本部

愛と哀の抱擁

真名木風由

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2015/12/21 16:55

掲示板

オープニング

 それは、韓国ソウル支部での研修の午前の部が終わった時のことだった。
 支部の食堂で食事を取っていると、同じように昼食を取っている女子職員達が言葉を交わしている。
「今日、仕事終わったら、彼とデートなの。ディナーにプレゼントしてくれるって」
「うちは彼氏の帰りが遅いみたいで、マネーの方はなさそう。でも、今日中にハグはしておきたいわねぇ」
 何のことだろう?
 エージェント達は会話の意味が分からず、首を傾げる。
 が、別の席からは男子職員がマネーデーだからクリスマスとは別に奮発すると会話していたり、今月の出費の多さは半端ないと嘆いている声が聞こえて、今日は韓国で何かのイベントがあるようだ。
「どういう日なのでしょうね?」
 剣崎高音(az0014)が首を傾げるが、わざわざ聞きに行くことでもないので、エージェント達は食事を終わらせ、午後の研修を受けるべく食堂を出て行く。

 そこで話が終われば良かったが、午後の研修が終わったその時にある意味話が始まった。

「今から、ソウルの街に出て貰っていいでしょうか」
 午後の研修も終わり、支度を整えている『あなた』達へ職員が声を掛けてきた。
 何かあったのだろうか。
 表情からして、緊急性が凄く高いものではないようだが。
「実は、本日はハグデー、マネーデーなのですが……」
 職員が言うには、韓国では毎月14日は恋愛イベントの日なのだそうだ。
 恋人が欲しいけど出来ない者にとって、毎月14日は苦痛に違いない。
 で、12月14日はハグデー、マネーデーと呼ばれ、恋人同士抱き合って寒さを分かち合いましょう、1年間の愛を込め、お金を使って彼女にご奉仕ししょう、というものらしい。
 最後だけあって、非リア充を殺しにかかる日である。
 説明は割愛するが、1年間の中でバレンタインデー、ホワイトデーの他国でもあるものを別として殺傷力が高いのは、6月のキスデーだろうか。
 それはさておき、職員の説明は続く。
「ショッピングモールで、フリーと思われる能力者が通りハグ魔をしているそうで、ハグをしている恋人に割り込み、男性にサバ折りして、気絶させまくっているそうです。女性の中には男性を助けようとカバンを投げたり殴ったりしたそうですが、ダメージがないみたいなのと、誰かと会話しているような挙動があったことより、能力者の疑いが濃厚となりました」
 やってることを考えれば、ヴィランではないだろう、とのこと。
 非リア充、かつ、フリーの能力者が行っているのではないか。
 そうした見解より、研修に訪れていた『あなた』達へ該当者の確保をお願いしたいらしい。
 何とも間抜けというか、悲哀凄まじいというか……とりあえず、確保してあげた方がいい気がした。
 だって、そうして回ってるということは、ハグする相手も奉仕する相手もいないって言って回っているようなもので、正気に返ったら、後ろ指差されて笑われること間違いなし、非リア充期間延長待ったなし。
「呆れる案件ですが、仕方ないですね」
「軽い案件ですし、確保するまで、ハグデー、マネーデーを楽しんできてください」
 職員はそう言って苦笑する。
 ハグデー、マネーデーを楽しむ……?
「……?」
 夜神十架(az0014hero001)のように、意味を理解していない層もいたが、意味を理解した者達は何とも言えない顔をする。 
 とりあえず、可哀想な能力者に情けをかけてあげよう。

解説

●目的
・フリーの能力者を確保してあげる

●場所
・ソウルにあるショッピングモール

時間帯は夕方、夕食には少し早い時間。
仕事帰りの男女が爆発しろレベルでキャッキャッウフフしています。
レストランに沢山のショップがビルの中に入ってます。

●敵(?)情報(PL情報)
・パク エヒ、愛姫(アイキ)

エヒは20代女性能力者。OL。恋人いない暦と年齢が一致している。見た目クールな美人で仕事も出来るが、年相応の感性を持ったごく普通の女性。その外見と能力で高嶺の花と敬遠されて口説かれたことすらないという悲しい結果によるもの。見向きもしてくれない男性許すまじでプッツンして通りサバ折り魔になって凶行しまくってる。
愛姫は20代女性英雄。元の世界の記憶は乏しいが、男にフラれたらしく、そのショックは強く覚えているそうで、エヒを応援している。ドレッドノート。
最近誓約したて。エヒの年末の仕事が忙しく、エージェントになるかどうかは後回ししてる。

●H.O.P.E.お勧め作戦概要
・妙齢の男女による囮作戦。別に本物の恋人同士である必要はない。それっぽくモールを歩き、買い物するフリをしたり、広場の片隅でハグすれば、向こうからやってくるだろう。

●NPC情報
剣崎高音、夜神十架
指示がなければ囮を尾行し、登場を待つ班。

●注意・補足事項
・ショッピングモールには沢山の人がいるので、確保の際は注意してください。相手は武装していない、ヴィランではない能力者です。武器を突きつけて脅したりすることなく、普通に取り押さえてください。
・恋人関係でなくとも囮は立候補可能です。ハグはちょっとという場合はマネーデーで奉仕しているように見せましょう。
囮の数に制限はありませんが、作戦の性質上掲示板での立候補は必須です。掲示板の宣言なくプレイングで囮をすることはご遠慮ください。
・囮は実際にマネーを使う必要はなく、任務中に購入は出来ません。(アイテム配布なし)

リプレイ

●いちゃいちゃの陰に
 内容的に、如何にも英雄の自分は幻想蝶の中にいた方がいいのではないか。
 Ebony Knight(aa0026hero001)はその考えを速やかに改める必要があった為、物陰にいる。
「あいつ……どう考えてもやり過ぎだ」
 隣に、Ebonyが考えを改める必要になった男がいる。
 名を、シド (aa0651hero001)という。
 北条 ゆら(aa0651)の英雄である彼は、ゆらの保護者ポジション。
 それ故に、ゆらの彼氏である加賀谷 亮馬(aa0026)は目の上のたんこぶ……当初はショッピングモールが珍しいと見回していた彼の視線は恋人同士に固定されている。Ebonyは亮馬の英雄なので、シドのストッパーとしてここにいる訳だ。

「どこもクリスマス仕様だなー」
「何か楽しくなってくるよね」
 シドのヘイト数値上昇中に気づいていない亮馬とゆらは、手を繋いで雑踏を歩いていた。
 ちなみに、シドがやり過ぎと言っただけあり、腕を密着させ、指と指が絡む恋人繋ぎである。
 互いの温もりが混ざり合うのは少し照れるけど、囮の大義名分でデートが出来るのはいいことだ。
 シドは任務を忘れないようゆらに言い含めていたが、ゆらは亮馬とデートしたかったし、亮馬はクリスマス準備の下見も兼ねられるとゆっくり楽しむつもりでいる。
(あ、いや、任務なんだけど)
 亮馬は誰ともなしの言い訳をしてみるものの、ウィンドーの向こうにあるディスプレイに顔を輝かせるゆらを見れば、いつも通りでいいかな、なんて。
「あ、こういうの、プレゼントに欲しいなー」
「それならペアリングなんかもいいんじゃないか?」
「ペアリング!」
 仕方ないな、と笑って財布をチェックするフリをする亮馬がそう言うと、ゆらの瞳も一層輝いた。

「あいつぅ、指輪だと……」
「一応は任務の一環だ。実際に購入する訳ではない」
「思ってなければ言わないだろう」
「あまり出しゃばることのないようにな……シド殿、分かっているか?」
 Ebonyの呆れた声は多分シドの耳に届いていない。
 人はこういう時頭痛がするのだろうか、とEbonyは思いつつ、シドの暴走は自分が止めねばという妙な使命感に燃え始めていた。

「今こういうのあるのか。可愛いな。試着してみたらどうだろう?」
「に、似合うかな……」
 そう言いながらもゆらは試着室へ消えていく。
 シドが「あいつ絶対自分が見たいからだ」と物陰から出ようとするのをEbonyが隠しきれていない巨体を駆使して必死に止めていたりするが、距離があったのが幸いして亮馬は気づかない。
 と、カーテンがシャッと開いた。
「短過ぎるかな?」
「か、可愛い……!」
「普段こんな恰好しないから恥ずかしーな」
 ミニスカサンタを思わせるクリスマスカラーのミニワンピース姿のゆらは照れて、もじもじ。
 目的達成(シドの読みは当たっていた訳だ)の亮馬は思わず買ってしまいそうになるが、Ebonyが後ろで頑張っている姿が試着室の鏡に映ったので、任務を思い出して断念した。
「クリスマスのディナーの下見をしようか」
「そうだね」
 Ebonyの一応考慮した亮馬の提案にゆらは頷いた。
 でも促した際に肩に手を触れたし、雑踏に入る頃には恋人繋ぎは再開なので、シドが「肩に手を……!」とか「手を離せ手を」とヘイト上げていたので、あんまり効果はなかったりする。

「はい、あーん」
 ゆらが差し出すのは、試食用の激辛キムチだ。
 甘い物全般が好きな亮馬は特に好きなどら焼きの試食はなくとも韓国スイーツの試食はないものかと一瞬思ったが、彼はその誓約の為、激辛キムチに屈する訳にはいかない。
 亮馬は顔を寄せ、あーんに応じた。(尚、後方でEbonyが「顔近づけ過ぎだ」と乱入しようとするシドを取り押さえている)
「美味しい?」
「辛いけど……日本のとはちょっと違うな」
 ゆらへ涙目になりながらも感想を伝える亮馬。
 が、亮馬が消耗していそうだし、広場にでも行こうという話になった。
 今の所ターゲットは来ていないので、広場の片隅でハグして釣った方がというのもある。囮であることを忘れていた訳ではないのだ。

「近くで見ると、結構大きなツリーだね」
 吹き抜けになっている広場のツリーは見た目重視で大きなものだ。
 ウィンドーショッピングしている時にも見えていたが、広場でじっくり見ると凄いと思う。
 見上げるゆらの顔は、やっぱり可愛くて。
「ゆら……」
 亮馬はツリーの近く、人の少ないその場所でゆらの背を抱き寄せた。
(ターゲットが来るまでだけど……)
 ゆらが亮馬に身を預けるようにして腕を亮馬の背に回し、意思を込めて抱き返す。
 任務と言い聞かせられたシドが「早く来い能力者」と怨嗟の篭った呟きを言っているが、雑踏のお陰で2人の耳に届いていない。
(プライベートになったらどうするつもりなのだろうな)
 Ebonyの素朴な疑問は、シドに聞かせない方がいい。

●今までに感じたことのない──
「麻生さんの所は、英雄さんからですか……何かいいですね、そういうの」
 迫間 央(aa1445)は、如何にも偶然を装った風に麻生 遊夜(aa0452)と挨拶をしていた。
 彼らも囮班である為、央の隣にはマイヤ サーア(aa1445hero001)、遊夜の隣にはユフォアリーヤ(aa0452hero001)の姿がある。
 両者軽い世間話をしてから、「良い夜を」と別方向に分かれた。
 とは言っても、確保のこともあるので、囮同士もそんなに距離は離れていないのだが。

「ハグはともかく、マネーって……お金出す側が楽しめるモノなのかしら?」
「相手が喜んでくれるなら安い。と思える関係なら?」
 理解出来ないといった様子のマイヤへ央がそう言う。
 まるで彼はマイヤをそう思っているかのように言うが、直接的なことを面と向かって言われたことはない。とは言え、マイヤは知っている。難からず思っているが、マイヤは自身の感情の整理がし切れておらず、央へ伝えたことはない。
 けれど、とマイヤは央の腕へ手を伸ばす。
「囮……なんでしょう? 中途半端にしていたのでは意味がないわ」
 寄り添うように腕を絡めると、央は目を瞬かせた。
「……私が相手じゃ不満だったかしら?」
「まさか。俺が知る限りマイヤ以上はないよ」
 央の目が嬉しそうに自分を見ていると気づき、マイヤは顔を伏せる。
 隣にいるだけなのに。
 けれど、マイヤは央が普段幻想蝶にいるマイヤと一緒に歩けるだけで嬉しいのだということに気づいていない。

 さて、彼らの囮はというと──
「毎月恋愛イベントとは。国が変われば事情も変わるもんだ」
(『日本だと恋愛イベントはクリスマスにバレンタインデーとホワイトデー、後は精々互いの誕生日位だもんな』)
「毎月恋愛イベントって、出費は多そうだけど素敵だよね」
 礼野 智美(aa0406hero001)と共鳴する中城 凱(aa0406)へ離戸 薫(aa0416)が声をかける。
 彼らは見た目的にここでマネーデーとハグデーの囮をしても無理があるということで、こちら側だ。
「智美も今日本だとこうはいかないって言ってる」
 能力者と判明しているので、彼らは共鳴状態での尾行だ。
 目立たないよう服装面での配慮をした為、一見すると共鳴したリンカーであるとは誰も思わないだろう。
 戦闘時にはそう言ってられないだろうが、今回のような場合は不必要に目立つこともない。
 相手はヴィランではない能力者……推測して正気に戻った時の精神的なダメージと黒歴史追加という部分を差し引いても、能力者のイメージダウンは避けたい。
(そういえば、あやかさん、さっきからどうしたですか? どこか具合が悪いんですか?)
 薫が沈黙を守る美森 あやか(aa0416hero001)へ問いかける。
 能力者対応の為、薫も共鳴しているのだ。
(『何か、あたし前に囮とかよくしていた気がするの』)
 そう言うあやかへ、見た目的には子供だから今回は仕方ないと薫は返す。
 が、最近の任務で自覚した薫は、凱も言っていたあやかと智美の実際の年齢が少し気になった。
 見た目よりは確実に上だろうが、どの位なのだろう。少なくとも高校生以上ではないと出来ない気もするが……。
「でも、央さんもマイヤさんも浮いてないよね」
「目立ってるけど、1枚の絵みたいだな」
 マイヤは飲食は滅多にしないとのことで、ショーウィンドーを眺めて歩く央とマイヤの服装はスーツとドレスだ。
 ショッピングモールでは浮いてしまいそうなものだが、自然と絵になっている。
(『囮を満喫できないのは悪く思うなよ』)
 智美がそう言っているが、凱は綺麗に無視した。
「今の所囮に掛かってないようですね」
 スマートフォンのメール着信を確認し、薫が呟く。
 尚、薫には流石にカップルが多いなという感想しかない。が、恋人がいたと思われるあやかはこういう時の周囲がどうであったか憶えていないらしい。単純に失われた記憶の中にあるだけなのか、誰かと一緒だったからかは確かめる術がないが……。
(『この店の服は似合いそうだな』)
 不自然ない距離を保ちながら凱と薫が歩いていると、智美がそう漏らす。
(思うのは自由だが、服は薫が気兼ねするだろ)
 凱が呆れて返す。
 食べ物関係は薫ではなく彼の妹達に振舞われるだろうし、出来てマフラーや手袋といった小物程度だろう。
「帰りはどうなるんだろう」
「移動まで全員一緒だったんだから帰りもそうだろうな」
 薫が呟くと、声を拾った凱がそう言う。
「それもそっか」
 この日に単独で帰るのはちょっと空しい。
 犯人の気持ちも分からなくはないが、やっていいことと悪いことはある。
(『そろそろ広場に移動するみたいね』)
 あやかが央とマイヤの歩く先に広場があることに気づいた。
(『ハグするには十分な場所だな。今ならいいだろうが、生憎囮ではない』)
 共鳴すれば、外見の性別上はカップルに見えないこともない凱と薫。
 智美は凱をそう言ってからかったが、「うるさい」と凱は智美に言って、薫と共に広場へ腰を下ろす。
 スマートフォンを弄るフリをして見る先では──

 雑踏を歩いた末、やってきた広場のクリスマスツリーは、とても綺麗に飾りつけられていた。
 隣にマイヤもいるとなれば、央はそれだけで嬉しい。
 と、Ebonyの巨体の向こうに抱き合う亮馬とゆらの姿が見える。(多分Ebonyはシドを必死に取り押さえているのだろう)
 彼らは恋人同士……抱き合うのに理由はない。
(囮とは言え……)
 本当に抱き寄せていいのだろうか。
 自分達は彼らと違う。
 マイヤを大切に思うからこそ、マイヤに無理強いをしたくない。
 央はマイヤを抱き寄せるべきか微妙に躊躇した。
「央」
 マイヤに名を呼ばれ、央が彼女へ身体を向けた、その瞬間──
 彼女の細い腕が央に向かって伸びてきた。
 細い腕が首筋に絡まり、央を抱き寄せる。
「……!」
 央の時間硬直は1秒にも満たなかった。
 その両腕はマイヤの腰に伸び、彼女が負担に思わないであろう強さとそれ以上の優しさを込めて抱き返す。
 自分とは異なる温もり……央の温もりがマイヤに染み込んでいく。
(今まで感じたことがない位……暖かくて、穏やかな気持ち……)
 このまま流されてしまいたい位。
 感じたことがない感情に、マイヤの世界が震え、彼女がそれに浸ろうとした瞬間──

●その時までは
 遊夜とユフォアリーヤは央とマイヤと分かれた後、どの囮からも離れ過ぎないよう注意しながらものんびり歩いていた。
「非リアを殺しに掛かった結果、この惨状……まぁ、状況的にハグやってれば勝手にやってきそうだな?」
「最も効率的」
「そうだな、それが最適か」
 わくわくした様子で言うユフォアリーヤへ遊夜は笑みを向ける。
 黒歴史以上に非リア充延長は慈悲がなさ過ぎるというもの、早く止めてやりたい。
「しかし、ハグデーは分からなくもないが……マネーデー、ねぇ?」
 日本人の遊夜には馴染みがないものの為、1年の愛を込めて恋人に奉仕する日、という意味合いがよく分からない。
「……ん、バレンタインの、ようなもの?」
「あー……金を使わせる商業・経営戦略という点ではそうかもな」
 と、遊夜はユフォアリーヤが首を傾げた拍子にニット帽子がずれた。
 耳を隠す為に準備したニット帽子は少しでも窮屈さを感じさせない為にぴったりというものではなかったのだ。
「ちっと窮屈だろうが我慢してくれ」
 遊夜が頭を撫でながらニット帽子を直してやるが、ユフォアリーヤはやっぱり窮屈なのか、不満そう。
「ほれ、今日は存分に甘えてくれて良いからよ」
「ん!」
 ユフォアリーヤが満面の笑顔で遊夜が広げる両腕に飛び込む。
 コートも考慮している為、その尻尾が衆目に晒されることはない。
(お揃いだし、オッサンでもカップルに見えるか?)
 遊夜は抱きつくユフォアリーヤが転ばないよう腕で支えつつ、歩き出す。

 ……というのを、彼らの尾行班は見ていた。
「ごく自然にされてますね」
「仲良し……さんなの……」
 剣崎高音(az0014)の感心に頷く夜神十架(az0014hero001)はハグデーの意味を部分的に理解したらしく、高音に抱きついて尾行している。
「まだ他のチームも遭遇していないらしい」
 そう言うのは天原 一真(aa0188)だ。
「年末だからな……イベント合わせでこういう暴走をする者が現れるのも無理はない。手荒なことはしたくないが、必要であるなら止むを得ないだろう」
「サバ折りは相手の胸椎と腰椎の間を締め上げるべしってね!」
 ミアキス エヴォルツィオン(aa0188hero001)が、相手も能力者だし共鳴して行えば問題ないだろうと続く。
 が、高音が待ったをかけた。
「サバ折りは止めましょう」
「ヘルニア誘発の危険性を考慮し加減は目標の胴部に合わせ……何故だ?」
「普通に目立ちますよ」
 抵抗し、同行の協力もしない相手なら仕方ないのではと一真は言うが、高音は周囲を指し示した。
「私達はその能力者が男女分かっていません。相手が女性だった場合……一真さん、周囲の女性へどう説明しますか?」
 普通に取り押さえれば良かったのでは。
 間違いなくそういう声は上がる。
 特に女性から非難の声は上がるだろう。
「同行に応じさえすればしないなら」
「少なくとも、冷静ではない状態の可能性の方が高い訳ですから」
 最後の手段だと一真は言うも高音はそう返す。
「北風と太陽のどちらかが勝ったかを思い出してください」

 そんなやり取りを知らない遊夜とユフォアリーヤは、現在お洋服吟味中。
「お、この服とか似合うんじゃないか?」
 ユフォアリーヤに指し示すのは、黒のニットワンピース。
 海外ブランドのものらしく、オフタートルで黒一色であるものの、編み方が凝っている為、質素に見えない。
 服装も装飾品も黒で統一するユフォアリーヤによく似合うのではと思ったのだ。
「……ん、どう?」
「おう、可愛いぞ」
 ユフォアリーヤが手に取り、身体の前に合わせてポーズを取ると、遊夜はごく当たり前にそう言った。
 頬を染めるユフォアリーヤは、嬉しそうにはにかんだ。

「しかし、そういう日だからか年末間近だからか……皆周囲を案外見ていないな」
「HOTだね~、みんなイチャイチャに励んでるね~」
 遊夜とユフォアリーヤに負けていない周囲と一真が周囲を見回すと、ミアキスもうんうん頷く。
 囮以外に現れたら、情報収集に必要な犠牲としてそのままにしようという方針を一真は打ち出していたが、囮に掛からなくとも騒ぎに遭遇したら対応という方針で全体統一された為、周囲も気にしているのだ。
「フードコートとかでも珍しくなかったりするのだろうか」
「それよりは広場の方じゃないかな~」
「ツリーが大きかったからな」
「2人共、移動するみたいですよ」
 一真とミアキスの会話に高音が加わる。
 十架が転ばないよう支えつつ、後を追う高音に続き、一真とミアキスも後を追った。

 遊夜とユフォアリーヤも広場へ。
 ちょうど他のチームも広場へ到着している。
(人が少なく、死角になる場所……それでいて確保し易い場所、と)
 遊夜は周囲を見回し、見つけた場所へ滑り込み、ユフォアリーヤを抱きしめる。
「ふむ、温かいなー」
「……ん」
 遊夜に抱きしめられ、ユフォアリーヤも嬉しそうに遊夜へ擦り寄る。
 その時だ。
「もう……何なのよ……年齢差上手くいっちゃって……」
 ゆらり、と女が物陰から出てきた。
「私は! その年齢差で告白もしてないのにフラれたり、君は1人で生きていけそうとか言われて!! 生まれてこの方男となんか付き合ったことないのに!!! 何で男は、男は……私スルーするのよおおおおおお」
 当たりだ、と遊夜が思う間もなく、女が走ってきた。
 速さからして共鳴していると当たりをつけている最中、抱きつかれ……サバ折り体勢。
「……いらっしゃいだ、すまんね」
「むー!!」
 遊夜の色々な意味が込められたいらっしゃいを理解したユフォアリーヤが凄まじく不満そうな顔をしながらも、共鳴に応じた。
 別の物陰にいた一真と高音も共鳴し、飛び出すが、遊夜は慌てず騒がず逃げられないようにしながらも優しく抱きしめて確保する。
 途端、その顔が一気に真っ赤になった。
「は、離してっ!」
「こちらも仕事でね」
 遊夜が離す頃には、他のエージェントも駆けつけてきた。
 解放された女性はへたり込んで、真っ赤な顔を両手で覆う。
 その女性を庇うように女性が立っており、この女性が彼女の英雄、共鳴状態は解除されたとエージェント達は察し、まずは事情を聞くことにした。

●ハグデーの最後
 パク エヒ、愛姫と名乗った彼女達は、自分達の事情を話した。
「こんなことしてたら、どんなに美人で性格良くてもお付き合い出来ませんよ?」
「薫さん、人生経験が足りないな」
 説得する薫へ遊夜がこう諭した。
「自分のスペックの高さは把握しとかないとな。高嶺の花には手出しし難い男も多い」
 遊夜の言う通り、エヒの外見はクールな美女。
 愛姫の話によると、一流企業でも能力が高いOLらしい(実際見せて貰った名刺はそれを裏付けた)
「ぐすぐす……皆勝手なイメージで……」
「イメージは……結構難しいな」
「まぁ、今回の件で逆に見る目が変わってイメージアップするかもな?」
 覚えがある亮馬が頷く横で遊夜はそう言うが、ユフォアリーヤは小声で「もっと遅く来ても、良かったのに」なんて呟いてる。
「それにな……」
 遊夜が言いかけたその時、エヒの後ろからぽん、と肩を叩く存在があった。
 旧 式(aa0545)である。
(いっちょ男になってこいって言うけどよ)
 ドナ・ドナ(aa0545hero001)は、ハグデーもマネーデーも意味不明で非リア充からしたら罰ゲームみたいなもの、気持ちは分かるとした上で式を送り出している。
 囮は双方共通見解、お断りで纏まった為、2人は広場に張り、3チームどこに遭遇しても対応出来るようスタンバイしていたのだ。
 遊夜のカウンター(?)でアッサリ終わったが、ここで彼女が納得しないと悲劇が終わらないので、満を持しての出番である。

『漫画やアニメであるだろ? 暴走した彼女を後ろから抱きしめて止めるッツーあれ、あれをやれ』
『身長的に暴走した彼女を止めるっつーより、暴走した母親を止める子供だろ』
『バーカ、あの女、そんな年齢じゃねぇ。なら、テメエの漢気の見せ所だろ? どんな口説き文句出すのか楽しみだぜ』

 そのような会話を交わしてやってきた式は、肩を叩かれて見上げてくるエヒを改めて見た。
(本当に美人だ。まぁ、悲劇を止める為だし、セクハラではないだろうよ)
 乗り気じゃない訳ではないが、ドナの言うロマンチックな感じになるかと聞かれると、疑問符がつく。
 とは言え、涙でぐしゃぐしゃの様子のエヒの傍で膝を着いた。
「なあ、エヒ。こんなことはもうやめよーぜ? 許されるなら……」
 ハンカチで涙を拭いてやりながら、体勢をこちらへ向けていないエヒを後ろからぎゅっと抱きしめる。
 本日、2人目の男性からのハグにエヒの顔が真っ赤になった。
(そうか、付き合ったことがないなら、寧ろ慣れてないのか)
 見た目と仕事の能力で高嶺の花と敬遠されているが、中身は恋人も欲しい普通の感性……慣れていないし、可愛い部類かもしれない。
「マネーデーでもあんだろ? 頑張ってるエヒに何かプレゼントさせてくれよ」
 恋人じゃないかもしれないが、そうしてずっと頑張ってきたなら、俺が奉仕する。
 式は相手を想うように、出来る限り努力してロマンチックに言うと──
「やめろ、エヒは免疫がないんだ、そろそろ限界だ」
 愛姫の言葉に式は気づく。
 ぷしゅっという擬音が似合いそうな状態でエヒが式の肩に崩れ落ちる。
 見ると、のぼせているようだ。
 満を持しただけあり、式が極めて穏便にエヒの無力化に成功した。
「良かったな! 男扱いされてたじゃねーか!」
「うるせー」
 ドナが爆笑一歩手前だったが、とりあえず、場所を移動。

「俺が抱いてやろうかと言わなくて良かった……」
「照れるなら言わない方がいいよ……」
 シドの安堵にゆらがぽそりと呟く横で、薫とあやかが顔を見合わせてる。
「一応穏やかな方向に進みそうね」
「僕はまだ子供なんだなって思いました……」
 高嶺の花でも音沙汰がないものか。
 エヒは理解してくれそうだけど、その代わり薫に理解出来ないことが増えた。
「そうらしいぞ」
「うるさい」
 智美がからかうが、凱はスルーし、周囲を見る。
「落ち着けば彼女も理解してくれると思いますが、他の能力者、英雄の立場が悪くなるような素行は慎みましょう?」
「リア充にこの悲しみは分からないだろう」
「相手がいなさそうな男性に仕掛けた方が抱き返してくれたかもしれませんよ?」
 央が煽ったらしい愛姫にそう説くが、強烈な失恋経験あるらしい愛姫の悲しみにどこまで届くか。
 マイヤは会話に耳を傾け、ふと、あの温もりを思い出す。
(もし、彼女達が私の央にそんなことしたら……)
 対応次第では平手ひとつ位はと思ってから、マイヤはごく自然に考えた自分に驚き、胸の前で小さく手を握った。
 今は、それを言う時が満ちていない。
 まるでそう言い聞かせるように。

 エヒが気絶している間に支部へ移動したエージェント達は彼女の回復を待った。
「これだけいて暴れるようなら」
「それは流石にないだろう」
 Ebonyが一真をシドと同じように嗜める。
 一真が講じる手段が効果的である場合もあるが、今回に関しては裏目に出るだろう。人を相手にした場合は、周囲や人を見極めて行った方が最終的な被害は少ないものになる。
 これもひとつの経験だろう。
「今回は太陽の出番か~」
 ミアキスがそう言うと、高音と十架が衝立から顔を出し、エヒが気づいたと手招きした。

「今回は韓国文化が悪いな」
 ドナが開口一番エヒへ声をかける。
 毎月恋人のイベント、しかも今月は殺傷力が高い。
 暴発してしまったのだろう。
「まあ、エヒよ、あんた本当に美人なんだし、自分から積極的にいってみたらどうだ? そうしたら、すげえイケメンで高身長の彼氏も出来んじゃねーの?」
「そうかしら……。でも、誰も声掛けてくれないのよ」
「遊夜も言ってたが、遠慮してんだろうが、し過ぎも良くねーなー」
「旧式はエヒのような美人にハグ出来て満更でもなかったみたいだしなぁ?」
「韓国じゃチビ相手にされないからな……。エヒみたいな美人にというのは役得だし、付き合ってみたいが、ドナに感謝はしねー」
 式とエヒの会話にドナが茶々を入れると、エヒはやっと笑った。
「そういえば……エージェントになる気はあるかい?」
「ネンマツシンコウとやらが終わってから考えようとエヒと話していた」
 遊夜がにやりと笑うと、愛姫が答える。
「2人にとって不足ない……ある意味同等の相手で選り取り見取りな交流が持てそうだが?」
「そうね。それだけじゃないにしても、登録するわ」
「何よりだ」
 遊夜がエヒにそう答えると、邪魔されて不本意な思いをしたユフォアリーヤの頭を撫でてやる。
 その後ろで、この位はと誰も見ていない一瞬に亮馬が「さっき出来なかったから」とゆらの頬にキスをし、ゆらの反応で気づいたシドが亮馬をシメようとしてEbonyから止められていた。
「色んな奴がいるから、韓国文化が全てじゃねーって分かるぜ? エヒは美人だが、中身は可愛いから見つかるって」
「漢気をまだ見せてんなー」
「うるせー」
 ドナと式の応酬に笑うエヒ。
 何にせよ、無事に恋人達の記念日も守られたし、エヒの非リア充記録更新確定も阻止出来たのはいいことだ。

 後日、エヒがエージェントへ登録したと彼らは知ることになるが、それは別の話。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
  • 堕落せし者
    旧 式aa0545

重体一覧

参加者

  • きみのとなり
    加賀谷 亮馬aa0026
    機械|24才|男性|命中
  • 守護の決意
    Ebony Knightaa0026hero001
    英雄|8才|?|ドレ
  • うーまーいーぞー!!
    天原 一真aa0188
    人間|17才|男性|生命
  • エージェント
    ミアキス エヴォルツィオンaa0188hero001
    英雄|15才|女性|ブレ
  • エージェント
    中城 凱aa0406
    人間|14才|男性|命中
  • エージェント
    礼野 智美aa0406hero001
    英雄|14才|男性|ドレ
  • 癒やし系男子
    離戸 薫aa0416
    人間|13才|男性|防御
  • 保母さん
    美森 あやかaa0416hero001
    英雄|13才|女性|バト
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 堕落せし者
    旧 式aa0545
    人間|24才|男性|防御
  • エージェント
    ドナ・ドナaa0545hero001
    英雄|22才|女性|ブレ
  • 乱狼
    加賀谷 ゆらaa0651
    人間|24才|女性|命中
  • 切れ者
    シド aa0651hero001
    英雄|25才|男性|ソフィ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
前に戻る
ページトップへ戻る