凱(aa0406)は、周囲を見回した。
 というのも、美森 あやか(aa0416hero001)の性格上知らない異性の傍に座るのが難しいからだ。
 が、4人で座ることが出来る場所に壁際があった為、壁際にあやか、その隣に離戸 薫(aa0416)、あやかの向かいに礼野 智美(aa0406hero001)、智美の隣に自分が座れば、誰かがここに介在することはないだろう。
 店員達が注文のドリンクを運び始めてきており、このテーブルにもアイスティーが運ばれてきている。(ちなみに全員ガムシロップは入れないらしい)
「父さんが思った以上に早く帰ってきてくれて助かった……」
 凱へ薫がそう言う。
 妹達へ夕食とお風呂、寝かしつけてから……薫はそうしてから行くつもりだったが、父親の方が気を遣ったらしく、早めに帰宅した為、以降を任せた形だ。
 考えてみれば、全て終えて家を出て到着する頃には忘年会自体が終わっている可能性がある。遅刻連絡ではなく、欠席連絡になりかねなかった。
 店側の要望もあり、彼らは揃って頼んだアイスティーのグラスを手に持つ。
 そろそろ乾杯、とのことで。
 幹事の挨拶と共に、乾杯、と声が響けば、グラスが重なる音が空間に満ちた。


「1年間お疲れ様、という労いの会だったんですね」
 リオ・メイフィールド(aa0442hero001)は忘年会というものを知らなかった為、幹事の挨拶で色々気づいたようだ。
 取り分けられたサラダの傍らには、オレンジジュースが鎮座している。
 その向こうには──
「レヴィ、呑み過ぎないでくださいね」
「分かってるよ。誰かに迷惑掛けるつもりないし、一通りは呑むだろうけど、酔い潰れないよう加減はするよ」
「一通りは呑むんですね……」
 生ビールを呑むレヴィ・クロフォード(aa0442)へ、リオは軽く溜め息。
「……よく考えなくてもこの一年、レヴィには色々苦労を掛けさせられました……」
「あたしも! ヴァレンティナってば、小学生みたいなことするのよね」
 リオに同調したのは、夢洲 蜜柑(aa0921)だ。
 鮪のねぎま鍋のテーブルの都合で所謂お誕生日席に座っている蜜柑は、ヴァレンティナ・パリーゼ(aa0921hero001)の罪状をオレンジジュース片手に力説。
「お誕生日席にはしゃいだちびっこがオレンジジュース片手に力説しても説得力ないわよ」
 そう言うヴァレンティナは生ビールである。
 ちなみに、最初の1杯だけ生ビールらしく、後は赤ワインを呑むそうだ。
「リオ見習いなさいよ。見た目変わらないのに、しっかりしてるじゃない!」
「リオは本当にしっかりしてるからね。普段も朝起こしてくれるし、僕が起きた時には酒瓶片付いてるし、それを差し引いても色々感謝しないと」
 ヴァレンティナがリオを引き合いに出すと、レヴィは尤もらしく頷いた。
「一緒に生活するだけでこんなに大変だって思った人は初めてですね」
 が、悲しいことにリオは慣れた様子である。
 そんなリオだから、レヴィもリオがパートナーになってから結構充実した日々があっという間に過ぎていったと思えるのだろう。
「メインの鍋、どういう鍋なの? 鮪って言うと、お刺身ってイメージが強いのだけど」
「文字通り、葱と鮪の鍋」
 フローラ メルクリィ(aa0118hero001)が刺身の中にある鮪を指し示して言うと、黄昏ひりょ(aa0118)が鍋の正体を教える。
「葱は身体温まるし、鮪は風邪の予防にはいいみたい」
「冷えるから、それは助かるかな」
 2人の会話に加わったのは、ファレギニア・カレル(aa0115)だ。
 ファレギニアの正体に気づいた店長に頼まれ、サイン色紙を書いていた彼はアスリートでもある。冷えや風邪の予防には関心があるのは当然だ。
「僕の国は内陸国だから魚料理は淡水魚主体だったし、日本も活動の拠点にするまでは海水魚食べるのに馴染みがなかったし」
「ファレギニア君はチェコ出身でしたっけ」
「そう。今はビロード離婚してチェコとスロバキアに分かれたけど、チェコスロバキアの出身」
 そういう意味では、ビールを呑まないのは珍しいかも、とカレルはノンアルコールのカクテルを飲みつつ、ひりょに笑う。
 首を傾げる面々に気づいたカレルは、母国のビール消費量について教えてあげた。
「仕事であっちの方も調べたことあるけど、色々あるわよね。そういう意味じゃ、陸上方面でも頑張ったんじゃないの?」
 在宅で文筆業をしているヴァレンティナはカレルの母国が一筋縄ではいかないことを知っている。
 蜜柑が「まともなこと言ってる!」と驚愕する中、その言葉を聞いたカレルは「やれるだけのことはやりたいから」と微笑んだ。
「あ、鍋が来始めた! ……あっちも美味しそう……」
「ひとまず落ち着け。鍋は逃げたりしないんだから」
「逃げたら怖いよね。……でもそういうこともありえるかも?」
 フローラへ「勘弁してくれ」と言ったひりょは、芋焼酎を呑むレヴィの向かいに座るリオの食べる量が半端ないことに気づいた。
「僕は呑む方が忙しいし、リオが美味しそうに食べてる姿を見るのは好きだからね。刺身と鍋以外はリオにと思って」
 リオがお酒を呑めれば違ったかもしれないが、元の世界でどうであってもリオの見た目は明らかに未成年……店側を困らせたくはないし、絵的に絶対自分が悪い大人になってるとレヴィは笑う。
「レヴィってば大人! ヴァレンティナも見習いなさいよ!」
「うるさいわね、ちびっこ!」
 赤ワインを呑むヴァレンティナが蜜柑へ反応し、笑いが起こる。
 ちょうどその時、店員がこのテーブルの鮪のねぎま鍋を準備しに来た。
「鮪ってトロだったんですね……」
「これは期待出来そう……!」
 リオと同じように顔を輝かせるフローラ。
 ひりょはこのテーブルはもしかしなくても激戦区かもしれないことに気づく。
 さっきまで、好き嫌いについて話していただけあり、ひりょも何でも食べる部類だが、多分、このテーブルはフローラ以外にも敵性存在が複数いる。


「……あちらでも良かったか」
 周囲の会話を耳に拾った智美が鮪のねぎま鍋コースのテーブルを見て小さく呟く。
 智美が刺身にうるさいから不味い刺身に当たったら嫌だという理由でのチョイスだったのだが、エージェント有志主催とはいえ、幅広い層がいることを考慮された店は全国展開されているチェーンの居酒屋ではなく、高級過ぎてはいないがちゃんとしていた。
 尤も、見てもいない料理を不味いかもしれないから食べたくないと店内で決め打ち発言するのは、相当な無礼に当たる為、その理由は申し込みの際語られたのみであるが。
「俺もイカの刺身が透明って感覚がなかったクチだけど……」
「新鮮なものを知らないとは……」
「世界蝕以降物流は格段に良くなっているから、機会があれば食べられるかもしれませんよ」
 凱が父親から聞いたことを思い出して触れると、智美が鼻を鳴らす。
 薫がそう言うと、智美は「スーパーに出回るとは思えんが、期待しておくか」と返す。
 薫の近くにいたいであろう凱を気遣ったというより、場の雰囲気を考慮したという方が正しい。
「白身魚なんかは熟成刺身にすることもあるわね。濃厚な味になるって聞いたことがあるわ」
 あやかが刺身談義に口を出す。
 刺身など、どこで食べても同じ……新鮮なものを切って山葵醤油で食べるだけではなく、低温で保存し続けられる環境を整えて、熟成させ、出すという店もあるとか。
「低温で保存し続けられる環境もそうだけど、熟練の技がないと見極めが大変だし、接待なんかをするお店にしかないと思うけど」
 「まだあたしはその域ではないわね」とあやか。
 あやかが外見年齢以上に歳を重ねていても、ここにおける熟練の技を積む職人とは一緒にならないという意識なのだろう。
(あやかさんは恋人の人に連れて行って貰ったのかな? そこまでは憶えてないと思うけど)
 恋人以外の異性を警戒するから近寄らないのだろうと推測する薫は、そこには触れない。
「そろそろ鍋かな。薫の所は妹達いるから、もつ鍋ってそんなにしないだろ」
「小さい子向きじゃないしね」
 凱の言葉に薫が食べる手を止めて微笑む。
「お鍋は野菜もよく食べられるし、簡単だけど、薫さんの妹さん達にはまだ少し早いわね」
 あやかがそう言っていると、 智美が別のテーブルと鶏肉のから揚げと鮪の竜田揚げの一部をトレードしてテーブルに並べた。(ちなみにリオのいるテーブルではない)
「酒も呑まないし、食事会だよな」
「こういうのも、無事に終わったからじゃない?」
 凱の呟きに薫が声を潜めてそう言う。
 討伐目標であったアンゼルムに撤退されてしまったが、犠牲者なく終えられた。
 周囲が楽しそうである為、会話は聞いても自分達だけの時間を過ごしている薫は自分達の会話で水を差さないように言った形だ。
「ま、今日は楽しんだ方がいい」
「そうね。年忘れだし」
 智美が2人へそう言うと、あやかがもつ鍋を手際良く準備し始めた。


「お疲れ様、今年も終わりですね」
「ロー……」
 芋焼酎をロックで呑む構築の魔女が落児へ話を向けると、熱燗を口に運んでいた落児が僅かに首肯する。
 構築の魔女の隣に座る明斗とドロシーは極めて戦略的にコースを堪能していた。
「サラダで腹いっぱいにするなよ」
『ガッテン!』
 そんな会話から始まった2人、サラダは取り分けしたり、飲み物のオーダーを聞いてあげたりとサラダはガッツリ食べなかった。
「ガチですね」
「ガチです」
 明斗の高音への答えも大変な真顔だ。
 その高音はアキレウスと一緒にカレルのテーブルへ今お邪魔している状態だ。
 煮込みが運ばれてくると、そろそろ始動とばかりに多めに取り始めているが、大食いが少ないテーブルもあって、明斗とドロシーの皿に多くの煮込みが取り分けられている。
「夜神さん、取り分けますよ」
 テーブルが違っていたら、折角の機会だし、折を見て隣にと思っていたが、幸運にも向かいに座ることが出来た為、高音も挨拶に出ていることもあり、構築の魔女が世話を焼きがてら声を掛けた。
「ありがとう……」
 人見知りする上、ぽつぽつと喋る為少々判り難いが、十架なりに楽しんでいるようだ。
「食べるの……遅いから、高音……待ってた……の」
 お箸が使い難いらしく、それで高音と一緒に席移動しなかったらしい。
「今日の料理は和風だけど、普段はどんなものを食べていたりするのかしら?」
「高音の……お母さんの……ハンバーグ……、とか……あと……グラタン……」
 高音の母親(彼女達は高音の実家暮らしである)が夕飯を作っているという話をした十架は、ハンバーグやグラタンが好きらしい。
「私は、野菜炒めとか適当な感じに作っているのだけれど」
「野菜炒め……ハーブソルト……? で、炒めると……美味しいの……」
 身近なことからのんびりと。
 そのつもりで話題を広げていくと、やはり任務を何度か共にしているからか、十架は構築の魔女へはにかみながら話す。
「休みの日とかは、遊びに出かけたりする?」
「高音と……お買い物……お洋服着ると……高音、喜ぶの……」
 H.O.P.E.の研究施設に足を運んだり、家で過ごすことが多い構築の魔女とは異なる休日であるようだ。
『ほら、お洋服!!』
 ドロシーがスケッチブックで向かいの席の明斗をばんばん叩く。
(お財布大丈夫なんだろうか……)
 明斗は高音が十架を着せ替え人形にしているだろう事実を察したが、主にドロシーへの説明が大変になりそうなので黙っておいた。
「それより、から揚げはマヨネーズの方が良くないか?」
『マヨなんざ女子供の食いもんだ 男ならケチャップだ!』
「……ど真ん中で女子供だろう」
 明斗がケチャップから揚げを食べてドヤ決めるドロシーに呆れるが、手は止まらない。
 隣の十架が試し出したので、そちらは構築の魔女にお願いしよう。
「戻りました。十架ちゃん、楽しそうね」
「お、から揚げにケチャップ……試してもいいか?」
 高音とアキレウスが戻ってきた。
 こくこく頷く十架がアキレウスへケチャップ付きのから揚げを差し出す。
「今年1年どうだったって聞いて回ると、結構あるよな」
「大規模作戦等、大きな節目もありましたからね。ですが、皆無事に年を越えらそうで何よりです」
 アキレウスに同意する構築の魔女の隣では、落児が「……ロロ」とやはり微かに首肯する。
 やがて、和牛もつ鍋の準備が始まると、明斗とドロシーの目が光った。
「解っているな?」
『任せろ!』
 蛋白質を摂る為の戦略は練ってきた。
 幸いにして大食いは少ない。勝てる。
「カレルからも鮪のねぎま鍋お裾分けされたいが、あそこは早く行かないと尽きそうだからな、先に行く。取り皿に少し確保よろしくな」
「お任せください」
 取り役を狙っていた明斗、ほっとする思いで、アキレウスの取り皿にはもつよりも野菜比重で入れておく。
「折角の忘年会、楽しまないとですね。そろそろ、幹事の方の邪魔にならない程度に周囲を見ておきましょうか」
 食べ物と飲み物の減り具合もそうだが、取り皿も〆の時に足りなくなるなんてことがないよう店員に声を掛けた方がいいだろう。
「ロロー」
「大丈夫よ、雰囲気を楽しむついでだから。でも、ありがとね」
 落児から微かな心配を感じ取った構築の魔女が微笑んで各テーブルを回りに行った。(その間も明斗とドロシーは抜かりなくもつ確保)
 と、落児は向かいの席の高音がくすくす笑っていることに気づいた。
「ロロロロ……?」
 何かおかしいことでもあっただろうか。
 すると、高音が「失礼しました」と言いながらも、こう言った。
「お2人は会話が通じるのだな、と思っていたのですが、落児さんは僅かでも、とても一生懸命に見えて。すみません」
 方々の挨拶回りも終えた高音は隣で箸と格闘する十架をフォローしつつ、テーブルの皆とも話している。
 邪魔にならないよう気をつけておかなければ、と思っていたが、十架がそうであるように、高音も任務を何度か共にしているだけあり、落児を邪魔に思うということはないようだ。
 とは言え、無口な男と長く過ごすのも大変だろう、という気遣いを感じたのか、「大丈夫ですよ」と高音は逆に気遣う。
「ローーロ……」
 僅かな会釈の後、落児は今年任務を何度も共にして世話になったと礼を言い、来年も縁があった時はという思いを伝える。
 食事の席である為、スマートフォンやノートパソコンは使わない。
 予め準備されたテキストを指し示すというのも、この場においては違うというのもあるのだろう。
 彼なりに一生懸命自分の思いを伝えようとする。
「こちらこそありがとうございます、で、いいですよね?」
「……―」
 感謝したい空気は伝ったのか、高音がそう言い、落児が緩やかに同意する。
「……明斗……お野菜も……食べないと……」
 ぽつぽつ十架が取り役の明斗に言っている。
 野菜の裏に仕込んだもつを地味に見逃さなかったらしい。
 が、もつを戻せということではなく、野菜も沢山食べないとダメというだけの話らしく、明斗とドロシーの取り皿には野菜も加えられた。
 微笑ましく見る高音は、やはり姿勢がいい。いつもそうだが、足の運びなども綺麗で、武術か何かをしているだろうというのは、何となく分かる。
「ローーロ……」
 落児が伝わらないかもしれないと思いながらも聞いてみると、高音はやはりちょっと首を傾げた。
 それでも何とか伝えようと背中へ視線を移すと、やっと気づいてくれたらしく、「家が剣道道場なので、私も剣道しているんですよ」と高音は笑う。
「なるほど、それで姿勢が良かったんですね」
 納得した構築の魔女がアキレウスと共に席へ戻ってくる。
「……最初に……取って置いて、正解……だったの……」
「結構なくなってるな。意外に皆食べるんだな」
 十架がなくなりかけている鍋を指し示して言うと、アキレウスが驚く。
 ちなみに明斗とドロシーが主に食べていたのだが、アキレウスはそれを知らない。


「ちょっと、何よ蜜柑ってば鮪ばっか取っちゃって。小学生みたいなことしてんじゃないわよ。葱食べなさいよ葱」
「何言ってんのよ、アンタの器こそ鮪だらけじゃないのよ!!」
 ヴァレンティナが目敏く蜜柑の取り皿を見て言えば、蜜柑も負けじと切り返す。
 が、ここのテーブルは所謂食べる人が多いので、口論は命取りだ。
「あ、美味しいですね。お刺身と竜田揚げも美味しかったんですけど、鍋はこういう感じなんですね」
「竜田揚げと鍋なら、ここの味の再現は出来ないけど、今度作るよ」
 このテーブルで最も食べているであろうリオ、衰え知らず。
 レヴィが食べない分、リオが食べている形なのだろう。
「レヴィ、加減するんじゃなかったんですか?」
「加減してるよ?」
「さっきから見てるけど、強いね」
 レヴィのペースの速さを見ていたカレルがくすくす笑う。
「酔い潰れた記憶はあまりないですけど、そうなったら介抱するのは俺なんですし、家に連れ帰るのは絶対無理なんで気をつけてくださいね?」
「あ、レヴィ、ワインお替り来たわよっ」
 リオとはオレンジジュース仲間の蜜柑がレヴィへ赤ワインを差し出す。
「ちょっと、ああ……大人のブドウジュースが……」
 ヴァレンティナの嘆きを聞く限り、多分彼女の赤ワインなのだろうが、蜜柑が酒がそんなに強くないヴァレンティナを気遣っているのだろうと察したレヴィが「ありがとう」と受け取っている。
 その間もひりょとフローラは順調に鮪のねぎま鍋を食べていたり。
(鍋だからお土産は無理だし)
 が、店の情報をお土産にすることは出来るだろうとひりょはフローラに負けじとじゃんじゃん食べる。
 そこへ、お裾分けを見越したアキレウスがやってきた。
「ここは消費が早いからな」
「健啖家が揃ったみたいだからね」
 先程は高音も来て、「こういう時間こそ、一番大切なんだよね。誓いを改めて確認したり、色々一年の憂さを晴らしたりね」なんて話を向けていたカレルもアキレウスへ笑う。
 幹事へも礼を済ませているカレルは「誓いを確かめるのも良いんだけど、色々飲みたい……」と漏らしていたアキレウスの為のスペースを少し作った。
「アキレウス、今年一年どうだった?」
「今年はお前と会えて、幸せだったよ。戦うこともあれば、こういうことも楽しむ。まぁ、テレビの件は……」
 言い掛けたアキレウスは鮪を口に運んだ後、「まぁ、いいか。お土産買って来てくれたし」と何やら納得している。
「ここのテーブル、足りるかな?」
 フローラがぽつっと呟く。
 思っていたけど言わなかったひりょ、このテーブルの消費率がダントツであることには気づいている。
「ほらー、行き渡らないでしょ。あんた美容の為に野菜食べるべきよっ!! お肌の曲がり角でしょっ!!」
「私は大人だからいいのよ。鮪ばっかだから、大きくなんないのよ」
「だから大して呑めない癖にありえないんだけどー!! レヴィ、プレゼント!!」
 相手をこき下ろしながらも気遣う壮大なツンデレが飛び交うのをレヴィが「リオに怒ったらごめんね」と言いながら受け取っている。
 そのリオは今鮪を咀嚼中、真面目なので口に物を入れたまま発言出来る性格ではない。
「ここ賑やかだよねー。食べてるし」
(食べると言えば、俺任務の行く先々で食べる機会多い? 自分で言うのも何だけど、腹ペコだよなぁ。……フローラもだが)
 ひりょはアキレウスの言葉を耳に拾い、任務の数々を頭に過ぎらせる。
「そういえば、エージェントになった今年、どうだった?」
 カレルが皆へ話を振っている。
 皆答えていき、ひりょの番となると、積極的に交流の輪に飛び込んでいけなかったひりょは少し緊張したが、交流自体が嫌いな訳ではない。ある舞踏会をきっかけに友人が出来た経緯もあるように人の縁とは分からないと思って、口を開く。
「最初はどうなるかと思いましたけど……こうやって色んな人と交流する事が出来るようになって良かったなと思います」
「それはあるかもしれない。僕も色んな人と交流するからこそ、僕の母国を改めて見られる気がする」
「自分だけだとどうしても見えてこないものってあるものね」
 フローラはうんうん言いながら、鮪をぱくり。
「あっ」
 最後の鮪だったので、食べていた全員の声が揃って、それから笑いが起こる。
 ひとしきり笑ったアキレウスが今度はもつ鍋の紹介にとカレルと共に席移動するのを見送り、ひりょは心の中で呟く。
(俺小心者かもしれないけど……来年もいい年になってほしいな)
 このひと時も、あの舞踏会のように『何か』のきっかけになるかもしれない。
 そうして縁とは紡がれていくだろうから。
「ちょっと、レヴィ、呑み過ぎですよ! 潰れたら楽しくなくなっちゃうじゃないですか……」
 リオがしっかりレヴィのお酒をカウントしているのを見、ひりょは頬を緩めた。

 カレルとアキレウスは外の空気を吸いに少しだけ店の外へ出た。
「こうしていられるのも無事だったからだね」
「負傷者はいるが、誰も死ななかったからな」
 戦いで負傷した者が1日も早く回復するよう、生駒山周辺が少しでも早く復興するよう。
 その手伝いが出来ればいいと2人は夜空を見上げ、願った。


「よし、これで2-3日分の栄養は確保した」
『うまかった』
 明斗とドロシーの顔は満足げだった。
 蛋白質摂取に特化していたらしい彼らは〆のラーメンを胃の隙間に、デザートもドリンクの助力を得て完全制覇していた。
「うどんのもっちり感が良かった。選んで正解」
「競争だったよね」
 ひりょとフローラも選択理由であった〆のうどんを堪能したらしく、店の外でご満悦。
 そこへ蜜柑とヴァレンティナが賑やかに出てきた。
「油断も隙もないわね! 何であたしの黒蜜かけバニラアイスをアンタにやらなきゃなんないのよ!」
「ちびっこはそんなに食べられないしー」
「さっき大人って言ってたのに小学生みたいなことしないでよ!」
「あ゛ー?聞こえなーい。いつも26歳児とか言われてるしー。大体大人だって?私がいつ言ったのよ。何時何分何秒? 地球が何回回った時?」
 多く食べる為に蜜柑からの奪取を目論んだヴァレンティナ、結局失敗したらしく、ぶーぶー言っている。
「しっかし、やばい、お腹いっぱいだわ―。それに今月お小遣いヤバいわー。蜜柑幾ら持ってる?」
「中学生にたかるな!!」
 調子に乗って食べるからだと呆れていた蜜柑、最後の一言に何考えてるんだと怒ったのは言うまでもない。
 そんなやり取りを見て、他のエージェントが笑っている。
(来年も誰かの笑顔の為に行動出来る自分でありたいものだな)
 そして、こんな風に、また笑えたらいい。

 来年の今頃、『あなた』はどうしているだろう?

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • ほつれた愛と絆の結び手
    黄昏ひりょaa0118
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
  • 沈着の判断者
    鋼野 明斗aa0553

重体一覧

参加者

  • アステレオンレスキュー
    ファレギニア・カレルaa0115
    人間|28才|男性|攻撃
  • エージェント
    アキレウスaa0115hero001
    英雄|25才|男性|ドレ
  • ほつれた愛と絆の結び手
    黄昏ひりょaa0118
    人間|18才|男性|回避
  • 闇に光の道標を
    フローラ メルクリィaa0118hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • エージェント
    中城 凱aa0406
    人間|14才|男性|命中
  • エージェント
    礼野 智美aa0406hero001
    英雄|14才|男性|ドレ
  • 癒やし系男子
    離戸 薫aa0416
    人間|13才|男性|防御
  • 保母さん
    美森 あやかaa0416hero001
    英雄|13才|女性|バト
  • エージェント
    レヴィ・クロフォードaa0442
    人間|24才|男性|命中
  • うーまーいーぞー!!
    リオ・メイフィールドaa0442hero001
    英雄|14才|?|ジャ
  • 沈着の判断者
    鋼野 明斗aa0553
    人間|19才|男性|防御
  • 見えた希望を守りし者
    ドロシー ジャスティスaa0553hero001
    英雄|7才|女性|バト
  • きゃわいい系花嫁
    夢洲 蜜柑aa0921
    人間|14才|女性|回避
  • オトナ可愛い系花嫁
    ヴァレンティナ・パリーゼaa0921hero001
    英雄|26才|女性|ソフィ
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