本部

ワン・モア・キリング

真名木風由

形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2015/12/16 04:54

掲示板

オープニング

●彼らは駆け出していき
「ここまで来れば、大丈夫だ。すぐに、H.O.P.E.へ連絡を。周辺の住民も避難させなければ、犠牲が大きくなる!」
 彼は、皆へそう言った。
 だが、その言葉に嫌な予感を感じた同期の男が問いかける。
「連絡って……サム、君はどうするつもりだ」
「まだ取り残されている人がいる。たった1人で彼らを倒すことは出来ないが、1人でも多くの者を救うことは出来る」
「無茶だ! 君は確かにエージェントだ、だが、君が死ぬかもしれないリスクを1人で背負う必要はない!」
 そう、サムと呼ばれた彼はH.O.P.E.所属のエージェントでもある。
 今日は、本業と彼が言う研究者としての仕事で、キリング・フィールドのひとつへチームを組んでやってきていた。
 だが、何の因果か、そこへ愚神達が現れた。
 サムは彼の英雄とすぐに共鳴したが、1人で倒せるような相手ではない。
 チーム全員を逃すことを優先に、彼は皆を守りながらここまでやってきた。
 だが、そのキリング・フィールドにいたのは、自分達だけではない。
 慰霊塔で祈りを捧げる行程を持った、ツアーの観光客がいたのだ。
 チームは慰霊塔から少し離れた場所にいた為に逃げられたが、彼らは逃げ遅れている。
 サムは1人でも多く救いたいと言うが、能力者ではない同期の男もそれがどれ程無謀で、リスクある行為であるかは理解している。
「エージェント到着までに手遅れが発生するかもしれない。彼らが死んでいい理由などない。しない後悔より、した後悔がいい。……彼らにだって、旅行を楽しんでおいでと送り出してくれている人がいるだろう?」
「僕達がそう言う君を送り出し、君がした後悔を喜ぶと思っているのか!」
「大丈夫だ、危なくなったらすぐに戻ってくる。……お前、奥さんが身篭ってるんだから無理するなよ!」
 サムは軽口を叩いて、走り出した。
「戻れ、戻れサム!! 止めろ、アイリン!! 聞こえてるんだろ!?」
 けれど、『彼ら』は振り返らず走っていく。

 急いでH.O.P.E.へ通報し、彼は叫んだ。
「サムを、アイリンを絶対に連れ戻してくれ。俺の妻はあいつの妹なんだ。英雄のアイリンは妻とは親友で……。もうすぐ叔父さんになるあいつを、それを喜ぶアイリンを、何としても取り戻してくれ。あんな気のいい奴らが死んでいい筈なんかないんだ」
 頼む。
 軋むのではと思う程握り締められた携帯電話の先、H.O.P.E.の職員は男を裏切らない答えを返した。
 付近の支部にエージェントが研修に訪れており、すぐに向かわせる。
 帰ってきたら、無謀なことをした彼を叱る為にどうか自分の命を守る最善の行動をしてほしい。
 その言葉に頷き、祈るように手を組んだ。
「サム、アイリン……帰って来い……!」

●蘇るキリング・フィールド
 『あなた』達は、緊張の面持ちで資料を捲っていた。
 支部での研修中緊急事態として下された任務は、極めて緊急度が高い。現場へ向かうまでに資料を読み込む必要があるが、その現場に向かう時間さえも今は一刻も早くと思う。
 この瞬間にも、人の命が失われているかもしれないから。

 カンボジアには、かつて強制収容所というものが幾つもあった。
 強制収容は思想改造の名目だったらしいが、実際は拷問の末処刑されており、強制収容所からの生還者は一握り……最も過酷な収容所では2万人収容されても8人のみであったという話もある。
 カンボジア各地にある、その処刑場跡はキリング・フィールドと俗に呼ばれ、慰霊塔も建てられているらしい。
 そのキリング・フィールドのひとつが愚神達に襲われ、後にドロップゾーンになったことが確認されている。
 今も正確な犠牲者の数が判明していない状態である為、それらの調査を行っていた研究者チームの中にたまたまエージェントがおり、研究者チームを何とか逃したものの、観光客が取り残された。
 すぐさま現地の愚神を討伐すべく、『あなた』達が向かっているのだ。

 居合わせたエージェントは任務ではなく、研究者の1人として訪れていたこともあり、自分だけでは研究者チームを守るのが精一杯という状態らしかったが、研究者チームを安全圏まで逃した後、H.O.P.E.への通報を依頼し、1人でも多くの観光客を救うべく引き返したとのこと。
 だが、戻ってこないとのことで、それが『あなた』達の嫌な予感を募らせる。
「……今は、現地に到着し、任務を遂行することを考えましょう」
 エージェント達が最悪の事態を過ぎらせる中、夜神十架(az0014hero001)を安心させるように手を握る剣崎高音(az0014)が静かに呟く。
 そこで、再び虐殺を繰り返させてはならない。
 通報を受けた職員からも、通報者がそのエージェントの身内であり、絶対に助けて欲しいと懇願している事情を話しており、悲劇が連鎖しないことを願って動くしかない。

 もうすぐ、移動車両で近づけるギリギリの場所へ到着する。
 『あなた』達は、まだ目にしていない。
 そこに、複数の愚神だけでなく、邪英化してしまったエージェント、サム・タオがいる事実を。

解説

●目的
・敵撃破
・邪英化エージェントの回収
・人々の救出

●現地情報
・快晴
・慰霊塔周辺は芝生、遮蔽物は慰霊塔以外ない。
・周辺区域の一般市民は避難済。

●敵情報(PL情報)
・ケントゥリオ級愚神クロホーム
壮年の男性型愚神。ゾーンルーラー。
無口無表情の殺人狂。
バランス型で頭脳派。
剣、銃を状況に応じて使い分ける他、2枚のシルバーシールド相当の盾を出現させ、自分と指定した対象の身を自動的に守らせる能力(効果時間30ラウンド)と1ラウンドに同じ対象へ3連続攻撃を行う能力を持つ。

・デクリオ級愚神コンラハ
壮年の男性型愚神。クロホームと同じ容姿をしている。
無口無表情の殺人狂。
バランス型。
剣、銃を状況に応じて使い分ける他、2枚のアスピス相当の盾を出現させ、自分と指定した対象の身を自動的に守らせる能力(効果時間15ラウンド)と1ラウンドに同じ対象へ2連続攻撃を行う能力を持つ。

・ミーレス級従魔ジャルンx10
4人のバラバラ死体をちぐはぐにくっつけた姿。
二足歩行をするものもいれば、四足でしか歩行出来ないものもいる。
物理攻撃のみで戦闘能力は低い。
初めて目にした際特殊抵抗判定に失敗すると、BS狼狽付与。

・邪英化エージェント
30代男性能力者サム・タオと20代女性英雄アイリン。
共鳴化時はアイリンの姿。
バトルメディックでケアレイ・クリアレイ使用可能。
戦闘時後衛、弓の援護射撃を行う。

●NPC情報
・剣崎高音、夜神十架
指示がなければ一般人の生存確認。

・添乗員・観光客
20名程。意識不明だが全員生存。

●注意・補足事項
・敵は慰霊塔付近にいます。
・H.O.P.E.からの優先順位指示は、回収・保護>討伐です。邪英化したサムも生存回収最優先、万が一邪英化していても討伐は最後の手段と厳命が出ています。
・サム達の容姿は資料で確認済、ドロップゾーン突入前に共鳴します。
・緊急任務につき装備しているアイテムのみの判定となります。(一般品持込不可)

リプレイ


「こういう場合の正義はなんだってえ?」
(『人命救助』)
 帯刀 刑次(aa0055)がそう漏らすと、彼の内から返答が響く。彼の英雄アストリア(aa0055hero001)のものだ。
 Ebony Knight(aa0026hero001)と共鳴した加賀谷 亮馬(aa0026)が全速力で駆け、追うようにアリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)と共鳴した志賀谷 京子(aa0150)、リリアン・レッドフォード(aa1631hero001)と共鳴したクレア・マクミラン(aa1631)が続くのが目に映っている。
 移動車両で接近出来るギリギリの距離……急行するには、全力で走った方がいい。
「人死にが少ない方がこりゃ稼げるわな」
(『下衆い勘定してる暇があったらお手伝いの算段でも四段でもつけるんだよお!』)
「そりゃあおっさんにだって感情はあらあな。んじゃ、ぼちぼちな」
 気のない言葉にアストリアが叱り飛ばすが、刑次はどこ吹く風、全力ではないにせよ後を追う。

『……キリングフィールド……2度目は防ぎます』
 クレアの声がスマートフォンから聞こえてくる。
 リリアンも同じであろう思いの呟きは、彼女の信念の根底から来るものだ。
 スマートフォンの複数通話アプリを共有、それをスピーカー状態にしているからこそ、後続の卸 蘿蔔(aa0405)も聞くことが出来るのだ。
(……急がないと)
 彼女の心の呟きに、反応がある。共鳴したレオンハルト(aa0405hero001)のものだ。
(『ドロップゾーン内部は何があってもおかしくない、油断するな』)
 頷きひとつ返す蘿蔔は、前方に先行したエージェントの姿を捉えた。
「思ったより厳しい状況ね」
 アムブロシア(aa0801hero001)と共鳴する水瀬 雨月(aa0801)は、そう結論づけた。
 4人のバラバラ死体をちぐはぐにくっつけた外見のあれは、従魔だろう。
 倒れる救護対象者にも近く、油断すれば到達される。
 奥にいる愚神らしき壮年の男性は……全く同じ容姿だ。
 同じ容姿を持っているのと、同じ能力を持っているのはイコールではない。どちらかが格上ということも十分ありえるが、外見上の区別がつかない。
 その一歩後ろにアイリンの姿が見える。……否、あれはサム・タオだろう。拘束されずに彼らの傍にあり、こちらへ敵意を向けているなら、洗脳状態にあるか邪英化していると判断して間違いない。
「あれは、ちょっと……」
 蘿蔔の言葉は狼狽の余り、続かない。
 先行した亮馬、京子も何とか精神の立て直しを図り、亮馬がシルフィードを握る手を強くし、地を蹴った。
「ここから先は進むことまかりならん!ってな」
 サム・タオには家族が待っている。
 愚神襲撃により家族を喪い、天涯孤独となった亮馬は家族の温かさを愚神に奪われてはならない。そう思う亮馬の士気は高い。
(『多勢に無勢の状況だ。一般人搬送が終了するまで、致命傷を受ける様なことは避けろよ』)
 故に、Ebonyはこの厳しい状況を切り抜ける為、亮馬の抑え役として殊更冷静な声を出す。
 従魔を引きつけるように切り込む直前、機先を制するような攻撃──京子のトリオだ。
「時間との勝負、だからね」
 ラジエルの書を手にする京子は、救出に手間取れば被害が拡大するとを知っている。
(『この地からは、強い哀しみを感じます。でもそれは過去のこと。2度とこの地で悲劇を繰り返させぬ為には……』)
「解ってる。わたしだって、哀しい終わりは好きじゃないの。皆で笑い合える未来の為に」
 その為に、自分達の全力を彼らに見せてやるのだ。
(『……グリムローゼを思い出させる。アイツみたいな策士かもしれない、気を付けて』)
 立て直した蘿蔔へレオンハルトが警告を促すと、彼女は彼の警告を口に出して呟き、皆にも注意を促す。
 スナイパーライフルを携える蘿蔔は、射手の矜持を発動……まず、敵の数を減らすべきと従魔を見据える。
 一般人に近づくことがあれば優先するのは勿論だが、原則フリーになるような存在は排除すべきだ。
「状況が状況だ、使える手段は片っ端から使うさ」
(『やっぱり戦闘は私よりクレアちゃんの方が上手いね』)
 クレアは亮馬のサポートとして敢えて前に出ている。
 従魔を見て狼狽した亮馬と京子は頬を叩いて落ち着かせようかとも思ったが、その前に彼らは立て直してくれた為、その必要はなくなった。
(大事なのは情報共有)
 敵の行動パターンを理解し、共有すれば追い詰めることも出来るだろう。
 が、無茶無謀をすることは本末転倒である為、自分の役目を忘れてはならない。
 右側面に炎が荒れ狂い、雨月がブルームフレアを発動させたと判る。
 蘿蔔もトリオを発動、切り込む亮馬を援護していく。
 自身の移動力を生かすクレアもより前へ踏み込んだ。


 ブルームフレアを発動させた雨月は、ノクスフィリス(aa0110hero001)と共鳴している倉内 瑠璃(aa0110)がマビノギオンで追撃したのを見る。
(ある種行動に制限掛けられるけれど……まだ、彼らは動いていない。何を考えているのかも解らない)
 雨月は従魔の後方にいる愚神とサムを見る。
 同じ顔の愚神は声も発さず、無表情に目の前をじっと見ていた。
 自分が、後方で周囲の状況を確認しているように。
 周辺には慰霊塔しか遮蔽物になりそうな物はないが、彼らはそれを考慮した立ち位置である。潜伏は出来ない。
 それに、目の前にいる相手だけが全てではないだろう。……後背を衝かれる可能性もあり、注意は必要だ。
 救出対象がいる以上、人質にされる可能性もあり、油断は出来ない。
 雨月は周囲の注意も怠らず、後方から攻撃を続ける。

(『……センスの欠片もなにもあったモノではありませんね。所詮狂人のセンス、この程度ですか』)
 ノクスフィリスの評価は痛烈なものだったが、それは瑠璃の内にのみ響くもの、彼らへは届かない。
「……今までフィリスにグロいモノ色々見せられたし大丈夫…あんなので音を上げるラピスじゃないよ」
 狼狽するには至らなくともその姿を見て驚いた瑠璃は従魔をどうにかしなければと口調の余裕よりも優先して、攻撃。
 見た目、死体をくっつけたような存在ならば、結合箇所辺りに攻撃が命中すれば、彼らが損壊しないかと思うが、今は数を減らした方が良く、攻撃を集中させる動きに呼応した方がいいと撃破優先の判断を下した。
「ふぅん」
(『何余裕かましてるんだよぉ!』)
 少し遅れて追いついた刑次の呟きにアストリアが叱り飛ばす。
「ちょいと見させてくれよ。連中の展開の仕方がよく判んねえや。従魔もいるが、同じ顔もいるしな」
(『下賤な愚神なら殺し易いのを狙えるのを待ってるんじゃ?』)
「下賤な俺ならそうするね。つっても可能性の問題さあ」
 アストリアに応じる刑次は軽く肩を竦める。
 彼は、敵の容姿が同じであるからこそ、敵の展開の仕方が判らないと思う。どちらを優先させればいいのかは彼ら自身を観察する必要がある。
 クレアも観察しているが、回復フォローの役目として前に出ている為に従魔へ意識を振り分ける分、見落としが発生する場合もあるだろう。
 一般人救出の任に当たるエージェント達も救出活動を開始した。
「不恰好でも、少しはマシな筈」
 Nikolaus Wiren(aa0302hero001)と共鳴する羽柴 愛(aa0302)は、トナカイのソリにダンボールとビニールで芝生対策を行っていた。
 本当は補助車輪が良かったのだが、緊急事態である為支部に車輪の材料がなく、事務室にあった段ボール箱とゴミ袋を貰い、移動中に作業したのだ。
(『走行中の車の中を差し引いても……ちかちゃんは不器用だと思うわ』)
 Nikolausの笑みに「大事なのは機能性」と返した愛はサムを見る。
「邪英化しているかもしれないんだよね?」
 愚神の後方を動かないサムは、少なくとも今正常ではない。
(『手遅れになれば、愚神になるわ』)
 その言葉に愛は帽子を目深に被り、構築の魔女(aa0281hero001)主導で共鳴する辺是 落児(aa0281)を見た。
「彼のことは皆に任せよう」
(『……そう……ね。彼が守ろうとした人達を、今度は私達が守らないとね』)
 その時だ。
 愚神達が銃による攻撃を開始した。
 狙いは、紅焔寺 静希(aa0757hero001)と共鳴しているダグラス=R=ハワード(aa0757)。
 渇きを満たすことを考え、邪英化しているのであれば他のエージェントに介入される前にサムへ接近戦を仕掛け、何もなければ、サムを殺害するつもりであったが、遮蔽物がない場所において、愚神もサムも遠距離攻撃手段を持っていれば、ダグラスが到達前に対処してくる。
 突入前はサムの邪英化の可能性のみしか知らず、配置も判らない状況……当然、目視する必要あるが、遮蔽物がない為に身を潜ませることは出来ず引きつけた頃合いを見計らって迂回しようとも彼らから動きは見える。
「貴様ら如きに俺の渇きを満たせるとでも?」
 見下す嘲笑を向けるが、愚神達の反応はない。
 銃でダグラスを狙うばかり……ダグラスはケアレイで1度自身の負傷を回復させると、銃の攻撃を無視するようにサムへ向かう。
「注意して貰っていていいですか」
 落児が刑次へ声を掛ける。
 ダグラスの動きを見、落児も愛も危機感を覚えた。
 だが、一般人の搬送がある為にダグラスを完全に見張ることは出来ない。
 現在展開を見ることに専念(アストリアは怠慢と言っているが)している刑次が最も適している。
「減給は困るなぁ」
 一般人の回収は最重要項目。
 現在従魔が突破してきたら怒涛乱舞を発動出来る体勢は整えている刑次。
 けれど、その前に、戦場の均衡が悪い意味で壊れて貰っては困る。
「己の想いに殉じるその意思は……尊いのでしょうから」
「行動に是非を唱える方もいるでしょうが、そう動いてしまう方はいるでしょうね」
 落児の呟きを拾った剣崎高音(az0014)がそう返した。
「そうですね。……殿はお任せします。私を狙うものではなく、救助される方へ攻撃が及ぶことなどないよう」
「解りました」
 刑次同様新手を警戒して周囲を見張る依頼をしていた落児へ高音が頷く。
 落児がトリオを発動させ、従魔へ牽制の攻撃を仕掛けてから、ソリがドロップゾーンの外へ向けて出発した。


 愚神を無視してサムへ向かうダグラスは、容赦する必要はないと地を蹴った。
 邪英化しているならケントゥリオ級相当という心構えで渇望を満たす為に拳を繰り出す。
 H.O.P.E.の指示は、仮に邪英化していようとも生存回収を優先するようにというものだが、そもそもダグラスは妨害がなければ聞く気がない
(素手は確かに武器より効果が薄い)
 が、壊す感触はこの身で直接感じるからいいのだ。
 自身が出来る無駄のない動きで最大の攻撃を行おうとし……ダグラスは大きく飛び退いた。
 エージェントから間合いを外した愚神達がこちらへ来たからだ。
「徒党を組まねば俺を殺すことも出来んか」
 喉を鳴らした嘲笑に、声での返答はなかった。
 代わりに来たのは、2連続の攻撃。
 回避した瞬間、もう1体の愚神が接近していた。
 吸い込まれる3連続攻撃は物の見事に全て喰らい、サムからも弓の追撃を喰らう。
 ダグラスは突出していた為、事実上孤立……支援攻撃はない。
 ケアレイで怪我を回復させたダグラスから嘲笑が消えることはないが。
「せいぜい俺の欲を満たすが良い」

 一方、ソリで1回目の運び出しを終えた落児と愛が戻ってきていた。
「戦況が悪化していますね」
 落児が小さく呟く。
 ダグラスの行動により愚神達が攻撃を開始、サムも呼応している。
 サムの邪英化は確実だが、ダグラスが突出した分従魔がエージェントよりも愚神と一般人へのターゲット変更してしまい、亮馬が京子からの射撃援護が受け難い状況となり、自身はエネルギーバーで対処したクレアが彼の後背を守りつつ、亮馬のケアレイに充てている。
「何か聞けた?」
 刑次が落児へ声を掛けてきた。
 落児はソリで運んでいる間も時間を無駄にせず、ドロップゾーンへ引き返す直前まで記録された音声の交戦記録はないか、なくとも依頼人以外の研究者チームから話は聞けないか確認、戻る最中に研究者チームのリーダーと話すことが出来たのだ。
「従魔はおぞましい以外は特に問題視する能力はなさそうなのと……容姿が同一の愚神は剣と銃を持っていた、見ての通りですが、気になることを聞きました。タオさんの矢を何かが弾いた、と」
 直後、射程を生かした京子と蘿蔔の攻撃が愚神の直前で何かに阻まれた。
 よく見ると、愚神の前に何かあるのか、彼らが半透明に見える。
「盾を出現させる能力があるようですね。それも構える必要がない」
 落児がすぐさま京子へ共有すべく伝えると、京子も蘿蔔へ伝える。
「こっちは何とかする。……任せて」
「お願いします。死者を冒涜したおぞましい姿でこちらを乱そうとし……盾で身を守りながら剣と銃で殺める戦術とは思いますが、盾も攻撃手段になりえるかもしれません。注意してください」
「解った」
 京子が頷く。
 と、亮馬が遠方の一般人へ到達し、ソリへ運ぼうとしている愛を狙う従魔に向かって走っている。
「移動力をどうにかしないと、間に合わないっ」
 今の位置ではマビノギオンの射程がやや間に合わない。
 この為、踏み込む形で瑠璃が従魔を攻撃、四足で動いていたその個体の後ろ足部分に命中すると、体勢が崩れた。
「倒せる時に倒しましょ」
 雨月も瑠璃に追撃し、間に合った亮馬が確実な一撃で仕留めた。
「助かった」
 愛は短く礼を言って、男性の腋の下へ自らの首を差し入れ、一気に肩の上へ担ぎ上げた。
 が、年配ではあったが、長身の部類であった為、愛は共鳴したからだと小さく笑う。
(『それよりも早くソリへ行ってね。この人は他の方に重ならないように注意して』)
 移動中のバスで構築の魔女は搬送の効率を考えれば、4人~5人は1回で運び出したいが、救助者の体格を見、彼らの負担が少なくなる留意はすべきと提唱していた。
 搬送方法の問題で彼らが無事でなくなるのは避けておきたい。
 Nikolausの言葉に頷きで応じた愛は、ソリへと乗せる。
「意識はありませんので、ドロップゾーンの外に運び出すことを優先しましょう。状況が状況ですし、1人1人の状態確認は職員に任せた方が良いかと」
「今の所伏兵いない分運び出しが楽だけど……油断は出来ないから、急ごう」
 落児へ頷いた愛は周辺を警戒し、落児と共に運び出す。
 前方や側面であれば自分達が対処するが、後背は高音を信じよう。

 従魔の数が少しずつ減っていく。
「微妙に遮蔽物に使われてるね」
 京子が奥を見る。
 ダグラスを集中攻撃している愚神達は盾の防御以外にもダグラスを遮蔽物にして遠距離攻撃へ対処してきている。
 無口無表情な相手ではあるが、脳筋といった相手ではなさそうだ。
「盾も面倒よね。遮蔽物で阻めない攻撃は盾で対応って所みたい」
 雨月もマビノギオンで愚神へ攻撃を開始している。
 が、誤射のないようにと立ち位置を調整しても盾が阻む。
 この分だと、射出する魔法の剣を撹乱するように操作、命中を狙う試みは厳しい。
「まず減らしていけば攻撃の手が上回るだろうな」
「従魔を密集させるようにお願い出来ますか?」
 後方の会話を拾う亮馬へクレアがライオンハートを牽制に振るいつつ、亮馬へそう言う。
 落児、愛の救助活動は順調だ。
 高音が見張っていることもあり、彼らが不意を衝かれることはないだろう。
 彼らの援護をというなら、従魔を倒すのが1番……数が減っている今なら、瑠璃と雨月が纏めて対処出来るように動いた方がいい。
 追い立てる攻撃が可能なのは、自分が適任であろうとも思う。
(『深追いし過ぎず、攻撃のコントロールを。愚神から引き離すように』)
「せっかくターゲット指名率ナンバーワンにして貰ってるしな」
 Ebonyの助言に亮馬が応じる。
 今の所、愚神はダグラスへの攻撃専念でこちらへ特殊な動きを見せない。
 攻撃阻害にレッド・フンガ・ムンガを投擲するにはやや遠い。
 それに、相手があまりにも無口無表情過ぎて判別がつかない焦りもある。
 Ebonyもそれを見越して助言をしてくれていると解るから、今は最も効果がありそうなことを。

「そういやさ」
 今までずっと見ることに専念していた刑次が本心を読ませない飄々とした口調でこう言った。
「あいつらは同一個体じゃないよな」
 瑠璃と雨月のブルームフレアが従魔を焼く中、彼は愚神への攻撃を開始した京子へそう言う。
 同一の容姿であるが、同一個体または同じ能力を有した愚神であるとは限らないのは、皆気づいている。
 連続攻撃の回数も2回と3回の違いがあるのも解るが……。
「盾の時間も片方は半分だ。それだけなら、強い攻撃を凝縮、より強力な盾であるとも言えるが……攻撃に関して言うなら、3連続の奴の方がダメージが深い」
 刑次は展開の仕方が判らないことより、状況把握に回った。
 回収完了まで積極的な攻撃行動をしなかった分、見る時間が長かった。
 愚神の実力はどちらが上でどちらがゾーンルーラーの可能性があるかは、判別方法を確かなものとしていない限り、判らない。
「従魔も引けたし、戦力を回す時だろうね」
 既にソリも3回目の運び出しに発っている。
 あと少しでどうにか出来るのだ。
「それなら、盾を操作したらどうでしょう」
「考えることは一緒って所だな」
 蘿蔔へ刑次もスナイパーライフルを構えながら、笑む。
 盾は自動的に防御する言わば、見えない手のようなものだが、刑次は狙った所に壁が出ると考えれば、逆に盾の操作は可能という論理である。
(『便利で欲しいと思ったが、なるほど、そういう考え方もあるか』)
「自分の意思で動いていないなら、逆手に取ればいいのですよ」
 盾の防御に自信はあるだろうが、それ故に盾の防御が厳しくなればその限りではないだろう。
「人的資源の消費はさせるべきじゃねぇし、だからと言って、一般人を狙うのが有効だなんて思われちゃ商売あがったりだぜ」
(『クソみたいな理屈で目も当てらんない』)
 アストリアが呆れる中、刑次が蘿蔔と共に狙い定めた1体へ攻撃を開始。
 同時に瑠璃、雨月もマビノギオンで攻撃、その隙にとダグラスがサムへ攻撃を叩き込むが、愚神とサムの攻撃に晒されていたダグラスは既にケアレイも尽きており、万全ではない。
 逆にサムは負傷もなく、まだケアレイを使っていない状態だ。
 接近されるよりも早く、サムが弓でダグラスを牽制するが、ダグラスは無視し──直後、鮮烈な光が彼らの網膜を灼く。
 京子の、フラッシュバンだ。
 亮馬、クレアの突入に合わせていた京子はそう言っている状況でもないとダグラスに遠慮なく行った形である。
 無論、そうした耐性も高いダグラスがフラッシュバンで長期的な悪影響が出るということはないが、亮馬、クレアの接近は許した。
 愚神の盾の自動防御の盲点、そして、刑次が見ていた盾の出現時間を頭に入れていた亮馬はトップギアを発動、2枚の盾が消え、同時に刑次と雨月の攻撃を残る盾が守りに行った瞬間、怒涛乱舞。
「あっちの手前のがダメージ深そうだな」
「ですね」
 刑次に蘿蔔が頷く。
 とは言え、油断出来る要素は何もない。
 防御が崩れたからと言って、攻撃まで崩れた訳ではないのだから。


 愚神の反撃は、予想以上に凄まじいものであった。
 今までダグラスを集中攻撃していたが、それはどうやら、彼らの全力というより、ダグラスを殺す過程を楽しんでいただけに過ぎなかったらしい。
「2回でも3回でも連続攻撃はきついわね」
(『遠距離も注意した方がいいでしょう。今は射程外の為に攻撃してこないのでしょうが』)
 京子が3連続攻撃の内2回当たってしまった亮馬を見てそう言うと、後衛にも連続攻撃の可能性があるとアリッサが注意を促す。
 刑次、京子、蘿蔔は射程ある武器である為彼らの銃が届くことはないだろうが、瑠璃と雨月の場合はその危険性はある。
「……これが最後のケアレイです。残りは羽柴殿のケアレイかH.O.P.E.提供の食品となります」
「それまでに何とかする」
 亮馬はそう笑うが、愚神が何も言葉を発しない以上何か仕掛けてくる可能性はあるとクレアは油断なく観察し、気づく。
 ダグラスを遮蔽物にしていた個体は、もしかして、1体だけかもしれない。
 刑次はダメージの深さから個体の見当を付けていたが、接近したクレアは彼らの動きで気づいた。
 ダメージが深い個体の方が、理に適っていない動きをしている。片方より、もしかしたら頭脳面で劣るのかもしれない。
(この状況で言うならば)
「ゾーンルーラーではない方を狙いましょう」
 クレアは言いながら、見当を付けた愚神へ敢えて攻撃した。
 新たな盾が2枚出現したが、刑次と蘿蔔が更に2枚出現を阻むように攻撃すると、盾はそちらを守る方へ回る為、クレアの攻撃が吸い込まれる。
 盾を出現させて貰えば、自分の身を守って貰えるという浅はかさがここで露呈された。
 数を減らすべきというクレアの判断を受け、亮馬はトップギアを発動させ、愚神へストレートブロウを叩き込む。
「待っていたのよ」
「手間は掛けさせないで欲しいな?」
 雨月と瑠璃が吹っ飛ばされた愚神へタイミングを計ったゴーストウィンド。
 愚神が崩れ落ち、残りはゾーンルーラーを目された愚神とサムだけとなった。
「エージェントの仲間を撃つのは気が引けるけれど……、目を覚ましてあげなきゃいけないから」
 京子が既にサムの対応に回っているが、それはある意味サムを守る為でもある。
 ダメージが重なろうと、接近戦ならばとダグラスが攻撃を続行しているからだ。
 ダグラスが間合いを取るように計算しつつ、サムを狙うのは並大抵のことではないが、高い命中を誇る京子だからこそそれが可能でもあった。
(お願い、闇に飲み込まれないで!)
 まだ、割り切る時じゃない。
 最後の最後じゃないと思う京子は同じエージェントの仲間へ心からの願いを込めて攻撃。
 けれど、ダグラスは寧ろ好機としてサムを積極的に殺そうとしている。
「殺される訳にはいかない」
 サムのケアレイが発動、その傷を癒す。
 ゴーストウィンド発動の為に接近していた瑠璃と雨月が愚神の連続攻撃で膝を着く。
 亮馬とクレアがフォローに入るが、瑠璃と雨月を庇う形の為に攻撃が命中、更に──と思った瞬間、蘿蔔のフラッシュバンが隙を作り、瑠璃と雨月を一旦後退させた。
「連続で喰らうのはちょっときついね」
「出来る限り早く仕留めないと」
 邪英化しているサムをダグラスから守りつつ、生存回収しないと。
 瑠璃と雨月が顔を見合わせた瞬間、落児と愛が戻ってきた。
「救出完了しました」
「回復するから」
 落児が報告と共にサム対応へ回る。
 同時に愛のケアレイが瑠璃と雨月を癒し、クレアの要望により亮馬へもケアレイ。クレアへはチョコレートが渡された。
 その間にも愚神の抵抗凄まじく、自身の射程外から攻撃を仕掛ける刑次と蘿蔔を狙うべく、前進すると、流石に刑次がジリ貧前提としながらもコンユンクンシオに切り替え、ストレートブロウで後退させるが、銃による3連続攻撃で応酬される。
「ま、1人でやってる訳じゃねぇし」
 拙いと遠慮なく横に飛ぶと、蘿蔔へ狙いが移行され、苛烈な攻撃に膝を着く。
 が、タダでそれは許さなかった。
「その自慢の頭、スカスカにしてあげるのです」
 頭部狙って引き金を引く。
 命中したが、まだ死なない。
 と、銃声に釣られるように後方を見た。
 自身にとっていい結果が目に映ると、奮い立つようにして蘿蔔は立ち上がる。

 時間を少し遡らせると、ケアレイで傷を癒すサムは強敵というより落ち難い印象があった。
 無論邪英化している故に強化されている部分はあるだろうが、回収するには面倒だ。
 ダグラスもまだ積極的な制止ではないと判断しているのか、殺しを狙っているように見受けられる。
「一気に決めましょう」
 落児が合流すると、まずダグラスへ威嚇射撃を行った。
 これにはダグラスも対応の動きをせざるを得ない。
「頭を冷やせ、ダグラス」
 接近した愛がダグラスを制止する間に亮馬とクレアがサムへ向かっている。
(『呼吸を合わせ、叩き込め』)
 Ebonyへ応じるかのように亮馬がクレアの動きに合わせる。
「申し訳ありませんが、あなたを助ける為です」
 クレアがそう言葉を発した時には、亮馬との協力攻撃がサムへ吸い込まれていた。
(『判断はしっかりしていますね』)
 リリアンが分析する中、サムはケアレイを発動させていた。
「何度やっても……」
「同じにならないわよ?」
 怪我を癒したサムの言葉を雨月が遮る。
 直後、風が唸りサムを攻撃すれば、
「わたしは、まだ諦めてない!」
 京子が自身の意志を示すようにラジエルの書より生み出された白き刃でサムを攻撃した。
(『ラピスラズリ様、またとない好機です。いけますか?』)
「逃すつもりはないよ」
 ノクスフィリスへ応じた瑠璃が戦闘不能状態になったサムを見、幻想蝶へ触れる。
 状態固定され、サムの件はひとまず安心といった所だろう。

 それを、蘿蔔は見ていた。
「どの道ドロップゾーンから外さなきゃならねえからな」
 アストリアへも向けられているらしい刑次は愚神へ背後からヘヴィアタック。
 その瞬間を見逃さず、蘿蔔もスナイパーライフルの引き金を引くと、盾を出現させる余裕もない愚神へ命中した。
 京子の威嚇射撃が反撃を拒むように行われ、雨月がリーサルダーク。
 これが決定打となり、愚神は倒れ、ドロップゾーンは消え去った。

 後に、その地を選んでドロップゾーンを選んだことより、現地の言葉で赤を示す『クロホーム』がケントゥリオ級、かつゾーンルーラーであった愚神、従っていた愚神は刑次の見解を元に半分を示す『コンラハ』、多く死を冒涜していたことに由来し従魔を『ジャルン』とされるが、それは別の話だ。


 ケアレイが既に尽きていた為、残りはH.O.P.E.の食品で癒すこととなった。
 さっさと移動車両に戻ったダグラス(その場には静希もいたが共鳴の際に声を発してやっと認識されたレベルの彼女に誰も気づかなかったようだ)以外の負傷者全員へチョコレートまたは高級お弁当が行き渡り、その傷を癒す。
「魔族としては曰くつきの場所は居心地が良いのですが、閉鎖空間は人間を狂わせます。ラピスラズリ様が雰囲気に飲まれなくて良かったです」
「相変わらず性根が腐ってるよな、お前」
 ノクスフィリスが向ける笑みに軽く肩を竦めた瑠璃は、慰霊塔を見た。
 今は一種の観光地になっているようだが、ここは処刑場跡であったという。
 愚神がここをドロップゾーンとしたのには思惑があるのか偶然なのか知る術もないし、興味もない。
 処刑場は、蘇らなかったのだから。
「これで、この人達もまた静かに眠れますね」
 愛同様慰霊塔へ祈りを捧げていたクレアへ、リリアンが声を掛けた。
「ドクター、折角今は平和なカンボジアまで来たんだ。何か名物でも食べていこう」
「果物も沢山ありますしね」
 クレアの提案にリリアンは微笑み、皆と平和になったその場を後にする。

「2人共……いえ皆さんですね。無事だと良いのですが……」
 蘿蔔の顔は、任務成功と言って差し支えないのに晴れない。
「色々あったけれど、私達は生き残った。なすべきことをなしたと思うわ」
「そうですね。皆が出来ることをしたからでしょう」
「魔女さんが聞いてくれた情報のお陰でもあるよね」
 雨月の言葉に構築の魔女がそう言うと、京子が搬送方法も考案、搬送中も更なる情報を求めて離脱した研究者チームへ確認を行うといった無駄のない行動をした彼女のお陰でもあると笑い、更に落児へもお疲れ様と労った。
「そうですね。一種の将棋倒しのような状態で一般の方を運ばないよう考慮されていたのは慧眼であると言わざるを得ません」
「それも、羽柴さんがソリの動きをスムーズにしてくださったからでしょうね」
 そう言いながらも構築の魔女はアリッサへ素直に礼を述べた。
「きっと大丈夫。すぐに家族の所に帰れるさ」
 不安そうな蘿蔔へレオンハルトがそう声を掛けると、彼女はやっと微笑んだ。
 と、その時だ。
 前方から、男性が走ってきた。
 彼の後方を歩く高音と十架の反応を見るに、通報後避難していたサムの親友で義弟である男性だろう。
「サムは!? アイリンは!?」
「ちゃんと連れて帰ってきた。大丈夫。戻ってこれる」
「少し日にちを要するが、案ずることはない」
 亮馬とEbonyが声を掛けると、男性は安堵の余り大泣きした。
「余程心配だったのね」
 Nikolausがサムだけでなく、搬送した一般人も手遅れは誰もいなかったと高音から聞き、そう漏らす。
 小さく微笑んだ愛がティッシュを彼へ差し出した。
「あぢがどう」
 言葉になってない男性はティッシュで涙を拭くと盛大に鼻をかむ。
「命に代えられるものはないからな」
 想い深き、けれども不器用な愛はそれだけ言った。
 アムブロシアも見習った方がいいと雨月が思ったかどうかは定かではないが、自身の幻想蝶へ目を落とした。

「後は自らの正義の為すがままに。彼の魂に委ねる」
「くせえ」
 見守るアストリアの言葉に刑次は遠慮ない言葉を漏らした。
「臭いのはヤニおじさんだよね」
「センチメンタルなんざで涙が拭けるかよ。帰るぞ。報告にな」
 アストリアの言葉に軽く肩を竦め、刑次は歩き出す。

 キリング・フィールドは、『新入り』を迎えることなく、『彼ら』の眠りを守っている。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • エージェント
    帯刀 刑次aa0055
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405

重体一覧

参加者

  • きみのとなり
    加賀谷 亮馬aa0026
    機械|24才|男性|命中
  • 守護の決意
    Ebony Knightaa0026hero001
    英雄|8才|?|ドレ
  • エージェント
    帯刀 刑次aa0055
    人間|40才|男性|命中
  • エージェント
    アストリアaa0055hero001
    英雄|10才|女性|ドレ
  • クラインの魔女
    倉内 瑠璃aa0110
    人間|18才|?|攻撃
  • エージェント
    ノクスフィリスaa0110hero001
    英雄|20才|女性|ソフィ
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 想い深き不器用者
    羽柴 愛aa0302
    人間|26才|男性|防御
  • 朝焼けヒーローズ
    Nikolaus Wirenaa0302hero001
    英雄|23才|男性|バト
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • 苦労人
    レオンハルトaa0405hero001
    英雄|22才|男性|ジャ
  • 我王
    ダグラス=R=ハワードaa0757
    人間|28才|男性|攻撃
  • 雪の闇と戦った者
    紅焔寺 静希aa0757hero001
    英雄|19才|女性|バト
  • 語り得ぬ闇の使い手
    水瀬 雨月aa0801
    人間|18才|女性|生命
  • 難局を覆す者
    アムブロシアaa0801hero001
    英雄|34才|?|ソフィ
  • 死を殺す者
    クレア・マクミランaa1631
    人間|28才|女性|生命
  • ドクターノーブル
    リリアン・レッドフォードaa1631hero001
    英雄|29才|女性|バト
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