本部

トナカイNINJYA誘拐事件

雪虫

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 5~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/12/15 18:39

掲示板

オープニング


 12月。師走とも呼ばれるこの時期は、「坊さんもダッシュする」の字のごとく何もかもがマッハで過ぎていく。(師走については諸説あります)。年末調整にクリスマスに大晦日に正月に……まあ正月は1月だが、気を抜けば「ああああ今年もぼっちクリスマスぅぅぅ」、と悲しみに暮れる人も恐らく存在する事だろう。事件はそんな12月始め、「ナニカアリ荘」という名のアパートの庭先にて起こった。
「おおお、本当にビッグな袋でござる!」
 ガイル・アードレッド(az0011)はナニカアリ荘の庭先にて、やたら大きな白い袋を広げて感嘆の声を上げていた。ちなみにトナカイコスチュームを着ていたが、その理由は本編にあまり関係ないのでここでは掘り下げない事にする。
「これだけビッグな袋ならおばあちゃん殿やおじちゃん殿やおねえさん殿へのプレゼントも入るでござる!」
「本当に大きな袋ねん。ガイルちゃんも入れちゃったりして」
「トライしてみるでござる!」
 デランジェ・シンドラー(az0011hero001)の呟きに対し、ガイルは即座に大きな白い袋の中に入ってみた。トナカイコスチュームを身に付けたまま。大きな白い袋は「大きな袋」の名に恥じぬ、人間一人難なく受け入れる包容力を見せつけた。
「おお! 入れたでござる! これはサプライズにお馴染みの、ミーが袋に入ってミナサマを驚かすというのも出来るのでは……」
 その時、大きな袋がふわりと浮かんだ。ガイルが「え?」と思う間もなく、ついでにリボンも飛んできて袋の口を縛ってしまった。あっという間に袋詰めにされてしまったガイル(トナカイコスチューム)は、そのまま気球のごとくふわりふわりと浮かんでいく。
「な、なんでござるか一体! へ、ヘルプ! ヘルプミー! プリーズッ!」


「って、いう事があったのよん」
 デランジェの言葉に、あなた方とオペレーターは何とも言えない表情をした。経緯がツッコミ所満載だし、その他にもおかしな点がありすぎる。
「デランジェ、お前それに対して何も対処しなかったのか」
「必死なガイルちゃんを面白がって見てたら袋があっという間に飛んでっちゃったの。仕方ないわん。それに『ござるござると鳴きながら空を飛んでいく大きな袋を見た』って情報もある事だし、手掛かりはゼロじゃないでしょん?」
 そう言ってデランジェはスマホの画面を見せてきた。何とも言えない溜め息を吐くオペレーターとは対照的に、デランジェはにこりと笑みを浮かべる。
「それに、どうも情報に拠ると、ガイルちゃんだけじゃなくお菓子やおもちゃも誘拐されてるみたいなのよねん。ガイルちゃんの救出ついでに調査する価値はあるとデランジェちゃんは思うんだけど……どうかしらん?」

解説

●目標
 従魔の討伐およびガイルの回収

●状況
 「お菓子やおもちゃが町はずれの廃工場に飛んでいくのを見た」という情報がある。

●NPC情報
 ガイル・アードレッド
 大きな袋に捕獲され何処かに飛んでいったNINJYA。回避適性。何故かトナカイコスチュームを着ているがその理由は(以下省略)。

 デランジェ・シンドラー
 シャドウルーカ―。ガイルを回収するまで共鳴する事は出来ない。連れていくかどうかは自由。
・ジェミニストライク
 ライヴスで作り出した分身と共に攻撃を行う。稀に【狼狽】付与。分身はスキル使用後に消滅する。
・縫止
 ライヴスの針を発射し、対象の行動を阻害する。【封印】付与。
武器:オートマチック/クリスマスステッキ

●持ち物情報
 無線機、各自携行品、カレープリンあんぱん(おやつ)

(以下PL情報)
●敵情報
 X―KG
 お菓子とおもちゃがたくさんくっついて出来たロボットのような外見の従魔。一体のデクリオ級(核担当)にたくさんのイマーゴ級(体担当)がくっついて出来ている。一撃入れれば簡単に崩れるが、核を破壊しないかぎりすぐ様再生してしまう。大きさは状況により2m~7mまで変化する。
・ロKットパンチ
 腕を前方3スクエア内にロケットのように飛ばして攻撃する。当たるとダメージを受ける他、お菓子がべたついて【拘束】付与。
・Gタイフーン
 範囲13スクエアにおもちゃを巻き散らす。当たるとダメージを受ける。
・取り込み
 周囲にあるものを吸収する。この際核が赤く光る。リンカーが取り込まれると【封印】付与。
・分裂
 体を分けて複製を作る。分裂体に核はない。

●マップ情報
 廃工場
 撤去されないまま放置された工場。一階のみ。30×40スクエア。床に廃材などが転がり、天井からロープが何本か垂れ下がっている。入口から入ると高さ5mのX―KGが2体待ち受けており、その内の1体の右肩辺りに「ござるござる」と鳴く白い袋がついている。

リプレイ


 佐倉 樹(aa0340)は、酷く真剣な面持ちで何かを考え込んでいた。声を掛けるのも躊躇われるような、切迫した真剣さでリノリウムの床を凝視している。しかし、残念ながら何も思い付かなかったらしく、顎から細い指を外し残念そうに首を振る。
「……そろそろネタ切れか……」
「見捨てル以外ノ親愛表現ヲしてアゲてモいいンジャないカナー……?」
 樹の思考を見抜いたシルミルテ(aa0340hero001)は、歌唱用の合成音声で物言いたげに呟いた。「ソンナ事ハ考エテナイヨ」「棒読ミ、棒読ミ」というやり取りをする二人に、齶田 米衛門(aa1482)が純朴な好青年らしい笑みを浮かべて駆け寄ってくる。
「佐倉さん、よろしくッスよ! しかしガイルさん、またやっちまったんスなぁ……救うッスよ!」
「カレーの恩があるからさっさと合流させてぇな……飯食いてぇしよ! おおシルミルテ、飴やるよ飴!」
 顔なじみを見つけたスノー ヴェイツ(aa1482hero001)(以下スノー)がシルミルテに飴を差し出し、そしてシルミルテは飴を嘗めた。その一方でカレーという単語に記憶を掘り起こされた赤城 龍哉(aa0090)が、以前昇○拳を現実の物とした自慢の拳をポンと叩く。
「ああ、この間のキャンプの時のニンジャか」
「忘れてましたわね?」
「そうとも言う。しかし、基本こういう方向性なのか奴は」
 呆れたように呟く龍哉に、ヴァルトラウテ(aa0090hero001)(以下ヴァル)はたおやかに小首を傾げて苦笑を浮かべた。その横では(自称)天使・百薬(aa0843hero001)が相棒である餅 望月(aa0843)とNINJYAについての考察を交わす。
「ニンジャってヒロインって意味なのね」
「いい事言うね百薬、全然違うけど現状間違っていないよ。噂によると性根を入れ替えたらしいけど、何も変わらない事に決めたみたいね」
「人間の本質なんて変わらないものねー」
「意外と厳しいな」
「廃工場が根城か、何とも分かりやすいな」
 辛口なNINJYA評価を繰り広げる少女達のさらに横では、麻生 遊夜(aa0452)がデランジェ・シンドラー(az0011hero001)から借りたスマホの画面を眺めていた。その腕に腕を絡めたユフォアリーヤ(aa0452hero001)(以下リーヤ)が、遊夜に身体を密着させながら同じくスマホを覗き込む。
「……ん、ござるを助ける」
「ほんと、お気に入りなんだな」
 他人に触れられる事を極端に嫌い、認めた者以外を拒絶する超絶人見知りの気のあるリーヤが、遊夜と孤児院の「家族」以外に興味を示すのは実に珍しい事と言っていい。とは言っても「お姉ちゃんが助けてあげるよ、クスクス」と呟いている辺り、どうやらガイル・アードレッド(az0011)
は孤児院の子供達と同列扱いらしいのだが。
「デランジェさんにも来て貰うか。ガイルさんと合流したらちったぁ楽になるだろし」
「そうだな、手伝ってもらう事もあるかもしれんし」
 遊夜の言葉に古代・新(aa0156)も同意を示し、それにデランジェが「よろしくてよん」と笑みを浮かべた。そしてそれぞれ必要物品の準備に取り掛かる……その影に隠れるように、穂村 御園(aa1362)がげんなりとした顔付きで柱に寄り掛かっていた。
「うう、昨日の忘年会、色んな意味できつかった……」
「部長はあの後ちゃんと帰れたのだろうか?」
「知らない。御園、酔っぱらいと言動の痛い人には近づかない様にしてるの……近づかない様にしたいと思ってるの」
 心の底から願うように呟く御園に、ST-00342(aa1362hero001)(以下エスティ)は何とも言えない表情をした。とは言っても彼(彼女?)の表情は基本的に「何とも言えない表情」なのだが、今は特に何とも言えない感を滲ませながら言葉を紡ぐ。
「……では、今回の依頼は受けない方が良かっただろうか? 済まない」
「……え?」

● 
 スマホ情報に従い一同が辿り着いた廃工場は、正しく「廃工場」と言うに相応しい廃工場的な廃工場だった。入口の扉は半分外れ、外観は全体的に錆びており、「採光? 何それおいしいの?」と言わんばかりに薄暗い。こういう雰囲気が好きな人種も世間には確かにいるのだろうが、人探しをするのに適する環境とは言い難い。すでにレイミア(aa0156hero001)と共鳴した新は、百均で購入した懐中電灯で廃工場の中を照らす。
「予想通りに薄暗いな、灯りを持ってきて良かったよ。もっと広範囲を照らせれば言う事はないんだけどね」
『まだ共鳴はしなくても良かったんじゃないですか?』
「従魔がいるのは間違いないし、気配もする。念のためだ。それにあんまり広い場所とも思えなくてね」
『確かに私はよく食べますが太ってはいないですけどねー?』
 頭の中に相棒のふてくされたような声が響き、新はハッと顔を上げた。デリケートな乙女心に触れた事に気付いたらしい。
「単純に人の多さってヤツだ、気にすんな。だが食費は気にしとけ、頼むから」
「さて、愚神が出るか従魔が出るか」
 新とレイミアが静かなる攻防を繰り広げている一方で、同じく懐中電灯を手にした龍哉が何処か楽し気に呟いた。ちなみに遊夜はサイリウムを手にしているのだが、野性味溢れるナイスミドルがキラキラ棒を手にNINJYAを探しているのは微かにシュールの匂いがする。
「ガイル……か……大変、だな……衰弱してないと……いいんだが……」
 宿輪 遥(aa2214hero001)と共鳴し、工場内を探索していた宿輪 永(aa2214)は、ガイルが衰弱していた時用にと持ち込んだ高級弁当に視線を落とした。詳細はよく分からないが従魔か愚神が誘拐の犯人だった場合、ライヴスを奪われている可能性は十分にある。備えあれば憂いなしというヤツだ。そしてもう一人、別方向に「備えあれば憂いなし」を実行していた都呂々 俊介(aa1364)は、何故か廃工場の中でレインコートをフードまできっちり被っていた。
「浮いておるぞ、俊介」
「なんか嫌な予感がするんです! お菓子が飛んでいったという話になんかすさまじく嫌な予感が!」
 タイタニア(aa1364hero001)のもっともな指摘に、しかし俊介は眉を吊り上げ拳を握って力説した。ちなみに、すぐにレインコートを脱げるよう、ボタンやベルト状の物はすでに外している徹底振りである。 
「駄目になったら取り換えられるよう予備の準備も万端です。するりと華麗に問題解決! 名探偵都呂々くんです……あれ?」
 何故か謎のポーズまでキメた俊介はそこで、前方5m程の所に何かがある事に気が付いた。新も「そういえば、デランジェさんは何となくガイルの居る場所って判ったりはしないのか?」と言い掛けた所で、自分達を待ち受けるように佇む巨大な影に視線を向ける。
「な、なんだあれは」
「ゴーレムのようにも……いえ、違いますわね」
「何かござるござる聞こえるんだが」
「あちらの肩の白い袋からのようですわ」
「誰か、誰か! ヘルプミーでござる! ヘルプミー!」
 ヴァルと龍哉のやり取りに応えるように、謎の塊から「ござるござる」と妙な鳴き声が聞こえてきた。各々が灯りを天井に向けると、そこにはロボットのようなシルエットの巨大な二体の塊と、内一体の右肩辺りにくっついている白い大きな袋があった。 
「見たとこ群体型従魔か……しかしまた厄介な所にくっついてんな」
「……ん、ロープ」
 サイリウムを掲げ呟く遊夜に、リーヤが天井からぶら下がるロープの一本を指差した。リーヤの意図に気付いた遊夜がにやりと笑みを浮かべてみせる。
「おお、使えそうだな。すぐ行くから待ってろよー」
「……ん、今行く、よ」
 遊夜はクスクスと笑うリーヤと共鳴し駆け出すと、天井からぶら下がるロープに取りつきスルスルと登り始めた。侵入者に気付き、ロボット……X-KGが動き出した所で、御園がエスティと共鳴し、機械が蒸着した腕でスナイパーライフルを握り締める。
「えーと、取り敢えずなんか喋ってる袋は無視と……」
『一応今回の目的だが、御園の精神衛生の方が重要だ。そうしよう』
 御園は光学機構の露出した瞳に敵の姿を映し出すと、「ござる」と鳴く袋(以下ござる袋)のついていない従魔に向けて弾丸を撃ち放った。着弾したと同時にX-KGの外装がいくつかぼろぼろと剥がれ落ち、同時に攻撃を受けたX-KGが御園の方に歩き出す。
「合体ロボとは浪漫が判っているな! だがやっぱりお前ら有罪だ! 俺の名前は古代・新! 世界を旅する高校生冒険家見習! クリスマスなのに子供の夢を壊すなこの野郎! お前の行く先は二つに一つ! ぶっ壊されてバラバラになるか! バラバラにぶっ壊されるかだ!」
(結局同じ気がしますが、言わない事にしておきましょう)
 レイミアが心でぽつりとツッコミを入れる中、シルフィードを出現させた新は、まずは足元の廃材を端目掛けて蹴り飛ばした。足場の悪さに躓いたり転んだりするのを避けるためだ。龍哉もまた共鳴して鎧を纏った腕でスナイパーライフルを敵へと構え、蒼色に変化した左目にござる袋付き従魔を映す。
「ガイル入り袋がパーツとして取り込まれている……様々な材料の寄せ集めで出来ている可能性があるな。何か変化があったら言えよ!」  
 龍哉の言葉に頷いた永もクロスボウを出現させると、遊夜の邪魔をさせないよう牽制を込めて矢を放った。銃や矢の攻撃を受ける度に外装はボロボロと零れていくが、X-KGは怯む様子もなくリンカー達に近寄ってくる。
「ただの従魔にしてはこの脆さとしぶとさはおかしい、何らかの供給源があるのか?」
「とりあえず、一気に攻めてみますか」
 新の疑念に樹は淡々と言い放つと、仲間とござる袋に当たらぬよう注意しながらブルームフレアを解き放った。ライヴスの炎に囲まれるのはさすがに少し堪えるのか、ござる袋を右肩につけたX-KGの動きが止まる。そこを、天井に到着した遊夜がリーヤに行動の主導を渡し、降下しつつグリムリーパーで大きな袋を切り裂いた。そして袋から転げ落ちたトナカイNINJYAの襟首を、カイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)と共鳴した御童 紗希(aa0339)の腕が掴む。
「サ、サンキューベリーマッチでござる! おかげで助かり……むぐう!」
 ガイルは礼を言おうと顔を上げたが、その口に何故かカレープリンあんぱんが三種一挙にねじ込まれた。共鳴を解き、ガイルの口にカレープリンあんぱんをねじ込んだカイは、さらに若干笑いを堪えつつ往復ビンタをお見舞いする。
「口にパンをねじ込まれたら左右の頬を差し出しなさいとおじちゃん殿から教わっただろ?」
「相変わらず当たりがキツイな。もうちょっと優しくしてやってもいいんじゃないか?」
「カイはあんな事してますけど、ホントはガイルさんの事心配してるんですよ。でなきゃガイルさんの救出作戦なんて参加しません」
「ツンデレさんだったのか」
「おいござるトナカイ、デランジェと共鳴して向こうの従魔を倒してこい! お前なら出来る! 麻生! 俺らも行くぞ!」
 遊夜と紗希がこそこそと会話する中カイはガイルの前から立ち上がると、紗希と共鳴して一足先に従魔撃破へと向かっていった。口の端にカレーとプリンとあんぱんをつけポカンとしているガイルの頭を、一時共鳴を解いたリーヤが屈み込んで撫でていく。
「……ん、お待たせ」
「うし、無事だな。あとは」
「……ん、倒すだけ」
 そして二人も再共鳴し、紗希の後を追い掛けた。ガイルが無事救出された事に気付いた永は入れ違いに近付くと、座り込んでいるトナカイNINJYAに高級弁当を一つ差し出す。
「消耗した、だろう……食べるか……? 遠慮しなくても、いい……倒れられる方が、困る……」
「それを食べたら共鳴を。今はガイルさんの協力が必要です」
『ニンジャらシク、かっコヨク! おネガい♪』
 永と樹とシルミルテの声に、ガイルは弁当を受け取ると、湧き上がる想いを飲み込むように勢いよくかき込んだ。そして顔にカレーとプリンとあんぱんとご飯粒をつけた状態で、デランジェに顔を向ける。
「デランジェ、リンクでござる!」


 望月は床に転がっていたおもちゃの一つを拾い上げると、目の前の敵を引きつけるためにそれを手前に転がしてみた。X-KGの目の辺りに眼球のようなものは見えないが、何処でどう感知しているのかおもちゃに向かって足を進める。ガラクタを寄せ集めた、遠目にはロボットに見える足は望月の放ったおもちゃを踏みしめ、そして足が持ち上がった時には、確かに床に転がっていたおもちゃは影も形も消え失せていた。
「やっぱり吸収しているのかー。これを利用して足止めとか出来ないかな。天井にぶら下がっているロープをあてがってみるとか。袋や大きなシートでもかぶせてロープで縛って封印でも出来れば尚良いね」
 言いつつ、同じく引き付け役の仲間にパワードーピングをかけて防御力を上げさせた望月は、向こうから聞こえてくる声にガイルが救出された事を知った。とりあえず任務の一つはどうにか達成されたようだ。
「こういう群体型には核になる奴がいるはず……梁の上からスナイパーで撃ちまくるのもいいかもしれないな」
 一方、ガイル救出から従魔討伐へと戻った遊夜はいまだ全容の見えない従魔をそう分析すると、狼尾を揺らしながらロープに取り付き、再び天井へと登っていった。地上の御園も、引き続きスナイパーライフルで従魔の外装を狙撃する。
「かなり脆いな。st-00342はこのまま支援攻撃を続行する事を提案する」
「うん、御園も大賛成。そっちの方がゴミ塗れにならなくて済みそうだし」
 遠距離からの攻撃を続け、分かった事が二つある。一つ、どうやらX-KGはやはり群体型の従魔であり、攻撃する度におもちゃや廃材やお菓子の包みなど、いわゆる「ゴミ」が簡単に剥がれて落ちてくるという事。そしてもう一つは再生能力が高い事だ。一度外装を剥がしても、磁石にスチール缶が吸い寄せられるようにゴミはX-KGに再び取り込まれて体の一部となってしまう。とは言っても、その速度は決して早くはないのだが、恐らくあると思われる核の存在はいまだかの字も見当たらない。
「ここは一気に引っぺがしてみるッスよ!」
 決定打が必要と判断した米衛門はイプシロンアックスを構えて空中へと飛び上がると、ロボットもどき従魔目掛けて怒涛乱舞を叩き込んだ。米衛門に続きさらに追い打ちをかけるべく、樹がダイヤ型の瞳孔にX-KGの姿を収め再びブルームフレアを発動させる。外装は一挙にバラバラと崩れ、X-KGの体は最初の時よりも一回りほど小さくなる。
「おっしゃ、大分削れたッスよ。このままドンと……えっ」
 米衛門がアックスを手に畳み掛けようとした所でX-KGが振り返り、その腕を切り離して米衛門へと撃ち込んできた。米衛門は咄嗟にシルバーシールドでロKットパンチを受け止めたが、魔術的な文様の刻まれた銀色の盾の表面には、何かべたべたしたものがべったりとこびりついていた。
「嫌な予感はこれだった! べたべたしてくっつく感じ……今回の敵は最悪ですね」
『お主に最悪でない相手なぞおったかの?』
「これは最悪の最悪です。ジュースを服にこぼして後でネトネトになる絶望感! もうあんな思いは僕は御免です。失礼!」
『逃げるでない、俊介!』
 お菓子のべたべたという地味な精神攻撃に怯むリンカー達(一部)に向かって、X-KGはさらにもう片方からロKットパンチをお見舞いした。標的にされた紗希は「うひええぇ~~」と悲鳴を上げながら、乙女の嗜みという名の根性でなんとかべとべとを回避する。
『おい、マリうるさいぞ!』
「だってベタベタしたの髪についたら嫌なんだもん~~~!」
『これって食えねーのか?」
「いくら姉さんでも、けば(食えば)腹壊すべなぁ……」
 一方で、乙女属腹ペコ姉さん科のスノーは盾にこびりついたお菓子の残骸に興味を示し、米衛門は首を横に振った。ロKットパンチを放った事でX-KGはその体積をまた一回り小さくしたが、もちろんこのまま縮んで消滅……等というオチは一切ない。
「おい、何か赤く光ってるぞ」
 X-KGの変化に注意を払っていた龍哉は、従魔の中心で何か丸い物が光っている事に気が付いた。龍哉が声を上げたと同時に、X-KGを中心に風が渦を巻き始めた。体がX-KGに引きずられている事に気付いた樹はすかさず風を相殺するべく、中心から外に風が吹くようにゴーストウィンドを敵へと放つ。不浄の風に打ち消され、取り込みの勢いはやや弱くなったようだが、床に散らばったおもちゃや廃材はX-KGへと向かっていき、しかも望月達が引きつけていた方の従魔も赤い核に応えるように、バラバラになって本体の方へと全て吸い寄せられていった。
「おもちゃを取り込んでいるでござる!」
「……厄介……だな……。核があって、何度も回復する……ようだ」
「なにか、分裂しようとしている?」
 更なる異変に気付いた樹に、遠距離武器を持ったリンカー達は一斉に従魔に攻撃を仕掛けた。しかし、外装のいくつかが剥がれただけで分裂の動きは止まらず、硝煙と土埃の晴れた先には、2m程のX-KGと、赤く丸い光を灯している4m程のX-KGが一体ずつ立っていた。
「分裂までするのか……増える条件は周りのモノを取り込みすぎた場合、とかかね?」
『……ん、群れが増える場合、良くある』
「攻撃で削り続けていれば増えなかったりするんだろうか? 自分を守る群体が減ってる状況でわざわざ守りを薄くすることはないだろうしな。そうなったらなったで核が狙いやすいわけだが、ね」
『……ん、狙い目』
『つまり……』
「一気に倒すよ!」
 遊夜とリーヤ、百薬と望月の戦意に反応するように、X-KG(小)とX-KG(大)が同時にロKットパンチを発射した。標的となった新はライオットシールドを囮としてパンチにぶつけてそれを回避し、俊介はべとべとの塊から逃れるべく何もない床へとダイブする。
「べたべただ! べたべたがやってくるよお!」
「俊介、見苦しいぞえ?」
「タイタニア、今日は何時にも増してトゲトゲしい……」
 二人がロKットパンチに襲われているその隙を斬り抜いて、紗希と米衛門がそれぞれ得物を手にX-KG(小)へと駆け出した。ブラッディランスとイプシロンアックスを同時に叩き込まれた小ロボットはあっという間に崩れ去り、後にはバラバラになったおもちゃや廃材だけが残される。遠距離攻撃に徹する御園も、同じく援護に回る永やガイル達と共にライフルを連射し続けた。徐々に外装の剥がれていくX-KGに、エスティが複雑な心境を漏らす。
『従魔とは言え気恥ずかしいな』
「そう? ファションモデルのお身体なら参考にしたいところだけど、アレだしなあ……あ、エスティ的にはどうなの?」
『女性の方は国家標準容姿基準でランクAA相当だ。相当な美人だな」
「え? え?」
 「あれって美人なの?」「っていうか女なの!?」と 御園が一人カルチャーショックを起こしていると、X-KG(大)を中心に再び風が巻き起こった。再び取り込みかに思われたが、X-KGは自身の体からわずかにガラクタをバラけさせ、リンカー達に襲い掛かるおもちゃの嵐を巻き起こした。突然の嵐に物陰へと逃れながら、紗希はパンチラだけは防ぐべく全力でスカートを押さえつける。
「ぎゃー! スカートがああぁぁ!」
「でも……これでまた小さくなった……次に来るのは……」
 永の声に応えるように、X-KG(大)の周囲に三度目の風が、今度は周囲にある物を取り込むべく巻き起こった。天井に登り機会を伺っていた遊夜が、赤く光る核目掛けてサイリウムを投げ付ける。
「よし、これで大分見やすくなったな」
『……ん、あの辺、赤いのあった』
「他の光じゃないと……狙い目だな」
 そして地上の方では、新と米衛門が武器を構え従魔目掛けて飛び掛かった。当然、二人の体は取り込み中のX-KG(大)へと引き寄せられるが、
「こういう奴ら相手は内部からが有効ってのはセオリーだろうよ」
「接近ぶちこみして行くッスよ!」
 シルフィードとパルチザンを携えた二人は上体を最大限に捻り上げると、赤い核目掛けて渾身の一撃を叩き込んだ。攻撃は外装と核に届いたが、二人の体はそれぞれX-KGの左腕と右足に張り付いた。しかし核は露出している。俊介はその機を逃さずライヴスのメスを出現させると、赤い核目掛けてブラッドオペレートを撃ち放った。
「血に塗れて己の悪行を悔いるのです! ……これって血って出るのかな?」
『……かどうかは知らぬが、何かお主の嫌いなべたべたしたものが漏れておるぞ』
「生クリームと機械油のテイスティブレンドですか! なんてものを僕は生み出してしまったんだ……世界崩壊の序曲?」
「世界崩壊の序曲ではないが、ロボもどき崩壊の序曲にはなるのかな」
 俊介の悲鳴に龍哉と遊夜が、それぞれ地上と天井からスナイパーライフルの照準を合わせた。べたべたした体液を垂れ流す核に向かって、二つの弾丸が放たれる。
『狙い撃ちますわ』
『さようなら、良い旅を』 
 ヴァルとリーヤの言葉と共に、X-KGの核が割れ、そして派手に爆散した。射手の矜持とブルズアイを込めた銃口を宙へと向け、遊夜がにやりと笑みを零す。
「隙ありだ……『ジャックポッド』、ってな」


 騒動の終わった廃工場で、一人の少年が嘆きの声を上げていた。レインコートを脱いだ俊介の周りには、何故か雨でも降らしそうな暗雲の幻が漂っている。
「服にお菓子のカスがいっぱいについて……絶望感の二乗が到来です。うう、帰ってお風呂に入りたい……」
「まだ仕事は残っておるようじゃぞ?」
「掃除ならしませんよ!? 横暴なオペレーターに押し切られても今回は絶対しませんからね!?」
「二人とも……無事、か……?」
 俊介が必死に訴える一方、永と望月は回復魔法を掛けながら新と米衛門を覗き込んだ。おもちゃに当たって多少ケガをした者もいたが、バトルメディック達のケアレイによってダメージ自体は全快している。しかし、攻撃のためとは言えX-KGに取り込まれた新と米衛門の体には、飴やチョコや生クリームの成れの果てがべたべたとこびりついていた。
「従魔は消えてくれたけど、べたべたは消えてくれなかったのねん」
「なんか食えそうな匂いがするな。食っていいか?」
「ダメッス! 断じていけねえッス! 姉さんヨダレ垂らさないで!」
「無事、か……? あまり……無理はするな」
「そうだな……肝に銘じておく……洗濯が大変そうだしな……」
「そう言えば、おもちゃとかは無事に回収出来るのかな、ぼろぼろになってなかったらいいけど」
 米衛門とスノー、永と新のやり取りを聞くとはなしに流しつつ、望月はカレープリンあんぱんを千切って一つ口へと運んだ。心密かに「プリンとカレーを同居させた天才は呪ってもいいと思う」などと物騒な事を考えていたが、本編にはあまり関係ないのでここでは掘り下げない事にする。
「おもちゃ、望月も投げてなかった?」
「気のせいよ。で、ガイル君は一体何をしようとしていたの?」
 望月は顔を上げ、恒例のごとく落ち込んでいるNINJYAの方へ視線を向けた。頭から生えているキノコの幻影にトナカイコスチュームがプラスされ、シュールさといたたまれなさが三割増しになっている。
「いや、みなまで言うな、それは勘違いだから。それより本場のクリスマスを教えてよ。ケーキ食べてサンタにプレゼントもらったりするものなの?」
「ガイルさん、あいるびーばっく、ッスな! クリスマスは分かるッスけどサンタってのを知らないんで、誰かから聞きたい気がしないでもないッスね!」
「なぁなぁ、食いもんないのか? さんた、ってのは食いもんくれるんだろ?」
「何を喋ってるか全然理解できないよ。昨日の続き?」
「ST-00342は即時撤収を提案する」
 御園とエスティが何処か遠い目をする最中(もっとも、エスティの目はスコープのため外からは見えないのだが、そこは気分というヤツである)、樹とシルミルテが何かを手にガイルの方へと近付いた。ガイルが視線を上げると新しい、真っ白な大きな袋が差し出される。
「ハーい、ドーゾ」
「ガイルさんの袋はぼろぼろになってしまったので、代わりにどうぞ」
「何故……そんな……恰好、なのか……分からないが……何かしらの、事を……人のための事を、しようとしたのだろう……? それなら、落ち込む……事は、ないんじゃ……ないか……?」
「悪いのは悪い事をしようとした奴なんだし……ガイル……さんは、悪くないし……」
 ガイルを励ますシルミルテと樹に、永と遥の声も加わった。ガイルはサングラスの下で涙ぐみ、大きな袋をぎゅっと握り締めながら声を上げる。
「拙者、次こそは絶対頑張るでござる! イッショウケンメイ頑張るでござる!」
 一応持ち直したらしいガイルにふっと息を吐くと、永はそっとその場を離れた。とりあえずやるべき事はやった。手つかずだったパンを取り出し、その内の一つを口へと運ぶ。
「……少し、は……役に立てた……か……?」
「……ハル、今日の誓約は……?」
 横から聞こえた遥の声に、永は青色の瞳を向けた。「ハルが行くならオレも行くからな」と任務の前に言ってくれた相棒との誓約は、「一日に一つ、何かを教える事」。永は廃工場と、お騒がせNINJYAを眺めた後、今日のまとめとも言える的確な教えを相棒に告げた。

「……終わりよければすべてよし、だな……」

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 再生者を滅する者
    古代・新aa0156
    人間|18才|男性|攻撃
  • エージェント
    レイミアaa0156hero001
    英雄|16才|女性|ブレ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • 深淵を識る者
    シルミルテaa0340hero001
    英雄|9才|?|ソフィ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 真実を見抜く者
    穂村 御園aa1362
    機械|23才|女性|命中
  • スナイパー
    ST-00342aa1362hero001
    英雄|18才|?|ジャ
  • 真仮のリンカー
    都呂々 俊介aa1364
    人間|16才|男性|攻撃
  • 蜘蛛ハンター
    タイタニアaa1364hero001
    英雄|25才|女性|バト
  • 我が身仲間の為に『有る』
    齶田 米衛門aa1482
    機械|21才|男性|防御
  • 飴のお姉さん
    スノー ヴェイツaa1482hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 死すべき命など認めない
    宿輪 永aa2214
    人間|25才|男性|防御
  • 死すべき命など認めない
    宿輪 遥aa2214hero001
    英雄|18才|男性|バト
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