本部

記憶を失った若きエージェント

ふーもん

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/12/07 22:37

掲示板

オープニング

H.O.P.Eにエージェントとして配属されてから数週間が経過した。

未だに記憶が判然としない。一体今の俺は何者なんだ?

今、世界は色んな意味で戦いの渦中にある。20年ほど前に世界蝕『ワールド・エクリプス』が発生してからというもの愚神や従魔、ヴィランに至るまでが台頭し人類を危機に陥落しようとしている。だが、それだけじゃない。事態はもっと複雑だ。
人類は今の俺を含めて、『ライヴス』と呼ばれる特殊能力を得た。それはこれまでの科学や資本、文明や文化を覆す大きな革命的な需要を齎した。言ってみれば1つのエネルギーだ。そして人々はその恩恵を甘受した。H.O.P.Eの設立もその関係上から成り立った。全ては欲望の赴くままに。
だが、それも仕方のない事だ。俺の様な大袈裟に言ってみればある種の謎に満ちた運命とやらを背負い込んだ者達、『英雄』と呼ばれる異世界からの来訪者と誓約を交わした者にとって、H.O.P.Eの設立は元よりなくてはならない大規模な組織である。つまり、俺は異世界から来た来訪者と共にこの世界の根源的なエゴイズム。いわゆる悪と戦う為にこの世に生まれ落ちたと言っても良いだろう。これはある種の使命だ。
……そう。使命だ。俺と言う存在を探し出す為の使命。
一体何が悪で何が善なのか? と言う至上命題はこの際、必要ない。そんなもの歴史に名を残したご立派な哲学者どもの偉大なる哲学書でも紐解けば良いだけの話だ。彼等にしてもそれが本望だろう。
俺にとっての正義。それは自分自身を探す為のアイデンティティーを守りぬく事。邪魔する奴は悪であり敵。味方する奴は善であり仲間。それだけの話だ。
ライヴスを介した英雄と誓約を交わしたのもその為だ。例えかつての仲間だった者が俺の目的を一時にでも邪魔する事になるのだったら俺は迷わずAGWをそいつに向けるだろう。例え愚神じゃなくてもな。
だが、物事と言うものには必ずそれなりに順序や規律がある。俺は俺であるとともにH.O.P.Eのあくまでエージェントの1人である。それを忘れてはならない。
俺の名前はクロガネ。貫徹と言う文字が気に入って、しかしそれに関した良い名が見つからず、ならば貫徹の『徹』を『鉄』にしてクロガネと読めば良い。それこそ屈強な何にも耐えうる鋼鉄の精神と肉体を自らに課す。そういう意味合いが込められている。
それは俺と誓約を交わした英雄が提案してくれた。そしてそれが自分の名を一言一句間違えずにこの世に示す事が英雄との誓約の証となった。
今となっては変な話だ。この世に生まれた俺が異世界から来た英雄に名を授かった様なものだからな。
因みに英雄の名はマネーと呼ぶ。貫徹とは何の関係もない。クロガネの『ガネ』を『カネ』と勝手に訳しさらに『金』にして『マネー』に行き着いたんだからとんでもない話だ。実際の名は明かしていない。そいつは女の姿をしているが、実際のところ性別は未だに俺も知らない。別に意図しているのかしていないのか意味不明だが、そろそろ明かしてくれても良いんじゃないかと思う。そして今日はアルバイトに勤しんでいる。『幻想蝶』。ライヴスメモリーとやらがあるにもかかわらず、俺の英雄はどことなく現代社会にフィットしている。その内、俺なんかよりも良い社会貢献者になるんじゃないか?
その時、自室にいた俺のコードレスフォンが鳴った。
「もしもし」
「こちらH.O.P.E東京海上支部。クロガネさんで宜しいでしょうか?」
何やら不穏な空気が一瞬脳裏を霞めた。だが、俺は躊躇わずに言った。
「ええ。そうですが。仕事の依頼ですか?」
「もちろんです。あなたの衣・食・住を提供しているのは我々H.O.P.Eですから。依頼の拒否は出来ません」
衣・食・住とは大袈裟な。だが、それもある意味事実だったので俺は誰も見ていないのに首肯した。少し危ない人になりつつある。衣・食・住を楽しんでいるのは他でもない英雄マネーの方だ。
「何か事件でも発生したんですか?」
「ええ。テレビをご覧になれば分かりますが……。率直に言います。従魔が出現しました」
従魔とは別名セルウスとも呼ぶ。
「それで? 場所は? 従魔の数は? こちらの部隊のエージェントは何人いるんだ?」
「最大で約6名です。他に派遣されたエージェントは既に現地へと向かっています。あなたを含めればおよそ7人になります。従魔は1体ですが強力でドロップゾーンを形成されたら厄介です」
「ゾーンルーラーとか言う奴に化けるって事か。確かにそれはヤバイ事態だな」
ゾーンルーラーは人々や動植物の精神を蝕み、掟を創り上げ自らの支配下にしてしまう。建物なんかも例外ではなく、位置関係等が自由に置き換えられたら相手の思うつぼだ。
「今はドロップゾーンは1つに限定されますが、これが複数発生したら……」
「最悪、レガトゥス様のご登場か」
いきなりエンディングのテロップでも流れかねない勢いだ。エージェントとしてH.O.P.Eに配属されてから数週間。まだ自分の素性すら判然としないのにこのままハッピーエンドにサヨナラか? だが、俺は迷わなかった。否、迷うはずもなかったのだ。俺が俺である限り。
「分かった。場所は?」
「東京です。具体的な位置は東京都S区のビル群一体です。他のエージェント達の連絡先を教えますから上手く連携を取って下さい」
そして俺はその他のメンバーである仲間……と呼ぶべきかどうか、の連絡先を教えてもらった。
「緊急事態ですから、くれぐれも慎重にお願いします」
電話が切れた。虚しく自室は嫌に静寂に満たされている。東京では今、一大事になっているはずなのに。
俺に迷いがなかったのは単にH.O.P.Eに保護されているからだけではない。
これは俺の自分探し。その為にある手段の1つ。正直、世界がどうなろうと俺は一向に構わない。俺が求めているのは何よりも真実だ。
「さて、そんな事よりも……」
俺にはその前にやるべき事があった。探すべき人がいた。
俺と『絆』とやらでリンクしているあのアルバイトが好きな英雄。そして他でもない。約6人いるはずだろう仲間達とやらだ……。

解説

NPCのクロガネは過去の記憶をなくした少し不運な少年です。
その為、やや感情が冷徹で自分以外の他者に対して敵意さえ抱いてる始末。もう周りが見えていないどうしようもない子です。
公開されたオープニングは長文ですがそのほとんどが自身についての心境を語っています。そんな中、やっとこさ事件の依頼が来ていきなり世界をどん底に陥れるかもしれない事態にまで直面します。そこで仲間の皆さんの登場です。ですが、安心して下さい。
これはもう既に触れていると存じますが、バトル的な展開になるとはいえシナリオ難易度は『やや易しい』傾向にあります。
そう。もうご存知の通り。レガトゥスなんてとんでもない怪物は登場しません。これは断言しときます。それに加え従魔は1体に終わり、ゾーンルーラーになる可能性は敢えて否定しませんが、ドロップゾーンが複数発生するなんてバカげた事態はありえないと思っていて下さい。
このOP及びリプレイ。シナリオの真の目的は大まかに言って2つあります。

・NPCのクロガネとの接触及びその味方につくかそれとも敵対関係になるか。
・実際はそんなに強くない従魔(セルウス)を皆さんのPCの持ち味を発揮してフルボッコにする。

これをどう選択しどう解釈するかはPLの皆さんにお任せします。
因みに英雄マネーもさり気無く登場させる予定ですが、今回は脇役としてアルバイトに専念させる(たぶん)事にしときます(笑)
それでは新たな物語の第一歩として、皆さんの活躍を期待しています。
自分もそれに応えられる様に精一杯の努力で最高の舞台を用意する意気込みでやっていきたいと思います。
宜しくお願いします。
(補足)NPCのクロガネとの関係をどう捉えるか、保つかによって物語は大きく分岐します。つまりシリアスにするのもパロディーにするのもPLの皆さん次第です。

リプレイ

「さて、仕事に行く前に英雄マネー様を探しに行くとするか」
 クロガネもライヴスを介した英雄とのリンクが無ければただの人も同然。当然、従魔に敵うはずもない。
 H.O.P.Eから提供された己の生活圏から抜けると、外は明るかった。平和そのもの。さっきの連絡は本当かと疑いたくもなる。
 だが、東京は実際に従魔が出現したらしい。テレビにあまり関心のないクロガネもその実況中継生放送のライブを見て思わず溜め息を吐いた。
 巨大な蛇みたいなのがとぐろを巻いてS区のビル群を這い回っていたからだ。実況中継のアナウンサーもチョッと引いていたのが目に浮かぶ。
 そんな事を思いつつもクロガネは英雄マネーを探すべくステーション街を闊歩する。その直後、今度は携帯電話が鳴り響いた。見知らぬ番号だ。恐らくこいつがさっき言っていた仲間とやらだろう。
 そう見当を付けてクロガネは受話ボタンをプッシュした。
「……もしもし」
「ハロハロ~クロガネちゃん? 今回はよろろな~」
 問題無くその相手は虎噛 千颯(aa0123)だった。そう……何も問題はない。問題はないはずなのだが、現段階のクロガネにとってこれは大問題だった。衝撃的事実と言うヤツだ。
「……どちらさまですか? どうやら番号をお間違えの様ですが」
 記憶喪失とは言え礼節を弁えるのがクロガネの初志貫徹的潜在意識だった。だが、世の中にはその常識をも軽く打ち破る存在がいる事も忘れてはならない。例え記憶喪失とは言え。
「え? うそーん。オレちゃん、困っちゃう。でも間違ってないはずだぜ、あんたクロガネちゃんだろ?」
「……なるほど。確かに。あんたもエージェントの1人か」
 軽く眩暈にいなされたのはこの際、気のせいだと思ってその場をやり過ごす。
「そうだぜ。オレちゃん、虎噛千颯。軽くちーちゃんで良いぜ。相方の英雄はゆるキャラ、白虎丸(aa0123hero001)。人数分の通信機の貸し出し要請したからとりあえず連絡だけでもと思って。他の皆も連絡してるんだけどクロガネちゃんとは初対面だから」
 初対面なのにどこで俺の名を聞いたのだろう?
「分かった。ちーちゃん。……ちーちゃんで良いのか?」
「……ップ! ハッハッハ! 良い! 良い! 全然OK! クロガネちゃん最高! それじゃあS区で待ってるぜ! あの巨大蛇、皆でフルボッコだ!」
 プツ! 一方的に電話が切れた。何だか少し不安に駆られる。サッサと英雄マネーに会いに行かなければ……。

「全く。どうしてこうも世の中は重度の弱視者に対して冷たく出来てるんだろうね? ただでさえ俺は脆弱なのに」
 白杖を用いて思わず小言を呟いたのは他でもない木霊・C・リュカ(aa0068)だ。
『いつもの事だろ? リュカ。いざとなったらリンクして戦闘は俺に任せれば良い』
 それに答えたのは他でもないリュカの英雄オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)だ。
「そうだね。いざとなったらそうしよう。それにしてもS区の従魔。今頃、どうなってるかな? テレビ放映されてたけど、そんなに危ない奴なのかな?」
『俺は大した事ないと思う。デカいのは図体だけだ』
 2人は現在S区に向かって電車に乗っている。やけにゆったりとしてるのは2人のマイペースが成せる業だろう。
「さてと、それじゃあ最後の1人。こちらは初対面だけどクーちゃんに連絡入れとこう」
『クーちゃん?』
「クロガネだから。クーちゃん」
『……はあ。全く相変わらずだな。俺はクロガネのまんまで良い』
 そうして2人は携帯電話からクーちゃん事、クロガネに連絡を入れる為、事前に示した彼の電話番号をプッシュした。

 さて、そうこうしている内に東京都S区は大変賑やかになっていた。
 例の巨大蛇。従魔がビルを破砕しながら大暴れ。しかしそこには4人のエージェント達。そして英雄が既に連携を保ち、到着していた。
「なるほど。あれが今回の従魔。テレビで見ていたよりも迫力ないのな」
 1人悦に浸って語っているのは古流武術を極めた他でもない師範代。赤城 龍哉(aa0090)だ。
 もちろんそれに凛とした声で応答するのはドレッドノートの戦乙女。ヴァルトラウテ(aa0090hero001)。
「そんな事言っている場合じゃありませんわ。ビルが壊されてる最中ですのよ」
「すごい……だけど大した事ない」
『……ねえ、中二病のエージェントはどこにいるのかな?』
 2人してこそこそ話し合っているのは御神 恭也(aa0127)と英雄伊邪那美(aa0127hero001)だった。
『よし! 今回の任務はアイツか! あの大蛇みてーな従魔を倒せば事は片付くんだよな!? 楽勝だぜ!』
『……お腹空いた……』
 こちらはこちらで完全に自分達の世界に入り浸っている。それが彼等の長所でもあるのだが、他でもない東海林聖(aa0203)とLe..(aa0203hero001)だ。
 そして4人目。スーツにソフトモヒカンの中肉中背。天城 雄輝(aa2208)とその英雄シャドウルーカーのティーナ (aa2208hero001)はと言うと……。
「あの従魔を倒してさっさと平和を取り戻そう!」
「わたくしと同じ記憶喪失のエージェントもいるそうですわね。クロガネさん……でしたっけ? この戦いをきっかけに何か思い出せればいいのですが」
 一番真面だった。

「何? 今、とんでもなく忙しいんだけど」
 英雄マネーは携帯電話ショップのバイトに勤しんでいた。最早、世界がどうのとかレガトゥス級の愚神がどうのとかドロップゾーンの形成だとか言っている場合じゃない。
 彼女はひたすら己のマネーゲームに勤しんでいた。そんな事、完全限界突破のアウト・オブ・眼中だった。所詮、世の中金か。
 しかしさすがに己の衣・食・住が懸かっているクロガネも必死だった。己の記憶も取り戻さなければならない初志貫徹の為に。一生懸命だった。
「オイオイ。マネー。確かに金は大事かもしれないけどさ、世の中にはもっと他に大切なものとか……あるんじゃないの? 愛だとか、正義だとか。少しは考えてみろよ。お前は何の為に生まれてきたんだ?」
 くどくどと何か哲学論めいた事を誰が好きこのんでこんな駅前の携帯電話ショップで英雄相手に解き明かさなければならないのだろう? 自分の事すら分からないってーのに。
「あら、クロガネ。冒頭のOPで言ってたじゃない。何が善で何が悪なのか、そんなもの偉大なる哲学者の哲学書でも紐解けば良いって。それが哲学者の本望だって」
 これまた痛い所を突かれた。冒頭のOPをこんな所で引き合いに出すなんて性格悪いぞ。それでも英雄か?
「とにかく私は忙しいの! バイトが終わったら、現場に向かうからそれまでは引っ込んでなさい!」
 こうして俺、クロガネは自ら誓約を交わした英雄の手によってケータイショップを追い出された。
 その時、本日2度目の自分のケータイが電子音を発した。

「もしもし? クーちゃんですか」
「もしもし? これまた何の用ですか? クーちゃん等と呼ばれた事は俺が覚えている限りこれまで一度たりともなかったはずですが」
 最早、やけくそだった。相手が誰であろうとも。友人Aのちーちゃんだとしても。だが、意外にも相手は至極冷静でいて世界は今日も回っている。地球の地軸は1ミリもずれていない。
 だからこそ事実を告げる。最早、自分はエージェントとして失格だと。貫徹のクロガネ。最初で最後の挫折。
「すいません。俺、どうしても行けそうにないみたいです。何せ俺の英雄が戦闘任務を放棄したもんですから」
「戦闘任務を放棄? 何かあったんですか?」
 まさか駅前のケータイショップのバイトが忙しいから現場に向かえない等とは死んでも言えない。
「とりあえず俺だけはしばらく傍観者的立場になっちゃうんですがそれでもよければ現場に向かいますが……」
「もちろん。エージェントとして任務の放棄は許されないからね」
「……はあ。分かりました。では、今から現場に向かいます」
 電話越しに会話はそこで終わったが、陰鬱な気持ちでトボトボとエージェントのクロガネは切符を購入。駅の改札口へと向かった。

 従魔が大暴れしている現場では既に6人のエージェントが集結していた。この分じゃ、通信機の必要性もあまりないみたいだが、約1名置いてけぼりをくっていた。
「あっれー? クロガネちゃんはー? 連絡入れといたはずなんだけどなー」
『英雄たる者…これ以上ビルが破壊されるのを黙って見過ごす訳にはいかない…でござる』
「どうする? どうする? 処す? 処す? こうなったらクロガネちゃんは放っておいて、皆で従魔をフルボッコにしちゃう? 誰が最初に倒すか競争しちゃう?」
 テレビカメラが回っている中でピースサインを送るちーちゃん事、虎噛はノリノリだ。
 同じく白杖を用いてチョッと危なげに現場に到着したのは他でもないリュカとオリヴィエだ。
「ちーちゃん。お疲れー。それにしてもあの大きな蛇みたいな従魔。今は大人しくしてるみたいだね」
 リュカの言う通り、例の従魔はビルの屋上でとぐろを巻いていた。心なしか眠っている様にも見える。
「あの従魔を早々にフルボッコにするってんなら賛成だぜ。もちろん競争するってんなら受けて立つ!」
 独りいきり立っている格闘家の師範代赤城もやる気満々。それに対し、盛大な溜め息を吐く戦乙女ヴァルトラウテ。これもいつもの事かと自分に言い聞かせる。
「すごい……だけど大した事ない」
『……ねえ、中二病のエージェントはどこにいるのかな?』
 2人してこそこそと話し合っているのはもう言うまでもなく御神とその英雄伊邪那美だった。周囲に耳を貸していないのか、話が全く進展していない。
『あの従魔を倒すってんなら、クロガネいるいないに関わらず協力するぜ! ルゥもそうだよな!?』
『……お腹空いた……』
 聖はやる気満々。だが、その英雄のルゥは現段階では保留で締結。いつリンクバースト出来るのか? 甚だ疑問だ。
「人類皆、兄弟! クロガネはともかく世界の平和を守る為に力を合わせて戦おう! 美味しいもんはその後、食おう!」
「記憶喪失のクロガネさん。どうしちゃったのかしら?」
 そしてやはりと言えば良いのか、一番真面なのはこの2人。天城とその英雄シャドウルーカ―のティーナだ。
 戦いの火蓋は今、切って落とされた。
 その場の雰囲気。空気は最早、クロガネどうこうの騒ぎじゃなくなっていた。クロガネいるいらないの状態変化へと依存していた。

 とぐろを巻いた大蛇型従魔はどうやら下の連中が(テレビクルーやアナウンサーも含めて)大騒ぎしてる中で深い眠りから妨げられた様だ。
 それにいち早く気付いた白虎丸と、虎噛は既に臨戦態勢。戦いたくてうずうずしていたらしく……。早速共鳴。リンクした。
 その姿は白基調でふちが髪と同色の虎耳とホワイトタイガーの尻尾。瞳は金色の双眸に服装は英雄が着ていた武芸者風の服に変化していた。
「んじゃーおっ先にー! 皆、奴を処す競争だ! カメラさんバッチグーでシッカリ撮っててね!」
 大蛇型従魔は鋭い牙を剥き出しにしてビルの屋上から飛び降りてきた!
「まだ、遊び足りない様だな。良いぜ、こちとら1児の父だ。俺ちゃん、パパ様の活躍を見せてやる!」
 早速、先陣を切って真正面からリンクした虎噛はその従魔と対決。他の連中もそれに続いた。

「……すげえ。てゆーかやべえ。戦闘始まっちまったよ。どーしてくれんだこれ」
 電車を2回ほど乗り換えて無事東京都S区に到着したのは他でもない。クロガネだ。最早、自分の事等誰も気にしちゃいない。エージェントとしてこれはイタイ。
(どうする? どうするよ……! 俺!)
 心の中の自分に改めて問いかける。そうは言っても英雄マネーがいないんじゃ……
「どうにも……ならねえだろ!」
 思わずそう叫んでしまっていた。S区のビル群は次々と破砕され、他のエージェント達は必死で戦っている。このまま何もしないで帰る訳にはいかない。それが貫徹の2文字。
「……何が、どうにもならないって?」
「え?」
 そこにいたのは間違いなく性別不明の女のナリをしたクロガネの英雄マネーだった。

「よーし。それじゃあ、俺達も行くぜ!」
「そうですわね。このままじゃ、いてもたってもいられないですわ」
 赤城とヴァルトラウテも完全に戦闘態勢。処す気満々。リンクした。競争はもう始まっている。
 リンクした赤城とヴァルトラウテの姿形は赤城にヴァルトラウテが同化した感じで前髪が一房、銀色に染まっていた。しかも左目の瞳が蒼色に変わりさらに、ヴァルトラウテの纏っていた鎧が赤城の体型・体格に合う様に変形していた。
「大した事ない…サッサと始末しよう」
 さり気無くそう言い放ったのは他でもない御神。
『中二病のエージェントが来る前にね』
 伊邪那美は相変わらずだったが戦う意思はもちろんある。この言葉はその決意の表れだ。
『よーし! いい感じだぜ! あの従魔を倒したら……』
『……美味しいもの食べる……』
 聖のやる気と空腹がエスカレートしたルゥはリンクして今にもリンクバーストしそうな勢いだ。
 その姿は金色の瞳に紫色の髪。武器や体にライトグリーンを纏った様な姿だった。外見性別は小柄な男子そのものだが、聖の後ろにルゥの影がうっすらと見える。意思は聖。戦闘的な技術面ではルゥが担う。
「このまま後れを取る訳にはもちろんいかない! 人類の平和と美味いもんを取り戻す為に俺は戦う!」
「もちろんですわ。わたくしシャドウルーカ―としての任務を果たす為に、クロガネさんの分も戦いますわ!」
 真面だった2人も遂に戦闘意欲を注がれたのか、任務に忠実に動き出した。天城とその英雄ティーナだ。もちろんリンク。その姿はスーツは変わらず天城がベース。金髪に緑色の瞳だった。
「クーちゃんはともかく置いといて。戦闘に集中しよう。準備は良いかい?」
『言うまでもない。リュカ。それにしてもクロガネ……逃げたのか?』
 リュカとオリヴィエも最終的に動き出した。リンクした。姿は穏やかそうなリュカにオリヴィエの性格が混在したみたいだ。双方のやり取りは思考内で行われていて戦闘時の人格はオリヴィエが主導権を握っている。背格好はオリヴィエの様な褐色の肌に深緑の髪。その目は金木犀の様な赤金色に染まったリュカの姿。
 しかし、最後のオリヴィエの紡いだ言葉に応える者がいた。

「俺は逃げてなんかいない!」
 誰もが振り向いたその先には……
 他でもない記憶を失ったエージェント。クロガネと正体不明の英雄マネーの姿があった。

 敵陣営に果敢に突っ込みつつも、余裕の笑みでリンク中の虎噛は言う。
「君がクロガネちゃん? お久~。元気してた~?」
 大蛇型従魔の強烈な尻尾攻撃を紙一重でかわして、バク宙の要領で空中を舞う。まるで戦闘を楽しんでいる。さすがはH.O.P.Eのエージェントの1人。
 その際、ブラッドオペレートを発動。ライヴスのメスが従魔を容赦なく切り裂いた! 伊達に英雄とリンクした訳ではない。その威力は絶大だ。
 グオオオオオ! 大蛇型従魔の咆哮が鳴り響く。どうやら相手は見た目ほどタフでは無い様だ。オマケに言語能力も知性そのものも無い。
「この戦闘! 最後に処すのはこの俺だ!」
 激しき熱血武道家。古流武術師範代の赤城も英雄ヴァルトラウテとリンクして負けてはいない。虎噛から少し遅れを取りつつも、相手の従魔から遠距離を保ちつついきなり烈風波を叩きこんだ。
 ライヴスの衝撃波が英雄とリンクした古流武術師範代の必殺技となってより強力に襲いかかる!
 テレビの広告塔として相当脚色された感ありありの敵さんはこれまた大ダメージを懐に喰らった。
 そしてその最中、クロガネが戦闘に参加。英雄マネーとともに敵陣に侵入。
(さて、お手並み拝見といこうか)
 クロガネと英雄マネーが知らない間に他の集ってきたエージェントは皆が皆、心中でそう語っていた。
 『幻想蝶』。ライヴスメモリーに仕舞われていたAGW。その名もアンチ・グライヴァー・ウェポンを取り出すと、クロガネはその刀身の刃先を大蛇型従魔に向けて斬りかかりに行く。
その動作は記憶を失ってはいてもさすがに狂ってはいなかった。そして自身の英雄マネーとリンクした。しかしその姿はあまり変わってはいない。問題は実力だ。
「よし! クーちゃんが戦闘に参加した所で」
『俺達も行こう!』
 そうお互いに言い放ったリンク中のリュカとオリヴィエの人格。1つになった身体で最後衛から威嚇射撃。相手の攻撃を逸らす事に成功。従魔の攻撃パターンや能力が未だ不明の為、変に突っ込まない様にとさり気無く指示したのはリュカの人格の方。その他にも仲間を援護する為に全員が射程内に入ってる様に常に意識していた。
「あいつがクロガネ……本当に記憶を失ってるのか?」
『エージェントで中二病……最悪な組み合わせだよね』
「それは……そうだが、どこでそんな言葉覚えてきたんだ?」
 御神と伊邪那美はボソボソとまだ喋っていたが、お互い連携を組み合わせて大蛇型従魔へと接近。へヴィアタックをかまして上手く敵を討伐していた。
 ただ、クロガネに対して不信感どころかどこかイタイ子を見る様な眼差しは変わらなかったが。
 一方、聖とルゥはお互い完全にリンクして戦闘狂へと化していた。トップギアを入れて一気にへヴィアタック。タイミング、威力共に完璧だった。
『コイツで終いだ! でりゃあああ!』
 間合いを詰めて、下段から斬り上げそのままの勢いを保ち振り抜き様に上段から振り上げ叩き斬った。
 グオオオオオ! 大蛇型従魔はやはり大した事なかったらしい。完全にフルボッコ状態。
(……ヒジリー……少しはやるようになった……そしてお昼ご飯は……絶対に食べる!)
 ルゥは共鳴中、そんな事を思っていた。本人のやる気もあながち嘘ではない。
「良し! 皆、良いぞ! その調子だ! もうあの巨大な蛇従魔もあと一歩で倒せる!」
 カンガルースーツではない普通のスーツを着ていた天城は共鳴中、シャドウルーカ―のスキル、縫止を重視して相手の行動を阻害&モアドッジを用いて味方の回避率上昇に専念。
 そして遂に……巨大蛇型従魔は倒れ、東京都S区に静寂が訪れた。

「はーい。テレビの前の皆。こちらH.O.P.E非公認のゆるキャラ白虎ちゃんだぜ!」
『待て! 何故今言った!? それは今言うべき事では無いだろ……でござる』
 無事戦闘は終了し、自分の英雄のゆるキャラアピールを一通りこなした後で、ちーちゃん事、虎噛は早速クーちゃん事クロガネいじりに走る。親が子を見る様な感じで。
 ただしちょっかいを出す事は忘れない。
「君が、クロガネちゃんか~予想以上に青いね。俺ちゃんにもその中二病的なの教えて~」
「俺が中二病? 青い?」
 どうやら記憶をなくしたクロガネは中二病の意味をあまり理解していないらしい。思わず爆笑する虎噛。
 それを見ていた赤城は混乱しているクロガネを見兼ねて沸点を超える前に止めに入る。
「まあ、その辺で良いんじゃないか? 耐性の無い相手にそれ以上は逆効果だ。クロガネ、キレたいんなら俺が相手してやるよ。ただし共鳴抜きでな!」
 別にキレてはいないがあまりいい感じはしなかったのも事実だ。ただ、世の中には色んなエージェントがいる事に今さら気付いただけだ。
『ねえ、あの子。何か小言で自分語りを始めちゃったけど?』
「あれ位の年齢になると多かれ少なかれ患うものだが……あそこまでいくと痛々しくってこっちが辛いな」
『本当に記憶喪失かどうか、試しに1月前の女性が食い付きそうな芸能の話題でも振ってみる?』
「いや、今はそっとしておこう。こっちが疲れる」
『まさか全て脳内設定だったりして』
「そんなバカな」
 大人しくしていた御神と伊邪那美はどこか不穏な動きを見せていた。
『あんたがクロガネか』
「そうだ……俺がクロガネだ」
 その次に口を出したのは他でもない聖だった。
『記憶がねーのは大変そうだな。……話は聞いちゃいたけどよ。だがよ。これだけは言わせもらう。もし、テメエの中で吐き出し切れねえもんがあるんだったら、この際全部吐き出してぶつけきってみせやがれ! 俺が全部正面から受けかえしてやるぜ!! 記憶があろうが無かろうが……今の自分を貫いて強くなる、それに変わりはねえだろ!』
『……ヒジリー。ルゥ、お腹空いた……』
 軽い説教とその英雄ルゥの発言に面喰らいながらも思わず頷いてしまった。俺もまだまだだな。
「良ーし任務完了! ってー事で皆で美味いもんでも食いに行くか! 人類皆兄弟!」
 ソフトモヒカンにスーツ姿の天城は愉快そうにそう言ったが、その英雄ティーナは己の心境と似た様な境地にいるクロガネに複雑な思いを抱きつつ興味を抱いた。そして敢えて自らの素性を明かさずにこう言った。
「クロガネさん……もし自分の事でお困りなら、まずはエージェントとしての任務を怠らない様に。肝心な時に遅刻なんて人としても許されない行為じゃなくって?」
 その言葉にまたも深く頷いてしまう。例えそれが忠告にしても嫌がらせにしても。
「まあまあ。任務も無事終わった事だし皆、それくらいにして。クーちゃんも元気だしなよ」
『クロガネ。戦闘、不慣れなんじゃないか? エージェントに配属されてからまだそう期間は経ってないようだし』
 最後にリュカとオリヴィエが締め括ってそこで会話は途絶えた。そして皆が皆、それぞれの帰途に着く。

「全く。あんたがヤバそうだからバイトのお店から電車追い越してフルダッシュで来てやったってのに! 大した事なかったじゃないの。その仲間達……とやらにホントは任せておけば良かったんじゃないの?」
「仲間……か」
 そうキッパリと言いきった英雄マネーは再びアルバイトに戻り、1人その場に残された形となってクロガネはそっと呟く。
 今回の任務。色々と紆余曲折はあったものの、自分の記憶は未だに戻らず世界の広さを思い知った若きエージェント。クロガネ。
 しかし何か胸に熱いものが込み上げたのは果たして気のせいだったのかどうか?
 それは誰にも分からない。記憶を失ったエージェント。ただ1人以外には……。(了)

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
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