本部

ラブラブ!?クリスマス計画

落花生

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2015/12/16 18:01

掲示板

オープニング

「捨てないでくれ―! ハナコ――!!」
 遊園地のため池のなかで、男の叫び声が響いた。男は浮気がバレて、付き合っていた女性に池に落とされたところであった。男の叫び声を聞きつけた人々は、興味津々で池に捨てられた男の画像をスマホで撮り始めた。
 ――それが、去年のクリスマス。

「我が社の遊園地は、それ以来『ため池遊園地』などと呼ばれているが……」
 経営者たちは、頭を悩ませていた。去年の画像が世に出回り、ネット上では「クリスマスにため池遊園地をいくと別れる」とまで噂されていた。これでは、儲け時に客が呼べない。カップルは、遊園地でたっぷりと料金を払ってくれる上客なのに。
「ラブラブキャンペーンと銘打ちまして、男女の二人組の客に何かしらのサービスをおこなうのはいかがでしょうか?」
 経営者の一人が意見を述べる。彼は、この経営難を乗り切るために徹夜していた。
「いまどき、男女だけというのは差別的と言われるのでは?」
「なら、同性同士でもサービスを提供してしまえば良い!」
 もう一人の経営者が述べる、彼は二日寝ていなかった。
「英雄はどうします。男性にも女性にも動物にも見える英雄がいると聞きます」
「……もう、二人組は全員がカップル扱いでいいんじゃないか?」
 最高責任者が意見を述べる。彼は、もう三日寝ていなかった。
 こうして、遊園地の起死回生企画『誰でもカップルキャンペーン』が打ち出された。


 遊園地のいたるところで美しいイルミネーションが輝く。
 そして、二人組の客たちはハート形のプレートを首から下げていた。これを見せると様々な優待が受けられることもあって、かなりの人数がハートのプレートを首から下げている。園内は、恋人たちのクリスマスに相応しいロマンチックな雰囲気が作られていた。遊園地のキャストたちは、本日の業務を確認する。
「本日は、このハートのプレートを付けたお客様をカップル扱いしてください。ドリンクをサービスしたり、記念写真を撮ったり、お似合いですねとおべっかつかったり……」
「リーダー……注意書きに、何故か男女に限らずって書いてあるんですけど」
 業務マニュアルを確認していた一人が、手をおずおずとあげた。
「経営陣が寝てなかったんだろう。さぁ、仕事をするのは現場の俺たちだ。せいいっぱい、ゲストをカップル扱いするんだぞ!」

解説

・『誰でもカップルキャンペーン』を利用しながら、夜の遊園地を楽しみましょう!現在、クリスマスイルミネーションも合わせて開催中。

サービス一覧
・観覧車
・ジェットコースター
・メリーゴーランド
・お化け屋敷
 以上の乗り物が無料

・園内の売店にて、ドーナッツ、アイスクリーム、ポップコーン、二人の名前入りクッキー、ソフトドリンクを無料サービス

 遊園地の目玉、
・クリスマスイルミネーション―観覧車の近くでおこなわれる美しいイルミネーションが恋人同士のロマンチックな雰囲気をさらに盛り上げること間違いなし。もちろん、観覧車からの眺めはサイコーです。密室で普段は言えない、本音を語り合ってみては?
・愛の紙飛行機―普段は言えない愛の言葉をメリーゴーランドに乗りながら、秘密のボックスに投げ入れてください。上手くいってもいけなくとも、二人の愛は永遠になるはず。
・運命の糸―お化け屋敷の側にある、小さなお店。そこで無料で配布されている糸を小指に結び付けてお化け屋敷に入れば、密着は間違いなし!糸が切れなければ、二人の愛はホンモノ。 
・園内で一番人気のジェットコースター。待ち時間は長いけれども、問題はなし。キャストたちと一緒にサンタのコスプレをしながら、楽しく並ぶことができます。ジェットコースターに乗ったら、一番高い所で自動的にお二人の記念写真をパシャリ。

リプレイ

 クリスマスが迫った遊園地。
 どこを向いてもクリスマスの雰囲気を謳歌しているカップルたちで賑わっている。
 そんな遊園地の片隅で、こそこそと打ち合わせをする二人組がいた。
 今宮 真琴(aa0573)と奈良 ハル(aa0573hero001)である。二人ともハートのプレートを首から下げてカップルとして優待を受ける準備は満々であったが、他のカップル達とは違い無料のジュースを飲みながら随分と長いこと話しこんでいた。
「ネタがいっぱい」
 真琴は、うっとりと呟く。それに対してハルも、うむうむと頷いていた。二人は、自分たちがカップルとして遊園地を楽しむ気はみじんもなかった。むしろ、他のカップルを観察して楽しむ気持ちでやってきたのであった。
「狙い目は由利菜さんのところと……水落さんの歳の差ですよっ。それに、蛇塚さんもです!」
 きゃー、と真琴は顔を真っ赤に染める。
 ハルもその話題に楽しそうに喰いついていた。なお、彼らの手にはカメラとライフルスコープがしっかりと握られている。彼女たちがなにを考えているかは、察して欲しい。
《ガチと……親子カップルか。これは、忙しくなるのう》
 ちなみに、親子ほど年が離れているという点ではアンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)とマルコ・マカーリオ(aa0121hero001)組がいたが、彼らがカップルとして盛り上がってしまうとリアルに警察を呼ぶ事態になりかねない。さすがに彼女たちも、そこは自重していた。
「ハルちゃん、行こうか」
《そうじゃのう》
 二人のカップルは、人塵に消えていく。
 黒光りするカメラを構えたまま。

●昼食
 ジングルベールとおなじみの曲が流れて、男女のカップル達はなかよく寄り添う。同性カップル達は仲良さそうに歩いていたが、やはり大半は友人同士でキャンペーンを利用しているためにカップル達のようなイチャイチャはしていなかった。
「あらー。お似合いのカップルですね」
「えっ、そうかな?」
 九動 レン(aa0174)はどきまぎしながら、スタッフのからかいに答えた。十四歳と十三歳のカップルは、大人のスタッフから見れば非常に微笑ましく映った。彼女が白い花束を抱えている姿も可憐で可愛らしい。
「お花は、彼氏さんからのプレゼントですか?」
『去年……ここで水難の事故があったらしいからね』
 ユーリヤ・メギストス(aa0174hero001)の言葉に、スタッフは言葉を失った。
「ユーリヤ!」 
 レンは慌てて、ユーリヤの背中を押してその場を離れた。ちなみに一年前に起きた事は事故ではない。そして、去年の彼は今年も同じように『トシコー!』と叫びながら、ため池に落とされていることだろう。通算、五度目の浮気が原因で。
「あのさ、僕達はカップルじゃないけど……世間のカップルがやってることをしてみたいよね。ほら、何事も経験は大事っていうし」
『クリスマスという文化が心理にどう影響するか。人間観察として面白いかもしれないね。とくに理由もないし……いいよ、行ってみよう』
 レンはデートのような雰囲気にドキドキしているが、肝心のユーリヤはそうではないらしい。いつもと同じようにクールな様子でサンタから風船をもらい、レンに渡した。
「くれるの? ありがとう、ユーリヤ!」
「……」
 言えない。
 まさか、迷子防止に持たせたなんて。
「レンさんとユーリヤさんですよね?」
 歩いていると、名を呼ばれた二人は振り返った。そこには月鏡 由利菜(aa0873)とリーヴスラシル(aa0873hero001)それに水落 葵(aa1538)とウェルラス(aa1538hero001)、蛇塚 悠理(aa1708)と蛇塚 連理(aa1708hero001)、蒼咲柚葉(aa1961)とシュヴァリエ(aa1961hero001)が食事を取っていた。彼らはそれぞれの理由で遊園地におもむいたが、偶然にも顔を合わせたのであった。
「せっかくだから、ここでお弁当にしているんです。ふふ……ラシル、あーんして」
 由利菜は作ってきたお弁当を箸で持ちあげて、ラシルの口元まで運ぶ。つやつやと輝く美味そうな出汁巻きをラシルはぱくりと食べた。カシャ、カシャとシャッター音が聞こえたような気がするが、きっと防犯上の機械の音だろう。近頃は何かと物騒だ。
「甘すぎなかった?」
『ちょうどよい味付けだ』
 ラシルの言葉に、由利菜は嬉しそうだ。
『ほっほほほへ、ふふうほほひーへほっへほ』
「美味いのはわかったから……。お前、外で喰うとモノを入れたまま喋る謎の癖をなおせ。口の周りを拭け」
 子供のようにホットドックを頬ばるウェルの口元を葵が拭いてやる。恋人同士と言うよりは、兄弟のような微笑ましさだ。どこかで、カシャ、カシャという音がした。
「ユーリヤもお弁当を作ってきてくれたんだよね!」
 デートと言えば、恋人の手作り弁当。待ち焦がれたよ、とレンが言うより前に、ユーリヤが無言で差し出したのはアンパンだった。ちなみに、粒あんである。他の面々にも配られたアンパンは、お腹を減らしていた男性陣に好評だった。
「美味しいよ……」
 レンは、遠い目をしていた。
 いつか由利菜とラシルのように、卵焼きやタコさんウィンナーで「あーん」をやりたいものだ。
『仕事が終わったら、俺と飲みにいかないか?』
 レンが顔をあげると、男性―マルコが女性スタッフに声をかけていた。男性はハートのプレートを首から下げているのに、とんだ浮気者である。
「何やってるの!」
 そんな浮気者に小さな女の子―アンジェリカが飛び蹴りを食らわせた。アンジェリカのぺったんこ胸には、ハートのプレート。だが、近くに彼女の恋人らしい小さな男の姿なんてない。変わりにいるのは、成人してから随分と経っていそうなマルコだけだ。
 ――あれは犯罪じゃないのか?
 近くにいる人々は、ひそひそとそんなことを噂していた。
 ――いや、さっきの男はナンパしていたから親戚の子と一緒に来ているのかも。
 マルコが妙齢の女性をナンパしてくれたおかげで、彼らはスタッフたちから要注意人物とされるだけで事なきを得た。
「さぁ、マルコ。これがあれば色々とお得だって話しだから、しっかり元はとるよ」
 アンジェリカが鼻息荒くそう言いきると、マルコをずるずると引きずって歩いた。
『たしかに、ここは美女が多い。他のスポットも見過ごすことはできないな』
「マルコ!」
 ばちーんと男の頬に、季節外れの紅葉がついた。
「飛鳥さん、おまたせしました!これですよ、これ。ここでしか食べられない、二人の名前入りクッキー!!」
 あんなにも目立つ二人組を尻目に、もう一つのカップルの片方が燃え上がっていた。雪峰 楓(aa2427)である。清楚なお嬢様である楓は見た目に反して、自身の英雄に首ったけだ。嬉しそうに、自分の名前が入ったクッキーを彼女に差し出した。
 スタッフたちも彼女たちには「あれね……あれなのね。女子高によくある、行きすぎた愛情。青春ってやつよ」と心中複雑な思いを抱きながらカップルとして接する。二股に分かれた一本のストローで飲みあうソフトドリンクをお勧めして、躊躇なく注文された時はさすがに苦笑いしていた。
『ふむ、歯触りはきらいではないな』
 楓の欲望を知らず、桜宮 飛鳥(aa2427hero001)はクッキーを楽しむ。楓としては渾身の想いで自分の名前入りを差し出しているのだが、その想いを飛鳥は残念ながら組み取ってはいない。
「お客様、記念のお写真はいかがですか?」
 スタッフの申し出に楓は緊張しながら「飛鳥さん……そのこのジュースを飲みながら記念写真をとりましょう?」と顔を真っ赤にしながら申し込んだ。
 もう、緊張で目を開けてられない!!
「はい、チーズ」
 楓は、知らなかった。
 飛鳥が、未だにクッキーを食べていたことを。
「レンさん、よかったお弁当少し食べますか?」
 柚葉がレンに声をかけたことで、カップルに釘づけになっていたレンははっとする。
「シュヴァリエと二人でお弁当作ったら、作りすぎたんですよね」
 柚葉が差し出すお弁当は、お握りや唐揚げがたっぷりと入っていた。プチトマトやリンゴが端っこに詰められていて、彩りも良い。
「じゃあ、いただきます」
 もらったお握りは美味しかったが、やっぱりユーリヤの手造りが食べたかったと思わずにはいられないレンであった。

●メリーゴーランド
「連理、ほら乗り放題だって。どれに乗る?」
『どれにも乗りたくねーし! 帰りたい! 帰る! 帰らせろー!』
 昼食を済ませた連理は駄々をこねていた。理由は簡単で、サービスを受ける代わりにカップル扱いされるという魔の仕組みに気がついたからである。悠里は大切な人間ではあるが、カップル扱いされたくはないのだ。
 一方で、ウェルも落ち込んでいた。彼の相棒である葵は、カップル扱いされれば取材の経費が浮いてお得としか考えていない。だが、ウェルにしてみれば、そんなものは取材ではない。修行だ。
『なぁ、よかったら一緒にまわんねーか? 二人より、四人のほうが誤魔化しやすいだろう……たぶん』
 連理がウェルに声をかけたのは、必然のことであった。
 互いに出来れば女の子と一緒に回りたい気持ちもあったが、男性同士の方がざっくばらんに話せてよいかもしれない。そう考え改め、四人は行動を共にした。
 最初に行ったのは、メリーゴーランドだ。
 可愛らしい馬に乗りたがる女の子は多いのか、本物のカップルが多数いた。メリーゴーランドに乗りながら紙飛行機を飛ばして、箱に入れるイベントのようなものをおこなっているらしい。
「マルコー!!」
 馬に乗った小さなゴスロリの女の子―アンジェリカが、怒っている。どうやら、連れの男が彼女がいないことを良いことにまたナンパしたらしい。
 一方で、ラシルは由利菜を御姫様だっこして馬に乗っている。華やかな図ではあるが、その場だけ宝塚のような雰囲気だ。スタッフも「お似合いですね」なんていうものだから、由利菜の顔は真っ赤だった。由利菜の手にしている紙飛行機にも、きっと大層ロマンチックなことが書かれているのだろう。男所帯はもっとシンプルだというのに。
「納期伸びますように……って書いたんだよな」と葵。
『オレは、肉を食え野菜を喰えって』とウェル。
 そんな男性陣の後ろで、やっぱり華やかな女の子カップルが楽しげに話しをしていた。柚葉とシュヴァリエである。
「遊園地なんて……何時ぶりだろう。今日は、いっぱい遊ぼうね」
『あの馬。とても綺麗だ』
 二人がそんなふうに盛り上がるとスタッフが「女の子同士のカップルでしたら、二人乗りも可能ですよ。一枚五百円で記念写真はいかがですか?」
 と、さすがの接客である。柚葉は照れながらも、シュヴァリエと一緒に馬に乗ることにしたらしい。彼女達は大きめな黒い馬に乗って、スタッフに向かってそろいのピースサインを決める。楽しげなカップル達とカシャ、カシャ、と響く怪しげなカメラの音。果たして、その実態は……。

●おばけやしき
 運命の糸を小指と小指に結びながら、お化け屋敷を進む。糸は短いから自然に手を繋ぐことになる、というなんともあざといイベントだ。
 レンは、そのイベントに顔を真っ赤にしながら参加していた。一方でユーリヤは『迷子になると困るからね』と保護者の心境である。レンはユーリヤに良い所見せたいと頑張って彼女をお化けから護っているが、ユーリヤのほうがお化けに興味津々で自分から近寄って行く。
『どういうシステムや計算で、恐怖感を生みだしているんだろうね』
「ユーリヤ……そっちいったら、ゾンビに!」
 作り物のゾンビが、ユーリヤの頭にかぷっと噛みついた。
 レンは悲鳴を上げたが、痛くもなんともないユーリヤは首をかしげるのであった。

 お化け屋敷は他のアトラクションと違って室内のアトラクションである。そのため、写真を撮るのにも忍びこまなければならないのが必須条件だ。カメラを片手に、琴音とハルは勇猛果敢にお化け屋敷に忍びこむ。
 左から、ゾンビがきても。
 右から、骸骨が飛び出て来ても。
 たとえ、二人が幽霊によって離されようとも……。
「……ハルちゃん」
≪どうした?≫
 真琴が、ハルの着物の袖をつかむ。
「は、離れちゃダメだよ……」
≪怖いのか≫
 といいつつ、内心きゅんとしてしまったのは真琴には内緒だ。
 遊園地のお化け屋敷とは、恐ろしい魔性が住みつく館なのである。

●観覧車 中
 楓は、さりげなく飛鳥の隣に座った。飛鳥の白い手に手を伸ばしたいが、怖くて伸ばせない自分を叱咤したい。でも、やはり怖くて伸ばせない。
「あら、飛鳥さん。こういう景色、お嫌いでしたか?」
 飛鳥は乗り込んでからずっと下を見下ろしているものの、楽しげにはしゃいでいる様子ではない。クールな彼女らしいといえばらしいが、もしや性にあわない乗りものだったかと楓は緊張した。好いた相手には嫌われたくないという思いは、古今東西で変わらない。
『いや、別に。明りが目にうるさいが、華やかなものは好きだぞ』
 ――好きだぞ。
 ――好きだぞ。
 ――楓、好きだぞ。
 そこまでは言っていないと言う突っ込みを受けそうであったが、楓はその言葉をしっかりと胸に刻みつけた。楓は赤くなる頬を隠しながら、指先をそうっと飛鳥に近づけていく。
 二人の皮膚が触れ合うまで、あと数センチ。
 飛鳥は楓を見つめてはいるが、それは彼女の頬の赤さが何時もより増しているのが気になっていたから。観覧車は楓も手が飛鳥に届くまでに、一周するのだろうか。

 柚葉とシュヴァリエは、互いのプレゼントに驚いていた。双方が何かを持ってきていたことは荷物の膨らみで分かっていたが、まさか相談もしていないのに同じプレゼントを持ってきていたとはつゆとも思わなかったのである。
「プレゼントかぶちゃった……アハハハ」
 柚葉は笑いながら、シュヴァリエが渡してくれたプレゼントを首に巻く。真っ白なマフラーはきっとシュヴァリエが自分を思いながら選んでくれたのであろう。シュヴァリエを思って、自分が黒いマフラーを選んだように。
「シュヴァリエ……私と出会ってくれてありがとう。また、一緒に遊園地で遊ぼうね」
 柚葉はそう言って、可愛らしい封筒にいれた手紙をシュヴァリエに渡した。それは柚葉がつづったシュヴァリエへの感謝の手紙だった。
 彼女が柚葉の目の前に表れてから、本当に様々な事があった。その全てが、今では柚葉のかけがいのない宝だ。そして、これからの時間もきっと二人の宝になるであろう。
『うん、また一緒にこようね』
 二人は、そう言って微笑みあった。

『今日は、本当に助かりました。せっかく二人でいらしていたのにすみません』
 ウィルは、そわそわしながら下を眺める連理に声をかける。ときより強い風が吹きつけるせいなのか、観覧車のなかは揺れた。それでも下を眺めてしまうのは、抗うことができないほどに美しいものがあるからだった。
『さそったのはこっちだろう。あー、えっとなんだ、なに話せばいいんだ?』
 連理は揺れに怯えつつも、『ふーむ』と考えた。
『じゃあ、せっかくだからここにはいない人の話しをしましょうか? 僕もアレの事を嫌っているわけじゃないんですけどね。どうやっても、恋愛対象には見えないんですよね。契約者と英雄というのも……厄介なものです』
 ウェルは、ため息をつく。
 連理は、少し考える。自分にとって悠里とは、なんであるのかを考える。
『そういや随分と仲が良かったけど血縁……じゃないよな。英雄と能力者だもんな、家族にはなれないよな……。あいつがいなくなったら、オレも消えるし。でも、それとは別に生きててくんねーかなと思うよ。今は』
 当の相手が、どう考えているかなどは知らないが。
 一方、悠里と葵は――
「連理とは長くいるが、こういった明るい所に二人で来るのは実は初めてでね。……楽しんでくれたらいいんだが」
 連理が揺れる観覧車に脅えている様子を想像して、悠里は忍び笑った。
「……アイツの我儘にまきこんじゃってすまなかった。お詫びに……というか付き合ってくれた礼に今度二人でゆっくりできそうな場所を紹介しようか。そうだな、近くの喫茶店が平日カップルサービスというのをやっていて」
 葵の言葉に、悠里は心のなかでメモを取った。
 近日中に、連理は今日と同じような駄々をこねる目にあうであろう。

 由利菜は、思い悩んでいた。自分は女の子で、ラシルも女性。ときめいてはいけないとわかっているのに、メリーゴーランドで由利菜は今までの人生では味わったことない甘いときめきを感じてしまった。
――いけないのに……。
 ラシルは由利菜の悩みは、遊園地のスタッフのからかいのせいだと思っているらしい。たしかに、それも原因の一つだ。ここの遊園地は、由利菜とラシルを過剰なほどに恋人同士のように扱ってくれる。だが、違うことも要因なのである。
 この気持ちをラシルに分かって欲しい。
 わからないでいて欲しい。
 そんな切ない思いで由利菜の胸は張り裂けそうになったとき、彼女は自分の手元にまだ紙飛行機があったことを思いだした。メリーゴーランドで投げることのできなかった、手紙のような紙飛行機。この紙飛行機には、ラシルへの想いが書かれている。自分の気持ちにさえはっきりとした事は言えないが、それでもここに書かれていることだけは本物だ。
「ラシル、この紙飛行機にも書いたけど……私はあなたとずっと一緒にいたい。それだけは本当よ」
 由利菜の告白に、ラシルは息を吐いた。
 だが、そっと由利菜に近づくと肩に手をまわした。由利菜もラシルの背に手をまわし、二人は固く抱き合う。
『私がどんな恋を望むかは……ユリナの気持ち次第だ』

「うわぁ……今、下で花火みたいのがあがったよ」
 観覧車のなかでアンジェリカははしゃいでいた。マルコも『花火?』と言いながら下を覗き込み、イルミネーションの美しさに息をついた。
『綺麗なものだな』
「そうだよね」
 アンジェリカは、にこにこと笑いながら嬉しそうにイルミネーションの観賞を続ける。マルコはそんなアンジェリカに見えないように、がそごそと荷物を漁った。
『アンジェリカ』
「なあに?」
 呼ばれたアンジェリカが振り向くと、マルコに包みを手渡される。
『クリスマスは、我が子に親がプレゼントを贈る日だと聞いてな。まぁ、俺みたいのがお前は願い下げかもしれんが』
 あけてみろ、と言われてアンジェリカは包み紙を破く。
 出てきたのは、黒い傘だ。アンジェリカの身長に合わせて小さめで、凝った造りであった。たぶん開いたら、黒いレースが広がるのだろう。
『ゴスロリとか言うのに合わせるのは、苦労したんだぞ』
 マルコは笑っていたが、子供用の傘を買うのにマルコだって恥ずかしい思いをしただろう。それこそ店員に「お嬢様にですか?」なんて聞かれたかもしれない。けれども、マルコはアンジェリカが喜ぶと思ってこれを買ってきてくれた。
「あ……ありがとう」
 アンジェリカの眼頭が熱くなる。
 本当のお父さんがいても、こんなふうにプレゼントをくれたのだろうか。いいや、例え本当の父親がいても優しくて正義感の強いマルコにお父さんになって欲しかった。そんなことを口にしようとした矢先
『おい、あそこにいる美女。あれは、ぜひお近づきにならねば!』
 と、マルコは観覧車の窓にかじりついていた。
「マルコ!」
 本日、二度目も紅葉がマルコを襲った。

●観覧車 下
 辺りはすっかり暗くなり、イルミネーションが美しく煌めいている。
≪最高のイルミネーションを見せてやろう≫
 日中の盗撮ですっかりテンションのあがったハルと真琴。だが、彼女たちの煩悩はまだまだ収まりがつかない。なにせ、この遊園地最大にして最強の目玉が今から始まるのだから。そしてなにより、彼女たちが裏から努力しているのに誰もがカップルになってくれないという今のところ残念な結果になっている。紙飛行機がボックスに入るように狙撃したり、箸を隠しているのにナチュラルに「あ~ん」して気づいてくれなかったりでなかなか今以上の進展がない。
 だから、観覧車。
 二人っきりに密室。
 触れ合う手と手。
 鼻息も荒くハルと真琴は叫んだ。
≪響け……! 鈴鳴!! (フラッシュバン)≫
 イルミネーションと共に、派手な閃光が彩りを添える。これを上から見れば、きっと大層ロマンチックな雰囲気になるであるはず……であった。
「え――、君たちなにをやってるのかな?」
 真琴とハルが、警備員に見つかるまでは。
「あ……ボクたちは恋人たちをロマンチックな雰囲気にしているだけで、怪しいものじゃありません!」
≪そうじゃ、ちょっと恋人たちの写真を撮っているだけじゃ!」
ハルの言い訳は、供述になった。
「隠し撮りはね……駄目だよ。犯罪」
 二人は、警備員に連行されていく。
「いやー!」
≪いやじゃー!≫
 その後、二人がとった写真の行方はようとしてしれない。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 希望を胸に
    アンジェリカ・カノーヴァaa0121
    人間|11才|女性|命中
  • コンメディア・デラルテ
    マルコ・マカーリオaa0121hero001
    英雄|38才|男性|ドレ
  • エージェント
    九動 レンaa0174
    人間|13才|男性|回避
  • エージェント
    ユーリヤ・メギストスaa0174hero001
    英雄|14才|女性|バト
  • 撃ち貫くは二槍
    今宮 真琴aa0573
    人間|15才|女性|回避
  • あなたを守る一矢に
    奈良 ハルaa0573hero001
    英雄|23才|女性|ジャ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • 実験と禁忌と 
    水落 葵aa1538
    人間|27才|男性|命中
  • シャドウラン
    ウェルラスaa1538hero001
    英雄|12才|男性|ブレ
  • 聖夜の女装男子
    蛇塚 悠理aa1708
    人間|26才|男性|攻撃
  • 聖夜の女装男子
    蛇塚 連理aa1708hero001
    英雄|18才|男性|ブレ
  • しあわせの白
    蒼咲柚葉aa1961
    人間|19才|女性|回避
  • エージェント
    シュヴァリエaa1961hero001
    英雄|15才|女性|バト
  • プロの変態
    雪峰 楓aa2427
    人間|24才|女性|攻撃
  • イロコイ朴念仁※
    桜宮 飛鳥aa2427hero001
    英雄|26才|女性|シャド
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