本部

NINJYAと悩めるおねえさん殿

雪虫

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
15人 / 4~15人
英雄
14人 / 0~15人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2015/12/24 18:20

掲示板

オープニング


「はぁ……」
 物憂げな溜め息に、ガイル・アードレッド(az0011)は手にしたお椀から顔を上げた。ここはナニカアリ荘101号室。この部屋の住人、大家さんこと「おばあちゃん殿」が作ってくれた夕食を時間の合う者で集まり頂くのが、このナニカアリ荘の暗黙のルールとなっていた。今ちゃぶ台を囲んでいるのはガイルとデランジェを含めて5人。ガイルは箸をことりと置くと、正面の人物に首を傾げる。
「おねえさん殿、どうしたでござるか」
「ガイルちゃん、実はおねえさんとっても困った事があってねん……お店がとってもピンチなのよん。クリスマスだから休む人が多くって……」
 そう言って「おねえさん殿」は再び息を吐き出した。ガイルは眉根を下げながら、細々と鍋を食べる「おねえさん殿」を困ったように見つめていた。


「という訳で、ヘルプをお頼み申すでござる!」
 ガイルは拳を握り締め、「お頼み申すでござる!」と更に深く頭を下げた。何か仕事はないかと歩いていたあなた方は、看板を持って立っていた派手なNINJYAに捕まった。ガイルは事情を一生懸命説明すると、あなた方に向かって三度深く頭を下げる。
「おねえさん殿にはいつもお世話になっているでござる! クリスマスイブゆえ、御用のある方にはムリにとはお願いしないでござる。しかしか、タイムがあるならぜひにお願いしたいでござる。『たくさんおサケを飲んでおつまみ食べてトークするだけのお仕事』でござる!」
 そしてガイルは四度目の「お願いでござる!」をして見せた。あなた方は顔を見合わせた。高いバイト代、たくさんお酒を飲むだけのお仕事、そして「おねえさん殿」という言葉……興味を惹かれたあなた方は、ガイルに了承の意を示した。


「あらーん、ガイルちゃんったらー。こんなに素敵なお友達がいるなんてあたし聞いてなかったわーん」
 「おねえさん殿」はあなた方にバチコーンとウインクをした。肩にかかる金髪のウェーブ。豪奢なアンティーク調のドレス。たくましく立派な大胸筋と、丸太のような見事な太腿。「おねえさん殿」……もとい「オネェさん殿」は満面の笑みを浮かべると、情熱と恐怖の狭間のセクシーポーズをお見舞いした。
「あらん、自己紹介が遅れたわねん。あたしはキャサリン。親しみを込めてキャシーって呼んでね」
「本名は剛三郎殿でござる!」
「本名を呼ぶなっつってんだろうが!」
 剛三郎……もといキャシーの野太い声に、ガイルは怯えた顔を見せた。それにキャシーは慌てて太い二の腕を振ってみせる。
「あらやだ、ガイルちゃんったらごめんなさーい。それで、あなた達がお店を手伝ってくれるのよねん。助かるわーん。衣装とメイクはまかせてねん。みんなとびっきりの美人さんにしてあげるわーん」
 そして、キャシーは「お店の衣装」を披露した。セーラー服、ナース服、キャビンアテンダント服……ここはオネェバー「かぐやひめん」。人々に夢と笑いを提供する、異空間の名前である。

解説

●任務
 オネェバー「かぐやひめん」でバイトする

●服装
 男性:女装
 様々な服とカツラとメイク道具が揃っている。女装であれば好きな服装をして構わないが、あまりに露出度が低い場合過度にならない程度にオネェさん達にアレンジされる。

 女性:着ぐるみ
 猫、犬、キリン等、様々な着ぐるみが揃っている。「可愛い女の子に顔を出されたら困るわーん(キャシー談)」

●仕事内容
1.ショー係
 ステージに乗ってショーを行う。ステージは十分広い。ショー内容はPCにおまかせする。

2.接客係
 お客様とおしゃべりする。

3.バーテンダー
 お酒やおつまみを運ぶ。

●発生イベント(PL情報)
PM7時:開店
  7時半:ショー開始
  8時:おさわりをする客が現れる
  8時半:酒を飲まされたガイルが泣き出す
  9時:天井から「謎の粘菌・弱」が降ってくる  

●敵情報(PL情報)
 謎の粘菌・弱
 スライム状のイマーゴ級従魔。衣服を溶かす能力がある。共鳴者には何の影響も及ぼさない。かつて何処かで腐海を作ったとか作らなかったとか。

●NPC情報
 キャシー(本名:苦竹 剛三郎)
 「かぐやひめん」の店長。ガイルの住むナニカアリ荘の住人。身長192cm。年齢、体重はヒ・ミ・ツ。謎の粘菌・弱の第一の犠牲者。

 ガイル・アードレッド
 理想のNINJYA目指して(以下省略)。回避適性。謎の粘菌・弱からオネエさん達を守ろうとする。

 デランジェ・シンドラー
 忍ばぬASSASSIN。シャドウルーカ―。「デランジェちゃんはあたしとキャラが被るからダメー(キャシー談)」にてショッピングにお出かけ中。

●その他
・外見年齢18歳未満は入店は禁止。控室にて店内のカメラ映像を見るのは可能
・未成年の飲酒・喫煙禁止
・過度なお色気はマスタリング対象
・無線機OK
・現在提示されている報酬は男性一人分。バイト可能人数と働き次第で報酬追加
・お客様をもてなす側である事をお忘れなきよう

リプレイ


 邦衛 八宏(aa0046)は呆然とした。「金髪のメスゴリラが暴れている」と相棒の稍乃 チカ(aa0046hero001)に言われ案内通りに来てみれば、目の前には燦然と輝く「かぐやひめん」というネオン。いやかぐやひめんはどうでもいい。なんだ、その上の「オネェバー」という文字は。八宏が現実と自分の間に横たわる深い溝を消去する作業に徹しているその隣では、アーテル・V・ノクス(aa0061hero001)がやはり呆然とそこに立っていた。こちらはパートナーである木陰 黎夜(aa0061)にクリスマスのケーキを買ってやるために高いバイト代につられ参加を表明したのだが、
(説明からお水系のやつだとは思っていたが……予想外だ……女装なんてした事ねえぞ)
 アーテルは黎夜の前では女性口調で喋っているが、それはあくまで男性恐怖症の黎夜の前だけであり、普段は喋り方も行動も心もれっきとした男である。間違ってもオネェでもなければホやゲが頭文字の人でもない。
「ねえ黎夜、今すぐ帰りたいんだけど」
「ケーキ……今年は食べたい……バイト代で少し奮発するって、嘘だったのか?」
 そう目を潤ませて言われてしまえばぐうの音も出てきやしない。そう、アーテルの半分は優しさで出来ている。それに男として一度言った事を覆す訳にもいかない。
「……分かったわ。明日お肉も一緒に買いに行きましょう」
 アーテルは女性口調で男らしく腹を括り、黎夜はアーテルの言葉に仄かに嬉しさを滲ませた。そんな、傍から見れば実に麗しい光景のその真横では、しかし男達の呆然祭りはまだ終わっていなかった。会津 灯影(aa0273)と巳勾(aa1516hero001)が、やはり呆然としながらケバケバしく光り輝くネオンを見上げ口を開く。
「普通の接客バイト、って聞いたん、だけど……?」
「酒飲めてつまみかっ喰らっていい仕事とか、何それ俺っちの為にあるような仕事じゃねぇかい。やるやる、おじさんに任せときなァ……って軽く考えてた時期が俺っちにもありました」
「お酒運ぶだけの、簡単なお仕事、だったような……」
「はい、簡単なお仕事ですね」
「女装して接客って……それって二丁目的な……?」
「ええ、そう言うお店ですね」
 不知火 轍(aa1641)の呟きに雪道 イザード(aa1641hero001)が答えを返し、倉内 瑠璃(aa0110)にノクスフィリス(aa0110hero001)(以下フィリス)が艶然と微笑んだ。彼らの言う事は何一つとして間違いではない。ただそこに「女装」の二文字がくっついていただけである。
 だがまあ何も男達は、ただ呆然とそこに立ち尽くしている訳でもなかった。この世に光と影が存在するのと同じように、呆然としている者の横にはノリノリの者も存在する。すでに扉を開け衣装を吟味していた楓(aa0273hero001)は、両手に花ならぬ不穏な布を持って相棒の元へと戻ってきた。
「我はこの紅と黒が基調の牡丹柄和装を着るぞ! 前帯に肩出し等、下品にならぬ程度に着崩して豪奢な花魁を演じてやろう。存分に見惚れるがよい。喜べ、貴様に似合いの服も選んでおいたぞ」
「水色スカート白エプロンドレスにボーダーニーソとローファーと、赤毛ウィッグサイドテール!? どこでこういうの覚えてくるの? 傾国の技なの? てかちょっと丈短くない!? そしてくっそ騙された!」
「接客とは言ったが普通とは言ってない。まぁ給金は弾むらしいし諦めよ、はっはっはっ」
「僕はこの白チャイナにしようかな。これは『女装』だからさ、男っぽい肩のラインとかあえて出していくんだよ。ギャップ萌えって奴? 楽しそうじゃん! どうせヤるなら楽しんでこー!」
 入口で子犬と狐、もとい灯影と楓がべしべしとやりあっているその最中、フヴェズルング(aa0739hero001)(以下ヴェズ)は鏡の中の己に白チャイナ服を宛がった。白のポニテウィッグはおろか白Tバックまで嗜む気の悪魔のさらに奥の方からは、別の方向にノリノリの男達の声が聞こえてくる。
「さぁ連理……着替えようか」
「なっ……ば、何すんだよどこ触ってんだ一人で着替えられるっつってんだろ!」
「なんだこのフリフリは!? 俺はこんなもの付けないぞ!?」
「龍ちゃんこれは任務だよ? ちゃんと周りに溶け込まないとダメだって、これはある意味迷彩みたいなものだから!」
「め……迷彩……いやしかし確かに……」
「さぁさぁ大丈夫だって似合う似合う」
「似合われても困るんだが……おい、化粧は断固拒否だ!」
 蛇塚 悠理(aa1708)と蛇塚 連理(aa1708hero001)、鵠沼 龍之介(aa1522)と三鷹 オサム(aa1522hero001)……若干流されている者と襲われかけている者がいるようだが、青少年に悪影響があってはいけないので詳細は明記しない事にする。そんな、混沌と書いてカオスと読む異空間を眺めながら、ウェルラス(aa1538hero001)は心の底から残念そうに息を吐いた。
「見た目年齢的に手伝えないのかー……残念だ」
「ほんと残念そうだな……というかなぜ俺を巻き込んだ……」
「ガイルさんが『たくさんおサケを飲んでおつまみ食べてトークするだけのお仕事』、というお手伝い募集する事を許されている時点で先は見えていた」
 水落 葵(aa1538)の疑問に何処か誇らし気に、そして回答になっていない回答をしたウェルラスは、店の中央に立っている人物の元へと歩いていった。肩にかかる金髪のウェーブ、豪奢なアンティーク調のドレス、たくましい大胸筋と丸太のような見事な太腿を持つ金髪ゴリ……もとい雇い主に向かって恭しく頭を下げる。
「ミス・キャシー。貴女のために、微力ながら僕にもお手伝いをさせて下さい」
「……ほんとその手の人達好きだな」
「あらやだーん。頼りにしてるわジェントルちゃん」
 金髪ゴリ……もといキャシーはウェルラスに対してバチコーンとウインクをした。バッサバサのつけまつげから風が起こった気がしたが、気のせいだ。多分。
「源氏名どうしようかー。使わないかもしれないけど一応考えておきたいよね」
「……『いつき』でいく」
「!? バレたら怒られるよ……!?」
「他の参加者にアレのいる小隊の人間はいない。人間付き合い狭いヤツだしそれならバレんだろ」
「やぁ、こんな所で奇遇だね」
「マジかよ……こんな格好で……」
 密かな綱渡りをしている葵とウェルラスに悠理がいい笑顔で声を掛け、連理が己の姿を隠そうとするその後ろでは、いつの間にか浴衣に衣装チェンジした轍が両手にメイク道具を持ってスタイリッシュに立っていた。その前には谷崎 祐二(aa1192)が、緊張しきった面持ちで椅子の上に座っている。
「タニコの化粧、させていただくよ」
「厨房で手伝おうかと思ったが、女装……いや、腹を括った。毛の処理と洗顔後のケアはすでに済ませてある。化粧水と乳液の違いはよく分からなかったが!」
「キッチリと服に映える、良い女に仕上げてみせるよ。動くな、しっかり塗れないから、動くな、ステイ」
「嘘……これが、私……?」
「己の技術が恐ろしい……」
 少女漫画風と棒読みが見事なコラボレーションを果たし、赤いサリーを身に纏いし女装男子・タニコがこの世に生を受けたと同時刻、アル(aa1730)は目の前のサンバ衣装をマジマジと眺め上げていた。頭、肩、背中から孔雀のごとく広がる鮮やかかつ巨大な羽と、肉厚ですらりと長い脚……アルは心に去来した想いを嘘偽りなく素直に呟く。
「……なんか強そう」
「アルちゃん言いたい事あったら言って良いのよ?」
 雅・マルシア・丹菊(aa1730hero001)もまた嘘偽りなく至極素直に呟いた。花魁、水色エプロンドレス、白チャイナ、フリフリ、サリー、浴衣、アンティークドレス、サンバ……そんな、混沌と書いてオネェバーと読む異次元に、ついに八宏の脳内の埋め立て工事が完了した。
「漠然とですが、出来る……気がします、女装。言葉での接客は……苦手ですが、礼節なら、それなりに出来ますので……」
「精々頑張れよ、俺は特等席から見物させてもらうからさ」
「でしたら私がラピスラズリ様に装いを施す傍らでお手伝いさせて頂きます。八宏さん、中々に線が細いのでお似合いですよ」
 脳内工事が完了した八宏とチカの傍にフィリスがシュッと出現し、そしてまた一人生贄……もとい勇者が誕生した。そんな、混沌と書いて「これ、クリスマスイブなんだぜ」と読む異世界を眺めながら、ガイル・アードレッド(az0011)はぐっと拳を握り締める。
「ミナサマすごいでござる! 実はおねえさん殿のお仲間だったでござるか?」
「お師匠様」
 ガイルが声に振り返ると、そこにはディアンドルというドイツ周辺の民族衣装(超可愛いスカート系)を着た身長180センチの筋肉質美人が立っていた。身長169センチのガイルが疑問符を浮かべながら見上げると、ヨハン・リントヴルム(aa1933)は笑顔を浮かべて頭を下げる。
「はじめまして。僕はヨハンと申します。実はお師匠様の弟子にして頂きたく、変装の腕前を見て頂くべく今回参加致しました。20年ぶりに家族とクリスマスを過ごす予定だったのですが、どうしてもニンヤ(ドイツ語でNINJYA)のお師匠様にお会いしたく……」
「そ、そうなのでござるか!? よろしくお願いするでござる! しかしか、そんな、オシショウなんて……」
「それでですね、ぜひお師匠様の変装の腕前も拝見したいのですが」
 照れるガイルに向かって、ヨハンはピンク色の布の塊を差し出した。今、くノ一衣装を持ったドイツ系美青年が、真顔でガイルに迫る。


 人は、目を覚まして自分がナース服を着ている事に気付いた時、一体どういう反応をするものだろうか。獣臓(aa1696)(86歳男性)は今まさにそんな事態に陥っていた。確か
「ふぉふぉふぉ、ただ酒飲めると聞いて馳せ参じたのじゃ」
(人様が困っているそうじゃから人助けに来たのじゃ!)
「旦那様……言っている事と考えている事が逆でございます」
(さすがうちのメイドじゃ! わしの心の声まで! しかしお酒を飲んで楽しめるバイトと聞いたのじゃが、箱を開けてみたら何やら様子が違うような気がするのぉ)
(旦那様……気付かなければ幸せで要られたのでございます。メイドパンチ!)
(おうふ!)
というやり取りをキュキィ(aa1696hero001)としていたような気がする。心の声で会話している事にツッコミを入れてはならない。ちなみにこの後
「……に派手めメイクを施しウィッグを被せ完成でございます。私いい仕事をいたしました。キャシー様、本日は旦那様がお世話になりますどうぞよろしくお願いします。旦那様のげんじな? というのでしょうか。そちらはキャシー様ぷろの方へお任せ致します」
という会話があったのだがそこは割愛する事にする。
 獣臓が己の服装と現状把握に努めていた頃、ショーステージの上には腹を括ったアーテルがチャイナ服姿で立っていた。全ては黎夜のクリスマスケーキのため。ちなみに赤と黒のスリット大きめチャイナ服はアーテル自身のチョイスである。黎夜には何故かスカート姿を褒められたがそこはさすがに断った。
(思い出せ、オネェの真似をし出したあの頃を。女っぽい仕草してただろ。いつも通りに、そう。いつも通り黎夜の前にいる気持ちで)
 アーテルは眼帯をしていない左眼をカッと見開くと、手に持った剣を緩やかに、ステージ下にいる観客達を牽制するように宙へと舞わせた。色気たっぷりにスリットから覗く脚もさることながら、力強くも美しい剣舞に客席から歓声が上がる。
 一方、接客に当たっていた瑠璃は、お嬢様風フリフリドレス姿で途方に暮れていた。
(くっ、どうしてこんな事に……取り敢えずこういう店なら口調もそう言う風にした方が……共鳴時のラピスの時みたいな口調にした方が良い、よね……ジュースを飲みながらお客さんの話を聞けば良いらしいけど……)
 だが、そう簡単に行動に移せるはずもない。もっとも瑠璃に関して言えば要因は色々あるのだが……そう言えば他のみんなはどうしているのだろう。臨時バイトだし異空間だしこういう事には慣れてないはず……瑠璃は参考にするために、かつ同族を求めるために周囲に視線を走らせた。
「やばーい! マジうけるー、ちょー面白いんですけどー」
 そんな瑠璃の耳に聞こえてきたのは、虎噛 千颯(aa0123)のオネェというよりJKノリの声だった。伊達めがねにセミロングかつら、スカートは短めだが清涼感のある色のスーツ、ネイルアートに小顔メイク、ブランド系香水に本気出し過ぎのストッキング、ムダ毛処理完璧の丸の内OLがそこにいた。
「チーちゃんって呼んでね~、よろよろ~」
「千颯……何でお前そんなに生き生きしているんだ? ……みたいな?」
 そんな千颯の横には、着物の上に割烹着を纏った白虎のゆるキャラバーテンダー……もとい白虎丸(aa0123hero001)が呆然と立っていた。しかも千颯に何か吹き込まれたらしく
「こちらでよろしいでしょうか……でござる……みたいな?」
「千颯……本当にこの口調であっているのか? みたいな?」
と奇妙な言葉使いになっている。
 ツッコミたい所は色々あったが、白虎丸が着物の下にビキニアーマーを装着している事を抜きにしてもツッコミたい所は色々あったが、瑠璃の言いたい事は一つだった。接客が上手過ぎて参考にならない……瑠璃は新たな生贄を求め必死に周囲を見渡した。そんな追い詰められた、実は女装願望その他色々ありゆえに悩み多き男子の目に、ディアンドルのヨハン、ねこみみセーラー服の連理、オールドナースの獣蔵(86歳男性)の姿が映り込む。
「ドイツからやって来たビール娘、ヨハンナちゃんです♪ それではまずご挨拶に、ビールジョッキ5杯一気飲みやりまーす!」
「いらっしゃいませ……えーっと、何か飲む……飲まれますか……? 悩み事? そっか、大変だよなー……」
「ハッ、わしの服が変わっておる、じゃと!? オールドナースとはキュキィの趣味じゃの。若さは無いが年の功じゃ、酒を注いで悩みを聞くくらいできるぞぃ。勢いでパーッと話せば多少心が軽くなるのぉ」
 上手過ぎる……他のみんなもなんだかんだグラスにお酒を注ぎながら客の話を聞いている……あまつさえ酒までおねだりしている……そんな瑠璃の気持ちを代弁するようにバーテンダーをしている灯影が
「つーか楓は接客大丈……わぁお狐様手慣れてらっしゃる」
と水色エプロンドレス姿で棒読みに呟き去っていった。どうしよう、このままでは俺一人お荷物になってしまう……と蒼白になる瑠璃だったが、ハッと気付いて再びフリフリ姿で辺りを見渡す。
(そ……そうだ、恥ずかしがる事なんてないんだ。だってみんなこんなに堂々と女装しているじゃないか。何も変な事じゃない。普通。普通。女装もラピス喋りもここでは普通!)
 覚悟を決めた瑠璃は、最後の勇気をもらうべく「レッツパリピーイエ~!」と諸手を上げるOLJKを視界に収めた。そして客に向き直り首をこてんと傾げて見せる。
「ラ……ラ、ラピスです。おじ様、今日はよろしくね?」
 一度そうなってしまえば後はもうその場のなんとやらと言うヤツである。その場の雰囲気やアルコールの匂いもあっただろうが、瑠璃のテンションはどんどんうなぎ上りになっていく。
「す、少し恥ずかしいけど、堂々とする女装ってなんだか楽しいかも。あはっ、何で今までラピスってこの姿に抵抗感感じていたんだろっ」
 だが、その場の勢いとは恐ろしいものである。少なくとも一人の青年のコンプレックスをいとも容易くブチ壊していくぐらいには。瑠璃、もといラピスは自分の体に何かが触れている事に気付き、その手にすっと視線を下ろした。そして悲鳴を上げ……るでもなく、やんわりとその手を払いながらクスクス笑ってさえ見せる。
「何、おじ様? ラピスの身体に興味でもあるの? でもダーメ、ラピスの身体はそんなに安くないから♪」
 そう言ってウインクさえした瑠璃は、もはやコンプレックスに捕らわれる悩み多き青年ではなかった。こうして何かの階段を三段ぐらいすっ飛ばしてしまった瑠璃もといラピスだったが、進撃のおさわり魔の方はそれで終わってはくれなかった。蠱惑的な18歳フリフリドレスの笑みに興が乗ってしまったのか、おさわり魔の手はさらに瑠璃のフリフリのスカートに
「おいてめぇ、一体何してんでい」
伸びよう……とした所で、江戸弁190センチの極妻オネェ……もとい巳勾がその手を止めた。椿油で纏めた髪に簪を差し、女物の派手な着物で煙管で煙を「ぷはー」と吐く姿は、ヤリ手のホステス風味と言えなくもないが、迫力的には完全にその道の人である。
「巳勾サン……もといミワさんは面倒見はいいんでねえ? もらうモンはもらうけどな」
 極妻オネェ……もとい巳勾の介入でその場は一時収まったが、この手の店には付き物というべきか、各テーブルでおさわり魔達は同時大量発生していた。だが、H.O.P.E.の名を背負うリンカー達が進撃のおさわり魔達に屈してしまう事はない。雅が    
「お花は見て楽しむものよ? 下手に触れたらトゲで怪我しちゃうかもね……それでも止めなきゃ問答無用でケツアタックね」
 と言葉でやんわり客をたしなめ、ヨハンが
「もう、おイタはダメですよ♪」
と『うっかり』果物ナイフを客の股間のすぐ側に落とす。
 ヴェズは
「僕にお触りなんて良い度胸してるねぇ……虐められたいの?」
と顎クイしつつ妖しく耳元で囁く上から目線ドエス対応。
「あはは……ちょっとスキンシップが激しいですよ~やだな~」
と引き笑いする連理には
「お客様、それ以上はご遠慮いただけますか?」
とバーテンダーの悠理がスカート軍服眼鏡付きでヘルプに入る。
 オサムが
「あらあらうふふ、まだお仕事の時間だから、プライベートでゆっくりね」
と赤いマーメイドドレスでしなだれつつどんどんお酒を飲ませれば、楓が
「ふむ、我の美脚に見惚れたか? 良いぞ、特許す。しかし触るという事は触られる覚悟もあるのだろう? 我を楽しませておくれ」
と客の手を両手で包みながら傾国物の妙技を見せ、獣臓は
「ふぉふぉふぉ、わしなんぞおさわりしても楽しくないのじゃ。他の若い子をいけn…ごふん、おすすめしておくぞい」
と生贄を勧める。
 そんな、混沌と書いて「これ、全員男です」と読む異空間の住人達に、迷彩という名のフリフリエプロンを纏った龍之介は乾いた視線を送っていた。


 龍之介がピンクのリボンを装備したまま乾いた瞳でキッチン業務にいそしんでいた頃、ファウ・トイフェル(aa0739)は控室にてじっとモニターを眺めていた。6歳児がまずお目にかかる事はないだろう異空界の出来事に、ファウは無邪気に首を傾げる。
「男が女の子の格好して、オモテナシするの? 不思議なお店」
「テーブル3番、氷交換。5番、お客さん絡みだしてる。さりげなく入って上手い事流れ切って」
 そんなファウの隣ではウェルラスが、無線機で相棒の葵にてきぱきと指示を出していた。他にもアルがアイドル業参考のためにと主にショーを眺めていたり、桐ケ谷 参瑚(aa1516)が「頑張れー、酔い潰れてお見苦しいもの晒すなよー」と無表情のまま呟きながら南無三ポーズをしていたりしたが、じわじわ暇が押し寄せてきている事はいかんともし難かった。プロセルピナ ゲイシャ(aa1192hero001)(以下セリー)はすでに飽きらかし、何か面白いものがないかと部屋の中をうろうろしている。
「なあ、暇だし、トランプでもしねえか……」
 そんな中、黎夜がその場にいる子供達(中身は問わない)に一組のトランプを差し出してきた。その誘いに暇を持て余していたチカと参瑚が揃って身を乗り出してくる。
「いいねえ! あ、じゃあさ、罰ゲーム付きのババ抜きにしようぜ。最後に残った三人が店から借りた服で女装な」
「負けたら女装なん? いーよー俺負けねーし」
「トランプなんて久しぶりだなぁ。折角のこういうお店だもん、ぜひとも男子に着てもらいたいね。ここは気合入れて勝ちに行かなきゃひっひっひ」
「ボクも参加するよ。歳が近い人達と遊べるの、嬉しいから」
 ゴル○ばりに濃ゆいポーカーフェイスを作ったアルの後ろからファウもひょこりと顔を出し、そのまま黎夜の横に座った。6歳児といえども男子の姿に黎夜の肩がびくりと跳ねたが、「男性恐怖症克服のために努力する」という誓約のため拳を握って我慢する。
「私も参加させて頂きます」
「にゃー」
 キュキィとセリーも参戦を表明し、最後にウェルラスも無線を置いて一同の輪に加わった。配られるカードを眺めながら、ウェルラスは12歳の外見に見合わぬ不穏な笑みを浮かべてみせる。
(ここは最下位を狙っていくよ……女装はもちろんやらせてもらうし、そして葵を巻き込むんだ。最初は一番上のブレザーを脱がせ、負けるたびにスカートをウエストで一段折らせ少しずつミニスカートにさせる……)
 ウェルラスはその様を想像し、「ふっふっふ」と笑みを漏らした。今、女装を賭けた、全力・ブラフ・ゴル○ありの仁義なきトランプ勝負が始まる。


 八宏は緊張した面持ちで舞台袖に立っていた。フィリスの協力により女装もした。苦手ながら老舗の葬儀屋の肩書に恥じぬよう、品を心掛けた接客もした。客のおさわりも乗り越えた。だが、今この舞台袖から出ていけば、さらに衝撃的なイベントが八宏の事を待ち受けている。思えば金髪ゴリラ討伐と言われて来たはずなのに、何故基本コミュ障引きこもりの自分が十二単衣を着てこんな所にいるのだろう……そんな八宏の露出した肩を、サンバ衣装を身に纏った雅の手がぽんと叩く。
「八宏さん、こういうお仕事で一番大事なのは楽しむ事よ。お客さんが笑ってくれるならそれで良いわの気分でいくのよ!」
 八宏は元野郎イコールその手のプロの雅の顔をじっと見つめた。舞台袖には雅以外にも仲間達の姿がある。「人手、要る?」と手伝いを申し出てくれた浴衣姿の轍、サンバの雅、そしてサリー姿のタニコ……こんなに自分を支えてくれる仲間がいるのに、一体何を不安に思う事があるだろう。
「……行ってきます」
 そして八宏はスポットライトに向けてその足を踏み出した。長髪のカツラを外し、十二単衣を脱ぎ捨て、かぐや姫から女性用褌一丁へ。八宏が足を出す度に、引き締まった二本の筋肉の間で白い布がひらりと揺れる。
「ハァイ、あたしは雅よ。よろしくね♪ それではこれからショーについて説明するわ。こちらにいるやーちゃん(八宏のこと)がお客様の指定した衣装に着替えてくれまーす。投げキッスやにゃんこポーズなどオプションもお受けしちゃうわよ」
 八宏は丁寧に一礼した後、客席にその瞳を向けた。さすがに褌一丁で仁王立ちする訳にもいかず、若干前屈みになって隠すべき所は隠す。
「………あの、は、早く……何でもいいから、着せて頂けると……」
 そんな恥ずかし気な八宏の声に、客席から座布団を無理矢理引き裂いたような野太い雄叫びが湧き上がり、「軍服!」「秘書風!」「未亡人!」「三つ指ついておかえりなさいと言ってくれ!」と怒涛のリクエストが雪崩込んだ。とんでもない盛り上がりに、金髪ゴリ……もといキャシーの目がギラリと光る。
「これはとんでもない逸材揃いねん。引き続きうちの店で働いてくれるよう交渉出来ないかしらん……」
「う、うう、うううう~」
 顎に指を当て考え込むゴリ……もといキャシーの耳に何処からかべそべそという音が聞こえてきた。見ればへそ出し金髪くの一が空になったグラスを前にべそべそと泣きじゃくっている。
「ガイル、どうした」
「ううう~」
「ガイルちゃんったらお酒飲んじゃったのねん。この子泣き上戸らしいのよん。前も飲ませた時大泣きしちゃって……」
「こっちで保護しておくな。もー飲めない人に飲ますのは駄目ですよ! めっ! おーよしよし」
「ガイル、落ち着け? 落ち着いて水飲もうな? な?」
 キャシーから事情を聞いた灯影がガイルの頭をわしわしと撫で、連理が落ち着かせようと優しくガイルの背中をぽんぽんする。そんな、身長160センチ台女装男子の織りなす空間に「ちょっと誰かカメラ持ってきて!」と野太い声を上げたキャシーは、天井から忍び寄る魔の手に気付く事は出来なかった。


 戦いは終わった。女装を賭けた、全力もブラフもゴル○も尽くした仁義なき戦いは。チカは罰ゲーム三人衆の姿を視界に収めた後、再び腹を抱えて爆笑した。
「私……このような服は……恥ずかしいのですが……」
「ボク、目付き悪いから似合わないと思うんだけど……」
「どう? 今すぐお店に出れそうな出来栄えだと思うんだけど」
「似合う! すげえ似合う! 今すぐキャシーの所に直談判に行ってこいって!」
 キュキィは今一度自分の格好を恥ずかしそうに見下ろした。エナメル生地のピッタリボンテージに、下着と紙一重のホットパンツ、ロングブーツのハイヒール……普段のメイド服に隠された細い少年ボディくっきりの服装に、黎夜は部屋の隅でほっと胸を撫で下ろす。
(良かった、勝てて。女の子の格好は恥ずかしいから……)
「どうせなら記念撮影とかしねえ? こういう機会滅多にないもんなー」
「出来たらもう一勝負しませんか? 葵のブレザー制服をミニスカートにしたいんですよ。下手に脱ぐより結構恥ずかしいという仕様でして……」
『きゃーん、イヤァーン』
 それぞれ別方向の提案をする参瑚とウェルラス(ブレザー制服着用中)の申し出を、モニターの中から謎の不気味な声が遮った。一同がモニターに視線を移そうとしたのと同時に、無線機から心底焦った声が聞こえてくる。
『参瑚、見てんだろ共鳴しろ助けろ! 野郎の裸とか見たくねえええ!』


 巳勾は目の前で繰り広げられる暴虐の腐海に戦慄した。「従魔か? 何か弱っちいかん、じ」と軽く考えてた時期が極妻にもありました。だが謎の粘菌・弱のもたらす脅威はそんなのん気なものではなかった。金髪ゴリ……もといキャシーの豊満という名の筋肉に粘菌が惜しみなくまとわりつき、鍛え抜かれた腹筋、爆発しそうな大胸筋、丸太もへし折りそうな見事な太腿がちらりちらりと露わになり
「オイィぃーー!? 何かこれ薄い本? とかいう展開じゃね? いやそんな生易しいもんじゃねえ! 参瑚、見てんだろ共鳴しろ助けろ! 野郎の裸とか見たくねえええ!」
 一方、フィリスは顎に指を当てながら目の前の光景を眺めていた。ヴィジュアル系美女(だが男である)の視線の先には、正に薄い本状態になっているお嬢様ドレスの姿がある。
「おや、これは? ふむ、触れると服が溶ける菌ですか」
「ふぇ!? な、何これ!? 何で服が溶けて……! み、見ないでっ」
「あらあら、まあまあ、これは素敵な光景が広がっていますね。とは言え……ふむ、従魔ですか」
「え? 従魔? じゃ、じゃあ早く共鳴してよフィリス」
「いえ、もう少しラピスラズリ様の艶姿を見てからでも」
「そんな事言ってる場合!?」
(これは……すごくいいチャンスだよね)
 瑠璃が粘菌を浴びながら胸を必死に隠していた同時刻、悠理は軍服スカート膝上丈でこんな事を考えていた。連理を誘導し粘菌×セーラー服を拝めるのではないのかと。断っておくが連理は男である。悠理はイケメン男子である。そしてこの日はクリスマスイブである。そんな混沌と書いて「現実とは非情である」と読む異常事態を眺めながら
「服溶けててウケるんですけどー!」
と千颯はスマホを構えていた。
 だが、いくら面白かろうといつまでも薄い本的なアレを展開している訳にもいかない。服を溶かすだけとはいえ従魔なのには変わりないし、一般人もいるし、ついでにオネェ達の脱衣ショー危機が現在進行形である。フヴェズルングという名の白Tバックも嗜む悪魔は、チャイナドレスに忍ばせていた無線機を取り出した。
「あー、ガチ従魔が相手じゃ流石に共鳴しないと倒せないねぇ……というわけで無線機でファウを呼んじゃう。緊急事態、緊急事態」
「もう少し堪能したい所ではありますが仕方ありませんね、そろそろ私も痕を晒してしまいそうですしさっさと倒してしまいますか」
「何だろこれスライム? って服溶けてるんですが!?」
「服を溶かす従魔か。我は全裸になろうがこの至上の身体故問題ないが」
「とと、取り敢えず避難誘導! 全裸は俺が困るの! 楓の優美な舞でちゃっちゃと何とかして!」
 ようやくやる気を出したフィリスが瑠璃と、灯影が楓と共鳴し、光の中から魔法少女と和装狐耳が現れた。だが、突然光の中から現れた魔法少女と狐耳に、すわ一大事かと客の間にさらにパニックが広がっていく。
「おち、落ち着いて下さい……これは、その、お色気サービス……です」
 そんな中、八宏のたどたどしい声がマイク越しに聞こえてきた。ちなみに今は某野菜を背負った電子アイドルの姿をしている。
「ガイルさん、同業だったっけ? ショーやろうか、本物の忍者の力を魅せよう」
 一時収まった隙に轍が「おねえさん殿を助けなければ!」と駆け出そうとしたガイルの腕を引きステージへと上がっていった。事態がよく呑み込めていないガイルを壁に斜めにして立たせる。
「とりあえずそこに立ってて……大丈夫、当たりそうになったら回避してくれれば良いから」
「さぁクリスマス限定ショーの始まりです! ステージの邪魔にならないように離れてくださーい」
 タニコ……もとい祐二が八宏からマイクを受け取り客の注意をステージに向けた。轍は浴衣の裾からナイフを一本取り出すと、急所だけは避けつつナイフをガイル目掛けて放つ。ナイフはガイルの太腿を掠り、露わになった白い腿に客席から歓声が上がる。
「轍殿! これダイジョウブなんでござるか!?」
「ガイルさん、動くな、ステイ。あと今はしーって呼んで」
「はいお客さん方落ち着いてー、えっちなスライム退治ショーの時間だ……ぷ、あははは!」
 一方、客に声を掛け混乱を押さえていたヴェズは、目の前に現れた人影に思わず指を差し爆笑した。ヴェズと色違いの青チャイナを着せられたファウは怒って相棒に拳を上げる。
「ねえ写真撮っていい?」
「よくない!」
「えー、まあその話は後にしようか。皆丸裸になる前にヤっちゃおう! 写真撮っても良いけど、僕は高いよ?」
 ファウとヴェズが共鳴し従魔掃討に乗り出した頃、別の所ではタニコが投げた投擲用クリスマスケーキが従魔目掛けて飛んでいった。イザードはそれを見送った後、忍者ショーをする轍を止めようとステージに向かおうとしたが、その浴衣姿の肩を「みーちゃん」と書かれたハートマーク名札マーメイドドレスが引き止める。
「従魔だってバレちゃうとパニックになるかもしれないから、ショーの一環としてバレないようにうまく処理してもらおう? あとバケツ持ってきてくれない?」
「俺ちゃんにもよろろ~」
「分かりました、雑事喜んでお手伝いさせて頂きますよ!」
 イザードは二人の頼み事を快く了承し、そしてオサムと千颯の元にそれぞれバケツが届けられた。二人はバケツに謎の粘菌・弱をたっぷりと掬い上げ
「ところでオジさん、ガイルくんの下着がふんどしなのかどうか気になって夜しか眠れません」
「あーてがすべったー」
とガイル、もといかけてもよさそうな人、もとい一般人のいない所に勢いよく放り投げた。粘菌は見事突っ立っていたガイルの頭上に降りかかり、胸、太腿、そして足の付け根の黒い布が露わになり
「何をしてくれたんだ馬鹿者がーッ!」
 その時、千颯に瞳が渋イケメンの強烈な一撃が叩き込まれた。千颯の放り投げた粘菌に被り物の一部を溶かされてしまったゆるキャラ……もとい白虎丸がくの字になった丸の内OLと強制的に共鳴する。
「やだ、白虎ちゃん怒っちゃった?」
『知らん! とにかくとっとと倒すぞ!』
 怒れる相棒の声に千颯がグリムリーパーを出現させ、粘菌の一つを打ち払った。他の共鳴したリンカー達もそれぞれ自分の得物を振るい、粘菌は徐々にステージへと追いやられていく。そこに、楓と共鳴した灯影がクリスタルファンを、アーテルと共鳴した黎夜がマビノギオンを従魔に向ける。
『主の要望なら致し方あるまい。これも演目の内として我が舞しかと目に焼き付けよ』
「殲滅しなきゃな、放送事故が起きる前に」
 そして放たれた二つのブルームフレアが、花のごとく広がりながら店内にいた全ての粘菌・弱を焼き尽くした。しばらく沈黙が流れたが、一つ、二つと手を叩く音がし、最後は割れるような歓声がリンカー達を包み込んだ。 


「くっそ……酔いが醒めたわ……」
 巳勾はぐったりと項垂れながらソファーの上に座っていた。最初は呆然としながらも「まあいいわ、やる事は変わらねえしなァ」と見事な切り替えを見せていたが、さすがに金髪ゴリラのお色気ショーは堪えるものがあったらしい。ともあれリンカー達の的確な避難誘導と迅速な粘菌討伐により客や他の従業員、店への被害はほとんどなく、今は閉店して従業員とリンカーの労い会となっていた。
「みなさんちゃんお疲れさまん。これは私のおごりだから遠慮なく飲んでいいわよん」
「お疲れ様……うん……本当に、お疲れ様……」
「大変勉強になりました」
「たまには、こういうのも良いね、仕事は勘弁だけれども」
 巳勾とは別の意味で、主に働きたくない的意味でぐったりとしている轍と、その隣でにこにこしているイザードと別のテーブルでは、連理とガイルが軽いお通夜状態と化していた。
「悠理てめえ……見てないで助けろって言ったのに……」
「ちゃんと助けたじゃないか。可愛い連理の姿を他人なんかに見せないように服だってちゃんと掛けてあげたし」
「思いっきりギリギリだったじゃねえか! いい加減にしろよこの変態!」
「すまないガイルくん、助けようとは思ったんだがどうしてもあの格好は……君の尊い犠牲は忘れない」
「まずは見捨てるもんだと聞いたんでな 」
「だ、ダイジョウブでござる……ダイジョウブ……」
 連理は悠理の背中をべしべし叩き、ガイルは葵の着ていたブレザーを肩に掛け、龍之介と葵の声を聞きながら項垂れていた。ちなみに粘菌を浴びまくった二人が最終的にどんな惨状になったのかは、青少年に悪影響があっては(以下省略)。
「あーあー、おっさんのスカート折らせた恥ずかしい姿を見たかったのに」
「人を巻き込むな。あとおっさんって呼ぶな。お兄さんと呼べ」
「どうされました、ラピスラズリ様?」
 ウェルラスのおっさん呼ばわりにハートが傷付いた葵をよそに、フィリスはぼーっとしている瑠璃の顔を覗き込んだ。具合でも悪いのかと思考を巡らすフィリスに、しかし瑠璃は笑みを見せる。
「俺、ううん、ラピス分かったんだ。女装って楽しいってね♪」
「あらん、私達のお仲間希望ならいつでも歓迎するわよん」
 瑠璃の発言を耳ざとく聞きつけたキャシーが、すかさず瑠璃にバチコーンとウインクをした。そんなキャシーの後ろから、黎夜がおずおずと声を掛ける。
「あの……」
「あらん、さっき風邪をひくからって上着を貸してくれたジェントルちゃん」
「ジェントルじゃ……ない……」
「え? ……あら、これは失礼したわ。どうしたのん?」
 事情を察し覗き込んでくるキャシーに、黎夜は電話番号の書かれた紙を差し出した。目を見開くキャシーに、黎夜は俯きながら口を開く。
「と、友達になって欲しくて……あと、もし良かったら悩みとか聞いてもらえたら……」
 そして上目遣いで自分を見つめてくる少年のような少女の姿に、キャシーは「もちろんよん」と笑みを浮かべた。それから、「そうそうこれこれ」と黎夜の手に封筒を一つ握らせる。
「お店で働いてくれたリンカーちゃん達と同額には出来ないけれど、従魔からお客さんやお店を守ってくれたお礼と、ちょっと早いお年玉よん。他のチャイルドちゃん達にもあげるわねん。今日はお店には出してあげられなかったけれど、レディの格好に興味があるならいつでも来てねん、待ってるわん」
 そしてキャシーは再びバチコーンとウインクをした。風が起こった気がしたが、気のせいだ。恐らく。
「でも、なんとかなって良かったです。僕の英雄は一足先にドイツに行かせてしまったので」
「キャシーちゃん、あたしとも仲良くしてくれたら嬉しいわ」
「結構楽しかったよね。帰ったら兄貴に報告しよ」
「白虎ちゃーん、まだ怒ってるのー? お願いだから機嫌直してー」
 ほっと息を吐くヨハン、キャシーに話し掛ける雅、ほんのり楽し気に呟く参瑚をよそに、千颯は幻影蝶の引きこもりとなった白虎丸に声を掛けていた。そんな、混沌と書いて「皆様思い思いに楽しんでおられます」と読むクリスマスイブを眺めながら、祐二は傍らに座るセリーのジュースとグラスを合わせる。
「ともあれ、お疲れ様でした」
「にゃー」

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 常夜より徒人を希う
    邦衛 八宏aa0046
    人間|28才|男性|命中
  • 不夜の旅路の同伴者
    稍乃 チカaa0046hero001
    英雄|17才|男性|シャド
  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 薄明を共に歩いて
    アーテル・V・ノクスaa0061hero001
    英雄|23才|男性|ソフィ
  • クラインの魔女
    倉内 瑠璃aa0110
    人間|18才|?|攻撃
  • エージェント
    ノクスフィリスaa0110hero001
    英雄|20才|女性|ソフィ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 美食を捧げし主夫
    会津 灯影aa0273
    人間|24才|男性|回避
  • 極上もふもふ
    aa0273hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
  • 誓う『世界』はここにある
    ファウ・トイフェルaa0739
    人間|6才|男性|生命
  • 共に在る『誓い』を抱いて
    フヴェズルングaa0739hero001
    英雄|23才|男性|シャド
  • Foe
    谷崎 祐二aa1192
    人間|32才|男性|回避
  • ドラ食え
    プロセルピナ ゲイシャaa1192hero001
    英雄|6才|女性|シャド
  • 助けるための“手”を
    桐ケ谷 参瑚aa1516
    機械|18才|男性|防御
  • 支える為の“手”を
    巳勾aa1516hero001
    英雄|43才|男性|バト
  • 家庭派エージェント
    鵠沼 龍之介aa1522
    人間|27才|男性|攻撃
  • カレーな防衛アルコール系
    三鷹 オサムaa1522hero001
    英雄|35才|男性|ジャ
  • 実験と禁忌と 
    水落 葵aa1538
    人間|27才|男性|命中
  • シャドウラン
    ウェルラスaa1538hero001
    英雄|12才|男性|ブレ
  • その血は酒で出来ている
    不知火 轍aa1641
    人間|21才|男性|生命
  • Survivor
    雪道 イザードaa1641hero001
    英雄|26才|男性|シャド
  • エージェント
    獣臓aa1696
    人間|86才|男性|回避
  • エージェント
    キュキィaa1696hero001
    英雄|13才|?|シャド
  • 聖夜の女装男子
    蛇塚 悠理aa1708
    人間|26才|男性|攻撃
  • 聖夜の女装男子
    蛇塚 連理aa1708hero001
    英雄|18才|男性|ブレ
  • 銀光水晶の歌姫
    アルaa1730
    機械|13才|女性|命中
  • プロカメラマン
    雅・マルシア・丹菊aa1730hero001
    英雄|28才|?|シャド
  • 急所ハンター
    ヨハン・リントヴルムaa1933
    人間|24才|男性|命中



前に戻る
ページトップへ戻る