本部

ポウのイチゾク

電気石八生

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
4人 / 4~10人
英雄
4人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/12/12 12:46

掲示板

オープニング

●そしてビートは刻まれる
「ポウ!」
 赤い天狗の面をかぶった男が、金のスーツでぴっちりと覆われた細長い体を閃かせた。
 世界が揺らぎ、瞬く間に異世界がなだれ込んでくる。
 世界と異世界が喰らい合い、弾き合い、溶け合って、世界でも異世界でもない、亜異世界化領域と化していく。
 そして。
 領域の内は極彩色とビートで満たされた。
 でっでっでっでっでっでで、でっでっでっでっでっでで……

●唯一絶対のルール=ダンス!
「町にドロップポイントが出現しました」
 ブリーフィングルームに集まったライヴスリンカーへ、新人女子職員が静かに告げた。
「ポイントの核になったのは地域密着型のスーパーです。ドロップポイント化は17時30分。ちょうどタイムセールの時間だったこともあって、100人以上の老若男女が閉じ込められてます」
 ドロップポイントはドロップゾーンの縮小版だ。しかし、規模が小さいだけでその内部はドロップゾーン同様、それを支配する愚神の定めた「ルール」によって支配される。
「このドロップポイントのポイントルーラー、デクリオ級愚神「オールド天狗」です」
 スーパー周辺の防犯カメラで撮影されたらしい映像。
 そこに映っているのは、スーパーから出てきた天狗面の細長い男だ。
「これ、入店直前の映像です。この後、ムーンウォークで店に入っていくんですよ」
 ムーンウォークとは、前に歩くような振りで後ろへ進むという、1980年代に流行したストリートダンスのステップのこと。
 わざわざ後ろ向きに入っていく理由は謎だが、とにかくなにかしらの強いこだわりが観じられないこともない。
「ここからは先に突入失敗したエージェントからの情報ですけど、通用口とか搬入口、内に入れそうなところは全部閉鎖されてます。ただ、スーパー正面の自動ドアだけは普通に開閉して、出入りできるそうです」
 スマホで撮影したらしい動画に、何度も開閉する自動ドアが映し出された。ただ、ドアの中は暗黒。なにも見えない。
「ポイント内はもう、クラブっていうか昔のディスコみたいな感じ? 真っ暗で、ミラーボールがチカチカしてて、「でっでっでっでっでっでで」って電子音が大音量でかかってて」
 手をひらひらさせてミラーボールの光と電子音を演出する女子職員。そして。
「捕まってる人はひたすら踊ってるんですけど、そこに従魔が大量にまぎれてます。まわりの人を巻き込まずに戦うのは無理ですし、愚神を探そうにも従魔がしつこく襲ってくるしで、先発チームは撤退するしかなかったんですけど……」
 状況は理解できたが、問題は愚神を探しだし、戦いに持ち込む方法だ。
「本部が立てた対策をお伝えします。ポイント内の「ルール」を守って愚神を探し出してください」
 ルール?
「ポイントを支配するルールは「ダンス」でまちがいないです。ですから、まずは自動ドアからポイント内へ侵入。「でっでっでっでっでっでで」に合わせて踊りながら移動して、ポイントルーラーを探しだして殲滅ってことでひとつ!」

解説

●依頼
1.「でっでっでっでっでっでで」の電子音に、あなたのキャラクターが「乗れる」踊りを踊ってください(ストリートダンスでも盆踊りでも創作ダンスでもなんでも大丈夫)。
2.ポイントルーラーを探してください(基本、踊っていれば見つかります)。
3.ポイントルーラー「オールド天狗」を撃破してください。

●地形
・ポイント内に遮蔽物の類いはありません。
・真っ暗な中にミラーボールがチカチカしていて、周辺1メートルほどは見ることができます。

●状況
・「でっでっでっでっでっでで」というリズムが大音量でかかっており、耳元でどならないと会話ができません(英雄とは、リンクすれば普通に会話できます)。
・灯、携帯電話、通信機器は一切使えません。
・捕らわれた老若男女は「自分が踊れる踊り」をひたすらに踊りながらライヴスを吸われています。リンカーのことは感知しません。
・人々の間に多数の人型従魔がまぎれて踊っています(こちらが踊っているかぎり襲ってきません)。

●オールド天狗(デクリオ級愚神)
・ダンスに乗せ、物理単体攻撃をメインにしかけてきます。
・近距離範囲攻撃の「ポップン」は衝撃のBS、遠距離範囲攻撃の「アニメーション」は翻弄のBSが付与されています。
・オールド天狗を撃破するとドロップポイントは消滅し、人々は開放されます。

●人型従魔(ミーレス級)多数
・リンカーが形だけでも踊っていさえすれば、オールド天狗との戦闘になっても襲ってきません。
・戦う場合は人々の間から不定期に飛びだしてきて、近距離単体攻撃の「パンチ」と「チョップ」を使います。

リプレイ

●ドロップポイントへ
 自動ドアが開いた。
 内側は、黒い。そして無音だ。リズムどころか人の動く気配も感じられない。
「……誰もいないよ?」
 幼女以上少女未満のかわいらしい顔を「んー」としかめ、黒をのぞき込んでいた伊邪那美(aa0127hero001)が、後ろで待っていた契約者・御神 恭也(aa0127)に駆け寄り、飛びついた。
「愚神が創りだしたこの世ならざる空間だからな」
 じゃれつく伊邪那美を右手ひとつでいなしつつ、恭也は淡々と述べた。
「なんだか暗いのやだよね! 神世は光あれって感じでぴっかぴかだったのに」
 自分を神世七代の一柱――神だと言い張る伊邪那美が、思いっきりのしかめ面を作る。
「中がどうなっているか、なにが起こっているか、入ってみなければわからないわけですけれどもね」
 スーツがよく似合う風貌なのに、職を失ってきたばかりのサラリーマンに見えてしまう不思議な男、石井 菊次郎(aa0866)が肩をすくめた。
「その昔、信徒の女共を死ぬまで踊らせた阿呆もいたが……」
 契約英雄であるテミス(aa0866hero001)の神話になぞらえた発言に、菊次郎は首をすくめ。
「『死に至る舞踏』は欧州において実に偏在的なモチーフです。それこそ死の象徴たるゾンビーを踊らせた伝説のプロモーションビデオは、斬新ならず伝統的な代物なのです」
 テミスは、部下の不出来な報告書をチェックし終えた上司然とした表情でうなずいた。
「とはいえ、あの愚神がそんなことを意識していようとはとても思えんがな」
「ぜひともそのあたりのお話をうかがいたいところですが、ポイント内では満足に話もできないようです。まあ、準備はしてありますが……」

●みなぎるかしこみ
 ライヴスリンカーたちが、黒の内へ探りの1歩を踏み出した途端。
 でっでっでっでっでっでで、でっでっでっでっでっでで――
 単調なのにどこかメロディックな電子音の奔流が襲いかかってきた。
『うるさ~い!!』
 リンクした伊邪那美がわめくのを、恭也が低く制す。
「気持ちはわかるが、おまえも釣られて大声を出すな。頭に響く」
 天井のミラーボールから振りまかれた7色の光を頼りに暗がりを透かし見れば、無数の人々が、疲れた顔で憑かれたように踊り続けていた。
『さて、この中の何割が従魔なのか?』
 じわじわとライヴスを吸い取られ、それでも思い思いの踊りを演じることしかできずにいる人々を見やり、テミスは鼻をひとつ鳴らした。
「もしかすれば、人よりも従魔のほうが多いのかもしれませんね」
 答える菊次郎は、コンビニで仕込んだ安化粧品でゾンビ風メイクに塗り上げた顔を巡らせつつ、ハンドウェーブ――コマ撮りSFXの怪物の動きを模したダンステクニック――でリズムをなぞる。
『主は妙に楽しげだな』
「敬意を表しているだけですよ。偉大なる『王』をリスペクトするポイントルーラーへのね」

 ――仲間たちが見える位置をキープし、かるくリズムを刻んでいた赤城 龍哉(aa0090)は満足げな表情でうそぶいた。
「ふん、悪くない趣味じゃねぇか。古きよきオールドスクールってやつか」
 龍哉の強い声音が音を押しのけ、契約英雄のヴァルトラウテ(aa0090hero001)の耳を揺らす。
「ちょっと騒がしすぎますわ」
 電子音と相方の声が鼓膜に響くのか、耳の穴のフチを指の先でもみながら、ヴァルトラウテがつぶやいた。
「なんか言ったか?」
 ヴァルトラウテは答えず、頬に人差し指を当ててひと思案。幻想蝶にもぐりこんだ。
『好みの音でもありませんし、なによりも耳が痛くていけません。使命を果たすべき時が来るまではこちらで待たせていただきますわ』
 相方に置いて行かれた龍哉は太いため息をついて……獰猛に笑んだ。
「――ま、それなら時ってやつが来るまで、思いっきり乗らせてもらうか」
 と。左脚を鋭くしならせ、なめらかな半円を描きながら後進。ビリージーン・レッグスからムーンウォークへつなぐという、まさに「王道」のステップを決めた。
「ポウ! でいいのか!? ははっ、決まらねぇな」
 人々の隙間を華麗に縫っていく龍哉の足さばきに、比良坂 蛍(aa2114)はキャーっと高い声をあげた。
「ヤダ、赤城さんカコイイ! み・な・ぎっ・て――じゃなくて、僕らも行きますか」
 ちなみに蛍のまとう白ジャケットと白の中折れ帽、今龍哉が踏んでいるステップの代名詞である「王」を模したものだ。
「ほう、蛍も魅せるかよ。ならばこの俺は全力でつきそってくれるわぁ!」
 これだけ声が出ていれば少しくらい離れても聞こえそうな気にするが……黒鬼 マガツ(aa2114hero001)が、蛍の背中に貼りつき、吠えた。豪快なんだか寂しがり屋なんだか。
 それはさておき、蛍が歌詞を唱えながら動きだした。
「1歩前進、手を前に。1歩前進、リスペクト――」
 その前進はコンパクトにして軽快。その振りは大胆にして鋭利。見事にまわりの人々をよけていくのだが、どうにもダンスではないような……。
「蛍よ、なんだこれは?」
 律儀に同じ振りで合わせていたマガツに、蛍は笑顔を振り向け。
「最小の動きで障害をかわし、前進し続けるために生み出されし究極のステップワーク、『算法式行進術』です!」
 どん。正体不明の「圧」がマガツを打ち据えた!
「ぬう、よくわからんが……蛍さんキレてます! めっちゃキレてます!!」
 まさかの「王」と無関係なアルゴリズムが、ツッコミ不在の地獄空間でリーズナブルに炸裂するのだった。
『ボクらもやるよ! ツレダンスだよ!』
 今まで音量や暗さに文句をつけ続けていたはずの伊邪那美が、子どもならではの唐突な切り替えっぷりで恭也を急かす。
 ツレはレッツのまちがいと思われるが、仲間と連れ立っているのは確かなので、恭也はあえて指摘はしなかった。
「踊りの嗜みはないんだが……」
『踊りならボクにおまかせ! こんな緩急も侘びも寂びもないシャカシャカせわしないばっかりの今どきな舞に、神の威厳全開でもの申~す!!』
 その威厳とやらが見当たらないせいで、御神家ではマスコットあつかいを受けてる伊邪那美なわけだが。
 果たして。電子音を完全無視した厳かで雅な神楽舞が開始された。
「流れるリズムと舞のリズムがちがいすぎて動きが狂いそうだ」
『愚神のこと見つけるまでガマンして! それよりちゃんとかしこんで(かしこまって)! かしこみ~かしこみ~』
「……」

●コンタクト&バトル!
 ダンスは確かな効果を発揮し、ライヴスリンカーたちは従魔の妨害を受けることなくポイント内の探索を進めることができた。
 しかし、肝心のポイントルーラーはなかなか見つからなかった。ずいぶんと移動してきた気がするが、実はそれほどの距離を進めているわけではないのかもしれない。
『本当にこのままでいいんですの?』
 幻想蝶に入ったままのヴァルトラウテが、さすがに不安そうな声をあげる。
「だったらふたりでワルツでもかましてやるか? マイレディ、お手をどうぞ」
 幻想蝶に指先を触れる龍哉に、ヴァルトラウテは固い声で。
『こんな音の中で3拍子をとれる自信がありませんわ』
「マジメか!」
 などと、ふたりが言い合っていた、そのとき。
「!」
 幣束(ぬさ)の代わりにコンユンクシオを掲げていた恭也が、柄から左手を放して仲間へハンドサインを送る。
 集まってきたライヴスリンカーたちに恭也が示したのは、人々のただ中、不自然に開けた空間だった。
 そしてその場所を独占し、キレたダンスパフォーマンスを展開するものは――
「見つけたぜ、天狗野郎!」
 スピンカット――ターンすると同時に右手を振り下ろし、両脚をしならせながら開いて止まるテクニック――を決めた天狗面の細長い男が、咆哮した龍哉を斜め下から視線でなめ上げ。
「ポウ!」
『我が名と盟約において、折れぬ闘志に勇気の加護を!』
 ヴァルトラウテが龍哉にリンクした。
「踊ろうぜ、天狗野郎? エスコートしてやるからよ!」
 ポルックスグローブを装着した両の拳で演武を描き、龍哉がオールド天狗へ迫――
 しばらくお待ちください。
 龍哉をとどめた菊次郎の腕。そこには化粧品とともにコンビニで仕込んでいたらしいコピー用紙に緑の蛍光ペンで書き付けられた文言が。
 進み出た菊次郎はオールド天狗に語りかけ、コピー用紙と黄の蛍光ペンを差し出した。
「ポウ?」
 オールド天狗は天狗面を傾げ、そして、紙とペンを受け取った。
『普通に受け取りましたわよ』
「社交性高ぇな!」
 驚くヴァルトラウテと龍哉を取り残し、コンタクトは続く。
 ちなみに愚神もライヴスリンカーもまわりの人々も、全員もれなくダンシング。実にシュールな光景である。

菊次郎:ハジメマシテ 実ニ素晴ラシキ セツシヨン ナリ 俺 感銘
天狗:ありがポウ(蛍「ポウ!」 マガツ「ポウ?」)
菊次郎:俺 ダンス ト 死ノ舞踏 関係アリ思フ ソレ御身モナリヤ(伊邪那美『ね~ね~、あれ何語? アメリカ語?』 恭也「古語、いや、神世からすれば未来語か」)?
天狗:考えるな感じポウ(龍哉「それ王じゃなくて師匠のセリフじゃねぇ?」 ヴァルトラウテ『それより、書き文字にポウはいらないでしょうに』)
菊次郎:サテオキ 此ノ眼ト同ジ眼 見知ラヌヤ?
天狗:見知らんポウ

 愚神にすげ替えられた金と紫の瞳をサングラスで隠し、何食わぬ顔で菊次郎が帰ってくる。
「残念ながら、俺の目的は達成できませんでした」
 龍哉は疲れた顔を向けて、
「いや、気になるとこはいろいろあんだけどよ。もういいわ。……天狗野郎、シャル・ウィ・ダンスだぜ!」
 ポルックスグローブが下から上へ、光の軌跡で黒を白く斬り裂いた。
「ポウ!?」
 体をひねりながら跳び上がり、その回転力と反動力、筋力のすべてを込めたアッパーを敵にぶち込む必殺技が、オールド天狗のアゴを捉えて吹き飛ばす。
「はっ! 案外リアルでもやれるもんだな、昇り龍の拳!」
 しかし、オールド天狗は空中でふわりと回転し、ヒザを曲げることもなくまっすぐ降り立った。
 そこは奇しくも、他の場所よりも1メートルほど高くしつらえられた空間――ダンスバトルステージだ。
「ちっ、自分で跳んでダメージカットかよ。さすがに一撃必殺ってわけにゃ、いかねぇか」
 眉をしかめた龍哉に、ヴァルトラウテの厳しい声音が叩きつけられる。
『ならば! 敵が倒れ伏すまで打ち、突き、斬るのみですわ!』
「おお――」
「――アーオゥ!」
 追撃に向かおうとしたプレイハット――鋭い振りで帽子をかぶるアクション――で割り込んだ蛍の白い背中に阻まれた。
「明日からじゃなくて今から本気出す! せっかくのステージです。どっちが王リスペクターかバトルですよ!」
 マガツとリンクした蛍が、オールド天狗にダンスバトルを申し入れた!
「ポウ!」
 天狗は指差しと体のしなりを重ねてポージングを決めるポイント・ロックで蛍を差し、挑発してきた。手足が細長いだけに、スナッピーな振りがぴしりと決まる。
「アーオゥ!」
 蛍はその場から動かずにムーンウォークするスポット・ウォークを、唐突につま先を立てて静止するポイント・フックで止めて挑発を返す。
『はいはいはいはい』
 マガツの応援も絶好調だ。
「ポウ!」
「アーオゥ!」
「ポウ!」
『すっごいね! すっごいキレイ!』
 さらに加速して積み重ねられるステップの応酬に、伊邪那美が歓声をあげた。
「ああ。悪くない」
 踊りに思い入れを持たない恭也ですら、そう返してしまうほどに蛍と愚神のダンスバトルは熱かった。
『ボクも舞いたい! まざりた~い!』
「あれは……素人が踏み込んでいい場所じゃない」
 しかし。楽しい時間はいつか終わる。
 激しい戦いを繰り広げてきたふたりのムーヴが、止まった。
「次で決まるな」
「次で決めるか」
 武に通じた恭也と龍哉の声が、思いがけないハーモニーを奏でた。そしてそれが、最終ラウンドのゴングとなる。
 足を外側へ放り出しながら前進するマイクウォークで天狗との距離を詰めた蛍が、その目前で立ち止まって直立不動。
「マガツさん!」
『おお、存分にやれい!』
 そして蛍が前へ倒れ込み、静止するゼログラビティ――王の代名詞であるパフォーマンスを決めて。
 その下がった顔面を、オールド天狗の80’ランチトが偶然、蹴り上げてしまった。
 激しくスピンしながら飛んでいく蛍。
 おそらくこの後の戦闘では役に立たないだろう。しかし。
 彼の顔(残像)はやりきった充足感を湛え、その右手は人差し指と小指だけを立ててメロイックサインを形作っていたのだった。ちなみにこのサインも王とは関係ない。
「あと、よろしくぅ」
「なんでもいいから寝てろ!」
 床に落ちた蛍を跳び越え、今度こそ龍哉がオールド天狗と対峙する。
「ポウ」
 かろやかにステップを踏み、ライヴスリンカーたちを誘うオールド天狗。
 対する龍哉は先ほど同様、演武仕立ての体裁きで左右へ重心を振り、強打を打ち込む機をうかがいながらオールド天狗へと迫る。
『あれだけ動いているはずなのに、まるで隙がありませんわ』
「隙がねぇなら作ればいい……って、言いたいとこなんだけどな」
「隙がないなら作ればいい」
 龍哉の言葉をなぞってみせたのは恭也だ。
 重いコンユンクシオを軽々と振るって剣舞を演じながら、龍哉の呼吸に合わせてその背中を合わせた。
「右」
「左だ」
 背中合わせのふたりが離れた。オールド天狗から見て右へ恭也、左へ龍哉が回りこむ。
 でっでっでっでっでっでで。
「おらあっ!」
 でっでっでっでっでっでで。
「はっ!」
 体勢崩しを狙った龍哉のストレートブロウと、それを見て取った恭也のヘヴィアタックが、オールド天狗を挟み討つが。
 リズムに乗ったオールド天狗のステップを追い切れず、どちらも空振り。
「ポウ!」
 逆に、オールド天狗の体を弾けさせるアクション――ポップンで吹き飛ばされた。
「まだ足りねぇか!」
 構えを取りなおす龍哉の背に再び背を重ねた恭也が、敵に聞こえないよう小声で告げた。
「奴がリズムに乗っている以上、タイミングは読める。このまま攻撃を続けて――」
『だとすれば、必要なのは愚神を休ませぬことだな』
 タイプライターの刻印を思わせるテミスの声。
「手伝いますよ。御神さんは機を読むほうを優先で。空いた間は俺たちが埋めますので」
 そう言い置いた菊次郎の手に、魔法書ラジエルが現われる。
『主よ、愚神にはこの書の52ページを読ませてやろう』
「書を開くついでに、面の奥に隠した瞳も開示していただきましょうか」
 開かれた書から白刃がすべり出して。
「ポウ!?」
 実体なき魔力の刃に身を削られ、オールド天狗はよろめいた。
「先ほどは貴重なお話をお聞かせいただき、多謝。ここよりは、御身のダンスマカブルをぜひ拝見したく」
 ぞくりと冷たい笑みをたたえ、菊次郎が一礼した。
「ポウおあっ!?」
 ステップを再開し、攻撃に移ろうとしたオールド天狗に、龍哉の右ストレートが炸裂!
「気ぃ抜いてっと、タイミング読まれる前にやられちまうぜ?」
 面の鼻先を叩き潰されたオールド天狗は、「ポォォォウ!!」、濁った高音を響き渡らせた。

●先の先、後の先
 龍哉の拳が打つ。
 恭也の剣が斬る。
 菊次郎の魔弾が貫く。
 しかし。皮を削ることはできても、肉までは届かない。
「ポウ!」
 そしてなにより厄介なのは範囲攻撃だ。近づけばポッピンで弾かれ、間合をとればアニメーションで惑わされ……ライヴスリンカーたちは厳しい状況に追い込まれていた。
『認めざるをえませんわね。あの天狗、強敵ですわ』
 ヴァルトラウテが思わず嘆息するほどに、オールド天狗は強い。
『デクリオ級の分際でドロップポイントを創る力、あなどれまいよ』
 感情の薄いテミスだが、その言葉はヴァルトラウテの感想を全肯定だ。
「今さらですが……機先をとって畳みかけたいですね。押し切られないうちに」
 菊次郎の言葉に、恭也がうなずいた。
「……あと一攻防しのいでくれ。次の機で、しかける」
『ボクらにまかせて! 天狗ちゃんにかしこませちゃうから!』
 請け負った伊邪那美に、龍哉は口の端を吊り上げてみせた。
「繋ぎは頼むぜ」
「存分にどうぞ」
 菊次郎と目線を交わした龍哉がオールド天狗へからみつくように近づき、至近距離から大振りのパンチを振り込んだ。
「ポウ!」
 反射的に打ち返された手を龍哉はブロック、さらに恭也の姿をオールド天狗から遮って注意を向けさせない。
 そこに菊次郎の放った銀の魔弾が重なって、オールド天狗の目を恭也から完全に遠のかせた。
 そして運命の最終ラウンドが幕を開ける。

「行くぞ」
 短く吐いた呼気を追うように、恭也が踏み出した。
『せ~のっ!』
 でっ『いち』でっでっ『にぃ』でっでっ『さんっ!』でで。
 リズムの内に差し込まれた伊邪那美のカウントが恭也を導く。
 電子音が1ループする直前、恭也の右足の裏が強く床を打った。
「ポ」
 オールド天狗が恭也の踏み込みの音に釣られ、ポッピンを発動しきれなかった両腕を泳がせた。
「拍をずらし、おまえがステップを踏む『先』をとった。――踊れ」
 コンユンクシオの重い刃が、オールド天狗の胸元を深くえぐる。
「ポゥゥ!」
 恭也につかみかかろうとするオールド天狗。まだ気づいていなかったのだ。自分が「先」だけでなく、すでに「後」もとられていたことを。
『このように単調な音を選んだことを悔いなさい!』
 ヴァルトラウテの宣告に続き、龍哉の左ボディ・左フック・右ストレートの3連撃が襲いかかる。
 よろめくオールド天狗だが、一歩下がって体勢を立てなおし、反撃を決めようと体をたわませたが。
 べちゃり。
 飛来した謎の物体が天狗面にクリーンヒット! その攻撃を空振らせた。
 物体の正体は投擲用クリスマスケーキ。投げたのは、踊りをやめたため従魔にボッコボコにされている蛍だ。
「おっけ」
 メロイックサインを残し、再びボコボコの内へと飲まれていく蛍。神妙な顔で見送った菊次郎が、リーサルダークでオールド天狗を撃った。
「すぐ助けます。このパーティーを終わらせて」
 続いて恭也の斬撃が閃いたが、リーサルダークのBSに抵抗しきったオールド天狗は後ろに下がってなんとかかわす。
 しかし。
「ベタ足じゃ、俺のリードはフォローできねぇぜ?」
 上下に散らされた龍哉の拳。オールド天狗はこれを払い落とそうとしたが。
 沈み込んだ龍哉の足払いに軸足を刈り取られ、宙に浮いた。
 その、無防備に晒されたボディに。
「こいつで」
 打ち下ろしのオーガドライブが。
「終わりだ!!」
 突き刺さった。
 床に叩きつけられたオールド天狗は、拳と床とに挟まれたまま、その動きを止めた。

「からだがいだいいいいいいい」
「からだがいだむうううううう」
 仲間に助け出された蛍とマガツが、ダンスバトルと従魔の攻撃によって引き起こされた筋肉痛にもがく中。
 駆けつけた所轄警察と救急隊により、ドロップポイントに捕えられていた人々の保護と搬送が行われていた。
「いや、いい汗をかきました。貴重な話を聞けたとは言い切れませんが」
「……主がそう思うのであれば、まあそうなのであろうな」
 満足そうな菊次郎に、無表情の中にどこかとまどいを漂わせるテミスが言う。
「ボク決めた! 神楽舞を革命するよ! かしこみグルブー!」
「まさかグルーヴか? かしこむグルーヴ?」
 盛り上がる伊邪那美に、首を傾げる恭也。伊邪那美のことだ。5分後には忘れているだろうが……。
 一方、ひと息ついていた龍哉にヴァルトラウテが声をかけた。
「おつかれさま。ところで龍哉君、ワルツは踊れますの?」
「ぅえ!? いやぁ、なぁ」
「私が教えてさしあげます! さあ!」
「いやちょっと人前でおい! おわぁ!」

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
    人間|25才|男性|命中
  • パスファインダー
    テミスaa0866hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • オールラウンドスナイパー
    比良坂 蛍aa2114
    人間|18才|男性|命中
  • オールラウンドスナイパー
    黒鬼 マガツaa2114hero001
    英雄|26才|男性|ジャ
前に戻る
ページトップへ戻る