全国的な暑さに襲われる、この夏。
　とあるスポットが、人気を集めていた。
　お化け屋敷である。

「お化け屋敷で従魔が出たんですか……」
　H.O.P.E.に持ち込まれた依頼は、そのようなものだった。
　最近増え始めた季節限定の本格的なお化け屋敷に、従魔がまぎれこんだのだという。そのお化け屋敷はお化け役の人間を採用していないタイプのお化け屋敷なのだが、先日お化け屋敷で停電騒ぎがあった。
　客が入っている状態での停電であったので、お化け屋敷運営側は泡食ったらしい。電気が流れていないと、お化けのマネキンや人形が動かないからだ。だが、お化け屋敷に入っていた客は「お化けが動いて恐かった」と感想をもらした。
　電気が来なかったのに、お化けのマネキンが動いた。
　――これは本物の幽霊の仕業なのか？
　いいや、そんなわけがないとお化け屋敷の運営は考えた。
　恐らくは、従魔がお化け屋敷に従魔が紛れ込んだのだ。
　こうして、H.O.P.E.お化け屋敷に従魔が紛れ込んだ事件が持ち込まれたのだった。

●恐怖の夏
　クーラーを効かせたH.O.P.E.の会議室に、お化け屋敷のＰＶが流れる。
　お化け屋敷に入る女性が、怯えながらドアを開ける。閉められたドアの内側には、血文字で「ゆるさない――あなたをゆるさない」と書かれている。それに気づかない女性は、お化け屋敷のさらに奥に進む。女性の背後で「がちゃり」と鍵の閉まる音が響いた。
　ファミリー向けのアパートを模したお化け屋敷。
　外とは違う異質なひんやりとした空気が、なんとなく分かる。
　――薄暗い室内。
　――響く水音。
　――畳の部屋に横たわる人形。
　――楽しげに笑う子供たちの声。
　――浴室だけに響きわたる女性の「許さない」という声。
　それらの映像と声が、テレビのなかで入れ替わり立ち代り流れていく。クーラーの涼しい風と相まって、まるで自分たちが実際にお化け屋敷のなかを歩いているかのようであった。
　そして最後に、浴室に立っていた白いワンピースを着た女性が振り返る。
「あなたを絶対にゆるさない」
　最後に映るのは、黒い画面。
　その画面に浮かび上がる、赤い文字。
　――3年前に起きた、一家心中事件――
　――浮かばれない家族の霊が、あなたに復讐するのを待っている――
「このお化け屋敷の設定は、三年前に一家心中で亡くなった家族三人が幽霊としてでてくるというものらしいです。裏設定は『一家心中の事件は実は一家惨殺事件であり、幽霊は自分のアパートに入ってくる人間を犯人だと思って呪い殺す』らしいです。このお化け屋敷の最大の特徴は、部屋のなかにある鍵を探さないと出られないとのことです」
　昼間からお化け屋敷のＰＶを見せられた面々は思った。
　その情報は、いらない。
「お化け屋敷に設置されているマネキンですが、主婦のマネキン、畳部屋に設置されていている人形、首をつった父親のマネキン、そして隠し要素的に真犯人のマネキンが置いてあるそうです。そのマネキンのどれかが、電気を落としても勝手に動くとのことでしたが」
　電気を消しても動くのが従魔ではないか、という質問がリンカーから出た。
　職員は、言いにくそうに目を泳がせた。
「同じ建物に水族館があり、電源を落とすとそちらの電源も切られてしまうというので……電源は落とせないらしいです。一応水族館には発電機の予備のバッテリーはあるのですが、先日の停電騒ぎのときにバッテリーを使い切ってしまったらしいんです」
　電源は切れず、全ての人形は訪れる人に反応して自動的に動くらしい。
　つまり、リンカーたちはお化け屋敷を体験しなければならないのだ。
「恐ろしいと思いますが……頑張ってください」

・お化け屋敷に紛れ込んだ従魔の討伐。
お化け屋敷（20：00）――薄暗いファミリーマンションを模したお化け屋敷。玄関、畳の部屋、寝室、お風呂、台所がルートであり、それぞれ部屋に動くマネキンや人形が設置されている。お化け屋敷は意外と狭く、不気味な小物が数多くある。
玄関――二人ぐらいしか入ることができない、狭い入り口。よく見ると、玄関の鏡に頭から血を流した子供が映りこむ。十秒以上その場にいると、玄関の奥から子供のマネキンが現れる。少し探すと割れた花瓶を発見できる。
畳の部屋――子供部屋だったという設定。部屋の真ん中には、子供が遊ぶ人形がおいてあり人が近づくと笑い声を上げる。
寝室――首をつった男性のマネキンが置いてある。人が近づくとうめき声をあげて揺れ始める。
お風呂――あたり一面が血で汚れており、背中を刺された白いワンピースを着たマネキンがある。人が訪れると、そちらのほうに向って動く。
台所――お化け屋敷内で一番暗い部屋。人がやってくると黒いマネキンが、天井から降ってくる。台所のシンクの下の包丁収納スペースに、お化け屋敷脱出用の鍵がある。しかし、包丁は一本抜き取られている。

ＰＬ情報
従魔……台所に出現する。黒いマネキンが落ちた後に、もう一体の黒いマネキンとして天井から落ちて出現する。マネキンとは違って人を襲ってくる。反抗されない場合は、微弱なライブスしか吸収しないが、反撃してくると攻撃を開始する。
物的証拠――血にまみれた包丁を三本出現させて、相手にまとめて投擲する。命中率が非常に高い。
証拠隠匿――暗がりにまぎれ、自分の気配を消す。従魔が攻撃に移る瞬間まで、探すのが困難になる。
背後からの殺傷――証拠隠滅後に使用。敵の後ろに回りこみ攻撃する。首をロープで締め上げる、包丁で背中を刺す、後頭部を鈍器（花瓶）で殴打するの三パターンがあり、ランダムで攻撃を決定する。